耳の後ろの粉瘤完全ガイド – 症状・原因・治療法を徹底解説

はじめに

耳の後ろにできる「しこり」や「できもの」に気づいたことはありませんか? 鏡で見えにくい場所にあるため、触って初めて気づくことが多いこの症状。実は、耳の後ろは粉瘤(ふんりゅう)ができやすい代表的な部位のひとつです。

粉瘤は良性の腫瘍であり、多くの場合は深刻な病気ではありません。しかし、放置すると大きくなったり、炎症を起こして痛みや腫れを伴うこともあります。また、見た目の問題から悩みを抱える方も少なくありません。

この記事では、耳の後ろにできる粉瘤について、その原因、症状、診断方法、治療法まで、専門医の視点から詳しく解説します。「これって粉瘤?」「病院に行くべき?」「どんな治療があるの?」といった疑問にお答えしていきますので、ぜひ最後までお読みください。

粉瘤(アテローム)とは

粉瘤の基本知識

粉瘤は、医学的には「表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)」または「アテローム(atheroma)」と呼ばれる良性の皮膚腫瘍です。皮膚の下に袋状の構造物(嚢腫)ができ、その中に本来は皮膚表面から剥がれ落ちるはずの角質や皮脂などの老廃物が溜まっていく状態を指します。

皮膚は通常、外側から「表皮」「真皮」「皮下組織」という3層構造になっています。粉瘤は、何らかの原因で表皮の一部が皮膚の内側に入り込み、袋状の構造を作ることで発生します。この袋の内壁は表皮と同じ構造をしているため、表皮と同様に角質を産生し続けます。しかし、袋の中の角質は外に排出されることなく溜まり続けるため、徐々に大きくなっていくのが特徴です。

粉瘤の特徴

粉瘤には以下のような特徴があります:

1. 良性腫瘍である 粉瘤は良性の腫瘍であり、がんなどの悪性腫瘍とは異なります。命に関わるような病気ではありませんが、適切な治療が必要な場合があります。

2. ゆっくりと成長する 数カ月から数年かけて徐々に大きくなっていきます。成長速度は個人差がありますが、一般的にはゆっくりとした経過をたどります。

3. 自然には治らない 粉瘤の袋構造は自然に消えることはありません。内容物が一時的に外に出ることはあっても、袋が残っている限り再び溜まってしまいます。

4. 全身のどこにでもできる可能性がある 理論上は全身のどこにでも発生する可能性がありますが、顔面、首、背中、耳の周辺など、皮脂腺が多い部位にできやすい傾向があります。

粉瘤の頻度

粉瘤は非常によく見られる皮膚疾患のひとつです。日本皮膚科学会の報告によれば、皮膚科を受診する患者さんの中でも比較的頻度の高い疾患として知られています。年齢や性別を問わず発生しますが、20代から40代の方に多く見られる傾向があります。

耳の後ろに粉瘤ができやすい理由

耳の後ろの解剖学的特徴

耳の後ろ(耳介後部)は、粉瘤ができやすい代表的な部位のひとつです。その理由は、この部位の解剖学的な特徴と関係しています。

1. 皮脂腺が豊富 耳の周辺、特に耳の後ろには皮脂腺が多く存在します。皮脂腺が多い部位では、毛穴の詰まりや表皮の入り込みが起こりやすく、結果として粉瘤が発生しやすくなります。

2. 摩擦や刺激を受けやすい 耳の後ろは、メガネのツル、イヤホン、帽子、マスクの紐など、日常的に様々な物が触れる部位です。また、洗髪時や整髪時にも刺激を受けやすい場所です。こうした慢性的な刺激が、粉瘤発生の一因となることがあります。

3. 汗をかきやすい 耳の後ろは汗腺も豊富で、汗をかきやすい部位です。高温多湿の環境では特に汗や皮脂の分泌が増え、毛穴が詰まりやすくなります。

4. 清潔にしにくい 耳の後ろは自分では見えにくく、洗いにくい部位でもあります。石鹸やシャンプーの洗い残しが起こりやすく、これが毛穴の詰まりにつながることがあります。

年齢による傾向

耳の後ろの粉瘤は、以下のような年齢層で特に多く見られます:

  • 20代〜40代: 最も発生頻度が高い年齢層です。この年代は皮脂分泌が活発であり、また社会活動が活発で外的刺激を受ける機会も多いためと考えられます。
  • 小児: 比較的まれですが、先天性の表皮嚢腫として乳幼児期に発見されることもあります。
  • 高齢者: 加齢とともに皮膚の老化が進み、長年の刺激の蓄積により粉瘤が発生することがあります。

耳の後ろの粉瘤の原因

主な発生メカニズム

粉瘤の発生メカニズムについては、まだ完全には解明されていませんが、現在分かっている主な原因は以下の通りです。

1. 外傷による表皮の迷入 最も一般的な原因のひとつが、外傷によって表皮が真皮内に入り込むことです。以下のような出来事が引き金となることがあります:

  • 耳の後ろを強くぶつけた
  • ピアスの穴あけ時の損傷
  • ニキビや吹き出物を無理に潰した
  • 切り傷や擦り傷
  • 手術の既往

外傷により表皮が真皮内に入り込むと、その表皮細胞が増殖して袋状の構造を形成し、粉瘤となります。

2. 毛穴の閉塞 毛穴が何らかの理由で塞がれると、毛包が拡張して嚢腫を形成することがあります。以下のような要因が関係します:

  • 皮脂や角質の過剰な蓄積
  • ホルモンバランスの変化
  • 不適切なスキンケア
  • 慢性的な刺激や摩擦

3. 先天的要因 まれに、生まれつき表皮嚢腫を持っている場合があります。これは胎児の発生過程での異常によるもので、出生時や幼少期に発見されることが多いです。

4. 遺伝的要因 粉瘤になりやすい体質は、遺伝的な要素も関係していると考えられています。家族内で複数人が粉瘤を持っているケースもあります。

リスク因子

以下のような要因がある方は、耳の後ろに粉瘤ができやすい可能性があります:

  • ニキビができやすい脂性肌の方
  • 過去に耳周辺の外傷歴がある方
  • ピアスを開けている方
  • メガネを常用している方
  • 帽子やヘルメットを日常的に着用する職業の方
  • 整髪料を多用する方
  • 不規則な生活習慣やストレスを抱えている方

耳の後ろの粉瘤の症状

初期症状

粉瘤の初期段階では、以下のような症状が見られます:

1. 小さなしこり 最初は数ミリ程度の小さなしこりとして始まります。触ると皮膚の下にコロコロとした柔らかい腫瘤を感じます。

2. 痛みがない 炎症を起こしていない状態では、通常は痛みを伴いません。触っても痛くないのが特徴です。

3. 可動性がある 皮膚の下で腫瘤が動く感覚があります。骨や筋肉とは癒着していないため、指で軽く押すと動きます。

4. 開口部(へそ) よく観察すると、粉瘤の中央に小さな黒い点のような開口部が見えることがあります。これは「臍窩(さいか)」または「へそ」と呼ばれ、粉瘤の診断の重要なポイントです。

進行した状態

時間が経過すると、以下のような変化が現れることがあります:

1. サイズの増大 数カ月から数年かけて徐々に大きくなります。数センチメートル、場合によっては5センチメートル以上に達することもあります。

2. 見た目の変化 大きくなると、皮膚が盛り上がって外から見てもはっきりと分かるようになります。

3. 色の変化 通常は皮膚と同じ色ですが、炎症を起こすと赤みを帯びることがあります。

炎症性粉瘤(感染性粉瘤)の症状

粉瘤が細菌感染を起こして炎症を起こすと、「炎症性粉瘤」または「感染性粉瘤」と呼ばれる状態になります。以下のような症状が現れます:

1. 強い痛み ズキズキとした拍動性の痛みが生じます。触ると非常に痛く、場合によっては何もしなくても痛むことがあります。

2. 発赤と腫脹 粉瘤の周囲が赤く腫れ上がります。熱を持った感じがすることもあります。

3. 急速な増大 炎症を起こすと、数日のうちに急激に大きくなることがあります。

4. 膿の排出 粉瘤が破れて、悪臭を伴う白色〜黄色のドロドロとした膿や、粥状の内容物が出てくることがあります。

5. 発熱 炎症が強い場合、全身症状として発熱を伴うこともあります。

6. 周囲への広がり 炎症が周囲の組織に広がると、広範囲の腫れや痛みが生じることがあります。

合併症

まれではありますが、以下のような合併症が起こることがあります:

1. 蜂窩織炎(ほうかしきえん) 炎症が皮下組織に広がり、広範囲の発赤、腫脹、痛みを引き起こす感染症です。抗生物質による治療が必要になります。

2. 瘻孔形成 慢性的な炎症により、粉瘤から皮膚表面への通路(瘻孔)ができることがあります。

3. 悪性化(極めてまれ) 非常にまれですが、長年放置された粉瘤が悪性化する報告もあります。ただし、これは極めて例外的なケースです。

耳の後ろの粉瘤の診断

医療機関での診断プロセス

耳の後ろにしこりを見つけた場合、まずは皮膚科や形成外科を受診することをお勧めします。診断は主に以下の方法で行われます。

1. 視診・触診 医師が実際に患部を見て、触って診察します。以下のポイントをチェックします:

  • しこりの大きさ、硬さ、形状
  • 皮膚との癒着の有無
  • 可動性の確認
  • 開口部(へそ)の有無
  • 発赤や圧痛の有無
  • 波動(内部に液体が溜まっている感触)の有無

経験豊富な医師であれば、視診と触診だけで粉瘤と診断できることが多いです。

2. 超音波検査(エコー検査) 皮膚用の超音波検査装置を使用して、粉瘤の内部構造を確認します。以下のような情報が得られます:

  • 嚢腫の大きさと深さ
  • 内部の性状(液体成分か固形成分か)
  • 周囲組織との関係
  • 血流の状態

超音波検査は痛みもなく、リアルタイムで観察できるため、診断と治療方針の決定に非常に有用です。

3. 画像検査 大きな粉瘤や深い位置にある場合、または周囲組織への影響が懸念される場合には、以下の検査が行われることがあります:

  • CT検査: 粉瘤の正確な位置、大きさ、周囲組織との関係を立体的に把握できます
  • MRI検査: 軟部組織のコントラストが良好で、詳細な情報が得られます

4. 病理組織検査 摘出した粉瘤は、原則として病理組織検査に提出されます。顕微鏡で組織を詳しく調べることで、以下を確認します:

  • 粉瘤であることの確定診断
  • 悪性所見の有無
  • 炎症の程度

鑑別診断

耳の後ろのしこりは、粉瘤以外にも様々な疾患の可能性があります。医師は以下のような疾患と鑑別(区別)します:

1. リンパ節腫大 耳の後ろにはリンパ節があり、風邪や感染症などで腫れることがあります。粉瘤と違い、複数個のしこりがあったり、痛みを伴うことが多いです。

2. 脂肪腫 脂肪組織が増殖してできる良性腫瘍です。粉瘤より柔らかく、開口部がないのが特徴です。

3. 石灰化上皮腫 硬いしこりで、特に小児に多く見られます。粉瘤よりも硬く感じられます。

4. 耳下腺腫瘍 耳の前から下にかけてできる腫瘍です。位置で区別できます。

5. 類皮嚢腫(るいひのうしゅ) 粉瘤に似た嚢腫性病変ですが、毛髪などを含むことがあります。

6. 悪性腫瘍 まれですが、皮膚がんなどの悪性腫瘍の可能性もあります。急速に大きくなる、硬い、皮膚と固着しているなどの特徴があります。

正確な診断のためには、専門医の診察が不可欠です。

耳の後ろの粉瘤の治療法

治療の基本方針

粉瘤の治療方針は、以下の要素を考慮して決定されます:

  • 粉瘤のサイズ
  • 炎症の有無
  • 症状の程度
  • 患者さんの希望
  • 美容的な配慮

基本的には手術による完全摘出が根治的治療となります。ただし、炎症を起こしている場合は、まず炎症を抑える治療を優先することがあります。

非炎症性粉瘤の治療

炎症を起こしていない粉瘤の治療法には、以下のようなものがあります:

1. 経過観察 以下の条件を満たす場合、経過観察を選択することもあります:

  • サイズが小さい(5mm以下程度)
  • 症状がない
  • 美容的に問題ない
  • 患者さんが希望する

ただし、粉瘤は自然に治ることはなく、徐々に大きくなる可能性があることを理解しておく必要があります。

2. くり抜き法(へそ抜き法) 比較的小さな粉瘤に適した方法です:

手順:

  • 局所麻酔を行います
  • 粉瘤の開口部(へそ)を中心に、直径4〜8mm程度の円形に皮膚をくり抜きます
  • 専用の器具で嚢腫の内容物と嚢腫壁を摘出します
  • 穴は縫合せず、自然に治癒するのを待ちます(二次治癒)

メリット:

  • 手術時間が短い(10〜20分程度)
  • 傷跡が小さい
  • 術後の回復が早い

デメリット:

  • 大きな粉瘤には適さない
  • 嚢腫壁を完全に取りきれないことがある(再発リスク)
  • 傷の治癒に時間がかかる(2〜4週間程度)

3. 切除法(小切開摘出術) 標準的な粉瘤の手術方法です:

手順:

  • 局所麻酔を行います
  • 粉瘤の長軸に沿って、または皮膚のシワの方向に沿って切開します
  • 嚢腫を周囲組織から剥離し、袋ごと完全に摘出します
  • 切開創を縫合します
  • 1〜2週間後に抜糸します

メリット:

  • 嚢腫を袋ごと完全に摘出できる
  • 再発率が低い
  • 大きな粉瘤にも対応可能

デメリット:

  • 傷跡が線状に残る
  • くり抜き法より手術時間がやや長い

4. 炭酸ガスレーザー治療 一部の施設で行われている方法です:

  • 炭酸ガスレーザーで粉瘤の表面を蒸散させます
  • 内容物を除去します
  • 嚢腫壁はレーザーで焼灼します

メリット:

  • 出血が少ない
  • 傷跡が目立ちにくい

デメリット:

  • 嚢腫壁を完全に除去できないため、再発の可能性がある
  • 保険適用外となることが多い

炎症性粉瘤(感染性粉瘤)の治療

炎症を起こしている粉瘤の治療は、段階的に行われます:

第1段階: 急性期の治療

1. 抗生物質の投与 細菌感染を抑えるため、内服または静脈内投与で抗生物質を使用します。一般的に使用される抗生物質:

  • セフェム系抗生物質
  • ペニシリン系抗生物質
  • マクロライド系抗生物質

2. 切開排膿 膿が溜まっている場合、局所麻酔下で切開して膿を出します:

手順:

  • 局所麻酔を行います(炎症が強い場合は麻酔が効きにくいことがあります)
  • 粉瘤の最も腫れている部分を小さく切開します
  • 膿と内容物を排出します
  • 必要に応じてドレーン(排膿管)を留置します
  • ガーゼで保護し、定期的に交換します

注意点:

  • この段階では嚢腫の袋は取り除きません
  • 症状は改善しますが、根治的治療ではありません

3. 局所の安静と冷却 炎症部位を安静に保ち、冷やすことで症状を和らげます。

第2段階: 根治的治療

炎症が完全に治まった後(通常は1〜3カ月後)、根治的な手術を行います:

  • 炎症が治まると、粉瘤は小さくなり、手術がしやすくなります
  • この時期に嚢腫を袋ごと完全に摘出します
  • 炎症時に手術すると、組織の境界が不明瞭で完全摘出が難しく、再発リスクが高まります

手術の実際

術前準備

  • 血液検査(必要に応じて)
  • 常用薬の確認(抗凝固薬などは休薬が必要な場合があります)
  • 同意書の取得
  • 手術当日は食事制限は通常不要(局所麻酔の場合)

麻酔 耳の後ろの粉瘤手術は、通常は局所麻酔で行われます:

  • 麻酔注射時に少し痛みを感じますが、数秒で終わります
  • 麻酔が効けば、手術中の痛みはほとんどありません
  • 器具が触れる感覚や圧迫感は残ります

手術時間

  • くり抜き法: 10〜20分程度
  • 切除法: 20〜40分程度
  • 大きさや炎症の程度により変動します

術後の処置

  • ガーゼで保護します
  • 圧迫止血を行います
  • 抗生物質や痛み止めが処方されます

術後のケアと経過

術後の注意事項

当日

  • 患部を濡らさないようにします
  • 激しい運動や入浴は避け、シャワーのみとします
  • 飲酒は控えます
  • 出血がある場合は清潔なガーゼで圧迫します

翌日以降

  • 医師の指示に従ってガーゼ交換を行います
  • 処方された抗生物質は最後まで服用します
  • 痛みがある場合は鎮痛剤を使用します

抜糸まで(切除法の場合)

  • 1〜2週間後に抜糸を行います
  • 抜糸までは患部を強くこすらないようにします
  • シャンプーや洗顔は優しく行います

術後の経過

  • 1週間: 腫れや赤みが徐々に引いていきます
  • 2週間: 抜糸を行います。傷跡は赤みがあります
  • 1〜3カ月: 傷跡の赤みが徐々に薄くなります
  • 6カ月〜1年: 傷跡が成熟し、白っぽい線状の跡になります

術後の合併症

まれではありますが、以下のような合併症が起こることがあります:

  • 出血: 圧迫止血で対応します
  • 感染: 抗生物質で治療します
  • 血腫(血の塊): 必要に応じて除去します
  • ケロイド: 体質により傷跡が盛り上がることがあります
  • 再発: 嚢腫壁が残った場合に起こります(1〜5%程度)

予防とセルフケア

粉瘤の予防

粉瘤を完全に予防することは難しいですが、以下の対策でリスクを減らすことができます:

1. 適切なスキンケア

  • 耳の後ろを含め、清潔を保ちます
  • ゴシゴシ洗いすぎず、優しく洗います
  • シャンプーや石鹸の洗い残しに注意します
  • 化粧品や整髪料の使用後は、しっかり洗い流します

2. 外傷の予防

  • ニキビや吹き出物を無理に潰さない
  • ピアスの穴あけは清潔な環境で行う
  • 耳の後ろをぶつけないよう注意する

3. 摩擦や刺激の軽減

  • メガネのフィッティングを適切に調整する
  • 帽子のサイズを適切に選ぶ
  • イヤホンやヘッドホンを長時間使用しない
  • 髪を結ぶときに耳の後ろを引っ張らない

4. 生活習慣の改善

  • バランスの良い食事を心がける
  • 十分な睡眠をとる
  • ストレスを適切に管理する
  • 喫煙を控える(皮膚の健康に悪影響)

早期発見のポイント

粉瘤は早期に発見し、小さいうちに治療することで、より簡単に、傷跡も小さく治療できます:

セルフチェックの方法

  • 週に1回程度、耳の後ろを触って確認する
  • シャンプーや整髪の際に意識的にチェックする
  • しこりを見つけたら、大きさや硬さの変化を観察する

受診の目安 以下のような場合は、早めに皮膚科を受診しましょう:

  • 小さなしこりを見つけた
  • しこりが徐々に大きくなっている
  • 痛みや赤みが出てきた
  • 膿や異臭がある
  • 複数のしこりがある
  • 見た目が気になる

やってはいけないこと

1. 自分で潰す・絞る 粉瘤を自分で潰したり、内容物を絞り出したりすることは絶対に避けましょう:

  • 細菌感染を起こす危険があります
  • 内容物が周囲組織に広がり、炎症が悪化します
  • 袋が残るため、必ず再発します
  • 傷跡が残りやすくなります

2. 針で刺す インターネット上には粉瘤を針で刺して内容物を出す方法が紹介されていることがありますが、非常に危険です:

  • 感染のリスクが高い
  • 根治的治療にはならない
  • 周囲組織を傷つける可能性がある

3. 民間療法に頼る 「お灸」「湿布」「アロマオイル」などの民間療法では、粉瘤は治りません。かえって炎症を悪化させる可能性があります。

4. 放置しすぎる 小さな粉瘤でも放置すると:

  • 徐々に大きくなります
  • 炎症を起こしやすくなります
  • 手術が大がかりになります
  • 傷跡が大きくなります

症状がなくても、一度は専門医に相談することをお勧めします。

よくある質問(FAQ)

Q1. 粉瘤は放置しても大丈夫ですか?

A. 粉瘤自体は良性の腫瘍なので、命に関わることはありません。しかし、放置すると以下のリスクがあります:

  • 徐々に大きくなる
  • 炎症を起こして痛みや腫れが生じる
  • 手術が大がかりになり、傷跡も大きくなる
  • まれに悪性化する可能性(極めて低いですが)

小さいうちに治療した方が、手術も簡単で傷跡も小さくて済みます。

Q2. 手術は痛いですか?

A. 局所麻酔を使用するため、手術中の痛みはほとんどありません。麻酔注射時に少しチクッとした痛みがありますが、数秒で終わります。術後は多少の痛みがありますが、処方される鎮痛剤で対処できる程度です。

Q3. 傷跡は残りますか?

A. 手術である以上、傷跡は残ります。ただし、以下の点で傷跡を最小限にできます:

  • 小さいうちに治療する
  • 皮膚のシワの方向に沿って切開する
  • 丁寧な縫合を行う
  • 術後のケアを適切に行う

耳の後ろは目立ちにくい部位でもあり、時間とともに傷跡は薄くなります。

Q4. 手術後、再発することはありますか?

A. 嚢腫を袋ごと完全に摘出できれば、再発率は非常に低い(1〜5%程度)です。ただし、以下の場合に再発のリスクがあります:

  • 炎症時に手術を行った場合
  • 嚢腫壁の一部が残った場合
  • 体質的に粉瘤ができやすい場合
Q5. 保険は適用されますか?

A. 通常の粉瘤の手術は保険適用となります。手術方法や粉瘤のサイズにもよりますが、3割負担で数千円〜1万円程度が目安です。ただし、美容目的のレーザー治療など、一部の治療法は保険適用外となることがあります。

Q6. 子どもでも粉瘤ができますか?

A. はい、子どもにも粉瘤ができます。小児の場合、先天性の表皮嚢腫として生まれつき持っていることもあります。治療方法は基本的に大人と同じですが、局所麻酔が不安な場合は全身麻酔で手術を行うこともあります。

Q7. 妊娠中でも手術できますか?

A. 局所麻酔による手術であれば、妊娠中でも可能な場合が多いです。ただし、緊急性がなければ、出産後まで待つことをお勧めします。炎症を起こして痛みがある場合など、緊急性が高い場合は、妊娠週数や全身状態を考慮して治療方針を決定します。

Q8. 粉瘤とニキビの違いは何ですか?

A. 以下の点で区別できます:

粉瘤

  • 皮膚の下にしっかりとしたしこりがある
  • 中央に開口部(黒い点)がある
  • ゆっくりと成長する
  • 自然には治らない

ニキビ

  • 表面的な炎症
  • 先端が白や黄色になる
  • 数日〜数週間で自然に治ることが多い

Q9. 手術後、いつから普通の生活に戻れますか?

A. 日常生活への復帰時期は以下の通りです:

  • デスクワーク: 翌日から可能
  • シャワー: 翌日から可能(患部を濡らさないように)
  • 入浴: 抜糸後から
  • 運動: 軽い運動は1週間後、激しい運動は抜糸後から
  • 飲酒: 抜糸まで控える

Q10. 複数の粉瘤がある場合、一度に手術できますか?

A. 部位や大きさにもよりますが、複数の粉瘤を一度に手術することは可能です。ただし、手術時間が長くなると患者さんの負担も大きくなるため、通常は2〜3個程度までを目安に、複数回に分けて手術することもあります。

まとめ

耳の後ろの粉瘤について、重要なポイントをまとめます。

粉瘤の基本

  • 粉瘤は皮膚の下にできる袋状の良性腫瘍です
  • 耳の後ろは粉瘤ができやすい代表的な部位です
  • 自然に治ることはなく、徐々に大きくなります
  • 炎症を起こすと痛みや腫れが生じます

受診のタイミング

  • 耳の後ろにしこりを見つけたら、早めに皮膚科や形成外科を受診しましょう
  • 小さいうちに治療した方が、手術も簡単で傷跡も小さくて済みます
  • 痛みや赤み、膿が出るなどの症状があれば、すぐに受診してください

治療について

  • 根治的治療は手術による摘出です
  • 炎症を起こしていない場合、くり抜き法や切除法で袋ごと摘出します
  • 炎症を起こしている場合、まず炎症を抑えてから後日手術します
  • 手術は局所麻酔で行われ、痛みはほとんどありません
  • 保険適用で治療できます

予防とセルフケア

  • 耳の後ろを清潔に保ちましょう
  • ニキビを潰したり、無理な刺激を与えないようにしましょう
  • 自分で潰したり針で刺したりしないでください
  • 定期的にセルフチェックを行い、早期発見に努めましょう

アイシークリニック上野院からのメッセージ

粉瘤は非常によくある皮膚疾患で、適切に治療すれば根治可能です。「恥ずかしい」「怖い」と感じて受診を躊躇される方もいらっしゃいますが、放置するとかえって治療が大変になります。

当院では、患者さまお一人おひとりの状態に応じた最適な治療をご提案いたします。痛みの少ない治療、傷跡を最小限にする工夫、丁寧な術後ケアを心がけています。

耳の後ろのしこりや腫れでお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。経験豊富な医師が、親身になって診察いたします。

参考文献

  1. 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A」
    https://www.dermatol.or.jp/qa/
  2. 日本形成外科学会「形成外科で扱う疾患」
    https://jsprs.or.jp/general/disease/
  3. 厚生労働省「医療情報提供事業」
    https://www.mhlw.go.jp/
  4. 日本臨床皮膚科医会「皮膚疾患について」
    https://jocd.org/

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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