「蕁麻疹とはどんな病気?」
「蕁麻疹になったらどうすればいい?」
このように悩んでいる方もおられるのではないでしょうか。蕁麻疹は、蚊に刺されたような膨らみのある発疹で、かゆみを伴うことがほとんどです。
本記事では、蕁麻疹の原因や症状をはじめ蕁麻疹の治し方を紹介します。
この記事を読めば、蕁麻疹の原因となる物質や蕁麻疹の種類、効果の見込める治療方法がわかります。また、記事の後半では蕁麻疹に効きやすい薬も解説しているので、最後まで確認して参考にしてください。
蕁麻疹(じんましん)とはどんな病気?
蕁麻疹は、皮膚にむくみが起こり、膨疹(ぼうしん)が全身にできる病気です。
膨疹とは、蚊に刺されたような発疹で、原因としては皮膚の肥満細胞から分泌される様々なケミカルメディエーター(ヒスタミン等)が関係していると言われています。
蕁麻疹はアレルギーや物理的刺激をはじめ多くの原因によって起こり得る病気です。
また、近年では蕁麻疹の発症や悪化はアトピー性皮膚炎と関連している可能性があるとも指摘されています。
なお、蕁麻疹には様々な種類があるため医療機関を受診して原因を見つけ出すことが大切です。
蕁麻疹(じんましん)はなぜ起こる?蕁麻疹が起こる原因とは

蕁麻疹の原因は主に外因性と内因性に分けられ、持続性などに違いがあります。
外因性の蕁麻疹の場合、食べ物や薬、物理的刺激などが主な原因です。
一方で、内因性の蕁麻疹の場合はストレスや疲労の溜めすぎをはじめ、運動不足やアレルギーを原因とするものが多くあります。
以下では、蕁麻疹の2種類の原因についてわかりやすく解説します。
蕁麻疹の原因1.一過性が多い外因性
一過性が多い外因性蕁麻疹の原因は以下のような項目が例として挙げられます。
- 外来抗原
- 物理的刺激
- 発汗刺激
- 食べ物(食品添加物など)
- 薬剤
- 運動
外来抗原とは、吸入、摂取、または注射などによって外部から体内に入ってきた抗原を指します。
具体的には病原細菌やウイルス、異型輸血、花粉などが当てはまります。
また、蕁麻疹の原因となり得る食べ物は、豚肉、タケノコをはじめとした仮性アレルゲン、食品添加物などが含まれているものです。
蕁麻疹の原因2.持続性が多い内因性
持続性が多い内因性蕁麻疹の原因は以下のような項目が例として挙げられます。
- 感作
- 感染
- 疲労・ストレス
- 食べ物(食品添加物など)
- 薬剤
- IgE
- 基礎疾患(造血系疾患や遺伝的欠損など)
内因性蕁麻疹の原因となる食べ物は外因性と変わりませんが、薬剤はアスピリンやアンジオテンシン転換酵素(ACE)阻害薬が原因です。
IgEとは、免疫の一種で体のなかに入ってきたアレルギーの原因物質(アレルゲン)に対して働きかけ、身体を守る機能を持つ抗体を指します。
また、蕁麻疹は他の人にうつることはなく、ほとんどの場合で遺伝しないのも特徴です。
蕁麻疹(じんましん)とはどんな症状?
蕁麻疹の症状は、蚊に刺されたような膨らみのある発疹(膨疹)で、かゆみを伴うことがほとんどです。
発疹は1cmほどの大きさのものから、いくつもの発疹が繋がって大きく広がることもあります。
数時間のうちに全身へ広がることが多いものの、発疹が消失するまでにかかる時間は数時間ほどです。
多くの場合はこの症状が一度きりの「急性蕁麻疹」ですが、なかには数週間にわたって何度も症状が繰り返される「慢性蕁麻疹」に進行することもあります。
蕁麻疹(じんましん)に違いはある?蕁麻疹の種類

次に、蕁麻疹の種類ごとに違いを紹介します。
蕁麻疹の種類 | 特徴 |
---|---|
急性蕁麻疹 | ・毎日繰り返し発症する蕁麻疹のうち、1ヶ月経過していないもの ・細菌、ウイルス感染などが原因となっていることが多い |
慢性蕁麻疹 | ・毎日繰り返し発症する蕁麻疹のうち、1ヶ月以上経過したもの ・原因は特定できない場合が多い |
物理性蕁麻疹 | ・摩擦や圧迫、寒冷、温熱、日光、振動などといった物理的刺激により起こる |
コリン性蕁麻疹 | ・運動や入浴をはじめ、汗をかくと発症する ・一つ一つの湿疹1~4mm程度と小さく、小児から若い成人に多い |
アレルギー性蕁麻疹 | ・食べ物や薬剤、昆虫に含まれる特定物質(アレルゲン)に反応して起こる ・アレルゲンに結合するIgEという血清蛋白が関与している |
イントレランス | ・アスピリンなどの非ステロイド系消炎鎮痛薬、色素、造影剤、食品中のサリチル酸などにより起こる ・IgEが関与しない |
血管性浮腫 | ・唇やまぶたなどが突然腫れあがり、2~3日かかって消える ・かゆみを伴わず、稀に遺伝性のものの場合もある |
蕁麻疹は原因や特徴ごとに7種類存在し、種類によって治療方法が異なります。
また、蕁麻疹の種類を自分で診断するのは難しい場合もあるため、まずは医療機関の受診をご検討ください。
蕁麻疹(じんましん)はどうやって診る?蕁麻疹の診断方法とは
蕁麻疹の診断は、蕁麻疹の種類や原因を特定することが重要です。
基本的に、蕁麻疹の種類は蕁麻疹の特徴や経過からわかる場合が多くあります。
そのため、病院によっては定期的に血液検査して経過を見るところもあります。
ただし、何度も血液検査をすることは時間や医療費の観点から負担になってしまうことも多いため、個々の患者様に合わせて検査内容は変更されます。
蕁麻疹(じんましん)はどうやって治す?蕁麻疹の治し方とは
蕁麻疹の治し方は、主に二段階に分けられます。
はじめに、蕁麻疹の治療は可能な限り原因・悪化する要因を病院で特定してもらいましょう。
原因・悪化する要因が取り除けた後は、薬で治療を開始します。
蕁麻疹には、抗ヒスタミン薬または抗ヒスタミン作用のある抗アレルギー薬を外用薬、内服薬、または注射薬として治療に用います。
蕁麻疹は、そもそも蕁麻疹の内的要因となりやすい疲労やストレスをできるだけ溜めないことが重要です。
また、新鮮な食べ物を食べる、防腐剤などの添加物が入っている食べ物は控えめにするなどを心がけましょう。
蕁麻疹(じんましん)に効く薬とは
蕁麻疹によく効く薬は、抗ヒスタミン薬または抗ヒスタミン作用のある抗アレルギー薬とされています。
蕁麻疹は、マスト細胞から放出されたヒスタミンが血管および神経に働くことで症状が現れることがほとんどです。
マスト細胞とは、肥満細胞とも呼ばれ、アレルギー反応に関与している細胞です。
マスト細胞の表面には、IgEと呼ばれる免疫に関与するタンパク質が付着しており、アレルゲン(抗原)と反応するとヒスタミンなどのアレルギーを発生させる化学伝達物質を放出します。
そのため、ヒスタミンの働きを抑えるために抗ヒスタミン薬または抗ヒスタミン作用のある抗アレルギー薬を治療に用います。
ただし、内服薬や注射薬は効果がみられるものの外用薬は多少かゆみを軽減するだけで大きな効果は期待できません。
内服薬・注射薬の副作用は眠気を生じさせやすいことや前立腺肥大や緑内障がある人はそれらの症状を加速させてしまうことが挙げられます。
しかし、近年開発されている薬ではそういった副作用は非常に少ないです。
他にも、漢方や免疫変調薬などを含む種類の薬が状況に応じて補助的に使用されることもあります。
蕁麻疹(じんましん)に関するよくあるご質問
最後に、蕁麻疹に関するよくある質問について回答します。
蕁麻疹と湿疹はどちらもよく似ているものの、症状や期間が異なります。
蕁麻疹と湿疹はどちらも肌が赤くなりかゆみを伴いますが、蕁麻疹は突然発症する場合がほとんどです。
一方で、湿疹は数日から数週間かけて徐々に進行します。
また、蕁麻疹は全身に症状が出たり消えたりしますが、湿疹は発症した特定の箇所だけに症状が続くことがほとんどです。
期間は、蕁麻疹が数時間程度で、湿疹は数時間から数日続きます。
蕁麻疹は抗アレルギー薬を使用して治療し、湿疹はステロイド剤を使用して治療するケースが一般的です。
急性蕁麻疹であれば、1日弱で発疹が消え、数日のうちに治ることがほとんどです。
一方で、慢性蕁麻疹は症状の出現や消失を繰り返しながら数週間続くため、治療も長引いてしまいます。
蕁麻疹と内臓の病気は関係ない場合がほとんどですが、一部関係ある場合もあります。
蕁麻疹は、突然発症するため内臓の病気が原因と考えられやすいですが、大体の蕁麻疹は内臓疾患とは関係なく、検査をしても関連性が認められない場合が多くあります。
ただし、一部の症例では甲状腺疾患、ウイルス性肝炎、胃炎などが背景にあって蕁麻疹が起こりやすくなってしまっている可能性も捨てきれません。
多くの場合で内臓の病気と蕁麻疹は関係ありませんが、どうしても心配であれば医師に相談しましょう。
東京で蕁麻疹(じんましん)の治療ならアイシークリニックへご相談ください
蕁麻疹は多くの場合、数日でおさまる場合が多いものの、中には数週間続いてしまうものもあります。
また、蕁麻疹は多くの場合内臓の病気とは無関係なものの、背景に病気が潜んでいる可能性も捨てきれません。
アイシークリニックは、老若男女どなたでも相談しやすいクリニックを目指しています。
どんな症状であっても、患者様と相談しながら安心の治療方法を提案させていただ頂きますので、蕁麻疹で少しでもお悩みの方は、そのままにせずにアイシークリニックにご相談くださいませ。
蕁麻疹の病理メカニズムを詳しく理解しよう
マスト細胞の役割と詳細なメカニズム
蕁麻疹の発症には、皮膚や粘膜に存在するマスト細胞(肥満細胞)が重要な役割を果たしています。マスト細胞は、通常は体を外敵から守る免疫系の重要な構成要素ですが、何らかの刺激によって過剰に反応すると蕁麻疹の症状を引き起こします。
マスト細胞が刺激を受けると、細胞内に蓄えられている顆粒から様々な化学物質が放出されます。その中でも特に重要なのがヒスタミンです。ヒスタミンは血管の透過性を高め、血管を拡張させることで、皮膚の赤みや腫れ、そして特有のかゆみを生じさせます。
また、ヒスタミン以外にも、ロイコトリエン、プロスタグランジン、サイトカインなどの炎症性メディエーターが放出され、これらが複合的に作用して蕁麻疹の症状を形成します。
IgE抗体とアレルギー反応の詳細
アレルギー性蕁麻疹の場合、IgE抗体という特殊な抗体が関与しています。初回の抗原曝露時に、体内でその抗原に対するIgE抗体が作られ、マスト細胞の表面に結合します。この状態を「感作」と呼びます。
その後、同じ抗原に再び曝露されると、マスト細胞表面のIgE抗体が抗原を認識し、マスト細胞を活性化させます。この反応は即座に起こるため、「I型アレルギー反応」や「即時型アレルギー反応」とも呼ばれます。
年代別・性別による蕁麻疹の特徴
小児期(0-12歳)の蕁麻疹
小児期の蕁麻疹は、多くの場合急性蕁麻疹として現れます。主な特徴として以下が挙げられます:
- 感染との関連が強い: ウイルス感染や細菌感染に伴って発症することが多く、風邪症状と同時に蕁麻疹が現れることがあります
- 食物アレルギーとの関連: 卵、牛乳、小麦、大豆などの基本的な食品に対するアレルギーが原因となることがあります
- 症状の激しさ: 大人と比べて症状が急激に現れやすく、全身に広範囲に及ぶことがあります
- 回復の早さ: 一方で、適切な治療により比較的早期に回復する傾向があります
小児の場合、保護者の方が症状を正確に把握し、医師に詳細な経過を伝えることが診断と治療において重要です。
思春期・青年期(13-25歳)の蕁麻疹
この年代では、ホルモンバランスの変化やストレスの影響を受けやすくなります:
- コリン性蕁麻疹の好発年齢: 運動や入浴、精神的興奮によって発症するコリン性蕁麻疹がこの年代に最も多く見られます
- ストレス性蕁麻疹の増加: 学業や部活動、人間関係のストレスが蕁麻疹の誘因となることがあります
- 女性ホルモンの影響: 女性では月経周期と連動して症状が変動することがあります
成人期(26-64歳)の蕁麻疹
成人期の蕁麻疹は、慢性化しやすい傾向があります:
- 慢性蕁麻疹の好発年齢: 特に30-50代で慢性蕁麻疹が発症しやすくなります
- 職業関連因子: 職場でのストレス、化学物質への曝露、不規則な生活リズムが影響することがあります
- 薬剤性蕁麻疹の増加: 高血圧や糖尿病などの治療薬が原因となる薬剤性蕁麻疹が増加する年代です
高齢期(65歳以上)の蕁麻疹
高齢者の蕁麻疹には特有の特徴があります:
- 基礎疾患との関連: 甲状腺疾患、糖尿病、腎疾患などの基礎疾患が蕁麻疹の誘因となることがあります
- 皮膚の脆弱性: 加齢により皮膚のバリア機能が低下し、外的刺激に対して敏感になります
- 薬剤の相互作用: 複数の薬剤を服用することが多いため、薬剤間相互作用による蕁麻疹のリスクが高まります
季節性蕁麻疹の特徴と対策
春季の蕁麻疹
春は花粉症の季節でもあり、花粉が蕁麻疹の誘因となることがあります:
- スギ花粉蕁麻疹: 2-4月にかけて、スギ花粉による蕁麻疹が増加します
- 新生活ストレス: 新年度の環境変化によるストレスが蕁麻疹を誘発することがあります
- 気温差による影響: 朝夕の気温差が大きい春季は、温度変化による物理性蕁麻疹が起こりやすくなります
春季の対策:
- 花粉情報をチェックし、花粉の多い日の外出時はマスクや帽子を着用
- 帰宅後は衣服を着替え、手洗い・うがいを徹底
- 室内の湿度を適切に保ち、空気清浄機の使用を検討
夏季の蕁麻疹
夏季は高温多湿の環境により、特有の蕁麻疹が発症しやすくなります:
- 汗による蕁麻疹: 汗に含まれる塩分やアンモニアが刺激となり、蕁麻疹を引き起こすことがあります
- 日光蕁麻疹: 紫外線に対するアレルギー反応として蕁麻疹が発症する場合があります
- 冷房による温度差蕁麻疹: 屋外の暑さと室内の冷房による急激な温度変化が刺激となることがあります
夏季の対策:
- こまめに汗を拭き取り、清潔を保つ
- 日焼け止めの使用と適切な紫外線対策
- 冷房の設定温度を外気温との差を5℃以内に調整
秋季の蕁麻疹
秋は気候が安定する季節ですが、特有の要因があります:
- 乾燥による影響: 空気の乾燥により皮膚のバリア機能が低下し、刺激に敏感になります
- 食材の変化: 秋の味覚である魚介類やナッツ類によるアレルギー性蕁麻疹が発症することがあります
冬季の蕁麻疹
冬季は寒冷蕁麻疹が特に問題となります:
- 寒冷蕁麻疹: 冷たい空気や水に触れることで発症する物理性蕁麻疹
- 乾燥性蕁麻疹: 暖房による室内の乾燥が皮膚を刺激し、蕁麻疹を誘発
冬季の対策:
- 保湿剤の十分な使用
- 室内の湿度管理(50-60%が理想)
- 急激な温度変化を避ける
蕁麻疹の重症度分類と治療アプローチ
軽度の蕁麻疹
- 症状: 小さな発疹が局所的に現れ、軽度のかゆみを伴う
- 持続時間: 数時間以内に自然に消失
- 治療: 第二世代抗ヒスタミン薬の単独使用、外用薬併用
中等度の蕁麻疹
- 症状: 広範囲の発疹、中等度のかゆみ、日常生活への軽度の支障
- 持続時間: 24-48時間程度持続
- 治療: 抗ヒスタミン薬の増量、H2受容体拮抗薬の併用検討
重度の蕁麻疹
- 症状: 全身性の発疹、激しいかゆみ、血管浮腫の合併
- 持続時間: 数日間持続、または慢性化
- 治療: ステロイド薬の短期使用、免疫抑制薬の検討
超重症・救急対応が必要な蕁麻疹
- 症状: アナフィラキシーショックの兆候、呼吸困難、血圧低下
- 対応: 緊急医療機関への搬送、エピペン使用、ステロイド薬の点滴投与
蕁麻疹の予防と生活習慣の改善
食生活における予防策
蕁麻疹の予防には、食生活の管理が重要です:
避けるべき食品群:
- ヒスタミンを多く含む食品: チーズ、ワイン、発酵食品、魚の干物
- ヒスタミン遊離作用のある食品: トマト、ほうれん草、なす、たけのこ、山芋
- 人工添加物: 着色料(タートラジン、コチニール)、保存料(安息香酸、亜硫酸塩)、人工甘味料
推奨される食品:
- 抗炎症作用のある食品: オメガ3脂肪酸を含む青魚、亜麻仁油、くるみ
- ビタミンCを豊富に含む食品: 柑橘類、いちご、キウイフルーツ、ブロッコリー
- ケルセチンを含む食品: 玉ねぎ、りんご、緑茶(天然の抗ヒスタミン作用)
生活環境の整備
室内環境の管理:
- 適切な温度管理(夏季24-26℃、冬季20-22℃)
- 湿度の管理(40-60%を維持)
- アレルゲンの除去(ダニ、カビ、ペットの毛)
- 化学物質の使用を最小限に(香水、柔軟剤、洗剤の見直し)
衣類・寝具の選択:
- 天然素材(綿、麻、シルク)の使用
- きつすぎない衣類の選択(物理的刺激の軽減)
- 洗剤の残留を避けるための十分なすすぎ
ストレス管理と生活リズムの整備
現代社会においてストレスは蕁麻疹の重要な誘因の一つです。効果的なストレス管理方法をご紹介します:
リラクゼーション技法:
- 深呼吸法: 腹式呼吸を1日10分間実践
- プログレッシブ筋弛緩法: 全身の筋肉を段階的に緊張・弛緩させる方法
- マインドフルネス瞑想: 現在の瞬間に意識を向ける瞑想法
睡眠の質の向上:
- 規則正しい就寝・起床時間の確立
- 就寝前のスマートフォンやテレビの使用を控える
- 寝室の温度と湿度を適切に管理
- カフェインやアルコールの摂取制限
適度な運動の取り入れ:
- 有酸素運動(ウォーキング、水泳)を週3-4回実施
- ヨガや太極拳などの穏やかな運動
- 運動後の適切なクールダウンとシャワー
蕁麻疹と栄養素の関係
蕁麻疹予防に効果的な栄養素
ビタミンC:
- 抗ヒスタミン作用があり、蕁麻疹の症状軽減に効果的
- 1日の推奨摂取量:成人で100mg
- 多く含む食品:柑橘類、イチゴ、キウイ、ピーマン、ブロッコリー
ビタミンD:
- 免疫系の調節に重要な役割を果たし、慢性蕁麻疹の改善に関与
- 日光浴での合成と食品からの摂取を組み合わせる
- 多く含む食品:魚類(サケ、サバ、イワシ)、卵黄、きのこ類
オメガ3脂肪酸:
- 抗炎症作用により、蕁麻疹の症状軽減に貢献
- 1日の推奨摂取量:1-3g
- 多く含む食品:青魚、亜麻仁油、チアシード、くるみ
ケルセチン:
- 天然の抗ヒスタミン物質として知られる
- マスト細胞からのヒスタミン放出を抑制
- 多く含む食品:玉ねぎ、りんご、緑茶、ブドウ
栄養療法のアプローチ
除去食療法: 蕁麻疹の原因となる可能性のある食品を一時的に除去し、症状の改善を確認する方法です。医師の指導のもとで実施することが重要です。
段階的食品再導入: 除去食療法で症状が改善した場合、1つずつ食品を再導入し、原因食品を特定します。
栄養素補給療法: 慢性蕁麻疹の場合、不足しがちなビタミンやミネラルをサプリメントで補うことがあります。
蕁麻疹の合併症と関連疾患
血管性浮腫との合併
蕁麻疹の約50%で血管性浮腫を合併します:
症状の特徴:
- 眼瞼、口唇、舌の腫脹
- 深部組織の浮腫
- かゆみは軽度で、重圧感や違和感が主症状
危険な兆候:
- 咽頭・喉頭の腫脹による呼吸困難
- 急激な症状の進行
- 血圧低下や意識レベルの低下
アナフィラキシーとの鑑別
重症の蕁麻疹とアナフィラキシーの鑑別は重要です:
アナフィラキシーの症状:
- 全身性の蕁麻疹
- 呼吸器症状(喘息、呼吸困難)
- 循環器症状(血圧低下、頻脈)
- 消化器症状(腹痛、嘔吐、下痢)
- 意識レベルの低下
自己免疫疾患との関連
慢性蕁麻疹の一部は自己免疫機序が関与している可能性があります:
- 甲状腺疾患: 慢性蕁麻疹患者の約20%で甲状腺疾患を合併
- 関節リウマチ: 免疫系の異常により蕁麻疹を併発することがある
- 膠原病: 全身性エリテマトーデス(SLE)などで皮膚症状として蕁麻疹が現れることがある
最新の蕁麻疹治療法
新規治療薬の開発動向
オマリズマブ(抗IgE抗体):
- 従来の抗ヒスタミン薬で効果不十分な慢性蕁麻疹に対する治療選択肢
- IgEを中和することでアレルギー反応を抑制
- 4週間に1回の皮下注射で長期間の効果を期待
H4受容体拮抗薬:
- 従来のH1、H2受容体に加えて、H4受容体を標的とした新しいアプローチ
- より選択的で副作用の少ない治療法として期待されています
個別化医療のアプローチ
遺伝子検査による治療選択:
- 薬剤代謝酵素の遺伝子多型を調べることで、最適な薬剤選択が可能
- 副作用のリスクを事前に評価し、安全な治療を実施
バイオマーカーによる重症度評価:
- 血中のトリプターゼ、ヒスタミン、IL-4などの測定
- 客観的な重症度評価と治療効果の判定
免疫療法の応用
減感作療法:
- 特定のアレルゲンが明確な場合に実施
- 段階的にアレルゲンに曝露することで耐性を獲得
- 蜂毒アレルギーや特定の食物アレルギーに対して有効
蕁麻疹患者の日常生活管理
症状日記の重要性
蕁麻疹の原因特定と治療効果判定のため、詳細な症状日記をつけることをお勧めします:
記録すべき項目:
- 発症時刻と症状の程度(10段階評価)
- 発疹の出現部位と範囲
- かゆみの強度
- 摂取した食品と時間
- 服用した薬剤
- 活動内容と運動の有無
- ストレスレベル
- 天候や気温の変化
- 症状の持続時間と消失時刻
緊急時の対応方法
軽度の症状の場合:
- 冷たいタオルで患部を冷やす
- かかりつけ医に連絡し、指示を仰ぐ
- 抗ヒスタミン薬の服用(医師の指示がある場合)
中等度から重度の症状の場合:
- 安静にして症状の進行を観察
- 医療機関への受診を準備
- 呼吸困難や意識レベルの変化に注意
緊急性の高い症状の場合:
- 救急車の要請(119番)
- エピペンの使用(処方されている場合)
- 周囲への協力要請
外出時の注意事項
携帯すべきもの:
- 処方された抗ヒスタミン薬
- お薬手帳
- 緊急連絡先のメモ
- アレルギーカード(原因が判明している場合)
避けるべき環境・行動:
- 極端な温度変化を伴う場所
- 強い化学臭のする場所
- 激しい運動や過度な入浴
- アルコールの過剰摂取
職業関連性蕁麻疹の対策
医療従事者
- ラテックス手袋: ラテックスアレルギーによる接触蕁麻疹
- 消毒薬: アルコール系消毒薬による刺激性蕁麻疹
- 対策: ニトリル手袋の使用、アルコールフリー消毒薬の選択
美容師・理容師
- 染料・パーマ液: 化学物質による接触蕁麻疹
- シャンプー・リンス: 界面活性剤による刺激
- 対策: 適切な手袋着用、換気の徹底、皮膚保護剤の使用
食品関係者
- 食材: 直接接触による接触蕁麻疹
- 洗剤: 強力な洗浄剤による刺激
- 対策: 作業用手袋の着用、作業後の十分な手洗い
建設作業者
- セメント: アルカリ性物質による刺激
- 金属: ニッケル、クロムによる接触蕁麻疹
- 対策: 保護衣の着用、作業後のシャワー
妊娠・授乳期の蕁麻疹管理
妊娠中の蕁麻疹
妊娠中は免疫系の変化により、蕁麻疹のリスクが変動することがあります:
妊娠期特有の注意点:
- 胎児への薬剤の影響を考慮した治療選択
- ホルモン変化による症状の変動
- 体重増加や循環動態の変化の影響
安全な治療選択肢:
- 第一選択:ロラタジン、セチリジン
- 局所治療:カラミンローション、冷湿布
- ステロイド薬は慎重に検討
授乳期の蕁麻疹
母乳への薬剤移行の考慮:
- 抗ヒスタミン薬の選択に注意
- 授乳のタイミングと薬剤服用のタイミングの調整
- 定期的な乳児の健康チェック
小児蕁麻疹の特別な管理法
新生児・乳児期(0-1歳)
特徴:
- 母体からのIgE抗体の移行による影響
- 消化管の未熟性による食物蕁麻疹のリスク
- 皮膚バリア機能の未熟性
管理のポイント:
- 母乳栄養の推奨
- 離乳食の慎重な進め方
- スキンケアの重要性
幼児期(1-6歳)
特徴:
- 食物アレルギーの発症ピーク
- 感染症に伴う蕁麻疹の頻度が高い
- 家庭内アレルゲンへの曝露増加
管理のポイント:
- アレルゲン除去の徹底
- 感染症の予防
- 保護者への教育
学童期(6-12歳)
特徴:
- 学校給食による食物曝露
- ストレス性要因の増加
- 運動誘発性蕁麻疹の出現
管理のポイント:
- 学校との連携体制の構築
- エピペンの携帯と使用法の指導
- 運動制限の適切な調整
蕁麻疹治療の最新エビデンス
抗ヒスタミン薬の使い分け
第一世代抗ヒスタミン薬:
- ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン
- 強い抗ヒスタミン作用を持つが、眠気などの副作用が問題
- 重症例の短期間使用に限定
第二世代抗ヒスタミン薬:
- ロラタジン、セチリジン、フェキソフェナジン
- 副作用が少なく、長期使用に適している
- 慢性蕁麻疹の第一選択薬
最新の第三世代抗ヒスタミン薬:
- デスロラタジン、レボセチリジン
- より選択性が高く、副作用がさらに軽減
- 重症慢性蕁麻疹に対する効果が期待
治療ガイドラインに基づく段階的治療
ステップ1: 第二世代抗ヒスタミン薬の標準用量 ステップ2: 第二世代抗ヒスタミン薬の増量(最大4倍量まで) ステップ3: H2受容体拮抗薬やロイコトリエン受容体拮抗薬の併用 ステップ4: オマリズマブなどの生物学的製剤 ステップ5: 免疫抑制薬(シクロスポリンなど)
東洋医学的アプローチ
漢方薬による治療
蕁麻疹に対する漢方薬は、患者の体質や症状に応じて選択されます:
急性期に用いられる処方:
- 十味敗毒湯: 化膿性皮膚疾患に広く用いられる
- 消風散: かゆみと分泌物を伴う皮膚疾患に効果的
- 白虎加人参湯: 熱証を伴う蕁麻疹に使用
慢性期に用いられる処方:
- 当帰飲子: 乾燥とかゆみを伴う慢性的な皮膚疾患に
- 温清飲: 血虚と熱証を併せ持つ体質に
- 六君子湯: 消化機能の改善を通じた体質改善
鍼灸治療
鍼灸治療は、蕁麻疹の症状軽減と体質改善に効果が期待されます:
効果的な鍼灸ポイント:
- 血海(けっかい): 血液循環の改善
- 曲池(きょくち): 皮膚疾患全般に効果
- 風市(ふうし): かゆみの軽減
- 三陰交(さんいんこう): 女性特有の症状に
心理的サポートとメンタルヘルス
蕁麻疹による心理的影響
慢性蕁麻疹は外見的な変化を伴うため、患者の心理状態に大きな影響を与えることがあります:
一般的な心理的反応:
- 不安感と恐怖感
- 自信の喪失
- 社会的活動の回避
- 睡眠障害
- 抑うつ症状
心理的サポートの方法
認知行動療法(CBT):
- 蕁麻疹に対する不安や恐怖の軽減
- ストレス管理技術の習得
- 生活の質(QOL)の向上
サポートグループの活用:
- 同じ悩みを持つ患者同士の情報交換
- 体験談の共有による安心感の獲得
- 医療従事者による専門的なアドバイス
家族・職場での理解促進:
- 蕁麻疹は感染性疾患ではないことの説明
- 急な症状出現への理解
- 治療への協力体制の構築
蕁麻疹治療後のフォローアップ
治療効果の評価方法
客観的評価指標:
- UAS7(Urticaria Activity Score 7): 7日間の活動性スコア
- UCT(Urticaria Control Test): コントロールテスト
- CU-Q2oL(Chronic Urticaria Quality of Life): 生活の質評価
長期管理計画
寛解維持のための戦略:
- 治療薬の段階的減量
- 定期的な症状モニタリング
- 誘因回避の継続
- 生活習慣の改善維持
再発予防のアプローチ:
- 個別化された誘因回避計画
- 緊急時対応プランの策定
- 定期的な医師との相談
蕁麻疹に関する最新研究と将来展望
病態解明の進歩
マスト細胞研究の進展:
- マスト細胞の活性化メカニズムの詳細な解明
- 新たな脱顆粒経路の発見
- 組織特異的なマスト細胞の役割の理解
自己免疫機序の解明:
- 慢性蕁麻疹における自己抗体の役割
- 補体系の関与
- サイトカインネットワークの解析
新治療法の開発
標的分子治療:
- IL-4、IL-5、IL-13を標的とした生物学的製剤
- JAK阻害薬の蕁麻疹治療への応用
- 新規抗ヒスタミン薬の開発
再生医療の応用:
- 幹細胞療法による免疫系の再構築
- 皮膚バリア機能の再生
- 個別化医療の推進
デジタルヘルスの活用
スマートフォンアプリ:
- 症状日記の自動化
- AI を活用した原因分析
- 医師との情報共有システム
ウェアラブルデバイス:
- 心拍数や皮膚温度の連続モニタリング
- ストレスレベルの客観的評価
- 環境要因との関連性分析
蕁麻疹予防のための生活指針
住環境の最適化
アレルゲン対策:
- HEPA フィルター付き空気清浄機の設置
- 定期的な寝具の洗濯(60℃以上のお湯使用)
- カーペットよりもフローリングの選択
- ペットの適切な管理
化学物質の軽減:
- 天然由来の洗剤・柔軟剤の使用
- VOC(揮発性有機化合物)の少ない建材選択
- 室内植物による空気浄化
食事療法の実践
抗炎症食事パターン:
- 地中海式食事法の採用
- 加工食品の制限
- 有機農産物の優先的選択
- 発酵食品による腸内環境の改善
栄養素密度の向上:
- 色とりどりの野菜と果物の摂取
- 良質なたんぱく質の確保
- 適切な水分摂取(1日1.5-2リットル)
まとめ:包括的な蕁麻疹管理
蕁麻疹は複雑で多因子性の疾患であり、患者一人ひとりに適した個別化されたアプローチが必要です。症状の適切な評価と原因の特定、そして患者の生活の質を重視した治療計画の立案が重要となります。
当クリニックでは、最新の医学的知見に基づいた診断と治療を提供し、患者様の症状改善と生活の質向上を目指しています。蕁麻疹でお悩みの方は、ささいなことでもお気軽にご相談ください。
私たちは患者様一人ひとりの状況に寄り添い、最適な治療法を一緒に見つけていきたいと考えています。蕁麻疹は決して一人で悩む必要のない疾患です。適切な医療的サポートにより、症状のコントロールと快適な日常生活の実現が可能です。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務