はじめに
腕に突然しこりができて、押すと痛みを感じる――そんな経験をされたことはありませんか?日常生活の中で腕に違和感を覚え、触ってみるとしこりがあり、さらに押すと痛みがあると、多くの方が不安を感じるものです。
腕にできるしこりは、良性のものから注意が必要なものまで、さまざまな原因が考えられます。痛みの有無やしこりの性質は、その原因を判断する重要な手がかりとなります。特に「押すと痛い」という症状は、炎症や感染が関与している可能性を示唆することが多く、早期の適切な対応が求められる場合もあります。
本記事では、アイシークリニック上野院の知見をもとに、腕にできるしこりのうち「押すと痛い」症状を伴うものについて、その原因、特徴、診断方法、治療法まで詳しく解説いたします。ご自身の症状と照らし合わせながら、適切な対処法を見つけていただければ幸いです。

腕のしこりの基本知識
しこりとは何か
しこりとは、皮膚の下や筋肉内に形成される硬い塊状の腫瘤のことを指します。医学的には「腫瘤(しゅりゅう)」や「結節」と呼ばれることもあります。しこりは、皮膚のすぐ下にできる浅いものから、筋肉や骨に近い深い部分にできるものまで、その位置はさまざまです。
腕にできるしこりの特徴
腕は日常生活で頻繁に使用する部位であり、外傷を受けやすく、また皮脂腺や汗腺、リンパ節なども存在するため、さまざまな原因でしこりができやすい場所といえます。腕のしこりには以下のような特徴があります。
- 可動性: 良性のしこりは皮膚や筋肉との癒着が少なく、指で押すと動くことが多い
- 硬さ: しこりの硬さは原因によって異なり、柔らかいものから石のように硬いものまである
- 痛みの有無: 押して痛みがある場合は、炎症や感染が関与している可能性が高い
- 大きさの変化: 急速に大きくなるもの、ゆっくり成長するもの、大きさが変わらないものがある
痛みを伴うしこりの意味
「押すと痛い」という症状は、医学的に重要な情報です。一般的に、良性のしこりの多くは痛みを伴わないことが多いですが、以下のような場合に痛みが生じます。
- 炎症を起こしている
- 感染している
- 急速に大きくなっている
- 周囲の神経を圧迫している
- 外傷により損傷を受けている
痛みの有無は、診断や治療方針を決定する上で重要な判断材料となります。
押すと痛い腕のしこりの主な原因
腕にできて押すと痛いしこりには、いくつかの代表的な原因があります。それぞれの特徴を理解することで、ご自身の症状がどれに該当するか推測する手がかりとなります。
1. 粉瘤(アテローム)
粉瘤とは
粉瘤は、皮膚の下に袋状の構造物ができ、その中に角質や皮脂などの老廃物が溜まってできる良性の腫瘤です。正式には「表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)」と呼ばれます。
特徴
- 皮膚の下に丸い球状のしこりとして触れる
- 中央に黒い点(開口部)が見えることがある
- 通常は痛みがないが、細菌感染を起こすと炎症性粉瘤となり、赤く腫れて強い痛みを伴う
- 感染すると急速に大きくなり、膿が溜まることもある
- 腕だけでなく、顔や背中、耳たぶなど体のどこにでもできる
なぜ痛くなるのか
粉瘤そのものは基本的に痛みを伴いませんが、以下のような場合に痛みが生じます。
- 細菌感染: 粉瘤の開口部から細菌が侵入し、炎症を起こす(炎症性粉瘤)
- 破裂: 内容物が増えて袋が破れ、周囲の組織に炎症を引き起こす
- 圧迫: しこりが大きくなり、周囲の神経を圧迫する
炎症性粉瘤は、赤く腫れ上がり、触れるだけでも強い痛みを感じることがあります。膿が溜まっている場合は、波動(押すとぶよぶよした感触)を触れることもあります。
治療法
炎症を起こしていない粉瘤は、小さな切開による摘出手術で根治できます。一方、炎症性粉瘤の場合は、まず抗生物質の投与や切開排膿で炎症を鎮めてから、炎症が治まった後に摘出手術を行うのが一般的です。
2. 脂肪腫
脂肪腫とは
脂肪腫は、皮下脂肪組織が増殖してできる良性の腫瘍です。40〜60歳代に多く見られ、男性よりも女性にやや多い傾向があります。
特徴
- 柔らかくて弾力性のあるしこり
- 境界が明瞭で、押すと少し動く
- 通常はゆっくりと成長し、数センチ程度の大きさになることが多い
- 基本的には痛みを伴わない
なぜ痛くなるのか
脂肪腫は通常痛みを伴いませんが、以下のような状況で痛みが生じることがあります。
- 血管脂肪腫: 血管成分が多い場合、押すと痛むことがある
- 神経線維脂肪腫: 神経組織を含む場合、圧迫により痛みを感じることがある
- 急速な増大: 急に大きくなった場合、周囲組織を圧迫して痛みを生じる
- 外傷: ぶつけたり強く押したりした後に痛みを感じることがある
治療法
小さく症状のない脂肪腫は経過観察で問題ありませんが、痛みがある、大きくなっている、美容的に気になるなどの場合は、外科的切除が検討されます。
3. リンパ節の腫れ
リンパ節とは
リンパ節は、体内の免疫システムの一部で、細菌やウイルスなどの病原体と戦う重要な役割を担っています。腕には腋窩(わきの下)や肘の内側にリンパ節が存在します。
特徴
- 豆粒大から小指の先ほどの大きさの腫れ
- 表面が滑らかで、やや硬い
- 複数のリンパ節が腫れることもある
- 発熱や倦怠感を伴うこともある
なぜ痛くなるのか
リンパ節が腫れて痛みを伴う場合、以下のような原因が考えられます。
- 感染症: 腕や手の傷口からの細菌感染、ウイルス感染など
- 炎症: リンパ節自体に炎症が起きている(リンパ節炎)
- 腫瘍: 悪性リンパ腫などの疾患(この場合、通常は痛みを伴わないことが多い)
一般的に、感染症による急性のリンパ節腫脹は痛みを伴い、悪性腫瘍によるものは痛みを伴わないことが多いとされています。ただし、これは絶対的な判断基準ではありません。
治療法
原因となっている感染症の治療を行うことで、多くの場合リンパ節の腫れも改善します。抗生物質や抗ウイルス薬の投与、局所の安静などが行われます。
4. 毛包炎・皮下膿瘍
毛包炎・皮下膿瘍とは
毛包炎は毛穴(毛包)に細菌が感染して炎症を起こした状態、皮下膿瘍はより深い部分に膿が溜まった状態を指します。
特徴
- 赤く腫れた盛り上がり
- 触れると温かく、強い痛みを伴う
- 中心に膿の頭(白色や黄色)が見えることがある
- 周囲の皮膚も赤くなることがある
なぜ痛くなるのか
毛包炎や皮下膿瘍では、細菌感染による炎症反応が起こっているため、強い痛みを伴います。炎症部位では、以下のような変化が生じています。
- 血管拡張による発赤
- 血液成分の漏出による腫脹
- 炎症性物質の産生による痛み
- 膿(白血球と細菌の残骸)の蓄積による圧迫
治療法
早期の毛包炎は、抗生物質の外用薬や内服薬で治療できます。膿が溜まっている場合は、切開して排膿する処置が必要になることもあります。
5. ガングリオン
ガングリオンとは
ガングリオンは、関節の周囲や腱鞘にできる袋状の腫瘤で、中にゼリー状の粘液が溜まったものです。手首や手の甲に多く見られますが、肘関節の近くにもできることがあります。
特徴
- 関節の近くにできる球状のしこり
- 表面が滑らかで、硬さは様々(柔らかいものから硬いものまで)
- 大きさは米粒大から数センチまで様々
- 押すと奥に動くような感覚がある
なぜ痛くなるのか
ガングリオンは基本的に痛みを伴わないことが多いですが、以下のような場合に痛みが生じます。
- 神経圧迫: ガングリオンが神経を圧迫している
- 関節の動きによる刺激: 動かすときに痛みを感じる
- 急速な増大: 急に大きくなった場合
- 炎症: ガングリオン周囲に炎症が起きている
治療法
無症状のガングリオンは経過観察で問題ありませんが、痛みがある、関節の動きを妨げるなどの場合は、注射器で内容物を吸引したり、手術で摘出したりします。
6. 血管腫・血管奇形
血管腫・血管奇形とは
血管腫は血管が増殖してできる良性の腫瘍、血管奇形は生まれつき血管の形成に異常がある状態です。
特徴
- 青紫色や赤色を呈することがある
- 柔らかく、押すと色が薄くなることがある
- 大きさや形は様々
なぜ痛くなるのか
血管腫や血管奇形で痛みが生じる場合は、以下のような原因が考えられます。
- 血栓形成: 血管内に血栓ができて痛みを生じる
- 急速な増大: 急に大きくなり、周囲組織を圧迫する
- 外傷: ぶつけたりして内出血を起こす
治療法
小さく症状のないものは経過観察、痛みや機能障害がある場合は、硬化療法、レーザー治療、手術などが検討されます。
7. 悪性腫瘍の可能性
悪性軟部腫瘍について
腕にできるしこりのほとんどは良性ですが、まれに悪性軟部腫瘍(肉腫)などの悪性腫瘍である可能性もあります。
注意すべき特徴
以下のような特徴がある場合は、悪性腫瘍の可能性を考慮する必要があります。
- 急速に大きくなる(数週間〜数ヶ月で明らかに大きくなる)
- 5cm以上の大きなしこり
- 硬くて動きが悪い(周囲組織と癒着している)
- 原因不明の痛みが続く
- 皮膚の表面に潰瘍ができる
- 全身症状(発熱、体重減少、倦怠感など)を伴う
痛みについて
悪性腫瘍は初期には痛みを伴わないことが多いですが、腫瘍が大きくなり神経を圧迫したり、周囲組織に浸潤したりすると痛みが生じることがあります。
重要性
悪性腫瘍は早期発見・早期治療が極めて重要です。上記のような特徴がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。
症状別の特徴と見分け方
腕のしこりを自己判断するのは難しいですが、以下のような症状の特徴を知ることで、緊急性の判断に役立ちます。
急性の炎症性変化を伴うしこり
特徴:
- 数日以内に急速に出現
- 赤く腫れている
- 熱感がある
- 強い痛みがある
- 膿が出ることがある
考えられる原因:
- 炎症性粉瘤
- 皮下膿瘍
- 毛包炎
- リンパ節炎
対処: 早めに医療機関を受診し、抗生物質による治療や排膿処置を受けることが重要です。
慢性的なしこりに急な変化が生じた場合
特徴:
- 以前からあったしこりが急に大きくなった
- 今まで痛くなかったのに痛みが出てきた
- 色が変わってきた
考えられる原因:
- 粉瘤の炎症化
- ガングリオンの増大
- 腫瘍の変化
対処: 変化が生じた場合は、医療機関で再評価を受けることをお勧めします。
ゆっくり成長するしこり
特徴:
- 数ヶ月〜数年かけてゆっくり大きくなる
- 痛みは軽度またはない
- 柔らかく、よく動く
考えられる原因:
- 脂肪腫
- 非炎症性の粉瘤
対処: 急を要することは少ないですが、定期的な経過観察や専門医の診察を受けることが望ましいです。
動いたり力を入れたりすると痛むしこり
特徴:
- 安静時の痛みは少ない
- 腕を動かしたり、力を入れたりすると痛む
- 関節の近くにある
考えられる原因:
- ガングリオン
- 腱鞘の炎症を伴うしこり
対処: 関節の動きに影響がある場合は、整形外科での診察が適切です。
医療機関を受診すべきタイミング
腕にしこりができた場合、以下のような症状があるときは、速やかに医療機関を受診することをお勧めします。
すぐに受診すべき症状
- 強い痛みと炎症がある: 赤く腫れて熱を持ち、強く痛む場合
- 急速に大きくなる: 数日〜数週間で明らかに大きくなる
- 発熱や全身症状を伴う: 高熱、寒気、倦怠感などがある
- しこりから膿や血が出る: 開口部から内容物が出てくる
- 腕の動きが制限される: 痛みで腕が動かせない、可動域が制限される
早めに受診したほうがよい症状
- しこりが1ヶ月以上続いている: 自然に消失しない
- 徐々に大きくなっている: ゆっくりでも確実に大きくなっている
- 硬くて動きにくい: 周囲組織と癒着しているような感じがある
- 複数のしこりがある: 複数箇所にしこりができている
- しこりが5cm以上ある: 大きなしこりは精査が必要
- 原因不明の持続する痛みがある: 明らかな外傷などがないのに痛みが続く
経過観察でもよい場合
以下のような場合は、急を要することは少ないですが、気になる場合や変化が見られた場合は受診してください。
- 小さくて柔らかい
- 痛みがない、または軽度
- 長年変化していない
- 以前医療機関で良性と診断されている
ただし、自己判断は危険です。少しでも不安がある場合は、専門医に相談することをお勧めします。
診断方法
医療機関では、以下のような方法で腕のしこりの診断を行います。
問診
医師は以下のような質問をします。
- しこりに気づいたのはいつか
- 大きさや痛みの変化はあるか
- きっかけとなる出来事(外傷など)はあったか
- 他の症状(発熱、倦怠感など)はあるか
- 過去の病歴やアレルギーの有無
視診・触診
医師が実際にしこりを観察し、触れて診察します。以下のような点を確認します。
- しこりの大きさ、形、硬さ
- 皮膚との癒着の有無
- 圧痛(押したときの痛み)の有無
- 皮膚の色調や温度
- 波動感(液体が溜まっている感じ)の有無
- 拍動の有無
画像検査
超音波検査(エコー)
最も頻繁に使用される検査で、痛みもなく、リアルタイムでしこりの内部構造を観察できます。
- しこりの深さや大きさを正確に測定
- 内部が液体か固体かの判別
- 血流の有無を確認(カラードプラ法)
- 周囲組織との関係を評価
MRI検査
より詳細な情報が必要な場合に行われます。
- 軟部組織のコントラストが優れている
- しこりの性質や広がりを詳細に評価
- 悪性腫瘍の可能性がある場合に有用
CT検査
骨との関係や、深部のしこりの評価に用いられることがあります。
血液検査
感染症や炎症の程度を評価するために行うことがあります。
- 白血球数の測定(感染症の指標)
- CRP(C反応性タンパク)の測定(炎症の指標)
- 腫瘍マーカーの測定(悪性腫瘍が疑われる場合)
穿刺吸引細胞診
注射器でしこりの内容物や細胞を採取し、顕微鏡で観察する検査です。
- 液体の性状を確認
- 細胞の良悪性を判定
- 感染の有無を確認
組織生検
確定診断のために、しこりの一部または全部を切除して病理検査を行います。
- 腫瘍の種類を確定
- 悪性か良性かを判定
- 治療方針の決定に重要
治療方法
腕のしこりの治療は、その原因や症状に応じて選択されます。
保存的治療
経過観察
小さく症状のない良性のしこりは、経過観察で問題ない場合があります。定期的に大きさや症状の変化を確認します。
薬物療法
抗生物質:
- 感染性のしこり(炎症性粉瘤、皮下膿瘍、リンパ節炎など)に使用
- 内服薬または外用薬
- 症状に応じて7〜14日間程度の投与
消炎鎮痛薬:
- 痛みや炎症を和らげる
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)など
その他:
- ガングリオンに対するステロイド注射
- 血管腫に対する薬物療法
局所的な処置
- 温湿布や冷湿布
- 固定や安静
- 物理療法
外科的治療
切開排膿
膿が溜まっている炎症性粉瘤や皮下膿瘍に対して行います。
- 局所麻酔下で切開し、膿を排出
- 必要に応じてドレナージ(排膿管の留置)
- 炎症が治まった後、根治的な切除を検討
摘出手術
粉瘤の摘出:
- 炎症が治まった後に、袋ごと完全に摘出
- 局所麻酔で日帰り手術が可能
- 再発を防ぐためには完全摘出が重要
脂肪腫の切除:
- 局所麻酔または全身麻酔下で切除
- 大きさや部位により入院が必要な場合も
悪性腫瘍の切除:
- 広範囲切除が必要
- 術後の放射線療法や化学療法を組み合わせることも
穿刺吸引
ガングリオンの吸引:
- 注射器で内容物を吸引
- 外来で簡単に行える
- 再発率が高いため、繰り返し必要な場合は手術を検討
低侵襲治療
くり抜き法(粉瘤)
- 小さな粉瘤に対して行う
- 局所麻酔下で円形の穴を開けて内容物と袋を取り出す
- 傷跡が小さく、早期の社会復帰が可能
- アイシークリニックなどで積極的に行われている手法
レーザー治療
- 血管腫などに対して行われることがある
- 色素沈着や血管の拡張を改善
治療法の選択
治療法の選択には、以下の要素を総合的に考慮します。
- しこりの種類と性質
- 大きさと部位
- 症状の程度
- 患者さんの年齢や全身状態
- 美容的な配慮
- 患者さんの希望
担当医とよく相談し、最適な治療法を選択することが重要です。
自宅でのケアと注意点
医療機関を受診するまでの間や、軽度のしこりに対する自宅でのケア方法について説明します。
してよいこと
清潔の保持
- 患部を清潔に保つ
- 毎日優しく洗浄する
- 清潔なタオルで拭く
安静
- 患部を無理に動かさない
- 重い物を持つなど、負担のかかる動作を避ける
- 十分な休息を取る
冷却または温罨法
急性炎症がある場合(赤く腫れて熱がある):
- 冷たいタオルや保冷剤(タオルで包む)で冷やす
- 15〜20分程度、数回繰り返す
慢性的な痛みの場合:
- 温かいタオルで温める
- 血行を促進し、痛みを和らげる
痛みがある場合
- 市販の鎮痛薬(アセトアミノフェンやイブプロフェンなど)を適切に使用
- 用法用量を守る
- 症状が改善しない場合は医療機関へ
してはいけないこと
自己判断で潰したり刺したりする
- 感染を悪化させる危険性がある
- 周囲組織を傷つける可能性がある
- 傷跡が残ることがある
- 必ず医療機関で適切な処置を受ける
強く押したり揉んだりする
- 炎症を悪化させる
- 痛みが増強する
- 内容物が周囲に広がる可能性がある
不衛生な対応
- 汚れた手で触らない
- 消毒していない器具を使用しない
- 不潔な環境で処置しない
放置しすぎる
- 症状が悪化する前に受診する
- 特に以下の場合は早めの受診を
- 急速に大きくなる
- 痛みが増強する
- 発熱がある
- 赤みや腫れが広がる
日常生活での注意
- 患部を清潔に保つ
- 患部への刺激を避ける(きつい衣服、摩擦など)
- 規則正しい生活を心がける
- 十分な睡眠と栄養を取る
- ストレスを溜めない
- 免疫力を高める生活習慣を意識する
予防法
腕のしこりをすべて予防することは困難ですが、以下のような対策で発生リスクを減らすことができます。
皮膚の清潔を保つ
- 毎日の入浴やシャワーで皮膚を清潔に保つ
- 汗をかいたらこまめに拭く
- 通気性の良い衣服を選ぶ
外傷の予防と適切な処置
- 腕をぶつけたり傷つけたりしないように注意する
- 怪我をした場合は、すぐに適切な処置を行う
- 傷口を清潔に保ち、感染を防ぐ
- 深い傷や汚れた傷は医療機関で処置を受ける
適切なスキンケア
- 保湿を心がける
- 乾燥肌は皮膚のバリア機能が低下し、感染しやすくなる
- 刺激の少ないスキンケア製品を使用する
免疫力の維持
- バランスの取れた食事
- 適度な運動
- 十分な睡眠
- ストレス管理
- 禁煙
- 過度の飲酒を避ける
早期発見・早期治療
- 定期的に自分の体をチェックする
- 異常を見つけたら早めに医療機関を受診する
- 小さなしこりでも放置せず、気になる場合は相談する
既往歴のある方
粉瘤や脂肪腫などができやすい体質の方は、以下に注意してください。
- 以前できた部位を清潔に保つ
- 同じ場所に再発していないか定期的にチェックする
- 再発の兆候があれば早めに受診する

よくある質問(Q&A)
Q1: 腕のしこりは放っておいても大丈夫ですか?
A: しこりの種類によります。小さくて症状のない良性のしこりであれば、経過観察でも問題ない場合があります。しかし、以下のような場合は放置せず、医療機関を受診してください。
- 痛みがある
- 急速に大きくなる
- 赤く腫れている
- 1ヶ月以上消えない
- 硬くて動きにくい
自己判断は危険ですので、少しでも気になる場合は専門医に相談することをお勧めします。
A: 一般的に、悪性腫瘍は初期には痛みを伴わないことが多いです。痛みがあるしこりは、炎症や感染を伴う良性の病変であることが多いです。ただし、腫瘍が大きくなって神経を圧迫したり、周囲組織に浸潤したりすると痛みが生じることもあります。痛みの有無だけで良悪性を判断することはできませんので、必ず医療機関で診察を受けてください。
A: 粉瘤は自然に治ることはありません。炎症が治まって一時的に小さくなることはありますが、袋状の構造が残っているため、再び大きくなったり炎症を繰り返したりすることがあります。根治するには、袋ごと完全に摘出する手術が必要です。
A: 多くの場合、局所麻酔を使用して手術を行いますので、手術中の痛みはほとんどありません。麻酔の注射時にチクッとした痛みを感じることはありますが、その後は痛みを感じません。手術後は、痛み止めの薬を処方しますので、適切に使用すれば痛みをコントロールできます。
Q5: しこりができやすい体質があるのですか?
A: はい、体質により粉瘤や脂肪腫ができやすい方がいます。また、家族歴がある場合、同様にしこりができやすい傾向があることもあります。ただし、生活習慣や皮膚の清潔を保つことで、ある程度予防することができます。
Q6: 子どもにも腕のしこりはできますか?
A: はい、子どもにもしこりができることがあります。子どもに多いのは、リンパ節の腫れ、脂肪腫、血管腫などです。子どもの場合、成長に伴って自然に消失することもありますが、急速に大きくなる、痛がる、発熱があるなどの症状がある場合は、速やかに小児科や皮膚科を受診してください。
Q7: 腕のしこりの手術後、スポーツや仕事はいつから再開できますか?
A: しこりの大きさや部位、手術方法によって異なりますが、一般的には以下のような目安があります。
- デスクワーク: 手術翌日〜数日後
- 軽い運動: 1〜2週間後
- 重い物を持つ作業: 2〜4週間後
- 激しいスポーツ: 4〜6週間後
担当医の指示に従い、無理をせず徐々に活動を再開してください。
Q8: しこりの手術跡は目立ちますか?
A: 手術跡は、しこりの大きさや部位、手術方法によって異なります。現在は、美容的な配慮をした縫合方法や、傷跡が目立ちにくい「くり抜き法」などの低侵襲な手術方法も行われています。また、術後の適切なケアにより、傷跡を最小限にすることができます。気になる場合は、手術前に担当医に相談してください。
まとめ
腕にしこりができて押すと痛い場合、その原因は多岐にわたります。炎症性粉瘤、脂肪腫、リンパ節の腫れ、毛包炎、ガングリオンなど、多くは良性の病変ですが、中には早期の治療が必要なものもあります。
重要なポイント:
- 痛みは重要なサイン: 押すと痛いしこりは、炎症や感染が関与している可能性があり、早めの対処が必要です。
- 自己判断は危険: しこりの良悪性を自分で判断することは困難です。専門医の診察を受けることが重要です。
- 早期発見・早期治療: 小さなうちに適切な治療を行うことで、痛みや合併症を防ぎ、傷跡も最小限にできます。
- 以下の症状があれば速やかに受診:
- 強い痛みと炎症がある
- 急速に大きくなる
- 発熱や全身症状を伴う
- しこりから膿や血が出る
- 1ヶ月以上続いている
- 適切な治療を受ける: 自分で潰したり刺したりせず、医療機関で適切な処置や手術を受けることが大切です。
- 予防も大切: 皮膚の清潔を保ち、外傷を避け、健康的な生活習慣を心がけることで、ある程度予防できます。
アイシークリニック上野院では、腕のしこりに対する診察・治療を行っております。粉瘤の日帰り手術(くり抜き法)など、患者様の負担が少ない治療法も提供しています。腕のしこりでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
正確な診断と適切な治療により、多くの場合、腕のしこりは改善します。不安を抱えたまま過ごすよりも、専門医に相談し、安心して日常生活を送れるようにしましょう。
参考文献・参考サイト
本記事の作成にあたり、以下の信頼できる医療情報源を参考にしています。
- 日本皮膚科学会
皮膚疾患に関する専門的な情報を提供しています。
https://www.dermatol.or.jp/ - 日本形成外科学会
皮膚・軟部組織の腫瘍や外科的治療について詳しい情報があります。
https://www.jsprs.or.jp/ - 国立がん研究センター がん情報サービス
軟部腫瘍を含む、がんに関する正確な情報を提供しています。
https://ganjoho.jp/ - 厚生労働省
医療制度や健康に関する公的な情報源です。
https://www.mhlw.go.jp/ - 日本整形外科学会
ガングリオンなど、整形外科領域の疾患情報を提供しています。
https://www.joa.or.jp/
※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務