はじめに
俳優の坂口憲二さんが2018年に芸能活動を無期限休止したニュース、そしてタレントの堀ちえみさんが長年この病気と闘っていることを公表したことで、「特発性大腿骨頭壊死症」という病名を初めて耳にした方も多いのではないでしょうか。
坂口憲二さんは2013年頃から股関節の痛みに悩まされ、2015年に特発性大腿骨頭壊死症と診断されました。その後も俳優業を続けながら治療を続けていましたが、2018年に症状悪化のため芸能活動の無期限休止を発表しました。一方、堀ちえみさんは20代の頃から同じ病気に苦しみ、人工関節置換術を受けながらも芸能活動を続けてこられました。
お二人のような若く活動的な方が突然この病気に見舞われたことで、多くの人々がこの疾患について関心を持つようになりました。しかし、特発性大腿骨頭壊死症は一般的にはまだあまり知られていない疾患です。
この記事では、特発性大腿骨頭壊死症とはどのような病気なのか、原因、症状、診断方法、治療法について、医学的に正確な情報を分かりやすく解説していきます。

特発性大腿骨頭壊死症とは
病気の概要
特発性大腿骨頭壊死症(とくはつせいだいたいこつとうえししょう)は、大腿骨頭(太ももの骨の上端にある球状の部分)への血流が何らかの原因で途絶え、骨組織が壊死(死んでしまうこと)してしまう疾患です。英語では「Idiopathic Osteonecrosis of the Femoral Head (IONFH)」または「Avascular Necrosis of the Femoral Head (AVN)」と呼ばれます。
大腿骨頭は股関節を構成する重要な部分で、骨盤側の寛骨臼(かんこつきゅう)という受け皿のような部分にはまり込んで、歩行や立ち座りなどの日常動作を可能にしています。この大腿骨頭への血液供給が途絶えると、骨が壊死し、やがて骨頭が変形したり陥没したりして、激しい痛みや歩行障害を引き起こします。
「特発性」の意味
病名に「特発性」という言葉が付いているのは、明確な外傷(骨折や脱臼など)がないにもかかわらず発症するためです。つまり、転倒して骨折したといった分かりやすい原因がなく、いつの間にか骨頭への血流が障害されて発症するということです。
ただし、後述するように、ステロイド薬の使用や大量の飲酒など、発症に関連する危険因子はいくつか明らかになっています。それでも、なぜそれらの因子が血流障害を引き起こすのか、なぜ特定の人だけが発症するのかなど、完全には解明されていない部分も多く、「特発性」という名称が使われ続けています。
疫学データ
日本における特発性大腿骨頭壊死症の発症頻度は、年間で人口10万人あたり約2〜3人程度と推定されています。これは決して多い数字ではありませんが、発症すると日常生活に大きな支障をきたす重篤な疾患です。
年齢分布を見ると、30代から50代の働き盛りの世代に多く発症する傾向があります。坂口憲二さんが30代後半で発症したのも、この疾患の典型的な発症年齢に該当します。男女比では、やや男性に多い傾向がありますが、女性にも決して珍しくありません。
厚生労働省の指定難病にも登録されており、一定の基準を満たす患者さんは医療費助成の対象となります。
特発性大腿骨頭壊死症の原因とリスクファクター
血流障害のメカニズム
特発性大腿骨頭壊死症の直接的な原因は、大腿骨頭への血液供給の途絶です。大腿骨頭は比較的細い血管によって栄養されており、もともと血流が途絶えやすい構造をしています。
血流が途絶える原因としては、以下のようなメカニズムが考えられています。
- 血管内の閉塞:血管の中に血栓(血の塊)ができたり、脂肪の塊が詰まったりして血流が途絶える
- 血管外からの圧迫:骨髄内の圧力が上昇して血管が圧迫される
- 血管壁の障害:血管の壁自体が傷んで血流が悪くなる
これらの変化により、骨組織に酸素や栄養が届かなくなり、骨細胞が死んでしまいます。
主要なリスクファクター
特発性大腿骨頭壊死症の発症には、いくつかの明確なリスクファクター(危険因子)が知られています。
1. ステロイド薬の使用
最も重要なリスクファクターの一つがステロイド薬(副腎皮質ホルモン)の使用です。全身性エリテマトーデス、ネフローゼ症候群、臓器移植後の拒絶反応予防、重症喘息など、さまざまな疾患の治療でステロイド薬が使用されますが、特に大量投与や長期投与によって大腿骨頭壊死のリスクが高まることが知られています。
堀ちえみさんのケースでは、若い頃に膠原病の治療でステロイド薬を使用していたことが発症の一因と考えられています。
ステロイド薬がなぜ骨壊死を引き起こすのかについては、以下のような機序が提唱されています。
- 脂肪細胞の肥大により骨髄内圧が上昇し、血管が圧迫される
- 血液が固まりやすくなり、微小な血栓が形成される
- 骨細胞自体にダメージを与える
ただし、ステロイド薬を使用した全ての人が大腿骨頭壊死を発症するわけではなく、発症率は数パーセント程度とされています。
2. アルコール多飲
大量の飲酒も重要なリスクファクターです。一般的に、1日平均で日本酒換算2合以上(エタノール換算で約40g以上)を長期間にわたって飲酒している場合、リスクが高まるとされています。
アルコールによる発症メカニズムとしては、以下が考えられています。
- 脂質代謝の異常により、血管内に脂肪塊が詰まりやすくなる
- アルコールの直接的な毒性による血管障害
- 骨代謝の異常
坂口憲二さんのケースでは、アルコールが関与していたかどうかは公表されていませんが、男性の患者さんではアルコール関連の発症例も少なくありません。
3. その他のリスクファクター
その他にも、以下のような因子が大腿骨頭壊死のリスクを高める可能性があります。
- 潜水病(減圧症):スキューバダイビングなどで急速に浮上した際に、血液中の窒素が気泡を作り、血管を詰まらせる
- 鎌状赤血球症:遺伝性の血液疾患で、赤血球の形が異常になり血管が詰まりやすくなる(日本人には稀)
- 放射線治療:骨盤部への放射線照射により血管が傷つく
- 外傷の既往:大腿骨頸部骨折や股関節脱臼の既往がある場合、血管が損傷している可能性がある
- 遺伝的要因:一部の遺伝子多型がリスクを高める可能性が研究されている
4. 明確な原因が不明なケース
興味深いことに、特発性大腿骨頭壊死症の患者さんの中には、上記のような明確なリスクファクターを持たない方も一定数存在します。このような場合は、遺伝的な要因や、まだ解明されていない環境要因などが複雑に絡み合って発症していると考えられています。
特発性大腿骨頭壊死症の症状
初期症状
特発性大腿骨頭壊死症の症状は、病気の進行段階によって大きく異なります。
最も特徴的なのは、突然発症する股関節の痛みです。多くの患者さんは、「ある日突然、股関節に激痛が走った」と表現されます。この突然の痛みは、壊死した骨頭が体重を支えきれずに陥没(圧潰)することで生じると考えられています。
初期の段階では、以下のような症状が現れます。
- 股関節の痛み:鼠径部(足の付け根)、臀部(お尻)、大腿部(太もも)の痛み
- 運動時痛:歩行時や階段の昇降時に痛みが強くなる
- 荷重時痛:体重をかけたときに痛みを感じる
- 動作開始時痛:座った状態から立ち上がるときなどに痛みが出る
坂口憲二さんも、最初は「股関節の違和感」から始まり、徐々に痛みが強くなっていったと報道されています。
進行期の症状
病気が進行すると、症状はより重篤になります。
- 持続的な痛み:安静時にも痛みを感じるようになる
- 可動域の制限:股関節を動かせる範囲が狭くなる
- 跛行(びっこ):痛みをかばうために歩き方が不自然になる
- 日常生活動作の困難:靴下を履く、爪を切る、階段の昇降、長時間の立位や歩行が困難になる
- 夜間痛:夜寝ているときにも痛みで目が覚める
進行した状態では、杖や松葉杖なしでは歩行が困難になることもあります。
両側性の発症
特発性大腿骨頭壊死症の特徴の一つとして、両側性(両方の股関節)に発症することがあります。ステロイド関連の場合は約50〜80%、アルコール関連の場合は約70〜90%が両側性と報告されています。
片方の股関節に症状が出た場合、もう片方も注意深く観察する必要があります。ただし、必ずしも両側が同時に症状を呈するわけではなく、片側の発症から数年後にもう片側が発症することもあります。
堀ちえみさんのケースでも、両側の股関節に人工関節を入れる手術を受けられたことが報告されています。
無症状期間の存在
重要な点として、骨頭に壊死が生じていても、すぐには症状が現れないことがあります。この無症状期間は数ヶ月から数年に及ぶこともあります。
この時期に適切な治療介入ができれば、症状の出現や進行を遅らせることができる可能性があります。したがって、ステロイド薬を使用している方や、大量飲酒の習慣がある方は、定期的な検査を受けることが推奨されます。
診断方法
問診と身体診察
特発性大腿骨頭壊死症の診断は、まず詳細な問診から始まります。医師は以下のような点について確認します。
- いつから、どのような痛みがあるか
- ステロイド薬の使用歴
- 飲酒習慣
- 外傷の既往
- その他の基礎疾患
身体診察では、以下のような検査を行います。
- 歩行の観察
- 股関節の可動域チェック
- 圧痛の確認
- 特殊な整形外科的テスト(パトリックテストなど)
画像診断
確定診断には画像検査が不可欠です。
1. X線検査(レントゲン)
最も基本的な検査です。股関節の正面像と側面像を撮影します。
初期段階ではX線で異常が見られないこともありますが、進行すると以下のような特徴的な所見が現れます。
- 骨硬化像(骨が白く写る)
- 骨透亮像(骨が黒く写る)
- 帯状硬化像
- 骨頭の陥没や変形
- 関節裂隙の狭小化(進行例)
2. MRI検査(磁気共鳴画像)
特発性大腿骨頭壊死症の早期診断に最も有用な検査です。X線では異常が見られない初期段階でも、MRIでは壊死部位を明瞭に描出できます。
MRI画像では、特徴的な「バンドサイン」と呼ばれる所見が見られます。これは、T1強調像で低信号、T2強調像で高信号を示す帯状の影で、壊死領域と正常領域の境界を示しています。
坂口憲二さんや堀ちえみさんも、この疾患の診断にMRI検査を受けられたものと考えられます。
3. CT検査
骨の形態をより詳細に評価する必要がある場合に行われます。特に手術前の評価や、骨頭の陥没の程度を評価する際に有用です。
4. 骨シンチグラフィー
放射性同位元素を用いた検査で、骨の代謝状態を評価できます。早期診断や、両側性の病変の有無を確認するのに役立ちますが、現在ではMRIの方が一般的に用いられます。
病期分類
診断が確定したら、病気の進行度を評価する必要があります。日本では日本整形外科学会による病期分類が広く用いられています。
Type分類(壊死の範囲)
- Type A:壊死範囲が骨頭の内側1/3以下
- Type B:壊死範囲が骨頭の内側2/3以下
- Type C:壊死範囲が骨頭の2/3以上
Stage分類(進行度)
- Stage 1:X線で異常なし、MRIで異常あり
- Stage 2:X線で硬化像や透亮像があるが、骨頭の形は保たれている
- Stage 3:骨頭に陥没や変形がある
- Stage 4:股関節の関節症性変化(臼蓋側にも変化)がある
この分類により、治療方針が決定されます。一般的に、Stage 1や2の早期段階では保存療法や関節温存手術が選択され、Stage 3や4では人工関節置換術が検討されます。
治療法
特発性大腿骨頭壊死症の治療は、病期、年齢、活動性、症状の程度などを総合的に考慮して決定されます。治療の目標は、痛みの軽減と股関節機能の維持・改善です。
保存療法(手術をしない治療)
1. 薬物療法
痛みに対しては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が使用されます。ただし、これは対症療法であり、病気の進行を止めるものではありません。
骨の代謝を改善する目的で、以下のような薬剤が使用されることがあります。
- ビスホスホネート製剤:骨吸収を抑制する
- ビタミンD製剤:骨代謝を改善する
- 抗凝固薬:血栓形成を予防する
ただし、これらの薬剤の有効性については、まだ議論が続いています。
2. 荷重制限
骨頭への負担を減らすため、体重をかけないようにする(免荷)ことが推奨される場合があります。具体的には、松葉杖や杖を使用して、患側の股関節にかかる体重を減らします。
特にStage 1や2の早期段階では、荷重制限により骨頭の陥没を防げる可能性があります。
3. 理学療法
股関節周囲の筋力を維持・強化し、関節の可動域を保つことが重要です。理学療法士の指導のもと、以下のような運動療法が行われます。
- 筋力トレーニング(大腿四頭筋、中殿筋など)
- ストレッチング
- 水中運動
- 温熱療法
4. 生活指導
リスクファクターへの対策も重要です。
- アルコール摂取の制限または禁酒
- 体重管理
- 重労働や激しいスポーツの制限
- 禁煙(喫煙は血流を悪化させる)
坂口憲二さんも、治療の一環として生活習慣の見直しを行っていたと報道されています。
外科的治療(手術)
保存療法で改善が見られない場合や、病気が進行している場合は、手術が必要になります。手術には大きく分けて「関節温存手術」と「人工関節置換術」があります。
1. 関節温存手術
比較的若年で、Stage 2までの早期段階の患者さんに対して行われます。自分の股関節を残すことを目的とした手術です。
骨切り術
壊死した部分が体重のかかる場所から移動するように、大腿骨を切って角度を変える手術です。これにより、健康な骨の部分で体重を支えられるようになります。
主な骨切り術には以下のようなものがあります。
- 大腿骨内反骨切り術
- 大腿骨外反骨切り術
- 大腿骨回旋骨切り術
血管柄付き骨移植術
血管を付けたまま、他の部位の骨(多くは腓骨)を採取して、壊死した大腿骨頭に移植する手術です。移植した骨の血管により、骨頭への血流が回復することが期待されます。
減圧術(コアデコンプレッション)
大腿骨頭に細い穴を開けて、骨髄内の圧力を下げる手術です。これにより血流の改善が期待されますが、単独での効果は限定的とされています。
人工骨頭充填術
壊死部分を掻き出して、人工骨や自家骨で充填する方法です。
2. 人工関節置換術
Stage 3や4の進行した症例、または関節温存手術後も症状が改善しない場合に行われます。
人工股関節全置換術(THA: Total Hip Arthroplasty)
最も一般的に行われる手術で、壊死した大腿骨頭と損傷した寛骨臼の両方を人工物に置き換えます。
手術により、痛みは著明に改善し、日常生活動作も大幅に改善します。現在の人工関節の耐用年数は、適切に使用すれば20年以上とされています。
堀ちえみさんは、両側の股関節にこの人工股関節全置換術を受けられ、現在も元気に芸能活動を続けておられます。
人工関節の種類や固定方法にはいくつかの選択肢があり、患者さんの年齢、活動性、骨の状態などに応じて最適なものが選択されます。
人工骨頭置換術(BHA: Bipolar Hip Arthroplasty)
大腿骨頭のみを人工物に置き換える手術です。高齢者で活動性が低い場合に選択されることがあります。
治療方針の決定
治療方針は、以下の要素を総合的に判断して決定されます。
- 病期:Stage 1-2では関節温存手術、Stage 3-4では人工関節が検討される
- 年齢:若年者では可能な限り関節温存を目指す
- 活動性:活動性が高い場合は関節温存が望ましい
- 症状:痛みの程度や日常生活への支障
- 壊死の範囲:Type Aでは保存療法、Type Cでは手術が必要なことが多い
- 患者の希望:患者さん自身のライフスタイルや希望も重要
坂口憲二さんは、俳優としてアクション演技などをこなす必要があったため、関節温存を目指した治療を選択されていたと考えられます。しかし、症状の改善が十分に得られず、最終的には芸能活動の休止を決断されました。
予後と長期的な見通し
自然経過
特発性大腿骨頭壊死症は、必ずしも全例が進行するわけではありません。壊死の範囲が小さく、体重のかかる部位に病変がない場合(Type A)は、進行せずに経過することもあります。
しかし、壊死範囲が広い場合(Type CやType C-2)は、約80%以上が骨頭の陥没に至るとされています。
手術後の予後
関節温存手術後
骨切り術の成績は、適切な症例選択が行われた場合、10年で70〜80%程度の良好な成績が報告されています。ただし、壊死範囲が広い場合や、すでに陥没が始まっている場合は、成績が低下します。
人工関節置換術後
人工股関節全置換術の成績は非常に良好で、10年生存率(再手術なしで過ごせる割合)は95%以上とされています。
堀ちえみさんのように、人工関節置換術後も活発に活動されている方は多くいらっしゃいます。ただし、激しいスポーツや重労働は制限される場合があります。
職業復帰と社会生活
多くの患者さんは、適切な治療により職業復帰が可能です。デスクワークなど座位中心の仕事では、ほとんど制限なく復帰できます。
立ち仕事や重労働の場合は、職種によって復帰の可否や時期が異なります。主治医とよく相談しながら、段階的な復帰を目指すことが大切です。
坂口憲二さんのように、激しいアクションを伴う俳優業への復帰は難しいケースもありますが、その後、飲食店経営など別の分野で活躍されています。
再発と反対側の発症
一度手術を受けた側の再発は稀ですが、反対側に新たに発症する可能性はあります。特にステロイド薬の使用やアルコール摂取が継続している場合は、リスクが高まります。
したがって、片側の治療後も、反対側の定期的な観察が必要です。
予防とリスク管理
ステロイド使用時の注意
ステロイド薬を使用しなければならない基礎疾患がある場合、以下の点に注意が必要です。
- 必要最小限の用量と期間にとどめる
- 可能であれば、大腿骨頭壊死のリスクが低いとされる投与法を選択する
- 定期的なMRI検査によるスクリーニング
- 早期発見・早期治療
ただし、基礎疾患の治療が最優先ですので、自己判断でステロイド薬を中止することは絶対に避けてください。
アルコール摂取の管理
大量飲酒は明確なリスクファクターです。以下の点に注意しましょう。
- 適量飲酒を心がける(1日日本酒1合以下を目安)
- 可能であれば禁酒する
- 既に大量飲酒の習慣がある方は、定期的な検診を受ける
その他の予防策
- 適正体重の維持:肥満は股関節への負担を増やします
- 適度な運動:骨や筋肉の健康維持に重要ですが、股関節に過度な負担がかかる運動は避ける
- 禁煙:喫煙は血流を悪化させるため、禁煙が推奨されます
- 早期発見:リスクファクターがある方は、症状がなくても定期的な検査を受けることが重要
高リスク群の定期検査
以下のような方は、定期的にMRI検査を受けることが推奨されます。
- ステロイド薬を長期または大量に使用している方
- 大量飲酒の習慣がある方
- すでに片側に大腿骨頭壊死を発症した方
- 臓器移植を受けた方
- 膠原病などでステロイド治療を受けている方

患者さんとご家族へのメッセージ
特発性大腿骨頭壊死症と診断されると、多くの患者さんが不安を感じられます。坂口憲二さんのように、活動的な生活を送っていた方が突然この病気と向き合うことになったとき、その衝撃は計り知れません。
しかし、医療技術の進歩により、この病気の治療成績は着実に向上しています。早期に発見されれば、関節を温存できる可能性もありますし、進行した場合でも人工関節置換術により、痛みのない生活を取り戻すことができます。
堀ちえみさんのように、人工関節を入れた後も、活発に社会生活を送っておられる方は多くいらっしゃいます。
大切なポイント
- 早期発見・早期治療:リスクファクターがある方は、定期的な検査を受けましょう
- 適切な医療機関の受診:整形外科、特に股関節を専門とする医師の診察を受けることが重要です
- 治療方針の理解:医師の説明をよく聞き、疑問点は遠慮なく質問しましょう
- 前向きな姿勢:適切な治療により、多くの患者さんが良好な予後を得ています
- サポート体制:家族や医療スタッフ、患者会などのサポートを活用しましょう
難病指定と医療費助成
特発性大腿骨頭壊死症は、厚生労働省の指定難病(疾病番号71)に指定されています。一定の基準を満たす場合、医療費助成を受けることができます。
詳しくは、主治医または最寄りの保健所にお問い合わせください。
まとめ
特発性大腿骨頭壊死症は、大腿骨頭への血流障害により骨が壊死する疾患で、30〜50代の働き盛りの世代に多く発症します。俳優の坂口憲二さん、タレントの堀ちえみさんが公表されたことで、広く知られるようになりました。
主なポイント
- 原因:血流障害による骨壊死。ステロイド薬の使用や大量飲酒が主なリスクファクター
- 症状:突然の股関節痛、歩行困難、可動域制限
- 診断:MRI検査が最も有用。早期発見が重要
- 治療:病期により、保存療法、関節温存手術、人工関節置換術を選択
- 予後:適切な治療により、多くの患者さんが良好な経過をたどる
- 予防:リスクファクターの管理と早期発見が重要
この病気は確かに重篤な疾患ですが、医療技術の進歩により、適切な治療を受けることで日常生活に復帰することが可能です。リスクファクターをお持ちの方は定期的な検査を受け、早期発見に努めることが大切です。
股関節の痛みや違和感を感じたら、早めに整形外科を受診しましょう。早期の診断と適切な治療が、より良い予後につながります。
参考文献
- 日本整形外科学会:特発性大腿骨頭壊死症診療ガイドライン 2021 https://www.joa.or.jp/
- 難病情報センター:特発性大腿骨頭壊死症(指定難病71) https://www.nanbyou.or.jp/
- 日本股関節学会:特発性大腿骨頭壊死症について https://www.jpoa.org/
- 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業:特発性大腿骨頭壊死症の診療ガイドライン
- 日本リウマチ学会:ステロイド性骨壊死の予防と治療 https://www.ryumachi-jp.com/
- 国立国際医療研究センター:骨壊死症について https://www.ncgm.go.jp/
※本記事の医学的内容は、上記の信頼できる医学文献および医療機関の情報に基づいて作成されています。個別の症状や治療については、必ず専門医にご相談ください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務