声優の楠木ともりさんや有名人の事例で考える関節型エーラス・ダンロス症候群 ― 正しい理解と支援のために

はじめに

エーラス・ダンロス症候群(Ehlers-Danlos Syndrome: EDS)という疾患名を聞いたことがあるでしょうか。皮膚が異常に伸びたり、関節が驚くほど柔らかく動いたりする様子から、かつては「サーカスの曲芸師の病気」などと誤解されることもありました。しかし実際には、これは全身の結合組織に異常をきたす遺伝性の難病であり、患者さんやそのご家族は日々さまざまな困難と向き合いながら生活しています。

本コラムでは、13ある病型の中でも最も頻度が高いとされる「関節型エーラス・ダンロス症候群」に焦点を当て、その症状や診断、治療法について詳しく解説します。また、この疾患を公表している芸能人・有名人の事例を通じて、社会的な理解と支援の重要性についても考えていきたいと思います。

1. エーラス・ダンロス症候群の基礎知識

1.1 エーラス・ダンロス症候群とは

エーラス・ダンロス症候群(EDS)は、皮膚、関節、血管など全身的な結合組織の脆弱性に基づく遺伝性疾患です。20世紀初頭にデンマークの皮膚科医エドヴァルド・エーラスとフランスの皮膚科医アンリ・ダンロスによって報告されたことから、この名前がつけられました。

結合組織を支える「コラーゲン」の生成に関わる遺伝子に異常があることが原因となっています。コラーゲンは私たちの体を構成する重要なタンパク質で、皮膚の弾力性、関節の安定性、血管の強度などを保つ役割を果たしています。このコラーゲンの形成や構造に問題が生じることで、全身にさまざまな症状が現れるのです。

1.2 病型の分類と頻度

2017年に発表された新たな国際分類には、13の病型が示されています。主な病型として以下があります:

主要6病型

  • 古典型(Classical EDS)
  • 関節型(Hypermobile EDS)
  • 血管型(Vascular EDS)
  • 後側弯型(Kyphoscoliotic EDS)
  • 多発関節弛緩型(Arthrochalasia EDS)
  • 皮膚脆弱型(Dermatosparaxis EDS)

その他の病型

  • 脆弱角膜症候群型
  • 脊椎異形成型
  • 筋拘縮型(古庄型)
  • ミオパチー型
  • 歯周型
  • 心臓弁型
  • 類古典型

全病型を合わせた推定頻度は約1/5,000人とされています。これは決して稀な疾患ではなく、日本国内でも約2万4千人の患者さんがいると推定されます。しかし、軽症例では診断されていないケースも多く、実際の患者数はさらに多い可能性があります。

1.3 遺伝様式

古典型、関節型、血管型、多発関節弛緩型などは常染色体優性遺伝し、後側弯型、皮膚弛緩型、筋拘縮型(古庄型)などは常染色体劣性遺伝となります。常染色体優性遺伝の場合、患者さんの子どもは50%の確率でこの疾患を受け継ぐ可能性があります。

2. 関節型エーラス・ダンロス症候群の詳細

2.1 関節型EDSの特徴

関節(過可動)型エーラス・ダンロス症候群(hEDS)は一般に、最も重症ではないタイプのEDSと見なされているが、筋骨格の問題を中心に重大な合併症が生じうる疾患です。関節型は13の病型の中で最も頻度が高いとされていますが、他の病型とは異なり、原因遺伝子と病的変異は同定されていないため、遺伝子検査による確定診断ができないという特徴があります。

2.2 主要な症状

関節型EDSの症状は多岐にわたり、個人差も大きいのが特徴です。

関節症状 亜脱臼や脱臼はよく起こり、自然にもしくはわずかな外傷に伴って起こり、急性の疼痛を生じることがある。関節の過可動性により、以下のような問題が生じます:

  • 頻繁な捻挫や脱臼
  • 関節の不安定性
  • 早期の変形性関節症
  • 扁平足

皮膚症状 皮膚はしばしば柔らかく、軽度の過伸展性がみられることがある。古典型EDSほど顕著ではありませんが、以下の特徴が見られます:

  • ビロードのような柔らかい皮膚
  • 軽度の皮膚過伸展性
  • 内出血しやすい傾向

慢性疼痛 慢性疼痛は急性の脱臼に伴う痛みとは明らかに区別され、深刻な合併症であり、身体的にも精神的にも障害となる。この慢性疼痛は患者さんの生活の質を大きく低下させる要因となっています。

その他の症状 機能性腸疾患、心血管自律神経機能障害もよくみられる。具体的には:

  • 過敏性腸症候群
  • 慢性的な便秘や下痢
  • 起立性調節障害
  • 慢性疲労
  • 頭痛

2.3 性差と症状の現れ方

医療的ケアを求める人の多くは女性である。痛みや重大な関節の合併症は罹患男性にはあまり見られない。この性差は、性ホルモンの影響、痛みの感じ方の男女差、もともと備わっている関節安定性の男女差などが原因と考えられています。

3. 診断基準と検査方法

3.1 関節型EDSの診断基準(2017年国際分類)

関節型EDSの診断は、臨床症状に基づいて行われます。以下の基準を満たす場合に診断されます:

大基準 全身性関節過動性、柔らかい皮膚、皮膚・関節・血管・内臓脆弱性なし

小基準 家族歴、反復性関節(亜)脱臼、慢性疼痛(関節、四肢、背部)、内出血しやすい、機能性腸疾患(機能性胃炎、過敏性腸炎)、神経因性低血圧・起立性頻脈、高く狭い口蓋、歯芽密生

3.2 関節過可動性の評価

関節の過可動性は「ベイトンスコア」という9点満点の評価法で判定されます。以下の項目を評価します:

  1. 小指の受動的背屈が90度以上(左右各1点)
  2. 母指が受動的に前腕に接触する(左右各1点)
  3. 肘関節の過伸展が10度以上(左右各1点)
  4. 膝関節の過伸展が10度以上(左右各1点)
  5. 膝を伸ばしたまま手のひらが床につく(1点)

成人では5点以上、小児では6点以上で全身性関節過可動性と判定されます。

3.3 鑑別診断

関節の過可動性は一般集団でよくみられる。また、同様の関節症状および/または皮膚症状を伴う他の結合組織疾患(例、マルファン症候群、皮膚弛緩症)も考慮すべきです。そのため、専門医による慎重な診察と評価が必要となります。

4. 症状が日常生活に与える影響

4.1 身体的影響

関節型EDSの患者さんは、一見健康そうに見えても、日常生活において多くの困難を抱えています。

移動と活動の制限 関節の不安定性により、歩行や階段昇降が困難になることがあります。長時間の立位や座位が辛く、学校や仕事での活動に支障をきたすこともあります。

慢性疼痛との闘い 慢性的な痛みは患者さんの最大の悩みの一つです。鎮痛薬を使用しても完全に痛みをコントロールすることは難しく、日常生活動作にも影響を及ぼします。

疲労と体力低下 関節の不安定性を補うために筋肉が過剰に働くため、通常の人より疲れやすくなります。これにより、仕事や家事、育児などに支障をきたすこともあります。

4.2 心理的・社会的影響

見た目ではわからない困難 関節型EDSは「見えない障害」とも呼ばれます。外見上は健康そうに見えるため、周囲から理解を得られにくく、「怠けている」「大げさだ」といった誤解を受けることがあります。

将来への不安 症状が進行性であることから、将来への不安を抱える患者さんも多くいます。特に若い患者さんでは、進学、就職、結婚、出産などの人生の重要な選択において、疾患が与える影響を考慮せざるを得ません。

社会参加の制限 症状により、スポーツや旅行、社交活動などが制限されることがあります。これにより、社会的孤立感を感じる患者さんもいます。

5. エーラス・ダンロス症候群を公表した芸能人・有名人

5.1 海外の事例

芸能人や有名人がこの疾患を公表することは、社会的な認知度向上と患者さんへの励ましにつながります。

シーア(Sia) 世界的なミュージシャンのシーアさんは、2019年5月にエーラス・ダンロス症候群であることを、自身のTwitterで告白しています。彼女は慢性痛や神経疾患とともに生きていることを公表し、同じように痛みに苦しむ人々へ「あなたは一人じゃない」というメッセージを送りました。

シーアさんの公表は、多くのEDS患者さんに勇気を与えました。世界的に成功したアーティストでも、この疾患と闘いながら活動を続けていることは、患者さんたちに「自分も頑張れる」という希望を与えています。

5.2 日本での認知度向上への課題

日本では、エーラス・ダンロス症候群を公表している著名人は限られています。これは以下のような要因が考えられます:

疾患への理解不足 まだ一般的に知られていない疾患であるため、公表することで誤解や偏見を受ける可能性があります。

プライバシーの文化 日本では健康に関する情報は個人的なものとして扱われることが多く、公表をためらう傾向があります。

診断の困難さ 関節型EDSは遺伝子検査で確定診断できないため、診断自体が難しく、適切な診断を受けていない可能性もあります。

人気声優である楠木ともりさんは、2022年11月、関節型エーラス・ダンロス症候群と診断されたことを所属事務所を通じて公表しました。楠木さんの場合、ダンスを伴うような役の演技に困難が生じたことで、その役を降板せざるを得ない状況になったと報じられています。

5.3 公表がもたらす社会的意義

有名人が疾患を公表することには、以下のような重要な意義があります:

認知度の向上 多くの人がこの疾患について知ることで、早期診断につながる可能性があります。

偏見の解消 「見えない障害」への理解が深まり、患者さんへの配慮が生まれます。

研究の促進 社会的関心が高まることで、研究費の増加や新たな治療法開発への期待が高まります。

患者さんへの励まし 同じ疾患を持つ人々に勇気と希望を与えることができます。

6. 治療とリハビリテーション

6.1 現在の治療アプローチ

EDSを根本的に、つまり、遺伝子から治すような治療法は見つかっていません。そのため、必要な診療科で定期検診を受け、状況に応じてそれぞれの症状に合わせた対症療法が行われます。

疼痛管理 関節の症状による痛みに対しては、鎮痛薬が使用されます。慢性疼痛に対しては、以下のような多面的アプローチが取られます:

  • 薬物療法(NSAIDs、アセトアミノフェン、場合により抗うつ薬や抗てんかん薬)
  • 理学療法
  • 認知行動療法
  • ストレス管理

関節の保護 関節を保護するリハビリテーションが行われたり、補装具が使用されたりすることもあります。具体的には:

  • サポーター、装具の使用
  • テーピング
  • 適切な靴の選択

6.2 リハビリテーションの重要性

リハビリテーションは関節型EDSの管理において中心的な役割を果たします。

筋力強化 関節周囲の筋力を強化することで、関節の安定性を向上させます。ただし、過度な負荷は避け、低負荷・高頻度のトレーニングが推奨されます。

固有感覚トレーニング 関節の位置感覚を改善することで、脱臼や捻挫のリスクを減少させます。

姿勢指導 正しい姿勢を維持することで、関節への負担を軽減します。

活動指導 皮膚や関節の症状の予防には、激しい運動を控えることやサポーターの装着などが有用です。日常生活動作の工夫や、避けるべき動作の指導も重要です。

6.3 その他の治療的介入

骨密度管理 カルシウムとビタミンDの補充を含め、他の骨密度の低い人に対するものと同じである。ウォーキングまたはエリプティカルトレーナーの使用のような単純な自重運動は、骨密度の維持だけでなく安静時の筋緊張の向上にも役立つ。

出血傾向への対応 重度の出血(例:鼻出血、機能性子宮出血)または手術時の予防として、デスモプレシン酢酸塩(ddAVP)がしばしば役に立つ。

自律神経症状への対応 起立性調節障害に対しては、塩分・水分摂取の増加、弾性ストッキングの着用、薬物療法などが行われます。

7. 患者さんと家族への支援

7.1 包括的なケアの必要性

本人やご家族がこの病気についてよく理解し、医療関係者(主治医、リハビリ担当者など)、教育関係者(保育園や幼稚園、学校)と情報を共有することが大切です。

医療チームの連携 関節型EDSは多臓器にわたる症状を呈するため、以下のような複数の診療科の連携が必要です:

  • リウマチ科・整形外科(関節症状)
  • 皮膚科(皮膚症状)
  • 循環器内科(心血管症状)
  • 消化器内科(消化器症状)
  • 精神科・心療内科(心理的サポート)
  • リハビリテーション科

緊急時への備え 緊急時、どこに、どのように受診するかなども、共有すべき大事な情報です。健康状態を記したカードを携帯しておくという方法もあります。

7.2 日常生活での工夫

環境整備

  • 転倒予防のための手すりの設置
  • 滑りにくい床材の使用
  • 適切な照明の確保

活動の調整

  • 無理のないペース配分
  • 休憩時間の確保
  • エネルギー管理(ペーシング)

補助具の活用 靴もしっかりと安定したものを選ぶと、けがの予防につながります。その他、杖、歩行器、車椅子などの移動補助具も、必要に応じて活用します。

7.3 患者会と支援団体

日本には以下のような支援組織があります:

日本エーラス・ダンロス症候群協会(JEFA) 「情報は命をつなぐ手をつなぐ」をスローガンに、互いが情報を共有しあい、手を携えて生きていけたらと考えています。患者さんやご家族の交流、情報提供、啓発活動などを行っています。

患者会への参加には以下のようなメリットがあります:

  • 同じ疾患を持つ仲間との交流
  • 最新の医療情報の共有
  • 生活の工夫やアドバイスの交換
  • 精神的な支え合い

8. 妊娠・出産に関する配慮

8.1 妊娠中の注意点

エーラス・ダンロス症候群の患者が妊娠すると、早産になるおそれがあります。母親の組織がもろいために、分娩中に子宮が破裂するリスクが高くなります。

妊娠を希望する患者さんは、以下の点に注意が必要です:

  • 計画的な妊娠と事前のカウンセリング
  • ハイリスク妊娠としての管理
  • 定期的な検診の重要性
  • 関節症状の増悪への対処

8.2 出産時の配慮

傷の治りが悪いために、会陰切開や帝王切開で問題が生じることもあります。母親や新生児がエーラス・ダンロス症候群にかかっている場合、分娩中やその前後に過度の出血が起こることもあります。

出産方法の選択や産後のケアについて、産科医と十分に相談することが重要です。

8.3 遺伝カウンセリング

関節(過可動)型エーラス・ダンロス症候群は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)である。hEDS罹患者の子はそれぞれ50%の確率でこの疾患を受け継ぐ。

遺伝カウンセリングでは以下のような情報提供とサポートが行われます:

  • 遺伝様式の説明
  • 次子への再発リスクの評価
  • 家族計画に関する相談
  • 心理的サポート

9. 教育現場での配慮

9.1 学校生活における課題

関節型EDSの子どもたちは、学校生活において以下のような困難に直面することがあります:

体育活動の制限 激しい運動や接触スポーツは避ける必要があるため、体育の授業への参加方法を工夫する必要があります。

長時間の着座困難 関節痛や疲労により、長時間同じ姿勢を保つことが困難な場合があります。

移動の困難 階段の昇降や重い荷物の運搬が困難な場合があります。

9.2 合理的配慮の例

学校では以下のような配慮が必要となることがあります:

  • 体育の授業内容の調整(見学または軽い運動への参加)
  • 休憩時間の確保
  • エレベーターの使用許可
  • 教科書の置き場所の確保(持ち帰り負担の軽減)
  • 保健室での休養の許可
  • 試験時間の延長(疲労や痛みによる集中困難への配慮)

9.3 教職員への啓発

教職員がこの疾患について正しく理解することで、適切な支援が可能となります。以下の点を理解してもらうことが重要です:

  • 見た目では分からない困難があること
  • 日によって症状の程度が変動すること
  • 適切な配慮により学習機会を保障できること
  • 過保護にならず、可能な範囲で通常の活動に参加させること

10. 就労支援と社会参加

10.1 就労における課題

成人の関節型EDS患者さんは、就労において以下のような課題に直面します:

身体的制限

  • 長時間の立ち仕事や座り仕事の困難
  • 重労働の制限
  • 反復動作による関節への負担

通勤の困難 満員電車での通勤や長距離の移動が困難な場合があります。

体調の変動 症状の良い日と悪い日があり、安定した勤務が困難な場合があります。

10.2 就労支援制度の活用

以下のような制度を活用することで、就労継続が可能となる場合があります:

障害者雇用 症状の程度により、障害者手帳を取得できる場合があります。これにより、障害者雇用枠での就職や、職場での合理的配慮を受けることができます。

在宅勤務・テレワーク 通勤の負担を軽減し、体調に合わせた働き方が可能となります。

時短勤務・フレックスタイム 体調に合わせた勤務時間の調整が可能となります。

10.3 職場での配慮

職場では以下のような配慮が有効です:

  • 定期的な休憩時間の確保
  • 人間工学に基づいた作業環境の整備
  • 業務内容の調整(身体的負担の少ない業務への配置)
  • 通院への配慮
  • 同僚への疾患理解の促進

11. 最新の研究と今後の展望

11.1 原因遺伝子の探索

関節型EDSは、13の病型の中で唯一原因遺伝子が特定されていません。世界中の研究者が原因遺伝子の特定に取り組んでおり、近い将来、遺伝子診断が可能になることが期待されています。

原因遺伝子が特定されれば:

  • 確実な診断が可能となる
  • 病態メカニズムの解明が進む
  • 新たな治療法開発への道が開ける

11.2 新しい治療法の開発

現在、以下のような治療法の研究が進められています:

遺伝子治療 将来的には、異常な遺伝子を正常なものに置き換える遺伝子治療が可能になるかもしれません。

分子標的治療 コラーゲン生成や修飾に関わる分子を標的とした治療薬の開発が期待されています。

再生医療 幹細胞を用いた組織の修復や再生が研究されています。

11.3 診療体制の整備

日本では、難病医療提供体制の整備が進められています:

専門医療機関の充実 EDSの診療に精通した医療機関の増加が期待されています。

診療ガイドラインの整備 標準的な診療指針の確立により、どこでも適切な医療を受けられるようになることが期待されています。

移行期医療の充実 小児期から成人期への移行期医療体制の整備が進められています。

12. 社会への提言

12.1 認知度向上の必要性

エーラス・ダンロス症候群、特に関節型EDSは「見えない障害」として、社会的理解が不足しています。以下の取り組みが必要です:

啓発活動の推進

  • 一般市民向けの講演会やセミナーの開催
  • メディアを通じた正確な情報発信
  • 学校教育での取り上げ

医療従事者への教育

  • 医学教育でのカリキュラムへの組み込み
  • 医療従事者向けの研修会の開催
  • 早期診断のための啓発

12.2 支援体制の充実

患者さんが安心して生活できる社会の実現のために:

制度面の充実

  • 難病医療費助成制度の継続と拡充
  • 福祉サービスの充実
  • 就労支援制度の整備

相談支援体制の強化

  • 専門相談窓口の設置
  • ピアサポート体制の構築
  • オンライン相談の活用

12.3 研究推進への投資

希少疾患の研究は、採算性の問題から民間企業の参入が限られています。公的研究費の充実により:

  • 基礎研究の推進
  • 臨床研究の活性化
  • 国際共同研究の促進

これらの取り組みにより、新たな治療法開発への道が開かれることが期待されます。

おわりに

関節型エーラス・ダンロス症候群は、一見すると「関節が柔らかい」「皮膚が伸びる」といった特徴的な身体所見を持つだけの疾患のように思われがちです。しかし実際には、慢性疼痛、疲労、自律神経症状など、患者さんの生活の質を大きく低下させる多彩な症状を伴う複雑な疾患です。

この疾患を持つ人々は、日々さまざまな困難と向き合いながらも、学業、仕事、家庭生活など、それぞれの場で懸命に生きています。シーアさんのような著名人が疾患を公表することで、社会的な理解が深まり、患者さんたちに勇気を与えています。

医療の進歩により、将来的には根本的な治療法が開発される可能性もあります。しかし、それまでの間も、患者さんが尊厳を持って生きていけるよう、医療・福祉・教育・就労など、あらゆる面での支援体制の充実が求められています。

私たち一人一人ができることは、まずこの疾患について正しく理解し、「見えない障害」を持つ人々への理解と配慮を深めることです。外見では分からない困難を抱える人がいることを知り、その人々が必要とする支援を提供できる社会を作っていくことが重要です。

医療従事者として、また社会の一員として、エーラス・ダンロス症候群の患者さんとそのご家族が、希望を持って生きていける社会の実現に向けて、それぞれができることから始めていきましょう。一人一人の理解と行動が、患者さんの明日を少しでも明るくすることにつながるのです。

最後に、この疾患と日々向き合っている患者さん、ご家族の皆様へ。決して一人ではありません。医療の進歩とともに、社会の理解も少しずつ深まってきています。希望を持って、共に歩んでいきましょう。

参考文献

  1. Gene Reviews「関節(過可動)型エーラス-ダンロス候群」(2024年1月9日更新) https://grj.umin.jp/grj/eds3.htm
  2. 難病情報センター「エーラス・ダンロス症候群(指定難病168)」 https://www.nanbyou.or.jp/entry/4801
  3. 厚生労働省「168 エーラス・ダンロス症候群」診断基準 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000101057.pdf
  4. 遺伝性疾患プラス「エーラス・ダンロス症候群」(2025年7月25日) https://genetics.qlife.jp/diseases/ehlers-danlos
  5. MSDマニュアル プロフェッショナル版「エーラス-ダンロス症候群」(2022年12月5日) https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/
  6. MSDマニュアル 家庭版「エーラス-ダンロス症候群」(2022年12月2日) https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/
  7. Malfait F. et al., The 2017 international classification of the Ehlers-Danlos syndromes. Am J Med Genet C Semin Med Genet. 2017 Mar;175(1):8-26.
  8. 日本エーラス・ダンロス症候群協会(JEFA)ホームページ http://ehlersdanlos-jp.net/
  9. The Ehlers-Danlos Society https://www.ehlers-danlos.com/

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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