サブシジョン治療完全ガイド:深いニキビ跡・クレーター治療の新たな選択肢

はじめに

ニキビ跡の治療において、従来のレーザー治療やマイクロニードリング治療では改善が困難とされてきた深いクレーター状のニキビ跡。そんな難治性のニキビ跡に対して、近年注目を集めているのが「サブシジョン(Subcision)」という治療法です。

サブシジョンは1995年にDermatologic Surgeryという有名な医学雑誌に報告されて以来、世界中で行われている治療法でありながら、日本ではまだ認知度が低く、限られた医療機関でのみ実施されているのが現状です。

本記事では、アイシークリニック上野院における豊富な治療経験をもとに、サブシジョン治療について包括的に解説いたします。治療のメカニズムから実際の手順、期待できる効果、そして注意すべきリスクまで、患者様が安心して治療を検討していただけるよう、詳細にご説明いたします。

サブシジョンとは何か

定義と基本概念

サブシジョン(Subcision)とは、皮膚の下(正確には真皮とSMASという筋膜の間)の瘢痕組織を切ることによって皮膚が引き込まれた状態を改善させる治療法です。「Sub-cision」という言葉の通り、皮膚の下で行う切開術という意味を持ちます。

従来のニキビ跡治療が皮膚表面からのアプローチに限定されていたのに対し、サブシジョンは皮膚の深層部に直接介入する画期的な治療法として位置づけられています。

治療の歴史的背景

サブシジョンは1995年にOrentreich父子によって開発され、当初は顔面の瘢痕やしわの治療として報告されました。その後、ニキビ跡の治療における有効性が注目されるようになり、現在では世界標準のニキビ跡治療法の一つとして確立されています。

日本では2000年代後半から徐々に導入が始まりましたが、技術的な習得の難しさや使用する器具の特殊性から、限られた医療機関でのみ実施されているのが現状です。

ニキビ跡の種類とサブシジョンの適応

ニキビ跡の分類

ニキビ跡は大きく以下の4つのタイプに分類されます:

1. 赤み型(紅斑型) ニキビの炎症が治った後に残る赤い色素沈着で、血管の拡張や炎症後の反応によるものです。

2. 色素沈着型 メラニン色素の沈着により生じる茶色いシミ状の跡です。

3. 肥厚性瘢痕・ケロイド型 過剰なコラーゲン産生により皮膚が盛り上がった状態です。

4. 萎縮性瘢痕(クレーター型) 皮膚が陥没した状態で、さらに以下の3つのサブタイプに分類されます:

アイスピック型

  • 開口部:2mm以下
  • 深さ:真皮深層から皮下組織まで
  • 形状:V字型の狭く深い陥没
  • アイスピック型は真皮層よりも狭くて深い形状のため、サブシジョンで使用する医療用針が十分に届かない場合があります

ボックスカー型

  • 開口部:1.5~4mm
  • 深さ:0.1~0.5mm
  • 形状:U字型で底面が平坦
  • ボックス型は、浅い凹凸・深い凹凸に分けられますが、深い凹凸の場合、サブシジョンで改善を目指せます

ローリング型

  • 開口部:4mm以上
  • 深さ:真皮から筋膜レベル
  • 形状:なだらかで波状の陥没
  • ローリング型のニキビ跡は、開口部が4mm以上のもので、緩やかにくぼんでいるのが特徴です。真皮が筋膜に癒着していて、皮膚が線維によって内側に引っ張られている状態

サブシジョンの適応対象

サブシジョンが最も効果を発揮するのはローリング型のニキビ跡です。ローリング型と呼ばれる面で凹凸が目立つタイプのニキビ跡に特に適した治療とされています。

また、辺縁がくっきりした「ボックスカー型のへこみ」にも効果が期待できます、特に深いボックスカー型に対しては良好な結果が期待できます。

一方、アイスピック型のニキビ跡に対しては、針が十分に到達しにくいため、サブシジョン単独での治療効果は限定的とされています。

サブシジョンの治療メカニズム

皮膚の解剖学的理解

ニキビ跡のクレーターが形成される過程を理解するためには、皮膚の構造を知ることが重要です。皮膚は表皮、真皮、皮下組織の3層構造から成り立っており、その下にSMAS(表在性筋膜系)と呼ばれる筋膜が存在します。

ニキビが慢性化して炎症を起こすと、皮膚の深部に線維化が生じて、皮膚組織が癒着して固くなり、クレーターや凹みができることがあります。この癒着こそが、従来の表面からの治療では改善が困難だった理由です。

瘢痕形成のメカニズム

ニキビの炎症過程では以下のような変化が起こります:

  1. 炎症期:ニキビ菌の増殖と免疫反応による強い炎症
  2. 破壊期:炎症により真皮のコラーゲン線維が破壊される
  3. 修復期:線維芽細胞の活性化と異常なコラーゲン産生
  4. 瘢痕形成期:異常なコラーゲンが固い瘢痕組織を形成
  5. 癒着期:瘢痕組織が深部の筋膜と癒着を起こす

この最終段階の癒着が、皮膚表面を下方に牽引し、クレーター状の陥没を永続化させる主要因となります。

サブシジョンの作用機序

サブシジョンの治療効果は以下の3つのメカニズムによって発揮されます:

1. 物理的な癒着剥離 専用の医療用針で瘢痕組織を剥がし、キズが治る力を利用して凹みをなだらかにします。癒着を物理的に切断することで、皮膚の下方への牽引力が解除されます。

2. 創傷治癒反応の誘発 針で瘢痕組織を壊すことにより、壊れた組織を治す自己治癒能力で組織を再構築させる過程で凹みをさらに上に押し上げます。

3. 血腫形成による空間確保 剥離した空間に血腫が形成され、この血腫が吸収される過程で新しい結合組織が生成され、陥没部の充填効果をもたらします。

治療手順・流れ

診察・カウンセリング

治療開始前の詳細な診察は、サブシジョンの成功において極めて重要です。アイシークリニック上野院では、以下の点を重視した診察を行います:

1. ニキビ跡の詳細な評価

  • 陥没の深さと範囲の測定
  • 瘢痕組織の硬さと可動性の評価
  • 周囲健常皮膚との境界の確認

2. 適応の判定

  • サブシジョンの適応となるニキビ跡の選別
  • 他の治療法との組み合わせの必要性の検討
  • 患者様の期待値との調整

3. 治療計画の立案

  • 必要な治療回数の予測
  • 併用療法の選択
  • 治療スケジュールの設定

実際の治療手順

ステップ1:前処置

  • 治療部位の清拭・消毒
  • マーキングによる治療範囲の明確化
  • 術前写真の撮影

ステップ2:麻酔 サブシジョンを行う場所には長く鈍い針(カニューレ)を使うので、カニューレを入れる場所に細い針で局所麻酔をかけます。局所麻酔により施術中の痛みはほぼ完全に除去されます。

ステップ3:サブシジョン実施 針を斜め横方向から挿入し、皮下で前後や扇状に動かし線維を切断・はく離することで、陥没していた皮膚が上に持ちあがることで肌のくぼみを改善します。

この際、以下の3つの主要な手技が用いられます:

  • リニアスレッディング(Linear Threading):針を直線的に動かす手技
  • ファンニング(Fanning):針を扇状に動かす手技
  • クロスハッチング(Cross Hatching):格子状に針を動かす手技

ステップ4:併用療法(必要に応じて)

  • ヒアルロン酸注入
  • ジュベルック注入
  • CO2レーザー照射

ステップ5:術後処置

  • 止血確認
  • 圧迫固定
  • 術後指導

使用器具について

サブシジョンで使用される主要な器具は以下の通りです:

カニューレ(鈍針)

  • 長さ:38-50mm
  • 径:18-22ゲージ
  • 先端:鈍的で組織を傷つけにくい設計

注意事項 サブシジョンのカニューレは医薬品医療機器等法上の承認を得ていない未承認医療器機です。当院では安全性と有効性が確認された製品のみを使用し、適切な管理のもとで治療を実施しています。

併用療法について

ヒアルロン酸注入との併用

サブシジョンと一緒にCO2レーザー・ヒアルロン酸注入を併用する事でニキビ跡の改善・再癒着防止効果が高まりサブシジョンの1回あたりの効果を上げることができます。

ヒアルロン酸併用の効果

  1. 再癒着の防止:剥離した空間を維持
  2. 即座の陥没改善:物理的な充填効果
  3. 長期的な組織再構築:コラーゲン産生の促進

使用されるヒアルロン酸は、通常の豊頬術などで使用されるものよりも柔らかい製剤が選択されます。アイシークリニック上野院では、厚生労働省承認のヒアルロン酸製剤のみを使用しています。

ジュベルック(Juvelook)との併用

ジュベルック(Juvelook)注射とは、「ポリ乳酸(PDLLA:Poly-DL-lactic acid)」という成分と非架橋ヒアルロン酸製剤を混ぜて使用する次世代型の注入剤です。

ジュベルックの特徴

  • 長期効果:1-2年の持続期間
  • 自然な仕上がり:自己コラーゲン産生による改善
  • 安全性:最終的に水と二酸化炭素に分解

CO2レーザーとの併用

サブシジョンを行う箇所の直上に医師がCO2レーザーを照射します。そうする事でサブシジョンで改善されたニキビ跡の肌表面を滑らかでキメの整た肌に導きます。

CO2レーザーの併用により、表面の微細な凹凸も同時に改善され、より滑らかな仕上がりが期待できます。

効果と治療回数

期待できる効果

サブシジョンにより期待できる主な効果は以下の通りです:

即時効果

  • 癒着剥離による即座の陥没改善
  • 皮膚の可動性向上
  • 表面の凹凸の軽減

長期効果

  • 創傷治癒過程での新しい組織形成
  • コラーゲン産生の促進
  • 皮膚質感の改善

臨床研究による効果の検証

Ebrahim HMら(2018年発表)の研究では、サブシジョン単独群:67.3%改善、サブシジョン+ヒアルロン酸併用群:94.1%の改善という優れた結果が報告されています。

また、Abdel Hay RMら(2016年)による報告では、フラクショナルレーザー単独群:43.0%改善、サブシジョン+フラクショナルレーザー併用群:54.7%改善と、併用療法の有効性が示されています。

必要な治療回数

サブシジョンは、1回で効果を実感できる方も多くいらっしゃいますが、ニキビ跡の深さや硬さによっては3回ほど行うこともあります。

治療回数の決定要因

  • ニキビ跡の深さと範囲
  • 瘢痕組織の硬さと癒着の程度
  • 患者様の創傷治癒能力
  • 併用療法の有無

一般的な治療スケジュール

  • 治療間隔:4-6週間
  • 治療回数:1-5回(平均3回)
  • 効果判定:初回治療後1-2ヶ月

ダウンタイムと副作用・リスク

ダウンタイムの症状と経過

サブシジョンのダウンタイムは、通常1~2週間程度です。主な症状は以下の通りです:

急性期(施術直後~3日)

  • 軽度の疼痛・違和感
  • 施術部位の腫脹
  • 局所麻酔による一時的な感覚鈍麻

亜急性期(4日~1週間)

  • 内出血の出現(紫色→黄色への変化)
  • 軽度の発赤
  • 組織の硬化

回復期(1-2週間)

  • 内出血の消退
  • 腫脹の軽減
  • 正常な皮膚色への回復

主要な副作用とリスク

合併症:内出血、腫れ、赤み、針孔のケロイド、知覚低下、陥凹の再発、色素沈着、硬結(しこり)などが報告されています。

頻度の高い副作用(10%以上)

  • 内出血:ほぼ全例に認められる
  • 軽度の疼痛・違和感
  • 一時的な腫脹

中等度の副作用(1-10%)

  • 遷延する発赤
  • 一時的な色素沈着
  • 軽度の硬結形成

稀な副作用(1%未満)

  • 感染
  • 肥厚性瘢痕・ケロイド形成
  • 永続的な色素異常
  • 神経損傷による感覚鈍麻

特殊な注意事項

こめかみ部の治療 特にこめかみを施術した場合に内出血が出やすく、目周りまで約1~2週間、紫や黄色になることがあります。この部位は血管が豊富で皮膚が薄いため、より慎重なアプローチが必要です。

ケロイド体質の患者様 サブシジョンは皮膚の下を針で傷つけるため、ケロイド体質の方はまれに皮膚が反応して厚くなることがあります。事前の体質評価が重要です。

治療の適応と禁忌

適応となる患者様

絶対適応

  • ローリング型ニキビ跡
  • 深いボックスカー型ニキビ跡
  • 従来治療で改善しなかった難治性ニキビ跡
  • 水疱瘡跡などの類似する瘢痕

相対適応

  • 浅いボックスカー型ニキビ跡(他治療との併用)
  • 外傷性瘢痕
  • 手術瘢痕の陥没

禁忌となる患者様

絶対禁忌

  • 施術部位の活動性感染症
  • 重篤な出血傾向
  • 局所麻酔薬に対するアレルギー
  • 妊娠中の患者様

相対禁忌

  • ケロイド体質
  • 免疫抑制状態
  • 抗凝固薬の服用
  • 現在進行形のニキビの存在

特別な考慮事項

年齢に関する考慮

  • 18歳以下の患者様では創傷治癒能力が高い反面、瘢痕形成のリスクも高い
  • 60歳以上では創傷治癒が遅延する可能性

部位に関する考慮

  • 鼻部:皮膚が薄く、神経が豊富で技術的難易度が高い
  • 下眼瞼:血管が豊富で内出血のリスクが高い

他の治療法との比較

フラクショナルレーザーとの比較

項目サブシジョンフラクショナルレーザー
作用機序物理的癒着剥離熱による組織再構築
適応深いクレーター浅い凹凸、肌質改善
ダウンタイム1-2週間3-7日
治療回数1-5回5-10回
痛み局麻により無痛軽度~中等度

ピコフラクショナルは、皮膚に対して垂直方向に穴を開けるため、真皮と筋膜をつなげている線維をうまく断ち切ることは困難です。しかし、サブシジョンであれば、皮膚に対して斜め横方向から針を刺せるうえ、針の向きを変えられるので、線維を狙いやすく、治療効果が期待できます。

ダーマペンとの比較

項目サブシジョンダーマペン
深達度皮下組織まで真皮層まで
針の太さ18-22ゲージ34ゲージ
治療精度選択的癒着剥離面的な刺激
即効性高い徐々に改善

ダーマペンやポテンツァは表面の凸凹を均す効果がありますが、深い凹みには針が当たりにくいためクレーターを持ち上げるのには向いていません。

TCAクロスとの比較

TCAクロス(トリクロロ酢酸による化学的焼灼)は、アイスピック型のような狭く深いニキビ跡に対して効果的な治療法です。

併用のメリット

  • サブシジョン:ローリング型・深いボックスカー型
  • TCAクロス:アイスピック型・浅いボックスカー型

この組み合わせにより、様々なタイプのニキビ跡を同時に治療することが可能です。

治療の実際と症例

典型的な症例

症例1:ローリング型ニキビ跡

  • 患者:28歳女性
  • 主訴:両頬の深いニキビ跡
  • 治療:サブシジョン + ヒアルロン酸注入 2回
  • 結果:約80%の改善を認める

症例2:混合型ニキビ跡

  • 患者:32歳男性
  • 主訴:左頬の複数タイプのニキビ跡
  • 治療:サブシジョン + ジュベルック + CO2レーザー 3回
  • 結果:全体的に顕著な改善

効果判定の基準

効果判定は以下の客観的指標を用いて行います:

定量的評価

  • 陥没深度の測定(プロフィロメトリー)
  • 表面粗さの評価
  • 3D画像解析による体積変化

定性的評価

  • 医師による視覚的評価
  • 患者満足度スコア
  • 生活の質(QOL)の改善度

最新の研究動向と技術革新

マイクロサブシジョン技術

マイクロサブシジョン機器の登場で、改善の幅が広がりました。この技術により、従来のサブシジョンでは到達困難だった細かい癒着部位にもアプローチが可能となりました。

RF(高周波)併用サブシジョン

必要に応じて高周波(RF)で周囲を加熱コラーゲン造成を促進させることで にきび跡の改善を促します。この手法により、物理的な剥離と熱による組織再構築の相乗効果が期待できます。

イノジェクター・ミラジェット技術

直径100μmの微細な注入孔から薬剤を高圧渦巻状にして注入することで、ニキビ跡の癒着部位を剥離隆起させる作用を発揮する機器として、新たな選択肢が登場しています。

クリニック選びのポイント

医師の技術と経験

サブシジョンは技術的に高度な治療であり、医師の経験と技術力が治療結果に大きく影響します。

重要な確認事項

  • 年間症例数
  • 専門医資格の有無
  • 学会発表・論文実績
  • 合併症への対応体制

設備と衛生管理

  • 清潔な手術環境
  • 適切な器具の管理
  • 緊急時の対応体制
  • アフターケア体制

インフォームドコンセント

信頼できるクリニックでは、治療の内容やリスク、副作用をしっかりと説明してくれます。十分な説明と患者様の理解が治療成功の前提条件です。

術後ケアとアフターフォロー

術後直後のケア

当日の注意事項

  • 施術部位への過度な圧迫を避ける
  • 激しい運動は控える
  • 飲酒は避ける
  • 長時間の入浴は避ける

日常生活への復帰

  • 洗顔:翌日から可能(施術部位は優しく)
  • メイク:翌日から可能(針穴を避ける)
  • 仕事:デスクワークは当日から可能

長期的なケア

紫外線対策 治療後の皮膚は紫外線に敏感になっているため、適切な日焼け止めの使用が必要です。

保湿ケア 適切な保湿により創傷治癒を促進し、最終的な仕上がりを向上させることができます。

定期的なフォローアップ

  • 2週間後:ダウンタイムの確認
  • 1ヶ月後:効果判定と次回治療の検討
  • 3ヶ月後:長期効果の評価

費用と保険適用

治療費用

サブシジョンは美容目的の治療として位置づけられるため、保険適用外の自由診療となります。

一般的な費用相場

  • サブシジョン単独:2×2cm範囲で20,000-50,000円
  • ヒアルロン酸併用:追加20,000-40,000円
  • 総合的な治療プログラム:100,000-300,000円

費用対効果の考察

従来の治療法で改善しなかった症例においても、サブシジョンにより顕著な改善が得られることが多く、長期的な費用対効果は良好と考えられます。

よくある質問(Q&A)

Q1: サブシジョンは痛いですか?

A: 治療中の痛みを和らげるため、局所麻酔を行います。施術中の痛みはほとんどありません。施術後に軽い違和感や鈍痛を感じることがありますが、多くの場合2-3日で改善します。

Q2: 内出血はどのくらい続きますか?

A: 施術部位に内出血を生じることがありますが、約1~2週間ほどで落ち着きます。内出血の程度には個人差がありますが、コンシーラーなどで隠すことが可能です。

Q3: 何回くらいで効果を実感できますか?

A: 1回で効果を実感される方も多い印象ですが、最終的な判定は3回程度の治療を経て行うことが一般的です。

Q4: 他の治療と併用できますか?

A: はい。肌表面を整える「ポテンツァ・ダーマペン・ピコフラクショナルレーザー」や、細かく深いニキビ跡の凹みを治療する「TCAクロス」などの施術と併用すると、さらに効果を実感しやすくなります。

Q5: 再発の可能性はありますか?

A: ヒアルロン酸が吸収されるのは事実であり、長期経過が安定しているかは現在でもよくわかっていません。事実、頻度はまれですが、ヒアルロン酸が吸収される治療後6か月頃に再度陥凹する方がいます。このため、適切な併用療法の選択が重要です。

治療を受ける前の準備

事前準備

治療前1週間

  • 抗凝固薬・抗血小板薬の中止(医師と相談)
  • 十分な睡眠と栄養管理
  • 禁煙・禁酒
  • 皮膚の状態を良好に保つ

治療前3日

  • ビタミンCサプリメントの摂取開始
  • 十分な水分摂取
  • ストレス管理

治療当日

  • 軽い食事の摂取
  • ゆったりとした服装
  • 付き添いの準備(可能であれば)

治療に対する心構え

サブシジョンは即効性のある治療ですが、最終的な結果を得るまでには時間がかかります。患者様には以下の点をご理解いただく必要があります:

  • 完璧な平坦化ではなく、目立たない程度への改善が目標
  • 複数回の治療が必要な場合が多い
  • ダウンタイムが避けられない
  • 定期的なフォローアップが重要

サブシジョンの限界と今後の展望

現在の治療の限界

技術的限界

  • アイスピック型ニキビ跡への効果の限定性
  • 鼻部など特殊部位での技術的困難さ
  • 個人差による効果のばらつき

制度的限界

  • 使用器具の薬事承認の問題
  • 標準化された手技の確立の必要性
  • 長期的な安全性データの蓄積

今後の展望

技術革新

  • より精密な器具の開発
  • 画像ガイド下での治療
  • ロボット支援による精密操作

併用療法の発展

  • 新しいフィラー材料の開発
  • 幹細胞治療との組み合わせ
  • 成長因子療法の併用

個別化医療の推進

  • 遺伝子解析による治療予測
  • AI支援による最適治療選択
  • 3D画像解析による効果予測

特殊なケースへの対応

水疱瘡跡の治療

サブシジョンは、傷跡や水ぼうそうの跡にも有効です。水疱瘡跡はニキビ跡と類似した陥没性瘢痕を形成するため、同様の治療原理が適用できます。

外傷後瘢痕の治療

交通事故や手術後の陥没性瘢痕に対しても、サブシジョンは有効な治療選択肢となります。ただし、瘢痕の成熟度や周囲組織の状態により、適応を慎重に判定する必要があります。

先天性陥没の治療

先天性の皮膚陥没症例においても、癒着剥離により改善が期待できる場合があります。ただし、先天性疾患の場合は、他の治療選択肢との比較検討が重要です。

国際的な治療指針

欧米でのガイドライン

アメリカ皮膚科学会およびヨーロッパ皮膚科学会では、サブシジョンを以下のように位置づけています:

推奨レベル

  • ローリング型ニキビ跡:強く推奨(Grade A)
  • 深いボックスカー型:推奨(Grade B)
  • アイスピック型:条件付き推奨(Grade C)

アジア地域での動向

韓国、シンガポール、タイなど、アジア諸国でもサブシジョンの普及が進んでいます。特に韓国では、K-beauty文化の影響もあり、積極的な技術開発と症例蓄積が行われています。

倫理的考慮事項

インフォームドコンセントの重要性

サブシジョン治療では、以下の点について十分な説明と同意が必要です:

効果に関する説明

  • 期待できる改善度の現実的な説明
  • 完治ではなく改善が目標であること
  • 個人差があることの説明

リスクに関する説明

  • 起こりうる合併症の詳細
  • ダウンタイムの具体的な内容
  • 緊急時の対応方法

費用に関する説明

  • 総費用の明確な提示
  • 追加治療が必要な場合の費用
  • 保険適用外である旨の説明

患者の権利と医師の義務

患者様には以下の権利があります:

  • 十分な説明を受ける権利
  • 治療を拒否する権利
  • セカンドオピニオンを求める権利
  • プライバシーの保護を求める権利

医師には以下の義務があります:

  • 最善の医療を提供する義務
  • 十分な説明を行う義務
  • 患者の自己決定を尊重する義務
  • 継続的な学習と技術向上の義務

今後の課題と展望

技術的課題

標準化の必要性 現在、サブシジョンの手技は施行医師の経験に大きく依存しています。より安定した治療効果を得るためには、手技の標準化が急務です。

器具の改良 現在使用されているカニューレは、未承認医療機器であることが課題となっています。日本国内での薬事承認取得に向けた取り組みが必要です。

効果予測の向上 事前に治療効果を予測できるシステムの開発により、患者選択の精度向上が期待されます。

研究の方向性

長期安全性の検証 10年以上の長期フォローアップデータの蓄積により、治療の安全性をさらに確立する必要があります。

併用療法の最適化 どの患者にどの併用療法が最適かを予測するアルゴリズムの開発が求められています。

新しい併用治療の開発 幹細胞療法、エクソソーム療法、再生医療技術との組み合わせにより、さらなる治療効果の向上が期待されます。

患者様へのメッセージ

ニキビ跡、特に深いクレーター状の跡にお悩みの患者様にとって、サブシジョンは希望の光となる治療法です。しかし、治療を受ける前に以下の点をご理解ください:

現実的な期待の設定 サブシジョンは魔法の治療ではありません。完璧な平坦化ではなく、目立たない程度への改善を目標とした治療です。

信頼できる医療機関の選択 技術的に高度な治療であるため、十分な経験を持つ医師による治療を受けることが重要です。

長期的な視点の必要性 最終的な結果を得るまでには数ヶ月から1年程度の期間が必要です。焦らず、継続的な治療を心がけてください。

積極的なコミュニケーション 治療中の不安や疑問は遠慮なく医師にご相談ください。患者様と医師の良好なコミュニケーションが治療成功の鍵となります。

まとめ

サブシジョンは、従来の治療法では改善困難とされてきた深いニキビ跡・クレーターに対する革新的な治療法です。皮膚深層部の癒着を物理的に剥離するという独特のアプローチにより、劇的な改善をもたらす可能性を秘めています。

サブシジョンの主要なポイント

  1. 適応:ローリング型・深いボックスカー型ニキビ跡に最適
  2. メカニズム:癒着剥離と創傷治癒による組織再構築
  3. 効果:1回でも改善を実感、通常3回程度で最大効果
  4. ダウンタイム:1-2週間、主に内出血が問題
  5. 併用療法:ヒアルロン酸、ジュベルック、レーザーとの組み合わせで効果向上

参考文献

  1. Orentreich DS, Orentreich N. Subcutaneous incisionless (subcision) surgery for the correction of depressed scars and wrinkles. Dermatol Surg. 1995;21(6):543-549
  2. Murad Alam, et al. Subcision for acne scarring: technique and outcomes in 40 patients. Dermatol Surg. 2005 Mar;31(3):310-317
  3. Mohammadali Nilforoushzadeh, et al. Can Subcision with the Cannula be an Acceptable Alternative Method in Treatment of Acne Scars? Med Arch. 2015 Dec;69(6):384-386
  4. Howyda M Ebrahim, et al. A combined approach of subcision with either cross-linked hyaluronic acid or threads in the treatment of atrophic acne scars. J Cosmet Dermatol. 2022 Aug;21(8):3334-3342
  5. Ebrahim HM et al. Subcision combined with filler for acne scars: a comparative study. J Cosmet Dermatol. 2018
  6. Abdel Hay RM et al. Fractional CO2 laser alone versus combined with subcision for rolling acne scars. J Cosmet Dermatol. 2016
  7. 日本美容皮膚科学会 ニキビ跡治療ガイドライン 2023年版
  8. American Academy of Dermatology. Clinical Guidelines for Acne Scar Treatment. 2024
  9. European Academy of Dermatology and Venereology. Consensus on Atrophic Acne Scar Treatment. 2023
  10. International Society of Dermatologic Surgery. Subcision Technique Manual. 2024

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監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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