はじめに
首や肩のあたりに、やわらかいしこりを見つけて不安になった経験はありませんか。痛みはないけれど、触るとコリコリとした感触があり、「これは何だろう」「悪いものではないだろうか」と心配になる方は少なくありません。
このようなしこりの多くは「脂肪腫(しぼうしゅ)」と呼ばれる良性の腫瘍です。脂肪腫は全身のさまざまな部位に発生しますが、特に首や肩、背中などによく見られます。本記事では、首にできる脂肪腫について、その特徴から診断、治療法まで、一般の方にも分かりやすく詳しく解説していきます。

脂肪腫とは何か
脂肪腫の基本的な理解
脂肪腫は、脂肪細胞が増殖してできる良性の軟部組織腫瘍です。「腫瘍」という言葉を聞くと怖く感じるかもしれませんが、脂肪腫は良性であり、がん(悪性腫瘍)とは異なります。体のどこにでもできる可能性がありますが、特に皮膚の下(皮下組織)に発生することが最も多く見られます。
脂肪腫は非常に一般的な疾患で、成人の約1〜2%に見られるとされています。実際には、小さなものや気づかれていないものを含めると、もっと多くの方が脂肪腫を持っていると考えられています。男女ともに発生しますが、やや女性に多い傾向があります。発症年齢は40〜60歳代が最も多いですが、若い方からご高齢の方まで、幅広い年齢層で見られます。
脂肪腫の種類
脂肪腫にはいくつかの種類があります。最も一般的なのは「通常型脂肪腫」で、これは成熟した脂肪細胞のみからなるタイプです。その他にも以下のような種類があります。
線維脂肪腫は、脂肪組織の中に線維成分が混在しているタイプです。通常の脂肪腫よりもやや硬く感じることがあります。
血管脂肪腫は、血管成分を多く含む脂肪腫で、時に赤みを帯びて見えることがあります。
筋肉内脂肪腫は、筋肉の中に発生するタイプで、首や肩によく見られます。
多発性脂肪腫症は、全身に複数の脂肪腫ができる状態で、遺伝的な要因が関与していることがあります。
いずれのタイプも基本的には良性であり、悪性化することは極めてまれです。
首に脂肪腫ができる理由
脂肪腫が発生する原因
脂肪腫がなぜできるのか、その正確な原因はまだ完全には解明されていません。しかし、いくつかの要因が関与していると考えられています。
遺伝的要因は、脂肪腫の発生に大きく関わっていると考えられています。家族に脂肪腫のある方がいる場合、自分も脂肪腫ができやすい傾向があります。特に多発性脂肪腫症の場合は、遺伝的な背景が強く関与しています。
外傷や打撲が脂肪腫の発生のきっかけになることがあるという報告もあります。首や肩は、日常生活の中で物がぶつかったり、スポーツで衝撃を受けたりしやすい部位です。外傷によって脂肪組織に何らかの変化が起こり、それが脂肪腫の形成につながる可能性が指摘されています。
代謝異常も関連があるのではないかと考えられています。脂質代謝に関わる遺伝子の変異が、脂肪腫の発生に関与している可能性があります。
なぜ首に多いのか
首は脂肪腫ができやすい部位の一つです。その理由として、以下のような点が考えられます。
首の周囲には、比較的厚い皮下脂肪組織があります。脂肪腫は脂肪組織から発生するため、脂肪組織が豊富な部位に発生しやすいのです。
また、首は体の中でも動きが大きい部位です。頭を支え、左右に動かし、前後に傾けるなど、常に動いています。この動きによる刺激が、脂肪組織に何らかの影響を与えている可能性があります。
さらに、首の後ろや側面は、衣服の襟や鞄の肩ひもなどによる慢性的な刺激を受けやすい部位でもあります。こうした持続的な刺激が、脂肪腫の発生や成長に関与しているかもしれません。
生活習慣との関係
肥満と脂肪腫の関係について、よく質問を受けます。実は、肥満の方に必ずしも脂肪腫が多いというわけではありません。痩せている方にも脂肪腫はできますし、肥満の方でも脂肪腫がない方もたくさんいます。ただし、全体的な体の脂肪量が多い場合、脂肪腫も大きくなりやすい傾向があるとも言われています。
食生活や運動習慣が直接的に脂肪腫の発生に関わっているという明確な証拠はありませんが、健康的な生活習慣を維持することは、全般的な健康維持のために重要です。
首の脂肪腫の特徴的な症状
見た目と触った感じ
首にできる脂肪腫の最も典型的な特徴は、皮膚の下にできる「やわらかいしこり」です。触ってみると、以下のような特徴があります。
やわらかく弾力がある:脂肪腫は、周囲の正常な脂肪組織と同じような柔らかさを持っています。指で押すとわずかに沈み込み、押すのをやめると元に戻ります。この弾力性のある感触が特徴的です。
境界が比較的はっきりしている:脂肪腫は被膜と呼ばれる薄い膜に覆われているため、周囲との境界が比較的はっきりしています。触診すると、しこりの輪郭を確認できることが多いです。
皮膚との癒着がない:脂肪腫の上の皮膚は正常で、しこりと皮膚は別々に動きます。皮膚を摘まんで動かすと、その下のしこりとは独立して動くのが分かります。
可動性がある:脂肪腫自体も、周囲の組織に対してある程度動きます。指で左右に動かすと、わずかに移動することが確認できます。
大きさと成長速度
首にできる脂肪腫の大きさは、非常に小さなものから大きなものまで様々です。多くは直径2〜3センチメートル程度ですが、中には5センチメートル以上になることもあります。まれに10センチメートルを超える巨大な脂肪腫も報告されています。
脂肪腫の成長速度は一般的に非常にゆっくりです。何年もかけて少しずつ大きくなることが多く、急激に大きくなることはあまりありません。ただし、個人差があり、比較的早く成長する場合もあれば、長年ほとんど変化しない場合もあります。
痛みや不快感
基本的に、脂肪腫は痛みを伴わないことが多いです。触っても痛くなく、日常生活で特に不快感を感じないことがほとんどです。
しかし、以下のような場合には痛みや不快感を感じることがあります。
圧迫される場合:首の脂肪腫が大きくなると、衣服の襟や鞄の肩ひもなどで圧迫されることがあります。このような場合、圧迫部位に痛みや不快感を感じることがあります。
神経の近くにある場合:脂肪腫が神経の近くにできた場合、神経を圧迫することで痛みやしびれ、違和感を生じることがあります。
炎症を起こした場合:まれに、脂肪腫が炎症を起こすことがあります。この場合、赤く腫れて、触ると痛みを感じます。
急速に大きくなる場合:通常はゆっくり成長する脂肪腫ですが、急に大きくなる場合は、内部で出血したり、炎症を起こしたりしている可能性があります。
首の脂肪腫特有の悩み
首は人目につきやすい部位です。そのため、脂肪腫があることで以下のような悩みを抱える方が多くいらっしゃいます。
見た目の問題:首のしこりは、特に夏場など薄着の季節には目立ちやすくなります。人の視線が気になる、写真に写るのが嫌だ、という方も少なくありません。
衣服の問題:首の脂肪腫は、襟のある服や首周りにフィットする服を着る際に違和感や圧迫感を感じることがあります。
アクセサリーの問題:ネックレスをする際に脂肪腫が邪魔になったり、髪型を変えられなかったりすることもあります。
美容院での指摘:美容院でシャンプーやカットをしてもらう際に、美容師さんに「これは何ですか」と聞かれて恥ずかしい思いをした、という方もいらっしゃいます。
これらの悩みは、たとえ脂肪腫が良性で健康上の問題がなくても、日常生活の質(QOL)に影響を与えることがあります。
診断方法:脂肪腫かどうかを調べるには
問診と視診・触診
脂肪腫が疑われる場合、医療機関での診察が重要です。診断の第一歩は、医師による問診と視診・触診です。
問診では、以下のようなことを聞かれます。
- いつごろから気づいたか
- 大きくなってきているか
- 痛みや違和感はあるか
- 家族に同じようなしこりがある人はいるか
- 外傷や打撲の既往はあるか
視診では、しこりの大きさ、形、色、皮膚の状態などを観察します。
触診では、しこりの硬さ、境界の明瞭さ、可動性、圧痛の有無などを確認します。経験豊富な医師であれば、触診だけでもある程度、脂肪腫かどうかの見当をつけることができます。
画像検査
視診・触診だけでは確定診断が難しい場合や、より詳しく調べる必要がある場合には、画像検査を行います。
**超音波検査(エコー検査)**は、最も一般的に用いられる画像検査です。超音波検査は、痛みがなく、放射線被ばくもないため、安全に行える検査です。脂肪腫は超音波検査で特徴的な画像パターンを示すため、診断に非常に有用です。脂肪腫は通常、境界明瞭で内部エコーが均一な腫瘤として描出されます。また、超音波検査では、しこりの正確な大きさや深さ、周囲の組織との関係なども詳しく調べることができます。
**MRI検査(磁気共鳴画像検査)**は、より詳細な情報が必要な場合に行われます。MRIは脂肪組織の描出に優れており、脂肪腫を非常にはっきりと画像化できます。特に、脂肪腫が筋肉の中にある場合や、大きな脂肪腫の場合、あるいは悪性の可能性を否定する必要がある場合などに有用です。MRI検査では、脂肪腫は脂肪抑制画像で信号が低下するという特徴的なパターンを示します。
**CT検査(コンピュータ断層撮影)**は、MRI検査ができない場合や、骨との関係を詳しく調べる必要がある場合などに行われることがあります。
病理検査(組織検査)
画像検査だけでは確定診断が難しい場合や、悪性の可能性を完全に否定する必要がある場合には、病理検査を行います。
穿刺吸引細胞診は、細い針を刺して細胞を採取し、顕微鏡で観察する検査です。外来で比較的簡単に行えますが、採取できる組織の量が少ないため、確定診断には至らないこともあります。
**針生検(コア生検)**は、やや太い針を用いて組織の一部を採取する検査です。穿刺吸引細胞診よりも多くの組織を採取できるため、診断精度が高くなります。
**摘出生検(切除生検)**は、腫瘍を手術で完全に摘出し、病理検査に提出する方法です。最も確実な診断方法であり、同時に治療にもなります。
他の疾患との鑑別
首にしこりができる疾患は脂肪腫以外にも多数あります。以下のような疾患との鑑別が重要です。
**粉瘤(アテローム、表皮嚢腫)**は、皮膚にできる袋状の良性腫瘍で、脂肪腫と並んで非常に多い疾患です。粉瘤には通常、中央部に小さな開口部(ヘソ)があり、圧迫すると臭いのある内容物が出ることがあります。脂肪腫よりもやや硬く、皮膚との癒着が見られることが多いです。
リンパ節腫大は、感染症や炎症、まれに悪性腫瘍などによってリンパ節が腫れる状態です。首には多くのリンパ節があるため、リンパ節腫大はよく見られます。リンパ節腫大は脂肪腫よりも硬く、可動性が少ないのが特徴です。
ガングリオンは、関節の近くにできる袋状の良性腫瘍で、中にゼリー状の液体が入っています。手首に多いですが、首にできることもあります。
脂肪肉腫は、脂肪組織から発生する悪性腫瘍です。非常にまれですが、急速に大きくなる、硬い、痛みがある、といった場合には注意が必要です。
神経鞘腫や神経線維腫は、神経から発生する腫瘍で、触ると痛みやしびれを感じることがあります。
これらの疾患を正確に鑑別するためにも、医療機関での適切な診察と検査が重要です。
治療方法:脂肪腫はどう治療するのか
経過観察という選択肢
脂肪腫は良性の腫瘍であり、悪性化することは極めてまれです。そのため、すべての脂肪腫を必ずしも治療する必要はありません。以下のような場合には、経過観察を選択することも十分に合理的です。
- 小さくて症状がない場合
- 見た目が特に気にならない場合
- 日常生活に支障がない場合
- 画像検査などで脂肪腫であることが確実な場合
経過観察を選択した場合でも、定期的に大きさの変化や症状の有無をチェックすることが大切です。急に大きくなった、痛みが出てきた、硬くなってきたなどの変化があった場合には、再度医療機関を受診することをお勧めします。
手術による摘出
脂肪腫の根本的な治療は、手術による摘出です。以下のような場合には、手術を検討します。
症状がある場合:痛みや違和感がある、神経症状がある、日常生活に支障をきたしているなどの場合は、手術の適応となります。
見た目が気になる場合:首は人目につきやすい部位です。見た目が気になる、精神的なストレスになっているという場合も、手術を検討する理由になります。
大きくなってきている場合:脂肪腫が徐々に大きくなっている場合、今後さらに大きくなる可能性があります。大きくなればなるほど手術の範囲も大きくなり、傷跡も大きくなる可能性があるため、適切な時期に手術を行うことが推奨されます。
診断が確定していない場合:画像検査だけでは確定診断がつかず、悪性の可能性を完全に否定できない場合は、摘出して病理検査を行うことが推奨されます。
手術の方法
首の脂肪腫の手術は、通常は局所麻酔で行われます。手術時間は脂肪腫の大きさにもよりますが、一般的には30分から1時間程度です。
従来の切開法は、最も一般的な手術方法です。脂肪腫の上の皮膚を切開し、脂肪腫を被膜ごと丁寧に剥離して摘出します。完全に摘出することで、再発のリスクを最小限にすることができます。切開する長さは、脂肪腫の大きさにもよりますが、通常は脂肪腫の直径と同じか、やや短めになります。摘出後は、皮膚を丁寧に縫合します。
小切開法は、できるだけ小さな切開で脂肪腫を摘出する方法です。小さな脂肪腫の場合、この方法を用いることで傷跡を目立たなくすることができます。ただし、不完全な摘出になると再発のリスクが高まるため、完全摘出が可能と判断される場合に限られます。
内視鏡補助下手術は、小さなカメラ(内視鏡)を用いて、小さな切開から脂肪腫を摘出する方法です。美容的な面で優れていますが、特殊な機器と技術が必要で、すべての施設で行えるわけではありません。
手術後の経過とケア
手術後は、以下のような経過をたどります。
手術当日から数日:局所麻酔が切れると、軽い痛みや違和感を感じることがあります。痛み止めを服用することで、ほとんどの場合、十分にコントロールできます。手術部位には、圧迫するためのガーゼや包帯が当てられます。
1週間前後:多くの場合、手術後1週間前後で抜糸を行います。それまでは創部を濡らさないよう注意が必要です。シャワーは医師の指示に従って行います。
抜糸後:抜糸後は、通常通りの生活に戻れます。ただし、激しい運動や重い物を持つことは、2週間程度控えることが推奨されます。
傷跡のケア:傷跡は、時間とともに徐々に目立たなくなります。紫外線は傷跡を濃くする原因になるため、日焼け止めの使用や、テープなどで保護することが推奨されます。傷跡が気になる場合は、傷跡を目立たなくする治療を行うこともあります。
合併症とリスク
手術には、以下のような合併症のリスクがあります。
出血:手術中や手術後に出血することがあります。通常は圧迫止血で対応できますが、まれに再手術が必要になることがあります。
感染:手術部位に細菌が感染することがあります。感染を予防するため、清潔な環境での手術と、適切な術後管理が重要です。感染した場合は、抗生物質の投与や、必要に応じて切開排膿を行います。
神経損傷:首には多くの神経が走っています。手術中に神経を損傷すると、しびれや感覚の低下、運動麻痺などが生じることがあります。経験豊富な医師による丁寧な手術で、このリスクを最小限にすることができます。
瘢痕(傷跡):手術をする以上、傷跡は必ず残ります。できるだけ目立たない位置に切開線を設定したり、丁寧な縫合を行ったりすることで、傷跡を最小限にする努力がなされます。
再発:脂肪腫を被膜ごと完全に摘出すれば、再発することはほとんどありません。ただし、不完全な摘出の場合、同じ部位に再発することがあります。また、別の部位に新たな脂肪腫ができることもあります。
その他の治療法
手術以外の治療法としては、以下のようなものが報告されていますが、いずれも適応は限られます。
脂肪溶解注射は、脂肪を溶かす薬剤を注射する方法です。美容医療の分野で用いられることがありますが、脂肪腫に対する効果は限定的で、完全に消失させることは難しいとされています。
吸引術は、細い管を挿入して脂肪腫の内容物を吸引する方法です。小さな傷で済みますが、被膜が残るため再発しやすいという欠点があります。
これらの方法は、手術による摘出と比べて確実性に劣るため、標準的な治療とはされていません。
首の脂肪腫と日常生活
日常生活での注意点
首に脂肪腫がある場合、日常生活で以下のような点に注意すると良いでしょう。
刺激を避ける:脂肪腫を繰り返し触ったり、強く押したりすることは避けましょう。過度な刺激は炎症の原因になることがあります。
衣服の選択:襟がきつい服や、首を強く圧迫する服は避けると良いでしょう。特に脂肪腫が大きい場合は、ゆったりとした衣服を選ぶことをお勧めします。
鞄の持ち方:肩掛け鞄の肩ひもが脂肪腫を圧迫する場合は、反対側の肩に掛けるか、リュックサックなどに変更すると良いでしょう。
スキンケア:脂肪腫の上の皮膚も通常通りのスキンケアが可能です。ただし、強くこすったりマッサージしたりすることは避けましょう。
定期的なセルフチェック
脂肪腫がある場合、定期的にセルフチェックを行うことをお勧めします。以下のような変化がないか、確認しましょう。
- 大きさに変化はないか
- 硬さに変化はないか
- 痛みや違和感は出ていないか
- 色の変化はないか
- 急速な変化はないか
これらの変化が見られた場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
運動やスポーツ
脂肪腫があっても、基本的には運動やスポーツを制限する必要はありません。ただし、首の脂肪腫が大きい場合や、運動によって痛みや違和感を感じる場合は、医師に相談すると良いでしょう。
コンタクトスポーツ(ラグビー、柔道など)で首に衝撃を受けやすい場合は、脂肪腫を保護するための対策を検討する必要があるかもしれません。
美容院やマッサージ
美容院でシャンプーやヘアカットを受ける際、あるいはマッサージを受ける際には、事前に脂肪腫があることを伝えておくと良いでしょう。そうすることで、施術者が不用意に強く押したりすることを避けることができます。

よくある質問と回答
基本的には大丈夫です。脂肪腫は良性の腫瘍で、がんになることはほとんどありません。小さくて症状がない場合は、経過観察で問題ありません。ただし、定期的にセルフチェックを行い、急な変化があった場合は医療機関を受診することをお勧めします。
残念ながら、脂肪腫が自然に消えることはほぼありません。一度できた脂肪腫は、基本的にそのまま残るか、徐々に大きくなります。ただし、成長速度は非常にゆっくりで、長年ほとんど変化しないこともあります。
脂肪腫は通常、やわらかく、境界がはっきりしていて、痛みがありません。一方、悪性腫瘍(肉腫など)は、硬い、急速に大きくなる、痛みがある、皮膚の色が変わる、などの特徴があることが多いです。ただし、見た目だけでは判断できないこともあるため、気になる場合は医療機関を受診し、適切な検査を受けることが大切です。
Q4: 手術の傷跡はどのくらい残りますか?
傷跡の大きさや目立ち方は、脂肪腫の大きさ、切開の位置、縫合の技術、個人の体質などによって異なります。一般的に、手術直後は赤く目立ちますが、時間とともに徐々に白く細い線になっていきます。完全に目立たなくなるには、数ヶ月から1年程度かかることが多いです。首の皮膚のしわに沿って切開するなど、できるだけ目立たないような工夫がなされます。
Q5: 再発することはありますか?
脂肪腫を被膜ごと完全に摘出すれば、同じ部位に再発することはほとんどありません。再発率は1〜5%程度とされています。ただし、多発性脂肪腫症の方や、家族歴がある方は、別の部位に新たな脂肪腫ができることがあります。
Q6: 子どもにも遺伝しますか?
脂肪腫には遺伝的な要因が関与していると考えられています。親に脂肪腫がある場合、子どもにもできやすい傾向があります。ただし、必ず遺伝するわけではありません。また、多発性脂肪腫症の場合は、遺伝性がより強いとされています。
Q7: 保険は適用されますか?
医学的な理由(症状がある、診断のためなど)で手術を行う場合は、健康保険が適用されます。一方、完全に美容目的のみの場合は、保険適用外となり、自費診療となることがあります。詳しくは、受診する医療機関にお問い合わせください。
Q8: ダイエットで小さくなりますか?
脂肪腫の大きさとダイエットには、直接的な関係はありません。体重を減らしても、脂肪腫が小さくなることはほとんどありません。これは、脂肪腫が被膜に包まれた独立した組織であり、通常の体脂肪とは異なるためです。
Q9: 悪性の脂肪肉腫との違いは?
脂肪腫は良性、脂肪肉腫は悪性という違いがあります。脂肪肉腫は非常にまれですが、5センチメートル以上の大きさ、急速な成長、硬さ、痛みなどが特徴です。MRI検査や病理検査で鑑別することができます。気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
Q10: 首以外にもできることはありますか?
はい、脂肪腫は全身のどこにでもできる可能性があります。よく見られる部位は、首、肩、背中、腕、太もも、臀部などです。複数の部位に同時にできることもあります(多発性脂肪腫症)。
予防と早期発見
脂肪腫を予防することはできるのか
残念ながら、脂肪腫の発生を完全に予防する方法は、現在のところ確立されていません。遺伝的な要因が関与していることもあり、生活習慣の改善だけで予防することは難しいと考えられています。
ただし、以下のような健康的な生活習慣を維持することは、全般的な健康維持のために重要です。
バランスの取れた食事:脂質、糖質、タンパク質、ビタミン、ミネラルをバランス良く摂取しましょう。
適度な運動:定期的な運動は、全身の代謝を改善し、健康維持に役立ちます。
適正体重の維持:肥満自体が脂肪腫の直接的な原因ではありませんが、適正体重を維持することは、様々な健康問題の予防につながります。
禁煙:喫煙は様々な健康問題のリスクを高めます。
過度な飲酒を避ける:適度な量に留めることが大切です。
早期発見のポイント
脂肪腫は、自分で触って発見することが多い疾患です。以下のようなポイントに注意して、定期的にセルフチェックを行いましょう。
入浴時のチェック:入浴時に、首や肩、背中など、脂肪腫ができやすい部位を触って確認しましょう。石鹸をつけた状態だと、しこりを見つけやすくなります。
鏡での確認:鏡で見て、皮膚の表面に盛り上がりがないか確認しましょう。
家族にチェックしてもらう:首の後ろなど、自分では見にくい部位は、家族にチェックしてもらうと良いでしょう。
新しいしこりを見つけた場合や、既存のしこりに変化があった場合は、早めに医療機関を受診することをお勧めします。早期発見により、小さいうちに対処することができ、より小さな傷で治療できる可能性があります。
アイシークリニック上野院での治療
アイシークリニック上野院では、首の脂肪腫の診断から治療まで、総合的なサポートを提供しています。
経験豊富な医師が、丁寧な診察と適切な検査により、正確な診断を行います。超音波検査などの画像診断も院内で実施できるため、スムーズな診断が可能です。
治療に関しては、患者様一人ひとりの状態やご希望に応じて、最適な治療方針をご提案いたします。経過観察が適切な場合はその旨をお伝えし、手術が必要な場合は、できるだけ傷跡が目立たないような工夫をしながら、丁寧な手術を行います。
首は目立つ部位だからこそ、見た目にも配慮した治療を心がけています。手術前のカウンセリングでは、手術の方法、傷跡、術後の経過などについて、詳しくご説明いたします。
手術後のフォローアップも大切にしており、傷跡のケアや、不安な点があればいつでもご相談いただける体制を整えています。
首のしこりが気になる方、脂肪腫かもしれないと心配されている方は、どうぞお気軽にご相談ください。
まとめ
首にできる脂肪腫は、良性の腫瘍であり、基本的には健康上の大きな問題にはなりません。しかし、見た目の問題や、日常生活での不便さから、多くの方が悩んでおられます。
脂肪腫の特徴は、やわらかく、境界がはっきりしていて、通常は痛みがないことです。多くの場合、ゆっくりと成長します。
診断には、視診・触診に加えて、超音波検査やMRI検査などの画像検査が有用です。確定診断のためには、病理検査が必要になることもあります。
治療の選択肢としては、経過観察と手術による摘出があります。症状がある場合、見た目が気になる場合、大きくなってきている場合などは、手術を検討します。手術は通常、局所麻酔で行われ、完全に摘出することで再発を防ぐことができます。
首に気になるしこりを見つけたら、自己判断せず、医療機関を受診して適切な診断を受けることが大切です。早期に発見し、適切に対処することで、より良い結果を得ることができます。
脂肪腫は、正しく理解し、適切に対処すれば、決して怖い疾患ではありません。気になることがあれば、どうぞお気軽に医療機関にご相談ください。
参考文献
本記事の作成にあたり、以下の信頼できる情報源を参考にいたしました。
- 日本皮膚科学会
 https://www.dermatol.or.jp/
- 日本形成外科学会
 https://www.jsprs.or.jp/
- 日本臨床外科学会
 https://www.jacs.or.jp/
- 国立がん研究センター がん情報サービス
 https://ganjoho.jp/
- 日本整形外科学会
 https://www.joa.or.jp/
- MSDマニュアル プロフェッショナル版
 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/
- 厚生労働省
 https://www.mhlw.go.jp/
これらの情報源は、医療従事者や研究者により信頼されている公的機関や学会の公式サイトです。最新の医学的知見に基づいた情報を提供しています。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務