「足の裏にほくろができたけれど、これは大丈夫だろうか」「ほくろの色が変わってきた気がする」──そのような不安を感じたことはありませんか。日本人に発症するメラノーマ(悪性黒色腫)の約半数は、足の裏や手のひら、爪の周辺など、紫外線が当たりにくい末端部に発生することが知られています。普通のほくろと「危ないほくろ」の違いを知り、早期発見のポイントを理解しておくことは、皮膚がんから身を守るうえで非常に重要です。本記事では、足にできる危険なほくろの特徴や見分け方、セルフチェックの方法、そして医療機関を受診すべきタイミングについて詳しく解説いたします。皮膚の異変に気づいたときの参考にしていただければ幸いです。

目次
- 足のほくろが「危ない」と言われる理由
- 日本人に多い末端黒子型メラノーマとは
- 危ないほくろの見分け方:ABCDEルール
- 足の裏・足指・爪にできるほくろの特徴
- 良性のほくろとメラノーマの写真で見る違い
- ダーモスコピー検査とは
- 皮膚科を受診すべきタイミング
- メラノーマの検査と診断の流れ
- メラノーマの治療法と最新の動向
- 日常でできるセルフチェックと予防法
- よくある質問
- まとめ
足のほくろが「危ない」と言われる理由
足の裏や足指にできたほくろを見て、「これは皮膚がんではないか」と心配される方は少なくありません。実際、日本人の悪性黒色腫(メラノーマ)の約30~40%は足の裏に発生するというデータがあり、手足の爪を含めると約半数が末端部に集中しています。
欧米人の場合、メラノーマの多くは背中や脚など紫外線を浴びやすい部位に発生します。しかし日本人を含むアジア人では、紫外線があまり当たらない足の裏に多く発生するのが特徴です。この理由として、歩行による機械的な刺激や外的ストレスが関与している可能性が研究で示されています。
足の裏は日常的に目にする機会が少なく、異変に気づきにくい部位です。また、「足の裏のほくろは危ない」という情報が広まっている一方で、足の裏にあるほくろのすべてが悪性というわけではありません。多くは良性のほくろ(色素性母斑)であり、過度に心配する必要はありません。重要なのは、ほくろの特徴を正しく理解し、変化があった場合に速やかに専門医を受診することです。
日本人に多い末端黒子型メラノーマとは
メラノーマ(悪性黒色腫)は、皮膚のメラニン色素を産生するメラノサイト(色素細胞)が悪性化した腫瘍です。皮膚がんの中でも特に悪性度が高く、早期から転移を起こす可能性があることで知られています。日本における発症率は10万人あたり約1.5~2人で、年間約2,000人が新たに診断されています。
メラノーマは発生部位や形態によって主に4つのタイプに分類されます。
末端黒子型メラノーマ
足の裏、手のひら、手足の爪下などに発生するタイプで、日本人のメラノーマ患者の約40~50%を占めます。初期は平らなシミのような色素斑として現れ、時間の経過とともに色素斑の一部が盛り上がってくることがあります。爪に発生した場合は、爪に黒褐色の縦線が現れることが特徴です。
表在拡大型メラノーマ
胸、腹、背中、脚など体幹部に発生することが多いタイプで、白人に最も多くみられます。日本人でも肌の色が白い方に発生しやすい傾向があります。黒いボタンを置いたような見た目で、徐々に境界が不明瞭になり、色にムラが出てきます。
結節型メラノーマ
全身のどこにでも発生する可能性があり、結節状のがん細胞の塊が短期間で大きくなるタイプです。他のタイプより悪性度が高く、予後が不良なケースが多いとされています。40~50代に多く発症し、急速に隆起するのが特徴です。
悪性黒子型メラノーマ
高齢者の顔面など、日光に長期間さらされる部位に発生することが多いタイプです。不規則な形の褐色~黒色の色素斑として始まり、ゆっくりと拡大していきます。進行すると色素斑内に結節が生じてきます。
日本人においては、末端黒子型メラノーマが最も多いため、足の裏や手のひら、爪周囲のほくろには特に注意を払う必要があります。ただし、これらの部位にほくろがあるからといって、すべてがメラノーマというわけではありません。
危ないほくろの見分け方:ABCDEルール
良性のほくろと悪性黒色腫(メラノーマ)を見分けるための国際的な指標として「ABCDEルール」があります。これは5つのアルファベットで危険なほくろの特徴を表したもので、皮膚がんの早期発見に広く活用されています。
A(Asymmetry:非対称性)
良性のほくろは一般的に円形や楕円形で左右対称の形をしています。一方、メラノーマは左右非対称で、形がいびつになる傾向があります。ほくろを縦または横に二分したとき、両側が明らかに異なる形をしている場合は注意が必要です。
B(Border:境界)
良性のほくろは境界線がはっきりしており、周囲の皮膚との区別が明確です。メラノーマでは、境界がギザギザしていたり、にじんでいたり、不明瞭になったりすることがあります。墨汁を落としたようにほくろの輪郭がぼやけている場合は、悪性の可能性を疑う必要があります。
C(Color:色調)
良性のほくろは通常、色が均一です。メラノーマでは、一つのほくろの中に黒、茶色、灰色、赤、白など複数の色が混在していることがあります。色にムラがあったり、濃淡の差が激しかったりする場合は要注意です。
D(Diameter:直径)
一般的に、良性のほくろは直径6mm以下であることが多いです。メラノーマでは6mm以上に大きくなることがありますが、初期段階では6mm未満の場合もあるため、大きさだけで判断することは避けてください。以前は小さかったほくろが急に大きくなってきた場合には、特に注意が必要です。
E(Evolution/Evolving:変化)
最も重要な指標の一つです。良性のほくろは通常、長期間にわたって形や色、大きさに変化がありません。しかしメラノーマでは、数週間から数か月の間に大きさ、形、色、高さなどが変化していきます。出血やかゆみ、痛みなどの症状が現れることもあります。
これら5つのポイントのうち、4つ以上が当てはまる場合は悪性を疑う必要があり、2つ以下であれば良性のほくろである可能性が高いとされています。ただし、この基準はあくまでも目安であり、自己判断は禁物です。少しでも気になる変化があれば、皮膚科専門医の診察を受けることをお勧めします。
足の裏・足指・爪にできるほくろの特徴
足にできるほくろの中でも、特に注意が必要な部位と、その特徴について詳しく解説します。
足の裏のほくろ
足の裏は日本人のメラノーマが最も多く発生する部位です。歩行による慢性的な刺激を受ける場所であり、また自分で観察しにくいため発見が遅れやすい傾向があります。足の裏のほくろすべてが危険というわけではありませんが、以下のような特徴がある場合は注意が必要です。
良性のほくろの場合、ダーモスコピー検査(後述)で観察すると、皮膚の溝(皮溝)に沿って色素が並ぶ「並行皮溝パターン」が見られます。一方、メラノーマでは皮膚の盛り上がった部分(皮丘)に色素が集中する「並行皮丘パターン」が見られることがあり、この違いが診断の重要な手がかりとなります。
足指のほくろ
足の指、特に親指(母趾)は靴と接触する機会が多く、機械的な刺激を受けやすい部位です。足の指にできたほくろで、色や形に変化が見られる場合は、早めに皮膚科を受診しましょう。
足の爪のほくろ(爪下メラノーマ)
爪の下にあるメラノサイトから発生するメラノーマを「爪下メラノーマ」と呼びます。日本人のメラノーマの中では比較的多く見られるタイプで、主に手足の親指に発生しやすいとされています。
爪下メラノーマの初期症状として最も特徴的なのは、爪に現れる黒褐色の縦線です。これは爪甲色素線条と呼ばれ、爪の根元から先端に向かって縦方向に走る線として観察されます。良性のほくろでも同様の縦線が現れることがありますが、以下の特徴がある場合はメラノーマの可能性が高まります。
まず、線の幅が3mm以上で、時間とともに幅が広がっている場合は注意が必要です。次に、線の色にムラがあったり、線の境界が不明瞭だったりする場合も同様です。さらに、爪の周囲の皮膚にまで色素が広がっている場合(ハッチンソン徴候)は、メラノーマを強く疑う所見とされています。爪の変形や爪が割れやすくなるなどの症状も見逃せません。
爪下メラノーマは初期段階では内出血や単なる色素沈着と間違えられることが多く、発見が遅れやすい特徴があります。爪に黒い線が現れた場合は、経過を観察し、変化があれば速やかに専門医を受診することが重要です。
良性のほくろとメラノーマの写真で見る違い
良性のほくろとメラノーマでは、見た目にいくつかの違いがあります。実際の写真を見ながら比較することで、危険なほくろの特徴をより理解しやすくなります。
良性のほくろの特徴
良性のほくろ(色素性母斑)は、円形または楕円形で左右対称の形をしています。境界がはっきりしており、周囲の皮膚との区別が明確です。色は均一な茶色や黒色で、ムラがありません。大きさは通常6mm以下で、長期間にわたって変化がほとんど見られません。表面は滑らかで、出血や潰瘍などはありません。
メラノーマの特徴
メラノーマは形が左右非対称で、いびつな形をしていることが多いです。境界はギザギザしていたり、にじんでいたり、不明瞭だったりします。色は黒、茶色、灰色、赤、白など複数の色が混在し、まだらに見えます。大きさは6mm以上になることが多く、急速に拡大することがあります。表面が隆起してきたり、出血や潰瘍が生じたりすることもあります。
足の裏での違い
足の裏にできた良性のほくろは、皮膚の溝に沿って色素が並び、色は均一で境界もはっきりしています。一方、足の裏のメラノーマでは、皮膚の盛り上がった部分に色素が集中し、色にムラがあり、境界が不明瞭になることがあります。
ただし、見た目だけでメラノーマかどうかを正確に判断することは専門家でも難しい場合があります。写真での比較はあくまで参考程度にとどめ、気になるほくろがある場合は必ず皮膚科専門医の診察を受けてください。
ダーモスコピー検査とは
ダーモスコピー検査は、皮膚の色素病変を詳細に観察するための非侵襲的な検査方法です。皮膚科医にとって聴診器のような必須の診察器具とも言われ、ほくろやシミが良性か悪性かを判断するうえで非常に重要な役割を果たしています。
ダーモスコピーの仕組み
ダーモスコープという専用の拡大鏡を使用し、皮膚病変を10~20倍程度に拡大して観察します。通常、皮膚の表面には光の乱反射が起こり、肉眼では詳細な観察が困難です。ダーモスコピー検査では、偏光レンズやエコーゼリー、オイルなどを用いて皮膚表面の乱反射を取り除き、表皮から真皮浅層までの構造を観察することができます。
検査でわかること
ダーモスコピー検査では、肉眼では見えない色素の分布パターンや血管の構造など、様々な情報を得ることができます。特に足の裏のほくろでは、色素が皮膚の溝に沿って並んでいるか(良性の特徴)、盛り上がった部分に集中しているか(悪性の疑い)を確認することが診断の重要なポイントとなります。
また、爪の色素病変では、爪母(爪を作る部分)から発生した色素線条のパターンを観察することで、良性か悪性かの判断に役立てることができます。
検査の流れと費用
ダーモスコピー検査は痛みを伴わない簡単な検査で、数分程度で終了します。特別な準備は必要なく、検査結果はその場で説明を受けることができます。健康保険が適用され、3割負担の場合は診察料を含めて1,000円程度の負担となります。
ただし、ダーモスコピー検査はあくまでも臨床診断であり、すべての腫瘍で確定診断がつくわけではありません。悪性が疑われる場合や診断が難しい場合には、皮膚生検(組織を一部採取して顕微鏡で調べる検査)が必要になることがあります。
皮膚科を受診すべきタイミング
以下のような症状や変化がある場合は、できるだけ早く皮膚科専門医を受診することをお勧めします。
まず、ほくろの大きさが急に大きくなった場合は注意が必要です。特に、数週間から数か月の間に明らかな変化が見られる場合は要注意です。次に、ほくろの色が変化した場合、例えば色が濃くなった、色にムラが出てきた、異なる色が混在するようになった場合も受診をお勧めします。
ほくろの形が変化した場合も同様です。形がいびつになった、境界がぼやけてきた、左右非対称になった場合などは専門医に相談しましょう。また、ほくろが盛り上がってきた場合、以前は平らだったほくろが隆起してきた場合も受診のサインです。
ほくろから出血したり、かさぶたができたりする場合、かゆみや痛みがある場合も皮膚科を受診すべきです。さらに、30代以降に新しいほくろができた場合や、足の裏や爪に新たな色素斑が現れた場合も、念のため専門医の診察を受けることをお勧めします。
メラノーマは進行が非常に早く、1~2か月で転移を起こすこともあります。「様子を見よう」と放置している間に病状が進行してしまうケースも少なくありません。少しでも不安を感じたら、自己判断せずに皮膚科専門医を受診してください。
メラノーマの検査と診断の流れ
メラノーマが疑われる場合、いくつかの検査を経て診断が確定されます。
視診とダーモスコピー検査
まず、医師による視診が行われます。ほくろの見た目、大きさ、形、色などを観察し、ABCDEルールに照らし合わせて評価します。続いてダーモスコピー検査を行い、色素の分布パターンや血管の構造などを詳細に観察します。
皮膚生検(全切生検)
ダーモスコピー検査でメラノーマが疑われる場合、確定診断のために皮膚生検が行われます。メラノーマが疑われる色素病変では、病変全体を数mm離して切除する「全切生検」が推奨されます。これは、病理学的な診断だけでなく、メラノーマであった場合に腫瘍の厚さを正確に測定するために重要な検査です。
画像検査
メラノーマと診断された場合、転移の有無を確認するためにCTやPETなどの画像検査が行われます。メラノーマは1mm以上の厚さになると転移の可能性があるため、画像検査による全身の評価が重要です。
センチネルリンパ節生検
画像検査で明らかな転移が見つからなかった場合でも、顕微鏡的なリンパ節転移を検出するためにセンチネルリンパ節生検が行われることがあります。センチネルリンパ節とは、がん細胞が最初に転移するリンパ節のことで、この検査によって微小な転移の有無を調べることができます。
遺伝子検査
術後補助療法や進行期の薬物治療のために、手術検体を用いたBRAF遺伝子検査やPD-L1分子の検査が行われることがあります。これらの検査結果は、治療法の選択に重要な情報を提供します。
メラノーマの治療法と最新の動向
メラノーマの治療は、病期(ステージ)によって異なります。早期発見であれば、手術のみで高い治癒率が期待できます。
手術療法
メラノーマ治療の基本は、手術による切除です。がん細胞が表皮内にとどまっている場合(表皮内メラノーマ)は、十分な範囲で切除することでほぼ100%の治癒が期待できます。切除範囲は腫瘍の境界から5mm~2cm程度離して設定され、腫瘍の厚さによって決定されます。2024年末に公表された最新のガイドラインでは、切除範囲が従来より縮小され、より低侵襲な手術が可能になっています。
リンパ節郭清術
センチネルリンパ節生検で転移が見つかった場合や、画像検査でリンパ節転移が明らかな場合は、リンパ節郭清術(リンパ節を含む領域の切除)が行われることがあります。
免疫チェックポイント阻害薬
メラノーマの薬物療法は近年大きく進歩しています。2014年に日本で世界に先駆けて承認された抗PD-1抗体薬「ニボルマブ」をはじめ、「ペムブロリズマブ」「イピリムマブ」などの免疫チェックポイント阻害薬が使用されるようになりました。これらの薬は免疫細胞ががん細胞を攻撃する力を高める効果があり、進行したメラノーマでもがんの進行を抑えたり、治癒を目指したりできるようになっています。
免疫チェックポイント阻害薬の特徴として、効き目が出るのはゆっくりですが、2年間効いている方はその後も効果が持続する傾向があります。
分子標的薬
BRAF遺伝子に変異がある患者さん(日本人患者の約25%)には、BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用療法が選択肢となります。「ダブラフェニブ+トラメチニブ」や「エンコラフェニブ+ビニメチニブ」などの組み合わせが使用されています。
術後補助療法
手術後に再発や転移のリスクが高いと考えられる場合は、術後補助療法として免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬を1年間使用することがあります。最近では、リンパ節転移のない早期のステージでも術後補助療法が行われるようになっています。
放射線治療
メラノーマは一般的に放射線療法に対する感受性が低いとされていますが、脳転移に対しては定位放射線治療(ガンマナイフやサイバーナイフなど)が有効なことがあります。骨転移に対する症状緩和目的でも放射線治療が行われます。
日常でできるセルフチェックと予防法
メラノーマを早期に発見するためには、日常的なセルフチェックが重要です。
セルフチェックの方法
月に1回程度、全身の皮膚をくまなくチェックする習慣をつけましょう。特に足の裏、手のひら、爪、背中など自分では見えにくい部位は、鏡を使ったり、家族やパートナーに見てもらったりすることをお勧めします。
チェックの際は、ABCDEルールを参考に、ほくろの形、境界、色、大きさ、変化に注目してください。スマートフォンで写真を撮って記録しておくと、経時的な変化を把握しやすくなります。
入浴時は足の裏を観察する良い機会です。足の裏に新しいほくろや色素斑ができていないか、既存のほくろに変化がないかを確認しましょう。
紫外線対策
日本人に多い末端黒子型メラノーマは、紫外線の影響を受けにくい部位に発生するため、紫外線対策による予防効果については明確なエビデンスがありません。しかし、顔面や体幹部に発生するタイプのメラノーマは紫外線との関連が示唆されているため、日焼け止めクリームの使用や帽子、長袖の着用などの紫外線対策は一定の予防効果が期待できます。
ほくろへの過度な刺激を避ける
ほくろを頻繁にいじったり、自分でむしって取ろうとしたりすることは避けましょう。過度な外的刺激がメラノーマの発生に関係する可能性が指摘されています。
定期的な皮膚科受診
特に気になるほくろがある方や、皮膚がんのリスク因子(家族歴、多数のほくろ、過去の重度の日焼けなど)がある方は、年に1回程度、皮膚科で全身のほくろをチェックしてもらうことをお勧めします。

よくある質問
足の裏にほくろがあるからといって、すべてが危険というわけではありません。足の裏のほくろの多くは良性の色素性母斑であり、歩行による慢性的な刺激でできたものがほとんどです。重要なのは、ABCDEルールに当てはまるような特徴があるかどうか、経時的な変化があるかどうかです。不安がある場合は皮膚科専門医に相談し、ダーモスコピー検査を受けることをお勧めします。
長年存在しているほくろが問題となることはほとんどありません。一般的に、ほくろは20代頃までは年齢とともに増える傾向があり、長期間変化のないほくろは良性である可能性が高いです。ただし、生まれつき存在する母斑(先天性色素性母斑)は、非常にまれですが悪性化する可能性があるため、足の裏などメラノーマが発生しやすい部位にある場合は、予防的な切除が検討されることもあります。
ダーモスコピー検査は非常に有用な診断ツールですが、あくまでも臨床診断であり、確定診断ではありません。ダーモスコピー検査で良性と悪性を高い精度で判別することは可能ですが、確実に良性または悪性と断言するためには、皮膚生検(組織を採取して顕微鏡で調べる検査)が必要になる場合があります。医師がダーモスコピー検査の結果に基づいて、経過観察が適切か、生検が必要かを判断します。
メラノーマは早期発見・早期治療により、90%以上の高い治癒率が期待できます。特に、がん細胞が表皮内にとどまっている段階(表皮内メラノーマ、ステージ0)であれば、切除のみでほぼ100%の治癒が可能です。ステージ1の早期メラノーマでも95%以上の治癒率が報告されています。しかし、進行して転移を起こした場合は治療が難しくなるため、早期発見のための定期的なセルフチェックと、気になる変化があった際の速やかな受診が重要です。
ほくろを自分で取ることは絶対に避けてください。市販のほくろ除去クリームや民間療法は効果が不明確であるだけでなく、万が一悪性のほくろだった場合に適切な診断と治療の機会を逃してしまう危険性があります。また、不適切な処置は感染症や傷跡が残る原因にもなります。ほくろの除去は、皮膚科専門医による正確な診断を受けた上で、医療機関で適切な方法で行うことが大切です。
皮膚がんの多くは遺伝的要因よりも環境要因(紫外線曝露など)が主な原因です。ただし、家族性のメラノーマ症候群など、遺伝的要因が関与する場合もあります。家族にメラノーマの患者さんがいる場合は、ご自身もメラノーマのリスクがやや高まる可能性があるため、より注意深い皮膚の観察と定期的な皮膚科受診をお勧めします。
まとめ
足の裏や爪など、日本人に多い末端部のメラノーマについて解説しました。足にできるほくろのすべてが危険というわけではありませんが、ABCDEルールに当てはまる特徴がある場合や、経時的な変化が見られる場合は、速やかに皮膚科専門医を受診することが大切です。
メラノーマは悪性度の高い皮膚がんですが、早期に発見し適切な治療を行えば、高い治癒率が期待できます。月に1回程度の全身の皮膚チェックを習慣づけ、少しでも気になる変化があれば自己判断せずに医療機関を受診してください。
近年は免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬など、新しい治療法の登場により、進行したメラノーマでも治療成績が向上しています。しかし、何より重要なのは早期発見です。ご自身の皮膚の健康に関心を持ち、定期的なセルフチェックと専門医による診察を通じて、皮膚がんから身を守りましょう。
アイシークリニック上野院では、専門医による丁寧な診察と、精密な診断を行っております。足の裏のほくろや爪の色素線条など、気になる症状がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス「メラノーマ(悪性黒色腫)」
- 国立がん研究センター 希少がんセンター「悪性黒色腫(メラノーマ)」
- 公益社団法人日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「メラノーマ(ほくろのがん)」
- 東邦大学プレスリリース「皮膚がんの早期発見で覚えておきたいこと~ ほくろと悪性黒色腫(メラノーマ)の5つの見分け方 ~」
- がん研有明病院 皮膚腫瘍科「悪性黒色腫(メラノーマ)」
- 社会福祉法人恩賜財団済生会「メラノーマ(悪性黒色腫)」
- 慶應義塾大学病院 KOMPAS「ダーモスコピー検査」
- 兵庫県立尼崎総合医療センター 皮膚科「ダーモスコピー検査と皮膚生検」
- 独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター「悪性黒色腫(メラノーマ)」
- 徳洲会グループ「病気のはなし149 鑑別のABCDEルール ほくろと皮膚がん」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務