はじめに
皮膚にできる「できもの」は、誰もが一度は経験する身近な症状です。小さなイボやほくろ、ニキビから、少し大きめのしこりまで、その種類はさまざまです。多くの場合は良性で心配のないものですが、中には適切な治療が必要なケースもあります。
「このできものは何だろう?」「皮膚科で取ってもらえるのかな?」「保険は使えるの?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。本記事では、皮膚科で対応できるできものの種類から、除去方法、治療の流れまで、わかりやすく解説していきます。
できものが気になっている方、皮膚科での治療を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

できものとは?皮膚にできる腫瘍の基礎知識
皮膚にできる「できもの」は、医学的には「皮膚腫瘍」や「皮膚病変」と呼ばれます。皮膚の表面や内部に生じる異常な組織の塊で、良性のものと悪性のものに大きく分類されます。
良性腫瘍と悪性腫瘍の違い
良性腫瘍は、増殖スピードが遅く、周囲の組織に浸潤したり転移したりすることがありません。見た目や触った感じが気になる、または痛みやかゆみを伴う場合に治療の対象となります。一方、悪性腫瘍は皮膚がんのことを指し、早期の発見と治療が重要です。
できものができやすい部位
できものは体のどこにでもできる可能性がありますが、特に以下の部位にできやすい傾向があります。
- 顔(額、頬、鼻、まぶた周辺)
- 首
- 背中
- 胸
- わきの下
- 手足
これらの部位は、紫外線を浴びやすい、摩擦が多い、皮脂分泌が活発といった特徴があります。
皮膚科で除去できるできものの種類
皮膚科で治療可能なできものには、さまざまな種類があります。ここでは、代表的なものをご紹介します。
粉瘤(アテローム)
粉瘤は、皮膚の下に袋状の構造物ができ、その中に角質や皮脂などの老廃物が溜まってできる良性腫瘍です。触ると柔らかく、真ん中に黒い点(開口部)が見えることが特徴です。
粉瘤は自然に消えることはなく、放置すると徐々に大きくなったり、細菌感染を起こして赤く腫れ上がったりすることがあります。感染を起こした粉瘤は「炎症性粉瘤」と呼ばれ、痛みを伴います。
治療は、袋ごと完全に摘出する手術が基本です。内容物だけを取り出しても、袋が残っていると再発してしまいます。
脂肪腫
脂肪腫は、皮下脂肪組織が増殖してできる良性腫瘍です。柔らかく、触ると動くような感触があります。痛みはほとんどありませんが、大きくなると見た目が気になったり、神経を圧迫して痛みを感じたりすることがあります。
背中、肩、首、腕などにできやすく、ゆっくりと成長します。基本的には経過観察で問題ありませんが、大きくなって日常生活に支障をきたす場合や、悪性の可能性を否定できない場合は摘出手術を行います。
イボ(尋常性疣贅)
イボは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によってできる皮膚病変です。手足の指、膝、肘などにできやすく、表面がざらざらしているのが特徴です。
イボは他の部位や他人に感染する可能性があるため、早めの治療が推奨されます。治療方法には、液体窒素による凍結療法、レーザー治療、外科的切除などがあります。
ほくろ(色素性母斑)
ほくろは、メラニン色素を作る細胞(メラノサイト)が増殖してできる良性腫瘍です。生まれつきあるものもあれば、成長過程や紫外線の影響で新たにできるものもあります。
ほとんどのほくろは良性で治療の必要はありませんが、以下のような場合は皮膚科での診察をおすすめします。
- 短期間で大きくなった
- 形が左右非対称
- 色が均一でない
- 境界がぼやけている
- 直径が6mm以上ある
- 出血やただれがある
これらは悪性黒色腫(メラノーマ)の可能性を示唆する所見です。気になるほくろは、早めに皮膚科で診てもらいましょう。
老人性イボ(脂漏性角化症)
老人性イボは、加齢とともに増える良性の皮膚腫瘍です。茶色や黒っぽい色をしており、わずかに盛り上がっています。顔、頭、首、体幹などにできやすく、紫外線の影響が関係していると考えられています。
医学的には治療の必要はありませんが、見た目が気になる場合は液体窒素療法やレーザー治療、切除術などで除去することができます。
稗粒腫(はいりゅうしゅ)
稗粒腫は、目の周りなどにできる白くて小さな粒状のできものです。皮膚の浅いところに角質が溜まってできます。1〜2mm程度の小さなものが多く、自覚症状はほとんどありません。
治療は、針や専用の器具で内容物を取り出す処置が一般的です。レーザー治療が行われることもあります。
汗管腫
汗管腫は、汗を作る汗腺の一部が増殖してできる良性腫瘍です。まぶたの周りに複数個できることが多く、肌色から少し黄色みを帯びた小さな盛り上がりとして見られます。
若い女性に多く、遺伝的な要因も関係していると考えられています。治療は、レーザー治療や電気焼灼術などが選択されます。
血管腫
血管腫は、血管が異常に増殖してできる腫瘍です。生まれつきあるもの(いわゆる「あざ」)と、成人してからできるものがあります。
赤や紫色をしており、サイズはさまざまです。治療方法は、レーザー治療が第一選択となることが多いですが、大きさや深さによって切除術が必要な場合もあります。
軟性線維腫(アクロコルドン)
軟性線維腫は、首やわきの下、鼠径部などの皮膚が擦れやすい部位にできる小さな皮膚の突起です。肌色から茶色で、柔らかく、数mm程度のサイズが多いです。
中年以降の女性に多く見られ、加齢や摩擦、肥満などが関係していると考えられています。治療は、はさみでの切除や液体窒素療法、レーザー治療などが行われます。
石灰化上皮腫
石灰化上皮腫は、皮膚の深いところにできる硬いしこりです。顔や腕、首などにでき、触ると石のように硬いのが特徴です。
子供や若年者に多く見られます。自然に消えることもありますが、大きくなる場合や見た目が気になる場合は外科的に摘出します。
皮膚科でのできもの除去方法
皮膚科では、できものの種類、大きさ、場所などに応じて、最適な除去方法を選択します。ここでは、主な治療方法について解説します。
外科的切除術
外科的切除術は、メスを使ってできものを切り取る方法です。粉瘤や脂肪腫など、皮膚の深い部分にできたものや、大きめのできものに適用されます。
局所麻酔を行ってから切除するため、痛みはほとんどありません。切除後は縫合が必要で、後日抜糸を行います。病理検査に出して、良性か悪性かを確認することができるのが大きなメリットです。
くり抜き法(パンチバイオプシー)
くり抜き法は、円筒状の専用器具(パンチ)を使って、できものを円形にくり抜く方法です。粉瘤の小さなものによく用いられます。
一般的な切除術より傷跡が小さく、縫合が不要または最小限で済むことが多いです。ただし、大きめのできものには適していません。
レーザー治療
レーザー治療は、レーザーの熱エネルギーを利用してできものを除去する方法です。炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)やエルビウムヤグレーザーなどが使用されます。
ほくろ、老人性イボ、稗粒腫、汗管腫など、比較的浅いところにあるできものに適しています。出血が少なく、治療時間が短いのがメリットです。小さいできものであれば、数分で治療が完了します。
ただし、深い部分にあるできものには向いていません。また、病理検査ができないため、悪性が疑われる場合は外科的切除が選択されます。
液体窒素療法(凍結療法)
液体窒素療法は、マイナス196度の液体窒素をできものに当てて凍結させ、組織を壊死させる方法です。イボや老人性イボの治療によく用いられます。
治療後、できものは黒くなって自然に剥がれ落ちます。1回の治療で取れない場合は、1〜2週間おきに複数回の治療を繰り返します。
傷跡が残りにくく、比較的簡便な治療ですが、治療時に軽い痛みを伴うことがあります。また、治療後に色素沈着や色素脱失が起こることもあります。
電気焼灼術(電気凝固法)
電気焼灼術は、高周波電流を使ってできものを焼き切る方法です。小さなほくろや軟性線維腫、汗管腫などに用いられます。
出血が少なく、局所麻酔下で短時間で処置できるのが特徴です。ただし、レーザー治療と同様に病理検査ができないため、良性が明らかなできものに限って適用されます。
薬物療法
できものの種類によっては、薬物療法が選択されることもあります。
イボの治療では、サリチル酸やヨクイニン(漢方薬)が使用されることがあります。また、尖圭コンジローマというイボには、イミキモドという塗り薬が使われます。
ただし、薬物療法は効果が出るまでに時間がかかることが多く、他の治療法と組み合わせて行われることが一般的です。
皮膚科での治療の流れ
皮膚科でできものを除去する際の、一般的な治療の流れをご説明します。
1. 診察・診断
まず、医師ができものを視診・触診します。必要に応じて、ダーモスコピー(拡大鏡)を使って詳しく観察します。
できものの種類、大きさ、部位、患者さんの希望などを総合的に判断して、最適な治療方法を提案します。悪性が疑われる場合は、先に組織検査(生検)を行うこともあります。
2. 治療方針の決定
医師から治療方法の説明を受け、メリット・デメリット、費用、治療後の経過などについて理解した上で、治療を受けるかどうかを決定します。
保険診療か自費診療かも、この時点で確認します。医学的に必要な治療は保険適用となりますが、美容目的の場合は自費診療となります。
3. 治療当日の準備
治療当日は、治療部位のメイクを落とします(顔の場合)。治療時間は、できものの大きさや数によりますが、小さなものであれば数分から数十分程度です。
局所麻酔が必要な場合は、麻酔の注射を行います。注射時にチクッとした痛みがありますが、その後は痛みを感じることはほとんどありません。
4. 治療の実施
選択された方法で、できものを除去します。外科的切除の場合は、切除後に縫合を行います。レーザー治療や液体窒素療法の場合は、縫合は不要です。
治療後、傷口の処置を行い、必要に応じてガーゼや絆創膏で保護します。
5. アフターケア
治療後の注意事項やケア方法について説明を受けます。外科的切除を行った場合は、抜糸のために再度来院する必要があります(通常1〜2週間後)。
処方された薬がある場合は、指示通りに使用します。傷口は清潔に保ち、医師の指示に従ってケアを続けます。
6. 経過観察
治療後、傷の治り具合を確認するために、経過観察の診察を受けることがあります。また、病理検査を行った場合は、その結果を聞くための来院が必要です。
傷跡が気になる場合は、傷跡治療の相談も可能です。
保険適用と費用について
できものの除去が保険適用となるかどうかは、治療の目的によって異なります。
保険適用となるケース
以下のような医学的な理由がある場合は、保険診療の対象となります。
- 痛みやかゆみなどの症状がある
- 日常生活に支障をきたす大きさや位置にある
- 感染のリスクがある
- 悪性の可能性を否定できない
- 急速に大きくなっている
保険適用の場合、3割負担の方であれば、小さなできもの1個の除去で数千円程度が目安です。ただし、できものの大きさや数、治療方法によって費用は変動します。
自費診療となるケース
美容目的での除去は、自費診療となります。
- 見た目をきれいにしたい
- 特に症状はないが取りたい
- より傷跡が目立たない方法を希望する
自費診療の場合、費用はクリニックによって異なりますが、小さなできもの1個あたり数千円から数万円程度が相場です。
診察時に、保険適用か自費診療かを確認し、費用の見積もりを出してもらうと安心です。
できものを放置するとどうなる?
できものの多くは良性で、すぐに健康に影響を及ぼすものではありません。しかし、放置することで以下のようなリスクがあります。
大きくなる
粉瘤や脂肪腫など、一部のできものは時間とともに徐々に大きくなることがあります。大きくなると、除去する際の傷も大きくなり、治療が複雑になります。早めに対処した方が、治療も簡単で傷跡も小さく済む場合が多いです。
感染を起こす
粉瘤は、細菌感染を起こして炎症性粉瘤になることがあります。赤く腫れ上がり、強い痛みを伴います。膿が溜まると、切開して膿を出す処置が必要になります。
感染を繰り返すと、周囲の組織にダメージを与え、治療後の傷跡が目立ちやすくなります。
他の部位や他人に感染する
イボ(ウイルス性疣贅)は、ヒトパピローマウイルスの感染が原因です。放置すると、自分の他の部位に広がったり、家族など他人に感染させたりする可能性があります。
特に、免疫力が低下している人や子供は感染しやすいため、早めの治療が大切です。
悪性化の可能性
非常にまれですが、一部の良性腫瘍が悪性化することがあります。また、最初から悪性腫瘍であっても、初期段階では良性のできものと見分けがつかないことがあります。
以下のような変化があった場合は、すぐに皮膚科を受診しましょう。
- 急速に大きくなる
- 色が変わる
- 形が変わる
- 出血する
- ただれる
- 痛みを感じる
早期発見・早期治療が、良好な予後につながります。

よくある質問
いいえ、自分でできものを取ることはおすすめしません。不完全な除去は再発の原因となりますし、感染や傷跡が残るリスクが高まります。また、できものの種類を自己判断すると、悪性のものを見逃す危険性もあります。必ず皮膚科で診てもらいましょう。
ほとんどの治療は局所麻酔を使用するため、治療中の痛みはほとんどありません。麻酔の注射時にチクッとした痛みがある程度です。液体窒素療法は麻酔なしで行われることが多く、治療時に軽い痛みを伴うことがあります。
Q3. 傷跡は残りますか?
傷跡の残り方は、できものの大きさ、部位、除去方法、個人の体質などによって異なります。できものが小さいうちに治療すれば、傷跡も小さく済みます。適切なアフターケアを行うことで、傷跡を目立たなくすることができます。気になる場合は、医師に相談しましょう。
Q4. 治療後、いつから普通の生活ができますか?
治療方法にもよりますが、多くの場合、当日から日常生活に戻れます。ただし、治療部位を清潔に保つ、激しい運動は控える、直射日光を避けるなどの注意が必要です。入浴や洗顔も、医師の指示に従って行います。
Q5. 再発することはありますか?
外科的に完全に除去した場合、再発はほとんどありません。ただし、粉瘤の場合、袋を完全に取り切れていないと再発することがあります。また、体質によって新しいできものができることはあります。イボは、ウイルスが残っていると再発する可能性があります。
Q6. 子供でも治療は受けられますか?
はい、子供でも治療を受けることができます。ただし、小さな子供の場合、じっとしていられないことがあるため、治療が難しいケースもあります。治療の必要性や方法については、医師とよく相談しましょう。
Q7. できものが悪性かどうか、どうやって判断しますか?
最終的な判断は、病理検査によって行われます。視診やダーモスコピーである程度の予測はできますが、確定診断には組織を採取して顕微鏡で観察する必要があります。悪性が疑われる場合は、必ず病理検査を行います。
Q8. 複数のできものを一度に取ることはできますか?
はい、可能です。ただし、治療部位が多いと負担が大きくなるため、数や部位によっては複数回に分けて治療することもあります。医師と相談して、治療計画を立てましょう。
皮膚科を受診するタイミング
以下のような場合は、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。
すぐに受診すべきケース
- できものが急速に大きくなっている
- 色が変わった、出血した、ただれた
- 強い痛みがある
- 発熱を伴う
- 悪性腫瘍の可能性が気になる
これらは、緊急性の高い状態や悪性の可能性を示唆する症状です。できるだけ早く皮膚科を受診しましょう。
早めの受診が望ましいケース
- できものが徐々に大きくなっている
- 数が増えてきた
- 気になって触ってしまう
- 見た目が気になる
- イボができた
これらの場合も、放置せず早めに皮膚科を受診することで、治療の選択肢が広がり、より良い結果が得られます。
アイシークリニック上野院での治療
アイシークリニック上野院では、粉瘤をはじめとする皮膚のできものの診断・治療を行っています。
当院では、患者様一人ひとりの状態に合わせた最適な治療方法をご提案しています。できものが気になる方、治療について詳しく知りたい方は、お気軽にご相談ください。
経験豊富な医師が、丁寧な診察と説明を心がけています。不安なことや疑問点があれば、遠慮なくお尋ねください。
診療時間やご予約については、クリニックのホームページをご確認いただくか、お電話にてお問い合わせください。
まとめ
皮膚にできる「できもの」は、種類も原因もさまざまです。多くは良性で心配のないものですが、中には適切な治療が必要なケースもあります。
できものが気になったら、自己判断せず、まずは皮膚科で診てもらうことが大切です。早期に適切な治療を受けることで、より良い結果が期待できます。
本記事が、皮膚科でのできもの除去について理解を深める一助となれば幸いです。できものでお悩みの方は、ぜひ皮膚科にご相談ください。
参考文献
- 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A」https://www.dermatol.or.jp/qa/
- 日本形成外科学会「一般の皆様へ」https://www.jsprs.or.jp/general/
- 厚生労働省「皮膚の病気」https://www.mhlw.go.jp/
- 国立がん研究センター「皮膚がんの基礎知識」https://ganjoho.jp/
- 日本臨床皮膚科医会「ひふの病気」https://jocd.org/
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務