はじめに
元タッキー&翼の今井翼さんが長年にわたって闘病生活を余儀なくされたメニエール病。2014年11月に初めて発症し、その後も2018年3月に再発、活動休止を繰り返すなど、この病気との厳しい戦いが続きました。芸能界でもハイヒール・モモコさん、久保田利伸さん、八代亜紀さん、ピンク・レディーの増田惠子さんなど、多くの著名人がこの病気に苦しんできました。
突然激しいめまいに襲われ、吐き気や難聴を伴う症状が何度も繰り返される。そんなメニエール病は、患者さんの日常生活に深刻な影響を与える疾患です。今回は、このメニエール病について、症状、原因、診断方法、治療法、そして予防策まで、一般の方にも分かりやすく詳しく解説していきます。

メニエール病とは何か
メニエール病は、激しい回転性のめまいと、難聴、耳鳴り、耳閉感(耳が詰まった感じ)という4つの症状が同時に現れ、これらの症状を繰り返す内耳の疾患です。「めまい=メニエール病」と考える方も多いのですが、実際にはめまいの原因の中でメニエール病が占める割合は5〜10%程度とされています。
メニエール病の名前の由来
この病名は、フランス人医師プロスペル・メニエール(Prosper Ménière)が1861年に、めまいの原因の一つに内耳由来のものがあることを世界で初めて報告したことに由来しています。それまで、めまいは脳の問題だと考えられていましたが、メニエール医師の研究により、内耳の疾患もめまいを引き起こすことが明らかになりました。
メニエール病の実態
メニエール病は厳密な診断基準があり、「難聴、耳鳴り、耳閉感などの聴覚症状を伴うめまい発作を反復する」ことが診断の絶対条件となります。ここで最も重要なのは「反復する」という点です。めまい発作や難聴発作が1回起きただけでは、メニエール病とは診断できません。
メニエール病は1974年に厚生省(当時)により特定疾患に指定され、現在も厚生労働省難治性疾患克服研究事業の対象として研究が続けられています。ただし、2014年に成立した難病法による指定難病リストには含まれておらず、医療費助成の対象とはなっていません(ただし、自治体によっては独自の助成制度を設けている場合があります)。
メニエール病の主な症状
メニエール病の症状は、内耳のどの部分が強く障害されるかによって異なります。それぞれの症状について詳しく見ていきましょう。
1. 回転性めまい
メニエール病の最も特徴的な症状が、激しい回転性めまいです。自分自身や周囲の景色がぐるぐる回るような感覚で、立っていることができないほど強烈です。めまいの持続時間は10分から数時間程度が典型的で、長い場合は半日から1日続くこともあります。
重要なのは、数秒程度の短いめまいの場合、メニエール病である可能性は低いという点です。また、良性発作性頭位めまい症とは異なり、頭を特定の方向に動かすことで誘発されるわけではなく、突然発作が起こります。
めまいの程度も人によって異なり、「グルグル回転する激しいもの」から「フワフワ雲の上を歩いているような感じ」まで様々です。多くの場合、めまいは何の前触れもなく突然現れます。
2. 難聴
メニエール病では、めまい発作の前後に難聴が出現することが多く、約60%の患者さんではめまい発作前に難聴が現れ、約30%の患者さんではめまい発作とほぼ同時に現れます。
特徴的なのは、初期には低音域の聞こえが悪くなることです。「ゴーッ」という低い音が聞き取りにくくなったり、低い声が聞き取りづらくなったりします。しかし、発作を繰り返すうちに、中音域や高音域の聴力も低下していきます。
初期の段階では、めまいが治まると難聴も改善することが多いのですが、発作を繰り返すことで徐々に難聴が固定化し、回復しなくなることがあります。これが、メニエール病の早期治療が重要な理由の一つです。
3. 耳鳴り
耳鳴りもメニエール病の代表的な症状です。音質は様々で、「低音」「高音」「混合音」など、患者さんによって異なります。「ジージー」「ブーン」「キーン」といった音が耳の中で聞こえ続けます。
耳鳴りは、めまい発作時や発作前に強く現れることが多く、発作が治まると軽減することもあります。しかし、症状が進行すると、耳鳴りが常に続くようになることもあります。
4. 耳閉感(耳が詰まる感じ)
耳閉感は、耳が詰まったような、圧迫されたような感覚です。トンネルに入ったときや飛行機に乗ったときに感じる耳の違和感に似ています。多くの患者さんは、めまい発作の前兆として耳閉感を感じることがあります。
初期には、めまい発作時や発作前に耳閉感を感じる程度ですが、症状が進行すると、常に耳が詰まったような感覚が続くこともあります。
5. その他の随伴症状
めまい発作に伴って、以下のような自律神経症状が現れることが一般的です。
- 吐き気・嘔吐:激しいめまいにより、強い吐き気や嘔吐が起こります。中には1日中トイレから動けなくなる方もいらっしゃいます。
- 冷や汗:発作時に大量の汗をかくことがあります。
- 顔面蒼白:顔色が悪くなり、青白くなります。
- 動悸:心臓がドキドキと激しく打つ感覚があります。
- 不安感:「また発作が起きたらどうしよう」という強い不安感が生じます。
重要なのは、メニエール病では意識障害、運動麻痺、複視(物が二重に見える)、視力障害、小脳症状などの中枢神経症状は起こらないということです。もしこれらの症状がある場合は、脳梗塞や脳出血など、脳の疾患が疑われるため、直ちに医療機関を受診する必要があります。
メニエール病の経過と病期
メニエール病は、その経過によっていくつかの病期に分けられます。
初期(活動期初期)
低音の聞こえづらさ、耳鳴り、耳閉感などの症状が発作的に現れます。回転性めまいが加わり、発作的に強く現れるようになります。めまいの前後に難聴が出現し、めまいが引くと難聴も軽くなることが多い時期です。この活動期は、数ヶ月から1年程度続くことが一般的です。
中期(間欠期)
数ヶ月に1回程度の頻度で発作が起こる時期です。主な症状は難聴と耳鳴りですが、めまいを伴う発作がトラウマとなり、人と会ったり外出することが難しくなる方もいらっしゃいます。「次の発作がいつ来るか分からない」という不安が、大きなストレスとなります。
後期
発作が頻繁に起こる、または発作の間隔が短くなる時期です。難聴が進行し、聴力の低下が顕著になることがあります。場合によっては、もう一方の耳にも症状が出現することがあります(両側性メニエール病)。
メニエール病の約20〜30%の患者さんで、両側の耳に症状が移行すると報告されています。両側性メニエール病は進行が早い傾向があるため、より早期の治療が重要です。
メニエール病の原因とメカニズム
メニエール病の本態は「内リンパ水腫」です。内耳のリンパ液が過剰に溜まって、内耳が水ぶくれのような状態になることで症状が引き起こされます。
内耳の構造
内耳には、聴覚を司る「蝸牛(かぎゅう)」と、平衡感覚を司る「三半規管」「耳石器」があります。これらの器官は「膜迷路」という膜で覆われており、その中は「内リンパ液」で満たされています。膜迷路の外側には「骨迷路」があり、骨迷路と膜迷路の間には「外リンパ液」が満たされています。
内リンパ液はカリウムに富んでおり、外リンパ液はナトリウムに富んでいます。この二つの液体は通常、膜によって厳密に分けられています。
内リンパ水腫のメカニズム
何らかの原因で内リンパ液の産生と吸収のバランスが崩れると、内リンパ液が過剰に溜まり、膜迷路が膨張します。この状態が「内リンパ水腫」です。
内リンパ水腫により膜迷路の内圧が高まると、膜が膨張し、ついには破裂します。すると、カリウムに富んだ内リンパ液とナトリウムに富んだ外リンパ液が混ざり合い、平衡感覚や聴覚を司る感覚細胞が化学的・物理的な刺激を受けます。これが激しいめまいや難聴として感じられるのです。
破裂した膜は短時間で修復されますが、再び内リンパ液が溜まると、また膨張・破裂を繰り返します。これが、メニエール病でめまい発作が繰り返される理由です。
なぜ内リンパ水腫が起こるのか
内リンパ水腫が起こる根本的な原因は、完全には解明されていません。しかし、以下のような要因が関与していると考えられています。
1. ストレス 最も強く関係していると言われているのがストレスです。東日本大震災の発生後、メニエール病を含むめまい患者が増加したという報告があり、ストレスとの関係性が裏付けられています。
2. 睡眠不足・過労 十分な休息が取れていない状態が続くと、内耳の機能に影響を及ぼす可能性があります。
3. 気圧の変化 季節の変わり目や低気圧の接近時に発作が起こりやすいことが知られています。
4. 内リンパ嚢の機能不全 内リンパ液を吸収する「内リンパ嚢」の機能が低下することで、内リンパ水腫が生じると考えられています。内リンパ嚢の発育不全、循環障害、ウイルス感染などが、機能不全の原因として考えられていますが、確定的ではありません。
5. 先天的な内耳の構造異常 生まれつき内耳の構造に異常がある場合、内リンパ水腫が起こりやすくなる可能性があります。
6. アレルギー 一部の研究では、アレルギーが関与している可能性も指摘されています。
7. 自律神経の乱れ 自律神経のバランスが崩れることで、内耳の機能に影響が出る可能性があります。
メニエール病になりやすい人
メニエール病には、かかりやすい人の特徴があることが分かっています。
年齢
発症年齢は30〜50代に多く、特に30代後半から40代前半にピークがあります。働き盛りの年代に多いことから、職場でのストレスや多忙な生活が関係していると考えられています。
近年では、社会状況の変化により、60代以上の高齢男性の発症も増加しています。定年後も働き続ける人が増えていることが、一因と見られています。
性別
日本では、男性よりも女性に多いとされています。ただし、性別による差はそれほど大きくなく、男女比はほぼ1対1という報告もあります。
性格傾向
几帳面で真面目、神経質な性格の人が発症しやすいと言われています。完璧主義で頑張りすぎてしまう傾向のある人、責任感が強い人、ストレスを溜め込みやすい人は注意が必要です。
体型
痩せ型の人に多いという報告もあります。
職業・生活環境
ストレスの多い職業や生活環境にある人、睡眠時間が不規則な人、過労気味の人は発症リスクが高まります。芸能人に患者が多いのは、コンサートなどのプレッシャーや、撮影のための不規則な生活が影響していると考えられています。
メニエール病の疫学データ
患者数
日本におけるメニエール病の患者数は、全国で約4万〜6万人と推定されています。厳密な診断基準に沿った有病率は、人口10万人当たり15〜18人程度から、近年では30〜50人程度まで増加しているという報告もあります。
新潟県糸魚川市、佐渡市、岐阜県高山市などの特定地区で行われた調査では、人口10万人当たり35〜48人程度という結果が出ています。
めまい患者の中での割合
耳鼻咽喉科を受診するめまい患者の中で、メニエール病と診断される患者さんは5〜10%程度です。めまいの原因は多岐にわたるため、メニエール病はめまいを起こす病気の中では、それほど多くはないことが分かります。
ただし、原因がよく分からないめまい患者に対して、安易に「メニエール症候群」や「メニエール病」という診断名をつける医師もいることに注意が必要です。正確な診断のためには、きちんとした検査と診断基準に基づいた判断が重要です。
国際的な状況
先進国に多く、発展途上国に少ない病気であることが分かっています。これは、ストレスが発症に大きく関わっていることを示唆しています。スウェーデンなどの医療システムが確立している国では、人口10万人当たり46人という報告もあります。
メニエール病の診断方法
メニエール病の診断には、詳細な問診と複数の検査を組み合わせて行います。
問診
まず、詳細な問診が最も重要です。医師は以下のような点を確認します。
- めまいはどのタイミングで生じるか
- めまいの持続時間はどれくらいか
- どのように治まるか
- めまい以外の症状(難聴、耳鳴り、耳閉感)があるか
- 症状は反復しているか
- 初めての発作か、以前にも同様の発作があったか
- 家族歴はあるか
- ストレスや睡眠不足などの誘因があるか
「反復する」というエピソードがあって初めて診断できるため、十分な問診が不可欠です。
聴力検査(純音聴力検査)
メニエール病では低音難聴が特徴的なため、聴力検査は必須です。どの周波数帯の音が聞き取りにくいかを詳しく調べます。メニエール病の場合、初期には低音域(250Hz〜1000Hz程度)の聴力が低下します。
症状が進行している場合は、低音に限らず中音域や高音域の聴力も低下することがあります。また、めまい発作時と回復時で聴力がどのように変化するかも、診断の重要な手がかりとなります。
眼振検査
めまいがあるとき、多くの場合、眼球が無意識に揺れる「眼振(がんしん)」という現象が起こります。フレンツェル眼鏡という特殊な検査用眼鏡を使って、この眼振の有無や方向を調べます。
メニエール病では、発作期には障害のある側(患側)へ眼振が出現し、症状が改善してくると健康な側(健側)へ向かう眼振が確認されます。
より詳しく調べる場合は、電気眼振図(ENG)という検査を行うこともあります。これは、眼球の動きを電気信号として記録し、開眼・閉眼・暗所・明所に関わらず評価できる検査です。
平衡機能検査
体のバランスを調べる検査です。
1. 重心動揺検査 目を開けた状態と閉じた状態で、足を揃えて立ってもらい、体のバランスがどれくらい保たれるかを調べます。
2. 足踏み検査 目を閉じて50歩程度足踏みをしてもらい、その場からどの方向にどれくらい移動するかを調べます。
これらの検査により、小脳や脳幹の障害がないかも確認できます。
グリセロールテスト・フロセミドテスト
内リンパ水腫の存在を推定するための検査です。
グリセロール(利尿作用のある薬)を内服または静脈注射した後、聴力検査を行います。内リンパ水腫があると、グリセロールによって一時的に聴力が改善します。この改善が認められれば、メニエール病と判断できます。
フロセミドという利尿薬を使った同様の検査も行われることがあります。
蝸電図(ECoG)
内耳の電気的な活動を記録する検査で、内リンパ水腫の存在を推定できます。
画像検査
1. 内リンパ水腫画像検査 造影剤を使用してMRI撮影を行うことで、内リンパ水腫の程度を直接評価できます。メニエール病の場合、内耳がむくんでいるため、正常側と比較すると明らかな左右差が認められます。
2. 頭部CT・MRI検査 脳腫瘍、脳梗塞、脳出血、聴神経腫瘍など、他の病気による症状の可能性を除外するために行われることがあります。
血液検査・血圧測定
全身状態の確認や、他の原因(糖尿病、高血圧、甲状腺疾患など)を探るために、必要に応じて行われます。
診断基準
日本めまい平衡医学会の診断基準では、以下の条件を満たすものを「メニエール病確実例」と診断します。
- めまい発作を反復する
- めまい発作に伴って難聴、耳鳴、耳閉感のうち1つ以上の聴覚症状が変動する
- 上記の1、2が確認され、類似の疾患が除外できる
聴覚症状のみを繰り返すタイプや、めまいのみを繰り返すタイプは「メニエール病非定型例」と診断されます。
メニエール病の治療法
メニエール病の治療は、完全に治癒させることは難しいものの、めまい発作の反復を抑制し、難聴の固定や進行を防ぐことが目標となります。
1. 急性期の治療(発作時の治療)
めまい発作が起こったときは、まず安静にすることが重要です。
薬物療法
- 抗めまい薬:メクリジン、ジフェンヒドラミンなどが使用されます。めまいの症状を軽減します。
- 制吐剤:メトクロプラミド、ドンペリドンなどで吐き気や嘔吐を抑えます。
- 精神安定剤:ジアゼパム、ロラゼパム、ブロマゼパムなどで不安を軽減します。
- 点滴療法:発作時は吐き気が強く内服薬が使えないため、炭酸水素ナトリウムなどの点滴を行うことがあります。
発作時には、暗い静かな部屋で横になり、頭を動かさないようにすることが推奨されます。
2. 慢性期の治療(発作予防)
薬物療法
メニエール病の根本的な病態である内リンパ水腫を改善し、発作を予防するための治療です。
- 利尿薬:イソソルビド、フロセミド、ヒドロクロロチアジドなど。内耳に溜まった余分なリンパ液を排出し、内リンパ水腫を軽減します。メニエール病治療の第一選択薬です。
- 炭酸水素ナトリウム(メイロン):重曹の一種で、内リンパの恒常性を保つ作用があります。水薬やゼリー状の薬があり、苦いので飲みにくいのですが、有効性は高いとされています。
- 内耳循環改善薬:ニセルゴリン、イフェンプロジル、ニカルジピンなど。内耳の血流を改善します。
- ビタミンB12製剤:神経の回復を促進します。
- ステロイド薬:内リンパ水腫の炎症を抑えます。プレドニゾロン、デキサメタゾンなどが使用されます。
- 抗不安薬:「次の発作が起きたらどうしよう」という不安が大きなストレスとなり、症状を悪化させる悪循環を招くことがあります。抗不安薬で不安を軽減することで、再発を抑えることが期待できます。
- 漢方薬:五苓散、苓桂朮甘湯など、水分代謝を改善する漢方薬が使われることがあります。一般的な薬で効果が薄い場合に試されます。
中耳加圧療法
専用の機械を使って耳の中に圧力をかけ、内耳のむくみを取ることで症状の改善を図る治療法です。自宅でも実施できる機器があり、定期的に行うことで発作の頻度を減らせる場合があります。
3. 手術療法
薬物療法や保存的治療を行っても、月に数回以上の発作が起こる場合や、発作が頻繁で日常生活に大きな支障をきたす場合には、手術が検討されます。
内リンパ嚢開放術
内リンパ嚢を切開してリンパ液を外に排出しやすくする手術です。耳の後ろを切開し、内リンパ嚢にアプローチします。聴力を損なうリスクが比較的少ない手術です。
ゲンタマイシン鼓室内注入術
ゲンタマイシンという抗生物質を鼓膜の奥(鼓室)に注入する手術です。3〜4日程度連日行います。内耳の前庭機能を抑制することで、めまいを軽減します。
前庭神経切断術
めまいに関係する前庭神経を切断する手術です。めまいを根本的に抑えることができますが、大がかりな手術となります。
手術に至るほど重症で長引く場合は、それほど多くはありません。多くの患者さんは、薬物療法と生活習慣の改善で症状をコントロールできます。
4. 生活習慣の改善
メニエール病の発症や悪化にはストレスが大きく関わっているため、生活習慣の見直しが極めて重要です。
ストレス管理
- 仕事や家庭でのストレスを減らす工夫をする
- 完璧主義を手放し、時には手抜きをすることも大切
- 趣味やリラックスできる時間を持つ
- 深呼吸や瞑想などのリラクゼーション法を取り入れる
十分な睡眠
- 規則正しい生活リズムを心がける
- 毎日決まった時間に寝起きする
- 質の良い睡眠を確保する(7〜8時間程度)
適度な運動
- ウォーキングなどの有酸素運動が効果的
- 運動によって耳の血流が改善し、ストレス解消にもなる
- 無理のない範囲で継続することが大切
食事の工夫
- 減塩を心がける(内リンパ水腫の悪化を防ぐ)
- アルコールの摂取を控える
- カフェインの摂取を控える
- バランスの取れた食事を心がける
水分摂取
- メニエール病の治療の一つに、十分な水を摂取する水分摂取療法があります
- 脱水が発作の引き金になることがあるため、毎日十分な量の水を摂取することが推奨されます
- ただし、心臓や腎臓に問題がある方は、医師に相談してください
気圧の変化への対応
- 季節の変わり目や低気圧の接近時は注意が必要
- 天気予報をチェックし、気圧が下がる日は無理をしない
メニエール病と鑑別が必要な疾患
めまいや難聴を引き起こす病気は多数あり、メニエール病と区別することが重要です。
突発性難聴
急に片方の耳が聞こえなくなる病気です。メニエール病とは異なり、基本的にめまいや難聴を繰り返すことはありません。また、メニエール病の難聴は低音域から始まりますが、突発性難聴では突然強い聴力低下を感じるのが特徴です。男女差はなく、全年齢で発症する可能性があります。
良性発作性頭位めまい症(BPPV)
めまい疾患の中で最も頻度が高い病気です。頭を特定の方向に動かすと、数秒から数十秒程度の短いめまいが起こります。メニエール病と異なり、難聴や耳鳴りなど聴力に影響が出ることはありません。また、めまいの持続時間が短いことも特徴です。
前庭神経炎
激しいめまいが数日間続く病気です。メニエール病と異なり、難聴や耳鳴りは生じません。ただし、どちらも安静にしていてもめまいが続くという点では似ています。
外リンパ瘻(ろう)
何らかの原因で内耳を満たしているリンパ液が中耳に漏れてしまう病気です。耳かきで鼓膜を傷つけたときや、くしゃみなどで体内から圧がかかったときなどが原因で発症します。メニエール病と同様に難聴がありますが、水が流れるような音を感じる方がいるのが特徴です。
聴神経腫瘍
聴神経に良性腫瘍ができる病気です。めまいや難聴を引き起こすことがありますが、症状はゆっくりと進行します。MRI検査で診断できます。
内耳梅毒
梅毒の感染により内耳に炎症が起こる病気です。血液検査で診断できます。
中枢性疾患
脳梗塞、脳出血、小脳腫瘍、脳幹の病変などでも、めまいや難聴が起こることがあります。意識障害、運動麻痺、複視、視力障害、小脳症状(ろれつが回らない、手足の協調運動ができないなど)を伴う場合は、中枢性疾患を疑い、直ちに医療機関を受診する必要があります。

メニエール病の予後
メニエール病の経過は、個人差が非常に大きいため、予測が難しいのが実状です。
良好な経過
2〜3回のめまい発作で治ってしまう人もいます。また、発作が治まって何年も症状が出ない人もいます。ただし、5年後や10年後に突然症状が再発することもあります。
長期化する場合
厚生労働省特定疾患メニエール病調査研究班による疫学調査では、メニエール病の経過年数は全体の約70%が4年以上という結果でした。長期にわたって症状が続く可能性があることを理解しておく必要があります。
重症化する場合
発作を繰り返すうちに、難聴が徐々に進行し、高度難聴になることがあります。また、両側の耳に症状が広がることもあります。手術に至るほど重症で長引く場合は、それほど多くはありませんが、ゼロではありません。
早期治療の重要性
早期に適切な治療を行うことで、症状は比較的改善しやすいと考えられています。発作を繰り返すうちに難聴が進行する例があるため、できるだけ早く治療を開始することが重要です。
特に「蝸牛型メニエール病」(めまいがなく、難聴のみを繰り返すタイプ)は、早期に治療を開始すれば完治も見込めます。
メニエール病と向き合う
メニエール病は、患者さんの日常生活や社会生活に大きな影響を与える疾患です。しかし、適切な治療と生活習慣の改善により、多くの患者さんが症状をコントロールしながら生活を送っています。
患者さんへのメッセージ
1. 無理をしない 几帳面で真面目、頑張りすぎてしまう性格の人がかかりやすい病気です。時には「手抜き」をすることも大切です。完璧を目指さず、自分を労わってあげてください。
2. 発作への不安と向き合う 「次の発作がいつ来るか分からない」という不安は、大きなストレスとなり、症状を悪化させる悪循環を招きます。必要に応じて抗不安薬を使用したり、カウンセリングを受けることも検討してください。
3. 周囲の理解を得る メニエール病の苦しさは、なかなか周囲に理解してもらえないことがあります。家族や職場の人に病気について説明し、理解と協力を求めることが大切です。
4. 焦らず治療を継続 症状が改善するまでに時間がかかることもあります。焦らず、医師と相談しながら治療を続けていくことが重要です。
5. 同じ病気の仲間とつながる 患者会やオンラインのコミュニティで、同じ病気と闘う仲間とつながることで、励まし合い、情報交換ができます。
周囲の方へ
メニエール病の患者さんは、突然激しいめまいに襲われ、立っていることすらできなくなります。「めまい」というと軽いものをイメージしやすいですが、吐き気や冷や汗を伴う非常に苦しい症状です。
また、「次の発作がいつ来るか分からない」という不安を常に抱えて生活しています。外出や人と会うことが怖くなる方もいらっしゃいます。
周囲の方は、患者さんの苦しさを理解し、温かくサポートしてあげてください。無理を強いず、休息が必要なときはゆっくり休めるよう配慮することが大切です。
今井翼さんから学ぶこと
今井翼さんは、2014年11月に初めてメニエール病を発症し、約2ヶ月間活動を休止しました。その後復帰したものの、2018年3月に再発。主演舞台を降板し、無期限で芸能活動を休止することとなりました。15年間続けていたラジオ番組も終了となり、同年9月にはタッキー&翼の解散、ジャニーズ事務所の退所という決断に至りました。
今井さんは「度重なるめまい」に悩まされ、治療に専念するという選択をしました。この決断は、同じ病気で苦しむ多くの患者さんにとって、大きな励みとなりました。
有名人がメニエール病を公表することで、一般の認知度が上がり、同じ病気で苦しむ患者さんへの理解が深まります。また、「無理をせず、しっかり治療することが大切」というメッセージは、多くの患者さんに勇気を与えました。
メニエール病の予防
メニエール病を完全に予防する方法は確立されていませんが、以下のような対策により、発症や再発のリスクを減らすことができます。
1. ストレスを避ける・上手に発散する
ストレスがメニエール病の最大の誘因です。以下のような工夫をしましょう。
- ストレスの原因を特定し、可能な範囲で取り除く
- リラクゼーション法(深呼吸、瞑想、ヨガなど)を実践する
- 趣味の時間を持つ
- 人と話す、笑う時間を増やす
- 「頑張りすぎない」「完璧を目指さない」と心に留める
2. 規則正しい生活
生活リズムが乱れると自律神経のバランスが崩れます。
- 毎日決まった時間に寝起きする
- 十分な睡眠時間を確保する
- 3食規則正しく食べる
3. 適度な運動
有酸素運動は内耳の血流を改善し、ストレス発散にも効果的です。
- ウォーキング、ジョギング、水泳など
- 無理のない範囲で継続することが大切
- 1日30分程度を目安に
4. 食生活の改善
- 減塩を心がける
- アルコールを控えめにする
- カフェインを控えめにする
- バランスの取れた食事
5. 十分な水分摂取
脱水が発作の引き金になることがあるため、こまめに水分を摂りましょう。
6. 転勤・異動・季節の変わり目に注意
環境の変化やストレスが増える時期、気圧の変化が大きい時期は、特に注意が必要です。無理をせず、意識的に休息を取りましょう。
まとめ
メニエール病は、内耳の内リンパ水腫により、激しい回転性めまい、難聴、耳鳴り、耳閉感が繰り返し起こる疾患です。今井翼さんをはじめ、多くの著名人も苦しんできた病気で、働き盛りの30〜50代に多く発症します。
完全に治癒させることは難しい疾患ですが、早期に適切な治療を開始し、生活習慣を改善することで、多くの患者さんが症状をコントロールしながら生活を送っています。
突然のめまいや難聴、耳鳴りなど、気になる症状がある場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診することをお勧めします。メニエール病は「反復する」ことが診断の条件ですが、初回の発作時から適切な対応をすることで、その後の経過が変わる可能性があります。
ストレスの多い現代社会において、メニエール病の患者数は増加傾向にあります。自分自身の心身の健康に気を配り、無理をしすぎない生活を心がけることが、何よりの予防となります。
参考文献・情報源
本記事は、以下の信頼できる医学情報源を参考に作成しました。
- 日本めまい平衡医学会「メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン2020年版」
https://www.memai.jp/ - 難病情報センター「メニエール病」
https://www.nanbyou.or.jp/ - MSDマニュアル家庭版「メニエール病」
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ - Wikipedia「メニエール病」
https://ja.wikipedia.org/wiki/メニエール病 - 一般社団法人愛知県薬剤師会「メニエール病」
https://www.apha.jp/ - 公益社団法人千葉県医師会「健康トピックス:メニエール病」
https://www.chiba.med.or.jp/
※本記事は医学的な情報提供を目的としており、診断や治療の代わりとなるものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
図表
【表1】メニエール病の4大症状
| 症状 | 特徴 |
|---|---|
| 回転性めまい | 10分〜数時間持続する激しいめまい。周囲がぐるぐる回る感覚 |
| 難聴 | 初期は低音域から聞こえにくくなる。発作を繰り返すと進行することも |
| 耳鳴り | 「ジージー」「ブーン」「キーン」などの音が聞こえる |
| 耳閉感 | 耳が詰まったような、圧迫される感覚 |
【表2】メニエール病と他の疾患の鑑別
| 疾患名 | めまい | 難聴 | 反復性 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| メニエール病 | ○(10分〜数時間) | ○(変動する) | ○ | 低音難聴が特徴 |
| 突発性難聴 | △ | ○(突然) | × | 繰り返さない |
| 良性発作性頭位めまい症 | ○(数秒〜数十秒) | × | ○ | 頭位変換で誘発 |
| 前庭神経炎 | ○(数日間) | × | × | 難聴を伴わない |
【表3】メニエール病の治療薬
| 薬剤分類 | 代表的な薬剤 | 作用 |
|---|---|---|
| 利尿薬 | イソソルビド、フロセミド | 内リンパ水腫を軽減 |
| 抗めまい薬 | メクリジン、ベタヒスチン | めまい症状を緩和 |
| 制吐剤 | メトクロプラミド | 吐き気を抑える |
| 内耳循環改善薬 | ニセルゴリン | 内耳の血流を改善 |
| ビタミンB12 | メコバラミン | 神経の回復を促進 |
| ステロイド薬 | プレドニゾロン | 炎症を抑える |
【表4】メニエール病の予防・対策
| 項目 | 具体的な方法 |
|---|---|
| ストレス管理 | リラクゼーション、趣味の時間、完璧主義を手放す |
| 睡眠 | 規則正しい生活、7〜8時間の睡眠確保 |
| 運動 | ウォーキングなどの有酸素運動を1日30分程度 |
| 食事 | 減塩、アルコール・カフェインを控える |
| 水分摂取 | 脱水を避けるため、こまめに水分補給 |
| 環境 | 転勤・異動・季節の変わり目は特に注意 |
【免責事項】
本記事の情報は、一般的な医学知識の提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりとなるものではありません。症状がある場合や治療方針については、必ず医師にご相談ください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務