はじめに
淋病は、古くから知られている性感染症の一つですが、現代でも決して過去の病気ではありません。近年、日本国内でも感染者数が増加傾向にあり、特に若い世代を中心に注意が必要な感染症となっています。しかし、淋病は早期に発見し適切な治療を受ければ、完治が可能な病気です。
本記事では、淋病の症状について詳しく解説し、早期発見・早期治療につなげるための情報をお届けします。性感染症について正しい知識を持つことは、ご自身の健康を守るだけでなく、パートナーや周囲の方々の健康を守ることにもつながります。

淋病とは
淋病の基本情報
淋病(りんびょう)は、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)という細菌によって引き起こされる性感染症です。英語では「Gonorrhea」と呼ばれ、日本では古くから知られている性感染症の一つです。主に性行為を通じて感染し、尿道、子宮頸部、直腸、咽頭(のど)などの粘膜に感染します。
淋病は世界保健機関(WHO)によって、重要な公衆衛生上の課題として位置づけられており、日本でも感染症法において五類感染症に分類され、医師による届出が必要とされています。
日本における現状
厚生労働省の感染症発生動向調査によると、淋菌感染症の報告数は年々変動していますが、特に20代から30代の若年層での感染が多く報告されています。また、男性の報告数が女性よりも多い傾向にありますが、これは女性の場合、無症状で経過することが多く、検査を受ける機会が少ないことも影響していると考えられています。
近年では、抗菌薬に対する耐性を持つ淋菌の出現も問題となっており、治療がより困難になってきているケースも報告されています。このような背景から、早期発見・早期治療の重要性がますます高まっています。
淋菌について
淋菌の特徴
淋菌は、グラム陰性双球菌と呼ばれる細菌で、円形の細菌が2個ペアになった形状をしています。ヒトの粘膜細胞に感染し、特に円柱上皮と呼ばれる種類の細胞に親和性が高いことが知られています。
淋菌は乾燥や温度変化に弱く、人体の外では長時間生存できません。そのため、感染はほぼ性行為などの直接的な接触によってのみ起こります。便座やタオルの共用などで感染することはほとんどありません。
感染のメカニズム
淋菌が粘膜に付着すると、細菌は粘膜細胞の中に侵入し、細胞内で増殖を始めます。感染後、通常2日から7日程度(平均3日程度)の潜伏期間を経て症状が現れることが多いですが、個人差があり、症状が出るまでに2週間程度かかる場合もあります。
感染した部位では炎症反応が起こり、膿が産生されます。この膿の中には大量の淋菌が含まれており、これが特徴的な膿性の分泌物として排出されることになります。
淋病の症状:男性の場合
尿道炎の症状
男性の淋病で最も多く見られるのが尿道炎です。淋菌性尿道炎は、非常に特徴的な症状を呈することが多く、比較的診断がつきやすい疾患です。
主な症状:
- 排尿時痛 感染後2日から7日程度で、排尿時に強い痛みや灼熱感を感じるようになります。この痛みは「ガラスの破片が尿道を通るような」と表現されることもあり、非常に強い痛みであることが特徴です。
- 膿性分泌物 尿道から黄色または黄緑色のクリーム状の膿が排出されます。この分泌物は量が多く、下着に付着することもあります。分泌物は朝起きたときに特に多く見られる傾向があります。
- 尿道口の発赤・腫脹 尿道の出口(尿道口)が赤く腫れ上がることがあります。触れると痛みを感じることもあります。
- 頻尿・残尿感 トイレが近くなったり、排尿後もすっきりしない感じが続いたりすることがあります。
- 尿道の不快感・かゆみ 排尿時以外でも、尿道にむずむずとした不快感やかゆみを感じることがあります。
精巣上体炎(副睾丸炎)
治療せずに放置すると、淋菌が尿道から精巣上体(副睾丸)に進展し、精巣上体炎を引き起こすことがあります。
症状:
- 陰嚢(いんのう)の腫れと痛み
- 発熱(38度以上の高熱になることも)
- 患側の鼠径部(太ももの付け根)の痛み
- 歩行時の痛みの増強
精巣上体炎は不妊の原因となる可能性があるため、早期の治療が非常に重要です。
咽頭感染
オーラルセックスによって、咽頭(のど)に淋菌が感染することがあります。男性の場合も女性と同様に、咽頭感染は症状が出にくい傾向があります。
症状:
- のどの痛みや違和感(軽度のことが多い)
- のどの発赤
- 扁桃腺の腫れ
- 多くの場合、無症状
咽頭感染の場合、通常の風邪と区別がつきにくく、見過ごされることが多いため注意が必要です。
直腸感染
肛門性交によって直腸に感染することがあります。
症状:
- 肛門部の痛みやかゆみ
- 排便時の痛み
- 直腸からの膿性分泌物
- 便に血液が混じることがある
- 多くの場合、無症状または軽度の症状のみ
淋病の症状:女性の場合
女性の淋病は、男性に比べて症状が軽微であったり、無症状で経過したりすることが多く、これが診断の遅れにつながる大きな問題となっています。感染している女性の約半数は無症状だと言われています。
子宮頸管炎の症状
女性の淋病で最も多く見られるのが子宮頸管炎です。しかし、症状が軽微なため、気づかないまま過ごしてしまうケースが少なくありません。
主な症状:
- おりものの変化
- 黄色や黄緑色の膿性のおりもの
- おりものの量の増加
- 悪臭を伴うことがある
- ただし、正常なおりものの変化と区別がつきにくいこともある
- 不正出血
- 生理以外の時期の出血
- 性交時の出血(接触出血)
- おりものに血液が混じる
- 下腹部痛
- 軽度から中等度の下腹部の痛みや不快感
- 持続的な鈍痛のこともあれば、間欠的な痛みのこともある
- 排尿時痛・頻尿
- 尿道にも感染が及んだ場合に見られる
- 男性ほど強い症状ではないことが多い
- 性交痛
- 性交時の痛みや不快感
- 子宮頸部の炎症による
骨盤内炎症性疾患(PID)
淋菌が子宮頸管から子宮内膜、卵管、骨盤内へと上行性に感染すると、骨盤内炎症性疾患(Pelvic Inflammatory Disease: PID)を引き起こします。これは女性の淋病における最も重篤な合併症の一つです。
症状:
- 下腹部の強い痛み(両側または片側)
- 発熱(38度以上の高熱になることも)
- 悪心・嘔吐
- 性交痛の増強
- 膿性のおりものの増加
- 全身倦怠感
PIDは不妊症や子宮外妊娠のリスクを高めるため、早期の診断と治療が極めて重要です。治療が遅れると、卵管の癒着や閉塞を引き起こし、将来的な妊娠能力に影響を与える可能性があります。
バルトリン腺炎
バルトリン腺は膣の入り口付近にある分泌腺で、ここに淋菌が感染するとバルトリン腺炎を引き起こします。
症状:
- 膣の入り口付近(大陰唇の後方)の腫れと痛み
- 歩行時や座位時の痛み
- 発熱を伴うこともある
- 膿瘍を形成すると強い痛みと腫れが出現
咽頭感染
女性でもオーラルセックスによって咽頭に感染することがあります。男性の場合と同様に、症状が軽微または無症状であることが多いです。
症状:
- のどの痛みや違和感(通常は軽度)
- のどの発赤
- 扁桃腺の腫れ
- 多くの場合、無症状
直腸感染
肛門性交や、膣から直腸への細菌の移行によって感染することがあります。
症状:
- 肛門部の痛みやかゆみ
- 排便時の不快感
- 直腸からの分泌物
- 多くの場合、無症状
無症状キャリアの問題
淋病の大きな問題の一つは、特に女性において無症状のまま感染している「無症状キャリア」が多く存在することです。
無症状キャリアとは
無症状キャリアとは、淋菌に感染しているにもかかわらず、自覚症状がない、または症状が非常に軽微で感染に気づいていない状態の人を指します。
無症状キャリアの特徴:
- 女性の約50%、男性の約10%が無症状と推定される
- 自覚症状がないため、検査を受ける機会を逃しやすい
- 知らないうちにパートナーに感染させてしまう可能性がある
- 治療を受けないまま合併症に進展するリスクがある
無症状キャリアが引き起こす問題
- 感染の拡大 自分が感染していることに気づかないため、複数のパートナーとの性行為を通じて感染を広げてしまう可能性があります。
- 合併症の発生 症状がないため放置され、女性では骨盤内炎症性疾患、男性では精巣上体炎などの合併症に至ることがあります。
- 診断の遅れ 症状がないため医療機関を受診せず、パートナーが感染して初めて自分の感染に気づくケースも多くあります。
感染部位別の症状
淋病は性器だけでなく、さまざまな部位に感染する可能性があります。ここでは、主な感染部位ごとの症状をまとめます。
性器感染(尿道・子宮頸管)
男性:
- 排尿時の強い痛み
- 大量の膿性分泌物
- 尿道口の発赤・腫脹
女性:
- おりものの変化(量・色・臭い)
- 軽度の下腹部痛
- 不正出血
- 多くの場合、無症状または軽微な症状
咽頭感染
- のどの痛み(軽度のことが多い)
- のどの違和感
- 扁桃腺の腫れ
- 多くの場合、無症状
- 通常の風邪との区別が困難
直腸感染
- 肛門部の痛みやかゆみ
- 排便時の不快感
- 直腸からの膿性分泌物
- 多くの場合、無症状または軽微な症状
眼感染(淋菌性結膜炎)
感染した手で目をこすったり、産道感染(新生児)によって眼に感染することがあります。
症状:
- 眼の充血
- 大量の膿性眼脂(目やに)
- 眼の痛み
- 光をまぶしく感じる(羞明)
- 放置すると角膜潰瘍や失明のリスクあり
播種性淋菌感染症(DGI)
まれに、淋菌が血液中に入り全身に広がることがあります。これを播種性淋菌感染症といいます。
症状:
- 発熱・悪寒
- 複数の関節の痛みと腫れ(関節炎)
- 皮膚の発疹(特に手足に出やすい)
- 全身倦怠感
- 心内膜炎や髄膜炎を引き起こすこともある(非常にまれ)
淋病と他の性感染症との重複感染
淋病に感染している人は、他の性感染症にも同時に感染している可能性が高いことが知られています。
クラミジアとの重複感染
特にクラミジアとの重複感染が多く、淋病患者の20~40%がクラミジアにも感染していると言われています。
重複感染の問題点:
- 症状が複雑になる
- 治療薬の選択に影響する
- 一方のみを治療しても、もう一方が残る可能性がある
- 合併症のリスクが高まる
HIV感染との関連
淋病を含む性感染症に感染していると、HIVに感染するリスクが3~5倍高くなることが報告されています。これは、粘膜の炎症によってHIVウイルスが侵入しやすくなるためです。
その他の性感染症
- 梅毒
- 性器ヘルペス
- トリコモナス
- B型肝炎
これらの性感染症との重複感染の可能性もあるため、淋病と診断された場合は、他の性感染症の検査も同時に受けることが推奨されます。
症状が出るまでの期間(潜伏期間)
淋病の潜伏期間、つまり感染してから症状が出るまでの期間は、個人差がありますが、一般的には以下のようになっています。
一般的な潜伏期間
男性:
- 平均:2~5日
- 範囲:1~14日
- 多くの場合、感染後3日程度で症状が出現
女性:
- 平均:7~10日
- 範囲:2~21日
- 症状が軽微または無症状のことが多い
潜伏期間中の注意点
- 感染力がある 潜伏期間中であっても、症状が出ていなくても感染力があります。そのため、この期間に性行為を行うとパートナーに感染させてしまう可能性があります。
- 検査のタイミング 感染機会から2~3日以降であれば、症状の有無にかかわらず検査で検出できる可能性が高くなります。
- 不安な行為があった場合 感染の可能性がある性行為があった場合は、症状がなくても2~3日以降に検査を受けることをお勧めします。
症状の経過と進行
適切な治療を受けない場合、淋病はどのように進行していくのでしょうか。
初期段階(感染~1週間程度)
- 潜伏期間を経て、初期症状が出現
- 男性:尿道炎の症状(排尿痛、膿性分泌物)
- 女性:子宮頸管炎の症状(おりものの変化、軽度の不快感)または無症状
進行期(1~3週間程度)
- 治療しない場合、症状が持続・悪化
- 男性:精巣上体炎への進展の可能性
- 女性:骨盤内炎症性疾患への進展の可能性
- 咽頭や直腸感染の症状も持続
慢性期・合併症期(数週間~数ヶ月)
- 慢性的な炎症状態が続く
- 男性:不妊症のリスク増加
- 女性:不妊症、子宮外妊娠のリスク増加
- まれに播種性淋菌感染症への進展
合併症について
淋病を放置すると、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。
男性の合併症
- 精巣上体炎
- 陰嚢の腫れと痛み
- 発熱
- 不妊の原因となる可能性
- 前立腺炎
- 排尿困難
- 頻尿
- 会陰部の痛み
- 不妊症
- 精子の通り道である精巣上体や精管の閉塞
- 精子の運動能力低下
女性の合併症
- 骨盤内炎症性疾患(PID)
- 卵管炎、卵巣炎、骨盤腹膜炎
- 強い腹痛、発熱
- 不妊症の主要な原因
- 卵管閉塞
- PIDの後遺症として発生
- 不妊症の直接的な原因
- 子宮外妊娠のリスク増加
- 子宮外妊娠
- 卵管の癒着や狭窄により、受精卵が子宮に到達できない
- 生命を脅かす可能性のある重篤な状態
- 慢性骨盤痛
- PIDの後遺症として長期間持続する骨盤内の痛み
- 日常生活の質を大きく低下させる
妊婦の合併症
妊娠中に淋病に感染すると、以下のようなリスクがあります。
- 早産
- 前期破水
- 子宮内感染
- 産褥感染(出産後の感染)
- 新生児への産道感染
新生児の合併症
母親が淋病に感染している場合、出産時に新生児が産道で感染する可能性があります。
新生児淋菌性結膜炎:
- 出生後2~5日で発症
- 大量の膿性眼脂
- 適切な治療がないと失明の危険性
- 日本では予防のための点眼が行われている
全身性の合併症
まれに、以下のような全身性の合併症を引き起こすことがあります。
- 淋菌性関節炎
- 淋菌性心内膜炎
- 淋菌性髄膜炎
診断方法
淋病の診断には、いくつかの検査方法があります。
問診
医師は以下のような情報を確認します。
- 症状の有無と内容
- 症状が出始めた時期
- 性行為の履歴(最後の性行為の時期、パートナーの数など)
- パートナーの症状の有無
- 過去の性感染症の既往歴
視診・内診
- 外陰部や尿道口の観察
- 女性の場合:膣鏡診による子宮頸部の観察
- 分泌物の色、量、性状の確認
検査方法
- グラム染色による顕微鏡検査
- 分泌物を採取し、グラム染色後に顕微鏡で観察
- 淋菌の特徴的な形態を確認
- 迅速に結果が出る(当日判明)
- 男性の尿道炎では感度が高い
- 女性や咽頭感染では感度が低い
- 培養検査
- 採取した検体を培地で培養し、淋菌の増殖を確認
- 診断の確定と薬剤感受性検査が可能
- 結果が出るまで2~3日かかる
- 現在、最も標準的な検査法の一つ
- 核酸増幅検査(PCR法など)
- 淋菌のDNAやRNAを増幅して検出
- 非常に高い感度と特異度
- 咽頭や直腸感染の診断にも有効
- 結果が出るまで数日かかる
- 現在、最も推奨される検査法
- 尿検査
- 男性の場合、初尿(排尿開始時の尿)を用いた検査が可能
- 核酸増幅検査と組み合わせることで、非侵襲的な検査が可能
検査のタイミング
- 感染機会から2~3日以降であれば検査可能
- 症状がある場合はすぐに受診・検査を推奨
- 無症状でも感染の可能性がある場合は検査を受けることが重要
検査を受けるべき人
以下のような方は、症状の有無にかかわらず検査を受けることをお勧めします。
- パートナーが淋病と診断された
- 複数のパートナーがいる
- 新しいパートナーとの性行為があった
- コンドームを使用しない性行為があった
- 他の性感染症と診断されたことがある
- 妊娠を希望している、または妊娠中
治療方法
淋病の治療は、抗菌薬による薬物療法が中心となります。
治療の基本方針
- 早期治療の開始 診断が確定したら、速やかに治療を開始することが重要です。
- パートナーの同時治療 パートナーも同時に検査・治療を受けることで、ピンポン感染(相互感染)を防ぐことができます。
- 治療中の性行為の禁止 治癒が確認されるまでは、性行為を控えることが必要です。
使用される抗菌薬
近年、淋菌の薬剤耐性化が進んでおり、使用できる抗菌薬が限られてきています。
第一選択薬:
- セフトリアキソン(注射薬)
- 筋肉注射または静脈注射
- 単回投与で効果的
- 現在、最も推奨される治療法
併用療法: クラミジアとの重複感染が多いため、クラミジアに有効な抗菌薬(アジスロマイシンなど)を併用することが推奨されています。
咽頭感染の治療: 咽頭感染は性器感染よりも治療が困難な場合があるため、より高用量の抗菌薬が必要になることがあります。
治療期間
- 単回投与の注射で治療できることが多い
- 重症例や合併症がある場合は、数日間の治療が必要
- 咽頭感染では追加治療が必要になることがある
治療効果の判定
- 治療開始から3~7日後に症状の改善を確認
- 治療終了後2~4週間後に治癒判定の検査を実施
- 症状が改善しても、必ず検査で治癒を確認することが重要
薬剤耐性の問題
近年、多くの抗菌薬に対して耐性を持つ淋菌が世界中で増加しており、日本でも問題となっています。
薬剤耐性淋菌の特徴:
- ペニシリン系抗菌薬への耐性:ほぼすべての株が耐性
- フルオロキノロン系抗菌薬への耐性:多くの株が耐性
- セフィキシムなどの経口セフェム系への耐性:増加傾向
- セフトリアキソンへの感受性低下:懸念される報告あり
このような背景から、適切な抗菌薬の選択と、治癒判定の確実な実施がますます重要になっています。
感染経路
淋病がどのように感染するのかを理解することは、予防のために非常に重要です。
主な感染経路
- 性交渉による感染
- 膣性交
- 肛門性交
- オーラルセックス(口腔性交) これらすべての性行為で感染の可能性があります。
- 産道感染
- 分娩時に新生児が母親の産道を通る際に感染
- 新生児結膜炎の原因
感染しやすい状況
以下のような状況では、淋病に感染するリスクが高くなります。
- コンドームを使用しない性行為
- 複数のパートナーとの性行為
- 性感染症に罹患しているパートナーとの性行為
- 過去に性感染症に罹患したことがある
- 若年での性行為開始
感染しない状況
淋菌は人体の外では生存できないため、以下のような日常生活での接触では感染しません。
- 握手やハグ
- キス(ディープキスを除く)
- トイレの便座の共用
- お風呂やプールの共用
- タオルや衣類の共用
- 食器の共用
ただし、感染者の膿や分泌物が直接粘膜に触れる可能性がある場合は注意が必要です。
予防方法
淋病は適切な知識と行動によって予防することができます。
基本的な予防方法
- コンドームの正しい使用
- すべての性行為(膣性交、肛門性交、オーラルセックス)で正しくコンドームを使用する
- 最初から最後まで一貫して使用する
- 正しい装着方法を知る
- コンドームは淋病予防に非常に効果的
- パートナー数の制限
- 複数のパートナーとの性行為を避ける
- お互いに特定のパートナーとのみ性行為を行う
- 定期的な検査
- 性行為が活発な場合は、定期的に性感染症の検査を受ける
- 年に1回、またはパートナーが変わったときに検査を受ける
- 症状がなくても検査を受けることが重要
- パートナーとのコミュニケーション
- 性行為の前に、お互いの健康状態について話し合う
- 過去の性感染症の既往について情報共有する
- 症状がある場合は正直に伝える
- 早期発見・早期治療
- 少しでも症状があれば、すぐに医療機関を受診する
- パートナーが感染した場合は、自分も検査を受ける
オーラルセックスでの予防
オーラルセックスでも淋菌が感染することを忘れてはいけません。
- フェラチオの際もコンドームを使用
- クンニリングスの際はデンタルダムを使用
- 咽頭感染は症状が出にくいため特に注意が必要
妊娠を希望する場合
- 妊娠前に性感染症の検査を受ける
- パートナーも一緒に検査を受ける
- 感染が確認された場合は治癒してから妊娠を計画する
新生児への感染予防
- 妊婦健診で淋病の検査を受ける
- 妊娠中に感染が確認された場合は速やかに治療
- 出生後の新生児への予防的点眼

よくある質問(FAQ)
いいえ、淋病は治癒しても免疫ができないため、何度でも感染する可能性があります。治癒後も予防対策を続けることが重要です。
コンドームは淋病予防に非常に効果的ですが、100%の予防効果があるわけではありません。正しく一貫して使用することで、感染リスクを大きく減らすことができます。
いいえ、淋病は自然には治りません。抗菌薬による治療が必要です。放置すると合併症を引き起こす可能性があります。
Q4: パートナーに症状がない場合、検査は不要ですか?
いいえ、淋病は無症状のこともあるため、症状がなくてもパートナーの検査は必要です。特に女性は無症状のことが多いため、検査を受けることが重要です。
Q5: 市販薬で治療できますか?
いいえ、淋病の治療には医師の処方による抗菌薬が必要です。市販薬では治療できません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
Q6: 検査は痛いですか?
検査方法によります。男性の尿道からの検体採取はやや不快感がありますが、尿検査なら痛みはありません。女性の子宮頸管からの採取も通常は強い痛みはありません。
Q7: 治療後、いつから性行為を再開できますか?
治癒判定の検査で陰性が確認されてから性行為を再開することが推奨されます。症状がなくなっても、検査で確認するまでは性行為を控えてください。
Q8: 淋病に感染すると必ず症状が出ますか?
いいえ、特に女性では約50%が無症状と言われています。男性でも約10%は無症状です。そのため、定期的な検査が重要です。
Q9: のどの淋病は普通の風邪薬で治りますか?
いいえ、咽頭の淋菌感染は風邪薬では治りません。専門の抗菌薬による治療が必要です。のどの症状が長引く場合は、医療機関を受診してください。
Q10: 淋病に感染したことは他人に知られますか?
医師には守秘義務があり、あなたの同意なしに他人に情報が漏れることはありません。ただし、感染症法により、医師から保健所への届出は行われますが、個人を特定する情報は厳重に管理されます。
医療機関の受診について
どこを受診すればよいか
淋病が疑われる場合、以下の医療機関を受診できます。
男性の場合:
- 泌尿器科
- 性感染症科
- 皮膚科(性感染症診療を行っている施設)
女性の場合:
- 婦人科
- 産婦人科
- 性感染症科
咽頭感染の場合:
- 耳鼻咽喉科
- 性感染症科
受診時の注意点
- 検査前の注意
- 男性は検査の2時間前から排尿を控える(尿検査の場合)
- 女性は生理中を避ける(可能であれば)
- 抗菌薬を自己判断で服用しない
- 受診時に伝えること
- 症状の詳細(いつから、どのような症状か)
- 最後の性行為の時期
- パートナーの症状の有無
- 過去の性感染症の既往
- 使用している薬剤(ある場合)
- パートナーへの対応
- パートナーにも検査・治療を勧める
- 医師と相談しながら、適切なタイミングで伝える
プライバシーへの配慮
多くの医療機関では、性感染症の診療においてプライバシーに十分配慮しています。
- 予約制で他の患者と顔を合わせにくい配慮
- 匿名での検査が可能な施設もある
- 検査結果の通知方法の選択(電話、メール、来院など)
まとめ
淋病は適切な治療により完治可能な性感染症ですが、放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性があります。特に以下の点を覚えておいてください。
重要なポイント
- 症状の特徴
- 男性:排尿痛と膿性分泌物が特徴的
- 女性:無症状または軽微な症状が多い
- 咽頭・直腸感染も無症状のことが多い
- 早期発見の重要性
- 早期治療により合併症を予防できる
- 無症状でも感染している可能性がある
- 定期的な検査が重要
- 予防方法
- コンドームの正しい使用
- パートナー数の制限
- 定期的な検査
- パートナーとのコミュニケーション
- 治療について
- 抗菌薬による治療が必要
- パートナーの同時治療が重要
- 治癒判定まで性行為を控える
- 受診のタイミング
- 症状があればすぐに受診
- パートナーが感染した場合も受診
- 症状がなくても不安な行為があれば検査を
最後に
性感染症について正しい知識を持ち、適切な予防行動を取ることは、ご自身だけでなくパートナーの健康を守ることにつながります。少しでも心配なことがあれば、遠慮せずに医療機関を受診してください。
参考文献
本記事は、以下の信頼できる情報源を参考に作成しました。
- 厚生労働省「性感染症に関する情報」
https://www.mhlw.go.jp/ - 国立感染症研究所「淋菌感染症とは」
https://www.niid.go.jp/ - 日本性感染症学会「性感染症 診断・治療ガイドライン」
http://jssti.umin.jp/ - 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン」
http://www.jsog.or.jp/ - 日本泌尿器科学会
https://www.urol.or.jp/ - 東京都感染症情報センター
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/
※本記事の情報は2025年10月時点のものです。医療情報は日々更新されますので、最新の情報については医療機関にご相談ください。
【免責事項】 本記事は一般的な医療情報を提供することを目的としており、個別の診断や治療の代わりとなるものではありません。症状や健康上の不安がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務