多汗症とワキガの違い:原因・症状・治療法を徹底解説

はじめに

汗の悩みは、多くの方が抱えている身近な問題です。特に脇の下の汗やニオイは、日常生活や対人関係に大きな影響を与えることがあります。しかし、「汗が多い」ことと「ニオイが強い」ことは、実は異なる症状であることをご存知でしょうか。

多汗症とワキガ(腋臭症)は、どちらも汗に関連する症状ですが、その原因やメカニズム、そして治療法は大きく異なります。この記事では、多汗症とワキガの違いを詳しく解説し、それぞれの特徴や対処法についてわかりやすくお伝えします。

1. 多汗症とは

1-1. 多汗症の定義

多汗症とは、体温調節に必要な量を超えて、過剰に汗をかいてしまう疾患です。日常生活に支障をきたすほどの発汗が、明らかな原因がないにもかかわらず6ヶ月以上続く場合、多汗症と診断されます。

多汗症は決して珍しい病気ではなく、日本人の約5〜10%が何らかの形で多汗症に悩んでいるとされています。特に思春期から中年期にかけて発症することが多く、男女比はほぼ同等です。

1-2. 多汗症の種類

多汗症は大きく分けて2つのタイプがあります。

原発性多汗症(局所性多汗症)

明確な原因疾患がなく発症する多汗症で、多汗症全体の約90%を占めます。特定の部位に集中して発汗が起こるのが特徴です。

主な発汗部位:

  • 手のひら(手掌多汗症)
  • 足の裏(足底多汗症)
  • 脇の下(腋窩多汗症)
  • 顔・頭部(顔面多汗症、頭部多汗症)

続発性多汗症(全身性多汗症)

他の疾患や薬剤の副作用などが原因で起こる多汗症です。全身的に汗をかくことが多く、原因疾患の治療によって改善することがあります。

原因となる疾患:

  • 甲状腺機能亢進症
  • 糖尿病
  • 更年期障害
  • 結核などの感染症
  • 神経疾患
  • 薬剤の副作用

1-3. 多汗症の原因とメカニズム

多汗症の発汗メカニズムを理解するために、まず汗腺について説明します。

人間の体には2種類の汗腺があります。

エクリン腺

全身に分布する汗腺で、1平方センチメートルあたり約100〜600個存在します。エクリン腺から分泌される汗は、99%以上が水分で、残りはわずかな塩分やミネラルで構成されています。この汗はほぼ無臭で、主に体温調節の役割を担っています。

アポクリン腺

脇の下、外陰部、乳輪など特定の部位にのみ存在する汗腺です。思春期以降に活発に働くようになります。アポクリン腺から分泌される汗には、タンパク質や脂質、糖質などが含まれており、粘り気があるのが特徴です。

多汗症で問題となるのは、主にエクリン腺からの過剰な発汗です。

原発性多汗症の明確な原因はまだ完全には解明されていませんが、以下の要因が関与していると考えられています。

交感神経の過活動

発汗は自律神経の一つである交感神経によってコントロールされています。多汗症の方は、この交感神経が過度に反応しやすい状態にあると考えられています。軽い刺激や精神的ストレスでも、交感神経が過剰に反応し、大量の発汗を引き起こします。

遺伝的要因

多汗症には家族内発症が多く見られることから、遺伝的な要因も関与していると考えられています。実際、多汗症の方の約40〜50%に家族歴があるという報告があります。

精神的・心理的要因

緊張や不安、ストレスなどの精神的な要因が発汗を誘発することがあります。また、「汗をかいてしまったらどうしよう」という不安が、さらなる発汗を招くという悪循環に陥ることもあります。

1-4. 多汗症の症状

多汗症の主な症状は、過剰な発汗です。しかし、その程度は人によって大きく異なります。

重症度の分類

多汗症の重症度は、日常生活への影響度によって以下のように分類されます。

  • レベル1(軽度): 発汗は気になるが、日常生活に支障はない
  • レベル2(中等度): 日常生活に時々支障をきたす
  • レベル3(重度): 日常生活に頻繁に支障をきたす
  • レベル4(最重度): 日常生活に常に支障をきたす

具体的な症状の例

腋窩多汗症(脇の下の多汗症)の場合:

  • 何もしていなくても脇汗が大量に出る
  • 衣服に汗ジミができて目立つ
  • 1日に何度も着替えが必要
  • 淡い色の服が着られない
  • 汗ジミを気にして腕を上げられない

手掌多汗症(手のひらの多汗症)の場合:

  • 常に手のひらが湿っている
  • 紙がすぐに濡れてしまう
  • スマートフォンやパソコンの操作がしにくい
  • 握手を避けるようになる
  • 書類や試験用紙が汗で濡れてしまう

足底多汗症(足の裏の多汗症)の場合:

  • 靴下がすぐに濡れる
  • 素足で歩くと床に足跡がつく
  • 靴の中が蒸れやすく、水虫になりやすい
  • 靴が劣化しやすい

2. ワキガ(腋臭症)とは

2-1. ワキガの定義

ワキガは、医学的には「腋臭症(えきしゅうしょう)」と呼ばれ、脇の下から特有の強いニオイを発する症状です。これは病気というよりも体質の一つと考えられています。

ワキガは人種によって発症率が大きく異なり、欧米人では約70〜90%、黒人では約100%がワキガ体質であるのに対し、日本人では約10〜15%程度とされています。このため、欧米ではワキガは正常な体質と捉えられていますが、日本では少数派であることから、悩みとなることが多いのです。

2-2. ワキガの原因とメカニズム

ワキガのニオイの原因は、アポクリン腺から分泌される汗にあります。

アポクリン腺の特徴

アポクリン腺は、脇の下、外陰部、乳輪、外耳道などに存在する汗腺です。この汗腺から分泌される汗には、以下のような特徴があります。

  • タンパク質、脂質、糖質、アンモニアなどを含む
  • 粘り気があり、白っぽい色をしている
  • 分泌されたばかりの状態では、実はほとんどニオイがない

ニオイが発生するメカニズム

アポクリン腺から分泌された汗そのものは、実はほとんど無臭です。しかし、この汗に含まれる成分が皮膚表面の常在菌(主にコリネバクテリウム属の細菌)によって分解されると、特有の強いニオイを発する物質が生成されます。

具体的には、以下のような化学反応が起こります。

  1. アポクリン腺から汗が分泌される
  2. 汗に含まれるタンパク質や脂質が皮膚表面に付着
  3. 常在菌がこれらの成分を分解
  4. 3-メチル-2-ヘキセン酸などのニオイ物質が生成
  5. 特有の強いニオイが発生

この化学反応によって生成されるニオイ物質が、ワキガ特有の「酸っぱいような」「スパイスのような」と表現される独特のニオイの正体なのです。

ワキガの遺伝

ワキガは優性遺伝すると考えられています。つまり、両親のどちらかがワキガ体質であれば、子どもに遺伝する可能性が高いということです。

遺伝の確率:

  • 両親ともワキガ体質の場合:約75〜80%
  • 片方の親がワキガ体質の場合:約50%
  • 両親ともワキガ体質でない場合:まれ

アポクリン腺の数や大きさは遺伝によって決まっており、これがワキガ体質かどうかを左右します。アポクリン腺が多く、一つ一つの腺が大きい人ほど、ワキガ体質である可能性が高くなります。

2-3. ワキガの症状

ワキガの主な症状は、脇の下からの特有の強いニオイですが、それ以外にも以下のような特徴があります。

主な症状

  1. 特有の強いニオイ
    • 酸っぱいような、スパイスのような独特のニオイ
    • 自分では気づきにくいこともある
    • 他人から指摘されて初めて気づくケースも多い
  2. 衣服への黄ばみ
    • 脇の部分が黄色く変色する
    • これはアポクリン腺の汗に含まれる色素成分によるもの
    • 白い服に特に目立つ
  3. 粘り気のある汗
    • さらっとした汗ではなく、やや粘性のある汗
    • 触るとベタベタした感触がある
  4. 耳垢が湿っている
    • 外耳道にもアポクリン腺が存在するため
    • ワキガ体質の方の約80〜90%に見られる特徴
    • ただし、耳垢が湿っているからといって必ずしもワキガとは限らない
  5. 脇毛に白い粉がつく
    • アポクリン腺の分泌物が結晶化したもの

ワキガのセルフチェック

以下の項目に多く当てはまる場合、ワキガ体質の可能性があります。

□ 両親のどちらか、または両方がワキガ体質である □ 耳垢が湿っている(飴耳) □ 脇毛が濃く、1つの毛穴から複数の毛が生えている □ 脇毛に白い粉のようなものがつく □ 服の脇の部分が黄ばむ □ 他人から体臭を指摘されたことがある □ 脇汗の量が多い

ただし、これらはあくまで目安であり、正確な診断は医療機関で行う必要があります。

3. 多汗症とワキガの決定的な違い

多汗症とワキガは、どちらも脇の悩みとして混同されがちですが、実は全く異なる症状です。ここでは、両者の違いを明確に解説します。

3-1. 原因となる汗腺の違い

多汗症:エクリン腺からの過剰な発汗が問題 ワキガ:アポクリン腺からの分泌物が原因

これが最も大きな違いです。関与する汗腺が異なるため、症状も対処法も大きく変わってきます。

3-2. 汗の質の違い

多汗症の汗

  • サラサラとした水のような汗
  • 99%以上が水分
  • ほぼ無色透明
  • ほとんどニオイがない
  • 衣服についても黄ばまない

ワキガの汗

  • やや粘り気のある汗
  • タンパク質、脂質、糖質などを含む
  • 白っぽい色をしている
  • 細菌によって分解されると強いニオイを発する
  • 衣服に黄ばみができる

3-3. 主な症状の違い

項目多汗症ワキガ
主な悩み汗の量ニオイ
汗の量非常に多い必ずしも多くない
ニオイほとんどない特有の強いニオイ
衣服の汗ジミ目立つ(無色)あまり目立たない
衣服の黄ばみないある
耳垢の状態関係なし湿っていることが多い

3-4. 発症時期の違い

多汗症

  • 小児期から思春期にかけて発症することが多い
  • 成人してから発症するケースもある
  • 加齢とともに症状が軽減することもある

ワキガ

  • 思春期(第二次性徴期)に発症することがほとんど
  • アポクリン腺は思春期に活発化するため
  • 小学生のうちから症状が現れることは少ない
  • 更年期以降は症状が軽減することが多い

3-5. 両方を併発するケース

多汗症とワキガは別の症状ですが、両方を同時に持っている方も少なくありません。この場合、汗の量もニオイも両方が気になるため、より深刻な悩みとなります。

両方を併発している場合:

  • 大量の汗によってアポクリン腺の分泌物が拡散しやすくなる
  • ニオイがより広範囲に及ぶ可能性がある
  • 皮膚が湿った状態が続き、細菌が繁殖しやすくなる
  • 治療の際は両方に対するアプローチが必要

4. 診断方法

4-1. 多汗症の診断

多汗症の診断は、主に問診と視診によって行われます。

診断基準

原発性局所多汗症の診断には、以下の基準が用いられます。

必須項目: 明らかな原因がないまま、局所的に過剰な発汗が6ヶ月以上続いている

以下の6項目のうち2項目以上を満たす

  1. 左右対称性に発汗がみられる
  2. 日常生活に支障をきたす
  3. 週1回以上のエピソードがある
  4. 25歳以前に発症している
  5. 家族歴がある
  6. 睡眠中は発汗が止まっている

検査方法

より詳細な評価が必要な場合は、以下のような検査を行うこともあります。

ヨードデンプン試験(Minor法)

  • ヨウ素液とデンプン粉を使用
  • 発汗部位を視覚的に確認できる
  • 発汗の範囲や程度を評価

重量測定法

  • 一定時間内の発汗量を計測
  • 濾紙を使用して汗を吸収させ、その重さを測定
  • 客観的な評価が可能

血液検査

  • 続発性多汗症の原因疾患を除外するため
  • 甲状腺機能、血糖値などを確認

4-2. ワキガの診断

ワキガの診断も、主に問診と視診によって行われます。

診断のポイント

  1. ニオイの確認
    • 医師が直接ニオイを確認
    • ガーゼテスト:脇にガーゼを挟んで数分後のニオイを評価
  2. 視診
    • 脇毛の状態を確認
    • 白い粉状の付着物の有無
    • 皮膚の状態
  3. 問診
    • 家族歴の確認
    • 耳垢の状態
    • 衣服の黄ばみの有無
    • 症状の発症時期
  4. 重症度の評価
    • 自覚的な判断と他覚的な判断を総合
    • 日常生活への影響度を確認

ワキガの診断では、客観的な検査よりも、実際のニオイの評価と本人の困り度合いが重要となります。

5. 治療法

5-1. 多汗症の治療

多汗症の治療には、症状の重症度や部位によって様々な選択肢があります。軽度の場合は外用薬から始め、効果が不十分な場合は段階的により侵襲的な治療を検討します。

5-1-1. 外用療法

塩化アルミニウム外用薬

最も一般的な第一選択治療です。

  • 作用機序:汗腺の導管を一時的に閉塞させ、発汗を抑制
  • 使用方法:就寝前に患部に塗布し、翌朝洗い流す
  • 効果:使用開始から1〜2週間で効果を実感
  • 濃度:一般的に10〜20%濃度を使用
  • メリット:比較的安全で、自宅で簡単に使用できる
  • デメリット:皮膚刺激が起こることがある、効果に個人差がある

抗コリン外用薬

保険適用のある外用薬として、ソフピロニウム臭化物ゲル(エクロックゲル®)があります。

  • 作用機序:抗コリン作用により発汗を抑制
  • 適応:原発性腋窩多汗症
  • 使用方法:1日1回、患部に塗布
  • メリット:保険適用、比較的刺激が少ない
  • デメリット:効果に個人差がある

5-1-2. 内服療法

抗コリン薬

全身性の多汗症や、局所療法で効果不十分な場合に使用します。

  • 代表的な薬剤:プロパンテリン臭化物など
  • 作用機序:交感神経からの発汗指令をブロック
  • メリット:全身的に効果がある
  • デメリット:口渇、便秘、排尿困難などの副作用が出やすい

5-1-3. ボツリヌス療法

重度の腋窩多汗症に対して保険適用があります。

  • 製剤:ボツリヌストキシン製剤
  • 作用機序:神経伝達物質の放出を抑制し、発汗を止める
  • 施術方法:患部に複数箇所注射(15〜20箇所程度)
  • 効果の発現:注射後2〜3日から1週間程度
  • 持続期間:約4〜9ヶ月(個人差あり)
  • メリット:高い効果、比較的安全
  • デメリット:効果は一時的、繰り返し治療が必要、注射時の痛み

ボツリヌス療法は、日常生活に支障をきたす重度の原発性腋窩多汗症に対して保険適用となっており、効果的な治療法として広く行われています。

5-1-4. イオントフォレーシス療法

手掌多汗症や足底多汗症に効果的な治療法です。

  • 方法:水を入れた容器に手足を浸し、微弱な電流を流す
  • 頻度:週2〜3回、1回20〜30分程度
  • 効果の発現:数週間の継続治療で効果を実感
  • メリット:副作用が少ない、自宅でも可能
  • デメリット:継続的な治療が必要、時間がかかる

5-1-5. 外科的治療

他の治療法で効果が得られない重症例に対して検討されます。

交感神経遮断術(ETS:Endoscopic Thoracic Sympathectomy)

  • 適応:主に手掌多汗症
  • 方法:胸腔鏡を用いて交感神経を遮断
  • メリット:高い治療効果、永続的
  • デメリット:代償性発汗(他の部位からの発汗増加)のリスク、不可逆的

代償性発汗は多くの患者さんに起こる可能性があり、術前に十分な説明と理解が必要です。

皮膚切除術・汗腺除去術

  • 適応:腋窩多汗症
  • 方法:脇の皮膚を切除するか、汗腺を掻き出す
  • メリット:確実な効果
  • デメリット:傷跡が残る、回復に時間がかかる

5-1-6. マイクロ波治療(ミラドライ)

新しい治療法として注目されています。

  • 原理:マイクロ波で汗腺を破壊
  • 施術時間:約1時間
  • メリット:切らない治療、ダウンタイムが少ない
  • デメリット:保険適用外、費用が高額、複数回の治療が必要な場合も

5-2. ワキガの治療

ワキガの治療も、症状の程度によって様々な選択肢があります。

5-2-1. 保存的治療

外用療法

軽度のワキガに対して使用されます。

  • 制汗剤・デオドラント製品の使用
  • 殺菌作用のある外用薬
  • 効果:ニオイの軽減、細菌の繁殖抑制
  • 限界:根本的な治療にはならない

5-2-2. ボツリヌス療法

多汗症と同様、ワキガにも効果があります。

  • 作用:発汗を抑えることで、細菌の繁殖を抑制しニオイを軽減
  • 効果:ニオイの軽減に加えて、汗の量も減少
  • 持続期間:約4〜9ヶ月
  • 保険適用:重度の腋窩多汗症の診断がつけば保険適用可能
  • 限界:根本的な治療ではなく、効果は一時的

5-2-3. 外科的治療

根本的な治療を希望する場合の選択肢です。

剪除法(せんじょほう)

ワキガの根治的治療として最も確実性の高い方法です。

  • 方法:脇の皮膚を切開し、アポクリン腺を直視下で切除
  • 切開:3〜5cm程度
  • 手術時間:片側約1時間
  • 入院:日帰り〜1泊程度
  • 保険適用:あり
  • メリット:
    • 確実にアポクリン腺を除去できる
    • 再発率が低い
    • 保険適用で費用負担が少ない
  • デメリット:
    • 傷跡が残る
    • ダウンタイムが長い(約1〜2週間)
    • 術後の安静が必要
    • 感染や血腫のリスク

皮下組織削除法(皮下組織吸引法)

  • 方法:小さな切開から専用器具を挿入し、アポクリン腺を削り取る
  • 切開:1〜2cm程度
  • メリット:傷跡が小さい、ダウンタイムが短い
  • デメリット:剪除法より再発率がやや高い、保険適用外の場合が多い

超音波吸引法

  • 方法:超音波で汗腺を破壊しながら吸引
  • メリット:傷跡が小さい、出血が少ない
  • デメリット:保険適用外、再発の可能性、やけどのリスク

5-2-4. その他の治療

レーザー治療

  • 種類:様々なレーザー機器が使用される
  • 原理:レーザーでアポクリン腺を破壊
  • メリット:傷跡がほとんどない
  • デメリット:保険適用外、効果に個人差、複数回必要な場合も

マイクロ波治療(ミラドライ)

  • 多汗症とワキガの両方に効果
  • 原理:マイクロ波でアポクリン腺とエクリン腺の両方を破壊
  • メリット:切らない治療、両方の症状に同時に対応
  • デメリット:保険適用外、高額(両脇で30〜40万円程度)

5-3. 治療法の選択

治療法の選択は、以下の要因を総合的に考慮して決定します。

  1. 症状の重症度
    • 軽度:外用療法、ボツリヌス療法
    • 中等度〜重度:ボツリヌス療法、外科的治療
  2. 日常生活への影響度
    • 支障が大きければより積極的な治療を検討
  3. 患者の希望
    • 根治を希望するか、一時的な改善でよいか
    • ダウンタイムをどの程度許容できるか
    • 傷跡への懸念
  4. 費用
    • 保険適用の治療か、自費診療か
    • 継続的な費用負担が可能か
  5. 年齢や全身状態
    • 手術に耐えられる体力があるか
    • 妊娠の可能性(ボツリヌス療法の場合)

主治医とよく相談し、自分に最適な治療法を選択することが大切です。

6. セルフケアと日常生活での対策

医療機関での治療と並行して、日常生活でのセルフケアも重要です。

6-1. 多汗症のセルフケア

服装の工夫

  • 吸汗性・速乾性に優れた素材の衣類を選ぶ
  • ポリエステルなどの化学繊維より、綿や麻などの天然素材が良い
  • 汗ジミが目立たない色や柄の服を選ぶ(黒、白、柄物など)
  • ゆったりとしたデザインで通気性を確保
  • 脇汗パッドや汗取りインナーの活用

制汗剤の使用

  • 外出前に制汗剤を使用
  • スプレータイプよりロールオンやクリームタイプが効果的
  • 使用のタイミング:清潔な肌に、就寝前の使用も効果的

こまめな汗の拭き取り

  • 汗をかいたらすぐに拭き取る
  • 濡れタオルやウェットティッシュを携帯
  • 放置すると雑菌が繁殖しニオイの原因に

ストレス管理

  • リラクゼーション法の実践(深呼吸、瞑想など)
  • 適度な運動で発汗機能を正常化
  • 十分な睡眠の確保
  • 趣味や楽しみを見つける

食生活の見直し

発汗を促進する可能性のある食品を控えめに:

  • カフェイン(コーヒー、紅茶など)
  • 辛い食べ物
  • アルコール
  • 熱い飲み物

6-2. ワキガのセルフケア

清潔の保持

  • 1日1〜2回のシャワーや入浴
  • 特に脇の下を丁寧に洗う
  • 抗菌作用のある石鹸の使用
  • 洗いすぎは逆効果(皮膚のバリア機能が低下)

脇毛の処理

  • 脇毛があると、汗や細菌が付着しやすくニオイが強くなる
  • 剃毛や脱毛を検討
  • ただし、カミソリによる処理は皮膚を傷つける可能性があるため注意
  • 医療脱毛が最も効果的

衣類のケア

  • 着用後はすぐに洗濯
  • 洗濯前に脇の部分を部分洗い
  • 酸素系漂白剤の使用(黄ばみ対策)
  • 抗菌・防臭効果のある洗剤の使用
  • 洗濯後は完全に乾かす

デオドラント製品の選択

ワキガには殺菌・抗菌作用のある製品が効果的:

  • 塩化ベンザルコニウム配合
  • イソプロピルメチルフェノール配合
  • 銀イオン配合

食生活の工夫

ニオイを強くする可能性のある食品を控えめに:

  • 動物性脂肪(肉類、乳製品)
  • ニンニク、ニラなどニオイの強い食品
  • アルコール

ニオイを抑える効果が期待できる食品:

  • 野菜や果物(抗酸化作用)
  • 海藻類(食物繊維)
  • 緑茶(カテキン)
  • 梅干し(クエン酸)

6-3. 心理的ケア

多汗症やワキガの悩みは、心理的な負担も大きく、QOL(生活の質)に大きく影響します。

一人で抱え込まない

  • 信頼できる人に相談する
  • 同じ悩みを持つ人のコミュニティに参加
  • 必要に応じてカウンセリングを受ける

正しい知識を持つ

  • 多汗症もワキガも医学的に認められた症状
  • 決して不潔なわけではない
  • 適切な治療で改善できる

自己肯定感を保つ

  • 症状があることで自分を否定しない
  • 良い面にも目を向ける
  • 小さな改善も評価する

7. よくある質問(FAQ)

Q1. 多汗症は完治しますか?

A. 原発性多汗症の根本的な原因はまだ完全には解明されていないため、「完治」という意味では難しい面があります。しかし、適切な治療によって症状を大幅に改善し、日常生活に支障のないレベルまでコントロールすることは十分可能です。外科的治療(交感神経遮断術など)では永続的な効果が得られますが、代償性発汗などの副作用のリスクもあります。

Q2. ワキガは手術以外で治せますか?

A. ボツリヌス療法やマイクロ波治療など、手術以外の選択肢もあります。ただし、これらは一時的な効果であったり、完全にニオイがなくなるわけではない場合もあります。アポクリン腺を物理的に除去する手術が最も確実な方法ですが、侵襲度や費用、ダウンタイムなどを考慮して選択する必要があります。軽度の場合は、適切なセルフケアとデオドラント製品の使用で十分にコントロールできることもあります。

Q3. 子どもの多汗症やワキガはどうすればいいですか?

A. 小児の多汗症やワキガは、心理的な影響も大きいため、早めの対応が望ましいです。まずは小児科や皮膚科を受診し、適切な診断を受けることが重要です。治療は、成長期であることを考慮し、外用療法などの保存的治療から始めることが一般的です。手術などの侵襲的治療は、十分に成長してから検討します。学校でのいじめなどがある場合は、カウンセリングも含めた総合的なサポートが必要です。

Q4. 保険は適用されますか?

A. 多汗症:重度の原発性腋窩多汗症に対するボツリヌス療法は保険適用です。また、剪除法による汗腺除去術も保険適用となる場合があります。

ワキガ:剪除法による手術は保険適用です。ただし、ボツリヌス療法は基本的にワキガ単独では保険適用外ですが、重度の腋窩多汗症を伴う場合は保険適用となります。

マイクロ波治療(ミラドライ)やレーザー治療などの新しい治療法は、基本的に保険適用外です。

Q5. 生活習慣の改善で良くなりますか?

A. 生活習慣の改善だけで根本的に治すことは難しいですが、症状を軽減させる効果は期待できます。特に、ストレス管理、適度な運動、バランスの取れた食事、十分な睡眠などは、自律神経のバランスを整え、発汗のコントロールに役立ちます。また、清潔の保持や適切な衣類の選択なども重要です。ただし、重症の場合は医療機関での治療が必要です。

Q6. デオドラント製品はどう選べばいいですか?

A. 多汗症の場合:制汗効果の高いもの(塩化アルミニウム配合など)を選びましょう。

ワキガの場合:殺菌・抗菌効果のあるもの(塩化ベンザルコニウム、イソプロピルメチルフェノール配合など)を選びましょう。

形状は、スプレータイプよりもロールオンやクリームタイプの方が、しっかりと肌に密着して効果が高い傾向があります。ただし、肌に合わない場合もあるため、刺激を感じたら使用を中止し、必要に応じて医師に相談してください。

Q7. 手術の傷跡は目立ちますか?

A. 手術方法によって異なります。

剪除法:3〜5cm程度の切開が必要で、傷跡は残ります。ただし、脇のしわに沿って切開するため、腕を下ろしている状態ではあまり目立ちません。経時的に傷跡は徐々に目立たなくなります。

皮下組織削除法や吸引法:1〜2cm程度の小さな切開で済み、傷跡は比較的目立ちにくいです。

傷跡の治癒には個人差があり、体質によってはケロイドや肥厚性瘢痕になる可能性もあります。術前に医師とよく相談し、リスクについて理解しておくことが大切です。

8. まとめ

多汗症とワキガは、どちらも汗に関連する症状ですが、原因となる汗腺が異なり、主な悩みも「汗の量」と「ニオイ」というように異なります。

多汗症は、エクリン腺からの過剰な発汗が特徴で、サラサラとした無臭の汗が大量に出ます。一方、ワキガは、アポクリン腺からの分泌物が細菌によって分解されることで特有の強いニオイを発します。

両者は別の症状ですが、併発することもあり、その場合はより複雑な対応が必要となります。

治療法は、軽度の場合は外用療法やセルフケアから始め、効果が不十分な場合はボツリヌス療法や外科的治療など、より積極的な方法を検討します。それぞれの治療法には利点と欠点があり、症状の程度、生活スタイル、費用、ダウンタイムの許容度などを総合的に考慮して選択することが重要です。

多汗症やワキガの悩みは、単に身体的な問題だけでなく、心理的・社会的な影響も大きいものです。一人で悩まず、専門の医療機関に相談することで、適切な診断と治療を受けることができます。

アイシークリニック上野院では、多汗症とワキガの両方について、患者様一人ひとりの症状や生活スタイルに合わせた最適な治療法をご提案しています。お悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

参考文献

  1. 日本皮膚科学会:https://www.dermatol.or.jp/
  2. 日本発汗学会:http://www.jssr.info/
  3. 厚生労働省「e-ヘルスネット」多汗症:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
  4. 「原発性局所多汗症診療ガイドライン 2023年改訂版」日本皮膚科学会
  5. 「腋臭症診療ガイドライン」日本皮膚科学会

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

プロフィールを見る

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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