虫刺されが硬く腫れる原因と対処法:いつ病院を受診すべき?

はじめに

夏場のアウトドアや日常生活で、誰もが経験する「虫刺され」。通常は数日で治まることが多いものの、時に患部が硬く腫れ上がり、なかなか治らないことがあります。「これって普通の虫刺され?」「病院に行くべき?」と不安に感じる方も多いのではないでしょうか。

虫刺されが硬く腫れる症状は、実は様々な原因によって引き起こされます。単なる虫刺されの通常反応から、アレルギー反応、さらには細菌感染まで、その背景は多岐にわたります。適切な対処を行うためには、まず症状の原因を正しく理解することが重要です。

本記事では、虫刺されが硬く腫れる原因、症状の見分け方、自宅でできる対処法、そして医療機関を受診すべきタイミングについて、皮膚科医の視点から詳しく解説します。

虫刺されが硬く腫れるメカニズム

通常の虫刺され反応

虫に刺されると、虫の唾液腺物質や毒素が皮膚内に注入されます。これに対して私たちの身体は免疫反応を起こし、炎症が生じます。この炎症反応により、以下のような症状が現れます。

即時型反応(刺されてすぐ〜数時間)

  • 刺された部位の発赤
  • かゆみ
  • 軽度の腫れ
  • ヒリヒリとした痛み

遅延型反応(刺されて数時間〜数日後)

  • より強いかゆみ
  • 硬い腫れ(硬結)
  • 広範囲の発赤
  • 熱感

なぜ硬く腫れるのか

虫刺されが硬く腫れる主な理由は、以下の3つのメカニズムによるものです。

1. 遅延型アレルギー反応

虫の唾液成分に対する免疫システムの反応により、リンパ球が活性化され、炎症性サイトカインが放出されます。これにより皮膚の真皮層に浮腫(むくみ)が生じ、硬い腫れとして触知されます。この反応は刺されてから24〜48時間後にピークを迎えることが多く、数日から数週間持続することがあります。

2. 炎症細胞の浸潤

虫刺されの部位には、好酸球、リンパ球、マクロファージなどの炎症細胞が集まってきます。これらの細胞が組織内に蓄積することで、触ると硬く感じる塊(結節)を形成します。

3. 線維化

慢性的な炎症が続くと、コラーゲンなどの線維成分が増加し、組織が硬くなります。これは「結節性痒疹」と呼ばれる状態で、掻き続けることでさらに悪化します。

硬く腫れる虫刺されの主な原因

1. 蚊(カ)

最も身近な虫刺されの原因です。通常は軽度の症状で済みますが、以下のような場合に硬く腫れることがあります。

蚊刺過敏症(蚊アレルギー)

蚊に対して強いアレルギー反応を示す体質の方がいます。特に小児に多く見られ、以下のような症状が特徴です。

  • 刺された部位が500円玉大以上に腫れる
  • 硬い腫れが1週間以上続く
  • 水疱(水ぶくれ)の形成
  • 発熱や倦怠感を伴うこともある

蚊刺過敏症は、EBウイルス(Epstein-Barrウイルス)感染との関連が指摘されており、特に免疫機能が未熟な小児や、免疫抑制状態にある方で重症化しやすいとされています。

2. ブヨ(ブユ・ブト)

渓流や高原など、きれいな水辺に生息する小さな虫です。蚊と異なり、皮膚を噛み切って血を吸うため、より強い症状を引き起こします。

ブヨ刺症の特徴

  • 刺された直後は無症状のことが多い
  • 翌日から激しいかゆみと腫れが出現
  • 硬い腫れが1〜2週間以上続くことも
  • 掻き壊すと色素沈着や瘢痕を残しやすい
  • 刺された部位の中央に小さな出血点が見られる

ブヨの唾液には強い抗凝固物質が含まれており、これが遅延型アレルギー反応を引き起こします。特に初めて刺された人よりも、過去に刺された経験がある人の方が強く反応する傾向があります。

3. ダニ

家の中のダニ(ツメダニ、イエダニ)やマダニなど、様々な種類のダニによる刺症があります。

ツメダニ・イエダニ

  • 夏場の高温多湿期に被害が増加
  • 柔らかい皮膚(腕の内側、腹部、太もも)が狙われやすい
  • 硬い紅色の丘疹(ぶつぶつ)が多発
  • 強いかゆみが1週間以上続く
  • 就寝中に刺されることが多い

マダニ

  • 山林や草むらに生息
  • 皮膚に咬みついた状態で発見されることが多い
  • 咬着部位を中心に硬い腫れが形成される
  • 感染症(日本紅斑熱、SFTS=重症熱性血小板減少症候群など)のリスクがある
  • 無理に引き抜くと口器が残り、肉芽腫を形成することがある

4. ハチ

ハチ刺症は、アナフィラキシーショックを起こす可能性があるため、特に注意が必要です。

局所反応

  • 刺された部位の激しい痛みと腫れ
  • 硬い腫れが数日〜1週間続く
  • 熱感と発赤が強い
  • 2回目以降の刺傷で症状が強くなることがある

注意すべき全身症状

  • 蕁麻疹や全身のかゆみ
  • 息苦しさや喉の違和感
  • 吐き気、嘔吐、腹痛
  • めまい、意識障害

これらの症状が現れた場合は、アナフィラキシーの可能性があるため、直ちに救急受診が必要です。

5. 毛虫(ドクガ類)

チャドクガやドクガの幼虫(毛虫)に触れると、毒針毛が皮膚に刺さり、炎症を起こします。

毛虫皮膚炎の特徴

  • 触れた部位に一致した線状または帯状の発疹
  • 小さな赤いぶつぶつが多発
  • 時間とともに硬く腫れることがある
  • 激しいかゆみ
  • 衣服を通して刺されることもある

特にチャドクガは、公園や庭木のツバキ、サザンカに発生するため、知らないうちに被害に遭うことが多い害虫です。

6. アリ

近年、外来種のヒアリ(火蟻)やアカカミアリが話題になっていますが、在来種のアリでも刺されることがあります。

アリ刺症の特徴

  • 刺された瞬間の激しい痛み
  • 数時間後に硬い腫れと膿疱(膿を持った水ぶくれ)の形成
  • 腫れが1週間以上続くことがある
  • ヒアリの場合、アナフィラキシーのリスクがある

硬く腫れる虫刺されと間違えやすい疾患

虫刺されと似た症状を呈する皮膚疾患もあります。鑑別が重要な疾患をいくつか紹介します。

伝染性軟属腫(水イボ)

小児に多く見られるウイルス性の皮膚感染症で、虫刺されの跡と間違えられることがあります。表面がやや光沢のある、中心が臍窩状にくぼんだ丘疹が特徴です。

毛包炎・せつ(おでき)

毛穴に細菌が感染して炎症を起こした状態です。虫刺されの後に細菌感染を合併することもあります。硬く腫れて痛みを伴い、中心に膿栓が見られることがあります。

結節性紅斑

下腿(すね)に硬い赤い結節が多発する疾患です。虫刺されとは異なり、痛みを伴うことが多く、発熱や関節痛などの全身症状を伴うこともあります。

皮膚がん(基底細胞癌、有棘細胞癌)

まれではありますが、硬い皮膚の腫瘤が悪性腫瘍であることもあります。特に高齢者で、なかなか治らない硬い腫れがある場合は、念のため専門医の診察を受けることをお勧めします。

虫刺されによる二次的な合併症

細菌感染(蜂窩織炎)

虫刺されの部位を掻き壊すと、そこから細菌が侵入して感染を起こすことがあります。

蜂窩織炎の症状

  • 患部の腫れが急速に拡大
  • 強い痛みと熱感
  • 患部が赤く、触ると硬い
  • 発熱や悪寒を伴うことがある
  • リンパ節の腫れ

蜂窩織炎は抗生物質による治療が必要で、放置すると敗血症など重篤な状態に進行する可能性があります。

リンパ管炎

細菌感染が進行すると、リンパ管に沿って赤い線状の発赤が見られることがあります。これはリンパ管炎と呼ばれ、早急な治療が必要なサインです。

慢性結節性痒疹

虫刺されの後、掻き続けることで慢性的な硬い結節が残る状態です。かゆみが非常に強く、治りにくいのが特徴です。一度形成されると治療が困難で、数ヶ月から数年にわたって症状が持続することもあります。

虫刺されが硬く腫れたときの対処法

応急処置

虫に刺された直後は、以下の応急処置を行いましょう。

1. 患部を冷やす

  • 流水や氷嚢で15〜20分冷やす
  • 炎症反応を抑え、かゆみを軽減する効果がある
  • ただし、凍傷にならないよう注意する

2. 患部を清潔に保つ

  • 石鹸と流水で優しく洗う
  • タオルでこすらず、軽く押さえるように拭く
  • 感染予防のため、清潔を保つことが重要

3. 掻かないようにする

  • 爪を短く切る
  • 患部にガーゼや絆創膏を貼って物理的に保護する
  • かゆみが強い場合は、市販の虫刺され薬を使用する

4. マダニの場合の特別な対処

  • 自分で無理に引き抜かない
  • ワセリンや油で窒息させようとしない
  • 医療機関で適切に除去してもらう

市販薬の使用

ステロイド外用剤

虫刺されの炎症を抑える最も効果的な薬です。市販薬には様々な強さのものがあります。

  • 弱いもの:プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン
  • 中程度:プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル
  • 強いもの:ベタメタゾン吉草酸エステル

硬く腫れている場合は、中程度から強めのステロイド外用剤が効果的です。ただし、顔面への使用や長期使用は避け、5〜7日使用しても改善しない場合は医療機関を受診してください。

抗ヒスタミン薬含有軟膏

かゆみを抑える成分が含まれています。軽度の虫刺されに有効ですが、硬く腫れている場合はステロイド外用剤の方が効果的です。

内服抗ヒスタミン薬

全身的なかゆみが強い場合や、広範囲に虫刺されがある場合に有効です。眠気を催すものが多いため、服用後の車の運転などは控えてください。

生活上の注意点

1. 十分な睡眠と休養

  • 免疫機能を正常に保つために重要
  • 疲労やストレスは症状を悪化させることがある

2. 患部を温めすぎない

  • 入浴は短時間のシャワー程度にする
  • 熱い湯につかると、かゆみが増強することがある

3. 刺激物を避ける

  • アルコールや香辛料はかゆみを増強させることがある
  • 症状が強い間は控えめにする

4. 衣服の選択

  • 患部を締め付けない、ゆったりした衣服を着用
  • 通気性の良い素材を選ぶ

医療機関を受診すべきタイミング

以下のような場合は、早めに皮膚科専門医を受診することをお勧めします。

緊急性が高い症状

直ちに救急受診が必要な場合

  • 呼吸困難、喘鳴(ぜいぜい)がある
  • 顔や喉の腫れ
  • 全身の蕁麻疹
  • 意識障害、めまい、失神
  • 激しい嘔吐や下痢
  • 血圧低下(アナフィラキシーショックの可能性)

数時間以内に受診が必要な場合

  • 刺された部位の腫れが急速に拡大している
  • 強い痛みと熱感がある
  • 38度以上の発熱
  • 赤い線が伸びてくる(リンパ管炎の疑い)
  • マダニが咬みついている

早めの受診が望ましい場合

以下の症状がある場合は、2〜3日以内に受診を検討してください

  • 硬い腫れが1週間以上続いている
  • 腫れの範囲が5cm以上ある
  • 市販薬を1週間使用しても改善しない
  • かゆみが非常に強く、日常生活に支障がある
  • 水疱や膿疱が形成されている
  • 複数箇所に同様の症状がある
  • 虫刺されを繰り返している
  • 過去にハチに刺されたことがあり、再度刺された
  • 色素沈着や瘢痕が気になる

特に受診を勧める方

以下のような方は、軽症でも早めに医療機関を受診することをお勧めします。

  • 乳幼児や高齢者
  • 糖尿病、慢性腎臓病などの基礎疾患がある方
  • 免疫抑制剤やステロイド薬を内服している方
  • 過去にアナフィラキシーの既往がある方
  • アトピー性皮膚炎など、皮膚のバリア機能が低下している方

医療機関での治療

診断

皮膚科専門医は、以下のような診察を行い、総合的に診断します。

問診

  • いつ、どこで刺されたか
  • 虫の種類は特定できるか
  • 症状の経過
  • 以前にも同様の症状があったか
  • 現在の治療内容
  • アレルギーの既往

視診

  • 皮疹の形状、大きさ、分布
  • 色調、表面の状態
  • 二次感染の有無

触診

  • 硬さ、熱感
  • 圧痛の有無
  • リンパ節の腫れ

補助検査(必要に応じて)

  • 血液検査:白血球数、炎症反応、アレルギーマーカー
  • 細菌培養:感染が疑われる場合
  • 皮膚生検:診断が困難な場合や悪性腫瘍が疑われる場合
  • アレルギー検査:特異的IgE抗体測定

治療法

1. 外用療法

症状の程度に応じて、適切な強さのステロイド外用剤が処方されます。

  • 軽症:弱〜中等度のステロイド外用剤
  • 中等症:強めのステロイド外用剤
  • 重症:最強クラスのステロイド外用剤

また、二次感染を合併している場合は、抗生物質含有軟膏や、ステロイドと抗生物質の配合剤が使用されます。

2. 内服療法

抗ヒスタミン薬

  • かゆみを抑える
  • 第二世代抗ヒスタミン薬は眠気が少ない

ステロイド内服薬

  • 広範囲の腫れや強い炎症がある場合
  • 通常は短期間(3〜7日程度)の使用

抗生物質

  • 細菌感染を合併している場合
  • 蜂窩織炎やリンパ管炎の治療

3. 注射療法

  • 局所へのステロイド注射:硬い結節が残った場合
  • アドレナリン自己注射薬(エピペン):ハチアレルギーがある方への処方

4. 物理療法

  • 液体窒素による冷凍凝固療法:結節性痒疹の治療
  • 紫外線療法:慢性化した難治性のかゆみに対して

5. 外科的処置

  • マダニの除去
  • 膿瘍の切開排膿
  • 肉芽腫の切除

虫刺されの予防対策

屋外での対策

1. 肌の露出を減らす

  • 長袖、長ズボンを着用
  • 明るい色の服を選ぶ(虫が寄りつきにくい)
  • 帽子を着用
  • 靴下を履く

2. 虫除け剤の使用

ディート(DEET)配合製品

  • 最も効果的な虫除け成分
  • 濃度が高いほど持続時間が長い(日本では最大30%)
  • 生後6ヶ月未満の乳児には使用できない
  • 使用回数に年齢制限がある(6ヶ月〜2歳未満:1日1回、2歳〜12歳未満:1日3回まで)

イカリジン配合製品

  • ディートと同等の効果
  • 年齢制限がなく、乳幼児にも使用できる
  • 衣服への影響が少ない

天然成分(ユーカリ、レモングラスなど)

  • 化学成分を避けたい方向け
  • 効果の持続時間が短い

使用のポイント

  • こまめに塗り直す(2〜3時間ごと)
  • 日焼け止めを使う場合は、日焼け止めを先に塗る
  • 衣服の上からスプレーするのも効果的

3. 時間帯と場所の選択

  • 蚊は薄暮時から夜間に活発
  • ブヨは日中の涼しい時間帯に活動
  • 水辺、草むら、森林は虫が多い

4. 香りに注意

  • 強い香水や香料は避ける
  • 香りの強いシャンプーや柔軟剤も虫を引き寄せることがある

屋内での対策

1. 蚊の侵入防止

  • 網戸の設置と点検
  • ドアや窓の開閉を短時間に
  • 蚊取り線香や電気蚊取り器の使用

2. ダニ対策

  • 寝具をこまめに洗濯し、日光干しする
  • 布団乾燥機の使用(60度以上でダニは死滅)
  • 掃除機をこまめにかける
  • 除湿を心がける(湿度50%以下)
  • 畳やカーペットは定期的にダニ取りシートなどでケア

3. 毛虫対策

  • 庭木の定期的な点検と害虫駆除
  • 洗濯物を外に干す場合は、取り込む前によく確認
  • 落ち葉や枯れ枝をこまめに掃除

体質と虫刺されの関係

なぜ人によって反応が違うのか

同じ虫に刺されても、人によって症状の出方が大きく異なります。これには以下のような要因が関係しています。

1. 免疫学的な要因

  • 過去の刺された経験(感作の有無)
  • IgE抗体の産生能力
  • T細胞の反応性

2. 遺伝的要因

  • アレルギー体質の遺伝
  • 免疫応答に関わる遺伝子の多型

3. 年齢

  • 乳幼児は免疫が未熟で症状が強く出やすい
  • 高齢者は反応が鈍くなることもある

4. 体質

  • アトピー性皮膚炎など、皮膚のバリア機能が低下している
  • 汗をかきやすい体質(虫を引き寄せやすい)

刺されやすい人の特徴

以下のような特徴がある人は、虫に刺されやすい傾向があります。

  • 体温が高い人
  • 汗をかきやすい人
  • 呼吸量が多い人(二酸化炭素の排出量が多い)
  • O型の血液型(蚊に刺されやすいという研究報告がある)
  • 黒い服を着ている人
  • 飲酒後の人(体温上昇と二酸化炭素排出量増加のため)

慢性化した虫刺されの対処

結節性痒疹への移行

虫刺されが慢性化し、硬い結節が残った状態を結節性痒疹といいます。この状態になると治療が難しくなるため、早期の適切な対処が重要です。

結節性痒疹の特徴

  • 硬い、盛り上がった結節
  • 表面が荒れていることが多い
  • 非常に強いかゆみ
  • 数ヶ月から数年にわたって持続

治療法

  • 強力なステロイド外用剤の密封療法(ODT)
  • ステロイド局所注射
  • 液体窒素による冷凍凝固療法
  • かゆみ止めの内服(抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬)
  • 紫外線療法(PUVA療法、ナローバンドUVB)
  • 重症例では、免疫抑制剤(シクロスポリン)の使用も検討

色素沈着と瘢痕

虫刺されの跡が色素沈着として残ることは珍しくありません。

予防と対策

  • 掻かないことが最も重要
  • 炎症を早期に抑える
  • 紫外線対策(日焼け止めの使用)
  • ビタミンC誘導体配合の美白化粧品
  • トラネキサム酸の内服
  • レーザー治療(美容皮膚科での対応)

時間の経過とともに薄くなることが多いですが、完全に消えるまでには6ヶ月から1年以上かかることもあります。

よくある質問(Q&A)

Q1: 虫刺されが硬く腫れてきたら、冷やすべきですか、温めるべきですか?

A: 基本的には冷やすことをお勧めします。冷やすことで血管が収縮し、炎症反応が抑えられ、かゆみも軽減されます。温めると血流が増加し、かゆみが増強することがあります。ただし、慢性化した硬い結節の場合は、温冷刺激で症状が変わらないこともあります。

Q2: ステロイド外用剤は怖いイメージがありますが、使っても大丈夫ですか?

A: 適切に使用すれば安全で効果的な薬です。虫刺されの炎症を放置して掻き続ける方が、慢性化や色素沈着のリスクが高くなります。短期間(1〜2週間程度)の使用であれば、副作用の心配はほとんどありません。ただし、顔面への長期使用や、自己判断での使用継続は避け、症状が改善しない場合は医療機関を受診してください。

Q3: 虫刺されの跡が何ヶ月も残っています。いつになったら治りますか?

A: 通常の虫刺されであれば、数日から2週間程度で治ります。1ヶ月以上経過しても硬い腫れが残っている場合は、結節性痒疹に移行している可能性があります。この状態では自然治癒は難しく、適切な治療が必要です。一度皮膚科専門医を受診することをお勧めします。

Q4: 子どもが虫に刺されやすいのですが、どうしてですか?

A: 子どもは代謝が活発で体温が高く、汗をかきやすいため、虫を引き寄せやすい傾向があります。また、皮膚が薄く柔らかいため刺されやすく、免疫が未熟なため反応も強く出やすいのです。子ども用の低刺激な虫除け剤を使用し、肌の露出を減らす工夫をしましょう。

Q5: ハチに刺されたことがあります。次に刺されたら危険ですか?

A: ハチに刺されると、体内に抗体ができます。2回目以降に刺された場合、アナフィラキシーショックを起こすリスクが高くなります。過去にハチに刺されて強い全身症状が出た方は、アレルギー検査を受け、必要に応じてアドレナリン自己注射薬(エピペン)を携帯することをお勧めします。

Q6: マダニに咬まれました。無理に取らない方がいいと聞きましたが、どうすればいいですか?

A: マダニは口器がセメント様物質で皮膚に固着しているため、無理に引き抜くと口器が残り、感染や肉芽腫の原因になります。また、マダニを握りつぶすと、体液中の病原体が体内に逆流するリスクがあります。できるだけ早く医療機関を受診し、適切に除去してもらいましょう。除去後も、発熱や皮疹などの症状に注意が必要です。

Q7: 虫除けスプレーは日焼け止めと一緒に使えますか?

A: 使えます。ただし、塗る順番が重要です。まず日焼け止めを塗り、その後に虫除けスプレーを使用してください。逆の順番だと、虫除け成分が日焼け止めで覆われて効果が減弱します。また、時間が経ったらこまめに塗り直すことも大切です。

Q8: 虫刺されが化膿してきました。自宅で何かできることはありますか?

A: 化膿している場合は、細菌感染を起こしています。自己判断で対処せず、早めに医療機関を受診してください。抗生物質の内服や外用が必要です。応急処置としては、患部を清潔に保ち、むやみに触らないようにしましょう。膿を自分で出そうとするのは避けてください。

Q9: アトピー性皮膚炎があります。虫刺されがひどくなりやすいのですが、何か対策はありますか?

A: アトピー性皮膚炎の方は、皮膚のバリア機能が低下しているため、虫に刺されやすく、症状も強く出やすい傾向があります。日頃からの保湿ケアでバリア機能を保つこと、虫除け剤をしっかり使用すること、刺された場合は早期に適切な強さのステロイド外用剤で治療することが重要です。主治医と相談しながら、予防と早期治療に努めましょう。

Q10: 同じ場所を何度も刺されている気がします。虫刺されの跡に虫が寄ってくるのでしょうか?

A: 虫刺されの跡そのものが虫を引き寄せるわけではありませんが、掻き壊して傷になっている部分は、バリア機能が低下しており、再度刺されやすい可能性があります。また、同じ場所が繰り返し刺されるのは、その部位が虫にとって刺しやすい(露出していて、皮膚が柔らかいなど)という理由が考えられます。繰り返し刺される場合は、その部位を重点的に保護し、虫除け剤をしっかり使用しましょう。

まとめ

虫刺されが硬く腫れる原因は、通常の免疫反応から、アレルギー反応、細菌感染まで多岐にわたります。多くの場合は適切なセルフケアで改善しますが、以下のような場合は医療機関の受診が必要です。

医療機関の受診を検討すべきケース

  • 腫れが1週間以上続く、または悪化している
  • 腫れの範囲が5cm以上ある
  • 強い痛みや熱感がある
  • 発熱や全身症状を伴う
  • 市販薬を使用しても改善しない
  • 呼吸困難などのアナフィラキシー症状がある
  • マダニが咬みついている

虫刺されの予防には、肌の露出を減らす、虫除け剤を適切に使用する、環境を整える(室内のダニ対策など)ことが効果的です。

もし虫に刺されてしまった場合は、患部を冷やし、清潔に保ち、掻かないようにすることが基本です。適切な強さの市販薬を使用し、改善しない場合や症状が強い場合は、早めに専門医を受診しましょう。

特に、結節性痒疹のように慢性化してしまうと治療が困難になるため、「たかが虫刺され」と軽視せず、適切な対処を心がけることが大切です。

参考文献

本記事の作成にあたり、以下の信頼できる情報源を参考にしました。

  1. 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A」
    https://www.dermatol.or.jp/qa/
  2. 厚生労働省「蚊媒介感染症の診療ガイドライン」
    https://www.mhlw.go.jp/
  3. 国立感染症研究所「昆虫媒介感染症」
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/
  4. 日本アレルギー学会「アレルギー疾患診療ガイドライン」
    https://www.jsaweb.jp/
  5. 環境省「マダニ対策、今できること」
    https://www.env.go.jp/
  6. 東京都感染症情報センター「虫刺症について」
    https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/
  7. 日本小児皮膚科学会「小児の虫刺され」
    http://jspd.umin.jp/

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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