はじめに
冬から春にかけて、お子さんが熱や咳で苦しむ姿を見るのは、親御さんにとって辛いものです。「風邪かな」と思っていたら、なかなか症状が改善せず、呼吸が苦しそうになってきた――そんな経験はありませんか?
その原因の一つとして、近年注目されているのが「ヒトメタニューモウイルス(hMPV)」です。RSウイルスやインフルエンザほど広く知られていませんが、実は多くの子どもたちが感染し、時には重症化することもある呼吸器感染症です。
この記事では、ヒトメタニューモウイルス感染症について、その特徴から症状、診断、治療、予防まで、医療の専門知識を持たない方にも分かりやすく解説していきます。お子さんの健康を守るため、また成人の方々にとっても役立つ情報をお届けします。

ヒトメタニューモウイルスとは
ウイルスの発見と歴史
ヒトメタニューモウイルス(human metapneumovirus:hMPV)は、2001年にオランダの研究グループによって初めて報告されたウイルスです。比較的最近発見されたウイルスですが、過去の保存検体を調べた研究によって、実は50年以上前から人間に感染していたことが分かっています。
発見が遅れた理由は、このウイルスの培養が難しく、従来の検査方法では検出できなかったためです。遺伝子検査技術の進歩により、ようやくその存在が明らかになりました。
ウイルスの特徴と分類
ヒトメタニューモウイルスは、パラミクソウイルス科ニューモウイルス亜科に属するRNAウイルスです。同じニューモウイルス亜科には、乳幼児の呼吸器感染症で有名なRSウイルス(respiratory syncytial virus:RSV)も含まれており、この2つのウイルスは遺伝子配列や引き起こす症状が似ています。
ヒトメタニューモウイルスには、大きく分けてA型とB型の2つの遺伝子型があり、それぞれがさらに2つのサブグループ(A1、A2、B1、B2)に分類されます。これらの異なる型が同時期に流行することもあり、一度感染しても別の型に再感染する可能性があります。
どのくらい一般的な感染症なのか
ヒトメタニューモウイルス感染症は、決して珍しい病気ではありません。国内外の研究によれば、5歳までにほぼすべての子どもが少なくとも1回は感染すると言われています。
日本国内では、毎年冬から春にかけて流行がみられ、急性呼吸器感染症で入院した小児の5〜10%程度からヒトメタニューモウイルスが検出されるという報告があります。成人でも感染しますが、多くは軽症で済むため、見過ごされているケースも少なくありません。
感染経路と流行時期
どのように感染するのか
ヒトメタニューモウイルスの主な感染経路は、飛沫感染と接触感染です。
飛沫感染は、感染者が咳やくしゃみをした際に、ウイルスを含む飛沫(しぶき)が飛び散り、それを周囲の人が吸い込むことで起こります。特に、狭い室内で感染者と近い距離にいる場合、感染リスクが高まります。
接触感染は、ウイルスが付着した手で目や鼻、口を触ることで起こります。ドアノブ、手すり、おもちゃなど、感染者が触れた物の表面にウイルスが付着し、それを別の人が触ることで間接的に感染が広がります。
ヒトメタニューモウイルスは環境中で数時間生存できるため、手洗いや環境の消毒が予防に重要です。
流行する時期
日本では、ヒトメタニューモウイルスは主に3月から6月にかけて流行のピークを迎えます。特に3月から4月にかけて患者数が増加する傾向があり、RSウイルスが秋から冬に流行するのとは時期がずれています。
ただし、年によって流行の時期や規模には変動があり、冬季に検出されることもあります。また、インフルエンザやRSウイルスなど、他の呼吸器ウイルスと同時に流行することもあり、複数のウイルスに同時感染する「重複感染」も報告されています。
感染力と潜伏期間
ヒトメタニューモウイルスの潜伏期間(ウイルスに感染してから症状が出るまでの期間)は、おおよそ3〜6日とされています。
感染力については、RSウイルスやインフルエンザウイルスと同程度と考えられており、特に症状が出ている時期に感染力が強くなります。ウイルスの排泄期間(体内からウイルスが排出される期間)は通常1〜2週間程度ですが、免疫力が低下している人や乳幼児では、より長期間ウイルスを排出し続けることがあります。
症状:軽症から重症まで
一般的な症状
ヒトメタニューモウイルス感染症の症状は、一般的な風邪と非常によく似ています。主な症状は以下の通りです。
上気道症状
- 発熱(37.5〜39度程度)
- 鼻水、鼻づまり
- くしゃみ
- 咽頭痛(のどの痛み)
- 咳(初めは乾いた咳、徐々に痰が絡む咳へ)
全身症状
- 倦怠感、だるさ
- 食欲不振
- 頭痛
- 筋肉痛
多くの場合、これらの症状は7〜10日程度で自然に改善していきます。成人や年長児では、軽い風邪程度の症状で済むことが大半です。
重症化するとどうなるか
一部の患者さん、特に乳幼児や基礎疾患のある方では、症状が進行して下気道感染症を引き起こすことがあります。
気管支炎 気管支に炎症が広がると、痰の絡む咳が強くなり、呼吸時にゼーゼー、ヒューヒューという音(喘鳴)が聞こえることがあります。
細気管支炎 特に2歳未満の乳幼児に多くみられる病態で、細い気管支(細気管支)に炎症が起こります。主な症状は:
- 激しい咳
- 喘鳴(ゼーゼー音)
- 呼吸困難
- 多呼吸(呼吸が速くなる)
- 陥没呼吸(呼吸時に胸やお腹がへこむ)
- チアノーゼ(唇や指先が紫色になる)
肺炎 さらに重症化すると肺炎を発症し、高熱、激しい咳、呼吸困難が現れます。胸部X線検査で肺に影が見られることがあります。
症状の年齢による違い
乳幼児(0〜2歳) 最も重症化しやすい年齢層です。細気管支炎や肺炎を発症するリスクが高く、入院が必要になることも少なくありません。生後6か月未満の乳児では、母親からの移行抗体があっても完全には防げず、重症化のリスクがあります。
幼児・学童期(3〜12歳) 多くは上気道炎(いわゆる風邪)の症状で済みますが、喘息などの基礎疾患がある場合は、症状の悪化や喘息発作の誘発に注意が必要です。
成人 通常は軽症で、風邪やインフルエンザと区別がつかないことが多いです。ただし、高齢者や慢性呼吸器疾患を持つ方では重症化することがあります。
高齢者 免疫力の低下により、肺炎を発症しやすく、入院が必要になることもあります。特に施設入所者では、集団感染の報告もあります。
リスクの高い人々
ヒトメタニューモウイルス感染症は誰でも感染する可能性がありますが、以下のような方々は特に重症化のリスクが高いとされています。
乳幼児
生後6か月から2歳までの乳幼児は、最も重症化しやすい年齢層です。気道が細く未発達なため、わずかな炎症でも呼吸困難を起こしやすく、細気管支炎のリスクが高くなります。
早産児・低出生体重児
出生時の在胎週数が短い、または出生体重が少ない赤ちゃんは、肺の発達が不十分な場合があり、呼吸器感染症が重症化しやすい傾向があります。
基礎疾患のある方
以下のような基礎疾患をお持ちの方は、注意が必要です。
呼吸器疾患
- 気管支喘息
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 気管支肺異形成症
- 間質性肺炎
心疾患
- 先天性心疾患
- 慢性心不全
免疫不全状態
- 造血幹細胞移植後
- 臓器移植後
- がん化学療法中
- HIV感染症
- 免疫抑制剤使用中
神経・筋疾患
- 脳性麻痺
- 筋ジストロフィー
- 重症心身障害
これらの疾患があると、咳をして痰を出す力が弱かったり、免疫機能が低下していたりするため、感染症が長引いたり重症化したりしやすくなります。
高齢者
65歳以上の高齢者、特に75歳以上の後期高齢者では、免疫機能の低下や基礎疾患の合併により、肺炎を発症するリスクが高まります。高齢者施設での集団感染も報告されており、注意が必要です。
診断方法
臨床診断
ヒトメタニューモウイルス感染症の診断は、まず症状と流行状況から判断します。3月から6月の流行期に、発熱、鼻水、咳などの呼吸器症状があり、特に乳幼児で喘鳴や呼吸困難がみられる場合は、この感染症を疑います。
しかし、症状だけではRSウイルス感染症やインフルエンザ、その他のウイルス性呼吸器感染症と区別することは困難です。
ウイルス検査
確定診断には、ウイルスの存在を確認する検査が必要です。
迅速抗原検査 鼻やのどから綿棒で検体を採取し、ウイルスの抗原を検出する検査です。15〜30分程度で結果が出る利点がありますが、日本では保険適用となっておらず、一般的には使用されていません。また、感度(ウイルスがいる時に陽性と判定できる確率)がやや低いという課題もあります。
PCR検査(遺伝子検査) ウイルスの遺伝子を増幅して検出する方法で、感度・特異度ともに高く、最も信頼性の高い検査法です。ただし、結果が出るまでに数時間から数日かかること、専門の検査機器が必要なこと、保険適用ではないことから、日常診療では限られた施設でしか実施されていません。主に研究目的や重症例、集団感染の調査などで用いられます。
ウイルス分離・培養 検体からウイルスを培養する方法ですが、時間がかかり技術的にも難しいため、研究目的以外ではほとんど行われません。
その他の検査
ウイルス検査で確定診断ができなくても、症状や重症度を評価するために以下の検査を行うことがあります。
血液検査 白血球数、CRP(炎症マーカー)などを測定し、炎症の程度や細菌感染の合併がないかを評価します。ウイルス感染では通常、白血球数は正常か軽度上昇程度です。
胸部X線検査 呼吸困難や呼吸音の異常がある場合、肺炎や細気管支炎の有無を確認するために撮影します。両側の肺に過膨張や浸潤影(肺炎の影)がみられることがあります。
パルスオキシメーター 指先に装着して血液中の酸素飽和度を測定する機器です。呼吸機能が低下している場合、酸素飽和度が低下します。
診断の実際
実際の医療現場では、流行期に典型的な症状がみられる場合、「ウイルス性気管支炎」「ウイルス性肺炎」などの臨床診断名をつけ、ウイルスの種類を特定せずに治療を開始することが多いです。
これは、ヒトメタニューモウイルスに限らず、多くのウイルス性呼吸器感染症に対する特効薬がなく、治療法が対症療法(症状を和らげる治療)中心であるため、ウイルスの種類を特定する臨床的意義が限られているためです。
ただし、以下のような場合には、ウイルス検査が考慮されます。
- 重症例や入院を要する場合
- 集団感染が疑われる場合
- 研究や疫学調査の目的
- 他の治療可能な疾患(細菌感染など)との鑑別が必要な場合
治療法
基本的な治療方針
現時点で、ヒトメタニューモウイルスに対する特効薬(抗ウイルス薬)は存在しません。したがって、治療の基本は対症療法となります。対症療法とは、ウイルスそのものを攻撃するのではなく、症状を和らげ、体がウイルスと戦うのをサポートする治療法です。
多くの場合、十分な休養と適切な水分補給、そして症状に応じた薬の使用により、7〜10日程度で自然に回復します。
自宅でのケア(軽症例)
軽症の場合は、自宅での療養が中心となります。
安静と休養 十分な睡眠と休息をとることが、免疫力を高め回復を早めるために最も重要です。無理に活動せず、体を休めましょう。
水分補給 発熱や呼吸が速くなることで、体内の水分が失われやすくなります。こまめに水分を摂取しましょう。お茶、水、経口補水液、スープなど、飲みやすいものを選んでください。乳幼児では、母乳やミルクも水分補給になります。
脱水のサインには注意が必要です。
- おしっこの回数や量が少ない
- 口や唇が乾燥している
- 皮膚の張りがない
- 元気がなく、ぐったりしている
これらの症状がみられたら、早めに医療機関を受診してください。
栄養補給 食欲がなくても、少量ずつでも栄養を摂ることが大切です。消化の良いもの、温かいスープやおかゆなどがおすすめです。無理に食べさせる必要はありませんが、水分だけは必ず確保しましょう。
加湿 室内の湿度を50〜60%程度に保つと、気道の粘膜を保護し、咳や鼻づまりが楽になります。加湿器を使用したり、洗濯物を室内に干したりすることも効果的です。
鼻水・鼻づまりのケア 乳児では、鼻が詰まると哺乳がうまくできなくなります。市販の鼻吸い器や、蒸しタオルを鼻の付近に当てて温めることで、鼻づまりを和らげることができます。
薬物療法
解熱鎮痛薬 高熱で辛い時や、頭痛・関節痛がある場合は、アセトアミノフェン(カロナールなど)やイブプロフェン(小児用バファリンなど)を使用します。ただし、熱は体がウイルスと戦っている証拠でもあるので、無理に下げる必要はありません。38.5度以上で本人が辛そうな時に使用する、という目安で良いでしょう。
注意点として、アスピリンは小児には使用しないでください。ライ症候群という重篤な副作用のリスクがあります。
咳止め・去痰薬 咳がひどい場合、咳止め(鎮咳薬)や痰を出しやすくする薬(去痰薬)が処方されることがあります。ただし、咳はウイルスや痰を外に出そうとする体の防御反応でもあるため、必ずしも完全に止める必要はありません。特に痰が絡んでいる時は、咳止めよりも去痰薬の方が適切です。
気管支拡張薬 喘鳴(ゼーゼー音)がある場合、気管支を広げる薬(β刺激薬など)の吸入が効果的なことがあります。
抗菌薬(抗生物質)について ヒトメタニューモウイルスはウイルスなので、細菌に効く抗菌薬は無効です。しかし、ウイルス感染に続いて細菌感染を合併した場合(二次性細菌感染)や、細菌感染が疑われる場合には、抗菌薬が処方されることがあります。
抗菌薬の不適切な使用は、薬剤耐性菌を増やす原因となるため、医師の判断に従い、処方された場合は指示通りに服用しましょう。
入院治療が必要な場合
以下のような症状がみられる場合は、入院治療が必要になることがあります。
入院の目安
- 呼吸困難、多呼吸が強い
- 酸素飽和度が低下している(通常93〜94%以下)
- 陥没呼吸(呼吸時に胸やお腹がへこむ)
- チアノーゼ(唇や指先が紫色)
- 哺乳不良、経口摂取困難
- 脱水症状
- 意識レベルの低下、ぐったりしている
- 生後3か月未満の発熱
- 基礎疾患があり、症状が悪化している
入院治療の内容
- 酸素療法:酸素飽和度が低下している場合、鼻カニューレやマスクで酸素を投与します。
- 輸液療法:経口摂取が困難な場合、点滴で水分と電解質を補給します。
- 吸入療法:気管支拡張薬の吸入や、生理食塩水の吸入(ネブライザー療法)で気道の加湿と痰の排出を促します。
- 呼吸管理:重症例では、持続陽圧呼吸(CPAP)や人工呼吸管理が必要になることもあります。
予後(病気の経過と見通し)
適切な治療を受ければ、ほとんどの患者さんは1〜2週間で回復します。ただし、重症化した場合や基礎疾患がある場合は、回復に時間がかかることがあります。
稀ですが、細気管支炎を発症した乳幼児では、その後喘息を発症しやすくなるという報告もあります。長期的な呼吸機能への影響については、今後の研究が待たれます。
予防対策
ヒトメタニューモウイルスに対するワクチンは現在のところ開発されていません。したがって、予防の基本は日常的な感染対策となります。
手洗いの徹底
最も基本的で効果的な予防法は、こまめな手洗いです。特に以下のタイミングで手を洗いましょう。
- 帰宅時
- 食事の前
- トイレの後
- 咳やくしゃみ、鼻をかんだ後
- 赤ちゃんのおむつ交換の後
正しい手洗いの方法
- 流水で手をぬらす
- 石鹸をつけ、手のひら、手の甲、指の間、指先、爪の間、親指、手首までしっかり洗う(20〜30秒かけて)
- 流水でよくすすぐ
- 清潔なタオルやペーパータオルで拭く
手洗いができない場合は、アルコール消毒液も有効です。ただし、手が目に見えて汚れている場合は、まず流水で洗い流してから使用しましょう。
咳エチケット
感染拡大を防ぐため、咳やくしゃみが出る時は以下のマナーを守りましょう。
- マスクを着用する
- マスクがない場合は、ティッシュやハンカチで口と鼻を覆う
- とっさの時は、服の袖で口と鼻を覆う(手のひらで覆うと、その手で触ったものにウイルスが付着してしまいます)
- 使用したティッシュはすぐにゴミ箱に捨てる
マスクの着用
流行期や人混みでは、マスクの着用が感染予防に役立ちます。特に、基礎疾患のある方や高齢者、妊婦さんは積極的な着用をおすすめします。
ただし、2歳未満の子どもにマスクを着用させると、窒息のリスクがあるため推奨されません。
環境の清掃・消毒
ウイルスは環境表面で数時間生存できるため、特に複数の人が触れる場所の清掃・消毒が重要です。
消毒すべき場所
- ドアノブ、手すり
- スイッチ類
- テーブル、カウンター
- おもちゃ
- 蛇口
- リモコン、タブレット、スマートフォン
消毒方法
- アルコール消毒液(濃度70〜80%)で拭く
- 次亜塩素酸ナトリウム液(家庭用塩素系漂白剤を薄めたもの)で拭く
- 0.05〜0.1%濃度に希釈(例:ハイター5mlを水500mlで薄める)
- 拭いた後、水拭きする
適切な換気
室内の換気を行い、空気の流れを作ることで、ウイルスの濃度を下げることができます。1〜2時間に1回、5〜10分程度窓を開けて換気しましょう。
人混みを避ける
流行期には、可能な限り人混みへの外出を控えることが望ましいです。特に、乳幼児や基礎疾患のある方は注意しましょう。
免疫力を高める生活習慣
日頃から免疫力を高めることも、感染予防や重症化予防に役立ちます。
- 十分な睡眠:質の良い睡眠は免疫機能を維持します
- バランスの取れた食事:特にビタミンA、C、D、亜鉛などを意識して摂取
- 適度な運動:過度な運動は逆効果ですが、適度な運動は免疫力を高めます
- ストレス管理:慢性的なストレスは免疫力を低下させます
- 禁煙:喫煙は気道の防御機能を低下させます。受動喫煙も子どもの呼吸器感染症のリスクを高めるため、家庭内は禁煙にしましょう
学校や保育園での対応
出席停止について
ヒトメタニューモウイルス感染症は、学校保健安全法で定められた出席停止対象の感染症ではありません。したがって、法律上の出席停止期間は定められていません。
ただし、症状がある間は他の子どもへの感染リスクがあるため、以下を目安に登園・登校を判断するとよいでしょう。
- 熱が下がって24時間以上経過している
- 全身状態が良好で、通常の活動ができる
- 食事が普通に摂れる
- 激しい咳や鼻水が改善している
具体的な判断は、かかりつけ医に相談し、各施設の方針に従ってください。
園や学校での感染対策
日常的な対策
- 手洗いの励行(特に給食前、外遊び後)
- 定期的な換気
- 共用物品の消毒
- 咳エチケットの指導
- 体調不良の早期発見(毎朝の健康観察)
流行時の対策
- 手洗いの徹底をより強化
- 職員のマスク着用
- 行事の延期や中止の検討
- 保護者への情報提供と協力依頼
家族に感染者が出た場合
家族の中に感染者が出た場合、完全に感染を防ぐことは困難ですが、以下の対策で感染リスクを下げることができます。
- 可能であれば、感染者を別室で休ませる
- 感染者の看病をする人を限定する(できれば基礎疾患のない成人)
- 感染者と接触した後は必ず手を洗う
- 感染者の使ったティッシュはすぐに密閉できるゴミ箱に捨てる
- タオルなどは別々にする
- こまめに換気する
- 共用スペースの消毒を行う
- 兄弟間の接触をできるだけ避ける(特に乳児がいる場合)

よくある質問(Q&A)
Q1. ヒトメタニューモウイルスとRSウイルスの違いは?
両者は同じニューモウイルス亜科に属し、症状も似ていますが、異なるウイルスです。主な違いは以下の通りです。
- 流行時期:RSウイルスは秋から冬(9月〜2月)、ヒトメタニューモウイルスは冬から春(3月〜6月)に流行のピークがあります
- 重症度:RSウイルスの方がやや重症化しやすいとされていますが、ヒトメタニューモウイルスも重症化することがあります
- 検査:RSウイルスには保険適用の迅速検査がありますが、ヒトメタニューモウイルスにはありません
- 治療薬:RSウイルスには重症例に使用できるパリビズマブという予防薬がありますが、ヒトメタニューモウイルスにはありません
実際の臨床現場では、症状だけで区別することは困難で、治療法も対症療法が中心なので、必ずしも区別する必要はありません。
Q2. 一度かかれば免疫ができるのですか?
ヒトメタニューモウイルスに感染すると抗体ができますが、その免疫は完全ではなく、また長続きしません。さらに、A型とB型の異なる遺伝子型があり、それぞれに対する免疫は別々です。そのため、何度も再感染する可能性があります。
ただし、再感染の場合は初回感染よりも症状が軽いことが多いとされています。
Q3. 妊娠中に感染した場合、胎児への影響は?
現時点で、妊婦がヒトメタニューモウイルスに感染しても、胎児に直接影響を及ぼすという報告はありません。ただし、妊娠中は免疫機能がやや低下しているため、感染予防には注意が必要です。
妊娠中に発熱や呼吸器症状が出た場合は、かかりつけの産科医に相談してください。
Q4. 予防接種(ワクチン)はありますか?
現在のところ、ヒトメタニューモウイルスに対するワクチンは開発されておらず、実用化されていません。研究は進められていますが、実用化にはまだ時間がかかると考えられています。
Q5. 抗体検査で過去の感染が分かりますか?
血液検査でヒトメタニューモウイルスの抗体を測定することは技術的には可能ですが、日常診療では通常行われません。研究目的や疫学調査で実施されることがあります。
Q6. インフルエンザとの違いは?
ヒトメタニューモウイルス感染症とインフルエンザは、初期症状が似ていることがありますが、いくつかの違いがあります。
- 症状の程度:インフルエンザは一般に急激な高熱(38度以上)と強い全身症状(筋肉痛、関節痛、頭痛)が特徴です。ヒトメタニューモウイルスはより緩やかに発症することが多いです
- 流行時期:インフルエンザは主に冬(12月〜3月)、ヒトメタニューモウイルスは冬から春(3月〜6月)です
- 検査:インフルエンザには保険適用の迅速検査があります
- 治療薬:インフルエンザには抗ウイルス薬(タミフル、リレンザなど)がありますが、ヒトメタニューモウイルスにはありません
- ワクチン:インフルエンザには予防接種がありますが、ヒトメタニューモウイルスにはありません
症状だけでは区別が難しいため、流行時期や迅速検査の結果で判断します。
Q7. 大人から子どもへ、子どもから大人へ感染しますか?
はい、どちらの方向にも感染します。家族内での感染は珍しくなく、特に成人が軽い風邪症状で済んでいる場合、知らずに乳幼児にうつしてしまうことがあります。
逆に、保育園などで子どもが感染し、それを家族に広げることもあります。家族内での感染対策(手洗い、咳エチケットなど)が重要です。
Q8. プールで感染しますか?
プールの水を介して感染する可能性は極めて低いです。プールの水は通常、塩素消毒されているためです。
ただし、プールサイドでの飛沫感染や、更衣室などでの接触感染の可能性はあります。症状がある場合はプールの利用を控えましょう。
まとめ
ヒトメタニューモウイルス感染症は、特に春先に流行する呼吸器感染症で、乳幼児を中心に誰でも感染する可能性があります。多くは軽症で済みますが、乳幼児や基礎疾患のある方では重症化することもあるため、注意が必要です。
重要なポイント
- 主に3月から6月にかけて流行する
- 症状は発熱、咳、鼻水など風邪に似ている
- 乳幼児では細気管支炎や肺炎を起こすことがある
- 特効薬はなく、治療は対症療法が中心
- ワクチンはないため、手洗いなどの日常的な感染対策が重要
こんな時は早めに医療機関を受診しましょう
- 呼吸が苦しそう、速い
- ゼーゼー、ヒューヒューという音がする
- 胸やお腹がへこむ呼吸をしている
- 唇や顔色が悪い(紫色、青白い)
- ぐったりして元気がない
- 水分が摂れず、おしっこが出ない
- 生後3か月未満の発熱
早期の適切な対応が、重症化を防ぐ鍵となります。日頃から手洗いなどの基本的な感染対策を心がけ、症状が出たら無理をせず休養し、必要に応じて医療機関を受診してください。
参考文献
- 国立感染症研究所「ヒトメタニューモウイルス感染症とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/444-hmpv-intro.html - 厚生労働省「保育所における感染症対策ガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/hoiku/index.html - 日本小児科学会「小児呼吸器感染症診療ガイドライン」
http://www.jpeds.or.jp/ - 日本呼吸器学会「呼吸器感染症に関するガイドライン」
https://www.jrs.or.jp/ - 日本感染症学会「呼吸器感染症診療の手引き」
http://www.kansensho.or.jp/ - 東京都感染症情報センター「ヒトメタニューモウイルス感染症の流行状況」
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/
※本記事は医療情報の提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務