顔の赤みがなかなか消えない、ファンデーションでも隠しきれないクモの巣のような赤い線が気になる…。
そのお悩み、もしかしたら毛細血管拡張症かもしれません。
毛細血管拡張症は、皮膚の表面にある毛細血管が何らかの原因で拡張し、血液が滞ることで赤く透けて見えてしまう状態です。
一度拡張してしまった血管は、残念ながら放置しても自然に治ることはありません。
しかし、適切な治療を受けることで改善が期待できる症状でもあります。
この記事では、皮膚科専門医の監修のもと、毛細血管拡張症の原因から最新の治療法、費用や保険適用まで、皆さまの疑問に詳しくお答えしていきます。
毛細血管拡張症とは?主な症状と特徴
毛細血管拡張症とは、皮膚の真皮層にある毛細血管が異常に拡張し、その形が皮膚表面から透けて見える状態を指します。
いわゆる「赤ら顔」の原因の一つとしても知られています。
主な症状は、皮膚に現れる赤みです。
その見え方によって、以下のようなタイプに分けられます。
- 線状・樹枝状: 1本の線のように見えたり、木の枝のように枝分かれして見えたりする。
小鼻の脇や頬によく見られます。 - クモの巣状: 中心に赤い点があり、そこから放射状に細い血管が広がる。
太ももなどにも見られます。 - 丘疹状: 赤い小さな盛り上がり(丘疹)が見られる。
- びまん性: 特定の形はなく、頬全体などがぼんやりと赤くなる。
いわゆる「赤ら顔」の状態です。
顔の頬や鼻、あご周りをはじめ、脚(太ももやふくらはぎ)など、体の様々な部位に現れる可能性があります。
どのような人が毛細血管拡張症になりやすいか
毛細血管拡張症は、特定の要因を持つ人に発症しやすい傾向があります。
- 皮膚が薄く、色が白い方
- 遺伝的な素因がある方
- 日常的に紫外線を浴びる機会が多い方
- 寒暖差の激しい環境にいることが多い方
- 酒さ(しゅさ)などの皮膚疾患がある方
- 長期間ステロイド外用薬を使用している方
- 妊娠や肝機能の低下など、体内のホルモンバランスや血流に変化があった方
これらの要因が複合的に絡み合って発症すると考えられています。
画像で見る毛細血管拡張症の種類
(※このセクションでは、実際の記事では症例写真が掲載されます)
文章で表現すると、毛細血管拡張症には以下のような見た目の種類があります。
- 単純性/線状毛細血管拡張症: 小鼻の脇などに見られる、1本または数本の赤い線状の血管。
- 樹枝状毛細血管拡張症: 木の枝が広がるように見える血管の拡張。
- クモの巣状血管腫: 赤い点を中心に、クモの足のように細い血管が放射状に伸びる。
子どもにも見られることがあります。 - びまん性毛細血管拡張症: 顔全体が均一に赤く見える、いわゆる「赤ら顔」の状態。
ご自身の症状がどのタイプに近いか確認してみましょう。
毛細血管拡張症の原因と種類
毛細血管拡張症は、その発生原因によって「一次性」と「二次性」の2つに大別されます。
一次性毛細血管拡張症の原因
特定の病気やはっきりとした原因がなく発症するタイプです。
- 体質・遺伝: もともと血管が拡張しやすい体質や、家族歴が関係することがあります。
- 加齢: 年齢とともに皮膚のコラーゲンや弾性線維が減少し、皮膚が薄くなることで血管が透けて見えやすくなります。
- 紫外線: 長年紫外線を浴び続けると、皮膚や血管の壁がダメージを受け、血管が拡張しやすくなります。
- 温度差: 激しい温度差は血管の収縮・拡張を繰り返し、結果的に拡張したまま戻らなくなることがあります。
寒い地域に住む方や、サウナを頻繁に利用する方に多く見られます。
二次性毛細血管拡張症の原因
何らかの病気や薬の使用などが原因となって発症するタイプです。
- 酒さ(しゅさ): 赤ら顔を主症状とする慢性的な皮膚疾患で、毛細血管の拡張を伴います。
- ステロイド外用薬の長期使用: 副作用として皮膚が薄くなったり(皮膚萎縮)、血管が拡張したりすることがあります。
- 膠原病(全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎など): 自己免疫疾患の症状の一つとして現れることがあります。
- 肝機能障害: 肝硬変などにより、クモの巣状血管腫が現れることがあります。
- 妊娠: ホルモンバランスの変化により、一時的に血管が拡張しやすくなることがあります。
二次性の場合は、原因となっている疾患の治療を並行して行うことが重要です。
顔の血管が見える原因
特に顔は毛細血管拡張症が現れやすい部位です。
その理由は、顔の皮膚が他の部位に比べて薄く、常に外気にさらされているためです。
- 皮膚の薄さ: 頬や鼻周りは皮膚が薄く、下の血管が透けて見えやすい。
- 外部刺激: 紫外線、寒暖差、洗顔時の摩擦など、日常的な刺激を受けやすい。
- 皮脂分泌: 鼻周りは皮脂の分泌が活発で、炎症を伴う酒さなどが発症しやすい。
これらの要因が重なり、顔に「赤ら顔」や「浮き出た血管」として症状が現れるのです。
毛細血管拡張症の主な治療法
拡張した毛細血管を根本的に治療するためには、医療機関での専門的な治療が必要です。
主な治療法をご紹介します。
レーザー治療(Vビームなど)
現在の毛細血管拡張症治療において、第一選択となるのがレーザー治療です。
Vビーム(色素レーザー)やIPL(光治療)といった医療機器が用いられます。
これらの治療は、血液中の赤い色素(ヘモグロビン)に選択的に吸収される特定の波長の光を照射し、その熱エネルギーで異常に拡張した血管だけを破壊・閉塞させる仕組みです。
正常な皮膚組織へのダメージを最小限に抑えながら、原因となる血管にだけアプローチできるのが大きなメリットです。
- 治療回数: 症状の程度や範囲によりますが、1回で効果を実感できることもあれば、1〜2ヶ月おきに複数回の治療が必要な場合もあります。
- 痛み・ダウンタイム: 輪ゴムで弾かれるような軽い痛みを感じることがあります。
治療後は数時間〜数日間、赤みや腫れ、内出血(紫斑)が出ることがありますが、徐々に引いていきます。
レーザー治療の失敗例と注意点
非常に効果的なレーザー治療ですが、リスクが全くないわけではありません。
考えられる失敗例としては、「効果が不十分だった」「治療後に色素沈着が起きた」「稀にやけどのような跡が残った」などが挙げられます。
このようなリスクを避けるためには、以下の点が重要です。
- 実績・経験豊富な医師を選ぶこと: 医師の技術や診断力が結果を大きく左右します。
- 自分の症状に合った機器を選ぶこと: 血管の深さや太さに応じて適切なレーザーや設定を選択する必要があります。
- 治療前後のケアを徹底すること: 特に治療前後の日焼けは厳禁です。
医師の指示に従い、保湿など適切なスキンケアを心がけましょう。
カウンセリングで十分な説明を受け、納得した上で治療に臨むことが大切です。
硬化療法(クモの巣状静脈瘤の治療)
硬化療法は、主に足にできるクモの巣状静脈瘤や網目状静脈瘤に対して行われる治療法です。
硬化剤という薬剤を原因血管に直接注射し、血管の内側をくっつけて閉塞させます。
顔の細い毛細血管拡張症に対して行われることは稀で、主に足の静脈瘤が適応となります。
毛細血管拡張症は自力で治せる?市販薬・塗り薬の効果
「病院に行く前に、まず自分で何とかしたい」と考える方も多いでしょう。
しかし、結論から言うと、自力で毛細血管拡張症を完治させることは極めて困難です。
毛細血管拡張症に効く薬はある?
残念ながら、拡張してしまった血管そのものを塗り薬や飲み薬で消し去る効果が認められた市販薬はありません。
皮膚科で処方される薬の中には、ビタミンCやトラネキサム酸などの内服薬、あるいは酒さに伴う炎症を抑えるための塗り薬(メトロニダゾール、アゼライン酸など)があります。
これらはあくまで炎症を抑えたり、肌の状態を整えたり、悪化を防いだりする目的で使われるもので、血管を直接なくす治療ではありません。
ヒルドイドの誤解と注意点
「ヒルドイドが赤ら顔に効く」という情報を耳にすることがあるかもしれませんが、これは誤解です。
ヒルドイドは血行促進作用と保湿作用を持つ医療用医薬品です。
毛細血管拡張症に対して使用すると、血行が促進されることでかえって赤みが目立ってしまう可能性があります。
自己判断での使用は絶対にやめましょう。
自力で治す方法の限界
セルフケアでできることは、症状の悪化を防ぎ、治療後の良い状態を維持することです。
- 紫外線対策: 1年を通して日焼け止めを塗り、帽子や日傘を活用する。
- 保湿: 肌のバリア機能を高めるため、しっかりと保湿する。
- 低刺激のスキンケア: ゴシゴシ擦る洗顔を避け、肌に優しい製品を選ぶ。
- 生活習慣の見直し: 香辛料の強い食事やアルコール、急激な温度変化などを避ける。
これらのケアは非常に重要ですが、これだけで拡張した血管が元に戻ることはありません。
根本的な改善には、やはりレーザー治療などの医療的なアプローチが必要です。
毛細血管拡張症の治療にかかる費用と保険適用
治療を受ける上で気になるのが費用です。
保険が適用されるかどうかは、診断名によって異なります。
保険適用となるケース・ならないケース
原則として、美容目的と判断される場合は自費診療となります。
一方で、医師が病気の治療として必要と判断した場合は保険適用となる可能性があります。
保険適用 | 自費診療(保険適用外) | |
---|---|---|
診断名・症状 | ・単純性血管腫 ・いちご状血管腫 ・酒さ | ・原因が特定できない毛細血管拡張症 ・加齢や紫外線によるもの ・美容的な改善を主目的とする場合 |
治療法 | Vビーム(色素レーザー)治療 | Vビーム、IPL(光治療)など |
特徴 | 3ヶ月に1回のペースで治療が受けられる。 | 治療間隔や回数を自由に設定できる。 最新の治療機器を選択できる場合がある。 |
重要: 最終的に保険が適用されるかどうかは、医師の診察と診断によって決まります。
まずは皮膚科を受診し、ご自身の症状が保険適用の対象となるか相談してみましょう。
治療費用の目安
自費診療でレーザー治療を受ける場合の費用は、クリニックや治療範囲によって大きく異なります。
あくまで目安としてお考えください。
- IPL(光治療) 顔全体: 1回 20,000円~40,000円程度
- Vビーム(色素レーザー):
- 鼻や頬の一部など: 1回 10,000円~30,000円程度
- 顔全体: 1回 30,000円~80,000円程度
治療には複数回の照射が必要になる場合が多いため、総額についてはカウンセリング時にしっかりと確認することが大切です。
毛細血管拡張症に関するよくある質問
毛細血管の拡張はどうやって治すの?
現在、最も効果的で標準的な治療法はレーザー治療です。
Vビームなどの色素レーザーを用いて、拡張した血管のみを選択的に破壊することで症状を改善します。
塗り薬やセルフケアだけで完治させることは難しく、根本治療には医療機関での治療が必要です。
毛細血管拡張症は自然に治る?
残念ながら、一度拡張してしまった毛細血管が自然に収縮して元に戻ることはほとんどありません。
放置すると、時間の経過とともに血管の数が増えたり、範囲が広がったり、赤みが強くなったりする可能性があります。
気になる症状があれば、悪化する前に早めに専門医に相談することをおすすめします。
免責事項:
本記事は情報提供を目的としており、医学的な診断や治療に代わるものではありません。
皮膚に関するお悩みについては、必ず専門の医療機関にご相談ください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年東京大学医学部医学科卒業
- 2009年東京逓信病院勤務
- 2012年東京警察病院勤務
- 2012年東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年東京逓信病院勤務
- 2013年独立行政法人労働者健康安全機構横浜労災病院勤務
- 2015年国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務