皮膚にぷっくりとしたしこりができて、「これは何だろう?」と不安に思ったことはありませんか?それは「粉瘤(ふんりゅう)」かもしれません。粉瘤は誰にでもできる可能性がある良性の皮膚腫瘍ですが、実は「できやすい人」には一定の特徴があることが分かっています。
本コラムでは、粉瘤がどのような方にできやすいのか、その原因や特徴について詳しく解説いたします。また、粉瘤の予防法や治療についても併せてご紹介しますので、皮膚の健康管理にお役立てください。

粉瘤(ふんりゅう)とは?
粉瘤の基本的な定義
粉瘤とは、正式には「表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)」または「アテローム」と呼ばれる良性の皮膚腫瘍です。皮膚の内側に袋状の構造物(嚢腫)ができ、その中に本来であれば自然に剥がれ落ちるはずの角質や皮脂などの老廃物が蓄積することで形成されます。
粉瘤は「脂肪の塊」と誤解されることもありますが、実際には脂肪ではなく、皮膚の老廃物が溜まったものです。時間の経過とともに内容物が増加し、徐々に大きくなっていくのが特徴的です。
粉瘤の主な特徴
外観的特徴
- 皮膚の下にできる半球状のしこり
- 大きさは数mm〜数cm(場合によっては10cm以上になることも)
- 表面は正常な皮膚色から淡青色
- 中央部に小さな黒い点(開口部)があることが多い
- 触ると弾力があるものから硬いものまで様々
症状的特徴
- 通常は痛みを伴わない
- 炎症を起こすと赤く腫れ、痛みが生じる
- 圧迫すると白いドロドロした内容物が出ることがある
- 独特の臭いを発することがある(全ての粉瘤に臭いがあるわけではない)
粉瘤ができやすい人の特徴
1. 性別による違い
医学的な統計によると、粉瘤は女性よりも男性に多く見られることが明らかになっています。この性差にはいくつかの理由があります。
男性に多い理由
- 男性ホルモンの影響:テストステロンなどの男性ホルモンは皮脂腺の活動を活発にし、皮脂の分泌量を増加させます
- 皮脂分泌の差:男性は女性に比べて皮脂分泌量が多く、毛穴が詰まりやすい傾向にあります
- 新陳代謝:男性の方が新陳代謝が活発で、角質の生成量も多くなりがちです
- スキンケア習慣:一般的に男性は女性に比べてスキンケアに対する意識が低く、毛穴の詰まりを防ぐケアが不十分になりやすい
ただし、これは統計的な傾向であり、女性にも粉瘤は十分に発生する可能性があることを理解しておくことが重要です。
2. 年齢による発生傾向
粉瘤の発生には明確な年齢的傾向があります。
最も発生しやすい年齢層
- 20歳〜60歳:この年代での発生が最も多い
- 成人期:皮脂腺からの分泌が活発で、新陳代謝が盛んな時期
- 中年期:ホルモンバランスの変化や皮膚の老化が始まる時期
年齢別の特徴
- 思春期以前:非常に稀
- 20代〜30代:皮脂分泌が活発で発生しやすい
- 40代〜50代:ホルモンバランスの変化により発生リスクが高まる
- 60代以降:新陳代謝の低下により発生頻度は減少傾向
3. 体質的要因
粉瘤の発生には個人の体質が大きく影響することが知られています。
粉瘤ができやすい体質の特徴
皮脂分泌が多い体質
- 脂性肌(オイリースキン)の方
- 皮脂腺が発達している方
- ホルモンバランスにより皮脂分泌が促進されやすい方
汗をかきやすい体質
- 多汗症の方
- 運動量が多く日常的に発汗量が多い方
- 代謝が活発な方
皮膚のターンオーバーが乱れやすい体質
- 角質の生成・剥離のサイクルが不安定な方
- ストレスの影響を受けやすい方
- 睡眠不足やホルモンバランスの乱れが生じやすい方
4. 遺伝的要因
粉瘤には遺伝的な要素も関与していることが分かっています。
遺伝性疾患との関連
- 外毛根鞘性嚢腫:家族性に発生することが多く、頭部にできやすい
- ガードナー症候群:粉瘤が多発する遺伝性疾患
- ゴーリン症候群:多数の皮膚腫瘍を生じる遺伝性疾患
家族歴の影響 粉瘤の家族歴がある方は、そうでない方に比べて発生リスクが高くなる可能性があります。ただし、遺伝的要因がなくても粉瘤は発生するため、家族歴がないからといって安心することはできません。
5. ホルモンバランスの影響
ホルモンバランスは粉瘤の発生に大きな影響を与えます。
ホルモンバランスが乱れやすい状況
- 思春期:性ホルモンの急激な変化
- 妊娠・出産:女性ホルモンの大きな変動
- 更年期:ホルモンレベルの急激な低下
- ストレス:コルチゾールなどのストレスホルモンの影響
- 睡眠不足:成長ホルモンや性ホルモンの分泌異常
ホルモンが皮膚に与える影響
- 皮脂腺の活動促進
- 角質の生成促進
- 皮膚のターンオーバー周期の変化
- 毛穴の詰まりやすさの増加
生活習慣と粉瘤の関係
食生活の影響
直接的な因果関係は明確ではありませんが、食生活が皮膚の状態に影響を与え、間接的に粉瘤の発生リスクに関与する可能性があります。
リスクを高める可能性のある食習慣
- 高脂質な食事:皮脂分泌の増加につながる可能性
- 高糖質な食事:血糖値の急激な変化がホルモンバランスに影響
- 暴飲暴食:代謝バランスの乱れ
- アルコールの過剰摂取:肝機能への影響による老廃物の蓄積
皮膚の健康をサポートする栄養素
- ビタミンA:皮膚のターンオーバーを正常化
- ビタミンE:抗酸化作用により皮膚の健康を維持
- ビタミンB群:皮脂分泌の調整
- 亜鉛:皮膚の修復や再生をサポート
ストレスの影響
ストレスは様々な経路で粉瘤の発生リスクを高める可能性があります。
ストレスが皮膚に与える影響
- ホルモンバランスの乱れ:コルチゾールの過剰分泌
- 免疫機能の低下:皮膚の防御機能の減退
- 血行不良:皮膚への栄養供給の悪化
- 睡眠の質の低下:成長ホルモンの分泌不足
睡眠と粉瘤の関係
睡眠不足や睡眠の質の低下は、皮膚の健康に大きな影響を与えます。
睡眠不足による影響
- 成長ホルモンの分泌減少:皮膚の修復・再生能力の低下
- ホルモンバランスの乱れ:皮脂分泌の異常
- ストレス耐性の低下:コルチゾールレベルの上昇
- 免疫機能の低下:皮膚の防御力減退
粉瘤ができやすい部位
特にできやすい部位
粉瘤は理論上、皮膚があるどの部位にも発生する可能性がありますが、特定の部位にできやすい傾向があります。
最も多い発生部位
- 顔:特に頬、額、顎周り
- 首:首周りや襟元
- 耳の周辺:耳たぶや耳の後ろ
- 背中:肩甲骨周辺
- 胸部:胸や胸の谷間
これらの部位に共通する特徴
- 皮脂腺が多い:皮脂の分泌が活発
- 毛穴が多い:毛包の数が多い
- 摩擦を受けやすい:衣服や髪の毛による摩擦
- 汚れが蓄積しやすい:洗いにくい、または洗い残しが生じやすい
部位別の特徴
顔の粉瘤
- 皮脂腺が特に発達している
- 化粧品による毛穴の詰まり
- 紫外線による皮膚ダメージ
- 触る機会が多い
首の粉瘤
- 衣服の襟による摩擦
- 汗が蓄積しやすい
- 洗い残しが生じやすい
- ヘアケア製品の影響
背中の粉瘤
- 汗が蓄積しやすい
- 洗いにくい部位
- 衣服による摩擦
- 皮脂腺が多い
耳周辺の粉瘤
- 洗い残しが生じやすい
- 髪の毛による摩擦
- イヤホンやアクセサリーによる刺激
- 皮脂の蓄積

粉瘤の原因について
主な発生メカニズム
粉瘤の正確な発生原因は完全には解明されていませんが、以下のようなメカニズムが考えられています。
毛包の閉塞
- 毛穴の出口が何らかの原因で詰まる
- 角質や皮脂が毛包内に蓄積
- 毛包壁が拡張して袋状構造を形成
外傷による皮膚の変化
- 外傷や手術痕による皮膚の修復過程で異常が生じる
- 表皮の一部が真皮内に迷入
- 迷入した表皮が袋状構造を形成
ウイルス感染
- ヒトパピローマウイルス(HPV)感染
- 特に手のひらや足の裏の粉瘤
- ウイルス性いぼから粉瘤へ発展
原因別の特徴
外傷性粉瘤
- 打撲や切り傷の痕にできる
- 手術痕にできることもある
- 比較的発生が予測しやすい
感染性粉瘤
- ウイルス感染が関与
- 手のひら、足の裏に多い
- 複数発生することがある
体質性粉瘤
- 明確な原因が特定できない
- 遺伝的要因が関与している可能性
- 繰り返し発生する傾向
粉瘤の症状と見分け方
初期症状
典型的な初期症状
- 皮膚の下の小さなしこり(数mm〜1cm程度)
- 触っても痛みはない
- 皮膚表面は正常
- 時間とともにゆっくりと大きくなる
進行した症状
サイズの増大
- 1cm以上に成長
- 場合によっては10cm以上になることも
- 成長速度は一般的にゆっくり
外観の変化
- 中央部に小さな黒い点(開口部)が現れる
- 皮膚の色調変化(淡青色など)
- 表面の皮膚が薄くなる
炎症を起こした場合の症状
炎症性粉瘤の特徴
- 急激な腫大
- 赤み・腫れ
- 痛みや圧痛
- 発熱感
- 膿の形成
- 強い臭い
注意すべき症状
- 急速な大きさの変化
- 強い痛み
- 発熱
- 膿の流出
- 周囲の皮膚の発赤
他の疾患との鑑別
ニキビとの違い
粉瘤の特徴
- サイズが大きい(1cm以上になることが多い)
- 成長が遅い
- 中央に開口部がある
- 独特の臭いがある
- 自然治癒しない
ニキビの特徴
- サイズが小さい(通常1cm以下)
- 比較的急速に発症・変化
- 開口部は通常ない
- 臭いは少ない
- 自然治癒することがある
脂肪腫との違い
粉瘤の特徴
- 比較的硬い
- 皮膚との境界が不明瞭
- 開口部がある場合が多い
- 炎症を起こすことがある
脂肪腫の特徴
- 柔らかく弾力がある
- 皮膚との境界が明瞭
- 開口部はない
- 炎症を起こすことは稀
おでき(癤)との違い
粉瘤の特徴
- 慢性的な経過
- 痛みは炎症時のみ
- 中央に開口部
- サイズが大きくなる
おできの特徴
- 急性の経過
- 初期から痛みがある
- 膿点がある
- サイズは一定
粉瘤の予防法
基本的な予防原則
粉瘤の発生原因が完全に解明されていないため、確実な予防法は存在しませんが、発生リスクを低減する方法があります。
スキンケアによる予防
適切な洗浄
- 毎日の入浴・シャワーで皮膚を清潔に保つ
- 特に皮脂分泌の多い部位は丁寧に洗浄
- 洗いすぎによる皮脂の過剰分泌に注意
- 洗浄後は十分にすすぐ
毛穴ケア
- 週1〜2回の角質除去ケア
- 適度な保湿で皮膚バリア機能を維持
- 毛穴詰まりを防ぐ適切なスキンケア製品の使用
注意点
- 過度なスキンケアは皮膚刺激となる場合がある
- 個人の肌質に合った製品選択が重要
- 新しいスキンケア製品は少量からテスト使用
生活習慣の改善
規則正しい睡眠
- 7〜8時間の質の良い睡眠
- 規則正しい就寝・起床時間
- 睡眠環境の整備
ストレス管理
- 適度な運動習慣
- リラクゼーション技術の習得
- 趣味や娯楽の時間確保
- 必要に応じて専門家への相談
バランスの取れた食生活
- 皮膚の健康に必要な栄養素の摂取
- ビタミンA、E、B群を意識した食事
- 過度な脂質・糖質の摂取を控える
- 十分な水分摂取
外傷の予防と適切な処置
外傷予防
- 皮膚を傷つけないよう注意
- 適切な保護具の使用
- 危険な作業時の注意
外傷時の対応
- 傷口の適切な清拭・消毒
- 必要に応じて医療機関での処置
- 傷跡の適切なケア
治療について
治療の必要性
治療を検討すべき状況
- 美容上気になる場合
- 大きくなっている場合
- 炎症を繰り返す場合
- 悪性化の心配がある場合
- 日常生活に支障をきたす場合
治療のタイミング 粉瘤は自然治癒することがないため、気になる場合は早めの治療がお勧めです。小さいうちに治療を行う方が、手術時間も短く、傷跡も目立ちにくくなります。
治療方法
外科的切除
- 切開法:粉瘤の上を切開して完全に摘出
- くり抜き法:小さな穴から粉瘤を摘出
- 局所麻酔下での日帰り手術が一般的
炎症を起こした場合
- まず抗生剤による炎症の治療
- 必要に応じて切開・排膿
- 炎症が治まってから根治手術
手術後のケア
術後の注意事項
- 手術当日の運動・入浴制限
- 創部の清潔保持
- 定期的な通院での経過観察
- 抜糸まで約1週間
合併症について
- 感染:適切なケアで予防可能
- 再発:袋を完全に摘出すれば再発リスクは低い
- 瘢痕:体質によりケロイドや肥厚性瘢痕の可能性
よくある質問
A1: 粉瘤自体が直接遺伝するわけではありませんが、粉瘤ができやすい体質は遺伝する可能性があります。特に外毛根鞘性嚢腫などの特定の種類では家族性発生が多く報告されています。家族歴がある方は、定期的に皮膚の状態をチェックすることをお勧めします。
A2: 粉瘤を自分で潰すことは絶対に避けてください。以下のようなリスクがあります:
細菌感染による炎症の悪化
袋の一部が残ることによる再発
周囲組織への感染拡大
瘢痕形成の悪化
気になる場合は必ず医療機関での適切な治療を受けてください。
A3: 粉瘤のほとんどは良性の腫瘍であり、癌化することは非常に稀です。しかし、以下のような変化がある場合は注意が必要です:
急速な成長
硬さの変化
色調の著明な変化
潰瘍形成
このような変化がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。
A4: 手術は局所麻酔下で行うため、手術中の痛みはほとんどありません。麻酔時に軽い痛みを感じることがありますが、数秒程度です。術後も適切な鎮痛剤により痛みは十分にコントロール可能です。
A5: 手術跡の目立ちやすさは以下の要因によって決まります:
粉瘤の大きさ
発生部位
個人の体質(ケロイド体質など)
術後のケア
一般的には、時間の経過とともに手術跡は目立たなくなります。美容上気になる部位の場合は、形成外科専門医による治療をお勧めします。
まとめ
粉瘤は誰にでも発生する可能性がある良性の皮膚腫瘍ですが、以下のような方により発生しやすい傾向があります:
粉瘤ができやすい人の特徴
- 男性(女性より発生頻度が高い)
- 20〜60歳の成人
- 皮脂分泌が多い体質の方
- ホルモンバランスが乱れやすい方
- ターンオーバーが不安定な方
- 家族歴がある方
- ストレスが多い生活を送っている方
重要なポイント
- 粉瘤は自然治癒しないため、気になる場合は早期の治療がお勧め
- 自分で潰すことは絶対に避ける
- 炎症を起こした場合は速やかに医療機関を受診
- 予防には適切なスキンケアと生活習慣の改善が重要
- 小さいうちに治療を行う方が、傷跡も目立ちにくい
粉瘤でお悩みの方は、一人で悩まず、皮膚科専門医にご相談ください。アイシークリニック上野院では、粉瘤の診断から治療まで、患者様一人一人に合わせた最適な治療法をご提案いたします。皮膚の健康に関するご質問やご相談がございましたら、お気軽にお声かけください。
参考文献
- 日本皮膚科学会. “皮膚腫瘍診療ガイドライン”. 2019年版
- 兵庫医科大学病院. “粉瘤(アテローム・表皮嚢腫)”. みんなの医療ガイド
- Cleveland Clinic. “Epidermoid Cysts”. Patient Education Materials
- 日本形成外科学会. “粉瘤(アテローム・表皮嚢腫)”. 形成外科で扱う疾患
- Verywell Health. “Epidermoid Cyst Causes and Risk Factors”. 2024
※本記事は医学的知識の普及を目的としたものであり、個別の診断や治療に関しては、必ず医師にご相談ください。
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監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務