はじめに
肛門周囲にしこりやできものを見つけたとき、多くの方が「これは何だろう」「痔だろうか」と不安を感じるものです。肛門周囲にできる腫瘤にはさまざまな種類がありますが、その中でも意外と多いのが「粉瘤(ふんりゅう)」です。
粉瘤は医学的には「表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)」や「アテローム」とも呼ばれ、皮膚の下に袋状の構造物ができ、その中に角質や皮脂などの老廃物が溜まってしまう良性腫瘍です。体のどこにでもできる可能性がありますが、肛門周囲にできた場合は、場所が場所だけに受診をためらう方も少なくありません。
しかし、肛門周囲の粉瘤は放置すると感染を起こして痛みや腫れがひどくなることがあり、早めの対処が大切です。この記事では、肛門の粉瘤について、その特徴、原因、症状、診断方法、治療法まで、わかりやすく詳しく解説していきます。

粉瘤とは何か
粉瘤の基本的な特徴
粉瘤は、皮膚の下に袋状の構造(嚢腫)ができ、その中に本来皮膚の表面から剥がれ落ちるはずの角質や皮脂などが溜まってしまう状態です。袋の内側は皮膚と同じ構造(表皮)でできているため、この表皮が垢や皮脂を作り続けることで、徐々に内容物が増えて大きくなっていきます。
粉瘤には以下のような特徴があります:
見た目の特徴
- 皮膚の下に半球状のしこりとして触れる
- 表面に小さな開口部(へそ)が見られることが多い
- 開口部から白っぽいドロドロした内容物が出ることがある
- 内容物には独特の悪臭がある
大きさと成長速度
- 数ミリから数センチまでさまざま
- ゆっくりと大きくなることが多い
- 急速に大きくなる場合は感染を起こしている可能性がある
良性腫瘍としての性質
- 基本的には良性の腫瘍である
- 転移したり命に関わることはない
- ただし、稀に悪性化することもある(特に長期間放置した場合)
肛門周囲の粉瘤の特殊性
肛門周囲は体の中でも特殊な環境にある部位です。そのため、この部位にできる粉瘤には以下のような特徴があります。
環境的な特徴
- 常に湿った環境にある
- 排泄物による汚染のリスクが高い
- 摩擦や圧迫を受けやすい
- 座る動作で常に圧力がかかる
診断上の特徴
- 視診が難しい部位である
- 痔核(いぼ痔)や痔瘻などと間違えられやすい
- 患者さん自身での観察が困難
- 受診のハードルが高く、発見が遅れがち
治療上の特徴
- 感染を起こしやすい環境にある
- 術後の清潔保持が重要
- 再発のリスクがやや高い
- 日常生活への影響が大きい
肛門の粉瘤ができる原因
粉瘤ができるメカニズム
粉瘤がなぜできるのか、その根本的な原因は完全には解明されていませんが、主に以下のようなメカニズムが考えられています。
表皮の陥入説 最も有力な説は、何らかの原因で皮膚の表面にある表皮が皮膚の下に入り込んでしまい、そこで袋状の構造を作るというものです。この袋の中で表皮が角質を作り続けることで、徐々に内容物が溜まっていきます。
毛穴の閉塞説 毛穴や汗腺の出口が何らかの原因で塞がれてしまい、その結果として皮下に嚢腫が形成されるという説もあります。
外傷による発生 打撲や切り傷などの外傷がきっかけとなって、皮膚の一部が皮下に埋没し、そこから粉瘤が発生することもあります。
肛門周囲で粉瘤ができやすい要因
肛門周囲という特殊な部位で粉瘤ができやすい要因には、以下のようなものがあります。
解剖学的要因
- 肛門周囲には毛嚢や汗腺が多く存在する
- 皮膚のひだや皺が多く、摩擦が起きやすい
- 座位での圧迫を常に受ける部位である
生活習慣的要因
- 長時間の座位作業(デスクワークなど)
- きつい下着の着用による圧迫
- 不適切な排便後の清拭方法
- 肛門周囲の過度な洗浄や刺激
体質的要因
- 毛深い体質の方にやや多い傾向
- 脂性肌の方に発生しやすい可能性
- 家族内での発生が見られることもある
その他の要因
- 慢性的な便秘や下痢
- 肥満による摩擦の増加
- 多汗症
- ストレスによる免疫力の低下
年齢と性別の関係
粉瘤は年齢や性別に関係なく誰にでもできる可能性がありますが、統計的には以下のような傾向が見られます。
年齢層
- 20代から40代に多く見られる
- 若年層では毛嚢炎から発展することも
- 高齢者では長期間放置したものが大きくなっていることが多い
性別
- やや男性に多い傾向がある
- ただし、肛門周囲の粉瘤に関しては男女差は明確ではない
肛門の粉瘤の症状
初期の症状
肛門周囲に粉瘤ができ始めた初期段階では、以下のような症状が現れます。
しこりの出現
- 皮膚の下に小さなしこりとして触れる
- 最初は数ミリ程度の大きさ
- 痛みはないか、あっても軽度
- 柔らかく、可動性がある
軽度の違和感
- 座ったときの違和感
- 下着との摩擦による不快感
- 排便時の軽い圧迫感
表面の変化
- 皮膚の表面に小さな黒い点(開口部)が見えることがある
- 周囲の皮膚は正常な色
- 圧迫すると白っぽい内容物が出ることがある
炎症を起こしていない粉瘤の症状
感染や炎症を起こしていない状態の粉瘤は、比較的症状が軽微です。
慢性期の特徴
- 徐々に大きくなっていく
- 痛みはほとんどない
- 生活に大きな支障はない
- ときどき内容物が自然に排出されることがある
サイズによる症状の違い
- 小さいもの(1cm未満):ほとんど症状なし
- 中程度のもの(1-3cm):座位で違和感、排便時の圧迫感
- 大きいもの(3cm以上):常時違和感、歩行時の不快感、排便への影響
炎症を起こした粉瘤(感染性粉瘤)の症状
肛門周囲の粉瘤は環境的な要因から感染を起こしやすく、いったん炎症が起きると急激に症状が悪化します。
急性炎症の症状
- 強い痛み:ズキズキとした拍動性の痛み、座ることができないほどの痛み
- 腫れ:急速に大きくなる、周囲の皮膚も腫れぼったくなる
- 発赤:患部が赤く腫れ上がる、周囲の皮膚も赤みを帯びる
- 熱感:患部が熱を持つ、触ると明らかに温かい
- 圧痛:軽く触れただけでも強い痛みがある
全身症状
- 発熱(38度以上になることも)
- 倦怠感、全身のだるさ
- 食欲不振
- リンパ節の腫れ(鼠径部など)
膿瘍形成時の症状
- 患部に膿が溜まって波動を触れる
- 自然に破裂して膿が出ることがある
- 膿には独特の悪臭がある
- 破裂後も痛みや腫れが続くことが多い
日常生活への影響
肛門の粉瘤は、その大きさや状態によって日常生活にさまざまな影響を及ぼします。
座位動作への影響
- 長時間座ることが困難
- デスクワークや車の運転に支障
- 硬い椅子に座ることができない
- クッションが手放せなくなる
排便への影響
- 排便時の痛みや違和感
- 排便後の清拭が困難
- 便秘になりがち(排便を避けようとするため)
心理的な影響
- 場所が場所だけに人に相談しにくい
- 受診をためらい、症状が悪化する
- 痔だと思い込んで適切な治療を受けられない
- 常に気になってストレスとなる
診断方法
問診と視診・触診
肛門周囲の粉瘤の診断は、まず丁寧な問診から始まります。
問診での確認事項
- いつ頃から症状があるか
- しこりの大きさの変化
- 痛みの有無と程度
- 過去に同じような症状があったか
- 既往歴(特に痔や肛門疾患)
- 生活習慣(座位時間、排便習慣など)
視診のポイント
- しこりの大きさ、形状、色
- 皮膚表面の開口部の有無
- 周囲の皮膚の状態(発赤、腫脹など)
- 他の病変との鑑別
触診のポイント
- しこりの硬さ、可動性
- 圧痛の有無と程度
- 波動の有無(膿が溜まっているか)
- 周囲組織との境界
他の疾患との鑑別
肛門周囲には粉瘤以外にもさまざまな疾患が発生するため、正確な鑑別診断が重要です。
痔核(いぼ痔)との鑑別
- 痔核:肛門の縁から出てくる、排便との関係が強い、出血を伴うことが多い
- 粉瘤:肛門周囲の皮膚にできる、排便との関係は薄い、出血は稀
痔瘻との鑑別
- 痔瘻:肛門内部と皮膚表面をつなぐトンネルがある、膿の排出を繰り返す、肛門周囲膿瘍の既往がある
- 粉瘤:肛門内部とのつながりはない、袋状の構造物
肛門周囲膿瘍との鑑別
- 肛門周囲膿瘍:急性発症、激しい痛み、高熱を伴うことが多い、肛門内部の感染が原因
- 粉瘤:徐々に形成される、感染していなければ痛みは軽度、皮膚の病変
尖圭コンジローマとの鑑別
- 尖圭コンジローマ:カリフラワー状の表面、複数できることが多い、性感染症
- 粉瘤:滑らかな表面、通常は単発、感染とは無関係
毛巣洞との鑑別
- 毛巣洞:仙骨部に好発、中に毛髪が見られることがある、若い男性に多い
- 粉瘤:肛門周囲のどこにでもできる、毛髪は通常含まれない
必要に応じた検査
診断を確定するため、または他の疾患を除外するために、以下のような検査が行われることがあります。
超音波検査
- 嚢腫の大きさや深さを確認
- 内部の性状(液体か固形か)を評価
- 周囲組織への広がりを確認
- 血流の有無を確認
MRI検査
- より詳細な画像診断が必要な場合
- 痔瘻など他の疾患との鑑別が難しい場合
- 深部への進展が疑われる場合
細菌培養検査
- 感染を起こしている場合
- 適切な抗生物質の選択のため
- 耐性菌の有無を確認
病理組織検査
- 摘出した組織を顕微鏡で確認
- 粉瘤であることの最終確認
- 悪性腫瘍の除外
- 完全摘出ができているかの確認
治療方法
保存的治療(対症療法)
粉瘤は基本的には手術による摘出が根本的な治療となりますが、状況によっては保存的な治療が行われることもあります。
抗生物質による治療 感染を起こして炎症が強い場合、まず抗生物質で炎症を抑えてから手術を行うことがあります。
- 内服抗生物質の投与(セフェム系、ペニシリン系など)
- 炎症が強い場合は点滴による投与
- 通常5-7日間の投与
- 炎症が落ち着いてから根治手術を検討
抗炎症薬の使用
- 痛みや腫れを和らげるための消炎鎮痛剤
- 内服薬と外用薬の併用
- 痛みが強い場合は座薬も効果的
局所の清潔保持
- 1日1-2回の入浴またはシャワー
- 患部を清潔に保つ
- 刺激の少ない石鹸を使用
- 患部をこすらないよう注意
生活指導
- 長時間の座位を避ける
- クッションの使用
- 締め付けの少ない下着の着用
- 便秘の改善
重要な注意点 保存的治療はあくまで対症療法であり、粉瘤の袋が残っている限り再発します。症状が落ち着いた段階で、根治的な手術を受けることをお勧めします。
切開排膿術(緊急処置)
感染を起こして膿が溜まり、強い痛みがある場合は、緊急的に切開して膿を出す処置が行われます。
処置の流れ
- 局所麻酔を行う
- 腫れている部分に小さな切開を入れる
- 溜まっている膿を絞り出す
- 内部を洗浄する
- 抗生物質を投与する
- ガーゼを詰めて圧迫止血
切開排膿術の利点
- 強い痛みを迅速に和らげることができる
- 感染の拡大を防ぐ
- 発熱などの全身症状の改善
切開排膿術の限界
- あくまで応急処置である
- 粉瘤の袋は残っているため、ほぼ確実に再発する
- 炎症が落ち着いた段階で根治手術が必要
術後の管理
- 定期的な通院が必要(創部の洗浄とガーゼ交換)
- 抗生物質の内服継続
- 清潔保持が重要
- 2-4週間程度で創部が閉鎖
根治手術(粉瘤摘出術)
粉瘤を完全に治すためには、袋ごと摘出する手術が必要です。手術方法にはいくつかの選択肢があります。
従来法(切開摘出法)
最も一般的な粉瘤の摘出方法です。
手術の流れ
- 局所麻酔を行う
- 粉瘤の上に紡錘形の切開を入れる
- 粉瘤の袋を周囲組織から丁寧に剥離する
- 袋を破らないよう慎重に摘出
- 出血部位を止血
- 皮膚を縫合する
従来法の利点
- 確実に袋を摘出できる
- 再発率が低い
- 大きな粉瘤にも対応可能
- 保険適用
従来法の欠点
- 切開創が比較的大きい
- 抜糸が必要(7-14日後)
- 傷跡が残りやすい
- 術後の痛みがやや強い
くりぬき法(ヘソ抜き法)
粉瘤の開口部を利用して摘出する方法です。
手術の流れ
- 局所麻酔を行う
- 粉瘤の開口部に沿って円形に切開(4-5mm程度)
- 内容物を絞り出す
- 袋を裏返しながら摘出する
- 縫合せずに創部を開放するか、最小限の縫合
くりぬき法の利点
- 切開創が小さい
- 傷跡が目立ちにくい
- 抜糸が不要または最小限
- 手術時間が短い
- 日常生活への影響が少ない
くりぬき法の欠点
- 大きな粉瘤には適さない(2cm以下が目安)
- 炎症がある場合は適応外
- 袋の一部が残る可能性があり、わずかに再発率が高い
肛門周囲での適応 肛門周囲は傷跡を小さくしたい部位であり、粉瘤のサイズが適切であればくりぬき法が推奨されることが多いです。
手術後の経過と注意点
術後の痛み
- 麻酔が切れると痛みが出る
- 鎮痛剤で十分コントロール可能
- 2-3日程度で軽快することが多い
- 肛門周囲は座位や排便で痛みが出やすい
創部のケア
- 手術翌日から入浴可能な場合が多い
- 創部は清潔に保つ
- 処方された軟膏を塗布
- ガーゼ保護を指示されることもある
日常生活の制限
- 激しい運動は1-2週間控える
- 長時間の座位を避ける
- 重いものを持つことを控える
- 飲酒は抜糸まで控える
排便管理
- 便秘を避ける(必要に応じて下剤を使用)
- 排便後は優しく清拭
- ウォシュレットの使用は医師の指示に従う
通院スケジュール
- 術後2-3日後:創部の確認
- 術後7-14日後:抜糸(従来法の場合)
- その後も必要に応じて経過観察
合併症のサイン 以下の症状がある場合は早めに受診してください。
- 強い痛みや腫れの悪化
- 発熱
- 創部からの膿の排出
- 創部の離開(開いてしまうこと)
再発について
粉瘤は適切に袋を摘出すれば再発しないとされていますが、以下のような場合には再発することがあります。
再発の原因
- 袋の一部が残ってしまった
- 炎症が強い状態で手術を行った
- 切開排膿のみで根治手術を行わなかった
- 複数の粉瘤があった
再発のリスク因子
- くりぬき法での手術
- 感染を繰り返している粉瘤
- 大きな粉瘤
- 不適切な術後ケア
再発した場合の対応
- 再手術が必要
- より慎重な摘出が求められる
- 場合によっては大きめの切開が必要
再発予防
- 術後の指示を守る
- 創部を清潔に保つ
- 定期的な経過観察
- 異常を感じたら早めに受診
予防とセルフケア
粉瘤の予防
粉瘤の発生を完全に予防することは困難ですが、以下のような対策でリスクを減らすことができます。
皮膚の清潔保持
- 毎日の入浴やシャワーで肛門周囲を清潔に保つ
- 刺激の少ない石鹸を使用
- 洗いすぎは避ける(皮膚のバリア機能を損なう)
- 排便後は優しく清拭
摩擦や圧迫の軽減
- 通気性の良い下着を選ぶ
- 締め付けの強い衣類を避ける
- 長時間の座位を避け、適度に立ち上がる
- クッションの使用
生活習慣の改善
- バランスの取れた食事
- 適度な運動
- 十分な睡眠
- ストレスの管理
便通の管理
- 規則正しい排便習慣
- 便秘の予防(食物繊維の摂取、水分補給)
- 過度のいきみを避ける
- 下痢の予防
体重管理
- 適正体重の維持
- 肥満による摩擦の増加を防ぐ
早期発見のポイント
粉瘤は早期に発見し、小さいうちに治療することが理想的です。
自己チェックの方法
- 入浴時に肛門周囲を触って確認
- 小さなしこりがないかチェック
- 痛みや違和感に注意
- 下着に膿や血液が付着していないか確認
受診すべきサイン
- しこりを見つけた
- 徐々に大きくなっている
- 痛みや違和感がある
- 発赤や腫れがある
- 膿や悪臭のある分泌物がある
受診のタイミング
- 小さなしこりでも早めに受診
- 痛みが出る前に受診することが理想
- 感染を起こしてしまった場合は緊急で受診
- 定期的な健康診断での相談も有効
日常生活での注意点
座り方の工夫
- 硬い椅子を避ける
- ドーナツクッションの活用
- 30分に1回は立ち上がる
- 姿勢を変える
衣類の選択
- 綿素材の下着を選ぶ
- ゆとりのあるサイズを選ぶ
- 通気性を重視
- こまめに着替える
入浴とスキンケア
- ぬるめのお湯でゆっくり温まる
- 患部をこすらない
- 入浴後はよく乾燥させる
- 必要に応じて保湿
運動と活動
- 適度な運動は血行促進に良い
- 激しい運動は摩擦に注意
- 自転車は患部に負担をかける可能性
- 水泳は衛生面に注意

よくある質問(Q&A)
A: 残念ながら、粉瘤が自然に完全に治ることはありません。粉瘤は皮膚の下に袋状の構造ができているため、この袋を取り除かない限り根本的な治癒は期待できません。炎症が落ち着いて一時的に小さくなることはありますが、袋が残っている限り再び大きくなったり、感染を繰り返したりする可能性があります。小さいうちに適切な治療を受けることをお勧めします。
A: 粉瘤と痔は全く異なる病気です。粉瘤は皮膚の下にできる袋状の腫瘍で、角質や皮脂が溜まったものです。一方、痔(痔核)は肛門の血管がうっ血して腫れたものです。粉瘤は肛門周囲の皮膚にできますが、痔核は肛門の粘膜部分にできます。また、粉瘤は通常、排便との関係は薄いですが、痔核は排便時に出血や脱出を起こすことが特徴です。自己判断は危険ですので、専門医の診察を受けることが大切です。
A: 粉瘤の手術は局所麻酔で行われるため、手術中の痛みはほとんどありません。麻酔の注射をするときにチクッとした痛みがありますが、その後は患部の感覚がなくなります。肛門周囲は敏感な部位なので、麻酔が効きにくいと感じることもありますが、適切に麻酔を追加することで痛みなく手術を受けることができます。手術後は麻酔が切れると痛みが出ますが、鎮痛剤でコントロール可能な程度です。多くの患者さんが日常生活を続けながら治療を受けています。
Q4: 手術後、仕事は休む必要がありますか?
A: 手術の方法や粉瘤の大きさ、仕事の内容によって異なります。くりぬき法などの小さな切開で済む場合は、デスクワークであれば翌日から復帰できることもあります。ただし、長時間座る仕事の場合は2-3日程度休むか、クッションを使用するなどの工夫が必要です。立ち仕事や重労働の場合は、1週間程度の休養が望ましいこともあります。術前の診察時に医師とよく相談し、仕事の内容を伝えて個別のアドバイスを受けることをお勧めします。
Q5: 粉瘤を放置するとどうなりますか?
A: 粉瘤を放置すると、以下のようなリスクがあります。まず、徐々に大きくなり、手術の傷が大きくなる可能性があります。また、肛門周囲は感染を起こしやすい環境にあるため、炎症を起こして激しい痛みや発熱を伴うことがあります。感染を繰り返すと周囲組織への癒着が進み、手術が複雑になることもあります。さらに、非常に稀ですが、長期間放置した粉瘤が悪性化(有棘細胞癌)することも報告されています。小さいうちに治療を受けることが、体への負担も少なく、治療成績も良好です。
Q6: 再発を防ぐにはどうすればいいですか?
A: 再発を防ぐためには、まず根治手術で粉瘤の袋を完全に摘出することが最も重要です。切開排膿だけでは必ず再発しますので、炎症が落ち着いた段階で必ず根治手術を受けてください。手術後は、医師の指示に従って適切な術後ケアを行い、創部を清潔に保つことが大切です。また、日常生活では肛門周囲の清潔保持、摩擦や圧迫の軽減、適度な運動、バランスの取れた食事など、健康的な生活習慣を心がけることで、新たな粉瘤の発生リスクを下げることができます。
Q7: 肛門科と皮膚科、どちらを受診すればいいですか?
A: 肛門周囲の粉瘤は、肛門科(肛門外科)でも皮膚科でも診療可能です。ただし、肛門科の方が肛門周囲の解剖に詳しく、痔などの他の肛門疾患との鑑別も正確に行えるため、肛門科の受診をお勧めします。特に痔との区別がつかない場合や、肛門周囲に複数の症状がある場合は、肛門科が適しています。皮膚科は全身の皮膚疾患の専門家ですので、体の他の部位にも粉瘤や皮膚疾患がある場合は、皮膚科で総合的に診てもらうのも良いでしょう。
Q8: 手術費用はどれくらいかかりますか?
A: 粉瘤の手術は保険適用となります。3割負担の場合、小さな粉瘤のくりぬき法で約5,000円から10,000円程度、従来法の切開摘出術で約10,000円から20,000円程度が目安です(初診料、再診料、処方料などを含む)。粉瘤の大きさや部位、手術の難易度によって費用は変動します。また、術前の検査や術後の通院費用も別途かかります。正確な費用は診察時に確認することをお勧めします。なお、炎症を起こして緊急で切開排膿を行う場合も保険適用となります。
Q9: 粉瘤ができやすい体質はありますか?
A: 粉瘤のできやすさには個人差があり、体質的な要因も関係していると考えられています。脂性肌の方、毛深い方、皮膚が厚い方などにやや多い傾向があります。また、家族内で粉瘤が多発する例も見られることから、遺伝的な要素も関係している可能性があります。ただし、これらの体質を持っていても必ず粉瘤ができるわけではなく、反対にそうでない方にもできることがあります。体質を変えることは難しいですが、日常生活での予防対策を心がけることで、発生リスクを下げることは可能です。
Q10: 妊娠中や授乳中でも手術できますか?
A: 妊娠中や授乳中でも、局所麻酔を使用した粉瘤の手術は基本的に可能です。ただし、妊娠初期(特に12週まで)は避けた方が良い場合もあります。また、使用する麻酔薬や抗生物質は、妊娠や授乳に影響の少ないものを選択します。緊急性がない場合は、出産後や授乳終了後まで待つことも選択肢です。一方、感染を起こして強い痛みがある場合など、緊急性が高い場合は、母体の健康を優先して治療を行います。妊娠中・授乳中であることを必ず医師に伝え、リスクとベネフィットを相談の上で治療方針を決定してください。
まとめ
肛門の粉瘤は、決して珍しい疾患ではありません。場所が場所だけに受診をためらう方も多いですが、早期に適切な治療を受けることで、体への負担を最小限に抑えることができます。
この記事の重要ポイント
- 粉瘤とは:皮膚の下にできる袋状の構造物で、中に角質や皮脂が溜まった良性腫瘍です。
- 症状:初期は無症状か軽度の違和感ですが、感染を起こすと激しい痛みや腫れ、発熱を伴うことがあります。
- 診断:痔などの他の疾患との鑑別が重要です。自己判断せず、専門医の診察を受けましょう。
- 治療:根本的な治療は手術による摘出です。くりぬき法や従来法など、粉瘤の大きさや状態に応じた方法が選択されます。
- 予防:完全な予防は難しいですが、肛門周囲の清潔保持、摩擦や圧迫の軽減、健康的な生活習慣が大切です。
- 早期受診の重要性:小さいうちに治療すれば、手術の傷も小さく、日常生活への影響も少なくて済みます。
肛門周囲の異常に気づいたら、恥ずかしがらずに早めに医療機関を受診してください。多くの医療機関では、患者さんのプライバシーに配慮した診療を行っています。適切な診断と治療により、快適な日常生活を取り戻すことができます。
アイシークリニック上野院では、肛門周囲の粉瘤をはじめとする皮膚・皮下腫瘍の治療に力を入れています。経験豊富な医師が、患者さん一人ひとりの状態に合わせた最適な治療法をご提案いたします。肛門周囲のしこりや違和感でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
参考文献
本記事は以下の信頼できる医学的情報源を参考に作成しました。
- 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A」 https://www.dermatol.or.jp/qa/
- 日本臨床外科学会「外科疾患診療ガイドライン」 https://www.jacs.or.jp/
- 一般社団法人 日本大腸肛門病学会 https://www.coloproctology.gr.jp/
- 厚生労働省「e-ヘルスネット」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
- 国立がん研究センター「がん情報サービス」 https://ganjoho.jp/
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務