足の裏にほくろを見つけたとき、多くの方が「これは大丈夫なのだろうか」と不安を感じることがあります。足の裏のほくろは危険だという話を聞いたことがある方も少なくないでしょう。実際、足の裏は悪性黒色腫(メラノーマ)という皮膚がんが発生しやすい部位として知られており、日本人のメラノーマ患者の約半数がこの部位に発症すると報告されています。しかし、足の裏にほくろがあるからといって、すべてが危険というわけではありません。足の裏のほくろの大部分は良性であり、適切な知識を持って観察することで、過度な心配をすることなく、必要なときに適切な対応をとることが可能です。本記事では、足の裏のほくろが持つ医学的な意味、悪性黒色腫との見分け方、セルフチェックのポイント、そして専門医への相談が必要なケースについて詳しく解説します。ご自身やご家族の健康管理にお役立ていただければ幸いです。

目次
- 足の裏にほくろができる原因とメカニズム
- 足の裏のほくろが危険と言われる理由
- 悪性黒色腫(メラノーマ)とは
- 良性のほくろと悪性黒色腫の見分け方
- ABCDEルールによるセルフチェック
- 足の裏のほくろの診断方法
- ほくろの除去・治療方法
- 皮膚科を受診すべきタイミング
- 足の裏のほくろの予防と日常的なケア
- よくある質問
- まとめ
1. 足の裏にほくろができる原因とメカニズム
ほくろ(色素性母斑)とは
ほくろは医学的には「色素性母斑(しきそせいぼはん)」と呼ばれ、皮膚の一部にメラニン色素を含む良性の母斑細胞(ほくろ細胞)が集まったものです。母斑細胞は胎生期に神経の色素細胞になりきれなかった細胞が皮膚に残ったものと考えられており、生まれつき存在するものから、成長とともに後天的に出現するものまで様々です。ほくろは全身のどこにでもできる可能性があり、足の裏も例外ではありません。
足の裏にほくろができやすい理由
日本人を含む黄色人種は、欧米の白人と比較して足の裏や手のひらなどの末端部分にほくろができやすいという特徴があります。これは人種による遺伝的な違いによるもので、日本人は「末端黒子型」と呼ばれるタイプのほくろやメラノーマが発生しやすい傾向にあります。足の裏は常に体重を支え、歩行による摩擦や圧迫といった機械的な刺激を受ける部位でもあります。近年の研究では、こうした外部からの機械的刺激がメラノーマの発生に関与している可能性が示唆されています。特に足でも外部から刺激を受けやすい箇所には、メラノーマの発生が多いことが報告されています。
足の裏のほくろの特徴
足の裏の皮膚は、体の他の部位とは異なる構造を持っています。足の裏には浅い溝(皮溝)が平行または格子状に走っており、ダーモスコピーという専門的な診断機器で観察すると、良性のほくろではこの溝の部分に黒い色素がつく特徴があります。一方、メラノーマの初期では色素沈着は溝と溝の間の部分(皮丘)にみられるという違いがあります。この違いは、専門医が良性と悪性を区別する重要な手がかりとなっています。
2. 足の裏のほくろが危険と言われる理由
日本人に多い末端黒子型メラノーマ
足の裏のほくろが危険と言われる背景には、この部位に悪性黒色腫(メラノーマ)が発生しやすいという事実があります。メラノーマは皮膚がんの一種で、皮膚の色素を作るメラノサイトという細胞ががん化したものです。白人では体幹部や四肢に発生する「表在拡大型」が約7割を占めますが、日本人ではおよそ2人に1人が足の裏や手のひら、爪などに発生する「末端黒子型」のメラノーマを発症します。この人種差があるため、日本では特に足の裏のほくろに注意が必要とされているのです。
発見が遅れやすい部位
足の裏は日常生活の中で自分で確認しにくい部位です。顔や腕にできたほくろであれば、毎日鏡を見る際に変化に気づきやすいですが、足の裏は意識して観察しなければ変化を見逃してしまう可能性があります。また、足の裏のほくろは靴下や靴で隠れてしまうため、家族や他者からも気づかれにくいという特徴があります。このため、メラノーマが発生しても発見が遅れ、進行した状態で見つかるケースが少なくありません。
機械的刺激との関連
足の裏は歩行時に常に圧力や摩擦などの刺激を受けています。特に靴がよく当たる親指(母趾)周辺や、体重がかかる踵や土踏まずなどの部位は刺激を受けやすい場所です。研究では、このような機械的刺激がメラノーマの発生に関与している可能性が示されています。ただし、足の裏は紫外線を浴びる機会がほとんどないにもかかわらずメラノーマが発生することから、紫外線以外の要因が大きく関わっていると考えられています。足の裏以外にあるほくろについても、頻繁にいじる、自分でむしって取ろうとするなど、過度の外的刺激を加えることは控えた方がよいでしょう。
3. 悪性黒色腫(メラノーマ)とは
メラノーマの基本情報
悪性黒色腫(メラノーマ)は、皮膚のメラニン色素を作る色素細胞(メラノサイト)ががん化した腫瘍です。「ほくろのがん」とも呼ばれ、見た目が通常のほくろと似ていることから、初期段階では見逃されやすいという特徴があります。日本における発症率は10万人あたり約1〜2人とされており、年間約4,000人の患者さんがいると推定されています。ただし、この30年で発症頻度は2倍以上に増加しており、2019年の患者数は約29,400人で、1980年の約7倍、2010年の約2倍に増えているという報告もあります。
メラノーマの4つのタイプ
メラノーマは見た目や発生部位によって主に4つのタイプに分類されます。まず「末端黒子型」は足の裏や手のひら、手足の爪(爪下部)などに発生するタイプで、日本人メラノーマ患者の約4〜5割を占めます。最初は薄い黒色のシミのような見た目ですが、次第に色が濃くなり、進行すると潰瘍を伴うこともあります。爪にできた場合は縦に黒色のスジができ、進行すると爪が割れることもあります。
次に「表在拡大型」は体幹や四肢などにみられ、最初はわずかに盛り上がったいびつな形のシミのような外観ですが、次第に一部が隆起してきます。白人では最も多いタイプで、強い紫外線を浴びる機会の多い方がなりやすいと言われています。
「結節型」は最初から大きく盛り上がった黒い形で発生しますが、色が薄い場合もあります。短期間で盛り上がるように増殖するのが特徴で、他のタイプより悪性度が高く、予後がよくないケースが多いため注意が必要です。
「悪性黒子型」は顔面など日光が当たりやすい部位に発生します。不規則な形で徐々に拡大していく症状が見られ、高齢の方の顔に発症するケースが多いと言われています。褐色から黒色のシミが出現し、ゆっくり大きくなり、一部が盛り上がることもあります。
メラノーマの悪性度と予後
メラノーマは皮膚がんの中でも特に悪性度が高く、病気の進行が非常に早いことで知られています。リンパ行性・血行性に転移しやすく、早い時期から再発や転移を起こすことがあります。1〜2ヵ月で全身状態が変わることもあるため、メラノーマが疑われる皮膚の異常を見つけたらすぐに受診することが大切です。しかし、早期に発見して適切な治療を行えば、良好な経過も期待できます。特に、がん細胞が表皮内にとどまっている段階であれば、十分な範囲で切除するだけで治癒が期待できます。皮膚がんは皮膚の表面にできるため、自分で目視確認できることが多く、早期発見につながりやすいという利点があります。
4. 良性のほくろと悪性黒色腫の見分け方
形状による違い
良性のほくろは一般的に円形または楕円形で、形が整っています。左右対称で、どの方向から見ても比較的均一な形状をしています。一方、メラノーマは非対称でいびつな形をしていることが多く、形が歪んでいたり、左右不対称であったりします。ほくろ全体を半分に折った時に、両側がぴったり重ならないような形状は注意が必要です。
境界による違い
良性のほくろは周囲の皮膚との境界がくっきりしていて、はっきりと区別できます。しかし、メラノーマでは境界がギザギザしていたり、ぼんやりとしていて不明瞭だったりすることが特徴です。また、ほくろ周辺の皮膚にまで色がしみ出したような状態が見られることもあります。境界線が不規則で、まるで地図の海岸線のように入り組んでいる場合は、専門医への相談をお勧めします。
色調による違い
良性のほくろは色が均一で、全体的に同じような色合いをしています。黒、茶色、褐色など、一つのほくろの中で色にムラがありません。対照的に、メラノーマは色にムラがあることが特徴で、黒、茶、赤、白、青、灰色など多彩な色が混在していることがあります。一つのほくろの中に複数の色が見られる場合、特に注意が必要です。
大きさによる違い
一般的に、良性のほくろは直径6mm以下であることが多いとされています。一方、メラノーマは6mm以上の大きさになることがあります。ただし、6mm未満の小さなメラノーマも存在しますので、大きさだけで判断することは危険です。重要なのは、大きさの変化があるかどうかです。以前より明らかに大きくなっている、急速に成長しているなどの変化がある場合は、専門医を受診することをお勧めします。
変化の有無による違い
良性のほくろは基本的に安定しており、短期間で大きく変化することはありません。しかし、メラノーマは進行性であり、時間とともに大きさ、色、形、硬さなどが変化します。また、表面が隆起してきたり、潰瘍ができたり、出血しやすくなったりすることもあります。1〜2年くらいの短期間で見た目に変化がある場合は、特に注意が必要です。
5. ABCDEルールによるセルフチェック
ABCDEルールとは
ABCDEルールは、米国皮膚科学会などで推奨されている悪性黒色腫を見分けるための5つの視点をまとめたものです。これは専門医でなくても、ほくろの異常を発見するための簡易的なセルフチェック方法として広く用いられています。5つの項目のうち4つ以上あてはまると悪性を疑う必要があり、2つ以下の場合は良性と考えて良いとされています。ただし、これはあくまで目安であり、心配なほくろがある場合は必ず皮膚科専門医を受診してください。
A(Asymmetry):左右非対称
ほくろを縦横に二分割したとき、それぞれの形が対称かどうかを確認します。良性のほくろは基本的に左右対称で、どの方向から見ても均一な形状をしています。メラノーマでは形がいびつで、左右非対称であることが多いです。まるで墨汁がにじんだように、形が定まっていない場合は注意が必要です。
B(Border):境界不明瞭
ほくろと周囲の正常な皮膚との境界がはっきりしているかどうかを確認します。良性のほくろは境界がくっきりとしていますが、メラノーマでは境界がギザギザしていたり、ぼんやりとして不明瞭だったりします。境界の一部が周囲の皮膚に染み出すように広がっている場合も、注意すべきサインです。
C(Color):色の不均一
ほくろの色にムラがないかを確認します。良性のほくろは全体的に均一な色をしていますが、メラノーマでは黒、茶、赤、白、青などの複数の色が混在していることがあります。特に、以前は均一だった色が徐々にまだらになってきた場合や、一部だけ色が極端に濃くなったり薄くなったりした場合は、専門医への相談をお勧めします。
D(Diameter):直径6mm以上
ほくろの大きさが直径6mmを超えているかどうかを確認します。6mmというのは、一般的な鉛筆の消しゴム部分の直径とほぼ同じ大きさです。6mm以上の大きなほくろはメラノーマの可能性を考慮する必要があります。ただし、7mm以上という基準を用いる専門家もおり、また6mm未満でもメラノーマの可能性はゼロではありませんので、他の項目と合わせて総合的に判断することが重要です。
E(Evolution):変化
ほくろに何らかの変化があるかどうかを確認します。大きさ、色、形、かたさなどが時間とともに変化しているかどうかに注目します。急速に大きくなる、色が変わる、表面が隆起してくる、出血しやすくなる、潰瘍ができるなどの変化は要注意です。メラノーマは進行性の疾患であり、時間とともに変化することが特徴です。定期的に足の裏を確認し、写真を撮っておくと変化に気づきやすくなります。
6. 足の裏のほくろの診断方法
視診・触診
皮膚科専門医は、まず肉眼でほくろの状態を詳しく観察します。形状、色調、大きさ、境界の状態などを確認し、触診によって硬さや表面の性状なども評価します。経験豊富な皮膚科医であれば、視診だけである程度の診断を下すことができますが、メラノーマの早期病変は通常のほくろやシミと非常に似ているため、専門的な検査を併用することが推奨されています。
ダーモスコピー検査
ダーモスコピー検査は、ほくろとメラノーマの鑑別において非常に重要な検査です。ダーモスコープというライトがついた拡大鏡を使用して、皮膚の状態を10〜30倍に拡大して詳しく観察します。偏光レンズやエコージェルにより皮膚表面の乱反射を除いた状態で内部の構造を観察することができ、肉眼では見えにくい微細な色調や構造の変化を詳細に確認することが可能です。
足の裏のほくろをダーモスコピーで観察すると、良性のほくろでは色素が溝(皮溝)の部分に沈着している「parallel furrow pattern(平行溝パターン)」が見られます。一方、メラノーマでは色素が溝と溝の間の部分(皮丘)に沈着する「parallel ridge pattern(平行隆線パターン)」が見られることが特徴です。この違いを利用して、メスを入れなくても良性か悪性かをある程度判断することができます。
ダーモスコピー検査は痛みを伴わず、健康保険も適用されます(自己負担額は数百円程度)。この検査は現在広く普及しており、メラノーマの早期発見・早期治療に大きく貢献しています。ダーモスコピーを使用すると、使用しない場合と比較して診断精度が4〜9倍向上するという報告もあります。
皮膚生検(病理検査)
ダーモスコピーで悪性の疑いがある場合や、判断が難しい場合には、確定診断のために皮膚生検が行われます。皮膚生検とは、病変の一部または全部を切り取って顕微鏡で組織を調べる検査です。メラノーマが疑われる場合は、色素病変から数mm離して病変全体を切除する「全切除生検」が一般的に行われます。これにより、病変がメラノーマであった場合に腫瘍の厚さを正確に測定することができ、その後の治療方針を決定する上で重要な情報となります。
病変が大きく全切除生検が難しい場合には、病変の一部を切除する「部分生検」が行われることもあります。通常、局所麻酔を行った後、トレパンという器具で皮膚を3〜5mm程度円形に切り取り、採取した組織を病理検査に提出します。結果は通常2週間程度で判明します。
画像検査
メラノーマと診断された場合、他の部位への転移がないかを確認するために画像検査が行われます。CT検査、MRI検査、PET検査などが用いられ、リンパ節や内臓への転移の有無を調べます。特に、腫瘍の厚さが1mm以上ある場合は転移の可能性があるため、詳細な画像検査が重要になります。
7. ほくろの除去・治療方法
良性のほくろの除去方法
良性のほくろは基本的に治療の必要はありませんが、見た目を気にする場合や、衣服に引っかかるなど生活に支障がある場合には除去を希望される方もいます。良性のほくろの除去方法には、主に手術による切除とレーザー治療があります。
手術による切除は、メスで皮膚を切って、ほくろを切除し、縫合する方法です。切除した組織を病理検査に提出できるため、悪性かどうかの確定診断が可能です。根元からしっかり取り除くため再発しにくく、大きく深いほくろにも対応できます。保険適用になる場合もあり、自己負担3割の場合で5,000円〜10,000円程度(別途病理検査代がかかります)が目安です。
炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)による治療は、レーザーをほくろに照射して蒸散させる方法です。メスを使わないため傷が小さく、施術時間も短いのが特徴です。出血がほとんどなく、縫合も不要なため、ダウンタイムが短いというメリットがあります。ただし、病理検査ができないため悪性の可能性がある場合には適しません。また、深いほくろでは再発する可能性があります。費用は自費診療となることが多く、1個あたり5,000円〜20,000円程度が相場です。
メラノーマの治療方法
メラノーマの治療は手術による切除が基本です。腫瘍の厚さによって治療方針が異なり、がん細胞が表皮内にとどまる場合は、十分な範囲で切除するだけで治癒が期待できます。病変から5mm〜2cm離して切除し、必要に応じてセンチネルリンパ節生検を行います。
センチネルリンパ節生検とは、メラノーマが最初に転移すると考えられるリンパ節を見つけて摘出し、顕微鏡で転移の有無を詳しく調べる検査です。このリンパ節に転移がなければ他のリンパ節に転移がないと推測されますが、転移があった場合は他のリンパ節にも転移がある可能性があり、リンパ節郭清術が必要となることがあります。
手術が難しい進行例や、再発・転移がある場合には薬物療法が行われます。近年、メラノーマの薬物治療は急速に進歩しており、免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブ、イピリムマブなど)や分子標的薬(BRAF阻害薬など)による治療が可能になっています。これらの新しい薬剤の登場により、進行したメラノーマでもがんの進行を抑えたり、治癒を目指せるようになりつつあります。
治療後の経過観察
メラノーマの手術や術後補助療法が終了した後も、再発や転移の有無を確認するために定期的な通院が必要です。通院頻度は最初は1〜3ヶ月に1回程度ですが、病状が安定すれば半年から1年に1回程度が一般的です。メラノーマは10年や20年といった長い時間が経ってから転移を起こすこともあるため、可能な限り長期間にわたって経過観察を続けることが推奨されています。
8. 皮膚科を受診すべきタイミング
すぐに受診すべき症状
足の裏のほくろに以下のような症状がある場合は、できるだけ早く皮膚科専門医を受診することをお勧めします。まず、急に大きくなってきたほくろは要注意です。1〜2年くらいの短期間で明らかに成長している場合、特に7mm以上の大きさになっている場合は早めの受診が必要です。
形がいびつで左右非対称なほくろ、境界がギザギザしているほくろ、色にムラがあるほくろも注意が必要です。また、出血しやすい、潰瘍ができている、表面がジュクジュクしているなどの症状がある場合は、すぐに専門医の診察を受けてください。
爪の場合は、爪の中に黒褐色の縦線のようなものが見られ、それが徐々に太くなってきたり、爪の先の皮膚まで黒くなってきたりする場合は注意が必要です。
定期的なチェックをお勧めする方
以下に該当する方は、足の裏のほくろについて定期的に皮膚科でチェックを受けることをお勧めします。40代以降の方は特に注意が必要です。メラノーマは40〜50代で発症することが多く、年齢とともにリスクが高まります。
生まれつき足の裏に大きなほくろがある方も定期的なチェックが推奨されます。先天性の色素性母斑は、非常にまれではありますが悪性化することがあるため、予防的に切除を検討することもできます。また、過去にメラノーマを発症したことがある方や、家族にメラノーマの患者さんがいる方も、定期的なフォローアップが重要です。
受診時のポイント
皮膚科を受診する際は、ダーモスコピー検査が可能な医療機関を選ぶことをお勧めします。すべての皮膚科でダーモスコピー検査が受けられるわけではないため、事前に確認しておくと安心です。また、ほくろがいつ頃からあるのか、最近どのような変化があったのかを医師に伝えられるよう、事前にメモしておくとよいでしょう。可能であれば、ほくろの写真を時系列で撮っておくと、変化の程度を客観的に伝えることができます。
9. 足の裏のほくろの予防と日常的なケア
セルフチェックの習慣化
足の裏のほくろの変化を早期に発見するためには、定期的なセルフチェックが重要です。月に1回程度、入浴後などに足の裏を確認する習慣をつけましょう。自分で見にくい場合は、手鏡を使ったり、家族に確認してもらったりするとよいでしょう。スマートフォンで写真を撮っておくと、以前の状態と比較しやすくなります。
チェックの際は、先ほど紹介したABCDEルールを参考に、形、境界、色、大きさ、変化の5つの観点から観察します。また、爪の下にも黒い線や変色がないか確認することをお勧めします。
機械的刺激を避ける
足の裏のメラノーマは機械的な刺激との関連が指摘されています。足の裏にほくろがある場合は、できるだけ刺激を与えないよう注意しましょう。サイズの合った靴を選び、足への過度な圧迫を避けることが大切です。また、ほくろを自分でいじったり、むしって取ろうとしたりすることは絶対に避けてください。
インターネット通販などで販売されている「ほくろ除去クリーム」などを使用したセルフケアは非常に危険です。これらの製品の多くは強酸や強アルカリ性の成分で皮膚組織を化学的に傷つけるものであり、ほくろだけでなく周囲の正常な皮膚までダメージを受け、深い傷跡やケロイドが残る可能性があります。ほくろの除去は必ず医療機関で行ってください。
紫外線対策
足の裏は通常、紫外線を浴びる機会が少ない部位ですが、全身のほくろを守るためには日常的な紫外線対策が重要です。特に顔や腕など露出部分には日焼け止めクリームを使用し、過度な紫外線を受けないようにしましょう。途中で汗で日焼け止めクリームが流れ落ちることもあるので、追加して使用することも大切です。
全身のほくろにも注意を
足の裏だけでなく、全身のほくろについても定期的にチェックすることをお勧めします。特に、手のひら、爪、顔、首、体幹部など、様々な部位のほくろに変化がないか確認しましょう。他のほくろより明らかに大きなものや、急にできてきたほくろには注意が必要です。全身のほくろを定期的に観察することで、皮膚がんの早期発見につながります。
10. よくある質問
足の裏のほくろがすべて危険というわけではありません。足の裏にほくろがある人は多く、そのほとんどは良性の色素性母斑です。実際に足の裏のほくろが悪性のメラノーマになることはまずありませんが、メラノーマの始まりはほくろとよく似ているため注意が必要です。正円で色味が均一なものは一般的なほくろであることが多いですが、気になる場合は皮膚科専門医に相談し、ダーモスコピー検査を受けることをお勧めします。
通常の良性のほくろが悪性のメラノーマに変化することはまずないと考えられています。ただし、生まれつき存在する先天性色素性母斑は、非常にまれではありますが悪性黒色腫に変化することがあるため、足の裏など悪性黒色腫の生じやすい部位では予防的に切除を勧められることがあります。いずれにしても、ほくろに何らかの変化が見られた場合は、早めに皮膚科専門医を受診することをお勧めします。
良性のほくろであれば、必ずしも除去する必要はありません。以前は足の裏のほくろはメラノーマの可能性を否定するために切除するのが一般的でしたが、現在はダーモスコピーという診断機器の普及により、メスを入れなくても良性か悪性かをある程度判断できるようになりました。ダーモスコピー検査で明らかに良性と判断された場合は、放置しても問題ありません。ただし、悪性の可能性がある場合や、判断が難しい場合には切除して病理検査を行うことが推奨されます。
ほくろを刺激するとがんになるという明確な科学的根拠はありませんが、機械的な刺激がメラノーマの発生に関与している可能性は示唆されています。特に足の裏は歩行による刺激を常に受ける部位であり、靴が当たりやすい場所にメラノーマが多いという研究報告もあります。そのため、ほくろを頻繁にいじったり、自分でむしって取ろうとしたりするなど、過度の刺激を加えることは控えた方がよいでしょう。
メラノーマは非常に悪性度の高いがんですが、早期に発見して適切な治療を行えば、良好な経過が期待できます。がん細胞が表皮内にとどまっている段階であれば、転移を起こすことはなく、十分な範囲で切除するだけで治癒が期待できます。皮膚がんは皮膚の表面にできるため、早期発見しやすいという特徴があります。定期的なセルフチェックを行い、気になる変化があれば早めに皮膚科専門医を受診することが大切です。
ダーモスコピー検査は痛みを伴わない非侵襲的な検査です。専用の拡大鏡を皮膚にあてて観察するだけなので、注射や切開などは一切なく、数分で終わります。健康保険が適用される検査で、3割負担の場合の自己負担額は数百円程度です。診察料と合わせても1,000円程度が目安となります。気になるほくろがある方は、気軽に皮膚科を受診してダーモスコピー検査を受けることをお勧めします。
11. まとめ
足の裏のほくろは、日本人に多い末端黒子型メラノーマが発生しやすい部位であることから、注意が必要とされています。しかし、足の裏にあるほくろのほとんどは良性であり、すべてのほくろが危険というわけではありません。大切なのは、正しい知識を持って定期的にセルフチェックを行い、変化があれば早めに皮膚科専門医を受診することです。
ABCDEルール(左右非対称、境界不明瞭、色の不均一、直径6mm以上、変化)を参考に、月に1回程度は足の裏のほくろを確認する習慣をつけましょう。気になるほくろがあれば、ダーモスコピー検査が可能な皮膚科を受診することをお勧めします。ダーモスコピー検査は痛みを伴わず、健康保険が適用される手軽な検査で、良性と悪性の区別に非常に有効です。
メラノーマは非常に悪性度の高いがんですが、早期に発見して適切な治療を行えば、良好な経過が期待できます。皮膚がんは自分で見つけやすいがんでもあります。過度に心配する必要はありませんが、適切な注意を払い、気になる変化があれば早めに専門医に相談することで、健康を守ることができます。
アイシークリニック上野院では、専門医による丁寧な診察と治療を行っております。足の裏のほくろでお悩みの方、気になる皮膚の変化がある方は、お気軽にご相談ください。

参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス「メラノーマ(悪性黒色腫)」
- 国立がん研究センター 希少がんセンター「悪性黒色腫(メラノーマ)」
- 公益社団法人日本皮膚科学会「メラノーマ(ほくろのがん)Q4」
- 公益社団法人日本皮膚科学会「メラノーマ(ほくろのがん)Q5」
- 東邦大学「皮膚がんの早期発見で覚えておきたいこと~ほくろと悪性黒色腫(メラノーマ)の5つの見分け方~」
- 岡山大学病院メラノーマセンター「足の裏のほくろは危ない?」
- がん研有明病院 皮膚腫瘍科「悪性黒色腫(メラノーマ)」
- 岩手医科大学附属病院 がんセンター「悪性黒色腫(メラノーマ)」
- 国立病院機構 九州がんセンター「悪性黒色腫(メラノーマ)」
- 兵庫県立尼崎総合医療センター「ダーモスコピー検査と皮膚生検」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務