背中のしこりが押すと痛い時に考えられる原因と適切な対処法

はじめに

背中にしこりを見つけて、それが押すと痛いという経験をしたことはありませんか?多くの人が人生のうちに一度は経験する症状ですが、その原因は様々で、軽微なものから医療機関での治療が必要なものまで幅広く存在します。

背中という部位は自分では直接確認しにくい場所であるため、しこりに気づいた時には既に症状が進んでいることも少なくありません。また、痛みを伴うしこりの場合、日常生活に支障をきたすこともあり、適切な診断と治療が重要になります。

本記事では、背中にできるしこりの中でも特に「押すと痛い」という症状を伴うものに焦点を当て、その原因、症状の特徴、診断方法、治療法について詳しく解説いたします。医学的根拠に基づいた正確な情報をお伝えするとともに、いつ医療機関を受診すべきかの判断基準についてもご説明します。

背中のしこりとは?基本的な理解

しこりの定義と特徴

「しこり」とは、皮膚の下や組織内にできる硬い塊状の腫瘤のことを指します。医学的には「腫瘤(しゅりゅう)」または「結節(けっせつ)」と呼ばれることもあります。

背中にできるしこりは、その発生する部位や深さによって以下のように分類されます:

皮膚表面に近いしこり

  • 皮脂腺嚢腫
  • 粉瘤(アテローム)
  • 脂肪腫
  • 毛巣洞

深部組織のしこり

  • 筋肉内の腫瘤
  • 軟部組織腫瘍
  • リンパ節腫大
  • 悪性腫瘍

痛みを伴うしこりの特徴

痛みを伴うしこりには、以下のような特徴があります:

  1. 炎症性の変化: 赤み、腫れ、熱感を伴う
  2. 感染: 細菌感染により膿が溜まっている状態
  3. 急速な増大: 短期間で大きくなる
  4. 神経圧迫: 周囲の神経を圧迫している
  5. 悪性の可能性: がんなどの悪性腫瘍の場合

背中のしこりが痛む主な原因

1. 皮脂腺嚢腫(脂肪嚢腫)

皮脂腺嚢腫は、皮脂腺の出口が詰まることによって皮脂が皮膚の下に溜まってできる良性の嚢胞です。背中は皮脂分泌が活発な部位であるため、この疾患が起こりやすい場所の一つです。

症状の特徴

  • 通常は痛みのない丸い腫瘤
  • 細菌感染を起こすと急激に痛くなる
  • 感染時は赤く腫れて熱感を伴う
  • 中央に小さな開口部(へそ)が見られることがある
  • 大きさは数ミリから数センチまで様々

感染時の症状

  • 押すと強い痛み
  • 拍動性の痛み
  • 膿の排出
  • 発熱を伴うこともある

診断方法

  • 視診・触診による診断が基本
  • 超音波検査で内容物の確認
  • 感染の有無の評価

治療法 非感染時は経過観察が可能ですが、感染を起こした場合は以下の治療が必要です:

  • 抗生物質の投与
  • 切開排膿
  • 根治的摘出術(感染が落ち着いてから)

2. 粉瘤(アテローム)

粉瘤は皮膚の下にできる袋状の構造物で、その中に角質や皮脂などが溜まった状態です。皮脂腺嚢腫と似ていますが、発生機序が異なります。

症状の特徴

  • 皮膚の下の可動性のある腫瘤
  • 中央に黒点状の開口部があることが多い
  • 圧迫すると悪臭のある内容物が出ることがある
  • 感染すると急激に痛みが生じる

感染性粉瘤の症状

  • 激しい痛み
  • 周囲の発赤・腫脹
  • 熱感
  • 膿の流出

治療の考え方

  • 非感染時:手術による完全摘出
  • 感染時:まず感染の治療を優先
  • 抗生物質治療
  • 必要に応じて切開排膿

3. 毛巣洞(もうそうどう)

毛巣洞は、主に尾骨部(お尻の上部)に発生しやすい疾患ですが、背中の下部にも生じることがあります。毛髪が皮膚に埋没することで炎症を起こします。

症状の特徴

  • 尾骨部から腰部にかけての腫瘤
  • 慢性的な痛みと腫れ
  • 膿の流出を繰り返す
  • 坐位で痛みが増強

診断と治療

  • MRI検査で病変の範囲を確認
  • 外科的切除が根治治療
  • 術後の創部管理が重要

4. 脂肪腫

脂肪腫は脂肪細胞からなる良性腫瘍で、全身どこにでも発生する可能性があります。背中も好発部位の一つです。

症状の特徴

  • 通常は無痛性
  • やわらかく可動性のある腫瘤
  • ゆっくりと増大
  • 神経を圧迫すると痛みが生じることがある

神経圧迫による痛み

  • 大きな脂肪腫が神経を圧迫
  • しびれや放散痛
  • 筋力低下を伴うこともある

診断方法

  • MRI検査が有用
  • 脂肪組織の信号パターンで診断
  • 悪性脂肪肉腫との鑑別が重要

治療法

  • 無症状であれば経過観察
  • 痛みや機能障害があれば手術適応
  • 局所麻酔下での摘出が可能

5. 軟部組織肉腫

軟部組織肉腫は筋肉、脂肪、結合組織などから発生する悪性腫瘍です。比較的稀な疾患ですが、背中にも発生することがあります。

症状の特徴

  • 急速に増大する硬い腫瘤
  • 初期は無痛のことが多い
  • 進行すると痛みが出現
  • 周囲組織への浸潤

危険な兆候

  • 5cm以上の大きさ
  • 急速な増大
  • 硬い腫瘤
  • 深部に位置する
  • 痛みを伴う

診断と治療

  • MRI検査による詳細な評価
  • 生検による組織診断
  • 集学的治療(手術、化学療法、放射線療法)

6. 感染性疾患

背中の感染性疾患には以下のようなものがあります:

蜂窩織炎(ほうかしきえん)

  • 皮膚深層から皮下組織の細菌感染
  • 広範囲の発赤、腫脹、痛み
  • 発熱を伴うことが多い
  • 抗生物質による治療が必要

膿瘍形成

  • 限局した膿の貯留
  • 拍動性の強い痛み
  • 波動感(ゆれる感じ)
  • 切開排膿が必要

7. その他の原因

リンパ節腫大

  • 感染や悪性疾患による腫大
  • 圧痛を伴うことが多い
  • 全身状態の評価が必要

筋肉の腫瘤

  • 筋繊維腫
  • 筋内血腫
  • 筋断裂後の瘢痕組織

症状の詳細な観察ポイント

背中のしこりを発見した際には、以下の点を詳しく観察することが重要です。

1. しこりの性状

大きさ

  • 直径や厚みを測定
  • 時間経過による変化を記録
  • 急速な増大は要注意

硬さ

  • やわらかい:脂肪腫、嚢腫
  • 硬い:悪性腫瘍、瘢痕組織
  • 弾性硬:良性腫瘍

表面の性状

  • 滑らか:良性腫瘍の特徴
  • 不整:悪性腫瘍の可能性
  • 発赤:炎症や感染の存在

可動性

  • 可動性あり:良性の可能性が高い
  • 可動性なし:周囲組織への浸潤の可能性

2. 痛みの特徴

痛みの種類

  • 鋭い痛み:感染、炎症
  • 鈍い痛み:圧迫、腫瘍
  • 拍動性の痛み:膿瘍、感染

痛みの誘発要因

  • 圧迫で増強:感染性疾患
  • 体位による変化:神経圧迫
  • 運動時の増悪:筋肉・軟部組織の問題

痛みの放散

  • 神経に沿った放散痛
  • 関連痛の有無

3. 随伴症状

局所症状

  • 発赤、腫脹、熱感
  • 膿の排出
  • 皮膚の変色

全身症状

  • 発熱、悪寒
  • 倦怠感
  • 食欲不振
  • 体重減少

診断の流れと検査方法

1. 問診

医師は以下の項目について詳しく聞き取りを行います:

現病歴

  • いつ頃から気づいたか
  • 大きさの変化
  • 痛みの性質と経過
  • 誘発要因

既往歴

  • 過去の手術歴
  • アレルギー歴
  • 服薬歴
  • がんの既往

家族歴

  • がんの家族歴
  • 遺伝性疾患の有無

2. 理学所見

視診

  • しこりの大きさ、形状
  • 皮膚の色調変化
  • 表面の性状
  • 周囲組織との関係

触診

  • 硬さ、可動性
  • 圧痛の有無
  • 境界の明瞭さ
  • 深さの評価

所属リンパ節の触診

  • 腋窩リンパ節
  • 鎖骨上リンパ節
  • 鼠径リンパ節

3. 画像検査

超音波検査

  • 簡便で無侵襲
  • 嚢胞性か充実性かの鑑別
  • 血流評価
  • リアルタイムでの観察

CT検査

  • 深部病変の評価
  • 周囲組織との関係
  • 転移の検索

MRI検査

  • 軟部組織のコントラストが良好
  • 病変の範囲の詳細な評価
  • 血管や神経との関係
  • 悪性度の推定

PET-CT検査

  • 悪性腫瘍の診断
  • 転移の検索
  • 治療効果の判定

4. 病理学的検査

細胞診

  • 注射針で細胞を採取
  • 簡便で外来で施行可能
  • 診断の補助的役割

組織生検

  • より多くの組織を採取
  • 確定診断が可能
  • 治療方針の決定に重要

術中迅速病理診断

  • 手術中に病理診断
  • 切除範囲の決定
  • 追加切除の要否判断

治療法の詳細

1. 保存的治療

経過観察

  • 良性で症状のないしこり
  • 定期的なサイズ測定
  • 症状の変化に注意

薬物療法

  • 感染に対する抗生物質
  • 炎症に対する消炎鎮痛剤
  • 痛みに対する鎮痛剤

理学療法

  • 筋肉由来の痛みに対して
  • マッサージ、温熱療法
  • ストレッチング

2. 外科的治療

局所麻酔下手術

  • 皮膚表面の小さな腫瘤
  • 外来での日帰り手術
  • 低侵襲で安全

全身麻酔下手術

  • 大きな腫瘤や深部病変
  • 完全な切除が可能
  • 入院が必要

腹腔鏡手術

  • 低侵襲手術
  • 美容的に優れる
  • 回復が早い

3. その他の治療法

レーザー治療

  • 小さな皮膚病変
  • 瘢痕が目立ちにくい
  • 外来で施行可能

冷凍療法

  • 液体窒素による治療
  • 表面の病変に有効
  • 複数回の治療が必要

硬化療法

  • 嚢胞性病変に対して
  • 薬剤注入による治療
  • 低侵襲

いつ医療機関を受診すべきか

以下のような症状や状況では、早急に医療機関を受診することをお勧めします:

緊急性の高い症状

感染徴候

  • 激しい痛みと発赤
  • 高熱(38度以上)
  • 膿の流出
  • 赤い筋状の線(リンパ管炎)

悪性を疑う徴候

  • 急速な増大(1ヶ月で2倍以上)
  • 硬く可動性のないしこり
  • 5cm以上の大きさ
  • 体重減少、食欲不振

神経症状

  • しびれや麻痺
  • 筋力低下
  • 激しい放散痛

比較的早期の受診が推奨される状況

持続する症状

  • 2週間以上続く痛み
  • 徐々に大きくなるしこり
  • 日常生活に支障をきたす痛み

不安を伴う場合

  • がんへの不安が強い
  • 睡眠に影響する
  • 仕事や学業に集中できない

予防とセルフケア

1. 日常生活での注意点

皮膚の清潔保持

  • 毎日の入浴・シャワー
  • 適切な石鹸の使用
  • 清潔なタオルの使用

適切なスキンケア

  • 保湿剤の使用
  • 紫外線対策
  • 刺激の少ない化粧品の選択

生活習慣の改善

  • 規則正しい生活
  • 適度な運動
  • ストレス管理
  • 禁煙・適度な飲酒

2. セルフチェックの方法

月1回の自己検査

  • 鏡を使用した視診
  • 手による触診
  • 大きさや硬さの変化をチェック

記録の重要性

  • 写真による記録
  • サイズの測定
  • 症状の変化を日記に記載

3. 応急処置

痛みがある場合

  • 冷却(急性期)
  • 安静
  • 市販の鎮痛剤の適切な使用

してはいけないこと

  • 強く押したり揉んだりする
  • 自分で切開しようとする
  • 内容物を無理に絞り出す

心理的サポートの重要性

1. 不安への対処

情報収集の重要性

  • 正しい医学情報の入手
  • 信頼できる医療機関への相談
  • セカンドオピニオンの活用

家族・友人のサポート

  • 不安や心配事の共有
  • 受診時の付き添い
  • 治療中の支援

2. 医療者とのコミュニケーション

質問事項の準備

  • 気になる症状を整理
  • 治療選択肢の確認
  • 予後に関する質問

治療方針の理解

  • 治療の必要性
  • 治療のリスクと利益
  • 代替治療法の有無

まとめ

背中にできるしこりで押すと痛いものは、多くの場合良性の疾患ですが、中には悪性腫瘍や感染症など、積極的な治療を要するものも含まれています。重要なのは、症状を正確に観察し、適切なタイミングで医療機関を受診することです。

重要なポイント

  1. 早期発見: 定期的なセルフチェックによる早期発見
  2. 適切な評価: 専門医による詳しい診察と検査
  3. 個別化治療: 患者さん一人一人に適した治療法の選択
  4. 継続的フォロー: 治療後の定期的な経過観察

最終的な判断は医師に委ねる

この記事では背中のしこりについて詳しく解説しましたが、最終的な診断と治療方針の決定は、必ず医療機関で専門医の診察を受けることが不可欠です。症状に不安を感じたら、早めに皮膚科や外科、または総合診療科を受診し、適切な医療を受けることをお勧めします。

また、定期的な健康診断を受けることで、様々な疾患の早期発見につながります。健康な生活を維持するために、日頃からの体調管理と定期的な医療機関での検査を心がけましょう。


参考文献

  1. 日本皮膚科学会. “皮膚腫瘍ガイドライン”. https://www.dermatol.or.jp/
  2. 日本外科学会. “軟部組織腫瘍の診断と治療”. https://www.jssoc.or.jp/
  3. 日本がん学会. “軟部肉腫取扱い規約”. https://www.jca.gr.jp/
  4. 厚生労働省. “がん情報サービス”. https://ganjoho.jp/
  5. 日本病理学会. “軟部組織腫瘍の病理診断”. https://pathology.or.jp/
  6. 医学中央雑誌刊行会. “医中誌Web”. https://www.jamas.or.jp/

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監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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