はじめに
突然、皮膚に痛みを伴うできものができて驚いた経験はありませんか?「できもの」と一口に言っても、その種類や原因は実に様々です。痛みを伴う場合は特に、感染症や炎症が関係していることが多く、適切な対処が必要となります。
皮膚科を受診される患者様の中でも、「痛いできものができた」というお悩みは非常に多く寄せられます。顔や首、背中、お尻など、体のどこにでもできる可能性があり、大きさも数ミリから数センチまで様々です。中には自然に治るものもありますが、放置することで悪化したり、跡が残ったりするケースもあるため、正しい知識を持つことが大切です。
この記事では、痛みを伴うできものの代表的な種類とその特徴、原因、治療法について、専門医の視点から詳しく解説していきます。

痛いできものの主な種類
1. 粉瘤(アテローム・表皮嚢腫)
粉瘤は、皮膚の下に袋状の構造物ができ、その中に角質や皮脂などの老廃物が溜まってできる良性腫瘍です。日本皮膚科学会によると、皮膚科で最も多く見られる良性の皮膚腫瘍の一つとされています。
粉瘤の特徴
- 皮膚の下にしこりとして触れる
- 中心部に黒い点(開口部)が見られることが多い
- 通常は痛みがないが、細菌感染すると激しく痛む
- 悪臭を伴う内容物が出ることがある
- 全身どこにでもできるが、顔、首、背中、耳の後ろなどに多い
炎症性粉瘤(感染性粉瘤)
粉瘤に細菌が感染すると「炎症性粉瘤」となり、以下のような症状が現れます:
- 激しい痛みと腫れ
- 患部が赤く熱を持つ
- 膿が溜まって大きく腫れあがる
- 自然に破れて膿が出ることもある
炎症を起こした粉瘤は、通常の粉瘤よりも治療が難しくなるため、早期の受診が推奨されます。
2. 毛嚢炎(もうのうえん)・せつ・よう
毛嚢炎は、毛穴の奥の毛包と呼ばれる部分に細菌が感染して起こる炎症です。黄色ブドウ球菌などの細菌が原因となることが多く、いわゆる「おでき」や「にきび」と呼ばれるものも含まれます。
毛嚢炎の特徴
- 毛穴を中心に赤く腫れる
- 先端に白や黄色の膿が見える
- 触ると痛みがある
- 小さいものは数日で自然治癒することも
せつ(癤)とよう(癰)
毛嚢炎が悪化すると「せつ」や「よう」になります:
- せつ(癤): 毛嚢炎が深部まで広がったもの。痛みを伴う赤い腫れとして現れ、中心に膿が溜まります
- よう(癰): 複数のせつが融合したもの。より大きく深い病変で、発熱や倦怠感を伴うことも
特に糖尿病や免疫力が低下している方は、これらの感染症が重症化しやすいため注意が必要です。
3. 脂肪腫
脂肪腫は、皮下脂肪組織が増殖してできる良性の軟部腫瘍です。通常は痛みを伴いませんが、以下のような場合に痛みが出ることがあります。
痛みを伴う脂肪腫の特徴
- 神経や血管を圧迫している場合
- 急速に大きくなった場合
- 血管脂肪腫など特殊なタイプの場合
- 外部からの刺激や圧迫を受けた場合
脂肪腫は柔らかく、押すと動く感触があるのが特徴です。背中、肩、首、腕、太ももなど、脂肪組織がある部分ならどこにでもできる可能性があります。
4. リンパ節の腫れ
厳密には「できもの」ではありませんが、皮膚の下に痛みを伴う腫れとして感じられることがあります。
リンパ節が腫れる原因
- 細菌やウイルス感染症(風邪、扁桃炎など)
- 皮膚の感染症や傷
- 虫歯や歯周病
- まれに悪性リンパ腫などの重篤な疾患
リンパ節の腫れは通常、首、脇の下、鼠径部(太ももの付け根)などに現れます。感染症による一時的な腫れは、原因が治れば自然に小さくなりますが、長期間続く場合や急速に大きくなる場合は精密検査が必要です。
5. 類表皮嚢腫(るいひょうひのうしゅ)
粉瘤に似た良性腫瘍で、特に顔面や首、頭部に多く見られます。粉瘤と同様、袋状の構造物の中に角質などが溜まりますが、粉瘤よりも硬く感じられることが特徴です。
感染を起こすと痛みや腫れが生じ、粉瘤と同様の症状を呈します。
6. 化膿性汗腺炎
汗腺(エクリン腺やアポクリン腺)の慢性的な炎症性疾患で、主に腋の下、乳房の下、鼠径部、臀部などに痛みを伴う結節や膿瘍を繰り返し形成します。
化膿性汗腺炎の特徴
- 繰り返しできる痛みを伴う腫れ
- 膿が出たり、瘻孔(トンネル状の穴)ができる
- 治っても瘢痕(傷跡)が残る
- 思春期以降、特に20〜40代に多い
喫煙や肥満、ホルモンバランスなどが関係していると考えられており、早期の適切な治療が重要です。
できものができる主な原因
細菌感染
最も多い原因の一つが細菌感染です。黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌などの常在菌が、小さな傷や毛穴から侵入して感染を引き起こします。
細菌感染を起こしやすい要因
- 不衛生な環境
- 皮膚のバリア機能の低下
- 擦り傷や虫刺され
- 免疫力の低下
- 糖尿病などの基礎疾患
皮脂や角質の詰まり
毛穴や皮膚の開口部が皮脂や角質で詰まることで、粉瘤やニキビなどができやすくなります。
詰まりを起こしやすい要因
- 過剰な皮脂分泌
- 不適切なスキンケア
- ホルモンバランスの乱れ
- 遺伝的要因
体質や遺伝
粉瘤や脂肪腫などは、体質的にできやすい方がいます。家族に同様の症状がある場合、遺伝的な要因が関係している可能性があります。
生活習慣
以下のような生活習慣も、できものができやすくなる要因となります:
- ストレス: 免疫力の低下やホルモンバランスの乱れを招く
- 睡眠不足: 皮膚の再生機能が低下する
- 偏った食生活: 栄養バランスの崩れが皮膚の健康に影響
- 喫煙: 血流が悪くなり、皮膚の抵抗力が低下
- 過度の飲酒: 免疫機能に悪影響
外的刺激
- きつい衣服による摩擦
- 繰り返される圧迫
- カミソリ負けなどの軽い外傷
- 紫外線による皮膚ダメージ
痛いできものの治療法
医療機関での治療
1. 抗生物質による治療
細菌感染が原因の場合、抗生物質の内服や外用が第一選択となります。
- 内服薬: セフェム系、ペニシリン系、マクロライド系などの抗生物質
- 外用薬: 抗生物質含有の軟膏やクリーム
炎症が強い場合や範囲が広い場合は、内服薬と外用薬を併用することもあります。
2. 切開排膿
膿が溜まっている場合は、切開して膿を排出する処置を行います。
処置の流れ:
- 局所麻酔を行う
- メスで小さく切開する
- 溜まった膿を絞り出す
- 抗生物質軟膏を塗布し、ガーゼで保護
- 必要に応じて抗生物質を内服
この処置により、痛みが劇的に改善されることが多いです。
3. 摘出術(粉瘤の根治的治療)
粉瘤の場合、袋状の構造物(嚢腫壁)を完全に摘出しないと再発します。そのため、炎症が落ち着いてから摘出手術を行うのが一般的です。
くり抜き法(へそ抜き法)
アイシークリニックで採用している主な方法で、以下の特徴があります:
- 小さな傷: 数ミリの穴を開けるだけ
- 短時間: 通常10〜20分程度
- 日帰り: 入院不要
- 傷跡が目立ちにくい: 縫合が不要または最小限
手順:
- 局所麻酔
- 特殊な器具で数ミリの穴を開ける
- 内容物と嚢腫壁を摘出
- 必要に応じて最小限の縫合
- ガーゼで保護
従来の切開法
大きな粉瘤や複雑な形状の場合は、従来の切開法を選択することもあります:
- 粉瘤の大きさに応じて切開
- 嚢腫壁を確実に摘出
- 縫合して傷を閉じる
- 約1週間後に抜糸
4. その他の治療
レーザー治療
小さな粉瘤や脂腺嚢腫などに対して、炭酸ガスレーザーなどを用いた治療を行うこともあります。
硬化療法や薬物療法
化膿性汗腺炎などの慢性疾患に対しては、生物学的製剤などの新しい治療法も導入されています。
自宅でのケア
医療機関を受診するまでの応急処置や、軽症の場合の自宅ケアについて解説します。
してよいこと
- 清潔に保つ: 石鹸で優しく洗い、清潔なタオルで拭く
- 冷やす: 炎症や痛みが強い場合は、清潔なタオルで包んだ保冷剤などで冷やす
- 市販の抗生物質軟膏: 軽度の毛嚢炎などには有効なことも
- 安静: 患部を刺激しないようにする
してはいけないこと
- 自分で潰す: 感染が広がったり、跡が残ったりする危険性
- 不衛生な方法で触る: 手を洗わずに触ると悪化の原因に
- 市販薬の過度な使用: 自己判断での長期使用は避ける
- 温める: 炎症がある場合、温めると悪化することも
受診の目安と注意点
すぐに受診すべき症状
以下のような症状がある場合は、できるだけ早く皮膚科を受診してください:
- 強い痛みや腫れがある
- 発熱を伴う
- 急速に大きくなる
- 赤みが広がっている
- 膿が大量に出る
- 複数箇所にできている
- 2週間以上治らない
特に、顔面にできた場合は目立ちやすく、跡が残りやすいため、早めの受診をお勧めします。
受診時に伝えるべき情報
診察をスムーズに進めるため、以下の情報を整理しておくと良いでしょう:
- いつから: できものに気づいた時期
- 症状の変化: 大きさや痛みの変化
- 過去の病歴: 同じようなことが以前にもあったか
- 基礎疾患: 糖尿病やアトピー性皮膚炎など
- 服用中の薬: 特に免疫抑制剤や抗がん剤など
- アレルギー: 薬物アレルギーの有無
放置するリスク
痛みのあるできものを放置すると、以下のようなリスクがあります:
感染の拡大
局所的な感染が周囲に広がり、蜂窩織炎(ほうかしきえん)などの重篤な状態になることがあります。特に顔面では、細菌が血管を通じて脳に達する危険性もゼロではありません。
瘢痕や色素沈着
炎症が長引くと、治った後も瘢痕(傷跡)や色素沈着が残ることがあります。特に炎症が強かった場合は、ケロイドのような盛り上がった跡になることも。
再発の繰り返し
粉瘤などは、適切な治療(摘出)を行わないと何度も炎症を繰り返します。
悪性腫瘍の見逃し
まれですが、悪性の皮膚腫瘍が「できもの」として現れることもあります。自己判断で放置せず、専門医の診察を受けることが大切です。
予防と日常生活での注意点
スキンケアのポイント
1. 適切な洗浄
- 1日2回程度、朝晩の洗顔・洗体
- 刺激の少ない石鹸やボディソープを使用
- ゴシゴシ擦らない、泡で優しく洗う
- しっかりすすぐ、石鹸成分が残らないように
2. 保湿ケア
- 洗浄後は適度な保湿を
- 肌質に合った保湿剤を選ぶ
- 過度な油分は毛穴詰まりの原因になることも
3. 紫外線対策
紫外線は皮膚のバリア機能を低下させるため、日焼け止めや帽子などで対策を。
生活習慣の改善
バランスの取れた食事
- ビタミンB群: 皮膚の健康維持に重要
- ビタミンC: コラーゲン生成や免疫機能をサポート
- 亜鉛: 皮膚の再生に必要
- たんぱく質: 皮膚組織の材料
十分な睡眠
睡眠中に分泌される成長ホルモンは、皮膚の修復・再生に欠かせません。質の良い睡眠を7〜8時間確保しましょう。
ストレス管理
慢性的なストレスは免疫機能を低下させます。適度な運動や趣味の時間を持つなど、ストレス解消法を見つけることが大切です。
禁煙
喫煙は皮膚の血流を悪化させ、治癒力を低下させます。できものができやすい方は、禁煙も検討してください。
衣服や環境の工夫
- 通気性の良い衣服を選ぶ
- きつすぎる下着は避ける
- 清潔なタオルや寝具を使う
- カミソリは清潔なものを使い、使用後は乾燥させる
- 共有のタオルは避ける
アイシークリニック上野院での治療
アイシークリニック上野院では、できものに関する豊富な診療経験を持つ医師が、患者様一人ひとりの症状に合わせた最適な治療を提供しています。
当院の特徴
1. 日帰り手術に対応
粉瘤の摘出手術も、多くの場合日帰りで行うことができます。仕事や日常生活への影響を最小限に抑えた治療計画を立てます。
2. くり抜き法による傷跡に配慮した治療
特に露出部(顔や首など)にできた粉瘤に対しては、傷跡が目立ちにくいくり抜き法を積極的に採用しています。
3. 痛みへの配慮
局所麻酔の際も、極細の針を使用し、麻酔液の注入速度を調整するなど、痛みを最小限にする工夫をしています。
4. 丁寧な説明とアフターケア
治療内容や術後のケア方法について、分かりやすく丁寧にご説明します。不安な点や疑問があれば、遠慮なくお尋ねください。
診療の流れ
- 初診・診察: 症状を詳しくお伺いし、視診・触診を行います
- 診断: できものの種類を判断し、必要に応じて超音波検査などを実施
- 治療方針の決定: 患者様と相談しながら、最適な治療法を選択
- 治療の実施: 当日可能な処置や、手術の予約
- 経過観察: 術後の傷の状態を確認し、必要に応じてケア方法をアドバイス
費用について
保険診療の範囲内で治療を行いますので、費用負担は抑えられます。具体的な費用は、治療内容や患部の大きさ、数によって異なりますので、診察時にご説明いたします。

よくあるご質問
小さな毛嚢炎などは自然治癒することもありますが、粉瘤は自然に治ることはありません。また、感染が広がると重症化するリスクもあるため、心配な場合は早めに受診することをお勧めします。
軽度の毛嚢炎などには市販の抗生物質軟膏が有効なこともありますが、粉瘤など袋状の構造物がある場合は、手術による摘出が必要です。自己判断での長期使用は避け、改善が見られない場合は医療機関を受診してください。
くり抜き法では傷跡を最小限に抑えることができますが、完全に跡が残らないわけではありません。ただし、時間とともに目立たなくなっていくことが多いです。また、炎症を起こしてから治療するよりも、炎症を起こす前に治療した方が、傷跡はきれいに仕上がります。
部位や手術の規模によりますが、多くの場合、翌日から通常の生活に戻れます。激しい運動や入浴は数日間控えていただく必要がありますが、シャワーは翌日から可能なことが多いです。
粉瘤の場合、袋状の構造物(嚢腫壁)を完全に摘出できれば再発はほとんどありません。ただし、別の場所に新たに粉瘤ができることはあります。毛嚢炎などは、体質や生活習慣によって繰り返すことがあります。
炎症が強い急性期には、まず抗生物質で炎症を抑えてから手術を行う方が、傷の治りが良く、再発のリスクも低くなります。ただし、膿が溜まっている場合は切開排膿を行い、痛みを軽減させることができます。
まとめ
痛みを伴うできものは、日常生活に支障をきたすだけでなく、放置すると悪化したり跡が残ったりするリスクがあります。主な種類として、粉瘤、毛嚢炎、せつ、脂肪腫などがあり、それぞれ適切な治療法が異なります。
重要なポイント:
- 痛いできものの多くは細菌感染が関係している
- 自分で潰すのは厳禁
- 早期受診が跡を残さないコツ
- 粉瘤は手術による摘出が必要
- 生活習慣の改善で予防できることも
できものができた場合、まずは自己判断せず、専門医の診察を受けることをお勧めします。特に痛みや腫れが強い場合、発熱を伴う場合、急速に大きくなる場合は、早急な受診が必要です。
アイシークリニック上野院では、豊富な経験を持つ医師が、患者様の症状に合わせた最適な治療を提供しています。できものでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。早期の適切な治療で、痛みや不安から解放され、快適な日常生活を取り戻しましょう。
参考文献
- 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A」 https://www.dermatol.or.jp/qa/
- 厚生労働省「皮膚疾患に関する情報」 https://www.mhlw.go.jp/
- 日本形成外科学会「形成外科で扱う疾患」 http://www.jsprs.or.jp/
- 清水宏『あたらしい皮膚科学 第3版』中山書店、2018年
- 古川福実、秀道広 編『標準皮膚科学 第11版』医学書院、2020年
- 瀧川雅浩、戸倉新樹 編『皮膚科学 第10版』金芳堂、2019年
- 石橋明彦「粉瘤(アテローム)の診断と治療」『臨床皮膚科』Vol.73, No.8, 2019年
- 加藤則人「皮膚軟部腫瘍の診断と治療のコツ」『日本医師会雑誌』第147巻・第2号、2018年
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務