はじめに
脇の下にしこりを見つけて、不安に感じたことはありませんか。脇の下は汗をかきやすく、摩擦も多い部位であるため、さまざまな皮膚トラブルが起こりやすい場所です。その中でも比較的よく見られるのが「粉瘤(ふんりゅう)」です。
粉瘤は、正式には「表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)」や「アテローム」とも呼ばれる良性の皮膚腫瘍です。身体のどこにでもできる可能性がありますが、脇の下は特に発生しやすい部位の一つとして知られています。
本記事では、脇の下にできる粉瘤について、その特徴や症状、原因、診断方法、治療法まで詳しく解説します。適切な知識を持つことで、早期発見・早期治療につながり、炎症などの合併症を防ぐことができます。

粉瘤とは何か
粉瘤の基本的な特徴
粉瘤は、皮膚の下に袋状の構造物(嚢腫)ができ、その中に本来剥がれ落ちるはずの角質や皮脂などの老廃物が溜まってできる良性腫瘍です。袋の内側は皮膚の表面と同じような構造(表皮)で覆われているため、角質が産生され続け、徐々に内容物が増えていきます。
粉瘤の大きな特徴として、以下の点が挙げられます。
良性腫瘍である 粉瘤は良性の腫瘍であり、がんではありません。そのため、基本的には命に関わる病気ではありません。ただし、放置すると大きくなったり、炎症を起こしたりする可能性があるため、適切な対処が必要です。
自然治癒しない 粉瘤は一度できると、自然に消えることはほとんどありません。袋状の構造が皮膚の下に残っている限り、内容物は溜まり続けます。完治させるためには、袋ごと摘出する必要があります。
どこにでもできる 粉瘤は身体のあらゆる部位に発生する可能性がありますが、特に顔、首、背中、耳たぶの裏、そして脇の下などに多く見られます。
粉瘤の疫学
粉瘤は非常に一般的な皮膚疾患で、皮膚科を受診する患者さんの中でも高い頻度で見られます。年齢や性別を問わず誰にでも発生する可能性がありますが、特に20代から40代の成人に多く見られる傾向があります。
日本皮膚科学会のデータによると、粉瘤は皮膚科で扱う小手術の中で最も多い疾患の一つとされています。多くの人が一生のうちに一度は経験する可能性のある、身近な皮膚トラブルと言えるでしょう。
脇の下に粉瘤ができやすい理由
脇の下(腋窩)の特殊な環境
脇の下は、身体の中でも特に粉瘤ができやすい部位の一つです。これには、脇の下特有の環境が大きく関係しています。
毛穴・汗腺が多い 脇の下には、毛穴やアポクリン汗腺、皮脂腺が豊富に存在します。粉瘤は毛穴が詰まることで発生すると考えられており、毛穴の多い部位ほど発生リスクが高くなります。
摩擦が多い 脇の下は腕の動きによって常に皮膚同士が擦れ合う部位です。また、衣服との摩擦も多く、この物理的刺激が毛穴の詰まりや皮膚へのダメージを引き起こす可能性があります。
高温多湿環境 脇の下は通気性が悪く、汗をかきやすい部位です。高温多湿の環境は細菌の繁殖を促し、粉瘤が炎症を起こしやすい条件を作り出します。
脱毛・除毛の影響 カミソリや毛抜き、脱毛クリームなどを使用した脱毛・除毛処理は、毛穴や皮膚にダメージを与える可能性があります。これが粉瘤の発生につながることがあります。
脇の下の粉瘤の特徴
脇の下にできる粉瘤には、他の部位の粉瘤と比べていくつかの特徴があります。
炎症を起こしやすい 脇の下は常に湿気が多く、細菌が繁殖しやすい環境です。そのため、粉瘤が感染して炎症性粉瘤(炎症性アテローム)になりやすい傾向があります。
痛みを感じやすい 脇の下は神経が豊富で敏感な部位です。粉瘤ができると、腕の動きによる圧迫や摩擦で痛みを感じやすくなります。
日常生活への影響が大きい 脇の下は腕を動かすたびに皮膚が動く部位であるため、粉瘤があると日常動作に支障をきたすことがあります。特に大きくなったり炎症を起こしたりすると、腕を上げる動作が困難になることもあります。
脇の下の粉瘤の症状
初期症状
粉瘤の初期段階では、以下のような症状が見られます。
小さなしこり 最初は数ミリ程度の小さなしこりとして触れることができます。皮膚の下に丸いボール状のものがあるような感触です。表面は通常の皮膚と同じ色をしているか、やや黄色みがかっていることがあります。
開口部(へそ) 粉瘤の中心部に、黒い点のような小さな開口部が見られることがあります。これは「へそ」と呼ばれ、粉瘤の特徴的な所見の一つです。この開口部から、時折、白っぽいチーズ状の内容物や悪臭のする分泌物が出ることがあります。
痛みがない 炎症を起こしていない粉瘤は、通常、痛みを伴いません。触ると動く感触があり、柔らかいことが多いです。
進行した症状
粉瘤を放置すると、以下のような症状が現れることがあります。
サイズの増大 粉瘤は時間とともに徐々に大きくなる傾向があります。数センチから、場合によっては10センチ以上になることもあります。大きくなるにつれて、見た目にも目立つようになり、日常生活での不便さも増していきます。
皮膚の盛り上がり 粉瘤が大きくなると、皮膚表面が半球状に盛り上がって見えるようになります。
破裂のリスク 内容物が増えすぎると、粉瘤が破裂することがあります。破裂すると、悪臭のある内容物が流れ出し、周囲の皮膚に炎症を引き起こす可能性があります。
炎症性粉瘤(感染性粉瘤)の症状
粉瘤に細菌が感染すると、炎症性粉瘤(感染性粉瘤)となり、以下のような症状が現れます。
赤く腫れる 感染した粉瘤の周囲は赤く腫れ上がります。炎症が強い場合、周囲の皮膚全体が赤くなることもあります。
強い痛み 炎症を起こした粉瘤は、強い痛みを伴います。触れると痛みが増し、腕を動かすだけでも痛むことがあります。
熱感 患部に熱を持ち、触ると熱く感じられます。
膿の貯留 粉瘤の内部に膿が溜まり、さらに腫れが大きくなります。膿が皮膚表面近くまで達すると、黄色っぽく見えることがあります。
発熱・全身症状 炎症が強い場合、発熱や倦怠感などの全身症状が現れることがあります。
リンパ節の腫れ 脇の下には多くのリンパ節が存在します。粉瘤が炎症を起こすと、近くのリンパ節が腫れることがあります。
粉瘤の原因とメカニズム
粉瘤ができるメカニズム
粉瘤がどのようにして形成されるのか、そのメカニズムについて解説します。
表皮の陥入 粉瘤の形成には、皮膚の表皮が何らかの原因で皮膚の内側(真皮)に入り込むことが関係していると考えられています。この陥入した表皮が袋状の構造を作り、その内側で角質が産生され続けることで、内容物が蓄積していきます。
毛穴の詰まり 毛穴が何らかの理由で閉塞すると、毛包の一部が袋状に変化し、粉瘤が形成されることがあります。特に、脇の下のような毛の多い部位では、このメカニズムで粉瘤ができやすいと考えられています。
外傷の影響 皮膚への外傷がきっかけとなって、表皮が皮膚の内部に押し込まれ、粉瘤が形成されることがあります。
粉瘤の発生に関わる要因
粉瘤の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、以下のような要因が関係していると考えられています。
体質・遺伝的要因 粉瘤ができやすい体質というものが存在する可能性があります。家族内で複数の人が粉瘤を経験している場合もあり、遺伝的な要素が関与している可能性が示唆されています。
毛包の異常 毛包の構造的な異常や、毛包の炎症が粉瘤の発生に関係している可能性があります。
ホルモンの影響 思春期以降に粉瘤が増える傾向があることから、ホルモンバランスが粉瘤の発生に何らかの影響を与えている可能性が考えられています。
外的刺激 脇の下の場合、以下のような外的刺激が粉瘤の発生に関係している可能性があります。
- カミソリや毛抜きによる脱毛処理
- 制汗剤やデオドラント製品の過度な使用
- 衣服による摩擦
- 外傷や虫刺され
皮膚疾患の合併 ニキビ(尋常性痤瘡)や毛嚢炎などの皮膚疾患がある場合、粉瘤ができやすくなることがあります。
炎症を起こす原因
通常の粉瘤が炎症性粉瘤に変化する原因としては、以下が挙げられます。
細菌感染 粉瘤の開口部から細菌(主に黄色ブドウ球菌など)が侵入し、内部で繁殖することで炎症を起こします。
破裂による刺激 粉瘤が破裂すると、内容物が周囲の組織に漏れ出し、異物反応として炎症を引き起こします。
外部からの圧迫 粉瘤を無理に押したり潰そうとしたりすると、袋が破れて炎症を引き起こす原因となります。
粉瘤の診断方法
問診と視診
粉瘤の診断は、まず問診と視診から始まります。
問診 医師は以下のような質問をします。
- いつ頃からしこりに気づいたか
- 大きさの変化はあるか
- 痛みや赤みなどの症状はあるか
- 過去に同じような症状があったか
- 家族に同様の症状の人はいるか
視診 医師は患部を観察し、以下の点をチェックします。
- しこりの大きさ、形、色
- 開口部(へそ)の有無
- 皮膚表面の状態
- 炎症の有無
触診
触診では、以下の点を確認します。
硬さと可動性 粉瘤は通常、柔らかく、指で押すと皮膚の下で動く感触があります。ただし、炎症を起こしている場合は硬くなり、可動性が低下します。
圧痛の有無 炎症のない粉瘤は通常痛みがありませんが、炎症性粉瘤では強い圧痛があります。
波動感 大きな粉瘤や膿が溜まった炎症性粉瘤では、触診で内容物が動く感触(波動感)を感じることがあります。
画像検査
必要に応じて、以下のような画像検査が行われることがあります。
超音波検査(エコー検査) 超音波検査では、粉瘤の大きさ、位置、内部構造を詳しく観察できます。袋状の構造や内容物の性状を確認することができ、他の疾患との鑑別にも有用です。
MRI検査 大きな粉瘤や深い位置にある粉瘤、周囲組織との関係を詳しく調べる必要がある場合に、MRI検査が行われることがあります。
他の疾患との鑑別
脇の下のしこりは、粉瘤以外にもさまざまな原因で生じることがあるため、適切な鑑別診断が重要です。
リンパ節腫大 脇の下にはリンパ節が多く存在するため、感染症や他の疾患によってリンパ節が腫れることがあります。粉瘤よりも硬く、可動性が少ないのが特徴です。
脂肪腫 脂肪組織が増殖してできる良性腫瘍です。粉瘤よりも柔らかく、開口部がないのが特徴です。
毛嚢炎・せつ(おでき) 毛穴に細菌が感染して炎症を起こした状態です。炎症性粉瘤と似た症状を呈しますが、粉瘤のような袋状の構造はありません。
悪性腫瘍 まれですが、悪性リンパ腫や他のがんの可能性も考慮する必要があります。硬く、固定性で、急速に大きくなる場合は注意が必要です。
病理検査
摘出した粉瘤は、病理検査に提出されることが一般的です。顕微鏡で組織を観察することで、確定診断を行うとともに、悪性の変化がないかを確認します。
粉瘤の治療法
治療の基本方針
粉瘤の治療における基本的な考え方について説明します。
根治には手術が必要 粉瘤を完全に治すためには、袋ごと摘出する手術が必要です。内容物だけを取り除いても、袋が残っている限り再発します。
炎症がない時期の手術が理想的 粉瘤が炎症を起こしていない時期に手術を行うのが理想的です。炎症がある状態では組織が脆くなっており、手術が困難になったり、傷跡が残りやすくなったりします。
炎症時はまず炎症を抑える 炎症性粉瘤の場合、まず抗生物質の投与や切開排膿によって炎症を抑え、その後、炎症が落ち着いてから根治手術を行うのが一般的です。
非炎症時の治療
炎症を起こしていない粉瘤に対する治療法について説明します。
経過観察 小さく、症状のない粉瘤の場合、すぐに手術をせず経過観察を選択することもあります。ただし、粉瘤は自然に治ることはなく、徐々に大きくなる可能性があるため、定期的な診察が必要です。
手術による摘出 粉瘤の根治的治療は手術による摘出です。以下のような手術方法があります。
小切開摘出術(従来法) 粉瘤の表面を紡錘形に切開し、袋ごと完全に摘出する方法です。確実に袋を摘出できるため、再発率が低いのが利点です。切開線がやや長くなるため、傷跡が残る可能性があります。
くりぬき法(へそ抜き法) 粉瘤の中心部(へそ)を円形のメスでくりぬき、その穴から内容物と袋を摘出する方法です。切開が小さくて済むため、傷跡が目立ちにくいという利点があります。ただし、袋の一部が残ると再発のリスクがあります。
手術の流れ
- 局所麻酔:患部に局所麻酔薬を注射します。麻酔時には多少の痛みがありますが、麻酔が効けば手術中の痛みはほとんどありません。
- 切開:選択した方法で皮膚を切開します。
- 袋の剥離:粉瘤の袋を周囲の組織から丁寧に剥がしていきます。
- 摘出:袋を破らないように注意しながら完全に摘出します。
- 縫合:傷を縫い合わせます。細い糸で丁寧に縫合することで、傷跡を最小限に抑えます。
- 圧迫:血腫を予防するために、術後しばらく圧迫します。
手術時間 粉瘤の大きさや位置にもよりますが、通常15分から30分程度で終了します。
手術後の経過
- 抜糸:通常、術後7日から14日程度で抜糸を行います。脇の下は動きの多い部位なので、やや長めの期間糸を残すこともあります。
- 日常生活:手術当日から通常の生活が可能ですが、激しい運動は1〜2週間程度控えることが推奨されます。
- 傷跡:術後数ヶ月は赤みが残りますが、時間とともに徐々に目立たなくなっていきます。
炎症時の治療
炎症を起こした粉瘤(炎症性粉瘤)に対する治療について説明します。
抗生物質の投与 炎症が軽度の場合、まず抗生物質の内服や外用薬で様子を見ることがあります。ただし、抗生物質は感染による炎症を抑える効果はありますが、粉瘤そのものを治すことはできません。
切開排膿 膿が溜まって腫れが大きくなっている場合、切開して膿を排出する処置(切開排膿)を行います。
- 局所麻酔を行う
- メスで小さく切開する
- 膿を排出する
- 創部を洗浄する
- 必要に応じてドレーン(排膿管)を留置する
切開排膿によって痛みや腫れは速やかに改善しますが、これは対症療法であり、根治的な治療ではありません。袋は残っているため、炎症が落ち着いてから改めて摘出手術を行う必要があります。
炎症後の根治手術 切開排膿や抗生物質治療で炎症が落ち着いてから、通常2〜3ヶ月後に根治的な摘出手術を行います。炎症後は組織が硬くなっていることがあり、袋の剥離が困難な場合もありますが、再発を防ぐためには袋の完全摘出が重要です。
再発について
粉瘤の再発について知っておくべきことを説明します。
再発の原因 粉瘤が再発する主な原因は、手術時に袋の一部が残ってしまうことです。特に炎症を起こした後の手術では、組織が癒着していたり脆くなっていたりして、袋を完全に摘出することが難しくなります。
再発率 適切に手術が行われた場合、再発率は非常に低く、5%以下とされています。ただし、炎症性粉瘤の場合や、くりぬき法を用いた場合は、やや再発率が高くなる傾向があります。
再発時の対処 再発した場合も、再度手術による摘出が必要になります。再発粉瘤は初回よりも癒着が強く、手術が困難になることがあります。
脇の下の粉瘤の予防と日常生活での注意点
粉瘤の予防
粉瘤を完全に予防することは難しいですが、以下のような対策でリスクを減らすことができます。
適切な脱毛・除毛方法
カミソリによるダメージを減らす工夫をしましょう。
- シェービングクリームやジェルを使用する
- 清潔な新しい刃を使う
- 毛の流れに沿って剃る
- 剃った後は保湿する
可能であれば、医療脱毛やサロン脱毛など、肌への負担が少ない方法を検討するのも良いでしょう。
清潔の保持
脇の下を清潔に保つことが重要です。
- 毎日入浴し、石鹸で優しく洗う
- 汗をかいたらこまめに拭く
- 通気性の良い衣類を選ぶ
ただし、過度な洗浄は皮膚のバリア機能を損なう可能性があるため、適度な清潔を心がけましょう。
制汗剤・デオドラントの適切な使用
制汗剤やデオドラント製品は、使いすぎると毛穴を詰まらせる原因になることがあります。
- 必要最小限の使用にとどめる
- 肌に優しい製品を選ぶ
- 使用後は入浴時にしっかり洗い流す
摩擦の軽減
脇の下への摩擦を減らす工夫も大切です。
- サイズの合った、ゆったりした衣服を選ぶ
- 縫い目が脇に当たらないデザインを選ぶ
- 長時間の激しい運動後は、早めに着替える
外傷に注意
脇の下を傷つけないように注意しましょう。
- 虫刺されを掻きむしらない
- 鋭利なものに気をつける
健康的な生活習慣
全身の健康を保つことも、皮膚の健康につながります。
- バランスの取れた食事
- 十分な睡眠
- ストレス管理
- 適度な運動
粉瘤がある場合の日常生活での注意点
すでに粉瘤ができている場合、以下の点に注意しましょう。
触らない・潰さない
粉瘤を触ったり、押したり、潰そうとしたりしてはいけません。
- 細菌感染のリスクが高まる
- 炎症を引き起こす
- 内容物が周囲に広がり、治療が困難になる
清潔を保つ
粉瘤がある部位は特に清潔に保ちましょう。ただし、強くこすらないように注意してください。
経過観察
粉瘤の状態を定期的にチェックしましょう。
- 大きさの変化
- 痛みや赤みの出現
- 分泌物の有無
これらの変化があれば、早めに医療機関を受診してください。
適切なタイミングでの受診
小さく症状のない粉瘤でも、以下のような場合は早めに受診することをおすすめします。
- 徐々に大きくなってきている
- 見た目が気になる
- 動作時に違和感がある
- 衣服に当たって気になる
炎症を起こす前の段階で手術を受ければ、傷跡も小さく、治療もスムーズです。
炎症の兆候を見逃さない
以下のような症状が現れたら、すぐに医療機関を受診してください。
- 急に大きく腫れた
- 赤みが出てきた
- 強い痛みがある
- 熱を持っている
- 発熱がある
早期に適切な治療を受けることで、症状の悪化を防ぐことができます。

よくある質問
A. 粉瘤は良性腫瘍であり、基本的にがん化することはほとんどありません。ただし、非常にまれに、長期間放置された大きな粉瘤が悪性化したという報告があります。また、最初から悪性腫瘍であったものを粉瘤と誤診している可能性もゼロではありません。心配な場合は、必ず医師の診察を受け、必要に応じて病理検査を行うことが大切です。
A. 絶対にやめてください。自分で内容物を出そうとすると、以下のようなリスクがあります。
細菌感染を起こし、炎症性粉瘤になる
内容物が周囲の組織に広がり、治療が困難になる
袋が残るため必ず再発する
傷跡が残る
粉瘤を根治させるには、袋ごと摘出する必要があります。必ず医療機関で適切な治療を受けてください。
A. 炎症を起こしている最中の粉瘤は、通常すぐには根治手術を行いません。炎症時は組織が脆く、袋を完全に摘出することが困難であり、傷跡も残りやすくなります。まず切開排膿や抗生物質で炎症を抑え、2〜3ヶ月後に改めて根治手術を行うのが一般的です。
ただし、最近では炎症期の粉瘤に対しても、特殊な技術を用いて一期的に摘出を行う方法も開発されています。治療方針については、担当医とよく相談してください。
Q4. 手術の傷跡は残りますか?
A. 手術後の傷跡については、以下のような要因が影響します。
- 手術方法:くりぬき法の方が傷跡は小さくなりますが、再発リスクがやや高くなります
- 粉瘤の大きさ:大きな粉瘤ほど切開も大きくなり、傷跡も目立ちやすくなります
- 炎症の有無:炎症を起こした後の手術は傷跡が残りやすい傾向があります
- 個人の体質:ケロイド体質の方は傷跡が目立ちやすくなります
脇の下は通常衣服に隠れる部位であり、また皮膚の緊張が少ない部位なので、丁寧に縫合すれば傷跡は比較的目立ちにくくなります。時間の経過とともに傷跡は徐々に薄くなっていきます。
Q5. 粉瘤の手術に保険は適用されますか?
A. はい、粉瘤の摘出手術は保険適用となります。具体的な費用は、粉瘤の大きさや手術方法によって異なりますが、3割負担の場合、通常数千円から1万円程度です。ただし、美容目的での手術や、特殊な方法を希望する場合は、自費診療となることがあります。
Q6. 脇の下の粉瘤とリンパ節の腫れはどう見分けますか?
A. 以下のような違いがあります。
粉瘤の特徴:
- 皮膚表面近くにある
- 開口部(へそ)が見られることがある
- 柔らかく、よく動く
- ゆっくりと大きくなる
リンパ節腫大の特徴:
- より深い位置にある
- 開口部はない
- やや硬く、可動性が少ない
- 感染症などに伴い、急に腫れることがある
ただし、これらは一般的な違いであり、確実に鑑別するには医師の診察が必要です。心配な場合は必ず医療機関を受診してください。
Q7. 手術後、いつから運動や入浴ができますか?
A. 一般的な目安は以下の通りです。
入浴:
- 手術当日:シャワーは可能ですが、傷口を濡らさないように注意
- 翌日以降:防水テープで保護すればシャワー可能
- 抜糸後:通常通りの入浴が可能
運動:
- 軽い運動:数日後から可能
- 激しい運動:1〜2週間程度控える
- 抜糸後:徐々に通常の運動を再開
脇の下は動きの多い部位なので、傷の治りを見ながら徐々に活動範囲を広げていくことが大切です。具体的な時期については、担当医の指示に従ってください。
Q8. 粉瘤は放置してはいけませんか?
A. 粉瘤は良性腫瘍なので、すぐに命に関わることはありません。しかし、放置すると以下のようなリスクがあります。
- 徐々に大きくなる
- 炎症を起こして激しい痛みが生じる
- 大きくなってから手術すると、傷跡が大きくなる
- 日常生活に支障をきたす
小さいうちに手術を受ければ、傷跡も小さく、治療もスムーズです。気になる場合は早めに医療機関を受診することをおすすめします。
まとめ
脇の下にできる粉瘤は、決して珍しい病気ではありません。多くの人が経験する可能性のある良性の皮膚腫瘍です。重要なポイントをまとめます。
粉瘤の特徴
- 皮膚の下にできる袋状の構造物で、内部に老廃物が溜まる良性腫瘤
- 自然に治ることはなく、完治には袋ごと摘出する手術が必要
- 脇の下は粉瘤ができやすい部位の一つ
症状と経過
- 初期は小さく痛みのないしこりとして現れる
- 徐々に大きくなる傾向がある
- 細菌感染を起こすと、赤く腫れて強い痛みを伴う
治療
- 炎症のない時期の手術が理想的
- 炎症時はまず炎症を抑える治療を行い、落ち着いてから根治手術を行う
- 適切に手術を行えば再発率は低い
日常生活での注意
- 適切な脱毛・除毛方法を選ぶ
- 清潔を保つが、過度な刺激は避ける
- 粉瘤を触ったり潰したりしない
- 炎症の兆候があればすぐに受診
受診のタイミング
- 脇の下にしこりを見つけたら、早めに皮膚科を受診
- 小さいうちに治療すれば、傷跡も小さく済む
- 炎症の兆候(赤み、腫れ、痛み)があればすぐに受診
粉瘤は適切に治療すれば完治する病気です。自己判断で放置したり、自分で処置しようとしたりせず、必ず医療機関で適切な診断と治療を受けることが大切です。
脇の下に気になるしこりを見つけたら、「たかが粉瘤」と軽視せず、早めに医師に相談しましょう。早期発見・早期治療が、快適な日常生活を取り戻す近道です。
参考文献
本記事の作成にあたり、以下の文献を参考にしました。
- 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A」
https://www.dermatol.or.jp/qa/ - 国立がん研究センター がん情報サービス「良性腫瘍について」
https://ganjoho.jp/ - 日本形成外科学会「形成外科で扱う疾患」
https://jsprs.or.jp/ - 厚生労働省 e-ヘルスネット「皮膚の構造と機能」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/ - 「標準皮膚科学」医学書院
- 「あたらしい皮膚科学」中山書店
- 「形成外科診療ガイドライン」日本形成外科学会編
※ 本記事は医学的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務