はじめに
陰嚢(いんのう)、俗に「金玉」と呼ばれる部位にほくろができることは、実は珍しいことではありません。しかし、デリケートな部位であるがゆえに、誰にも相談できずに一人で悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
「陰嚢にほくろがあるけれど、これは大丈夫なの?」 「いつからあったか覚えていないけれど、最近大きくなった気がする」 「もしかして、がんだったらどうしよう」
このような不安を抱えている方に向けて、この記事では陰嚢のほくろについて、その原因から良性・悪性の見分け方、治療法まで、医学的根拠に基づいた情報を分かりやすく解説します。

1. 陰嚢(金玉)とほくろの基礎知識
1-1. 陰嚢とは
陰嚢は、精巣(睾丸)を包む皮膚の袋状の構造です。精巣を体温よりも低い温度に保つことで、精子の生成に適した環境を維持する重要な役割を担っています。
陰嚢の皮膚は他の部位と比べて以下のような特徴があります:
- 薄くて柔らかい:体の中でも特に皮膚が薄い部位
- 色素沈着しやすい:思春期以降、男性ホルモンの影響で色が濃くなりやすい
- しわが多い:温度調節のために収縮・弛緩を繰り返す
- 毛嚢(毛穴)が存在する:陰毛が生えている
1-2. ほくろ(色素性母斑)とは
ほくろは医学用語で「色素性母斑(しきそせいぼはん)」または「母斑細胞性母斑」と呼ばれます。メラニン色素を産生する細胞が皮膚の一部に集まってできる、良性の腫瘍です。
ほくろは大きく分けて以下の種類があります:
先天性色素性母斑 生まれつき存在するほくろで、体の成長とともに大きくなることがあります。
後天性色素性母斑 生まれた後に新たにできるほくろで、思春期から30代にかけて増える傾向があります。
特殊なほくろ
- 青色母斑:青みがかった色のほくろ
- スピッツ母斑:赤みを帯びたほくろ
- 異型母斑:不規則な形や色をしたほくろ
1-3. 陰嚢にほくろができる頻度
陰嚢を含む外陰部のほくろは、実は決して珍しいものではありません。ある研究によると、成人男性の約10〜15%に陰嚢のほくろが認められるとされています。
ただし、陰嚢は普段から意識して観察する部位ではないため、ほくろの存在に気づいていない方も多いと考えられます。また、もともと陰嚢の皮膚は色素沈着しやすいため、ほくろとの区別がつきにくい場合もあります。
2. 陰嚢にほくろができる原因
2-1. 遺伝的要因
ほくろのできやすさには遺伝的な要素が関係しています。家族にほくろの多い人がいる場合、陰嚢を含む体のさまざまな部位にほくろができやすい傾向があります。
特に先天性色素性母斑は、生まれつき遺伝子の変異によってメラニン細胞が増殖したものと考えられています。
2-2. 紫外線の影響
一般的に、ほくろの発生には紫外線が大きく関与していることが知られています。紫外線を浴びることで、メラニン細胞が活性化し、ほくろができやすくなります。
ただし、陰嚢は通常衣服で覆われているため、紫外線の影響は他の部位と比べて少ないと考えられます。それでも、以下のような状況では紫外線の影響を受ける可能性があります:
- 海水浴やプールなどで水着姿になる時
- ヌーディストビーチなどでの日光浴
- 屋外での裸体活動
2-3. ホルモンの影響
思春期以降、男性ホルモン(テストステロン)の影響で陰嚢の皮膚は色素沈着が進みます。この過程で、既存のほくろが目立つようになったり、新しいほくろができたりすることがあります。
また、妊娠中や更年期など、ホルモンバランスが変化する時期には、体のさまざまな部位でほくろが濃くなったり増えたりすることが知られています。
2-4. 摩擦や刺激
陰嚢は衣服や下着との摩擦、座る・歩くなどの日常動作による刺激を受けやすい部位です。慢性的な摩擦や刺激は、メラニン細胞を刺激し、色素沈着やほくろの発生につながる可能性があります。
特に以下のような状況では刺激が強くなります:
- きつい下着の着用
- 長時間の自転車走行
- スポーツによる摩擦
- 不適切な陰部の処理(剃毛など)
2-5. 加齢による変化
年齢を重ねるにつれて、体のさまざまな部位に新しいほくろができたり、既存のほくろが変化したりすることは自然な現象です。陰嚢も例外ではなく、加齢とともにほくろが増えることがあります。
ただし、急激な変化や異常な増え方は、悪性の可能性も考慮する必要があります。
3. 良性のほくろと悪性黒色腫(メラノーマ)の違い
陰嚢のほくろのほとんどは良性ですが、まれに悪性黒色腫(メラノーマ)という皮膚がんの可能性があります。早期発見・早期治療が重要なので、良性と悪性の見分け方を知っておくことが大切です。
3-1. 良性のほくろの特徴
良性のほくろには以下のような特徴があります:
形状
- 左右対称である
- 輪郭がはっきりしている
- 円形または楕円形
色
- 均一な色(茶色、黒色、肌色など)
- 色のムラがない
大きさ
- 直径6mm以下のことが多い
- 長年変化がない、またはゆっくりと成長
表面
- なめらか、またはわずかに盛り上がっている
- 表面が崩れていない
症状
- 痛みやかゆみがない
- 出血しない
3-2. 悪性黒色腫(メラノーマ)の特徴
悪性黒色腫は皮膚がんの一種で、メラニン細胞ががん化したものです。早期発見が生存率を大きく左右するため、以下の「ABCDEルール」を覚えておきましょう。
A: Asymmetry(非対称性) 左右非対称で、形が不規則
B: Border(境界) 境界が不明瞭で、ギザギザしている
C: Color(色) 複数の色が混在している(茶色、黒色、赤色、白色、青色など)
D: Diameter(直径) 直径が6mmを超えている(ただし、小さくても悪性の場合あり)
E: Evolving(変化) 大きさ、形、色が変化している
3-3. 特に注意すべき症状
以下のような症状がある場合は、できるだけ早く皮膚科を受診することをおすすめします:
- 急速な増大:数週間から数ヶ月で明らかに大きくなった
- 色の変化:急に濃くなった、複数の色が混在するようになった
- 形の変化:左右非対称になった、輪郭が不規則になった
- 表面の変化:潰瘍ができた、出血した、かさぶたができた
- 症状の出現:かゆみ、痛み、しみるような感覚がある
- 周囲の変化:ほくろの周りに小さな色素斑ができた(衛星病巣)
3-4. 陰嚢のメラノーマの特徴
陰嚢を含む外陰部のメラノーマは、皮膚のメラノーマ全体の約1〜2%と比較的まれですが、以下のような特徴があります:
- 発見が遅れがちである(デリケートな部位のため受診をためらう)
- 他の部位のメラノーマと比べて予後が悪い傾向がある
- 色素沈着との区別が難しい場合がある
- 無色素性メラノーマ(色がないメラノーマ)の可能性もある
4. 診断方法
4-1. 視診
皮膚科では、まず医師が肉眼でほくろの状態を観察します。大きさ、形、色、表面の状態などを詳しくチェックします。
4-2. ダーモスコピー検査
ダーモスコピー(dermoscopy)は、皮膚表面を拡大して観察する検査です。特殊な拡大鏡や偏光を使って、肉眼では見えない皮膚の構造やメラニンの分布を詳しく観察できます。
この検査により、良性か悪性かの判断がより正確になり、不要な生検を減らすことができます。痛みもなく、数分で終わる簡単な検査です。
4-3. 生検(組織検査)
ダーモスコピーで悪性が疑われる場合、または判断が難しい場合には、生検を行います。
切除生検 ほくろ全体を切除して、組織を顕微鏡で詳しく調べます。最も確実な診断方法で、小さなほくろの場合に適しています。
パンチ生検 円筒状の器具でほくろの一部を採取します。大きなほくろの場合や、完全切除が難しい部位で行います。
ただし、メラノーマが疑われる場合は、がん細胞の拡散を防ぐため、部分生検ではなく完全切除が推奨されることが多いです。
4-4. 画像検査
悪性黒色腫と診断された場合、転移の有無を調べるために以下の検査を行うことがあります:
- CT検査:リンパ節や内臓への転移を調べる
- MRI検査:より詳しい画像診断
- PET検査:全身の転移巣を検索
4-5. センチネルリンパ節生検
メラノーマの場合、最初に転移する可能性のあるリンパ節(センチネルリンパ節)を特定し、そのリンパ節を調べることで、早期に転移を発見できます。
5. 治療方法
5-1. 経過観察
明らかに良性で、症状もない小さなほくろの場合は、特に治療せず経過観察とすることが多いです。ただし、以下の点に注意が必要です:
- 定期的な自己チェック(月に1回程度)
- 変化があればすぐに受診
- 年に1回程度の皮膚科受診
5-2. 外科的切除
適応
- 悪性が疑われる場合
- 良性でも大きい場合や隆起が強い場合
- 摩擦による症状がある場合
- 患者が希望する場合
方法 局所麻酔後、メスでほくろとその周囲の皮膚を切除します。切除範囲は、良性の場合は最小限ですが、悪性の場合は周囲に数ミリ〜数センチのマージン(安全域)を確保して切除します。
利点
- 確実にほくろを除去できる
- 組織検査ができる
- 再発が少ない
欠点
- 傷跡が残る
- 縫合が必要な場合がある
- 術後の痛みや腫れ
5-3. レーザー治療
適応
- 小さな良性のほくろ
- 平坦または浅いほくろ
- 複数のほくろを同時に治療したい場合
方法 CO2レーザーやQスイッチレーザーなどを使用して、ほくろの色素細胞を破壊します。
利点
- 傷跡が目立ちにくい
- 出血が少ない
- 短時間で終わる
欠点
- 組織検査ができない
- 深いほくろには不向き
- 再発の可能性がある
- 悪性の場合は適応外
5-4. 凍結療法
方法 液体窒素を使ってほくろを凍結し、組織を壊死させます。
利点
- 簡便な方法
- 麻酔不要
欠点
- 痛みを伴う
- 複数回の治療が必要
- 色素沈着が残ることがある
- 陰嚢のほくろにはあまり用いられない
5-5. 電気焼灼
方法 電気メスでほくろを焼き切ります。
利点
- 比較的簡単な処置
- 出血が少ない
欠点
- 傷跡が残りやすい
- 組織検査が難しい
- 深いほくろには不向き
5-6. 悪性黒色腫の治療
メラノーマと診断された場合は、以下の治療を組み合わせて行います:
広範囲切除 がん細胞を完全に取り除くため、腫瘍の周囲に十分なマージンを確保して切除します。病期によってマージンの幅が異なります。
リンパ節郭清 リンパ節転移がある場合は、該当するリンパ節を切除します。
薬物療法
- 化学療法:抗がん剤を使用
- 免疫療法:免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブなど)
- 分子標的治療薬:BRAF変異陽性の場合
放射線療法 リンパ節転移や遠隔転移がある場合に補助的に行います。
5-7. 陰嚢の治療における注意点
陰嚢は皮膚が薄く、伸縮性があり、また重要な生殖器官を含む部位であるため、治療には以下のような配慮が必要です:
- 切除範囲の最小化
- 機能温存(精巣や精索への影響を最小限に)
- 美容的配慮(可能な限り傷跡を目立たなく)
- 術後の感染予防(陰部は細菌が多い)
6. いつ病院を受診すべきか
6-1. すぐに受診すべきケース
以下のような症状がある場合は、できるだけ早く皮膚科を受診してください:
- 急速な変化:数週間から数ヶ月で明らかに大きくなった
- 出血や潰瘍形成:ほくろから出血したり、潰瘍ができた
- ABCDEルールに該当:前述の悪性の特徴がある
- 痛みやかゆみ:持続的な症状がある
- 複数の新しいほくろ:短期間に複数のほくろが出現した
6-2. 定期的な受診を検討すべきケース
以下のような場合は、定期的に皮膚科でチェックを受けることをおすすめします:
- 大きなほくろ(直径6mm以上)がある
- 先天性の大きなほくろがある
- ほくろの数が非常に多い(全身で50個以上)
- 家族にメラノーマの病歴がある
- 過去に皮膚がんの治療歴がある
- 免疫抑制剤を使用している
6-3. 受診時の準備
皮膚科を受診する際は、以下の準備をしておくとスムーズです:
情報の整理
- いつ頃からあるか
- 最近変化したか(大きさ、色、形)
- 症状があるか(痛み、かゆみ、出血など)
- 他にも気になるほくろがあるか
写真の準備 可能であれば、ほくろの写真を撮影しておくと、経過を確認する際に役立ちます。定期的に同じ条件で撮影すると、変化が分かりやすくなります。
質問事項のメモ 聞きたいことをメモしておくと、診察時に聞き忘れを防げます。
7. 予防方法とセルフケア
7-1. 紫外線対策
陰嚢は通常衣服で覆われているため紫外線の影響は少ないですが、以下の場合は注意が必要です:
- 海水浴やプール:水着の下にも紫外線は届くので、UVカット素材の水着を選ぶ
- 屋外活動:長時間の屋外活動では、適切な衣服を着用
- 日光浴:デリケートゾーンへの直接的な日光曝露は避ける
7-2. 摩擦・刺激の軽減
適切な下着の選択
- ゆとりのあるサイズを選ぶ
- 通気性の良い素材(綿など)を選ぶ
- 締め付けの強いものは避ける
スポーツ時の配慮
- サポーター使用時は適度なフィット感のものを
- 長時間の自転車走行では、適切なサドルとパッドを使用
- 運動後は速やかに汗を拭き取る
陰部の処理
- 剃毛は慎重に行う(カミソリ負けに注意)
- 脱毛を検討する場合は、専門家に相談
- 強い刺激は避ける
7-3. 清潔の維持
適切な洗浄
- 毎日、刺激の少ない石鹸で優しく洗う
- 洗いすぎは逆効果(皮膚のバリア機能が低下)
- しっかりとすすぐ
- 柔らかいタオルで優しく拭く
保湿
- 入浴後は保湿剤を塗布
- 低刺激の保湿剤を選ぶ
- 乾燥を防ぐことで、摩擦による刺激を軽減
7-4. 定期的なセルフチェック
月に1回程度、入浴時などに陰嚢を含む全身のほくろをチェックする習慣をつけましょう。
チェック方法
- 明るい場所で行う
- 手鏡を使って見えにくい部位も確認
- 写真を撮って記録する
- 変化がないか比較する
チェックポイント
- 新しいほくろができていないか
- 既存のほくろに変化はないか
- ABCDEルールに該当するものはないか
7-5. 生活習慣の改善
バランスの良い食事 抗酸化作用のある食品(野菜、果物など)を積極的に摂取し、皮膚の健康を維持します。
禁煙 喫煙は皮膚の老化を促進し、メラノーマのリスクを高める可能性があります。
適度な運動 免疫機能を高め、全身の健康維持に役立ちます。
ストレス管理 慢性的なストレスは免疫機能を低下させる可能性があるため、適切な管理が重要です。

8. よくある質問(Q&A)
A: いいえ、珍しくありません。成人男性の約10〜15%に陰嚢のほくろが見られるとされています。デリケートな部位であるため気づきにくいだけで、実際には多くの方にあります。
A: いいえ、移りません。ほくろは感染症ではなく、メラニン細胞の集まりであるため、他人に感染することはありません。
A: 絶対にやめてください。自己処理は感染症、傷跡、出血などのリスクがあります。また、悪性の場合、不完全な除去ががんの拡散を招く可能性があります。必ず医療機関で適切な処置を受けてください。
A: 毛を抜くことで感染や炎症のリスクがあるため、気になる場合は医師に相談してください。どうしても処理したい場合は、ほくろごと切除する方法もあります。
A: いいえ、必ずしも治療が必要なわけではありません。良性で症状がなければ、経過観察で問題ありません。ただし、悪性が疑われる場合や、症状がある場合、患者さんが希望する場合は治療を行います。
A: 陰嚢の皮膚は伸縮性があり、しわも多いため、傷跡は比較的目立ちにくい傾向があります。ただし、切除範囲や個人の体質によって差があります。治療前に医師とよく相談してください。
A: 陰嚢を含む外陰部のメラノーマは、発見が遅れがちであるため予後が悪い傾向があります。しかし、早期発見できれば他の部位のメラノーマと同様に治療可能です。
A: 一般的な健康診断では、陰嚢を含む陰部の詳細なチェックは行われないことが多いです。気になる場合は、自分から申し出るか、皮膚科を受診することをおすすめします。
A: 子どもにも陰嚢のほくろはできます。多くは良性ですが、大きさや形、変化などを観察し、気になる場合は小児科や皮膚科に相談してください。
A: それぞれに利点と欠点があります。レーザーは傷跡が目立ちにくいですが、組織検査ができず、深いほくろには不向きです。手術は確実に除去でき組織検査もできますが、傷跡が残ります。医師と相談して、ほくろの状態や希望に応じて選択してください。
9. 陰嚢のメラノーマの統計と予後
9-1. 発生頻度
陰嚢を含む外陰部のメラノーマは、全メラノーマの中でも非常にまれで、約1〜2%程度とされています。しかし、その希少性ゆえに見逃されやすく、診断が遅れることが問題となっています。
9-2. 年齢分布
陰部のメラノーマは、一般的に以下のような年齢分布を示します:
- 中高年に多い(50〜70歳代がピーク)
- 若年者でも発生する可能性あり
- 高齢になるほどリスクが上昇
9-3. 予後
陰嚢のメラノーマの予後は、診断時の病期によって大きく異なります:
早期発見(ステージI・II)
- 5年生存率:70〜90%
- 適切な治療で治癒可能
進行期(ステージIII・IV)
- 5年生存率:30〜50%以下
- リンパ節転移や遠隔転移があると予後不良
このため、早期発見が極めて重要です。
9-4. 予後に影響する因子
- 腫瘍の厚さ:ブレスロー厚(腫瘍の深さ)が予後の重要な指標
- 潰瘍の有無:潰瘍があると予後不良
- リンパ節転移:転移があると予後が大きく悪化
- 遠隔転移:肺、肝臓、脳などへの転移は予後不良
- 診断の遅れ:デリケートな部位のため受診が遅れることが多い
10. 最新の治療動向
10-1. 免疫チェックポイント阻害薬
近年、メラノーマ治療において免疫チェックポイント阻害薬が大きな成果を上げています。
ニボルマブ(オプジーボ) PD-1阻害薬で、進行メラノーマに対して高い効果を示しています。
ペムブロリズマブ(キイトルーダ) 同じくPD-1阻害薬で、単剤または併用療法で使用されます。
イピリムマブ(ヤーボイ) CTLA-4阻害薬で、他の免疫チェックポイント阻害薬と併用されることがあります。
これらの薬剤により、従来治療困難だった進行メラノーマの予後が改善しています。
10-2. 分子標的治療
BRAF阻害薬・MEK阻害薬 BRAF遺伝子変異を持つメラノーマに対して、分子標的治療薬が有効です。
- ベムラフェニブ + コビメチニブ
- ダブラフェニブ + トラメチニブ
10-3. 局所療法の進歩
センチネルリンパ節生検の改良 より正確で低侵襲な方法が開発されています。
再建技術の進歩 陰嚢の広範囲切除後の再建技術が向上し、機能と外観の温存が可能になっています。
11. 心理的側面とサポート
11-1. 診断時の心理的影響
陰嚢のほくろ、特にメラノーマの診断は、患者さんに大きな心理的影響を与えます:
- 不安と恐怖:がんに対する恐怖、治療への不安
- 羞恥心:デリケートな部位であることへの恥ずかしさ
- 孤立感:誰にも相談できないという孤独感
- 自尊心の低下:性機能への影響の懸念
11-2. 心理的サポート
医療チームとのコミュニケーション
- 疑問や不安は遠慮なく医師に相談
- セカンドオピニオンの活用
- 看護師やカウンセラーへの相談
家族や友人のサポート
- 信頼できる人に話すことで心理的負担が軽減
- 理解と共感が重要
患者会・サポートグループ
- 同じ経験をした人との交流
- 情報交換や励まし合い
専門的カウンセリング
- 必要に応じて心理療法士やカウンセラーに相談
- 不安やうつ症状への対処
11-3. パートナーとのコミュニケーション
性的な問題や身体的な変化について、パートナーと率直に話し合うことが重要です。専門家のカウンセリングを受けることも選択肢の一つです。
12. 参考文献・情報源
本記事の作成にあたり、以下の信頼できる情報源を参考にしました:
日本皮膚科学会 https://www.dermatol.or.jp/ 皮膚疾患に関する専門的な情報と診療ガイドライン
国立がん研究センター がん情報サービス https://ganjoho.jp/ 皮膚がん、メラノーマに関する詳細な情報
日本癌治療学会 http://www.jsco.or.jp/ がん治療に関する最新の情報とガイドライン
日本臨床皮膚科医会 https://jocd.org/ 一般向けの皮膚疾患情報
厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/ 医療制度や健康情報
日本メラノーマ/スキンケアネットワーク メラノーマに関する啓発活動と情報提供
※上記の情報源は、最新の医学的知見に基づいた信頼性の高い情報を提供しています。より詳しい情報や最新の研究成果については、各サイトをご参照ください。
まとめ
陰嚢(金玉)のほくろは決して珍しいものではなく、多くの場合は良性です。しかし、まれに悪性黒色腫(メラノーマ)の可能性もあるため、以下のポイントを押さえることが重要です:
定期的なセルフチェック 月に1回程度、入浴時などにほくろの状態を確認する習慣をつけましょう。
ABCDEルールを覚える 非対称性、境界の不明瞭さ、色のムラ、直径6mm以上、変化の有無をチェックします。
早期受診の重要性 気になる変化があれば、恥ずかしがらずに早めに皮膚科を受診してください。早期発見が予後を大きく左右します。
適切な予防 紫外線対策、摩擦の軽減、清潔の維持など、日常的なケアで予防に努めましょう。
心理的サポート 不安や悩みを一人で抱え込まず、医療チームや家族、必要に応じて専門家のサポートを受けることが大切です。
デリケートな部位だからこそ、正しい知識を持ち、適切に対処することが重要です。ほくろに関する不安や疑問があれば、遠慮なく専門医に相談してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務