はじめに
鏡を見ているときに、顔に小さなしこりやふくらみを見つけて不安になったことはありませんか?「これはニキビ?それとも何か別の病気?」と心配される方は少なくありません。
顔にできるしこりの中でも、特によく見られるのが「粉瘤(ふんりゅう)」です。粉瘤は良性の腫瘍で、医学的には「表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)」や「アテローム」とも呼ばれています。顔は人目につく部位だけに、見た目の問題だけでなく、「このまま放置していいのか」「どんな治療が必要なのか」といった疑問や不安を抱える方が多いのも事実です。
この記事では、顔にできる粉瘤について、その特徴から原因、症状、診断、治療法まで、一般の方にもわかりやすく詳しく解説していきます。正しい知識を持つことで、適切な対処ができるようになるでしょう。

粉瘤とは何か:基礎知識を理解する
粉瘤の定義
粉瘤は、皮膚の下に袋状の構造物(嚢腫)ができ、その中に本来剥がれ落ちるはずの角質(垢)や皮脂などの老廃物が溜まってできる良性の腫瘍です。触るとコロコロとした丸いしこりのように感じられることが特徴です。
皮膚の一番外側にある表皮が、何らかの原因で皮膚の内側に入り込んでしまい、袋状の構造を作ることで形成されます。この袋の内側は表皮と同じ構造をしているため、通常の皮膚と同様に角質を作り続けます。しかし、作られた角質は外に排出されることができず、袋の中に溜まり続けることで、徐々に大きくなっていくのです。
粉瘤とニキビの違い
顔にできたしこりを「ニキビ」と勘違いされる方が非常に多いのですが、粉瘤とニキビは全く異なる疾患です。
ニキビは毛穴が詰まり、そこに皮脂が溜まってアクネ菌が増殖することで起こる炎症性の疾患です。通常は数日から数週間で自然に治癒することが多く、適切なスキンケアや治療により改善します。
一方、粉瘤は皮膚の下にできた袋状の構造物そのものが病変であり、自然に治ることはありません。袋を取り除かない限り、中身を絞り出しても再び溜まってきます。また、ニキビよりも深い位置にできることが多く、硬めのしこりとして触れることが特徴です。
粉瘤の大きさと成長速度
粉瘤の大きさは数ミリ程度の小さなものから、数センチを超える大きなものまでさまざまです。成長速度も個人差が大きく、数年かけてゆっくりと大きくなるものもあれば、比較的短期間で大きくなるものもあります。
一般的には、長い時間をかけて少しずつ大きくなっていくことが多いですが、細菌感染を起こして炎症性粉瘤(感染性粉瘤)になると、急激に腫れて大きくなることがあります。
顔にできる粉瘤の特徴
なぜ顔に粉瘤ができやすいのか
粉瘤は体のどこにでもできる可能性がありますが、特に顔、首、背中、耳の後ろなどにできやすい傾向があります。顔に粉瘤ができやすい理由として、以下のような要因が考えられています。
皮脂腺の多さ:顔は体の中でも皮脂腺が特に多く分布している部位です。皮脂腺が多いということは、それだけ毛穴も多く存在することを意味します。粉瘤の形成には毛穴が関与していると考えられており、毛穴の多い顔は粉瘤ができやすい環境にあると言えます。
外傷を受けやすい:顔は日常生活の中で、ニキビを潰してしまったり、髭剃りで傷つけたり、化粧品による刺激を受けたりと、さまざまな外的刺激にさらされています。こうした微小な外傷が、表皮が皮膚内部に入り込むきっかけとなることがあります。
顔の粉瘤ができやすい部位
顔の中でも、粉瘤ができやすい部位があります。
- 頬:顔の中で最も粉瘤ができやすい部位の一つです。特に頬の下部(フェイスライン)にできることが多く見られます。
- 額:眉間や額の中央部などにできることがあります。
- 耳周辺:耳たぶや耳の後ろは粉瘤の好発部位として知られています。
- 鼻:小鼻の周辺や鼻筋にできることもあります。
- 顎:顎のライン沿いにできることがあります。
- まぶた:比較的まれですが、まぶたにできることもあります。
顔の粉瘤が抱える特有の問題
顔にできる粉瘤には、他の部位とは異なる特有の問題があります。
美容上の問題:顔は常に人目に触れる部位であり、しこりや腫れがあると見た目が気になります。特に女性の場合、化粧でカバーしにくいことも悩みの種となります。
炎症時の目立ちやすさ:粉瘤が炎症を起こして赤く腫れると、顔という目立つ部位だけに、より一層気になります。
手術痕への配慮:治療のために手術が必要になった場合、顔という部位だけに、傷跡が目立たないような配慮が特に重要になります。
日常生活での刺激:洗顔、化粧、髭剃りなど、日常的なケアで刺激を受けやすく、炎症を起こしやすい環境にあります。
粉瘤ができる原因とメカニズム
粉瘤形成のメカニズム
粉瘤がどのようにしてできるのか、そのメカニズムを理解することは、予防や早期発見に役立ちます。
粉瘤の形成は、表皮が何らかの原因で皮膚の内側(真皮内)に落ち込むことから始まります。この落ち込んだ表皮が袋状の構造を作り、その袋の内側では通常の表皮と同じように、角質(ケラチン)が産生され続けます。
通常、皮膚表面の角質は垢として自然に剥がれ落ちますが、皮膚の内側にできた袋の中では、作られた角質が外に出ることができません。そのため、袋の中にどんどん角質が溜まっていき、粥状(おかゆ状)の内容物として蓄積されます。これが粉瘤が徐々に大きくなる理由です。
粉瘤ができる具体的な原因
粉瘤の明確な原因はまだ完全には解明されていませんが、以下のような要因が関与していると考えられています。
外傷:打撲や擦り傷、ニキビを潰した後、毛抜きでの脱毛、髭剃りでの傷など、皮膚に外傷が加わることで、表皮が皮膚の内側に入り込むきっかけとなることがあります。
毛穴の詰まり:毛穴が何らかの理由で詰まり、その結果として表皮が内側に陥入することがあると考えられています。
体質・遺伝的要因:家族に粉瘤ができやすい人がいる場合、本人もできやすい傾向があるという報告もあり、遺伝的な体質が関与している可能性が示唆されています。
ウイルス感染:ヒトパピローマウイルス(HPV)などのウイルス感染が粉瘤形成に関与している可能性も研究されていますが、明確な関連性はまだ確立されていません。
ホルモンの影響:思春期以降に発症することが多いことから、性ホルモンの影響が考えられています。
粉瘤ができやすい人の特徴
以下のような方は、粉瘤ができやすい傾向があります。
- ニキビができやすい、またはニキビを潰す癖がある方
- 脂性肌の方
- 20代から40代の方(ただし、どの年代でも発症する可能性はあります)
- 男性(女性と比べてやや多いとされています)
- 家族に粉瘤ができたことがある方
顔の粉瘤の症状と経過
粉瘤の典型的な症状
粉瘤の症状は、炎症を起こしていない状態(非炎症性粉瘤)と、炎症を起こしている状態(炎症性粉瘤)で大きく異なります。
非炎症性粉瘤(通常の状態)の症状
- しこり:皮膚の下にコロコロとした丸いしこりを触れます。大きさは数ミリから数センチまでさまざまです。
- 可動性:指で押すと、しこりが皮膚の下で動くことが多いです。
- 痛みなし:通常は痛みを伴いません。
- へそ(開口部):よく見ると、しこりの中心に小さな黒い点(へそ、開口部)が見えることがあります。これは毛穴が拡張したもので、粉瘤の特徴的な所見です。
- 悪臭のある内容物:開口部から白っぽい粥状の内容物が出てくることがあり、独特の悪臭を伴います。
炎症性粉瘤(感染を起こした状態)の症状
粉瘤に細菌感染が起こると、以下のような症状が現れます。
- 腫れと発赤:しこりが急激に大きくなり、周囲が赤く腫れ上がります。
- 強い痛み:触れると痛みがあり、時には何もしていなくてもズキズキと痛むことがあります。
- 熱感:患部が熱を持ち、熱く感じられます。
- 膿の形成:内部に膿が溜まり、場合によっては自然に破れて膿が出てくることがあります。
- 発熱:炎症が強い場合、発熱を伴うこともあります。
粉瘤の自然経過
粉瘤は自然に治癒することはありません。袋状の構造が存在する限り、内容物は溜まり続けます。
長期間放置した場合
炎症を起こさなければ、多くの場合は無症状のまま経過しますが、以下のようなリスクがあります。
- 徐々に大きくなる:年月をかけて少しずつ大きくなることが多いです。
- いずれ炎症を起こす可能性:長年何もなくても、ある時突然炎症を起こすことがあります。
- 大きくなると手術が困難に:大きくなればなるほど、手術の際の切開範囲が大きくなり、傷跡も目立ちやすくなります。
自壊(破裂)した場合
粉瘤が炎症を起こして腫れが強くなると、皮膚が破れて内容物が出てくることがあります。これを自壊といいます。自壊すると一時的に症状が軽減することがありますが、袋が残っている限り再発します。また、自壊した部分から細菌感染を起こすリスクもあります。
合併症のリスク
まれではありますが、粉瘤には以下のような合併症のリスクがあります。
蜂窩織炎(ほうかしきえん):粉瘤の炎症が周囲の皮膚や皮下組織に広がり、蜂窩織炎という広範囲の皮膚感染症を引き起こすことがあります。
悪性化:非常にまれですが、長年放置された粉瘤が悪性化(有棘細胞癌など)することが報告されています。ただし、これは極めて稀なケースです。
瘢痕形成:繰り返し炎症を起こすと、瘢痕(傷跡)が残りやすくなります。
粉瘤の診断方法
視診・触診による診断
粉瘤の診断は、まず視診(見た目の観察)と触診(触って確かめる)から始まります。
視診のポイント
- 皮膚のふくらみの有無
- 中心部に黒い点(開口部)があるかどうか
- 皮膚の色の変化(炎症がある場合は発赤)
- 大きさ、形状
触診のポイント
- しこりの硬さ(粉瘤は比較的柔らかいことが多い)
- 可動性(皮膚の下で動くかどうか)
- 圧痛の有無(炎症があると痛みを伴う)
- 波動感(内部に液体が溜まっている感触)
経験豊富な医師であれば、これらの所見だけで粉瘤と診断できることが多いです。
超音波検査(エコー検査)
粉瘤の診断精度を高めるため、超音波検査が行われることがあります。
超音波検査では、以下のことがわかります。
- 嚢腫の大きさと深さ
- 内部の構造(液体成分と固形成分の割合)
- 周囲の組織との関係
- 血流の評価
特に、粉瘤が深い位置にある場合や、他の疾患との鑑別が必要な場合に有用です。
鑑別診断が必要な疾患
顔のしこりは粉瘤以外にもさまざまな疾患の可能性があります。正確な診断のため、以下のような疾患との鑑別が必要です。
脂肪腫:脂肪細胞が増殖してできる良性腫瘍です。粉瘤よりも柔らかく、開口部がないことが特徴です。
リンパ節腫大:感染症や炎症、腫瘍などによってリンパ節が腫れた状態です。通常、可動性が少なく、硬いしこりとして触れます。
皮様嚢腫(ひようのうしゅ):粉瘤に似た嚢腫性病変ですが、先天性であることが多く、眼の周囲にできやすいのが特徴です。
脂腺嚢腫(しせんのうしゅ):皮脂腺の排泄管が詰まってできる嚢腫です。粉瘤と非常に似ていますが、厳密には異なる疾患です。
化膿性肉芽腫:急速に成長する赤いしこりで、出血しやすいのが特徴です。
基底細胞癌や有棘細胞癌などの皮膚癌:まれですが、悪性腫瘍の可能性も考慮する必要があります。
病理組織検査
手術で摘出した粉瘤は、通常、病理組織検査に提出されます。これにより、以下のことが確認できます。
- 粉瘤であることの確定診断
- 悪性化の有無(極めてまれですが)
- 完全に摘出できたかどうかの確認
病理組織検査では、嚢腫壁に角化した扁平上皮が認められることで、粉瘤(表皮嚢腫)と診断されます。
粉瘤の治療方法
基本的な治療方針
粉瘤の根本的な治療は、嚢腫を包む袋ごと完全に摘出することです。袋が残っている限り、内容物を絞り出しても必ず再発します。
治療方法の選択は、以下の要因によって決まります。
- 粉瘤の大きさ
- 炎症の有無
- 患者さんの希望(すぐに治療するか、経過観察するか)
- 発生部位(顔という美容的に重要な部位)
手術による治療
粉瘤の根本的な治療は手術による摘出です。顔の粉瘤の場合、美容的な配慮が特に重要になります。
通常の摘出術(全摘出術)
最も一般的な方法で、粉瘤とその周囲の皮膚を含めて切除します。
手術の流れ:
- 局所麻酔を行います
- 粉瘤の周囲を紡錘形(楕円形)に切開します
- 嚢腫を破らないように注意しながら、周囲の組織から剥離します
- 嚢腫を袋ごと完全に摘出します
- 切開部を丁寧に縫合します
利点:
- 再発率が非常に低い(適切に行えば1%以下)
- 病理組織検査で確定診断ができる
欠点:
- 傷跡が残る(ただし、顔の場合は皮膚の緊張線に沿って切開するなど、傷跡が目立たないような工夫がされます)
- 抜糸が必要(通常、顔では5〜7日後)
くりぬき法(へそ抜き法)
近年、小さな粉瘤に対して行われることが増えている方法です。
手術の流れ:
- 局所麻酔を行います
- 粉瘤の中心部(開口部)を円形のメスでくりぬきます(通常3〜5mm程度)
- 内容物を排出します
- 嚢腫の袋を取り出します
- 小さな穴なので、縫合せずに自然閉鎖を待つか、最小限の縫合を行います
利点:
- 傷跡が小さく目立ちにくい
- 手術時間が短い
- 抜糸が不要、または最小限で済む
欠点:
- 適応が限られる(小さな粉瘤のみ)
- 嚢腫壁を完全に取り出すのが難しい場合があり、再発率が通常の摘出術よりやや高い
レーザー治療
炭酸ガスレーザーなどを用いた治療も行われることがあります。
利点:
- 出血が少ない
- 傷跡が目立ちにくい
欠点:
- 保険適用外のことが多い
- 再発の可能性がある
炎症を起こした粉瘤の治療
粉瘤が炎症を起こしている場合、治療のアプローチが異なります。
急性期の治療(炎症が強い時期)
炎症が強い時期に無理に摘出手術を行うと、以下のような問題があります。
- 炎症によって組織の境界が不明瞭になり、嚢腫壁を完全に取り除くことが困難
- 術後の傷の治りが悪い
- 傷跡が目立ちやすい
そのため、炎症が強い時期には、まず炎症を抑える治療を優先します。
抗生物質の投与:細菌感染を抑えるため、内服または外用の抗生物質を使用します。
切開排膿:膿が溜まっている場合、小さく切開して膿を排出します。これにより痛みや腫れが軽減されます。ただし、これは対症療法であり、根本的な治療ではありません。
消炎処置:冷却や消炎鎮痛剤の使用で炎症を抑えます。
炎症が落ち着いた後(通常2〜3ヶ月後)に、根本的な摘出手術を行うのが一般的です。
二期的手術
炎症性粉瘤に対しては、以下のような二段階の治療が推奨されます。
- 第一期(急性期):切開排膿や抗生物質で炎症を抑える
- 第二期(炎症が落ち着いた後):嚢腫を完全に摘出する手術
この方法により、傷跡を最小限にし、再発を防ぐことができます。
保存的治療(経過観察)
小さく、炎症もなく、美容的にも問題ない粉瘤の場合、患者さんが希望すれば経過観察を選択することもあります。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 粉瘤は自然に治ることはない
- 徐々に大きくなる可能性がある
- いつ炎症を起こすかわからない
- 大きくなってから手術すると、傷跡も大きくなる
定期的に自己チェックを行い、以下のような変化があれば受診することが推奨されます。
- 急に大きくなった
- 痛みや腫れが出てきた
- 赤くなってきた
- 美容的に気になるようになった
術後の経過とケア
術後の経過
通常の経過:
- 手術当日〜数日:軽い痛みや腫れがあることがあります
- 抜糸:顔の場合、通常5〜7日後に抜糸します
- 傷跡の赤み:数ヶ月続くことがありますが、徐々に目立たなくなります
- 完全な傷の成熟:半年〜1年程度かかります
術後のケア
- 患部の清潔保持:指示された方法で患部を清潔に保ちます
- 抗生物質の服用:処方された場合は指示通りに服用します
- 患部の保護:抜糸までは濡らさないよう注意します
- 紫外線対策:傷跡の色素沈着を防ぐため、日焼け止めを使用します
- 刺激を避ける:化粧やスキンケアは医師の指示に従います
術後の合併症
まれですが、以下のような合併症が起こる可能性があります。
- 出血:適切な止血が行われれば問題ありません
- 感染:傷口が化膿することがあります
- 瘢痕形成:ケロイド体質の方は注意が必要です
- 再発:嚢腫壁が完全に取り除けなかった場合に起こる可能性があります
粉瘤の予防とセルフケア
粉瘤は完全に予防できるのか
残念ながら、粉瘤の発生を完全に予防する確実な方法は現時点ではありません。なぜなら、粉瘤ができる明確な原因がまだ完全には解明されていないからです。
しかし、発生リスクを減らすため、また、できてしまった粉瘤を悪化させないために、日常生活で気をつけるべきことがあります。
日常生活での注意点
ニキビを潰さない
ニキビを無理に潰すことは、粉瘤発生のリスク因子の一つと考えられています。ニキビができたら、潰さずに適切なケアや皮膚科での治療を受けることが大切です。
適切なスキンケア
- 優しい洗顔:ゴシゴシこすらず、泡で優しく洗います
- 適度な保湿:皮膚のバリア機能を保つため、適度な保湿を心がけます
- 毛穴の詰まりを防ぐ:定期的な角質ケアで毛穴の詰まりを予防します
外傷を避ける
- 髭剃りの注意:刃の切れ味が悪いカミソリの使用を避け、シェービングフォームを使用するなど、皮膚を傷つけないよう注意します
- 毛抜きの注意:無理な脱毛は避けましょう
清潔な手で顔を触る
不潔な手で顔を触ると、細菌感染のリスクが高まります。顔を触る前には手を洗う習慣をつけましょう。
できてしまった粉瘤への対処
すでに粉瘤ができてしまった場合、以下のことに注意しましょう。
触りすぎない、押さない
粉瘤を頻繁に触ったり、押したりすると、炎症を起こすリスクが高まります。気になっても、できるだけ触らないようにしましょう。
無理に内容物を絞り出さない
粉瘤の内容物を自分で絞り出そうとするのは避けてください。これには以下のような問題があります。
- 細菌感染を起こすリスク
- 周囲の組織を傷つける可能性
- 嚢腫壁が残るため必ず再発する
- 炎症を起こして症状が悪化する
炎症の兆候に注意
以下のような炎症の兆候が現れたら、早めに医療機関を受診しましょう。
- 赤く腫れてきた
- 痛みが出てきた
- 熱を持っている
- 急に大きくなった
適切なタイミングでの治療
小さいうちに治療すれば、傷跡も小さく済みます。炎症を起こす前に、計画的に治療を受けることを検討しましょう。

よくある質問(FAQ)
粉瘤は良性の腫瘍なので、すぐに命に関わることはありません。しかし、放置すると以下のようなリスクがあります。
徐々に大きくなる可能性
いつ炎症を起こすかわからない
大きくなると手術の傷跡も大きくなる
まれに悪性化の報告もある
特に顔の粉瘤の場合、美容的な観点からも、小さいうちに治療することをお勧めします。
残念ながら、粉瘤が自然に治ることはありません。袋状の構造が存在する限り、内容物は溜まり続けます。根本的に治すには、袋ごと摘出する手術が必要です。
手術は局所麻酔下で行われるため、手術中の痛みはほとんどありません。麻酔の注射時にチクッとした痛みがありますが、その後は麻酔が効いて痛みを感じなくなります。
術後は、麻酔が切れた後に軽い痛みを感じることがありますが、処方される鎮痛剤で対処できる程度です。
Q4: 手術の傷跡は残りますか?
手術である以上、傷跡が全く残らないということはありません。しかし、顔の粉瘤手術では、以下のような工夫により、傷跡を目立たなくすることができます。
- 皮膚の緊張線(シワの方向)に沿って切開する
- 丁寧な縫合技術を用いる
- くりぬき法など、傷跡の小さい手術法を選択する
- 術後の適切なケア(紫外線対策など)
小さな粉瘤を早期に治療すれば、それだけ傷跡も小さく済みます。
Q5: 粉瘤の手術費用はどのくらいですか?
粉瘤の摘出手術は、基本的に健康保険が適用されます。
保険適用の場合(3割負担の場合の目安):
- 小さな粉瘤(直径2cm未満):5,000円〜10,000円程度
- 中〜大きな粉瘤(直径2cm以上):10,000円〜20,000円程度
※初診料、再診料、病理検査費用などが別途かかります ※施設や粉瘤の大きさ、手術方法により異なります
保険適用外の治療(レーザー治療など)を選択する場合は、費用が高額になることがあります。
Q6: 手術後、いつから洗顔や化粧ができますか?
一般的な目安:
- 洗顔:抜糸後から可能(それまでは患部を避けて優しく洗顔)
- 化粧:抜糸後、傷の状態を医師が確認してからが安全
- 日焼け止め:傷跡の色素沈着を防ぐため、医師の指示に従って早めに開始
具体的な時期は、手術の方法や傷の治り具合によって異なるため、担当医の指示に従ってください。
Q7: 粉瘤は再発しますか?
適切に行われた摘出手術であれば、再発率は非常に低く(1%以下)なります。ただし、以下のような場合に再発することがあります。
- 嚢腫壁が完全に取り除けなかった場合
- 炎症が強い時期に無理に手術をした場合
また、同じ粉瘤が再発しなくても、別の場所に新しい粉瘤ができることはあります。これは再発ではなく、新たな発生です。
Q8: 粉瘤は癌になりますか?
粉瘤は基本的に良性の腫瘍であり、癌化することは極めてまれです。ただし、長年放置された大きな粉瘤が、ごくまれに悪性化(有棘細胞癌など)したという報告があります。
定期的に自己チェックを行い、以下のような変化があれば早めに受診しましょう。
- 急速に大きくなる
- 硬くなる
- 潰瘍を形成する
- 出血しやすくなる
Q9: 複数の粉瘤がある場合、一度に全部取れますか?
複数の粉瘤がある場合でも、一度に複数個を摘出することは可能です。ただし、以下の点を考慮する必要があります。
- 手術時間や侵襲の程度
- 患者さんの体力や年齢
- 粉瘤の大きさや場所
- 術後の生活への影響
医師と相談して、一度に全部取るか、何回かに分けて取るかを決定します。
Q10: 粉瘤とおできの違いは何ですか?
粉瘤とおでき(癤・せつ)は全く異なる疾患です。
おでき(癤):
- 毛穴の細菌感染によって起こる急性の炎症
- 通常は1〜2週間で治癒する
- 抗生物質の治療が有効
粉瘤:
- 皮膚の下にできた袋に老廃物が溜まったもの
- 自然に治ることはない
- 根本的治療には手術が必要
見た目が似ている場合もあるため、正確な診断のためには医療機関の受診が必要です。
まとめ:顔の粉瘤と上手に付き合うために
顔にできる粉瘤は、多くの方が経験する良性の皮膚疾患です。この記事でお伝えしたポイントをまとめます。
知っておきたい重要なポイント
- 粉瘤は良性だが自然治癒しない:粉瘤は袋ごと摘出しない限り治りません。
- 早期発見・早期治療が大切:小さいうちに治療すれば、傷跡も小さく済みます。
- 炎症を起こす前に対処を:炎症を起こしてから治療すると、治療が複雑になり、傷跡も目立ちやすくなります。
- 自己判断での処置は避ける:無理に内容物を絞り出すと、感染や炎症のリスクが高まります。
- 定期的なセルフチェック:粉瘤の大きさや状態の変化に注意を払いましょう。
医療機関を受診すべきタイミング
以下のような場合は、早めに皮膚科や形成外科を受診しましょう。
- 顔にしこりを見つけた
- 粉瘤が赤く腫れてきた
- 痛みが出てきた
- 急に大きくなった
- 美容的に気になる
- 粉瘤かどうか判断がつかない
顔の粉瘤治療における医療機関の選び方
顔の粉瘤は美容的にも重要な部位のため、以下のような医療機関を選ぶことをお勧めします。
- 粉瘤の治療経験が豊富
- 美容的配慮を含めた丁寧な手術が可能
- 術後のフォローアップがしっかりしている
- 相談しやすい雰囲気がある
アイシークリニック上野院での治療
アイシークリニック上野院では、顔の粉瘤治療において、機能的な改善だけでなく、美容的な観点からも最善の結果が得られるよう、一人ひとりの患者様に合わせた治療を提供しています。
粉瘤でお悩みの方、顔にしこりを見つけて不安な方は、お気軽にご相談ください。経験豊富な医師が、丁寧に診察し、最適な治療方法をご提案いたします。
早期発見・早期治療が、より良い結果につながります。気になる症状がある方は、ぜひ一度、専門医にご相談ください。
参考文献
本記事は、以下の信頼できる医学的情報源を参考に作成されています。
- 日本皮膚科学会「皮膚疾患情報」
https://www.dermatol.or.jp/ - 日本形成外科学会「一般の皆様へ」
https://www.jsprs.or.jp/ - MSDマニュアル家庭版「表皮嚢腫」
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/ - 公益社団法人日本皮膚科学会 皮膚科Q&A
https://www.dermatol.or.jp/qa/
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断や治療に代わるものではありません。気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務