はじめに
おしりに痛くて赤いできものができてしまい、座るのが辛い、歩くのが不快といった経験をお持ちの方は少なくありません。デリケートな部位だけに、なかなか人に相談しづらく、一人で悩んでしまうケースも多いのが現状です。
しかし、おしりにできるできものには様々な原因があり、適切な診断と治療を行うことで改善が期待できます。放置していると症状が悪化したり、慢性化したりする可能性もあるため、早期の対応が重要です。
本記事では、おしりにできる痛くて赤いできものの主な原因、症状、診断方法、治療法について、医学的根拠に基づいて詳しく解説いたします。

おしりにできものができる主な原因
1. 解剖学的特徴による影響
おしりは人体の中でも特殊な環境にある部位です。座位を取ることが多い現代人にとって、この部位には常に圧迫や摩擦などの物理的ストレスがかかっています。
圧迫による血流障害 長時間の座位により、おしりの皮膚や皮下組織への血流が阻害されます。これにより組織の酸素不足が生じ、皮膚のバリア機能が低下して感染しやすい状態になります。
摩擦による皮膚損傷 衣服との摩擦、歩行時の太ももの摩擦などにより、微細な皮膚損傷が生じます。この損傷部位から細菌が侵入し、炎症やできものの原因となります。
2. 毛穴・毛包の問題
おしりには多数の毛穴があり、ここが様々なトラブルの発生源となることがあります。
毛穴の詰まり 皮脂や古い角質、汚れなどが毛穴に詰まることで、毛穴周辺の炎症が起こります。特におしりは下着で覆われているため、通気性が悪く、皮脂の分泌が活発になりやすい環境です。
毛包炎の発生 毛包(毛根を包む組織)に細菌感染が起こると毛包炎となり、赤く腫れて痛みを伴うできものができます。
3. 細菌感染
黄色ブドウ球菌 皮膚の常在菌である黄色ブドウ球菌が、皮膚の小さな傷から侵入して感染を起こします。特に免疫力が低下している時や、皮膚のバリア機能が低下している時に発症しやすくなります。
表皮ブドウ球菌 通常は無害な常在菌ですが、条件が揃うと病原性を示すことがあります。
4. ホルモンバランスの影響
皮脂分泌の増加 思春期、生理前、妊娠時などにホルモンバランスが変化すると、皮脂分泌が増加します。これにより毛穴が詰まりやすくなり、できものが発生しやすくなります。
5. 生活習慣要因
不適切な清潔管理 入浴頻度の不足、不適切な洗浄方法などにより、皮膚表面に細菌が繁殖しやすくなります。
栄養バランスの偏り ビタミンB群の不足、糖分・油分の過剰摂取などは、皮膚の健康状態に影響を与えます。
ストレス 慢性的なストレスは免疫機能を低下させ、皮膚感染症のリスクを高めます。
症状別疾患の詳細解説
毛嚢炎(毛包炎)
症状の特徴
- 毛穴を中心とした小さな赤い腫れ
- 軽度から中等度の痛み
- 膿を持つことがある
- 複数箇所に同時発生することが多い
発症メカニズム 毛包内に細菌(主に黄色ブドウ球菌)が感染することで発症します。剃毛後、きつい下着の着用、不衛生な環境などが誘因となります。
治療アプローチ 軽症例では抗菌薬の外用、中等症以上では内服抗菌薬を使用します。温湿布による局所温罨法も効果的です。
癤(おでき)・癰(よう)
症状の特徴
- 毛嚢炎が深部に進展したもの
- 強い痛みと腫れ
- 中央に膿栓が形成される
- 発熱を伴うことがある
病態の進行 初期は小さな赤い腫れから始まり、徐々に拡大して硬結を形成します。やがて中央部が軟化し、膿栓が形成されます。
合併症のリスク 適切な治療を行わないと、蜂窩織炎や敗血症などの重篤な合併症を起こす可能性があります。
粉瘤(表皮嚢腫・アテローム)
症状の特徴
- 皮下にできる球状の腫瘤
- 通常は痛みがない
- 感染を起こすと急激に赤く腫れて痛みを生じる
- 中央に小さな開口部(へそ)がある
発症メカニズム 表皮が皮内に陥入して嚢胞を形成し、その中に角質などの老廃物が蓄積される良性腫瘍です。
感染時の対応 感染を起こした粉瘤(炎症性粉瘤)は、まず抗生物質による治療を行い、炎症が落ち着いてから外科的摘出を検討します。
肛門周囲膿瘍
症状の特徴
- 肛門周囲の激しい痛み
- 発熱、悪寒
- 座位困難、歩行困難
- 排便時の激痛
発症メカニズム 肛門腺の感染により膿瘍が形成される疾患です。免疫力の低下、便秘、下痢などが誘因となります。
緊急性の高い疾患 早期の切開排膿が必要で、放置すると痔瘻に進展する可能性があります。
痔核(いぼ痔)
症状の特徴
- 肛門周囲の腫れ
- 出血(鮮血)
- 痛み(血栓性外痔核の場合)
- 脱出感
分類と特徴 内痔核と外痔核に分けられ、血栓を形成した外痔核は激しい痛みを伴います。
尖圭コンジローマ
症状の特徴
- カリフラワー状の疣贅
- 通常は痛みがない
- 複数個発生することが多い
原因と感染経路 ヒトパピローマウイルス(HPV)による性感染症です。性的接触により感染します。
診断方法
問診
医師は以下の点について詳しく聞き取りを行います:
症状の経過
- いつから症状が始まったか
- 症状の変化(悪化・改善の傾向)
- 痛みの程度と性質
- 随伴症状(発熱、倦怠感など)
生活習慣
- 座位時間の長さ
- 入浴・清潔習慣
- 下着の種類・材質
- 食生活の内容
既往歴・現病歴
- 糖尿病、免疫不全などの基礎疾患
- 過去の同様症状の有無
- 現在服用中の薬剤
視診・触診
視診のポイント
- できものの数、大きさ、形状
- 色調(発赤の程度)
- 表面の性状(平滑、粗造など)
- 周囲組織の状態
触診による評価
- 硬さ(硬結、軟化の程度)
- 可動性
- 圧痛の程度
- 波動感(膿瘍の場合)
必要に応じた検査
血液検査
- 白血球数、CRP(炎症反応の評価)
- 血糖値(糖尿病の確認)
- 免疫機能の評価
細菌培養検査
- 原因菌の同定
- 薬剤感受性の確認
病理組織検査
- 悪性腫瘍との鑑別
- 確定診断のため
治療法の詳細
保存的治療
外用薬治療
抗菌薬軟膏
- ムピロシン軟膏:グラム陽性菌に高い抗菌活性
- フシジン酸軟膏:黄色ブドウ球菌に特に効果的
- ゲンタマイシン軟膏:広域スペクトラム
抗炎症薬
- ステロイド外用薬:炎症の抑制
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)外用薬
内服薬治療
抗生物質
- セファレキシン:第一世代セファロスポリン系
- クラリスロマイシン:マクロライド系
- ミノサイクリン:テトラサイクリン系
使用期間は通常5-7日間ですが、症状の程度により調整します。
鎮痛薬
- アセトアミノフェン
- イブプロフェン
- ロキソプロフェン
外科的治療
切開排膿 膿瘍が形成された場合に行います。局所麻酔下で切開し、膿を排出した後、ドレナージを留置することがあります。
摘出術 粉瘤や慢性化した病変に対して行います。再発防止のため、嚢腫壁を含めた完全摘出が重要です。
レーザー治療 尖圭コンジローマなどのウイルス性疣贅に対してCO2レーザーによる蒸散術を行うことがあります。
理学療法
温熱療法 血流改善により治癒を促進します。40-42℃の温湿布を1日3-4回、各15-20分間適用します。
清拭・洗浄 生理食塩水や希釈したポビドンヨード液による局所洗浄を行います。
予防法とセルフケア
清潔管理
適切な入浴習慣
- 毎日のシャワーまたは入浴
- 中性またはアルカリ性の石鹸使用
- 強くこすりすぎない優しい洗浄
- 十分なすすぎ
乾燥の重要性 入浴後は清潔なタオルで十分に水分を拭き取り、完全に乾燥させてから下着を着用します。
衣類・寝具の管理
下着の選択
- 綿100%などの通気性の良い素材
- 適切なサイズ(きつすぎない)
- 毎日の交換
- 洗濯時の十分なすすぎ
寝具の清潔 シーツや枕カバーの定期的な交換(週1-2回)を行います。
生活習慣の改善
座位時間の調整 長時間の座位を避け、1時間に1回は立ち上がって血流を改善します。デスクワークの方は特に注意が必要です。
適度な運動 血行促進と免疫機能向上のため、ウォーキングなどの軽い運動を習慣化します。
ストレス管理 十分な睡眠、リラクゼーション法の実践により、ストレスを適切に管理します。
栄養管理
バランスの取れた食事
- ビタミンA(皮膚の健康維持)
- ビタミンC(コラーゲン合成、免疫機能)
- ビタミンE(抗酸化作用)
- 亜鉛(創傷治癒促進)
避けるべき食品
- 過度な糖分摂取
- 過度な脂肪摂取
- アルコールの過剰摂取

受診のタイミング
緊急受診が必要な症状
以下の症状がある場合は、速やかに医療機関を受診してください:
- 高熱(38℃以上)を伴う
- 激しい痛みで座ることができない
- 赤みが急速に拡大している
- 膿や血液の大量流出
- 全身の倦怠感、悪寒戦慄
早期受診が推奨される症状
- 痛みが3日以上続く
- 大きさが2cm以上
- 複数個のできものが同時発生
- 再発を繰り返す
- 市販薬で改善しない
経過観察可能な症状
- 軽度の痛みや腫れ
- 発熱がない
- 全身症状がない
- 徐々に改善傾向にある
ただし、1週間以上改善がない場合は受診を検討してください。
各年代での特徴と注意点
小児・思春期
特徴
- ホルモンバランスの変化により皮脂分泌が増加
- 清潔習慣が確立されていない場合がある
- 学校生活での長時間座位
注意点
- 保護者による適切な指導
- 恥ずかしがらずに相談できる環境作り
- 早期の医療機関受診
成人期
特徴
- 仕事による長時間座位
- ストレスの蓄積
- 不規則な生活習慣
注意点
- 定期的な運動習慣の確立
- ストレス管理の重要性
- 予防的なセルフケア
高齢期
特徴
- 免疫機能の低下
- 皮膚の乾燥・薄化
- 基礎疾患の併存
注意点
- より慎重な経過観察
- 基礎疾患との関連性の評価
- 薬物相互作用への注意
合併症と予後
局所合併症
蜂窩織炎 細菌感染が皮下組織に広がった状態で、広範囲の発赤、腫脹、痛みを認めます。抗生物質の点滴治療が必要になることがあります。
壊死性筋膜炎 稀ですが重篤な合併症で、緊急手術が必要です。急速な症状悪化が特徴です。
全身合併症
敗血症 細菌が血液中に侵入し、全身に感染が拡がった状態です。生命に関わる重篤な状態のため、集中治療が必要です。
慢性化
痔瘻 肛門周囲膿瘍が慢性化し、肛門と皮膚表面に瘻孔(トンネル)が形成された状態です。手術治療が必要です。
慢性膿皮症 化膿性汗腺炎とも呼ばれ、アポクリン汗腺の慢性炎症性疾患です。難治性で長期間の治療を要します。
最新の治療法
生物学的製剤
重症な慢性膿皮症に対して、TNF-α阻害薬(アダリムマブ)の使用が認められています。従来の治療で効果不十分な場合に検討されます。
光線力学療法(PDT)
特殊な薬剤と光を組み合わせた治療法で、難治性の皮膚感染症に対する新しい治療選択肢として研究が進められています。
プロバイオティクス
皮膚の常在菌バランスを整える治療法として、局所的なプロバイオティクス製剤の研究が行われています。
心理的サポート
デリケートな部位への配慮
おしりのできものは、場所が場所だけに患者さんが羞恥心を感じやすい疾患です。医療従事者は以下の点に配慮します:
- プライバシーの保護
- 十分な説明と同意
- 患者さんの不安軽減
- 心理的サポート
生活の質(QOL)への影響
座位困難、痛み、再発への不安などにより、日常生活に大きな影響を与えることがあります。医学的治療とともに、心理的サポートも重要です。
予防医学の観点から
健康教育の重要性
正しい知識の普及
- 適切な清潔習慣
- 早期受診の重要性
- セルフケアの方法
定期的な健康チェック
- 皮膚の自己観察
- 基礎疾患の管理
- 生活習慣の見直し
公衆衛生学的意義
皮膚感染症の予防は、個人の健康のみならず、感染拡大防止の観点からも重要です。特に集団生活の場では、適切な予防策の実施が求められます。
まとめ
おしりにできる痛くて赤いできものは、毛嚢炎、癤、粉瘤、肛門周囲膿瘍など様々な疾患が原因となります。これらの疾患は、適切な診断と治療により改善が期待できますが、放置すると重篤な合併症を起こす可能性もあります。
重要なポイント
- 早期発見・早期治療:症状が軽いうちに適切な治療を受けることで、重症化を防げます。
- 予防の重要性:日常的な清潔管理、適切な生活習慣により、多くの場合予防が可能です。
- 専門医への相談:デリケートな部位だからこそ、恥ずかしがらずに専門医に相談することが重要です。
- 継続的なケア:治療後も再発予防のため、継続的なセルフケアが必要です。
おしりのできものでお悩みの方は、一人で抱え込まずに、ぜひ医療機関にご相談ください。適切な診断と治療により、快適な日常生活を取り戻すことができます。
参考文献
- 日本皮膚科学会編. 皮膚科学. 第10版. 金芳堂; 2018.
- 日本大腸肛門病学会編. 大腸肛門病学. 第3版. 南江堂; 2019.
- 厚生労働省. 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/index.html
- 日本感染症学会. 抗菌薬使用ガイドライン. https://www.kansensho.or.jp/guidelines/
- 日本形成外科学会. 創傷治癒ガイドライン. https://jsprs.or.jp/member/disease_guideline/
- 国立感染症研究所. 感染症情報センター. https://www.niid.go.jp/niid/ja/
- 日本皮膚科学会. 皮膚科診療ガイドライン. https://www.dermatol.or.jp/medical/guideline/
- 日本医師会. 生活習慣病予防ガイドライン. https://www.med.or.jp/
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監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務