皮膚の下にしこりやふくらみを見つけたとき、「これはニキビなのか、それとも別の病気なのか」と不安になった経験はありませんか。粉瘤、ニキビ、脂肪腫はいずれも皮膚に生じるできものですが、それぞれ原因や性質が異なり、適切な対処法も違います。特に粉瘤と脂肪腫は見た目が似ているため混同されやすく、ニキビと粉瘤も初期段階では区別が難しいことがあります。本記事では、これら3つの皮膚疾患の特徴や見分け方、それぞれの治療法について詳しく解説します。自己判断で誤った対処をすると症状が悪化する可能性もありますので、正しい知識を身につけて早期に適切な治療を受けることが大切です。

目次
- 粉瘤とは何か
- ニキビとは何か
- 脂肪腫とは何か
- 粉瘤・ニキビ・脂肪腫の見分け方
- それぞれの治療法
- 放置するとどうなるか
- 受診の目安と診療科
- よくある質問
- まとめ
粉瘤とは何か
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粉瘤の基本的な特徴
粉瘤は、医学的には「表皮嚢腫」や「アテローム」とも呼ばれる良性の皮下腫瘍です。皮膚の下に袋状の構造物ができ、その中に本来であれば皮膚から剥がれ落ちるはずの角質や皮脂などの老廃物が溜まってしまうことで発生します。この袋状の構造物を「嚢胞」といい、袋の中に溜まった内容物は外に排出されないため、時間の経過とともに少しずつ大きくなっていく特徴があります。
粉瘤は皮膚のどこにでも発生する可能性がありますが、特に顔、耳の後ろ、首、背中、お尻などにできやすい傾向があります。顔、首、背中で全体の約60%を占めるとされており、皮脂腺が多い部位や衣服などによる摩擦を受けやすい部位に発生しやすいといえます。大きさは数ミリメートルから、放置すると10センチメートル以上になることもあります。
粉瘤の原因
粉瘤ができる明確な原因は、現在のところ完全には解明されていません。しかし、いくつかの要因が関与していると考えられています。一般的には、何らかの理由で皮膚の表面を覆う角質を作る細胞が皮膚の奥深く(真皮層)に入り込んでしまい、そこで表皮細胞が増殖して袋状の構造を作り出すことが原因とされています。
具体的な要因としては、毛穴の詰まり、外傷(切り傷、打撲、虫刺され、ピアスの穴など)、ニキビ跡、ウイルス感染などが挙げられます。手のひらや足の裏にできる粉瘤については、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が関係していることがわかっています。また、毛穴のない皮膚に粉瘤ができる場合は、傷などから皮膚の一部が内部にめり込んでできたものと考えられています。
なお、粉瘤は垢や皮脂が溜まることでできるため「不潔にしている人がなる」と誤解されることがありますが、これは間違いです。粉瘤は体質的な要因も大きく、清潔にしていても発生する可能性があります。
粉瘤の種類
粉瘤にはいくつかの種類があります。最も一般的なのは「表皮嚢腫」で、皮膚の表面にある角質や毛髪などが毛穴に詰まることが原因で発生します。嚢腫の壁は皮膚の表面と同じ細胞でできており、内部には古い角質などが溜まっています。通常は単発で発生し、ゆっくりと大きくなっていきます。
「外毛根鞘性嚢腫」は、毛穴の外側の層である外毛根鞘から発生する粉瘤で、頭部にできやすい特徴があります。表皮嚢腫と比べて皮膚のより深いところにでき、炎症を起こしやすい傾向があります。また、表皮嚢腫よりもやや硬いという特徴もあります。
「多発性毛包嚢腫」は、たくさんの小さな粉瘤が集まってできるタイプで、脂腺嚢腫とも呼ばれます。首、腕、わきの下などに20〜30個ほど多発することもあります。また、中高年男性の陰嚢に小さな粉瘤が無数にできる「多発性陰嚢粉瘤症」というタイプも存在します。
粉瘤の症状
初期の粉瘤は、皮膚の下にコロコロとした小さなしこりとして触れる程度で、痛みやかゆみなどの自覚症状はほとんどありません。見た目にも大きな変化がないため、気づかないまま放置されることも多くあります。
粉瘤の特徴的な所見として、しこりの中央付近に「ヘソ」や「開口部」と呼ばれる黒い点が見えることがあります。この黒い点は皮膚の外と腫瘍内部がつながっている部分で、ここから内容物が漏れ出ることがあります。強く圧迫すると、この開口部から白〜黄色がかったペースト状の内容物が出てくることがあり、これは角質や皮脂などの老廃物であるため、独特の悪臭を放ちます。
粉瘤は自然に治癒することはなく、放置すると徐々に大きくなっていきます。また、袋の中で細菌が繁殖すると炎症を起こし、「炎症性粉瘤」や「感染性粉瘤」と呼ばれる状態になります。この状態になると、患部が赤く腫れて熱を持ち、痛みを伴うようになります。炎症がひどくなると膿が溜まり、袋が破裂して内容物が皮下組織に漏れ出すこともあります。
ニキビとは何か
ニキビの基本的な特徴
ニキビは、医学的には「尋常性ざ瘡」と呼ばれる皮膚疾患で、毛穴に皮脂が詰まり、アクネ菌が増殖することで炎症を起こしている状態です。日本では約90%以上の人が経験するとされる非常に一般的な皮膚疾患で、思春期から青年期にかけて発症しやすく、平均の発症年齢は13.3歳といわれています。かつては「青春のシンボル」として生理的現象とみなされていましたが、現在では早期治療が重要な皮膚疾患として認識されています。
ニキビは皮脂腺が発達している部位にできやすく、額や鼻などのTゾーン、顎や口周りのUゾーン、背中や胸などが好発部位です。ニキビの大きさは、炎症がひどくなっても通常は数ミリメートル程度にとどまります。これは、粉瘤が数センチメートル以上に大きくなることがあるのとは大きく異なる点です。
ニキビの原因
ニキビができる主な原因は、毛穴の詰まり、皮脂の過剰分泌、アクネ菌の増殖の3つです。健康な肌は「ターンオーバー」と呼ばれる一定のサイクルで古い細胞と新しい細胞が入れ替わっています。しかし、ターンオーバーが乱れると毛穴の角質が厚くなり、毛穴が塞がれて皮脂が詰まりやすくなります。
思春期には男性ホルモンの分泌が活性化し、皮脂腺からの皮脂分泌が増加します。これがニキビが思春期に悪化しやすい理由の一つです。また、女性では男性ホルモンと女性ホルモンのバランスの乱れがニキビの原因となることがあり、生理前にニキビが悪化しやすいのもこのためです。
そのほか、ストレス、睡眠不足、偏った食生活、間違ったスキンケア、紫外線、乾燥なども、ターンオーバーの乱れや皮脂分泌の増加を招き、ニキビの発生や悪化につながる要因となります。
ニキビの種類と進行
ニキビはその状態によっていくつかの種類に分類され、症状が進行するにつれて段階的に変化していきます。
最も初期の段階は「微小面皰」と呼ばれ、目には見えませんが毛穴の出口が狭くなり皮脂が詰まり始めている状態です。この段階から少し進行すると「白ニキビ」になります。白ニキビは、皮脂が毛穴に詰まって小さく白く盛り上がった状態で、毛穴表面はまだ閉じています。炎症はまだ起きていないため痛みはありませんが、見逃しやすい段階でもあります。
白ニキビがさらに進行すると「黒ニキビ」になります。これは、毛穴が開いて詰まった皮脂が空気に触れて酸化し、黒ずんで見える状態です。メラニン色素の影響も加わり、シミや小さなホクロのように見えることもあります。この段階でもまだ炎症は起きていないため、痛みはありません。
黒ニキビが悪化すると「赤ニキビ」になります。毛穴に詰まった皮脂を栄養にしてアクネ菌が増殖し、炎症を起こしている状態です。皮膚が赤く腫れ、痛みを感じることもあります。赤ニキビの段階になると、ニキビ跡が残るリスクが高まります。
赤ニキビがさらに悪化すると「黄ニキビ」になります。炎症が激しくなり、白血球と細菌が戦った結果として膿が溜まった状態で、ニキビの先端に黄色い膿が見えます。この段階では毛穴の壁(毛包壁)が破壊され、炎症を起こす物質が周囲に広がります。黄ニキビまで進行すると、治った後もニキビ跡として残ってしまう可能性が非常に高くなります。
ニキビ跡について
ニキビの炎症が重症化したり長引いたりすると、治った後もニキビ跡として残ることがあります。ニキビ跡には大きく分けて「赤み」「色素沈着」「凹凸」の3種類があります。
赤みは、ニキビの炎症が治まっても残る症状で、多くの場合は時間とともに消えていきますが、炎症が強かった場合は長く残ることがあります。色素沈着は、炎症が長引くことで肌を守ろうとしてメラニンが作られ、肌がくすんだり茶色いシミができたりする状態です。凹凸は、炎症が真皮層まで及んで組織が破壊され、肌の再生が不均一になった結果として生じます。陥凹性瘢痕(いわゆるクレーター)やケロイドなどがこれに該当し、元に戻りにくい状態といえます。
脂肪腫とは何か
脂肪腫の基本的な特徴
脂肪腫は、皮膚の下にできる脂肪細胞からなる良性腫瘍で、医学的には「リポーマ」とも呼ばれます。皮下に発生する軟部組織の腫瘍の中では最も多くみられるもので、1000人に1人以上が罹患すると考えられています。脂肪腫は成熟した脂肪細胞が徐々に増大していくことで形成され、触ると柔らかいふくらみとして感じられます。
脂肪腫は脂肪細胞のある部位であれば全身どこにでも発生する可能性がありますが、特に背中、肩、首(頸部)に多くみられます。次いで上腕、臀部、大腿などの体幹に近い四肢に多く発生します。顔面、頭皮、下腿、足などにできることは比較的まれです。大きさは数ミリメートルの小さなものから、直径10センチメートル以上に及ぶ大きなものまでさまざまです。
脂肪腫は発生時期としては幼少時にできると考えられていますが、非常にゆっくりと発育するため発見は遅く、20歳以下で発見されることはまれです。実際に気づかれて受診される方の多くは40〜50歳代です。男女比については報告によって異なりますが、一般的には女性や肥満者に多いとされています。
脂肪腫の原因
脂肪腫が発生する明確な原因は、現在のところ解明されていません。しかし、いくつかの要因が関与している可能性が指摘されています。脂肪腫を詳しく調べると約80%近くに染色体異常がみられることから、遺伝子が関与している可能性が考えられています。
また、外傷との関連性も推察されており、衣服や下着によるこすれ、圧迫など日常的な刺激が加わりやすい部位にできやすい傾向があることがわかっています。糖尿病、肥満、高脂血症(脂質異常症)などの持病がある方にも多いとされていますが、これらの疾患と脂肪腫発症の直接的な因果関係は明らかになっていません。なお、多発性の脂肪腫(家族性多発性脂肪腫症)の場合は、遺伝が原因といわれています。
脂肪腫の種類
脂肪腫は発生する深さによって大きく2種類に分けられます。皮膚のすぐ下の皮下脂肪組織に発生する「浅在性脂肪腫」と、筋膜の下や筋肉内・筋肉間に発生する「深在性脂肪腫」があります。浅在性脂肪腫は比較的切除が容易ですが、筋肉内脂肪腫は周囲の筋肉内に浸み込むように浸潤するため、再発のリスクがあり、摘出が難しくなることがあります。
そのほか、「血管脂肪腫」という血管成分を多く含むタイプがあり、最大径が1〜2センチメートルと小ぶりで、しばしば多発します。血管脂肪腫は通常の脂肪腫と異なり、自発痛や圧痛を感じることがあります。また、「脂肪腫性母斑」は真皮内の異所性脂肪組織の増殖からできた脂肪腫で、10歳以下のお子さんに多くみられます。
なお、脂肪腫と似た場所にできる悪性腫瘍として「脂肪肉腫」がありますが、これは脂肪腫とは全く異なる疾患です。特に急激に大きくなった場合、硬い場合、痛みを伴う場合、大腿にできた場合、10センチメートル以上の大きなものは、脂肪肉腫など悪性腫瘍の可能性も考慮して精密検査が必要となります。
脂肪腫の症状
脂肪腫は、皮膚がドーム状に盛り上がり、柔らかいしこりとして触れることができます。脂肪でできているため、粉瘤と比べて触ると明らかに柔らかく、ゴムのような弾力があります。また、脂肪腫は周囲の組織と被膜で分かれているため、指で押すと皮膚と関係なく腫瘍自体が動くのが特徴です。これは、皮膚と一緒に動く粉瘤とは異なる重要な見分けポイントです。
通常、脂肪腫には痛みやかゆみ、発赤などの症状はありません。そのため自覚症状がほとんどないまま長期間放置されることも多くあります。ただし、まれに腫瘍が神経を圧迫したり、血管成分を含む血管脂肪腫の場合は、しびれや痛みなどの症状がみられることがあります。
脂肪腫の表面の皮膚は正常な肌の色を保っており、粉瘤のような青黒い変色や開口部(黒い点)は見られません。また、脂肪腫は炎症を起こすことがほとんどないため、赤く腫れたり痛んだりすることは基本的にありません。これも、炎症を起こしやすい粉瘤との重要な違いです。
粉瘤・ニキビ・脂肪腫の見分け方
粉瘤とニキビの見分け方
粉瘤とニキビは、特に初期段階では見分けがつきにくいことがあります。炎症を起こして赤くなった粉瘤は、赤ニキビと外見が似ているため混同されやすいです。しかし、いくつかのポイントを確認することで区別することができます。
まず大きさに注目しましょう。ニキビは炎症がひどくなっても数ミリメートル程度にとどまりますが、粉瘤は放置すると数センチメートル以上、時には10センチメートルを超えるほど大きくなることがあります。ニキビと見まがうほどの小さなできものでも、数週間から数か月経っても消えず、むしろ大きくなっている場合は粉瘤の可能性が高いといえます。
次に、しこりの有無を確認します。粉瘤は皮膚の下に袋状の構造ができているため、炎症を起こす前から触れると硬くて弾力のあるしこりを感じます。一方、ニキビは初期段階ではしこりとして触れることはあまりありません。また、粉瘤の初期段階は炎症を起こすことが少ないですが、ニキビは早い段階から赤みや炎症が出ることがあります。
できものの中央部分にも注目しましょう。粉瘤には「開口部」と呼ばれる黒い点がみられることがありますが、これは黒ニキビにも見られるため、これだけでは判断が難しい場合があります。ただし、粉瘤は圧迫すると白〜黄色がかったペースト状の内容物が出てきて、独特の悪臭を放つことがあります。ニキビは炎症を起こして膿が出ても、粉瘤ほどの強い悪臭はしません。
発生部位と好発年齢も参考になります。ニキビは皮脂腺の多い顔(特にTゾーンやUゾーン)、背中、胸にできやすく、思春期から30歳代に多くみられます。粉瘤は年齢を問わず体のどこにでもできますが、特に顔、首、背中、耳の後ろなどに好発します。
また、治療への反応も重要な手がかりです。ニキビは適切なスキンケアや市販薬、皮膚科での治療によって改善が期待できますが、粉瘤は薬で治ることはありません。ニキビと思って塗り薬を使っても全く良くならない場合は、粉瘤の可能性を疑う必要があります。
粉瘤と脂肪腫の見分け方
粉瘤と脂肪腫は、いずれも皮膚の下にできるしこりであるため混同されやすいですが、実際には全く異なる性質を持つ腫瘍です。いくつかのポイントを確認することで見分けることができます。
最も重要な違いは、触ったときの硬さです。粉瘤は袋の中に老廃物が詰まっているため、触ると硬くて弾力のあるしこりとして感じられます。一方、脂肪腫は脂肪でできているため、触ると明らかに柔らかく、ゴムのような感触があります。
次に、皮膚との関係に注目しましょう。粉瘤は皮膚の一部が内側に入り込んで袋状になったものであるため、皮膚とくっついており、指で押すと皮膚と一緒に動きます。一方、脂肪腫は皮膚の下の深い層にあり、被膜で周囲の組織と分かれているため、指で押すと皮膚と関係なく腫瘍自体が独立して動きます。この違いは見分けの重要なポイントです。
皮膚の外観にも違いがあります。粉瘤は皮膚の浅い層にできるため、皮膚が青黒く変色して見えることがあり、中央に開口部(黒い点)がみられることもあります。一方、脂肪腫は皮膚の下の深い層にできるため、皮膚が盛り上がってきても肌の色は周囲と変わらず正常なままです。脂肪腫には開口部もありません。
炎症の起こりやすさも異なります。粉瘤は細菌感染を起こしやすく、赤く腫れて痛みを伴う炎症性粉瘤になることがあります。一方、脂肪腫は炎症を起こすことがほとんどなく、痛みや赤みを伴うことは基本的にありません。
成長速度にも違いがあります。粉瘤は袋の中に老廃物が溜まり続けるため比較的早く大きくなりますが、脂肪腫は非常にゆっくりと成長し、長年サイズがあまり変わらないこともあります。ただし、急激に大きくなる場合は脂肪肉腫など悪性腫瘍の可能性があるため、早急に医療機関を受診する必要があります。
押した際の反応も異なります。粉瘤を強く圧迫すると開口部から悪臭を放つ内容物が出てくることがありますが、脂肪腫は押しても何も出てきません。脂肪腫は液体ではなく脂肪の塊であるため、注射器で内容物を吸い出すこともできません。
ニキビと脂肪腫の見分け方
ニキビと脂肪腫は、発生する場所や見た目、症状が比較的異なるため、粉瘤との比較ほど混同されることは多くありませんが、いくつかの点で区別することができます。
まず発生部位が異なります。ニキビは皮脂腺が発達している顔、胸、背中などにできやすいですが、脂肪腫は背中、肩、首などに多く、顔にできることはまれです。
見た目も異なります。ニキビは毛穴に関連したできもので、白ニキビ、黒ニキビ、赤ニキビ、黄ニキビといった特徴的な外観を呈します。一方、脂肪腫は皮膚がドーム状に盛り上がりますが、皮膚の色は正常なままで、ニキビのような色の変化や膿は見られません。
触った感触も明確に異なります。ニキビは毛穴の炎症であり、周囲の皮膚と同様の硬さを感じます。脂肪腫は触ると明らかに柔らかく、皮膚の下で動く感触があります。
また、ニキビは適切な治療やスキンケアによって数日から数週間で改善する可能性がありますが、脂肪腫は自然に消えることはなく、手術によってのみ根治できます。
3つの疾患の比較まとめ
粉瘤、ニキビ、脂肪腫の特徴を比較すると以下のようになります。
粉瘤は皮膚の下に袋状の構造ができ、その中に角質や皮脂などの老廃物が溜まったものです。触ると硬くて弾力があり、皮膚と一緒に動きます。中央に黒い開口部がみられることがあり、圧迫すると悪臭を放つ内容物が出ることがあります。放置すると大きくなり、炎症を起こすこともあります。自然治癒はせず、手術でのみ根治できます。
ニキビは毛穴が詰まり、皮脂が溜まってアクネ菌が増殖することで炎症を起こしたものです。大きさは数ミリメートル程度で、白、黒、赤、黄などの特徴的な外観を呈します。適切な治療やスキンケアで改善が期待でき、市販薬や皮膚科の処方薬で治療できます。
脂肪腫は皮膚の下にできる脂肪細胞の良性腫瘍です。触ると柔らかく、皮膚と関係なく動きます。皮膚の色は正常なままで、開口部はありません。炎症を起こすことはほとんどなく、痛みもありません。自然に消えることはなく、手術でのみ根治できます。
それぞれの治療法
粉瘤の治療法
粉瘤は薬で治ることはなく、根本的な治療には外科的な手術が必要です。袋状の構造物をすべて取り除かなければ再発する可能性があるため、袋ごと摘出することが重要です。ほとんどの場合は局所麻酔による日帰り手術で対応でき、手術時間は大きさにもよりますが30分から1時間程度です。
粉瘤の手術には主に「切除法」と「くりぬき法(へそ抜き法)」の2種類があります。切除法は粉瘤の直上の皮膚を紡錘形に切開し、袋ごと摘出して縫合する方法です。確実に摘出できる反面、傷跡がやや大きくなります。くりぬき法は円形の刃がついた器具(トレパン)で粉瘤に小さな穴を開け、内容物を絞り出した後に袋を抜き取る方法です。傷跡が小さく済むため顔など目立つ部位に適していますが、大きな粉瘤や周囲と癒着している粉瘤には向きません。
炎症を起こしている炎症性粉瘤の場合は、まず炎症を抑える治療が優先されます。軽い炎症であれば抗生物質の内服で改善することがありますが、膿が溜まっている場合は切開して膿を排出する処置(切開排膿)が必要です。炎症が治まって傷が塞がるのを待ってから(通常2〜4週間後)、残っている袋を摘出する手術を行います。
粉瘤の治療は保険適用となり、費用は粉瘤の大きさや部位によって異なりますが、3割負担で4,000円から25,000円程度が目安です。
ニキビの治療法
ニキビの治療は、日本皮膚科学会が策定した「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」に基づいて行われます。治療の最終的な目標は、ニキビ跡(瘢痕)の形成を防ぐことにあります。急性炎症期における炎症性皮疹を速やかに鎮静化し、早期に維持期治療へ移行する戦略が重要とされています。
保険診療では、外用薬による治療が中心となります。白ニキビや黒ニキビ(面皰)が主体の場合は、毛穴の詰まりを改善する外用薬を使用します。代表的なものとして、アダパレン(ディフェリンゲル)や過酸化ベンゾイル(ベピオゲル・ローション)があります。アダパレンには表皮角化細胞の分化抑制による面皰減少作用があり、過酸化ベンゾイルには抗菌作用と角層剥離作用があります。
赤ニキビや黄ニキビなど炎症性皮疹がある場合は、上記の外用薬に加えて抗菌薬の外用薬(クリンダマイシン、ナジフロキサシン、オゼノキサシンなど)を併用します。また、中等症から重症の場合は、抗菌薬の内服(ドキシサイクリンなど)を併用することもあります。ホルモンバランスを整える目的で漢方薬が処方されることもあります。
炎症が落ち着いた後は、抗菌薬を中止し、アダパレンや過酸化ベンゾイルを用いた維持療法に移行して炎症の再発を予防します。これにより、薬剤耐性菌の出現も抑制できます。ニキビは長期に治療を続けることで少しずつ改善することが多い疾患であり、まずは3か月を目標に根気よく治療を継続することが大切です。
脂肪腫の治療法
脂肪腫は良性腫瘍であるため、特に症状がなければ必ずしも治療が必要というわけではありません。しかし、脂肪腫は自然に消えることはなく、放置すると徐々に大きくなっていきます。見た目が気になる場合、日常生活に支障がある場合、痛みや違和感がある場合、悪性の可能性を否定できない場合などは、摘出手術を検討します。
脂肪腫の治療法は手術による摘出が唯一の根本的な方法です。内服薬や外用薬では治療できません。また、脂肪腫は液体ではなく脂肪の塊であるため、注射器で内容物を吸い出すこともできません。
手術では、腫瘍の直上の皮膚を切開し、脂肪腫を周囲の組織から剥離して、被膜を破らないように摘出します。脂肪腫は柔らかい組織であるため、腫瘍の直径より小さな切開でも摘出できることが多いです(スクィージングテクニック)。摘出後は血腫を予防するために十分に止血し、必要に応じてドレーンを挿入したり、圧迫固定を行ったりします。
小さな脂肪腫であれば局所麻酔で日帰り手術が可能ですが、大きなもの(特に10センチメートル以上)や筋肉内に入り込んでいるもの、多発しているものなどは、入院や全身麻酔が必要になることもあります。また、5センチメートル以上の脂肪腫については、悪性の可能性を評価するためにMRI検査を行うことが推奨されています。
脂肪腫の治療は保険適用となり、費用は脂肪腫の大きさや部位、深さによって異なりますが、3割負担で数千円から2万円以上程度が目安です。
放置するとどうなるか
粉瘤を放置した場合
粉瘤は自然に治癒することはなく、放置すると徐々に大きくなっていきます。袋の中に老廃物が溜まり続けるため、最初は小さなしこりでも、時間の経過とともに数センチメートル以上に大きくなることがあります。大きくなればなるほど手術も大がかりになり、傷跡も目立ちやすくなります。
また、粉瘤は細菌感染を起こしやすく、炎症性粉瘤になるリスクがあります。炎症を起こすと赤く腫れて痛みを伴い、膿が溜まることもあります。炎症がひどくなると袋が破裂して内容物が周囲の組織に漏れ出し、治療が複雑になります。炎症を繰り返すと周囲の組織と癒着して摘出が困難になったり、治療後も瘢痕が残りやすくなったりします。
また、非常にまれではありますが、長期間放置して炎症を繰り返した粉瘤から皮膚癌が発生したという報告もあります。粉瘤は小さいうちに切除するほうが体への負担も少なく、傷跡も目立ちにくくなります。
ニキビを放置した場合
ニキビを放置すると、白ニキビから黒ニキビ、赤ニキビ、黄ニキビへと段階的に悪化していく可能性があります。炎症が進行すると毛穴の壁が壊れ、炎症が周囲の組織に広がります。その結果、ニキビ跡(瘢痕)として残るリスクが高まります。
ニキビ跡には赤み、色素沈着(シミ)、凹凸(クレーター)などの種類があり、特に凹凸型のニキビ跡は一度できると治療が難しく、完全に元通りにすることは困難です。また、ニキビを繰り返すことで肌が慢性的にダメージを受け、毛穴の開きや肌のくすみなどの問題が生じることもあります。
軽症のニキビでもニキビ跡が残ることがあるため、早期からの積極的な治療が推奨されています。また、ニキビを自分で潰すと細菌感染を起こしたり、炎症が悪化したりして、かえってニキビ跡が残りやすくなります。
脂肪腫を放置した場合
脂肪腫は良性腫瘍であるため、放置しても直ちに命に関わることはありません。しかし、脂肪腫は自然に消えることはなく、時間の経過とともに徐々に大きくなっていきます。大きくなりすぎると見た目の問題が生じるほか、場所によっては関節が動かしにくくなったり、まれに神経が圧迫されてしびれや痛みが生じたりすることがあります。
また、大きくなってから手術を行うと、手術のリスクが高くなり、傷跡も大きくなります。特に筋肉内に入り込んでいる場合は、摘出が難しくなり入院が必要になることもあります。
さらに、脂肪腫だと思っていたものが実は悪性の脂肪肉腫であった場合、放置することで治療の遅れにつながるリスクがあります。急に大きくなった、硬くなった、痛みが出てきたなどの変化があった場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。
受診の目安と診療科
受診すべきタイミング
皮膚にしこりやできものができた場合、以下のような状態であれば早めに医療機関を受診することをおすすめします。
まず、しこりが数週間から数か月経っても消えない、あるいは徐々に大きくなっている場合は受診しましょう。ニキビであれば通常は数日から数週間で改善しますが、粉瘤や脂肪腫は自然に治ることはありません。
次に、しこりが赤く腫れて痛みを伴う場合は、炎症性粉瘤やおでき(癤)の可能性があります。放置すると悪化する可能性があるため、早めの受診が必要です。
また、しこりを圧迫すると悪臭を伴う内容物が出てくる場合は粉瘤の可能性が高く、適切な治療が必要です。
急激に大きくなった場合、硬くなった場合、痛みを伴う場合は、悪性腫瘍の可能性も否定できないため、速やかに受診してください。特に5センチメートル以上の大きなしこりや、大腿部にできたしこりは注意が必要です。
そのほか、できものの正体がわからず不安な場合も、自己判断せずに専門医の診察を受けることをおすすめします。
何科を受診すべきか
粉瘤、ニキビ、脂肪腫はいずれも皮膚科で診察・治療を受けることができます。特にニキビについては皮膚科が専門の診療科となります。
粉瘤や脂肪腫の手術を希望する場合は、皮膚科のほか、形成外科でも対応しています。形成外科は傷跡を目立たなくする技術に長けているため、顔など目立つ部位のできものや、傷跡が気になる方は形成外科を受診するとよいでしょう。
大きな脂肪腫や深部にできた脂肪腫、悪性の可能性が疑われるできものについては、大学病院などの専門医療機関に紹介されることもあります。まずはかかりやすい皮膚科や形成外科を受診し、必要に応じて専門機関を紹介してもらうとよいでしょう。

よくある質問
粉瘤を自分で潰すことは絶対に避けてください。無理に潰そうとすると袋が破れて内容物が周囲の組織に漏れ出し、細菌感染や炎症を起こして症状が悪化する可能性があります。また、袋を完全に除去しない限り再発するため、自己処理では根治できません。粉瘤が気になる場合は、必ず皮膚科や形成外科を受診して適切な治療を受けてください。
粉瘤も脂肪腫も薬では治りません。どちらも根本的な治療には手術による摘出が必要です。粉瘤の場合、炎症を起こしている時には抗生物質で炎症を抑えることはできますが、袋自体を取り除かない限り完治しません。脂肪腫も内服薬や外用薬で消失することはなく、手術以外に有効な治療法はありません。
いくつかのポイントで見分けることができます。ニキビは通常数ミリ程度の大きさで数日から数週間で変化しますが、粉瘤は時間とともに大きくなり消えません。粉瘤は皮膚の下にしこりとして触れ、圧迫すると悪臭を伴う内容物が出ることがあります。ただし確実な診断は難しいため、気になる場合は皮膚科を受診することをおすすめします。
脂肪腫自体が悪性化することは基本的にありません。脂肪腫は良性腫瘍であり、悪性の脂肪肉腫とは異なる疾患です。ただし、初めから脂肪肉腫であったものを脂肪腫と誤診していた可能性はあります。急に大きくなった場合や痛みを伴う場合、5センチメートル以上の大きなものは精密検査が推奨されます。
はい、粉瘤と脂肪腫の手術はいずれも健康保険が適用されます。費用は腫瘍の大きさや発生部位、手術の方法によって異なりますが、3割負担で数千円から2万円程度が目安です。診察、検査、病理検査なども保険適用となります。美容目的のみの場合は自費になることがありますので、事前に医療機関にご確認ください。
市販薬で改善しない場合や繰り返すニキビ、炎症がひどいニキビ、ニキビ跡が気になる場合は皮膚科を受診することをおすすめします。皮膚科では保険診療で効果的な外用薬や内服薬を処方してもらえます。早期に適切な治療を始めることで、ニキビ跡の形成を予防できます。
まとめ
粉瘤、ニキビ、脂肪腫は、いずれも皮膚に生じるできものですが、それぞれ異なる原因と性質を持ち、適切な治療法も異なります。粉瘤は皮膚の下に袋状の構造ができて老廃物が溜まったもので、硬いしこりとして触れ、炎症を起こすこともあります。ニキビは毛穴が詰まってアクネ菌が増殖し炎症を起こしたもので、適切な治療で改善が期待できます。脂肪腫は脂肪細胞からなる良性腫瘍で、柔らかく皮膚と関係なく動くのが特徴です。
これらの見分け方としては、硬さ(粉瘤は硬く弾力がある、脂肪腫は柔らかい)、皮膚との関係(粉瘤は皮膚と一緒に動く、脂肪腫は独立して動く)、開口部の有無(粉瘤には黒い点がみられることがある)、炎症の有無(粉瘤は炎症を起こしやすい、脂肪腫はほとんど炎症を起こさない)などが参考になります。ただし、自己判断は難しい場合も多いため、気になるできものがある場合は皮膚科や形成外科を受診して正確な診断を受けることが大切です。
粉瘤も脂肪腫も自然に治ることはなく、放置すると大きくなって治療が大変になることがあります。ニキビも放置すると悪化してニキビ跡が残る可能性があります。いずれの場合も早期に適切な治療を受けることで、より良い結果が期待できます。皮膚のできものでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
参考文献
- 日本皮膚科学会「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」
- 日本形成外科学会「脂肪腫」
- 兵庫医科大学病院「粉瘤(ふんりゅう)」
- 日本医科大学武蔵小杉病院「脂肪腫と良性悪性の判断と手術」
- マルホ株式会社「ニキビの原因と種類」
- 関東労災病院「粉瘤について」
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監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
📚 粉瘤治療の全体像については「粉瘤治療の総合ガイド」もあわせてご参照ください。