全身がかゆくてぶつぶつができる症状|原因と対処法を医師が解説

はじめに

突然、全身にかゆみとぶつぶつが出てきたら、誰でも不安になるものです。「これは何かの病気?」「すぐに病院に行くべき?」「自分でできる対処法は?」など、様々な疑問が浮かぶことでしょう。

全身のかゆみとぶつぶつ(発疹)は、皮膚科でよく見られる症状の一つです。原因は軽いものから重篤なものまで多岐にわたりますが、適切な診断と治療を受けることで、ほとんどの場合は改善が期待できます。

この記事では、全身のかゆみとぶつぶつが出る主な原因疾患、それぞれの特徴、診断方法、治療法について、一般の方にも分かりやすく解説していきます。また、自宅でできるセルフケアや、すぐに医療機関を受診すべきサインについてもご紹介します。

全身のかゆみとぶつぶつ、その特徴とは

かゆみのメカニズム

かゆみ(痒み)は、医学的には「掻きたいという欲求を引き起こす不快な感覚」と定義されています。皮膚には様々な感覚受容器があり、その中でかゆみを感じる受容器が刺激されると、その情報が神経を通じて脳に伝えられ、かゆみとして認識されます。

かゆみを引き起こす主な物質には、ヒスタミンという化学伝達物質があります。アレルギー反応や炎症が起こると、皮膚の肥満細胞からヒスタミンが放出され、神経を刺激してかゆみを感じさせます。また、ヒスタミン以外にも、プロスタグランジンやロイコトリエンといった炎症性物質もかゆみの原因となります。

ぶつぶつ(発疹)の種類

皮膚に現れる「ぶつぶつ」は、医学的には発疹(ほっしん)と呼ばれます。発疹にはいくつかの種類があり、それぞれ原因や対処法が異なります。

主な発疹の種類

  • 紅斑(こうはん):皮膚が赤くなる状態。押すと一時的に白くなることが特徴
  • 丘疹(きゅうしん):皮膚の表面から盛り上がった小さなぶつぶつ(直径1cm未満)
  • 膨疹(ぼうしん):蚊に刺されたような盛り上がり。むくみを伴い、数時間で消えることが多い
  • 水疱(すいほう):水ぶくれ。透明または白っぽい液体が溜まっている
  • 膿疱(のうほう):膿(うみ)が溜まった水ぶくれ
  • 結節(けっせつ):皮膚の深いところにできる大きめのしこり(直径1cm以上)

これらの発疹が、体の一部だけでなく全身に広がることで、「全身にぶつぶつができた」という状態になります。発疹の種類や分布、出現する順序などから、原因となる疾患を推測することができます。

全身のかゆみとぶつぶつの主な原因

全身にかゆみとぶつぶつが出る原因は多岐にわたります。ここでは、代表的な原因疾患について詳しく見ていきましょう。

1. 蕁麻疹(じんましん)

蕁麻疹は、全身のかゆみとぶつぶつの原因として最も多い疾患の一つです。

症状の特徴

  • 突然、皮膚が赤く盛り上がり、強いかゆみを伴う
  • 発疹は膨疹と呼ばれ、蚊に刺されたような見た目
  • 通常、数時間以内(多くは24時間以内)に跡を残さず消える
  • 出たり消えたりを繰り返すことがある
  • 全身のどこにでも出現する可能性がある

原因 蕁麻疹の原因は様々で、以下のようなものが知られています。

  • 食物アレルギー:卵、牛乳、小麦、そば、ピーナッツ、甲殻類など
  • 薬剤:抗生物質、解熱鎮痛剤、造影剤など
  • 物理的刺激:圧迫、摩擦、寒冷、温熱、日光など
  • 感染症:ウイルスや細菌感染
  • ストレス:精神的・身体的ストレス
  • 原因不明:実は蕁麻疹の多く(約70%)は原因が特定できない「特発性蕁麻疹」

診断と治療 蕁麻疹の診断は、主に症状の経過と見た目から行われます。血液検査やアレルギー検査で原因を特定できることもありますが、多くの場合は原因不明のまま治療が行われます。

治療の中心は抗ヒスタミン薬の内服です。症状が重い場合は、ステロイド薬の内服や注射が必要になることもあります。慢性化した蕁麻疹(6週間以上続く)の場合は、長期的な治療が必要になることがあります。

2. アトピー性皮膚炎の悪化

アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹が良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性的な皮膚疾患です。

症状の特徴

  • 強いかゆみを伴う赤み、ぶつぶつ、ガサガサ
  • 掻くことで皮膚が厚くなったり、傷ができたりする
  • 顔、首、肘や膝の内側など、特定の部位に出やすい
  • 症状が全身に広がることもある
  • 季節の変わり目や乾燥する時期に悪化しやすい

悪化の原因

  • 乾燥:特に冬場の低湿度環境
  • :夏場や運動後
  • ダニ、ホコリ、ペットの毛などのアレルゲン
  • ストレス:睡眠不足や精神的ストレス
  • 刺激物:化粧品、洗剤、衣類の素材など

治療 アトピー性皮膚炎の治療は、炎症を抑える薬物療法と、皮膚のバリア機能を回復させるスキンケアの両方が重要です。

  • 外用薬:ステロイド外用薬、タクロリムス軟膏など
  • 内服薬:抗ヒスタミン薬、免疫抑制剤など
  • 保湿剤:ヘパリン類似物質、尿素軟膏など
  • 生物学的製剤:重症例に対する新しい治療法

日常生活では、適切な保湿、刺激物の回避、規則正しい生活が症状のコントロールに重要です。

3. 接触性皮膚炎(かぶれ)

接触性皮膚炎は、特定の物質が皮膚に触れることで起こる炎症反応です。

症状の特徴

  • 原因物質が触れた部位に一致して赤み、ぶつぶつ、水ぶくれができる
  • 強いかゆみや痛みを伴う
  • 重症の場合、触れた部位から周囲に広がったり、全身に症状が出ることがある
  • 原因物質との接触から数時間~数日後に症状が現れる

主な原因物質

  • 金属:ニッケル、コバルト、クロムなど(アクセサリー、ベルトのバックルなど)
  • 化粧品:香料、防腐剤、界面活性剤など
  • 植物:ウルシ、イチョウ、マンゴーなど
  • ゴム・樹脂:ラテックス、エポキシ樹脂など
  • 外用薬:消炎鎮痛剤の貼り薬、抗生物質軟膏など
  • 洗剤・柔軟剤:界面活性剤、香料など

診断と治療 診断には、原因物質を特定するためのパッチテストが有効です。パッチテストは、疑わしい物質を皮膚に貼り付けて反応を見る検査です。

治療は、まず原因物質を避けることが最も重要です。その上で、ステロイド外用薬や抗ヒスタミン薬で症状を抑えます。重症例では、ステロイドの内服が必要になることもあります。

4. 薬疹(やくしん)

薬疹は、服用した薬剤が原因で起こる皮膚症状の総称です。

症状の特徴

  • 服薬開始から数日~2週間程度で発症することが多い
  • 全身に左右対称に紅斑やぶつぶつが出る
  • かゆみを伴うことが多いが、痛みを伴う場合もある
  • 発熱や粘膜症状(口内炎など)を伴うこともある
  • 重症型では、水疱や皮膚の剥離が起こることも

原因となりやすい薬剤

  • 抗生物質(ペニシリン系、セフェム系など)
  • 解熱鎮痛剤(NSAIDs、アセトアミノフェンなど)
  • 抗てんかん薬
  • 痛風治療薬
  • 降圧薬の一部
  • 漢方薬を含むサプリメント

重症型薬疹 薬疹の中には、生命に関わる重症型もあります。以下のような症状がある場合は、緊急の対応が必要です。

  • スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS):高熱、眼や口の粘膜のびらん、皮膚の剥離
  • 中毒性表皮壊死融解症(TEN):SJSよりさらに広範囲の皮膚剥離
  • 薬剤性過敏症症候群(DIHS):発熱、リンパ節腫脹、内臓障害を伴う

治療 薬疹が疑われる場合は、すぐに原因薬剤の服用を中止することが最も重要です。症状に応じて、抗ヒスタミン薬やステロイド薬を使用します。重症型の場合は、入院治療が必要になります。

5. ウイルス性発疹症

ウイルス感染によって全身に発疹が出ることがあります。

主なウイルス性発疹症

麻疹(はしか)

  • 高熱、咳、鼻水、目の充血の後、全身に赤い発疹が出る
  • 発疹は顔から始まり、全身に広がる
  • 非常に感染力が強い

風疹(三日はしか)

  • 軽度の発熱と共に、全身に小さな赤い発疹が出る
  • リンパ節の腫れを伴う
  • 妊婦が感染すると胎児に影響が出ることがある

水痘(水ぼうそう)

  • 発熱と共に、全身にかゆみを伴う赤い発疹が出る
  • 発疹は水疱になり、最後はかさぶたになる
  • 強い感染力を持つ

伝染性紅斑(りんご病)

  • 頬が赤くなることから「りんご病」と呼ばれる
  • その後、手足にレース状の発疹が出る
  • 主に小児に多い

手足口病

  • 手のひら、足の裏、口の中に水疱性の発疹ができる
  • 軽度の発熱を伴うことがある
  • 主に夏場に流行する

治療 ウイルス性発疹症の多くは、特別な治療をしなくても自然に治ります(対症療法)。発熱や痛みに対しては解熱鎮痛剤、かゆみに対しては抗ヒスタミン薬や外用薬を使用します。水痘などでは、抗ウイルス薬が使用されることもあります。

6. 細菌感染症

細菌感染によっても全身に発疹が出ることがあります。

溶連菌感染症(猩紅熱)

  • A群溶血性レンサ球菌による感染症
  • 高熱、咽頭痛の後、全身に細かい赤い発疹が出る
  • 舌がイチゴのように赤くなる(イチゴ舌)
  • 治療には抗生物質が必要

伝染性膿痂疹(とびひ)

  • 黄色ブドウ球菌や溶連菌が原因
  • かゆみを伴う水疱や膿疱ができ、掻くことで全身に広がる
  • 主に夏場、小児に多い
  • 抗生物質の内服や外用が必要

7. 疥癬(かいせん)

疥癬は、ヒゼンダニという小さなダニが皮膚に寄生することで起こる感染症です。

症状の特徴

  • 激しいかゆみ(特に夜間に強い)
  • 手指の間、手首、肘、脇の下、陰部などに赤いぶつぶつや線状の発疹
  • 掻くことで二次感染を起こし、全身に広がることがある
  • 家族内や施設内で集団発生することがある

診断と治療 顕微鏡でダニや虫卵を確認して診断します。治療には、ダニを殺す外用薬(イベルメクチンクリームなど)や内服薬を使用します。同居家族や接触者も同時に治療することが重要です。

8. 内臓疾患に伴う皮膚症状

全身のかゆみとぶつぶつは、内臓の病気のサインであることもあります。

肝臓疾患

  • 胆汁うっ滞による黄疸とかゆみ
  • ぶつぶつは伴わないことが多いが、掻破により発疹ができる

腎臓疾患

  • 慢性腎不全では尿毒症によるかゆみが出る
  • 乾燥肌を伴うことが多い

甲状腺疾患

  • 甲状腺機能亢進症では皮膚のかゆみが出ることがある
  • 甲状腺機能低下症では乾燥肌によるかゆみ

糖尿病

  • 皮膚の乾燥によるかゆみ
  • 真菌感染症(カンジダなど)を起こしやすくなる

血液疾患

  • ホジキンリンパ腫などではかゆみが特徴的な症状
  • 鉄欠乏性貧血でもかゆみが出ることがある

9. 妊娠に伴う皮膚症状

妊娠中は、ホルモンバランスの変化や免疫系の変化により、様々な皮膚症状が出ることがあります。

妊娠性痒疹

  • 妊娠中期~後期に出現
  • 手足を中心に、かゆみを伴うぶつぶつができる
  • 出産後、自然に改善することが多い

妊娠性類天疱瘡

  • 妊娠後期に出現することが多い
  • 臍周囲から始まり、全身に広がる水疱性の発疹
  • 強いかゆみを伴う

PUPPP(妊娠性多形疹)

  • 妊娠後期、特に初産婦に多い
  • 腹部の妊娠線に沿って赤いぶつぶつが出る
  • 出産後、速やかに改善する

診断のプロセス

全身のかゆみとぶつぶつの原因を特定するため、医療機関では以下のような診察と検査が行われます。

問診

問診では、以下のような情報を詳しく聞かれます。

  • 症状の経過:いつから、どのように始まったか
  • 発疹の変化:出たり消えたりするか、広がっているか
  • 随伴症状:発熱、全身倦怠感、関節痛などはあるか
  • 服薬歴:新しく飲み始めた薬はないか
  • 食事歴:新しく食べたものはないか
  • 生活環境:新しい化粧品や洗剤を使い始めたか、旅行に行ったか
  • 家族歴・既往歴:家族に同様の症状はないか、以前にアレルギーはあったか

視診・触診

皮膚科医は、発疹の形、大きさ、色、分布などを詳しく観察します。

  • 発疹の種類(紅斑、丘疹、膨疹、水疱など)
  • 発疹の分布(全身に均一か、特定の部位に集中しているか)
  • 皮膚の乾燥や肥厚の有無
  • 掻破痕(掻いた跡)の有無

検査

必要に応じて、以下のような検査が行われます。

血液検査

  • 一般血液検査(白血球数、好酸球数など)
  • アレルギー検査(IgE抗体、特異的IgE抗体)
  • 肝機能、腎機能検査
  • 甲状腺機能検査
  • 感染症の検査(ウイルス抗体価など)

皮膚生検 診断が難しい場合や、特殊な疾患が疑われる場合は、皮膚の一部を採取して顕微鏡で調べることがあります。

パッチテスト 接触性皮膚炎(かぶれ)が疑われる場合、原因物質を特定するために行います。

その他の検査

  • 真菌検査(顕微鏡検査、培養検査)
  • 疥癬の検査(虫体や卵の確認)
  • 画像検査(内臓疾患が疑われる場合)

治療法

全身のかゆみとぶつぶつの治療は、原因疾患によって異なりますが、共通する治療の柱があります。

薬物療法

外用薬

ステロイド外用薬

  • 炎症を抑える最も効果的な薬
  • 強さが5段階に分かれており、症状や部位に応じて使い分ける
  • 長期使用による副作用(皮膚萎縮、毛細血管拡張など)に注意が必要

非ステロイド性抗炎症外用薬

  • タクロリムス軟膏、デルゴシチニブ軟膏など
  • ステロイドとは異なる機序で炎症を抑える
  • 顔など皮膚の薄い部位にも比較的安全に使用できる

保湿剤

  • ヘパリン類似物質、尿素軟膏、ワセリンなど
  • 皮膚のバリア機能を回復させる
  • かゆみの予防にも重要

抗ヒスタミン薬含有外用薬

  • 局所的なかゆみに使用
  • 長期使用でかぶれることがあるため注意が必要

内服薬

抗ヒスタミン薬

  • かゆみを抑える基本的な薬
  • 第1世代(眠気が出やすい)と第2世代(眠気が出にくい)がある
  • 蕁麻疹やアレルギー性疾患に特に有効

ステロイド内服薬

  • 重症の場合や、外用薬だけでは効果が不十分な場合に使用
  • 短期間の使用が基本
  • 長期使用は副作用のリスクが高い

免疫抑制剤

  • アトピー性皮膚炎の重症例などに使用
  • シクロスポリン、タクロリムスなど
  • 定期的な血液検査が必要

生物学的製剤

  • アトピー性皮膚炎や蕁麻疹の新しい治療法
  • デュピルマブ、オマリズマブなど
  • 従来の治療で効果が不十分な場合に使用

抗生物質

  • 細菌感染症の場合に使用
  • 原因菌に合わせて選択する

抗ウイルス薬

  • 水痘、帯状疱疹などに使用
  • 早期投資が重要

光線療法

紫外線を使った治療法で、主にアトピー性皮膚炎や蕁麻疹、乾癬などに効果があります。

ナローバンドUVB療法

  • 特定の波長(311nm)の紫外線を照射
  • 免疫を調整し、炎症を抑える
  • 週2~3回の通院が必要

PUVA療法

  • 光感受性物質を内服または外用した後、UVAを照射
  • より強力な効果が期待できるが、副作用のリスクも高い

その他の治療

悪化因子の除去

  • アレルゲンの回避
  • 原因薬剤の中止
  • 刺激物の除去

生活指導

  • 適切なスキンケア
  • 爪を短く切る(掻破による悪化を防ぐ)
  • 規則正しい生活
  • ストレス管理

自宅でできるセルフケア

医療機関での治療と並行して、自宅でのケアも症状の改善に重要です。

スキンケアの基本

1. 適切な入浴

入浴は、皮膚を清潔に保ち、保湿にも役立ちますが、方法を誤ると症状を悪化させることがあります。

  • 温度:ぬるめのお湯(38~40℃)にする。熱いお湯はかゆみを増強させる
  • 時間:長湯は避け、10~15分程度にする
  • 洗い方:石鹸をよく泡立て、手や柔らかいタオルで優しく洗う。ナイロンタオルでゴシゴシこするのは厳禁
  • 石鹸の選び方:低刺激性、無香料のものを選ぶ。界面活性剤の強いボディソープは避ける
  • 入浴後:タオルで軽く水分を拭き取り、すぐに保湿剤を塗る

2. 保湿ケア

保湿は、皮膚のバリア機能を維持し、かゆみを予防する上で非常に重要です。

  • タイミング:入浴後5分以内に保湿剤を塗る。1日2回以上の保湿が理想的
  • :十分な量を使う。顔なら人差し指の第一関節分、両手なら500円玉大が目安
  • 塗り方:手のひらで温めてから、優しく伸ばす。こすらずに押さえるように塗る
  • 保湿剤の選び方
    • ワセリン:保湿力が高いが、べたつく
    • ヘパリン類似物質:水分を保持する力が強い
    • 尿素軟膏:角質を柔らかくする効果もあるが、傷があるとしみる
    • セラミド配合製品:皮膚のバリア機能を補う

3. 衣類の選び方

肌に触れる衣類は、症状に大きく影響します。

  • 素材:綿や絹など、通気性が良く刺激の少ない天然素材を選ぶ
  • 化学繊維:ポリエステルやナイロンは静電気が起きやすく、刺激になることがある
  • ウール:チクチクした感触が刺激になるため、直接肌に触れないようにする
  • 洗濯:柔軟剤は刺激になることがあるため、使用を控えるか、よくすすぐ
  • 新しい衣類:着用前に一度洗濯して、加工剤を落とす

生活環境の整備

1. 室内環境

  • 湿度:40~60%を保つ。乾燥しすぎるとかゆみが悪化する
  • 温度:高温多湿はかゆみを増強させるため、適度な温度(夏は26~28℃、冬は20~22℃)を保つ
  • 清潔:こまめに掃除をして、ダニやホコリを減らす
  • 寝具:週1回は布団を干すか掃除機をかける。防ダニカバーの使用も効果的

2. ダニ・ハウスダスト対策

  • カーペットやぬいぐるみを減らす
  • こまめに換気をする
  • 空気清浄機を使用する
  • 布団乾燥機を活用する

食事の工夫

1. アレルギーが疑われる場合

  • 原因食物が明らかな場合は、完全に除去する
  • 自己判断で過度な食事制限をしない(栄養バランスが崩れる恐れがある)
  • 管理栄養士の指導を受けることが望ましい

2. 皮膚の健康に良い栄養素

  • タンパク質:皮膚の材料となる(肉、魚、卵、大豆製品)
  • ビタミンA:皮膚の再生を促す(レバー、緑黄色野菜)
  • ビタミンC:コラーゲンの生成を助ける(柑橘類、イチゴ、ブロッコリー)
  • ビタミンE:抗酸化作用がある(ナッツ類、植物油)
  • 亜鉛:皮膚の代謝に必要(牡蠣、赤身肉、ナッツ)
  • オメガ3脂肪酸:炎症を抑える(青魚、亜麻仁油)

3. 避けたほうが良い食品

  • 刺激物:香辛料、アルコールはかゆみを増強させることがある
  • 加工食品:添加物が刺激になることがある
  • 高糖質食:炎症を悪化させる可能性がある

ストレス管理

ストレスは、かゆみを悪化させる大きな要因です。

1. リラクゼーション

  • 深呼吸
  • 軽いストレッチ
  • ヨガや瞑想
  • 好きな音楽を聴く
  • 趣味の時間を持つ

2. 十分な睡眠

  • 規則正しい生活リズムを保つ
  • 就寝前のスマートフォンやパソコンの使用を控える
  • 寝室の環境を整える(適度な温度・湿度、暗さ)

3. 適度な運動

  • ウォーキングや水泳など、過度に汗をかかない運動が良い
  • 運動後はシャワーを浴びて清潔に保つ
  • 汗をかいた衣類は早めに着替える

かゆみへの対処

1. 冷やす

  • 保冷剤をタオルで包んで当てる
  • 冷たい濡れタオルで冷やす
  • かゆみ止めの外用薬の中には、清涼感のある成分(メントール、カンフルなど)を含むものもある

2. 掻かない工夫

  • 爪を短く切る
  • 夜間は綿の手袋をする
  • かゆい部位を軽く叩く(掻くよりはダメージが少ない)
  • 気を紛らわせる(他のことに集中する)

3. やってはいけないこと

  • 熱いシャワーを当てる(一時的に気持ち良いが、後でかゆみが増す)
  • 強く掻きむしる(皮膚を傷つけ、症状を悪化させる)
  • 市販のかゆみ止めを長期間使用する(かぶれることがある)

すぐに医療機関を受診すべきサイン

以下のような症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。特に緊急性が高い場合は、救急外来の受診も検討しましょう。

緊急性が高い症状

1. アナフィラキシーの症状

アナフィラキシーは、全身性の重篤なアレルギー反応で、生命に関わることがあります。

  • 全身の蕁麻疹
  • 呼吸困難、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)
  • 喉や舌の腫れ
  • 急激な血圧低下(意識がもうろうとする)
  • 嘔吐、腹痛

これらの症状が急速に進行する場合は、すぐに救急車を呼んでください。

2. 重症薬疹の症状

  • 高熱(38℃以上)
  • 目や口の粘膜のただれ、痛み
  • 広範囲の皮膚の赤み、水ぶくれ、皮膚の剥離
  • 全身の倦怠感

3. 感染症の疑い

  • 高熱を伴う発疹
  • 意識障害
  • 激しい頭痛
  • 項部硬直(首が硬くなる)

早めの受診が必要な症状

以下の症状がある場合は、緊急ではなくても、なるべく早く医療機関を受診しましょう。

  • 市販薬を使っても改善しない、または悪化する
  • 発疹が広がり続けている
  • 夜も眠れないほどのかゆみ
  • 掻きすぎて傷ができたり、ジュクジュクしている
  • 発熱や全身倦怠感を伴う
  • リンパ節の腫れがある
  • 1週間以上症状が続いている
  • 同じ症状を繰り返している

受診時に伝えるべき情報

医療機関を受診する際は、以下の情報を整理しておくと、スムーズな診断につながります。

  • いつから症状が始まったか
  • 最初にどこに症状が出たか
  • 症状の経過(広がり方、変化の仕方)
  • 随伴症状(発熱、痛み、その他の症状)
  • 服用している薬(市販薬、サプリメントを含む)
  • 新しく食べたもの、触れたもの
  • 旅行歴
  • 家族や周囲の人の症状
  • これまでの治療とその効果

スマートフォンで発疹の写真を撮っておくと、症状の変化を医師に伝えやすくなります。

よくある質問(Q&A)

Q1: かゆくて我慢できないときはどうすれば良いですか?

A: まずは患部を冷やすことが効果的です。保冷剤をタオルで包んで当てる、冷たい濡れタオルで冷やすなどの方法があります。また、市販のかゆみ止め外用薬を使用することもできますが、長期間使用すると接触性皮膚炎を起こすことがあるため注意が必要です。それでも改善しない場合や、症状が強い場合は、早めに医療機関を受診してください。

Q2: 市販のかゆみ止めを使っても良いですか?

A: 一時的な使用であれば問題ありませんが、原因が分からないまま長期間使用することは避けてください。市販薬に含まれる抗ヒスタミン薬や局所麻酔薬は、長期使用でかぶれを起こすことがあります。1週間使用しても改善しない場合は、医療機関を受診しましょう。

Q3: ステロイドは怖いと聞きましたが、使っても大丈夫ですか?

A: ステロイド外用薬は、適切に使用すれば非常に効果的で安全な薬です。副作用が心配されるのは、長期間、強いステロイドを不適切に使用した場合です。医師の指示通りに使用し、症状が改善したら徐々に減らしていけば、副作用のリスクは最小限に抑えられます。自己判断で中止したり、量を減らしたりすると、かえって症状が悪化することがあるため、必ず医師に相談してください。

Q4: かゆみで夜眠れません。どうすれば良いですか?

A: 夜間のかゆみは、体温が上がることや、意識が皮膚に向きやすいことが原因で強くなります。以下の対策が有効です。

寝室の温度を少し低めに設定する
冷却ジェルシートを使用する
綿の手袋をして、無意識に掻かないようにする
眠気が出やすい抗ヒスタミン薬を就寝前に服用する(医師に相談)
リラクゼーション法(深呼吸、軽いストレッチなど)を試す

Q5: 蕁麻疹が出たり消えたりを繰り返しています。受診が必要ですか?

A: 蕁麻疹は数時間から24時間以内に消えることが特徴ですが、繰り返し出る場合や、1か月以上続く場合(慢性蕁麻疹)は、医療機関を受診することをお勧めします。原因を特定し、適切な治療を受けることで、症状をコントロールできることが多いです。

Q6: アトピー性皮膚炎は完治しますか?

A: アトピー性皮膚炎は慢性疾患であり、完全に治すことは難しいとされています。しかし、適切な治療とスキンケアで、症状をコントロールし、良好な状態を維持することは可能です。多くの患者さんは、成長とともに症状が軽快していきます。また、近年は生物学的製剤など、新しい治療法も登場しており、治療の選択肢は広がっています。

Q7: 妊娠中ですが、かゆみ止めの薬を使っても良いですか?

A: 妊娠中は使用できる薬が制限されますが、安全性の高い薬もあります。自己判断で市販薬を使用するのではなく、必ず産婦人科医や皮膚科医に相談してください。かゆみが強い場合は我慢せず、医師に相談して適切な治療を受けることが、母体にも胎児にも良い影響を与えます。

Q8: 家族に同じような症状が出ています。うつる病気でしょうか?

A: 家族内で同じ症状が出る場合、感染症(ウイルス性発疹症、疥癬など)の可能性があります。また、同じアレルゲン(ダニ、ペットなど)に暴露されている可能性もあります。いずれにしても、早めに医療機関を受診し、原因を特定することが重要です。感染症の場合は、他の家族への感染拡大を防ぐための対策も必要になります。

予防のポイント

全身のかゆみとぶつぶつを予防するためには、日頃からのケアが重要です。

1. 皮膚のバリア機能を保つ

  • 毎日の保湿ケアを習慣化する
  • 刺激の少ない石鹸や洗剤を使用する
  • 過度な入浴や洗いすぎを避ける

2. アレルゲンを避ける

  • 既知のアレルギーがある場合は、原因物質を避ける
  • ダニ、ホコリ対策を徹底する
  • 新しい化粧品や外用薬を使用する前にパッチテストを行う

3. 生活習慣を整える

  • バランスの取れた食事を心がける
  • 十分な睡眠をとる
  • ストレスを溜めない
  • 適度な運動を行う

4. 感染症予防

  • 手洗い、うがいを励行する
  • 予防接種を受ける(麻疹、風疹、水痘など)
  • 流行時は人混みを避ける

5. 定期的な健康チェック

  • 持病(糖尿病、肝臓病、腎臓病など)がある場合は、定期的に医師の診察を受ける
  • 皮膚の変化に気を配り、気になることがあれば早めに相談する

まとめ

全身のかゆみとぶつぶつは、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、薬疹、感染症など、様々な原因で起こります。多くの場合、適切な治療で改善が期待できますが、中には緊急の対応が必要な疾患もあります。

重要なポイント

  1. 原因は多岐にわたる:蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、薬疹、感染症、内臓疾患など
  2. 緊急性の判断が重要:呼吸困難、高熱、粘膜症状などがあれば、すぐに受診
  3. 適切な診断と治療:自己判断せず、医療機関で正確な診断を受ける
  4. セルフケアも重要:保湿、生活習慣の改善、ストレス管理など
  5. 予防が大切:日頃からの皮膚ケアと健康管理

かゆみとぶつぶつは、体からの大切なサインです。症状が続く場合や心配な症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。

皮膚の健康を保つことは、生活の質(QOL)を高めることにつながります。この記事が、皆様の皮膚の健康維持に役立てば幸いです。

参考文献

  1. 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A」https://www.dermatol.or.jp/qa/
  2. 厚生労働省「感染症情報」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/index.html
  3. 国立感染症研究所「感染症疫学センター」https://www.niid.go.jp/niid/ja/
  4. 日本アレルギー学会「アレルギー疾患ガイドライン」https://www.jsaweb.jp/
  5. 日本臨床皮膚科医会「ひふの病気」https://www.jocd.org/disease/

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

プロフィールを見る

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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