マンジャロの副作用と危険性について

はじめに

近年、糖尿病治療薬として開発されたマンジャロ(一般名:チルゼパチド)が、その強力な体重減少効果から注目を集めています。2023年4月に日本で2型糖尿病治療薬として承認されて以降、血糖コントロールの改善だけでなく、体重管理の新たな選択肢として医療現場で活用されています。

しかし、どんな薬剤にも副作用は存在します。マンジャロも例外ではなく、使用にあたっては十分な理解と適切な管理が必要です。本記事では、マンジャロの副作用と危険性について、最新の医学的知見を基に詳しく解説いたします。

マンジャロとは何か

基本的なメカニズム

マンジャロ(チルゼパチド)は、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の両方の受容体に作用する、世界初の二重受容体作動薬です。この独特な作用機序により、従来のGLP-1受容体作動薬よりも強力な血糖降下作用と体重減少効果を示します。

承認状況と使用目的

日本においてマンジャロは2型糖尿病の治療薬として承認されており、週1回の皮下注射により効果を発揮します。日本では2023年4月に2型糖尿病治療薬「マンジャロ®皮下注」として承認され、保険診療で使用可能となりました。

一方、肥満治療目的での使用は日本では未承認であり、このような目的での使用は自由診療となります。しかし、海外では肥満症治療薬としても承認されており、その効果の高さが注目されています。

マンジャロの主要な副作用

消化器系の副作用

マンジャロの最も頻繁にみられる副作用は消化器系の症状です。これらは投与開始初期に特に多く現れる傾向があります。

悪心・嘔吐

主な副作用は本剤5mg群では悪心10.7%(13/121例)、本剤10mg群では悪心12.4%(15/121例)及び下痢11.6%(14/121例)、本剤15mg群では悪心17.4%(21/121例)及び下痢10.7%(13/121例)であった。

悪心は用量依存性があり、高用量ほど発現頻度が高くなります。多くの場合、治療開始から2~4週間がピークとなり、その後徐々に軽減していきます。

下痢・便秘

下痢も頻度の高い副作用の一つです。マンジャロ群 悪心1220%、便秘:1418%、食欲減退:1322%、下痢:917%、嘔吐:5~12%と報告されており、便秘と下痢の両方が起こり得ることが特徴的です。

食欲減退

食欲減退は治療の効果の現れでもありますが、過度になると栄養状態に影響を与える可能性があります。本剤15mg群では食欲減退21.3%(34/160例)、悪心19.4%(31/160例)及び便秘11.9%(19/160例)であった。

副作用の発現時期と持続期間

マンジャロの主な副作用である胃腸障害は、治療開始から2〜4週間程度でピークを迎え、徐々に軽減していく傾向があります。ただし、症状の持続期間には個人差があり、体質や投与量によって大きく異なります。

多くの副作用は用量依存性があり、2.5mgから開始して段階的に増量することで回避または軽減できます。

重篤な副作用と危険性

急性膵炎

マンジャロの使用において最も注意すべき重篤な副作用の一つが急性膵炎です。

発生頻度と症状

マンジャロを含むGLP-1受容体作動薬では、添付文章によると0.1%未満という頻度ですが、急性膵炎(急激に膵臓が炎症を起こす病気)の報告があります。

急性膵炎の主な症状:

  • 激しい上腹部(みぞおち付近)の痛み
  • 背中に響く痛み
  • 持続的な腹痛
  • 吐き気・嘔吐
  • 発熱
  • 腹部膨満感

最新の研究知見

興味深いことに、最近の大規模研究では異なる結果が報告されています。2025年に発表されたアメリカの大規模研究では、過去に膵炎を起こしたことのある2型糖尿病や肥満の患者を対象に、GLP-1製剤を使用した場合の「膵炎の再発するリスク」を検討したところ、急性膵炎のリスクは上昇せず、むしろ合併症を伴うような重症膵炎のリスクは減少したと報告されています。

Dewi YPら(2025年, Am J Gastroenterol) 全米127万人の保険診療データを用いた多施設共同研究により、GLP-1受容体作動薬を使用した患者では、急性膵炎の再発率・重症化率がいずれも有意に低下していました。

胆嚢・胆管系の異常

胆石症・胆嚢炎

マンジャロ服用による急激な体重減少は、胆嚢(たんのう)に負担をかけ、胆石や胆嚢炎を発症しやすくすると言われています。これらも正確な頻度は不明ですが、添付文書では少なくとも1%未満と報告されています。

症状:

  • 右上腹部(肋骨の下)の痛み
  • 食後に強くなる痛み
  • 発熱
  • 黄疸(皮膚・目が黄色くなる)

低血糖

発生リスクと併用薬

「スルホニルウレア薬(SU 薬)」「グリニド薬」「インスリン」などの糖尿病治療薬を併用している場合、低血糖が起こりやすくなるため注意が必要です。

マンジャロ単独使用では重篤な低血糖のリスクは低いものの、他の糖尿病薬との併用時には注意深い血糖モニタリングが必要です。

甲状腺関連の副作用

本剤投与中は、甲状腺関連の症候の有無を確認し、異常が認められた場合には、専門医を受診するよう指導することとされており、甲状腺腫瘍のリスクについても注意が必要です。

アレルギー反応

マンジャロとの関係が否定できないアナフィラキシーが国内外で9例あった。血管性浮腫に関しても、マンジャロが原因ではないと言い切れない症例が海外で6例あった。

これらは稀な副作用ですが、生命に関わる可能性があるため、アレルギー症状が現れた場合は直ちに医療機関を受診する必要があります。

副作用の発現頻度とデータ分析

臨床試験データ

SURPASS試験シリーズの結果

国内外の大規模臨床試験において、マンジャロの副作用プロファイルが詳細に検討されています。

マンジャロ5mg:-2.4 マンジャロ10mg:-2.6 マンジャロ15mg:-2.8 トルリシティ0.75mg:-1.3という血糖降下効果とともに、副作用の頻度も用量依存性に増加することが示されています。

SURMOUNT試験の安全性データ

SURMOUNT-5試験では、チルゼパチド投与にて平均20.1%の体重減少という驚異的な成果が報告されましたが、同時に副作用についても詳細に検討されています。

約2割程度に消化器症状の副作用を認めることがわかります。これらは多くは一過性であり大きな心配はありませんとされています。

死亡率と重篤な合併症

重要なポイントとして、マンジャロ®投与が直接の原因となって死亡した方は1名もいませんでした。これは薬剤の相対的な安全性を示す重要なデータです。

副作用を軽減するための対策

段階的な用量調整

推奨される投与スケジュール

マンジャロは、身体が薬に順応するまで徐々に用量を増やすことが推奨されています。週1回2.5㎎投与から始め、目標用量に達するまで4週間ごとに2.5㎎ずつ増量し、最大10mgまで投与可能です。

この段階的増量により、消化器系の副作用を大幅に軽減することが可能です。

生活習慣の工夫

食事療法との組み合わせ

マンジャロ使用中は脂肪分が多すぎる食事を避け、バランスの取れた食事を心がけることで胃腸の負担を軽減できます。たとえば、小分けにして食事を摂ると、吐き気を和らげる効果が期待できます。

水分摂取の重要性

下痢などの胃腸障害が発生した場合は、脱水症状を防ぐために水分をこまめに摂取することが重要です。ただし、一度に大量の水分を摂ると胃腸に負担がかかるため、少量ずつを意識しましょう。

定期的な医学的モニタリング

必要な検査項目

マンジャロ使用中は以下の項目について定期的な監視が必要です:

  • 血糖値・HbA1c
  • 体重・BMI
  • 血液検査(膵酵素、肝機能、腎機能)
  • 甲状腺機能検査
  • 消化器症状の評価

使用を避けるべき対象者

絶対的禁忌

1型糖尿病の方: マンジャロは2型糖尿病治療薬として承認されており、1型糖尿病における有効性・安全性は確立していません。

相対的禁忌・慎重投与が必要な方

以下に該当する方は特に慎重な検討が必要です:

  • 急性膵炎の既往歴がある方
  • 胆石症の既往歴がある方
  • 甲状腺髄様癌の既往または家族歴がある方
  • 多発性内分泌腫瘍症2型の既往がある方
  • 重篤な腎機能・肝機能障害がある方
  • 妊娠中または授乳中の女性

BMIによる制限

投与開始時のBody Mass Index(BMI)が23kg/m2未満の患者での本剤の有効性及び安全性は検討されていないため、低体重の方への投与は推奨されません。

緊急時の対応

急性膵炎が疑われる症状

以下の症状が現れた場合は、直ちにマンジャロの使用を中止し、緊急受診が必要です:

  1. 激しい上腹部痛(持続的)
  2. 背中に響く痛み
  3. 嘔吐を伴う腹痛
  4. 発熱
  5. 腹部の膨満感

低血糖症状への対応

以下の症状が現れた場合は速やかな糖分摂取が必要です:

  • 冷や汗
  • 手足の震え
  • 強い空腹感
  • 動悸
  • 意識障害

応急処置として、ブドウ糖10~20g、または砂糖20gを摂取し、改善しない場合は医療機関を受診してください。

アレルギー反応への対応

  • 皮膚の発疹・かゆみ
  • 腫れ
  • 呼吸困難
  • 血管性浮腫

これらの症状が現れた場合は直ちに使用を中止し、緊急受診が必要です。

他薬剤との相互作用

糖尿病治療薬との併用

マンジャロと他の糖尿病治療薬を併用する際は、低血糖のリスクが高まるため、用量調整が必要な場合があります:

  • インスリン
  • スルホニルウレア薬
  • グリニド薬

その他の薬剤

消化管運動に影響を与える薬剤や、経口薬の吸収に影響を与える可能性があるため、他の薬剤との併用時は医師への相談が必要です。

長期使用における安全性

現在までの知見

マンジャロは比較的新しい薬剤のため、長期使用に関するデータは限られていますが、既存の臨床試験データでは以下のことが示されています:

  • 2年間の使用においても重篤な安全性の問題は認められていない
  • 副作用の多くは使用開始初期に集中しており、長期使用により新たな副作用が増加する傾向は見られない
  • 体重減少効果は継続的に維持される

今後の研究課題

長期使用における以下の点について、さらなる研究が必要とされています:

  • 10年以上の長期使用における安全性
  • 甲状腺腫瘍のリスク評価
  • 妊娠・授乳期における安全性
  • 小児・高齢者における特別な配慮

個人輸入のリスクと危険性

個人輸入による危険性

近年、インターネットを通じてマンジャロを個人輸入する事例が増加していますが、これには重大なリスクが伴います:

偽造品のリスク

  • 有効成分が含まれていない製品
  • 有害物質が混入した製品
  • 不適切な保存による品質劣化

医学的管理の欠如

  • 適応の判断ができない
  • 副作用発生時の対応が困難
  • 用量調整が適切に行われない
  • 他の薬剤との相互作用を考慮できない

正規ルートでの処方の重要性

個人輸入サイトなどで医師の処方なくマンジャロを入手・使用するのは非常に危険です。マンジャロは必ず、医師の診察のもとで正規ルートから入手してください。

医師による適切な管理の重要性

専門医による管理のメリット

個別化された治療

マンジャロは患者様ごとに適切な投与量が異なる場合があり、効果や副作用を見ながら量を調整することが必要です。内科専門医は、患者様の体重、血糖値、薬の効果や副作用を評価しながら、マンジャロの投与量を調整します。

副作用への迅速な対応

マンジャロには、消化器系の症状(吐き気、下痢、便秘など)、低血糖、膵炎、甲状腺腫瘍のリスクなど、さまざまな副作用があります。これらの副作用が現れた場合、専門医は迅速に対応し、治療方針を調整することができます。

包括的な健康管理

患者様が他の薬を服用している場合、薬の相互作用が懸念されることがあります。内科専門医は、患者様の全体的な健康状態や服用中の薬を把握し、マンジャロとの相互作用や安全性を評価します。

定期的なフォローアップの重要性

マンジャロ使用中は、定期的に医師の診察を受けましょう。副作用が現れた場合、早期に対処することで深刻な問題を回避できます。

最新の研究動向と将来展望

肥満症治療薬としての承認

日本でも「ゼップバウンド」という名称で、マンジャロと同一成分の薬剤が肥満症治療薬として承認されました。これにより、一定の条件を満たす方は保険診療での治療が可能となっています。

新たな適応症の可能性

現在、マンジャロは以下の疾患への応用が研究されています:

  • 睡眠時無呼吸症候群
  • 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
  • 心血管疾患の予防
  • アルツハイマー病の予防

副作用プロファイルの改善

製薬会社では、副作用を軽減した新たな製剤の開発も進められており、将来的にはより安全性の高い治療選択肢が提供される可能性があります。

よくある質問と回答

Q1: マンジャロの副作用はいつまで続きますか?

A: マンジャロの副作用を感じる期間は、体内に入れた直後からおおむね2週間~4週間です。しかし、この期間には個人差があり一概には言えず、体質や体重、服薬量などでも変わってきます。多くの場合、消化器系の症状は治療開始から2~4週間でピークを迎え、その後徐々に軽減していきます。

Q2: 副作用が辛い場合、自分で投与を中止してもよいですか?

A: いいえ。マンジャロをぱったりやめてしまうと、急激に食欲が増加する可能性があります。欲のままにたくさん食べてしまうと、体がびっくりして胃もたれや腹痛、過食嘔吐などにも繋がりかねません。体をゆっくり慣らしていくためにも、医師の指示に従って少しずつ減薬していき最終的に中止しましょう。

Q3: マンジャロによる筋肉痛や頭痛はありますか?

A: はい、報告されています。マンジャロを用すると、一部の患者さんで筋肉痛が報告されています。筋肉痛がひどい場合は、医師の診察を受けるようにしましょう。マンジャロの使用により頭痛を経験することがあります。頭痛が頻繁に発生する場合は、医師に相談して適切な対処を行ってください。

Q4: かゆみなどの皮膚症状は出ますか?

A: かゆみはマンジャロの副作用として報告されています。皮膚の反応に敏感な方は特に、使用中に異常を感じたらすぐに医療機関に連絡してください。

アイシークリニック上野院での取り組み

当院では、マンジャロを使用される患者様の安全性を最優先に考え、以下の取り組みを行っています:

詳細な事前評価

  • 包括的な病歴聴取
  • 必要な血液検査・画像検査
  • 他科との連携による総合的な評価

個別化された治療計画

  • 患者様の体質・既往歴を考慮した用量設定
  • 段階的な増量による副作用の最小化
  • 定期的な効果・副作用の評価

継続的な教育とサポート

  • 患者様・ご家族への詳細な説明
  • 自己注射指導
  • 食事・運動療法の指導

まとめ

マンジャロ(チルゼパチド)は、2型糖尿病治療および体重管理において画期的な効果を示す治療薬です。しかし、以下の重要なポイントを理解して使用することが不可欠です:

主要な副作用の理解

  • 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢、便秘)が最も頻繁
  • 多くの副作用は一過性で、適切な管理により軽減可能
  • 重篤な副作用(急性膵炎、胆嚢炎)は稀だが注意が必要

安全使用のための原則

  • 必ず医師の指導のもとで使用する
  • 段階的な増量により副作用を最小化
  • 定期的な医学的モニタリングを受ける
  • 個人輸入は絶対に避ける

最新の研究知見

  • 膵炎リスクについては従来の懸念と異なる結果も報告されている
  • 長期使用における安全性データは蓄積されつつある
  • 新たな適応症への展開も期待されている

医師との連携の重要性

副作用の早期発見・対応には医師との密接な連携が不可欠です。気になる症状があれば迷わず相談し、決して自己判断で治療を中断したり変更したりしないことが重要です。

マンジャロは適切に使用すれば非常に有効な治療薬ですが、その恩恵を安全に受けるためには、正しい知識と適切な医学的管理が欠かせません。当院では、患者様一人一人の状況に応じた最適な治療を提供し、安全で効果的な治療をサポートいたします。


参考文献

  1. 日本イーライリリー株式会社. マンジャロ皮下注 添付文書. 2023.
  2. Frías JP, Davies MJ, Rosenstock J, et al. Tirzepatide versus semaglutide once weekly in patients with type 2 diabetes. N Engl J Med. 2021;385(6):503-515.
  3. Jastreboff AM, Aronne LJ, Ahmad NN, et al. Tirzepatide once weekly for the treatment of obesity. N Engl J Med. 2022;387(3):205-216.
  4. Kadowaki T, Chin R, Ozeki A, et al. Safety and efficacy of tirzepatide as an add-on to single oral antihyperglycaemic medication in patients with type 2 diabetes in Japan (SURPASS J-combo): a multicentre, randomised, open-label, parallel-group, phase 3 trial. Lancet Diabetes Endocrinol. 2022;10(9):634-644.
  5. Dewi YP, et al. GLP-1 receptor agonists and acute pancreatitis risk in patients with prior pancreatitis: nationwide cohort study. Am J Gastroenterol. 2025;120(5):654-663.
  6. 日本糖尿病学会. 2型糖尿病治療ガイド 2024年版.
  7. PMDA. 医薬品医療機器総合機構 マンジャロ審査報告書. 2023.

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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