子供のとびひ治療ガイド:薬の選び方と正しいケア方法

はじめに

「子供の肌に赤い水ぶくれができて、あっという間に広がってしまった」「保育園から『とびひかもしれない』と連絡が来た」。このような経験をされた保護者の方は少なくないでしょう。とびひは、正式には「伝染性膿痂疹(でんせんせいのうかしん)」と呼ばれる、主に乳幼児や小学生に多く見られる皮膚の感染症です。

夏場に特に流行しやすく、保育園や幼稚園で集団感染することもあるため、早期発見と適切な治療が重要です。本記事では、子供のとびひについて、その原因や症状、治療に用いられる薬、家庭でのケア方法まで、保護者の方が知っておくべき情報を詳しく解説します。

とびひとは?基本的な知識

とびひの正式名称と由来

とびひは、医学的には「伝染性膿痂疹」と呼ばれます。「とびひ」という通称は、火事の火の粉が飛び火して次々と燃え広がるように、症状が体の他の部位に素早く広がっていく様子に由来しています。この名前が示す通り、とびひは非常に感染力が強く、適切な処置をしないと短期間で広範囲に広がってしまう特徴があります。

発症のメカニズム

とびひは、細菌が皮膚の小さな傷から侵入することで発症します。子供の皮膚は大人に比べて薄くデリケートで、バリア機能も未熟です。そのため、虫刺され、あせも、擦り傷、湿疹などで皮膚に小さな傷ができると、そこから細菌が侵入しやすくなります。

侵入した細菌は皮膚の表面で増殖し、毒素を産生します。この毒素が皮膚組織にダメージを与え、水疱(水ぶくれ)やびらん(ただれ)を形成します。水疱の中には大量の細菌が含まれており、これが破れて他の部位に付着することで、次々と新しい病変が生じるのです。

原因となる細菌

とびひを引き起こす主な細菌は以下の2種類です。

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus) もっとも一般的な原因菌で、とびひの約70〜80%を占めます。この菌は健康な人の鼻腔や皮膚表面にも常在していますが、条件が整うと病原性を発揮します。黄色ブドウ球菌が産生する毒素(表皮剥離毒素)は、皮膚の細胞同士をつなぐ構造を破壊し、特徴的な水疱を形成させます。

A群β溶血性連鎖球菌(化膿レンサ球菌) 黄色ブドウ球菌に次いで多い原因菌です。この細菌によるとびひは、水疱よりも厚いかさぶた(痂皮)を形成する特徴があります。また、まれに腎炎などの合併症を引き起こすことがあるため、注意が必要です。

近年では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)によるとびひも報告されており、治療薬の選択に影響を与えることがあります。

子供に多い理由

皮膚の特徴

子供の皮膚は大人と比べていくつかの特徴があり、これがとびひになりやすい原因となっています。

皮膚の薄さ 乳幼児の皮膚は大人の約半分の厚さしかありません。そのため、外部からの刺激に弱く、細菌が侵入しやすい状態にあります。

バリア機能の未熟性 皮膚のバリア機能は、主に表皮の最外層である角層が担っています。子供の角層は大人よりも薄く、脂質の組成も異なるため、バリア機能が十分に発達していません。

水分保持能力の不安定さ 子供の皮膚は水分の蒸散が多く、乾燥しやすい傾向があります。乾燥した皮膚はバリア機能が低下し、細菌感染のリスクが高まります。

生活習慣と行動パターン

外遊びが多い 子供は外で遊ぶ機会が多く、転んだり虫に刺されたりして、皮膚に小さな傷を作りやすい環境にあります。

皮膚をかく癖 虫刺されやあせもなどで痒みが生じると、子供は無意識に皮膚をかいてしまいます。爪で皮膚を引っかくことで、微小な傷から細菌が侵入します。

手洗いの不十分さ 適切な手洗いの習慣がまだ身についていない年齢では、手に付着した細菌を除去できず、その手で皮膚を触ることで感染が広がります。

集団生活 保育園や幼稚園では、子供同士の密接な接触が多く、タオルやおもちゃの共有などを通じて細菌が伝播しやすい環境にあります。

免疫系の発達段階

子供の免疫系は発達途上にあり、大人と比べて感染症に対する抵抗力が弱い傾向があります。特に、皮膚における局所的な免疫応答が未熟なため、細菌の侵入を初期段階で防ぎきれないことがあります。

とびひの症状と種類

水疱性膿痂疹(すいほうせいのうかしん)

これは最も一般的なタイプで、全体の約70〜80%を占めます。主に黄色ブドウ球菌が原因となります。

初期症状 小さな赤い斑点や丘疹(小さな盛り上がり)から始まります。多くの場合、虫刺されや擦り傷の周囲に最初の症状が現れます。

特徴的な水疱形成 数時間から1日程度で、米粒大から小豆大の水疱が形成されます。水疱の内容は最初は透明ですが、時間とともに濁って膿のように見えることがあります。水疱の周囲には紅斑(赤み)が見られます。

水疱の破裂とびらん形成 水疱は薄くて破れやすく、容易に破裂します。破れた後には、赤くただれた面(びらん面)が露出します。この面は湿潤していて、滲出液が出ます。

痂皮形成 びらん面が乾燥すると、薄い茶褐色の痂皮(かさぶた)が形成されます。ただし、水疱性膿痂疹の痂皮は比較的薄いのが特徴です。

好発部位 顔面(特に鼻の周囲や口の周り)、手足の露出部位に好発します。これらの部位は虫刺されや外傷を受けやすいためです。

全身症状 多くの場合、発熱などの全身症状は伴いませんが、広範囲に広がった場合や、二次感染を起こした場合には、発熱やリンパ節の腫れが見られることがあります。

痂皮性膿痂疹(かひせいのうかしん)

全体の約20〜30%を占め、主にA群β溶血性連鎖球菌が原因となります。水疱性膿痂疹に比べて重症化しやすい傾向があります。

炎症が強い 水疱性膿痂疹と比べて、赤みや腫れなどの炎症反応が強く現れます。

厚い痂皮の形成 水疱を形成することは少なく、初めから厚いかさぶた(痂皮)が形成されるのが特徴です。痂皮は牡蠣の殻のように厚く、黄褐色から黒褐色を呈します。

リンパ節の腫脹 病変部近くのリンパ節が腫れて、圧痛を伴うことが多く見られます。

全身症状 発熱、倦怠感などの全身症状を伴うことが比較的多く見られます。

合併症のリスク まれに、急性糸球体腎炎などの合併症を引き起こすことがあるため、治癒後も経過観察が重要です。

好発時期 季節を問わず発症しますが、比較的涼しい季節にも見られます。

症状の経過と広がり方

初発から拡大まで 最初の病変が出現してから、適切な治療を行わない場合、24〜48時間以内に新しい病変が次々と出現します。これは、水疱の内容物や滲出液に含まれる大量の細菌が、患児自身の手や衣服、寝具などを介して他の部位に付着するためです。

自家接種による拡大 子供が痒みのために病変部をかいた手で、他の健康な皮膚を触ることで、新たな病変が生じます。これを自家接種と呼びます。

接触感染 直接的な皮膚接触や、タオル、衣服、寝具などの共有を通じて、他の子供や家族に感染することがあります。

診断方法

視診による診断

とびひの診断は、主に皮膚科医による視診(見た目の観察)で行われます。経験豊富な医師であれば、特徴的な水疱や痂皮の形態、分布パターンから、高い確度で診断できます。

診断のポイント

  • 水疱やびらんの形態
  • 病変の分布(虫刺されや外傷部位の周囲に多い)
  • 経過(急速に広がる)
  • 年齢(乳幼児から学童期に多い)
  • 季節性(夏季に多い)

細菌培養検査

確定診断や適切な抗生物質の選択のために、細菌培養検査が行われることがあります。

検査方法 水疱の内容物や、びらん面からの滲出液を無菌的に採取し、培養します。48〜72時間後に、増殖した細菌の種類を同定します。

薬剤感受性試験 培養で増殖した細菌に対して、各種抗生物質がどの程度有効かを調べる試験です。これにより、最も効果的な抗生物質を選択できます。特に、治療抵抗性の症例や、MRSAが疑われる場合に重要です。

実施のタイミング すべての症例で必須というわけではありませんが、以下の場合には実施が推奨されます。

  • 標準的な治療に反応しない場合
  • 広範囲に広がっている場合
  • 繰り返し再発する場合
  • 痂皮性膿痂疹が疑われる場合(腎炎の合併を確認するため)

鑑別診断が必要な疾患

とびひと似た症状を示す他の皮膚疾患との鑑別が必要な場合があります。

水痘(水ぼうそう) 全身に水疱が出現しますが、発熱を伴い、水疱は中心部がへこんだ特徴的な形態を示します。

帯状疱疹 神経に沿って帯状に水疱が並ぶのが特徴で、強い痛みを伴います。

接触性皮膚炎 特定の物質に触れた部位に限局して発疹が出現します。

アトピー性皮膚炎の二次感染 慢性的な皮膚炎があり、掻破により感染を起こした状態です。

とびひの治療薬について

とびひの治療は、原因となる細菌を除去することが基本です。症状の程度や範囲に応じて、外用薬(塗り薬)と内服薬(飲み薬)を使い分け、または併用します。

抗菌薬外用剤(塗り薬)

軽症例や初期の段階では、抗菌薬の外用剤が第一選択となることが多くあります。

ゲンタマイシン硫酸塩軟膏

  • 商品名:ゲンタシン軟膏®など
  • 特徴:アミノグリコシド系抗生物質で、グラム陽性菌・陰性菌の両方に有効
  • 使用方法:1日2〜3回、患部に薄く塗布
  • 注意点:広範囲・長期使用で腎障害のリスク(ただし外用では稀)

フシジン酸ナトリウム軟膏

  • 商品名:フシジンレオ軟膏®
  • 特徴:黄色ブドウ球菌に対して特に強い抗菌力を持つ
  • 使用方法:1日2〜3回塗布
  • 利点:MRSA以外の黄色ブドウ球菌に高い効果

ナジフロキサシンクリーム

  • 商品名:アクアチムクリーム®など
  • 特徴:ニューキノロン系抗菌薬で、幅広い細菌に有効
  • 使用方法:1日2回塗布
  • 特徴:クリーム基剤で使用感が良い

ムピロシン軟膏

  • 商品名:バクトロバン鼻腔用軟膏®(主に鼻腔内MRSA除菌用)
  • 特徴:MRSAを含む黄色ブドウ球菌に高い効果
  • 注意:日本では鼻腔内専用として承認されているが、海外ではとびひ治療にも使用される

外用抗菌薬の使用上の注意点

塗布前の処置が重要です。水疱がある場合は、滅菌された針やメスで水疱を開放し、内容物を除去してから薬を塗ります。びらん面や痂皮がある場合は、可能な範囲で清潔なガーゼなどで優しく拭き取ってから塗布します。

塗布後はガーゼで覆います。これは病変部を保護し、他の部位への接触感染を防ぐためです。ガーゼは1日1〜2回交換し、常に清潔に保ちます。

経口抗菌薬(飲み薬)

病変が広範囲の場合、多発している場合、外用薬のみでは改善しない場合、全身症状がある場合などには、経口抗菌薬が必要になります。

セファロスポリン系抗生物質

第一世代セファロスポリン(セファレキシン、セファクロルなど)

  • 商品名:ケフレックス®、ケフラール®など
  • 特徴:黄色ブドウ球菌や連鎖球菌に有効
  • 用量:体重1kgあたり25〜50mg/日を3〜4回に分けて服用
  • 服用期間:通常5〜7日間

第二世代セファロスポリン(セフゾンなど)

  • 商品名:セフゾン®
  • 特徴:より広い抗菌スペクトル
  • 用量:体重に応じて調整
  • 特徴:1日1〜2回の服用で済むため、服薬コンプライアンスが良い

ペニシリン系抗生物質

アモキシシリン、アモキシシリン・クラブラン酸

  • 商品名:サワシリン®、オーグメンチン®など
  • 特徴:連鎖球菌に特に有効
  • 用量:体重1kgあたり20〜40mg/日を2〜3回に分けて服用
  • 注意:ペニシリンアレルギーの既往がある場合は使用不可

マクロライド系抗生物質

エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン

  • 商品名:エリスロシン®、クラリス®、ジスロマック®など
  • 特徴:ペニシリン系にアレルギーがある場合の代替薬として使用
  • 注意点:黄色ブドウ球菌の耐性率が高まっているため、第一選択とはならないことが多い
  • アジスロマイシンの利点:3日間の短期間投与で効果が持続

経口抗菌薬使用時の重要ポイント

処方された期間を必ず守ります。症状が改善したからといって、自己判断で服用を中止すると、細菌が完全に除去されず、再発や耐性菌の出現につながります。

決められた時間に服用します。血中濃度を一定に保つことで、より効果的に細菌を除去できます。

副作用に注意します。下痢、腹痛、発疹などの副作用が現れた場合は、速やかに医師に相談します。

MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に対する治療

近年、通常の抗生物質が効きにくいMRSAによるとびひが増加しています。

診断 細菌培養と薬剤感受性試験により、MRSAの存在と有効な抗生物質を特定します。

治療薬

  • ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム):商品名バクタ®など
  • ミノサイクリン(ただし歯牙着色の懸念から小児では慎重に使用)
  • リネゾリド:重症例に使用されることがある

治療期間 通常のとびひよりも治療期間が長くなることがあります。

補助的な薬剤

抗ヒスタミン薬 痒みが強い場合に処方されることがあります。痒みを抑えることで、掻破による病変の拡大を防ぎます。

  • 第一世代抗ヒスタミン薬:眠気が出やすいため、夜間の掻破を防ぐ目的で就寝前に服用
  • 第二世代抗ヒスタミン薬:眠気が少なく、日中も使用可能

亜鉛華軟膏 患部を保護し、乾燥を促進する効果があります。抗菌薬と併用されることがあります。

保湿剤 治療中および治癒後の皮膚バリア機能の回復を助けます。

ステロイド外用剤の使用について

一般的に、とびひに対してステロイド外用剤は単独では使用しません。ステロイドは炎症を抑える効果がありますが、免疫機能も抑制するため、細菌感染を悪化させる可能性があります。

ただし、とびひが湿疹やアトピー性皮膚炎に合併している場合など、特定の状況下では、抗菌薬との配合剤(ステロイドと抗生物質の両方を含む軟膏)が使用されることがあります。この場合も、医師の判断のもと、適切に使用する必要があります。

治療薬の選択基準

病変の範囲と程度

  • 限局性の軽症:外用薬のみ
  • 多発性または中等症:外用薬+経口抗菌薬
  • 広範囲または重症:経口抗菌薬を中心とした治療

患児の年齢 乳児や新生児では、薬剤の選択や用量に特別な配慮が必要です。

基礎疾患の有無 アトピー性皮膚炎、免疫不全などの基礎疾患がある場合は、より積極的な治療が必要です。

アレルギー歴 ペニシリン系抗生物質などにアレルギーがある場合は、代替薬を選択します。

過去の治療歴 繰り返しとびひになっている場合や、以前の治療で効果が不十分だった場合は、細菌培養を行って適切な薬剤を選択します。

家庭でのケア方法

薬物療法と並行して、家庭での適切なケアが治癒を早め、拡大や再発を防ぐ上で非常に重要です。

患部の清潔保持

やさしい洗浄 1日1〜2回、微温湯(ぬるま湯)と低刺激性の石鹸で、患部を含む全身をやさしく洗います。ゴシゴシこすらず、泡で包み込むように洗い、十分にすすぎます。

水疱は破らないように注意しながら洗いますが、既に破れている場合は、滲出液や痂皮を優しく除去します。強くこすると健康な皮膚を傷つけ、感染を広げる原因になります。

洗浄後は、清潔なタオルで押さえるようにして水分を拭き取ります。他の家族とタオルを共有しないことが重要です。

シャワー浴の推奨 入浴よりもシャワー浴が推奨されます。湯船に浸かると、浴槽の水を介して病変が広がる可能性があるためです。どうしても入浴したい場合は、家族の最後に入り、入浴後は浴槽を十分に洗浄します。

患部の保護

ガーゼによる被覆 薬を塗った後は、滅菌ガーゼで患部を覆います。これには複数の目的があります。

  • 患部を外部の刺激から保護する
  • 患児が無意識に触れることを防ぐ
  • 他の部位や他人への接触感染を防ぐ
  • 薬剤を患部にとどめる

ガーゼは1日1〜2回、または汚れたり濡れたりした時に交換します。ガーゼを剥がす際は、痂皮や新しく形成された皮膚を傷つけないよう、優しく剥がします。固着している場合は、微温湯で湿らせてから剥がします。

衣服の選択 患部をカバーできる、ゆったりとした通気性の良い綿製品の衣服を選びます。化学繊維や粗い生地は皮膚刺激になることがあります。衣服は毎日取り替え、高温で洗濯します。

掻破の防止

爪を短く切る 爪を短く滑らかに切り、皮膚を傷つけないようにします。爪の間には細菌が潜みやすいため、爪ブラシを使って丁寧に洗います。

手袋の使用 夜間など、無意識に掻いてしまう場合は、通気性の良い綿の手袋を着用させることも一つの方法です。

環境調整 室温や湿度を適切に保ち、汗をかきすぎないようにします。汗は痒みを増強させます。

気を紛らわす 日中は、遊びや活動で気を紛らわせ、患部を気にしすぎないようにします。

手洗いの徹底

患児本人だけでなく、家族全員がこまめに手洗いを行うことが重要です。

適切な手洗い方法

  1. 流水で手を濡らす
  2. 石鹸を泡立てる
  3. 手のひら、手の甲、指の間、爪の間、手首まで、最低20秒間かけて丁寧に洗う
  4. 流水で十分にすすぐ
  5. 清潔なタオルまたはペーパータオルで拭く

手洗いのタイミング

  • 患部に触れた後
  • 薬を塗る前後
  • 食事の前
  • トイレの後
  • 外出から帰った時
  • 咳やくしゃみをした後

日用品の管理

個人専用化 タオル、衣類、寝具、食器などは、患児専用のものを使用し、他の家族と共有しません。

こまめな洗濯 衣類、タオル、寝具などは毎日取り替え、熱いお湯(60度以上が望ましい)で洗濯します。可能であれば、日光消毒も効果的です。

おもちゃの消毒 患児が触れたおもちゃは、アルコール消毒液や次亜塩素酸ナトリウム溶液で拭くか、洗えるものは洗浄します。

リネン類の取り扱い 使用済みのガーゼや汚れた衣類は、ビニール袋に入れて密閉してから洗濯機に入れます。これにより、他の洗濯物への付着を防ぎます。

栄養と休息

バランスの取れた食事 免疫力を維持するために、バランスの取れた栄養摂取が重要です。特に、タンパク質、ビタミン、ミネラルを十分に摂取します。

十分な水分補給 適切な水分摂取は、皮膚の保湿にも役立ちます。

十分な睡眠 免疫機能は睡眠中に回復・強化されます。十分な睡眠時間を確保します。

ストレス管理 ストレスは免疫機能を低下させます。無理をさせず、ゆったりとした生活を心がけます。

予防方法

皮膚の健康維持

保湿ケア 日頃から適切な保湿ケアを行い、皮膚のバリア機能を維持します。入浴後は特に乾燥しやすいため、保湿剤を塗布します。

皮膚疾患の適切な管理 アトピー性皮膚炎、湿疹、あせもなどの皮膚疾患がある場合は、適切に治療し、掻破による皮膚損傷を防ぎます。

虫刺され対策 虫よけスプレーや長袖・長ズボンの着用で、虫刺されを予防します。刺された場合は、早めに適切な処置を行い、掻かないようにします。

外傷の適切な処置

すぐに洗浄 擦り傷や切り傷ができたら、すぐに流水で洗い流します。

消毒と保護 必要に応じて消毒し、絆創膏などで保護します。

経過観察 傷の周りが赤くなったり、腫れたりした場合は、早めに医療機関を受診します。

衛生習慣の確立

手洗いの習慣化 外から帰った時、食事の前、トイレの後など、適切なタイミングでの手洗いを習慣化します。

爪の管理 爪を短く清潔に保つ習慣をつけます。

個人用品の管理 タオルや歯ブラシなど、個人用品を共有しない習慣をつけます。

生活環境の整備

適切な室温・湿度 室温22〜26度、湿度50〜60%程度が理想的です。高温多湿は細菌の増殖を促進します。

清潔な環境 定期的な掃除と換気で、清潔な生活環境を維持します。

プール・水遊びの注意 プールや水遊びの後は、シャワーで塩素や汚れをしっかり洗い流し、保湿します。

集団生活における注意

流行時期の注意 保育園や幼稚園でとびひが流行している時期は、特に手洗いや皮膚の観察を徹底します。

早期発見 少しでも疑わしい症状があれば、早めに医療機関を受診します。

情報共有 とびひと診断されたら、速やかに保育園や幼稚園に連絡し、感染拡大防止に協力します。

免疫力の維持

規則正しい生活 十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動で、免疫力を維持します。

ストレス管理 過度なストレスは免疫機能を低下させます。子供が楽しめる活動や遊びの時間を確保します。

登園・登校について

とびひと診断された場合、保育園・幼稚園・学校への登園・登校については、慎重な判断が必要です。

基本的な考え方

とびひは学校保健安全法において「第三種の感染症(その他の感染症)」に分類されており、出席停止の扱いは各施設や医師の判断に委ねられています。一律の出席停止期間は定められていませんが、他の子供への感染リスクを考慮する必要があります。

登園・登校を控えるべき時期

以下の状態の間は登園・登校を控えます

  • 水疱や滲出液が多量にある状態
  • 患部を適切に覆うことができない広範囲の病変
  • 全身状態が悪い(発熱、倦怠感など)
  • 治療開始後間もない時期(通常24〜48時間以内)

登園・登校が可能となる条件

一般的に、以下の条件を満たせば登園・登校が可能とされます

適切な治療を受けていること

  • 医師の診察を受け、処方された薬を使用している
  • 定期的な患部の処置が行われている

患部が適切に保護されていること

  • 滲出液の漏れがないようガーゼで覆われている
  • 他児が直接触れることがない状態

全身状態が良好であること

  • 発熱などの全身症状がない
  • 通常通りの活動ができる

医師の診断書

施設によっては、登園・登校再開時に医師の診断書や意見書を求められることがあります。受診時に、登園・登校の可否について医師に確認し、必要であれば診断書を発行してもらいます。

登園・登校後の注意点

施設への情報提供 とびひであることを施設に伝え、以下の点を共有します。

  • 患部の位置と状態
  • 薬の使用状況
  • 特に注意が必要な活動

活動の制限 完全に治癒するまで、以下の活動は制限されることがあります。

  • プール(最も重要。完全に治癒するまで禁止が原則)
  • 砂遊び
  • 体育の接触を伴う種目
  • 他児と直接肌が触れ合う活動

継続的なケア 登園・登校中も、処方された薬を指示通り使用し、患部の清潔とガーゼ交換を継続します。

観察と報告 施設の職員に、患部の状態変化や新たな病変の出現がないか観察を依頼し、変化があれば速やかに保護者に連絡してもらいます。

プール活動について

プールは特に感染リスクが高いため、慎重な判断が必要です。

プール禁止の期間 とびひが完全に治癒し、痂皮が完全に取れるまでは、プールへの入水を控えます。これには通常、治療開始から1〜2週間かかることがあります。

再開の判断 医師の診察を受け、プール活動が可能であると判断されてから再開します。自己判断で再開しないことが重要です。

よくある質問(Q&A)

Q1: とびひはどのくらいで治りますか?

適切な治療を開始すれば、多くの場合、3〜5日程度で新しい病変の出現が止まり、既存の病変も改善に向かいます。完全に治癒するまでには、通常1〜2週間程度かかります。ただし、病変の範囲、重症度、治療開始のタイミング、基礎疾患の有無などによって、治癒までの期間は異なります。
広範囲に広がっている場合や、MRSA感染の場合は、より長い治療期間が必要になることがあります。処方された抗生物質は、症状が改善しても最後まで飲み切ることが重要です。

Q2: 兄弟姉妹への感染を防ぐにはどうすればよいですか?

以下の対策が有効です。
直接接触を避ける 患児と他の兄弟姉妹が密接に接触しないよう注意します。特に、患部に直接触れないようにします。
個人用品の分離 タオル、衣類、寝具などを完全に分け、共有しません。
入浴の順番 シャワーまたは入浴は、患児を最後にします。
手洗いの徹底 患児だけでなく、全家族がこまめに手洗いをします。
おもちゃの管理 患児が使用したおもちゃは、消毒してから他の兄弟姉妹が使用するようにします。
それでも兄弟姉妹に疑わしい症状が現れた場合は、早めに医療機関を受診します。

Q3: 市販薬で治療できますか?

とびひは細菌感染症であり、適切な抗菌薬による治療が必要です。市販の消毒薬や抗炎症薬だけでは、原因菌を除去できず、症状が悪化したり、他の部位や他人に感染が広がったりする可能性があります。
とびひが疑われる症状がある場合は、自己判断で市販薬を使用せず、必ず医療機関(皮膚科または小児科)を受診してください。早期に適切な治療を開始することが、早期治癒と感染拡大防止につながります。

Q4: 繰り返しとびひになります。原因は何ですか?

繰り返しとびひになる場合、以下のような原因が考えられます。

鼻腔内の保菌 黄色ブドウ球菌は、健康な人の鼻腔内にも常在していることがあります。鼻腔内に保菌している場合、鼻をいじった手で皮膚を触ることで、繰り返し感染を起こすことがあります。医師に相談し、必要に応じて鼻腔内の除菌治療を検討します。

基礎疾患 アトピー性皮膚炎などの基礎疾患があると、皮膚バリア機能が低下しているため、繰り返し感染しやすくなります。基礎疾患の適切な管理が重要です。

生活環境や習慣 爪を噛む癖、頻繁に顔や体を触る癖、不十分な手洗い習慣などが、繰り返し感染の原因になることがあります。

耐性菌 MRSAなどの耐性菌による感染の場合、通常の抗生物質では十分に除菌できず、再発することがあります。細菌培養検査を行い、適切な抗生物質を選択する必要があります。

繰り返す場合は、詳しい検査と原因の究明が必要ですので、医師に相談してください。

Q5: とびひの痕は残りますか?

多くの場合、適切に治療すれば、とびひの痕は残りません。表皮の浅い層の感染であるため、真皮に達する深い傷にならなければ、通常は痕を残さずに治癒します。

ただし、以下のような場合は、色素沈着や瘢痕(はんこん)が残ることがあります。

掻き壊しが激しい場合 強く掻いたり、無理に痂皮を剥がしたりすると、真皮まで傷が及び、痕が残ることがあります。

二次感染を起こした場合 適切な治療が遅れ、より深い感染を起こした場合、痕が残る可能性が高くなります。

色素沈着 炎症後色素沈着として、一時的に茶色い痕が残ることがありますが、多くは数ヶ月から1年程度で自然に薄くなります。

痕を残さないためには、早期に適切な治療を開始し、掻破を防ぎ、医師の指示に従って治療を継続することが重要です。

Q6: 大人もとびひになりますか?

とびひは圧倒的に小児に多い疾患ですが、大人もかかることがあります。特に以下のような場合、大人でもとびひになるリスクがあります。

基礎疾患がある場合 糖尿病、免疫不全、アトピー性皮膚炎などの基礎疾患があると、細菌感染に対する抵抗力が低下し、とびひになりやすくなります。

皮膚のバリア機能が低下している場合 高齢者や、極度の乾燥肌の人は、皮膚バリア機能が低下しているため、感染リスクが高まります。

患児からの感染 とびひの子供の看病をする際に、保護者が感染することがあります。

大人の場合も、治療の基本は小児と同じで、抗菌薬の投与と適切なスキンケアが中心となります。

Q7: 抗生物質を飲むと下痢になるのですが、どうすればよいですか?

抗生物質は、病原菌だけでなく、腸内の善玉菌も減らしてしまうため、腸内細菌のバランスが崩れて下痢を起こすことがあります。

対処法

軽度の下痢の場合

  • 整腸剤(ビオフェルミンなど)を併用する(医師に相談)
  • ヨーグルトなどの発酵食品を摂取する
  • 水分を十分に補給する
  • 消化の良い食事を心がける

中等度以上の下痢や、以下の症状がある場合

  • 血便が出る
  • 激しい腹痛がある
  • 高熱が出る
  • 脱水症状がある

このような場合は、速やかに医師に連絡し、指示を仰いでください。抗生物質の種類の変更や、治療方針の見直しが必要な場合があります。

自己判断で抗生物質の服用を中止すると、とびひの治療が不完全になり、再発や耐性菌の出現につながる可能性があるため、必ず医師に相談してください。

Q8: 妊娠中・授乳中でもとびひの治療はできますか?

妊娠中や授乳中でも、適切な薬剤を選択することで、とびひの治療は可能です。

妊娠中 ペニシリン系やセファロスポリン系の抗生物質は、妊娠中でも比較的安全に使用できるとされています。ただし、妊娠週数や母体・胎児の状態によって、慎重な判断が必要です。

授乳中 多くの抗生物質は母乳中にわずかに移行しますが、通常、乳児への影響は最小限です。ただし、薬剤によっては、一時的に授乳を中断したり、薬剤を変更したりすることもあります。

いずれの場合も、妊娠中または授乳中であることを必ず医師に伝え、適切な薬剤を選択してもらうことが重要です。

Q9: とびひの予防接種はありますか?

現在のところ、とびひを予防するワクチン(予防接種)はありません。とびひの予防は、日常的なスキンケア、手洗い、傷の適切な処置など、基本的な衛生管理によって行います。

ただし、インフルエンザ菌や肺炎球菌のワクチンなど、他の細菌感染症を予防するワクチンを接種することで、全体的な免疫力を高め、間接的にとびひのリスクを減らすことにつながる可能性があります。

Q10: 自然治癒することはありますか?

軽症の場合、自然に治癒することもありますが、これは推奨されません。理由は以下の通りです。

拡大のリスク 治療せずに放置すると、症状が広範囲に広がる可能性が高くなります。

感染源となる 適切な治療をしないと、他の子供や家族への感染源となります。

合併症のリスク まれに、腎炎などの合併症を引き起こすことがあります。

痕が残る可能性 適切な治療がないと、炎症が長引き、痕が残りやすくなります。

とびひが疑われる場合は、自己判断せず、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。

まとめ

とびひ(伝染性膿痂疹)は、主に乳幼児や学童期の子供に多く見られる皮膚の細菌感染症です。黄色ブドウ球菌やA群β溶血性連鎖球菌が原因で、虫刺されや擦り傷などの小さな傷から細菌が侵入し、水疱やびらんを形成します。火の粉が飛び散るように急速に広がることが特徴で、適切な対処をしないと短期間で広範囲に拡大します。

治療の基本は、抗菌薬の使用です。軽症例では外用抗菌薬(塗り薬)を、広範囲または重症例では経口抗菌薬(飲み薬)を使用します。セファロスポリン系やペニシリン系の抗生物質が第一選択となることが多く、処方された期間を守って服用することが重要です。近年増加しているMRSA感染の場合は、特別な抗生物質が必要になることがあります。

薬物療法と並行して、家庭でのケアも非常に重要です。患部を清潔に保ち、ガーゼで適切に保護すること、掻破を防ぐこと、手洗いを徹底すること、タオルや衣類などの個人用品を共有しないことが、治癒を早め、拡大や再発を防ぐ鍵となります。

予防には、日常的な保湿ケアで皮膚のバリア機能を維持すること、虫刺されや外傷を適切に処置すること、手洗いなどの衛生習慣を確立することが効果的です。また、アトピー性皮膚炎などの基礎疾患がある場合は、適切に管理することが重要です。

登園・登校については、適切な治療を受けており、患部がガーゼで覆われ、全身状態が良好であれば、医師の判断のもと可能となります。ただし、プール活動は完全に治癒するまで禁止が原則です。

とびひは、早期発見と適切な治療により、多くの場合、1〜2週間程度で治癒し、痕を残さずに回復します。疑わしい症状がある場合は、自己判断せず、早めに皮膚科または小児科を受診することが大切です。医師の指示に従い、処方された薬を最後まで使用し、家庭でのケアを適切に行うことで、早期治癒と感染拡大防止につながります。

子供の健やかな肌を守るために、日頃から適切なスキンケアと衛生管理を心がけ、万が一とびひになってしまった場合も、焦らず適切に対処することが重要です。

参考文献

  1. 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A 伝染性膿痂疹(とびひ)」https://www.dermatol.or.jp/qa/qa11/
  2. 国立感染症研究所「伝染性膿痂疹とは」https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/452-impetigo-intro.html
  3. 厚生労働省「保育所における感染症対策ガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/
  4. 日本小児皮膚科学会「伝染性膿痂疹診療ガイドライン」
  5. 日本化学療法学会・日本感染症学会「抗菌薬使用ガイドライン」
  6. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医薬品情報データベース」https://www.pmda.go.jp/

※本記事は医療情報を提供するものであり、個別の診断や治療を行うものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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