「冬を乗り越えたのに、春になってからかえって肌の状態が悪化してしまった」という経験はないでしょうか。アトピー性皮膚炎を抱えている方にとって、春は意外にも症状が不安定になりやすい季節です。暖かくなって過ごしやすい時期に思えるにもかかわらず、かゆみや赤みが強くなったり、湿疹の範囲が広がったりしてしまう方が少なくありません。この記事では、春にアトピーが悪化しやすい理由を医学的な観点から丁寧に解説するとともに、季節の変わり目を上手に乗り越えるためのスキンケアや日常生活のポイントをご紹介します。アトピー性皮膚炎の症状に毎年春になると悩まされているという方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
- アトピー性皮膚炎とはどんな病気か
- 春にアトピーが悪化しやすい主な理由
- 花粉との関係:花粉皮膚炎とアトピー
- 気温差と自律神経が肌に与える影響
- 紫外線量の増加と肌バリア機能への影響
- 精神的ストレスと季節の変わり目
- 春のアトピー悪化を防ぐスキンケアの基本
- 日常生活で意識したい環境管理のポイント
- 食事・生活習慣との関係
- 医療機関への受診タイミングと治療の選択肢
- まとめ
この記事のポイント
春のアトピー悪化は花粉・気温差・紫外線・新生活ストレスが重なることが主因。保湿継続・花粉対策・紫外線ケア・生活リズムの整備で悪化を最小限に抑えられ、症状が改善しない場合は皮膚科専門医への早期受診が重要。
🎯 アトピー性皮膚炎とはどんな病気か
アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の低下と免疫系の過剰反応が組み合わさることによって生じる、慢性的なかゆみを伴う炎症性皮膚疾患です。遺伝的な体質(アトピー素因)が背景にあることが多く、喘息やアレルギー性鼻炎、花粉症などと合併しやすいのも特徴です。
皮膚のバリア機能が正常な状態では、外からの刺激やアレルゲンを皮膚がしっかりと防いでくれます。しかしアトピー性皮膚炎の方の皮膚は、フィラグリンというたんぱく質の量が少なかったり、皮脂の分泌量が少なかったりすることで、バリア機能が弱くなっています。その結果、外からの刺激に過敏に反応しやすく、乾燥しやすい状態になっています。
症状は「良くなったり悪くなったりを繰り返す(寛解と増悪)」ことが特徴であり、季節の変化がその大きなトリガーのひとつとなります。特に春は、複数の悪化要因が重なりやすいことから、患者さんにとって要注意の季節といえます。
Q. 春にアトピーが悪化しやすい理由は何ですか?
春のアトピー悪化は、スギ・ヒノキ花粉の飛散、朝晩の気温差による自律神経の乱れ、冬の数倍に増加する紫外線、進学・就職などの新生活ストレス、湿度の変動という複数の要因が同時に重なることが主な原因です。
📋 春にアトピーが悪化しやすい主な理由
春にアトピーの症状が悪化しやすい背景には、複数の要因が絡み合っています。一つひとつの要因は単独でも影響を及ぼしますが、それらが同時に起きることで症状のコントロールが難しくなるケースが多く見られます。以下では、主な要因を順番に詳しく見ていきます。
春に起こる変化として特に注目すべきものには、花粉の飛散、気温差による体への負担、紫外線の増加、精神的なストレス、そして湿度の変化があります。これらはそれぞれ異なるメカニズムで皮膚に影響を与えますが、共通しているのは皮膚のバリア機能をさらに弱め、免疫系の過剰反応を引き起こしやすくするという点です。
💊 花粉との関係:花粉皮膚炎とアトピー
春の代表的なアレルゲンといえばスギ花粉です。日本では毎年2月から4月にかけてスギやヒノキの花粉が大量に飛散し、花粉症の方はもちろん、アトピー性皮膚炎の方にとっても大きな問題となります。
花粉がアトピーを悪化させるルートは主に2つあります。1つ目は、空気中に漂う花粉が直接皮膚に付着することで生じる「花粉皮膚炎」です。花粉には「ペクチン」と呼ばれる物質が含まれており、これが皮膚に触れることで炎症反応を引き起こすことがわかっています。バリア機能の低下したアトピー性皮膚炎の皮膚では、この反応がより強く起きやすいため、顔や首、手など露出した部分に強いかゆみや赤みが現れることがあります。
2つ目は、花粉を吸い込むことによるアレルギー反応が全身に影響を与えるルートです。花粉症の方の体内では、IgE抗体というアレルギーに関係する抗体が大量に産生されます。アトピー性皮膚炎の方も多くがIgEが高い傾向にあるため、花粉を吸い込むことで全身の免疫系が活性化し、皮膚の炎症が起こりやすくなります。これは「口腔アレルギー症候群」と似たメカニズムで、消化器や気道を経由した免疫応答が皮膚にも波及する現象です。
また、花粉症の症状によって目をこすることが増えると、眼囲(目の周り)の皮膚への刺激が増え、その部位のアトピー症状が悪化することもあります。くしゃみや鼻水が続くことで睡眠の質が落ち、免疫機能が乱れるという間接的な悪影響もあります。
花粉の飛散時期と症状悪化の時期が一致している場合は、花粉が重要なトリガーになっている可能性が高く、花粉対策を取り入れることが症状改善につながりやすいといえます。
Q. 花粉がアトピーを悪化させる仕組みを教えてください
花粉によるアトピー悪化には2つの経路があります。①花粉に含まれるペクチンが皮膚に直接付着して炎症を起こす「花粉皮膚炎」、②花粉吸入によりIgE抗体が産生され全身の免疫系が活性化するルートです。目元をこする習慣も周囲の皮膚症状を悪化させます。
🏥 気温差と自律神経が肌に与える影響
春は一日の中での気温差が非常に大きい季節です。朝は10度以下でも、日中は20度を超えるといった日が続くことも珍しくありません。このような気温差は、自律神経に大きな負担をかけます。
自律神経は体温調節や血流、免疫機能、ホルモン分泌など、体のさまざまな機能をコントロールしています。気温の急激な変化に対応するために自律神経が頻繁に切り替わると、徐々にそのバランスが乱れてきます。これを「自律神経の乱れ」と呼び、アトピー性皮膚炎の症状悪化と密接に関係しています。
具体的には、気温が上がって汗をかくと、その汗の成分(汗の中に含まれる汗腺タンパクなど)が皮膚を刺激してかゆみを引き起こします。アトピー性皮膚炎の方は「汗アレルギー(コリン性蕁麻疹)」を合併している場合も多く、発汗によって著明なかゆみが起きることがあります。逆に急に気温が下がると皮膚の乾燥が進み、バリア機能がさらに低下します。
また、気温変化によって血管の収縮・拡張が繰り返されると、皮膚の血行が不安定になります。血行が良すぎるとかゆみが増し、悪すぎると皮膚への栄養供給が不十分になるという悪循環が生じます。
自律神経の乱れはホルモンバランスにも影響します。特にコルチゾール(ストレスホルモン)の分泌が乱れると、皮膚の再生機能が低下し、炎症が治まりにくくなることが知られています。春は気温だけでなく日照時間の変化も大きく、これが体内時計(サーカディアンリズム)を乱す原因にもなります。
⚠️ 紫外線量の増加と肌バリア機能への影響
「紫外線は夏が一番多い」というイメージを持っている方が多いかもしれませんが、実際には紫外線の量は3月ごろから急激に増加し始めます。気象庁のデータによると、春分のころから紫外線の強さは冬の数倍になることもあり、多くの方が「まだ大丈夫」と思って紫外線対策をしていない時期に、すでにかなりの量の紫外線が降り注いでいます。
紫外線にはUVA(長波長)とUVB(中波長)の2種類があります。UVBは皮膚の表面(表皮)にダメージを与え、皮膚の炎症を引き起こします。一方、UVAは皮膚の深部(真皮)まで届き、コラーゲンを破壊するほか、免疫細胞にも影響を与えます。アトピー性皮膚炎の方では、この紫外線による皮膚への刺激が炎症の引き金となりやすく、特にもともと炎症がある部位はさらにダメージを受けやすい状態です。
また、紫外線を大量に浴びると皮膚のセラミドが減少します。セラミドは皮膚のバリア機能に欠かせない脂質であり、アトピー性皮膚炎の方はもともとセラミドが少ない傾向があるため、紫外線によるダメージで一層バリア機能が低下してしまいます。バリア機能が低下するとアレルゲンや刺激物が皮膚から侵入しやすくなり、炎症反応がさらに起きやすくなるという悪循環が生じます。
一方で、適度な紫外線はビタミンDの生成を促し、免疫機能の調整に役立つという側面もあります。そのため「紫外線をゼロにすればいい」というわけではなく、適切な量を保ちながら強すぎる紫外線をカットするという考え方が大切です。
🔍 精神的ストレスと季節の変わり目
日本では4月から新年度が始まります。進学・就職・転勤・部署異動・引っ越しなど、生活環境が大きく変わるタイミングが集中しているのが春の特徴です。環境の変化は精神的なストレスを生みやすく、このストレスがアトピー性皮膚炎の悪化に直結することはよく知られています。
ストレスがアトピーを悪化させるメカニズムはいくつかあります。まず、精神的なストレスがかかると「コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)」が分泌され、これが肥満細胞(マスト細胞)を活性化させます。肥満細胞はかゆみの原因となるヒスタミンを放出するため、ストレスが高まるとかゆみが増すという直接的なつながりがあります。
次に、ストレスは「かゆい→かく→さらに悪化する」というかゆみの悪循環を加速させます。ストレスがあると意識がかゆみに向きやすくなり、無意識に皮膚をかいてしまう行動が増えます。皮膚をかくことでバリア機能がさらに破壊され、炎症が広がるという負のサイクルが生まれます。
また、ストレスによる睡眠の乱れも症状悪化につながります。睡眠中は成長ホルモンが分泌され、皮膚の修復が行われます。睡眠が不足したり質が低下したりすると、この修復機能が十分に働かず、昼間に受けた皮膚へのダメージが回復しにくくなります。
さらに、新生活の環境変化によって食事が不規則になったり、運動不足になったりすることもアトピーの悪化因子となります。環境の変化に伴うライフスタイルの乱れが重なることで、症状のコントロールがより難しくなる方も多いです。
Q. 春のアトピーに適したスキンケア方法は何ですか?
春は気温が上がっても保湿ケアを継続することが重要です。入浴後5分以内に保湿剤を塗布し、皮脂分泌が増える春は乳液・ジェルタイプへの切り替えも有効です。外出前にワセリンを薄く塗って花粉付着を防ぎ、低刺激タイプの日焼け止めで紫外線対策も行いましょう。
📝 春のアトピー悪化を防ぐスキンケアの基本
春のアトピー悪化を防ぐためには、季節に合わせたスキンケアの見直しが重要です。冬のスキンケアをそのまま続けていると、春の環境変化に対応しきれないことがあります。
まず大切なのは、保湿を継続することです。春は気温が上がり「もう乾燥の季節は終わった」と感じやすいですが、実際には湿度が安定しない時期でもあります。特に4月ごろまでは空気が乾燥しやすく、保湿を怠ると皮膚のバリア機能が低下してしまいます。入浴後はできるだけ早く(5分以内が理想)保湿剤を塗布する習慣を維持してください。
保湿剤の種類については、春は冬に比べて皮脂の分泌量が増えてくるため、オイリーな製品が重く感じることがあります。そのような場合は、乳液タイプやジェルタイプなど少し軽いテクスチャーのものに切り替えることで使い心地が改善されることがあります。ただし、切り替え後も保湿力が十分かどうかを皮膚の状態で確認しながら調整することが大切です。
入浴時のポイントとして、春は汗をかきやすくなるため、こまめに体を洗いたくなるかもしれません。しかし洗いすぎは皮膚の保護成分(皮脂や天然保湿因子)を落とし、バリア機能を傷つけます。洗浄はぬるめのお湯(38〜40度が目安)で、低刺激・弱酸性のボディソープを使い、泡立てた泡で優しく洗うようにしてください。タオルでごしごし擦ることは厳禁で、押し当てるように水分を拭き取るのが基本です。
顔のスキンケアについては、花粉シーズンには特に注意が必要です。外出から帰宅したら速やかに洗顔し、花粉を落とすようにしましょう。ただし、洗顔のしすぎは皮脂を取りすぎてバリア機能を低下させるため、1日2回(朝・夜)程度を目安にしてください。また、花粉対策のクリームやワセリンを外出前に薄く塗っておくことで、花粉の皮膚への付着を減らす効果が期待できます。
紫外線対策も春のスキンケアには欠かせません。日焼け止めを使用する際は、アトピー性皮膚炎の方の皮膚への刺激が少ないものを選ぶことが大切です。ノンケミカル(紫外線散乱剤のみ使用)タイプや、低刺激処方の製品が一般的に使いやすいとされています。敏感肌用と記載のあるものを選び、実際に使用する前にパッチテストで皮膚反応を確認するとより安心です。
💡 日常生活で意識したい環境管理のポイント
スキンケアと並んで重要なのが、生活環境の管理です。アトピー性皮膚炎は皮膚の問題だけでなく、環境との相互作用によって症状が大きく変化するため、日々過ごす空間をできるだけ皮膚に優しい状態に保つことが求められます。
花粉対策としては、花粉の飛散が多い日(天気予報などで確認できます)には窓を閉めておく、外出時にはマスクや眼鏡を着用する、帰宅時に玄関先で衣服の花粉を払い落とすなどの基本的な対策を徹底してください。衣類への花粉付着を防ぐために、外干しを避けて室内干しや乾燥機を使用することも有効です。
室内の湿度管理も重要です。乾燥した空気は皮膚から水分を奪いますが、反対に湿度が高すぎるとダニやカビが繁殖しやすくなり、これらもアトピーの悪化因子です。理想的な室内湿度は50〜60%程度とされており、湿度計を用いて適切な範囲を保つようにしましょう。加湿器を使用する場合は、内部のカビや雑菌の繁殖を防ぐために定期的な清掃が必要です。
ダニ対策は春にも重要です。春は気温が上がることでダニの活動が活発化し始めます。寝具のダニは特にアトピーへの影響が大きいため、布団カバーやシーツをこまめに洗濯し、防ダニ素材のカバーを使用することを検討してください。布団は可能であれば定期的に洗濯乾燥または専門業者によるクリーニングを行うことをおすすめします。
着用する衣類についても注意が必要です。素材は皮膚への刺激が少ない綿素材を基本とし、ウールや合成繊維は直接肌に触れないようにしてください。春は重ね着が多くなる季節でもありますが、汗をかいたときに皮膚に長時間汗が触れた状態になることを避けるため、通気性の良い素材を選ぶ意識も大切です。タグや縫い目が皮膚を刺激しないか確認し、必要であればタグを切り取ったり、裏返して着用したりする工夫も有効です。
就寝環境も見直してみてください。就寝中は体温が上がり汗をかきやすいため、かゆみが強まって眠りの妨げになることがあります。室温はやや低め(22〜24度程度)に設定し、通気性の良い寝具を選ぶと睡眠の質が改善しやすくなります。就寝前に軽く保湿を行っておくことも、夜間の皮膚のかゆみを和らげる助けになります。
Q. アトピーで皮膚科を受診すべきタイミングは?
かゆみで夜眠れない状態が続く、炎症範囲が拡大している、皮膚が化膿している、目周りや顔の症状が強まっている、従来の薬が効きにくくなっているといった場合は早めの受診が必要です。アイシークリニック上野院でも春の症状悪化に関するご相談を承っております。
✨ 食事・生活習慣との関係
アトピー性皮膚炎と食事の関係については、個人差が非常に大きいため「これを食べれば必ず悪化する」「これを食べれば必ず改善する」といった単純な話にはなりません。しかし、食事や生活習慣が免疫機能や皮膚の状態に影響を与えることは間違いなく、特に春の忙しい時期には食生活が乱れやすいため注意が必要です。
まず、食物アレルギーとアトピーの関係についてです。特に乳幼児・小児期のアトピー性皮膚炎では、卵・牛乳・小麦などの食物アレルギーが症状悪化に関与することがあります。成人のアトピーでは食物アレルギーの関与が少なくなる傾向がありますが、個人によっては特定の食品が引き金となる場合もあります。ただし、自己判断で食品を除去するのは栄養バランスを崩す可能性があるため、血液検査などで確認したうえで医師の指導のもとで行うことが大切です。
腸内環境とアトピーの関係も近年注目されています。腸内の免疫細胞は全身の免疫の約70%を担っているとされており、腸内環境が乱れると全身の免疫バランスに影響が出やすくなります。食物繊維を豊富に含む野菜・果物・全粒穀物を積極的に摂取し、発酵食品(ヨーグルト、味噌、納豆など)も取り入れることで腸内環境の改善に役立てることができます。
皮膚のバリア機能に欠かせない脂質の摂取も意識してみてください。特にオメガ3系脂肪酸(青魚に多く含まれるDHAやEPA、えごま油・亜麻仁油に含まれるα-リノレン酸など)は炎症を抑制する作用があるとされており、積極的な摂取が推奨されています。一方、オメガ6系脂肪酸(サラダ油などに多く含まれるリノール酸)は炎症を促進する方向に働くことがあるため、摂りすぎに注意が必要です。
アルコールと喫煙はアトピー悪化の明確なリスク因子です。アルコールは血管を拡張させてかゆみを増強させるほか、睡眠の質を低下させます。喫煙は皮膚の酸化ダメージを促進し、免疫機能を乱します。これらを控えることは症状の安定化に直結します。
規則正しい生活リズムを意識することも大切です。毎日できるだけ同じ時間に起床・就寝し、適切な睡眠時間(7〜8時間が目安)を確保することで、体内時計が整い、免疫機能の安定につながります。春は日が長くなって夜更かしが増えやすい時期でもあるため、意識的に就寝時間を守ることが重要です。
適度な運動は自律神経のバランスを整え、ストレス解消にも役立ちます。ただし、過度な運動は発汗を促して皮膚刺激を増やすことがあるため、軽いウォーキングやストレッチなど、汗をかきすぎない程度の運動が適しています。運動後はできるだけ早く汗を流し、保湿ケアを行うことも忘れずに。
📌 医療機関への受診タイミングと治療の選択肢

スキンケアや生活習慣の改善を行っても症状が改善しない場合、または急激に悪化した場合は、皮膚科専門医への受診を検討してください。アトピー性皮膚炎は適切な治療によって症状をコントロールできる病気であり、我慢してやり過ごすことは長期的には症状の悪化につながりやすいため、早めの対処が重要です。
特に以下のような状況では速やかに受診することをおすすめします。かゆみが強くて夜眠れない状態が続いている、炎症の範囲が広がっている、皮膚が化膿している(黄色い液が出るなど)、目の周りや顔の症状が強くなっている、従来使っていた薬が効きにくくなっているといった状況では、治療内容を見直す必要があるサインかもしれません。
アトピー性皮膚炎の治療は、症状の重さや部位によって異なりますが、現在では様々な選択肢があります。
外用ステロイド薬は、アトピー性皮膚炎の炎症を抑える最も基本的な薬です。ステロイドの強さは複数のランクに分かれており、部位や症状の程度に合わせて適切なものを選んで使用します。適切に使用すれば安全性が高く有効性も確立されていますが、長期使用や不適切な使用には副作用のリスクがあるため、医師の指示に従って使用することが重要です。
タクロリムス(プロトピック)軟膏は、ステロイドとは異なるメカニズムで炎症を抑える外用薬です。特に顔や首など皮膚が薄い部位や、ステロイドを長期使用したくない部位に適しています。
デルゴシチニブ(コレクチム)軟膏は、JAK(ヤヌスキナーゼ)という酵素を阻害することで炎症を抑える比較的新しい外用薬です。ステロイドやタクロリムスとは異なる作用機序を持つため、これらが効きにくい方に選択されることもあります。
重症のアトピー性皮膚炎に対しては、生物学的製剤や経口JAK阻害薬などの全身療法が選択されることもあります。デュピルマブ(デュピクセント)は2018年に日本で承認された生物学的製剤で、IL-4・IL-13というサイトカインの信号を遮断することで炎症を抑えます。中等度以上の重症アトピーで外用薬だけでは十分な効果が得られない場合に適応とされています。
花粉が主なアレルゲンとなっている場合は、アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法または皮下免疫療法)を長期的に行うことで、花粉アレルギー自体の体質改善を目指すことができます。これは症状を一時的に抑えるのではなく、アレルギー体質そのものを変えるアプローチであり、継続的な治療が必要ですが長期的な改善が期待できます。
抗ヒスタミン薬(内服)は、かゆみを和らげる目的で補助的に使用されます。眠くなりにくいタイプの製品も多く、昼間の生活に支障をきたさないよう工夫されたものもあります。
治療においては、医師とのコミュニケーションが非常に重要です。症状がいつ頃から悪化したか、どのような状況でかゆみが強くなるか、使用している薬の種類と量、日常生活での変化などを具体的に伝えることで、より適切な治療方針を立てることができます。自己判断で薬を中断したり、量を減らしたりすることは症状の急激な悪化を招くことがあるため、必ず医師に相談したうえで判断するようにしてください。
👨⚕️ 当院での診療傾向【医師コメント】
高桑康太 医師(当院治療責任者)より
「当院では、春になると「冬より肌の状態が悪くなった」とご相談にいらっしゃる患者様が増える傾向があり、花粉・気温差・紫外線・新生活のストレスといった複数の要因が同時に重なることが症状悪化の大きな背景となっています。季節に合わせたスキンケアの見直しや環境管理を早めに取り入れていただくことで、症状のコントロールが格段に安定しやすくなりますので、「また今年も春に悪化してしまった」と感じている方はどうか一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。」
🎯 よくある質問
春のアトピー悪化には、花粉の飛散、気温差による自律神経の乱れ、紫外線の増加、新生活に伴う精神的ストレス、湿度の変化という複数の要因が同時に重なることが主な原因です。これらが単独ではなく一度に重なる点が、春を特に症状が不安定になりやすい季節にしています。
花粉によるアトピー悪化には2つのルートがあります。①花粉が直接皮膚に付着して炎症を引き起こす「花粉皮膚炎」、②花粉を吸い込むことで全身の免疫系が活性化し皮膚の炎症が起きやすくなるルートです。また、花粉症による目のかゆみで目元を頻繁にこすることも、周囲の皮膚症状を悪化させる原因になります。
気温が上がっても保湿ケアは継続することが大切です。入浴後5分以内に保湿剤を塗布する習慣を維持し、春は乳液やジェルなど軽めのテクスチャーへの切り替えも検討してください。また、外出前にワセリンなどを薄く塗って花粉の付着を防ぐこと、低刺激タイプの日焼け止めによる紫外線対策も春のスキンケアに欠かせないポイントです。
かゆみで夜眠れない状態が続く、炎症の範囲が広がっている、皮膚が化膿している、目の周りや顔の症状が強くなっている、従来の薬が効きにくくなっているといった場合は、早めに皮膚科専門医への受診をおすすめします。アイシークリニック上野院でも春の症状悪化に関するご相談を承っております。
腸内環境を整える食物繊維や発酵食品の摂取、炎症を抑えるオメガ3系脂肪酸(青魚・えごま油など)を意識して取り入れることが有効です。また、毎日同じ時間に就寝・起床して睡眠を7〜8時間確保し、軽いウォーキングなど汗をかきすぎない適度な運動を行うことで、自律神経のバランスを整えることも症状の安定につながります。
📋 まとめ
春にアトピー性皮膚炎が悪化しやすいのは、花粉の飛散、気温差による自律神経の乱れ、紫外線の増加、精神的ストレス、そして湿度変化といった複数の要因が重なるためです。これらは単独でも皮膚に影響を与えますが、春という季節に一度に重なることで、症状のコントロールが難しくなってしまいます。
しかし、それぞれの要因に対して適切な対策を講じることで、春の症状悪化を最小限に抑えることは十分可能です。花粉の付着を防ぐ行動習慣、季節に合わせたスキンケア、室内環境の整備、食事と生活リズムの見直し、そして必要に応じた医療機関での治療——これらを組み合わせることが、春のアトピー管理において最も効果的なアプローチとなります。
アトピー性皮膚炎は一人ひとりの状態が異なる病気であり、「これが全員に当てはまる正解」というものはありません。自分の皮膚の状態をよく観察し、何が症状を悪化させ、何が改善につながるかを把握していくことが長期的な症状管理の鍵となります。毎年春になると症状が不安定になるという方は、今年は事前の準備として花粉シーズン前からスキンケアや環境整備を強化し、必要であれば早めに専門医に相談することを検討してみてください。
アイシークリニック上野院では、アトピー性皮膚炎に関するご相談を承っております。症状の程度やライフスタイルに合わせた治療の提案を行っていますので、春の症状悪化でお困りの方はお気軽にご相談ください。
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📚 参考文献
- 日本皮膚科学会 – アトピー性皮膚炎の診断基準・治療ガイドライン(外用ステロイド薬・タクロリムス・デルゴシチニブ・デュピルマブ等の治療選択肢、スキンケア方法、バリア機能の解説)
- 厚生労働省 – アトピー性皮膚炎に関する公式情報(疾患の概要・原因・悪化因子・日常生活での対処法・受診の目安に関する行政指針)
- PubMed – 花粉・季節変動・紫外線・自律神経・腸内環境とアトピー性皮膚炎の増悪メカニズムに関する国際的な学術研究論文
監修者医師
高桑 康太 医師
保有資格
ミラドライ認定医
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
- 皮膚腫瘍・皮膚外科領域で15年以上の臨床経験と30,000件超の手術実績を持ち、医学的根拠に基づき監修を担当
- 専門分野:皮膚腫瘍、皮膚外科、皮膚科、形成外科
- 臨床実績(2024年時点) 皮膚腫瘍・皮膚外科手術:30,000件以上、腋臭症治療:2,000件以上、酒さ・赤ら顔治療:1,000件以上
- 監修領域 皮膚腫瘍(ほくろ・粉瘤・脂肪腫など)、皮膚外科手術、皮膚がん、一般医療コラムに関する医療情報
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務