「寝ても寝ても眠い」「十分な睡眠をとっているはずなのに、日中ずっと眠気が続く」このような悩みを抱えている女性は少なくありません。女性は月経周期によるホルモンバランスの変動や、妊娠・出産、更年期といったライフステージごとの変化により、男性よりも睡眠に関するトラブルを抱えやすい傾向にあります。単なる寝不足や疲労と片づけてしまいがちですが、実はその眠気の裏には、貧血や甲状腺機能低下症、睡眠時無呼吸症候群、うつ病といった疾患が潜んでいる可能性もあります。本記事では、女性特有の眠気の原因について詳しく解説するとともに、医療機関を受診すべきサインや日常生活でできる対策についてもご紹介します。

目次
- 寝ても寝ても眠い女性に多い原因とは
- 女性ホルモンと眠気の深い関係
- 月経前症候群(PMS)による眠気のメカニズム
- 更年期における睡眠トラブルの特徴
- 鉄欠乏性貧血と眠気の関係
- 甲状腺機能低下症による倦怠感と眠気
- 女性の睡眠時無呼吸症候群は見逃されやすい
- うつ病と過眠の関係
- 糖尿病や血糖値の乱れと眠気
- 睡眠の質を低下させる生活習慣
- 医療機関を受診すべきサイン
- 日常生活でできる眠気対策
- まとめ
- よくある質問
寝ても寝ても眠い女性に多い原因とは
「寝ても寝ても眠い」という症状は、医学的には過眠と呼ばれることがあります。過眠とは、夜に十分な睡眠をとっているにもかかわらず、日中に目覚めていられないほどの強い眠気が生じる状態を指します。この症状は単なる疲労や生活習慣の乱れだけでなく、さまざまな疾患が原因で起こることがあります。
女性が「寝ても眠い」と感じる原因は多岐にわたります。代表的なものとしては、女性ホルモンの変動による影響、鉄欠乏性貧血、甲状腺機能低下症、睡眠時無呼吸症候群、うつ病などの精神疾患、糖尿病などが挙げられます。特に女性は月経による定期的な出血があるため、鉄欠乏性貧血になりやすく、また女性ホルモンの変動が睡眠の質に影響を与えるため、男性よりも眠気に悩まされやすい傾向にあります。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」によると、成人は6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保することが推奨されています。しかし、2019年の国民健康・栄養調査によると、1日の平均睡眠時間が6時間未満の人の割合は女性で40.6%に上り、日本人女性の睡眠時間が十分に確保できていない現状がうかがえます。睡眠時間が短いことに加え、睡眠の質が低下していると、日中の眠気がより強くなります。
重要なのは、日中の眠気が生活に支障をきたすほど強い場合や、長期間続く場合は、何らかの病気が隠れている可能性を考え、適切な検査を受けることです。眠気の原因を正しく特定することで、効果的な対策や治療につなげることができます。
女性ホルモンと眠気の深い関係
女性の睡眠は、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)という2つの女性ホルモンの影響を強く受けます。これらのホルモンは月経周期に伴って大きく変動し、睡眠の質や日中の眠気に影響を及ぼします。
エストロゲンは、生理終了後から排卵日にかけて比較的多く分泌される女性ホルモンです。卵巣内の卵胞を成熟させる働きがあり、この時期は心身ともに安定しやすく、睡眠の質も比較的良好に保たれます。一方、排卵後から月経開始前までの黄体期には、プロゲステロンの分泌が増加します。プロゲステロンは妊娠に備えて体温を上げる作用があるため、この時期は基礎体温が0.3~0.5度ほど高くなる高温期となります。
人間の体は体温が下がるときに眠気が訪れる仕組みになっています。しかし、プロゲステロンの影響で体温が高い状態が続くと、夜になっても体温が下がりにくくなり、寝つきが悪くなったり、睡眠が浅くなったりすることがあります。その結果、夜間に十分な休息が得られず、日中に強い眠気を感じるようになるのです。
また、プロゲステロンが体内で分解される際に、アロプロゲステロンという眠気を起こす物質が発生します。この物質は睡眠薬と同程度の眠気をもたらすこともあるとされており、生理前に日中の異常な眠気を感じる女性がいるのは、このためです。
さらに、エストロゲンの減少は「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの生成にも影響を与えます。セロトニンが減少すると、セロトニンから体内で作られる睡眠ホルモンのメラトニンの生成も減少し、眠りが浅くなることがあります。このように、女性ホルモンの変動は複合的に睡眠に影響を与え、日中の眠気の原因となります。
月経前症候群(PMS)による眠気のメカニズム
生理前に眠気が強くなる症状は、月経前症候群(PMS)の代表的な症状の一つです。PMSとは、月経の約1週間前から眠気やイライラ、頭痛、むくみ、腹部の張りなどの精神的・身体的症状が強く出て、月経が始まると症状が軽減する状態のことをいいます。PMSに悩む女性は非常に多く、軽度のものも含めると多くの女性が何らかの症状を経験しているとされています。
PMSによる眠気のメカニズムは、前述した女性ホルモンの変動に加え、体内時計の乱れが関係しています。体温やホルモン分泌は約24時間のリズムで変動しており、体内時計によって調節を受けています。PMSでは、生体リズムの変動の幅が縮小して睡眠と覚醒のリズムにメリハリがなくなることが、過眠と不眠の両方が現れる理由と考えられています。研究によると、黄体期には日中に深いノンレム睡眠が出現していることが確認されており、これが眠気の増加につながっています。
PMSによる眠気がひどい場合は、単に我慢するのではなく、適切な対処をすることが重要です。低用量ピルを使用してホルモンバランスを整えることで、日中の眠気を緩和できる場合があります。低用量ピルにはエストロゲンとプロゲステロンの両方が配合されており、服用することでホルモンバランスの変動が少なくなるため、生理前や生理中の眠気や諸症状の緩和につながると考えられています。また、加味逍遙散などの漢方薬がPMSの症状改善に用いられることもあります。
PMSの症状が強く、日常生活に支障をきたしている場合は、婦人科を受診することをお勧めします。適切な治療により、生理前のつらい眠気を軽減できる可能性があります。
更年期における睡眠トラブルの特徴
更年期とは、閉経前の5年間と閉経後の5年間を合わせた約10年間の期間を指し、日本人女性の平均閉経年齢は約50歳です。更年期には卵巣機能の低下により女性ホルモンの分泌が乱高下しながら減少し、心身にさまざまな変調をきたします。特に睡眠に関するトラブルは更年期の女性に多く見られ、厚生労働省の調査によると、更年期の女性の4~6割が睡眠トラブルを抱えているとされています。
更年期の睡眠トラブルで代表的なのが、ホットフラッシュ(のぼせ・ほてり)による睡眠の中断です。エストロゲンの減少により自律神経のバランスが崩れ、突然の発汗やほてりが夜間に起こることがあります。これにより深い睡眠が得られなくなり、日中に強い眠気を感じるようになります。
また、更年期には不眠症や閉塞性睡眠時無呼吸にかかりやすくなることも知られています。加齢により睡眠が浅く短くなることに加えて、ホットフラッシュなどがきっかけとなり深く眠れないことが多いようです。これをきっかけに睡眠へのこだわりが強くなったり、不眠恐怖が生じて慢性化してしまうこともあります。
更年期の睡眠トラブルには、ホルモン補充療法が有効な場合があります。減少した女性ホルモンを補うことで、ホットフラッシュなどの更年期症状を軽減し、睡眠の質を改善することができます。また、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散などの漢方薬が用いられることもあります。特に不眠の症状が強い場合は、加味逍遙散や柴胡加竜骨牡蛎湯が使用されることがあります。
更年期の眠気や睡眠トラブルは、閉経後に女性ホルモンが少ない状態で安定すると、多くの場合は徐々に改善していきます。しかし、症状がつらい場合は我慢せず、婦人科や更年期外来を受診して相談することをお勧めします。
鉄欠乏性貧血と眠気の関係
鉄欠乏性貧血は、日本で最も頻度が高い貧血であり、特に女性に多く見られます。研究によると、月経のある成人女性では潜在的鉄欠乏が36.2%、鉄欠乏性貧血が11.9%にのぼるとされており、約5人に1人が何らかの鉄欠乏状態にあると考えられます。これに対し、成人男性では鉄欠乏性貧血はほとんど見られず、女性に特有の問題といえます。
鉄は赤血球の中のヘモグロビンを構成する重要な成分です。ヘモグロビンは全身に酸素を運ぶ役割を担っているため、鉄が不足するとヘモグロビンを十分に作り出すことができず、体が酸素不足の状態になります。その結果、疲れやすい、だるい、朝起きるのがつらい、眠気、イライラ、集中力の低下、動悸、息切れ、めまい、立ちくらみ、頭重感などの症状が現れます。
女性が鉄欠乏性貧血になりやすい理由は、月経による定期的な出血で鉄分が失われるためです。健常な成人男性では1日1mgの鉄が失われるのに対し、月経のある女性ではさらに0.6~0.8mgが多く失われます。食品からの鉄の吸収率は8~10%程度であるため、月経のある女性は1日あたり15mg程度の鉄を食事から摂取する必要がありますが、日本人の1日あたりの鉄摂取量は平均8.1mg程度にとどまっており、多くの女性が鉄不足になりやすい状況にあります。
特に注意が必要なのが「隠れ貧血(潜在性鉄欠乏)」です。これはヘモグロビン値は正常範囲内であるものの、体内の貯蔵鉄が不足している状態を指します。通常の健康診断ではヘモグロビン値のみを測定することが多いため、隠れ貧血は見逃されやすく、原因不明の疲労感や眠気として長期間放置されることがあります。貯蔵鉄の量を反映するフェリチン値を測定することで、隠れ貧血を発見することができます。
鉄欠乏性貧血の治療は、鉄剤の服用が基本となります。鉄剤を服用すると、数日から数週間で疲労感や眠気などの症状が改善することが多いです。また、レバー、赤身の肉、カツオ、イワシなどのヘム鉄を多く含む食品を積極的に摂取することも重要です。ただし、子宮筋腫や子宮内膜症による過多月経が原因で貧血を繰り返している場合は、婦人科での治療も必要になります。
甲状腺機能低下症による倦怠感と眠気
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌が不足することで全身の代謝が低下する疾患です。甲状腺ホルモンは全身の新陳代謝を促進する働きがあるため、不足すると体の活動性が低下し、さまざまな症状が現れます。代表的な症状としては、倦怠感、疲れやすさ、寒がり、皮膚の乾燥、むくみ、便秘、体重増加、脱毛、そして日中の強い眠気などが挙げられます。
甲状腺機能低下症は女性に多く見られる疾患で、特に40歳以降の女性では軽症なものも含めると10人に1人の割合で見られるとされています。男女比は1対10以上と圧倒的に女性に多いのが特徴です。最も多い原因は橋本病(慢性甲状腺炎)で、これは免疫の異常によって甲状腺が慢性的に炎症を起こす自己免疫疾患です。成人女性の10人に1人、成人男性の40人に1人が橋本病を持っているとされ、このうち甲状腺機能低下症になるのは4~5人に1人未満です。
甲状腺機能低下症による眠気は、「いつも眠い」「一日中ボーッとする」「朝起きるのがつらい」といった形で現れます。これらの症状は、うつ病や自律神経失調症、更年期障害などと似ているため、正しく診断されずに見過ごされることも少なくありません。実際に、甲状腺機能低下症でうつ病と診断されてしまうケースもあります。
甲状腺機能低下症の診断は、血液検査で甲状腺ホルモン(FT4、FT3)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)を測定することで行います。甲状腺ホルモンが低く、TSHが高い場合に甲状腺機能低下症と診断されます。橋本病が疑われる場合は、抗サイログロブリン抗体や抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体などの検査も行われます。
治療は、不足している甲状腺ホルモンを薬で補充する方法が一般的です。チラーヂンSという甲状腺ホルモン製剤を服用し、血液検査で甲状腺ホルモンの値を確認しながら投与量を調整していきます。適切な治療により、倦怠感や眠気などの症状は改善し、普通の日常生活を送ることができるようになります。
女性の睡眠時無呼吸症候群は見逃されやすい
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中に何度も呼吸が止まったり浅くなったりする疾患で、日本における患者数は約500万人と推定されています。一般的には中年の肥満男性に多いイメージがありますが、女性も決して無縁ではなく、特に閉経後の女性では有病率が上昇することが報告されています。
女性の睡眠時無呼吸症候群が見逃されやすい理由は、男性とは異なる症状の現れ方をするためです。男性では大きないびきや明確な呼吸停止、日中の強い眠気が典型的な症状として現れますが、女性ではいびきの音量が男性ほど大きくなく、無呼吸の時間も比較的短い傾向があります。また、日中の眠気よりも、疲労感、気分の落ち込み、頭痛、不眠、集中力の低下といった非典型的な症状を訴えることが多いのが特徴です。
このため、女性の睡眠時無呼吸症候群は、うつ病、自律神経失調症、更年期障害、貧血などと誤診されることがあります。「ただ疲れているだけ」「更年期だから仕方ない」と自己判断してしまい、適切な診断や治療に至らないケースも少なくありません。
女性が睡眠時無呼吸症候群を発症しやすいのは、閉経後です。女性ホルモンであるプロゲステロンには呼吸を刺激する作用があり、エストロゲンには喉の筋肉の緊張を保つ作用があります。閉経後はこれらのホルモンが減少するため、気道が閉塞しやすくなります。また、妊娠中も体重増加やホルモンバランスの変化により、睡眠時無呼吸症候群を発症しやすくなります。
睡眠時無呼吸症候群の診断には、睡眠ポリグラフ検査(PSG)が用いられます。自宅で行える簡易検査もあり、睡眠中の呼吸状態や血中酸素濃度を測定します。治療法としては、生活習慣の改善(ダイエット、禁煙、飲酒制限など)や、CPAP療法(持続陽圧呼吸療法)、マウスピースの使用などがあります。睡眠時無呼吸症候群は放置すると高血圧、心筋梗塞、脳卒中などのリスクを高めるため、疑わしい症状がある場合は早めに医療機関を受診することが重要です。
うつ病と過眠の関係
うつ病というと「眠れなくなる」というイメージを持つ方が多いかもしれませんが、実はうつ病の患者さんの10~20%程度に過眠の症状が見られます。特に、気分障害(うつ病や双極性障害)における過眠は男性より女性に多く、年齢では高齢者より若者に多い傾向があります。
うつ病で過眠が起こるメカニズムには、いくつかの要因が考えられています。まず、うつ病では脳内のセロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の機能が低下しています。セロトニンは気分の安定だけでなく、睡眠の深さや体内時計の調整にも関わっています。これらの物質の機能が低下すると、脳は十分な覚醒状態を保つことが難しくなり、日中に強い眠気を感じるようになります。
また、うつ病では慢性的なストレスにより心身が疲弊している状態にあります。脳や体がこの過剰な負荷から身を守ろうとする防衛反応として、休息を強く求めるようになります。不安や苦痛から一時的に逃れる手段として睡眠に逃げ込む「寝逃げ」が起こることもあります。
うつ病による過眠の特徴としては、夜間に十分な睡眠をとっても朝起きるのが非常に困難であること、日中に強い眠気に襲われ仕事中や授業中に居眠りをしてしまうこと、10時間以上の長時間睡眠が続くこと、昼寝をしても眠気が解消されないこと、起床後も頭がぼーっとして覚醒するのに時間がかかることなどが挙げられます。
過眠の症状に加えて、気分の落ち込み、興味や喜びの喪失、食欲の変化(食欲不振または過食)、疲労感、集中力の低下、自己否定感などの症状が2週間以上続く場合は、うつ病の可能性を考えて精神科や心療内科を受診することをお勧めします。うつ病は適切な治療により改善が期待できる疾患です。また、抗うつ薬の副作用として眠気が現れることもあるため、薬を服用中の方で眠気が気になる場合は、自己判断で服薬を中断せず、主治医に相談してください。
糖尿病や血糖値の乱れと眠気
食後に強い眠気を感じることは誰にでもありますが、その眠気があまりにも強い場合や長時間続く場合は、血糖値の乱れが原因である可能性があります。特に糖尿病や糖尿病予備群の方、また健康診断では異常を指摘されていなくても血糖値が乱高下する「血糖値スパイク」を起こしている方は、食後の眠気が顕著になることがあります。
通常、食事を摂ると血糖値は一時的に上昇しますが、膵臓から分泌されるインスリンの働きにより、血糖値は徐々に元の水準に戻ります。しかし、インスリンの分泌量が不足したり、インスリンがうまく働かなくなったりすると、食後に血糖値が急上昇し、その後急激に下がる「血糖値スパイク」が起こります。この血糖値の急激な変動により、脳に十分なブドウ糖が供給されなくなり、強い眠気や集中力の低下、疲労感、頭痛などの症状が現れます。
また、機能性低血糖症という状態もあります。これは糖尿病ではないものの、精製された糖質(白米、白いパン、麺類、甘いお菓子、清涼飲料水など)を摂取した際に血糖値が急上昇し、それを抑えるためにインスリンが大量に分泌され、今度は血糖値が急激に下がってしまう状態です。このときに眠気、集中力の低下、疲労感、手の震え、イライラなどの症状が起きます。
糖尿病の初期症状としては、強い眠気のほかに、口の渇き、多飲・多尿、体重減少、疲労感などがあります。これらの症状がある場合は、内科を受診して血糖値やHbA1c(ヘモグロビンA1c)を検査してもらうことをお勧めします。
血糖値の乱れによる眠気を予防するためには、食事の内容や食べ方を工夫することが有効です。食物繊維を多く含む野菜を先に食べる、白米を玄米に変える、糖質の多い食品を控えめにする、ゆっくりよく噛んで食べるなどの方法があります。また、食後に軽い運動(散歩など)をすることも血糖値の急上昇を抑える効果があります。
睡眠の質を低下させる生活習慣
「寝ても寝ても眠い」という症状は、病気が原因ではなく、睡眠の質を低下させる生活習慣が原因であることも多くあります。睡眠時間は十分に確保しているつもりでも、睡眠の質が低ければ「よく寝た」とは言えず、日中の眠気につながります。
睡眠の質を低下させる代表的な生活習慣としては、まず寝る前のスマートフォンやパソコンの使用が挙げられます。これらの機器から発せられるブルーライトは、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を抑制し、寝つきを悪くします。また、SNSやゲームなどで脳が興奮状態になることも睡眠の質を低下させます。できれば就寝の1~2時間前からは使用を控えることが望ましいです。
寝る直前の食事も睡眠の質に影響します。食べ物を消化するために胃腸の動きが活発になるため、深い眠りにつきにくくなります。夕食は就寝の3時間前までに済ませることが理想的です。
カフェインの摂取も注意が必要です。コーヒーや紅茶、緑茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインには覚醒作用があり、寝つきを悪くしたり、睡眠を浅くしたりする可能性があります。カフェインの効果は4~6時間続くため、午後遅くから夜にかけてはカフェインを含む飲み物を控えた方がよいでしょう。
アルコールについても誤解が多いです。「寝酒」としてアルコールを飲む方もいますが、アルコールは入眠を促進する一方で、睡眠の後半で目が覚めやすくなったり、睡眠の質を低下させたりする作用があります。また、アルコールは気道の筋肉を弛緩させるため、いびきや睡眠時無呼吸を悪化させる原因にもなります。
不規則な睡眠時間も問題です。平日と休日で起床時間が大きく異なると、体内時計が乱れ、睡眠の質が低下します。いわゆる「社会的時差ボケ」と呼ばれる状態で、週末に寝だめをすることでかえって体調を崩すこともあります。できるだけ毎日同じ時間に起床することが、体内時計を整え、質の良い睡眠を得るポイントです。
医療機関を受診すべきサイン
日中の眠気は誰にでも起こりうるものですが、以下のような状況に当てはまる場合は、何らかの病気が潜んでいる可能性があるため、医療機関を受診することをお勧めします。
受診の目安となる症状
まず、十分な睡眠時間(6~8時間以上)を確保しているにもかかわらず、日中に強い眠気が続く場合は注意が必要です。会議中や運転中など、起きていなければならない場面で居眠りをしてしまう、集中力が続かない、仕事のミスが増えるなど、日常生活に支障が出ている場合は早めに受診しましょう。
いびきがひどい、睡眠中に呼吸が止まると指摘された、夜中に何度も目が覚める、朝起きたときに頭痛がある、口が乾いているといった症状がある場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。睡眠時無呼吸症候群は放置すると心血管疾患のリスクを高めるため、早期の診断と治療が重要です。
疲れやすい、体がだるい、寒がりになった、むくみがある、便秘がち、体重が増えたなどの症状を伴う場合は、甲状腺機能低下症の可能性があります。血液検査で甲状腺ホルモンを測定することで診断できます。
立ちくらみ、めまい、動悸、息切れ、顔色が悪い、爪が割れやすい、氷を食べたくなるなどの症状がある場合は、鉄欠乏性貧血の可能性があります。特に月経量が多い方や、ダイエット中の方は注意が必要です。
気分の落ち込み、興味や喜びの喪失、食欲の変化、自己否定感などの症状が2週間以上続く場合は、うつ病の可能性があります。過眠だけでなく、不眠の症状がある場合も同様です。
何科を受診すべきか
眠気の原因によって受診すべき診療科は異なります。まず、原因がはっきりしない場合は内科を受診し、血液検査などで貧血や甲状腺機能、血糖値などをチェックしてもらうとよいでしょう。月経に関連した眠気や、更年期症状がある場合は婦人科への相談が適しています。睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、睡眠外来や呼吸器内科を受診します。気分の落ち込みなど精神的な症状を伴う場合は、心療内科や精神科を受診しましょう。
日常生活でできる眠気対策
病気が原因でない場合や、治療と並行して行う場合に、日常生活で取り入れられる眠気対策をご紹介します。
睡眠時間と睡眠リズムの確保
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人は6時間以上を目安として睡眠時間を確保することが推奨されています。まずは2週間、7~8時間程度の睡眠時間を確保してみてください。多くの方が、睡眠時間を十分にとることで、生理前の症状が軽くなったり、日中の活力が増したりする効果を実感できるはずです。また、毎日同じ時間に起床し、同じ時間に就寝するように心がけ、休日も平日と同じリズムを保つことが重要です。
朝日を浴びる
朝起きたらカーテンを開けて、日光を浴びましょう。朝の光を浴びることで体内時計がリセットされ、日中の眠気が軽減されます。また、日光を浴びることでメラトニン(睡眠ホルモン)の分泌リズムが整い、夜の寝つきもよくなります。
適度な運動を習慣にする
適度な運動には入眠を促し、睡眠の質を高める効果があります。日中に体を動かすことで、夜に自然と眠くなります。激しい運動は就寝直前には避け、できれば夕方までに行うのがよいでしょう。ウォーキングやストレッチなど、無理のない範囲で取り入れてみてください。
バランスの良い食事
鉄分を多く含む食品(レバー、赤身の肉、カツオ、ほうれん草など)や、タンパク質、ビタミンB群、ビタミンCを含む食品をバランスよく摂取しましょう。特に鉄分はビタミンCと一緒に摂取すると吸収率が高まります。また、血糖値の急上昇を防ぐため、野菜から先に食べる、よく噛んでゆっくり食べるなどの工夫も効果的です。
効果的な仮眠の取り方
日中に眠気が強いときは、15~30分程度の短い昼寝(パワーナップ)が効果的です。30分以上の昼寝は深い睡眠に入ってしまい、かえって目覚めがつらくなったり、夜の睡眠に影響したりする可能性があります。また、午後3時以降の昼寝は避けた方がよいでしょう。
寝室の環境を整える
良質な睡眠のためには、寝室の環境も重要です。室温は18~23度、湿度は50~60%程度が快適とされています。できるだけ暗く静かな環境を整え、自分に合った寝具を使用しましょう。
まとめ
「寝ても寝ても眠い」という症状は、女性に特有のさまざまな原因によって引き起こされることがあります。女性ホルモンの変動による月経前の眠気や更年期の睡眠トラブル、鉄欠乏性貧血、甲状腺機能低下症、睡眠時無呼吸症候群、うつ病、糖尿病など、その原因は多岐にわたります。
日中の眠気が生活に支障をきたしている場合や、長期間続く場合は、自己判断せずに医療機関を受診することが大切です。適切な検査により原因を特定し、正しい治療を受けることで、つらい眠気を改善できる可能性があります。
また、睡眠時間の確保、規則正しい生活リズム、バランスの良い食事、適度な運動など、日常生活でできる対策も積極的に取り入れてみてください。睡眠は心身の健康を保つための基盤です。「眠いのは仕方ない」と諦めずに、ご自身の体のサインに耳を傾け、必要に応じて専門家に相談することをお勧めします。

よくある質問
生理前の眠気は、月経前症候群(PMS)の代表的な症状の一つです。排卵後から生理開始前までの黄体期には、プロゲステロンというホルモンの分泌が増加します。プロゲステロンには体温を上げる作用があり、夜になっても体温が下がりにくくなるため、寝つきが悪くなったり睡眠が浅くなったりします。その結果、夜間に十分な休息が得られず、日中に強い眠気を感じるようになります。また、プロゲステロンが分解される際に発生するアロプロゲステロンという物質も眠気を引き起こす原因となります。
眠気の原因によって適切な診療科は異なります。原因がはっきりしない場合は、まず内科を受診し、血液検査で貧血や甲状腺機能、血糖値などをチェックしてもらうとよいでしょう。月経に関連した眠気や更年期症状がある場合は婦人科、いびきや睡眠中の呼吸停止がある場合は睡眠外来や呼吸器内科、気分の落ち込みなど精神的な症状を伴う場合は心療内科や精神科への受診が適しています。
はい、鉄欠乏性貧血は女性に非常に多く見られ、眠気の原因になることがあります。月経のある成人女性の約2割が鉄欠乏性貧血、約4割が潜在的な鉄欠乏状態にあるとされています。鉄が不足すると、赤血球中のヘモグロビンが減少し、全身に十分な酸素が運ばれなくなります。その結果、疲れやすい、だるい、朝起きるのがつらい、眠気、集中力の低下などの症状が現れます。血液検査でヘモグロビン値やフェリチン値を測定することで診断でき、鉄剤の服用で改善が期待できます。
更年期には睡眠に関するトラブルを抱える女性が多く、日中の眠気もその一つです。厚生労働省の調査によると、更年期の女性の4~6割が睡眠トラブルを抱えているとされています。更年期には卵巣機能の低下により女性ホルモンの分泌が減少し、自律神経のバランスが乱れます。特にホットフラッシュ(のぼせ・ほてり)による夜間の睡眠の中断が、日中の眠気の原因となることがあります。症状がつらい場合は、ホルモン補充療法や漢方薬などの治療により改善が期待できます。
うつ病というと「眠れなくなる」というイメージが強いですが、実はうつ病患者さんの10~20%程度に過眠の症状が見られます。特に若い女性のうつ病では過眠が現れやすい傾向があります。気分の落ち込み、興味や喜びの喪失、食欲の変化、疲労感、集中力の低下、自己否定感などの症状が2週間以上続き、それに加えて過眠がある場合は、うつ病の可能性を考えて心療内科や精神科を受診することをお勧めします。うつ病は適切な治療により改善が期待できる疾患です。
日中の眠気を解消するためには、まず十分な睡眠時間(6~8時間以上)を確保することが基本です。毎日同じ時間に起床し、朝日を浴びて体内時計をリセットしましょう。適度な運動も睡眠の質を高めます。また、鉄分やタンパク質を含むバランスの良い食事を心がけ、血糖値の急上昇を防ぐため野菜から先に食べるなどの工夫も効果的です。日中に眠気が強いときは、15~30分程度の短い昼寝が効果的ですが、30分以上の昼寝や午後3時以降の昼寝は避けましょう。これらの対策を行っても改善しない場合は、医療機関を受診することをお勧めします。
参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「女性の睡眠障害」
- 厚生労働省「睡眠対策」
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「健やかな眠りの意義」
- 国立病院機構 京都医療センター「甲状腺の病気について」
- 東京都「働く女性のウェルネス向上委員会 – 女性の不定愁訴、メンタル不調は鉄欠乏・隠れ貧血を疑って」
- オムロン ヘルスケア「オムロン式美人 – 生理前から生理中にかけて眠たくなるのはなぜですか?」
- オムロン ヘルスケア「だるい、疲れるは、鉄欠乏性貧血の可能性が」
- 興和株式会社「生理前・生理中に眠いのはなぜ?眠気の理由と対処法をご紹介」
- 小林製薬「異常な眠気は更年期のサイン?症状と対処法」
- 大正製薬「鉄分不足度チェック」
- 兵庫医科大学病院「睡眠時無呼吸症候群」
- MSDマニュアル家庭版「睡眠時無呼吸症候群」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務