はじめに
突然めまいや冷や汗に襲われ、意識が遠のいて倒れてしまう。このような経験をしたことはありませんか?実はこれ、「迷走神経反射」という体の自然な反応かもしれません。
迷走神経反射は、決して珍しい症状ではありません。人生で一度は経験する人が多く、特に若い世代に多く見られる現象です。しかし、なぜ同じような状況でも倒れてしまう人とそうでない人がいるのでしょうか?
本記事では、迷走神経反射になりやすい人の特徴を中心に、そのメカニズムから予防法、対処法まで、医学的な観点から詳しく解説していきます。アイシークリニック上野院での診療経験も踏まえながら、皆さまの健康管理にお役立ていただける情報をお届けします。

迷走神経反射とは?基本を理解しよう
迷走神経反射の定義
迷走神経反射(vasovagal syncope)は、血管迷走神経性失神とも呼ばれ、一時的に脳への血流が減少することで意識を失う状態を指します。医学的には「神経調節性失神」の一種に分類され、失神の中で最も頻度が高いタイプです。
この現象は、自律神経系のバランスが一時的に崩れることで起こります。具体的には、迷走神経(副交感神経の一部)が過剰に働き、心拍数の低下と血管の拡張が同時に起こることで、血圧が急激に下がり、脳への血流が不足してしまうのです。
迷走神経の役割
迷走神経は、私たちの体を無意識にコントロールする自律神経系の重要な一部です。脳から始まり、首、胸、腹部へと広がる長い神経で、以下のような重要な機能を担っています。
- 心拍数の調整
- 消化器官の活動制御
- 血管の収縮・拡張のコントロール
- 呼吸のリズム調整
通常、迷走神経は体をリラックスさせる方向に働きますが、何らかの刺激によって過剰に反応すると、心拍数が急激に下がり、血管が広がりすぎて血圧が低下します。これが迷走神経反射のメカニズムです。
迷走神経反射のメカニズム|体の中で何が起きているのか
自律神経のバランスが崩れる瞬間
私たちの体は、交感神経と副交感神経という2つの自律神経によってバランスを保っています。交感神経は「戦うか逃げるか」の反応を司り、心拍数を上げ、血圧を上昇させます。一方、副交感神経(迷走神経を含む)は体をリラックスさせ、心拍数を下げ、消化を促進します。
迷走神経反射が起こるとき、体内では以下のような連鎖反応が発生しています。
- トリガーとなる刺激:痛み、恐怖、長時間の立位、暑さなどの刺激を受ける
- 迷走神経の過剰反応:刺激に対して迷走神経が過度に活性化される
- 心拍数の低下:心臓の拍動が急激に遅くなる(徐脈)
- 血管の拡張:末梢血管が広がり、血液が体の下部に溜まる
- 血圧の急降下:心臓から送り出される血液量が減少し、血圧が下がる
- 脳血流の減少:脳に十分な血液が届かなくなる
- 意識レベルの低下:めまい、ふらつき、そして失神
なぜ体はこのような反応をするのか
進化の観点から見ると、迷走神経反射は生存のための防御機構だったと考えられています。例えば、大きな出血が起こったとき、血圧を下げることで出血量を減らすことができます。また、極度のストレス状況下で一時的に「動かなくなる」ことで、捕食者から逃れる可能性が高まるという説もあります。
しかし現代社会では、このような反応が必ずしも有利に働くわけではありません。むしろ、日常生活の中で予期せず起こることで、けがや事故につながるリスクがあります。
迷走神経反射の症状|前兆から回復まで
前駆症状(失神前の兆候)
迷走神経反射による失神の多くは、いきなり意識を失うのではなく、その前に警告サインがあります。これらの前駆症状を知っておくことで、倒れる前に座ったり横になったりする時間的余裕が生まれます。
典型的な前駆症状には以下のようなものがあります。
- 視覚の変化:視界が白くぼやける、暗くなる、チカチカする、視野が狭くなる
- めまい・ふらつき:立っていられない感じ、グルグル回る感じ
- 冷や汗:急に全身から汗が噴き出す
- 顔面蒼白:血の気が引いて顔色が悪くなる
- 吐き気:胃のあたりがムカムカする
- 耳鳴り:キーンという高音が聞こえる
- 脱力感:体の力が抜ける感じ
- あくび:突然あくびが出る
- 動悸:心臓がドキドキする、または逆に弱々しく感じる
これらの症状は、失神の数秒から数分前に現れることが多いです。人によって現れる症状は異なりますが、自分のパターンを知っておくことが予防につながります。
失神時の状態
意識を失っている時間は、通常数秒から1分程度です。長くても2〜3分以内には自然に回復することがほとんどです。失神中、体は以下のような状態になります。
- 筋肉の緊張が完全に失われる(脱力)
- 呼吸は通常浅くなるが続いている
- 脈は弱く遅くなっている
- 顔色は非常に悪い(蒼白または青白い)
- 時に手足がピクピクと痙攣様の動きをすることがある(てんかんとは異なる)
回復期の症状
意識が戻った後も、しばらくは以下のような症状が続くことがあります。
- 全身の脱力感、疲労感
- 頭がぼんやりする
- 軽い頭痛
- 吐き気
- 汗をかいている
- 顔色が悪い
回復には個人差がありますが、通常は数分から数時間で元の状態に戻ります。ただし、倒れた際に頭を打ったり、けがをしたりしていないか確認が必要です。
迷走神経反射になりやすい人の特徴|8つのポイント
ここからが本記事の核心部分です。同じような状況でも、迷走神経反射を起こしやすい人とそうでない人がいます。医学研究により、なりやすい人にはいくつかの共通した特徴があることがわかっています。
1. 年齢的特徴|若年層に多い傾向
迷走神経反射は、特に10代から30代の若年層に多く見られます。日本循環器学会のデータによると、初めて失神を経験する年齢のピークは15歳前後とされています。
なぜ若い人に多いのか?
- 自律神経系がまだ成熟していない
- 血圧調節機能が発達途中
- 急激な身長の伸びに血管系の発達が追いつかない
- ホルモンバランスの変動が大きい
- ストレスへの対処能力が未熟
ただし、若い時期に迷走神経反射を経験した人の多くは、年齢を重ねるにつれて症状が軽減または消失する傾向があります。これは、自律神経系が成熟し、体の調節機能が安定してくるためと考えられています。
2. 性別|女性の方がやや多い
統計的に見ると、迷走神経反射は女性にやや多い傾向があります。男女比は約1:2で女性が多いとする研究もあります。
女性に多い理由
- ホルモン変動の影響(月経周期、妊娠など)
- 一般的に男性より血圧が低め
- 自律神経の反応性が高い
- 体格的に循環血液量が少ない
特に月経前や月経中は、ホルモンバランスの変化や貧血傾向により、迷走神経反射を起こしやすくなります。また、妊娠初期も子宮への血流増加により、脳への血流が相対的に不足しやすくなります。
3. 体型的特徴|やせ型・低血圧の人
やせ型で低血圧の人は、迷走神経反射を起こしやすい傾向があります。
理由
- もともとの血圧が低いため、さらに下がると脳血流が維持できない
- 循環血液量が少ない
- 筋肉量が少なく、血液を心臓に戻すポンプ作用が弱い
- 血管の緊張度が低い
特にBMI(体格指数)が18.5未満のやせ型の人、普段から血圧が90/60mmHg以下の人は注意が必要です。朝起きたときにめまいやふらつきを感じやすい人も、低血圧傾向がある可能性があります。
4. 自律神経の特徴|敏感なタイプ
自律神経の反応性が高い、つまり外部刺激に対して敏感に反応しやすい体質の人は、迷走神経反射を起こしやすいです。
自律神経が敏感な人の特徴
- ちょっとしたストレスで動悸や発汗がある
- 緊張しやすく、人前で顔が赤くなりやすい
- 乗り物酔いしやすい
- 温度変化に敏感
- 睡眠リズムが乱れやすい
- 胃腸の調子が気分や環境で変わりやすい
このような特徴がある人は、自律神経が外部刺激に対して過剰に反応しやすく、迷走神経反射も起こしやすい体質と言えます。
5. 生活習慣|睡眠不足・脱水・疲労
日々の生活習慣も、迷走神経反射の起こしやすさに大きく影響します。特に以下の状態にある人は注意が必要です。
リスクを高める生活習慣
- 睡眠不足:自律神経のバランスが乱れる
- 慢性的な疲労:体の調節機能が低下
- 水分不足:循環血液量が減少
- 朝食抜き:血糖値が低く、エネルギー不足
- 過度なダイエット:栄養不足、血糖値の低下
- 運動不足:心肺機能や血管の調節能力の低下
- 不規則な生活:自律神経のリズムが乱れる
特に若い女性の場合、過度なダイエットと睡眠不足が重なることで、迷走神経反射のリスクが高まります。
6. 既往歴・体質|過去の経験者
一度でも迷走神経反射を経験したことがある人は、再び起こす可能性が高いことが知られています。
統計的には、初回の失神を経験した人の約30〜50%が、その後も繰り返し失神を起こすとされています。これは、一度反射が起きると、脳がその反応パターンを「学習」してしまい、同様の刺激に対して再び反応しやすくなるためと考えられています。
また、以下のような体質や既往のある人も注意が必要です。
- 起立性調節障害の診断を受けたことがある
- 貧血傾向がある
- 片頭痛持ち
- 過敏性腸症候群などの自律神経関連の症状がある
7. 心理的要因|不安・恐怖・ストレス
心理的な要因も、迷走神経反射の重要なトリガーとなります。
心理的に起こしやすい人
- 不安症傾向がある
- 恐怖心が強い
- ストレスを溜めやすい
- 完璧主義的な性格
- 心配性
- 過去のトラウマがある(医療行為への恐怖など)
特に医療機関での採血や注射の際に失神する人の多くは、「痛み」そのものよりも「痛みへの恐怖」や「針への恐怖」が主な原因となっています。これは、心理的ストレスが自律神経に直接影響を与えることを示しています。
8. 遺伝的要因|家族歴
近年の研究では、迷走神経反射には遺伝的な要素があることも示唆されています。
家族に失神しやすい人がいる場合、自分も迷走神経反射を起こしやすい可能性があります。これは、自律神経の反応性や血圧調節のメカニズムに関わる遺伝子が関与している可能性があるためです。
親や兄弟姉妹が若い頃に失神を経験している場合は、自分も同様の体質を持っている可能性を考慮し、予防策を意識しておくことが大切です。
迷走神経反射が起こりやすい具体的なシーン
なりやすい人の特徴を理解したところで、次は「どんな状況で起こりやすいか」を見ていきましょう。
医療行為に関連するシーン
医療機関での迷走神経反射は非常に多く、特に以下のような場面で頻発します。
採血・注射
- 針を刺す瞬間の痛み
- 血を見ることへの恐怖
- 医療行為そのものへの不安
- 長時間待たされた後の緊張
内視鏡検査
- 喉の違和感や不快感
- 処置への恐怖
- 息苦しさ
歯科治療
- 痛みや振動への刺激
- 長時間口を開けていることでの緊張
- 治療への不安
アイシークリニック上野院でも、処置前後の患者さまの体調管理には特に注意を払っています。過去に採血などで気分が悪くなった経験がある方は、必ず事前にお申し出ください。
日常生活でのシーン
長時間の立位
- 朝礼や式典での長時間の起立
- 満員電車の中
- コンサートやイベントでの立ち見
- 行列での長時間待機
特に暑い環境や換気の悪い場所での長時間立位は、リスクが高まります。
排泄に関連
- 排尿時(特に夜間、男性に多い)
- 排便時のいきみ
- 便秘で強くいきんだとき
環境要因
- 暑い場所に長時間いる
- 風呂上がり
- 暑い日の屋外活動
- サウナ
- 人混みの中
身体的要因
- 急に立ち上がったとき
- 長時間の絶食後
- 激しい運動の直後
- 強い痛みを感じたとき
- 激しい咳や嘔吐
心理的要因
- 衝撃的なニュースを聞いたとき
- 事故や怪我の現場を目撃
- 強いストレスや緊張
- 恐怖を感じる状況
迷走神経反射を予防する方法|日常でできる対策
なりやすい体質だからといって、諦める必要はありません。日々の生活習慣や意識的な対策により、迷走神経反射を予防したり、頻度を減らしたりすることが可能です。
基本的な生活習慣の改善
1. 十分な水分摂取
水分不足は循環血液量を減少させ、迷走神経反射のリスクを高めます。
- 1日1.5〜2リットルの水分摂取を目標に
- 特に朝起きた時と運動前後は意識的に水分補給
- カフェインやアルコールは利尿作用があるため、摂取後は追加の水分補給を
- スポーツドリンクなど電解質を含む飲料も効果的
2. 十分な睡眠
睡眠不足は自律神経のバランスを乱します。
- 毎日7〜8時間の睡眠を確保
- 規則正しい就寝・起床時間
- 睡眠の質を高める(寝室環境の整備、就寝前のスマホを控えるなど)
3. 規則正しい食事
特に朝食は重要です。
- 3食きちんと食べる
- 朝食を抜かない(血糖値の維持)
- バランスの取れた栄養摂取
- 塩分を適度に摂取(低血圧の人は特に)
- 鉄分の摂取(貧血予防)
4. 適度な運動
運動は血管の調節機能を高めます。
- 週3〜4回、30分程度の有酸素運動
- ウォーキング、ジョギング、水泳など
- 下半身の筋力トレーニング(血液を心臓に戻すポンプ機能の強化)
体位変換時の注意
起立性の迷走神経反射を防ぐテクニックです。
ゆっくりと段階的に立ち上がる
- 座った状態から、まず足を動かす
- 深呼吸をする
- ゆっくり立ち上がる
- 立ち上がったら数秒その場に留まる
朝起きるとき
- 目が覚めても急に起きない
- ベッドの上で手足を動かす
- 一度座位になる
- 30秒〜1分待ってから立ち上がる
長時間立位での対策
下肢の筋肉を使う
- 足踏みをする
- かかとの上げ下げ
- 足の指を動かす
- 重心を左右に移す
- 太ももに力を入れたり抜いたりする
これらの動作により、下肢に溜まった血液を心臓に戻すことができます。
弾性ストッキングの活用
- 医療用の着圧ストッキングを着用
- 下肢への血液の停滞を防ぐ
- 特に長時間立つ必要がある場合に有効
環境への配慮
暑い環境を避ける
- 室温の調整
- 直射日光を避ける
- こまめな換気
- 暑い場所での長時間滞在を避ける
人混みを避ける
- 可能な限り空いている時間帯を選ぶ
- 出口に近い場所にいる
- 換気の良い場所を選ぶ
心理的な準備とコントロール
不安への対処
- 深呼吸やリラクゼーション技法の練習
- 過去の失神経験を過度に恐れない
- 医療行為の際は、不安を医療者に伝える
認知行動療法的アプローチ
- 「また倒れるかもしれない」という不安自体がトリガーになることも
- 過度な心配をしすぎない
- 前駆症状が出ても冷静に対処できるようイメージトレーニング
医療機関での対策
採血・注射時
- 過去の経験を医療者に必ず伝える
- 可能であれば横になって処置を受ける
- 針を見ない
- 会話で気を紛らわす
- 深呼吸を続ける
- 処置後もすぐに立ち上がらない
迷走神経反射が起きたときの対処法
予防に気をつけていても、前駆症状が現れることはあります。そのときの適切な対処法を知っておくことが重要です。
自分で気づいたとき
前駆症状(めまい、冷や汗、視界の変化など)を感じたら、すぐに以下の行動を取りましょう。
最優先行動:倒れないようにする
- すぐに座る、できれば横になる
- 最も重要なのは頭を打たないこと
- 近くの椅子、ベンチ、床に座る
- 可能であれば完全に横になる
- 頭を低い位置に保つ
- 座った状態なら、頭を膝の間に入れる
- 横になれる場合は、足を高くする(心臓より高い位置)
- これにより脳への血流が改善される
- 深呼吸を続ける
- ゆっくりと深く呼吸
- 呼吸に意識を集中させる
- パニックにならないよう心を落ち着ける
- 周囲に助けを求める
- 声が出せるなら「具合が悪い」と伝える
- ジェスチャーでも良いので周囲に知らせる
してはいけないこと
- 我慢して立ち続ける
- 急いで移動しようとする
- 一人で無理に歩こうとする
- すぐにトイレなど密室に行こうとする
意識を失ってしまったとき(周囲の人の対応)
もし誰かが目の前で倒れた場合、冷静に以下の対応をしましょう。
1. 安全の確保
- 周囲の危険物を取り除く
- 頭を打っていないか確認
2. 体位の調整
- 仰向けに寝かせる
- 足を高くする(20〜30cm程度、椅子やカバンを使って)
- きつい衣服を緩める(ネクタイ、ベルトなど)
3. 気道の確保
- 顔を横向きにする(嘔吐に備えて)
- 口の中に異物がないか確認
4. 観察
- 呼吸をしているか確認
- 顔色を見る
- 時間を計る(通常1〜2分で回復)
5. 回復を待つ
- 無理に起こそうとしない
- 水を飲ませようとしない(誤嚥の危険)
- 意識が戻るまで安静に
6. 回復後
- すぐに立たせない
- 少なくとも5〜10分は横になったまま
- 徐々に座位へ
- 水分補給
- しばらく様子を見る
救急車を呼ぶべき状況
迷走神経反射自体は危険な状態ではありませんが、以下の場合は救急車を呼ぶか、医療機関を受診する必要があります。
すぐに救急車を呼ぶべき状況
- 意識が戻らない(5分以上)
- 呼吸をしていない
- 明らかなけいれんが続く
- 胸痛を訴える
- 激しい頭痛を訴える
- 頭を強く打った
- 明らかな外傷がある
- 高齢者の場合
- 心臓病などの持病がある人
医療機関の受診を検討すべき状況
- 初めての失神
- 繰り返し失神する(週に何度も)
- 前駆症状なく突然倒れた
- 失神中の時間が長かった(2分以上)
- 運動中に起きた
- 横になった状態で起きた
- 家族歴に心臓病や突然死がある
迷走神経反射と他の病気との見分け方
失神には様々な原因があり、中には重大な病気が隠れていることもあります。迷走神経反射と他の失神を見分けるポイントを知っておきましょう。
迷走神経反射の特徴
- 明確なトリガーがある(採血、長時間立位、痛みなど)
- 前駆症状がある(めまい、冷や汗、視界の変化など)
- 若年者に多い
- 回復が速い(1〜2分)
- 回復後は通常通り
- 横になると症状が改善
注意が必要な失神
心臓性失神
- 運動中や労作中に起こる
- 前駆症状がほとんどない(突然倒れる)
- 動悸や胸痛を伴うことがある
- 家族歴に心臓病や若年での突然死がある
- 高齢者に多い
脳血管障害
- 失神だけでなく、手足のしびれや麻痺がある
- ろれつが回らない
- 激しい頭痛を伴う
- 高齢者、高血圧や糖尿病のある人
てんかん発作
- けいれんが主体
- 意識を失っている時間が長い
- 舌を噛む、失禁することがある
- 回復に時間がかかる
低血糖
- 空腹時、食事を抜いたとき
- 糖尿病の治療中
- 冷や汗、動悸、手の震えなどが先行
これらの疑いがある場合は、必ず医療機関を受診してください。
医療機関での検査と診断
繰り返し失神する場合や、初めての失神で不安がある場合は、医療機関での診察を受けることをお勧めします。
初診での問診
医師は以下のような点を詳しく聞きます。
- 失神時の状況(どこで、何をしていたとき)
- 前駆症状の有無と内容
- 意識を失っていた時間
- 回復までの経過
- 過去の失神歴
- 家族歴
- 持病や服用中の薬
- 生活習慣(睡眠、食事、水分摂取など)
これらの情報が診断に非常に重要ですので、できるだけ詳しく伝えましょう。目撃者がいる場合は、その人の証言も役立ちます。
基本的な検査
身体診察
- 血圧測定(臥位、座位、立位)
- 心拍数の測定
- 心臓の聴診
- 神経学的診察
心電図検査
- 心臓のリズムや波形の異常をチェック
- 不整脈の有無を確認
- 心臓性失神の可能性を評価
血液検査
- 貧血の有無
- 電解質バランス
- 血糖値
- 甲状腺機能など
必要に応じた追加検査
症状や初期検査の結果により、以下のような検査が追加されることがあります。
長時間心電図(ホルター心電図)
- 24時間の心電図を記録
- 不整脈の検出
ヘッドアップティルト試験
- 傾斜台を使って起立時の反応を観察
- 迷走神経反射の診断に有効
- 陽性率は約60〜70%
心臓超音波検査
- 心臓の構造や機能を評価
- 弁膜症や心筋症の除外
脳波検査
- てんかんの可能性を評価
頭部CT・MRI
- 脳血管障害や脳腫瘍の除外
- 頭を強く打った場合

よくある質問と回答
A: 多くの場合、加齢とともに症状は軽減します。特に若年期に経験した人の多くは、20代後半から30代にかけて自然に改善することが多いです。これは自律神経系が成熟し、血圧調節機能が安定してくるためです。ただし、完全に「治る」というよりも、適切な予防策を取ることで発症を避けられるようになると考えた方が良いでしょう。
A: 必ずしもそうではありません。初回の失神後、約50〜70%の人は二度と経験しないというデータもあります。ただし、繰り返す人もいるため、一度経験した人は予防策を知っておくことが大切です。
A: 運転中の失神は重大な事故につながる可能性があります。頻繁に失神を繰り返す場合は、主治医と相談の上、運転を控えるべき期間があるかもしれません。日本では、繰り返す失神がある場合、運転免許の取得や更新に制限がかかる場合があります。
A: はい、妊娠初期から中期にかけては起こりやすくなります。これは、子宮への血流増加により相対的に脳血流が減少しやすいこと、ホルモン変化により血管が拡張しやすいことなどが原因です。妊娠中は特に水分摂取と休息を心がけ、急な立ち上がりを避けましょう。
A: 子どもの場合、症状を上手く説明できないことがあります。「気分が悪い」「お腹が痛い」などと訴えた後に倒れることもあります。学校の朝礼など、長時間立ちっぱなしの場面では特に注意が必要です。予防のために、十分な睡眠と朝食、水分摂取を心がけましょう。
A: 基本的に制限は不要です。むしろ適度な運動は予防に効果的です。ただし、水泳やロッククライミングなど、失神すると危険なスポーツの場合は、単独での実施を避け、必ず誰かと一緒に行うようにしましょう。
A: 迷走神経反射に対する特効薬はありません。生活習慣の改善と予防策が最も効果的です。ただし、非常に頻繁に失神を繰り返し、生活に支障が出る場合は、β遮断薬や抗不安薬などが処方されることもあります。また、低血圧が顕著な場合は昇圧薬が使用されることもあります。
A: 迷走神経反射自体で命を落とすことは極めて稀です。しかし、倒れた際の転倒や転落による外傷、交通事故などの二次的な危険があります。特に高所、階段、道路、駅のホーム、浴室などでの失神は危険です。前駆症状を感じたら、必ず安全な場所で座る・横になることが重要です。
まとめ|迷走神経反射と上手に付き合うために
迷走神経反射は、決して珍しい症状ではなく、多くの人が一度は経験する可能性のあるものです。重要なのは、この反応を正しく理解し、適切に対処することです。
本記事のポイント
- なりやすい人の特徴を知る
- 若年層、女性、やせ型・低血圧
- 自律神経が敏感
- 睡眠不足や脱水などの生活習慣
- 過去の経験者
- 不安やストレスを感じやすい
- 家族歴
- 予防が最も重要
- 十分な水分摂取(1日1.5〜2L)
- 規則正しい睡眠と食事
- ゆっくりとした体位変換
- 長時間立位では下肢を動かす
- 暑い環境や人混みを避ける
- 前駆症状を見逃さない
- めまい、冷や汗、視界の変化を感じたらすぐに座る
- 我慢せず、周囲に助けを求める
- 横になって足を高くする
- 安全第一
- 倒れて頭を打つことが最も危険
- 危険な場所(階段、道路など)では特に注意
- 一人での入浴は避ける時期もある
- 必要時は医療機関へ
- 初めての失神
- 繰り返す失神
- 前駆症状なく突然倒れる
- 他の症状を伴う場合
アイシークリニック上野院からのメッセージ
アイシークリニック上野院では、患者さま一人ひとりの体質や不安に寄り添った診療を心がけています。過去に医療機関で気分が悪くなった経験がある方、不安がある方は、遠慮なくスタッフにお申し出ください。
迷走神経反射は「気持ちの問題」でも「甘え」でもありません。体の自然な反応であり、適切な対処により予防や軽減が可能です。自分の体質を理解し、無理をせず、必要に応じて周囲のサポートを得ることが大切です。
何か気になる症状がある場合は、お気軽にご相談ください。皆さまの健康で安全な日常生活を、私たちはサポートいたします。
参考文献
- 日本循環器学会「失神の診断・治療ガイドライン」 https://www.j-circ.or.jp/guideline/
- 日本小児循環器学会「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン」
- 厚生労働省「e-ヘルスネット:起立性低血圧」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
- 日本自律神経学会「自律神経機能検査」
- 日本内科学会「内科学会雑誌:失神の診断と治療」
- 日本神経学会「神経疾患診療ガイドライン」
- 国立循環器病研究センター「失神について」 https://www.ncvc.go.jp/
- 日本医師会「健康の森:失神」 https://www.med.or.jp/
- 日本心臓財団「心臓病の知識:失神」 https://www.jhf.or.jp/
※本記事は医学的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務