背中にできたほくろが気になっていませんか。自分では直接見えにくい背中は、ほくろの変化に気づきにくい部位です。実は、一見普通のほくろに見えても、皮膚がんの一種である悪性黒色腫(メラノーマ)が隠れている可能性があります。本記事では、背中にできる危険なほくろの特徴を写真で確認する際のポイント、良性のほくろとの見分け方、セルフチェック方法から医療機関での検査・治療まで、皮膚科専門の知見に基づいて詳しく解説します。早期発見・早期治療が何よりも大切な皮膚がん。この記事を読んで、ご自身やご家族の健康を守るための正しい知識を身につけてください。

目次
- 危ないほくろとは何か
- 背中にほくろができやすい理由
- 悪性黒色腫(メラノーマ)の基礎知識
- 危険なほくろを見分けるABCDEルール
- 背中のほくろを写真で確認する際のポイント
- 自分では見えにくい背中のセルフチェック方法
- 皮膚科での検査方法
- ほくろとメラノーマ以外の皮膚がんについて
- 悪性黒色腫と診断された場合の治療法
- 皮膚がんを予防するための紫外線対策
- 医療機関を受診すべきタイミング
- よくある質問
- まとめ
危ないほくろとは何か
ほくろは、医学的には「母斑細胞母斑」や「色素細胞母斑」と呼ばれる良性の皮膚腫瘍です。皮膚の色素を作り出すメラノサイト(色素細胞)が変化した母斑細胞が局所的に集まることで、黒や褐色の色素斑として皮膚に現れます。多くのほくろは幼少期から増え始め、20代から30代でピークを迎えます。ほとんどのほくろは良性で身体に害を及ぼすことはありません。
しかし、ほくろの中には「危ないほくろ」と呼ばれるものが存在します。これは、皮膚がんの可能性を含んでいるほくろのことを指します。特に注意が必要なのが、悪性黒色腫(メラノーマ)です。悪性黒色腫は、メラノサイトががん化して発生する非常に悪性度の高い皮膚がんで、初期段階ではほくろと見分けがつきにくいという特徴があります。
危険なほくろは「変化し続ける」という特徴を持っています。通常の良性のほくろは色が均一で、輪郭もはっきりしており、大きさも安定しています。一方、悪性の可能性があるほくろは、数週間から数ヶ月の間に形や色、大きさが変化することが多いのです。また、出血したり、かゆみや痛みを伴ったりすることもあります。
背中にほくろができやすい理由
背中は紫外線の影響を受けやすい部位の一つです。夏場の屋外活動や海水浴、日光浴などで背中は直射日光を浴びる機会が多く、紫外線によるダメージが蓄積しやすい場所といえます。紫外線を浴びると、皮膚ではメラニン色素の生成が活発になり、これがほくろの形成につながります。
また、背中は衣服との摩擦や物理的な刺激を受けやすい部位でもあります。下着のストラップやリュックサックのベルト、椅子の背もたれなどによる慢性的な刺激は、皮膚にストレスを与え、ほくろの発生や変化に影響を与える可能性があると考えられています。
悪性黒色腫の病型の一つである「表在拡大型」は、体幹(背中、胸、お腹など)に発生しやすいことが知られています。この型は紫外線との関連が指摘されており、白人では最も多い病型とされていますが、近年は日本人の間でも増加傾向にあります。背中は自分で直接見ることができないため、ほくろの変化に気づきにくく、発見が遅れやすいという問題もあります。
悪性黒色腫(メラノーマ)の基礎知識
悪性黒色腫とは
悪性黒色腫(メラノーマ)は、皮膚の色素を作り出すメラノサイトががん化して発生する皮膚がんです。「ほくろのがん」とも呼ばれ、皮膚がんの中でも特に悪性度が高く、転移しやすいという特徴があります。初期段階では黒っぽい斑点として現れることが多く、ほくろとの見分けがつきにくいため、早期発見が重要です。
日本における発症状況
日本における悪性黒色腫の発症率は10万人あたり1から2人程度とされており、欧米の白人と比較すると発症頻度は低いものの、この30年間で発症頻度は2倍以上に増加しています。厚生労働省の調査によると、2023年の日本における皮膚の悪性黒色腫の患者数は約8,000人と報告されています。年齢別では50代から増加し、60代から70代にピークを迎えますが、30代以下の若い世代にも発症することがあります。
悪性黒色腫の4つのタイプ
悪性黒色腫は、見た目や発生しやすい部位によって4つのタイプに分類されます。
まず「末端黒子型」は、日本人に最も多いタイプで、全体の約半数を占めます。手のひらや足の裏、手足の爪などに発生し、最初は不整形の黒い色素斑として始まります。紫外線よりも機械的な刺激との関連が指摘されています。
次に「表在拡大型」は、あらゆる年齢層の体幹や下肢に発生するタイプです。皮膚表面に沿って広がる特徴があり、紫外線との関連が指摘されています。近年、日本人でも増加傾向にあります。
「結節型」は、固く盛り上がった塊が徐々に大きくなるタイプで、全身のあらゆる場所に発生する可能性があります。40代から50代に多く見られます。
「悪性黒子型」は、高齢者の顔面に多く発生するタイプです。10年以上かけてゆっくりと水平方向に広がり、慢性的な紫外線照射との関連が考えられています。
危険なほくろを見分けるABCDEルール
悪性黒色腫を早期に発見するための自己チェック方法として、世界的に「ABCDEルール」が推奨されています。これは、ほくろの特徴を5つの観点から評価する方法で、以下の5つの特徴のうち一つでも当てはまる場合は、悪性の可能性があるため皮膚科を受診することが勧められます。
A:Asymmetry(非対称性)
良性のほくろは通常、円形や楕円形で左右対称の形をしています。一方、悪性黒色腫は左右非対称でいびつな形をしていることが多いです。ほくろの中心を通る線で半分に分けたときに、両側が同じ形にならない場合は注意が必要です。
B:Border(境界不明瞭)
良性のほくろは、皮膚との境界線がくっきりとしています。しかし、悪性黒色腫の場合は、輪郭がギザギザしていたり、境界がぼやけていたりすることがあります。周囲の皮膚に色がにじみ出しているように見える場合も要注意です。墨汁を落としたようににじんでいると表現されることもあります。
C:Color(色の不均一)
良性のほくろは通常、均一な色(茶色や黒)をしています。悪性黒色腫の場合は、一つのほくろの中に色むらがあり、黒、茶、赤、白、青など複数の色が混在していることがあります。色の濃淡が目立つ場合は注意が必要です。
D:Diameter(直径6mm以上)
良性のほくろの多くは直径5mm以下ですが、悪性黒色腫は直径6mm以上になることが多いです。一般的な鉛筆の直径(約7mm)を目安にして、それに近い大きさやそれ以上の場合は注意が必要です。ただし、6mm未満でも悪性の可能性はありますので、大きさだけで判断してはいけません。
E:Evolution/Evolving(変化・進行)
最も重要な指標の一つが「変化」です。良性のほくろは時間が経っても大きな変化は見られませんが、悪性黒色腫は数週間から数ヶ月の間に、大きさ、形、色が変化していきます。急激に大きくなったり、盛り上がってきたり、出血したりする場合は、すぐに医療機関を受診してください。
背中のほくろを写真で確認する際のポイント
背中のほくろは自分で直接見ることができないため、写真を活用したセルフチェックが有効です。スマートフォンやデジタルカメラを使って定期的に背中の写真を撮影し、ほくろの変化を記録することで、早期発見につなげることができます。
撮影時の注意点
写真を撮影する際は、明るい場所で行い、ほくろがはっきりと写るようにします。同じ条件で撮影することで、比較がしやすくなります。可能であれば、定規やメジャーを横に置いて撮影すると、大きさの変化を客観的に把握できます。
写真で確認すべきポイント
撮影した写真を見るときは、ABCDEルールに基づいて以下の点を確認しましょう。ほくろの形が左右対称かどうか、境界線がはっきりしているかどうか、色が均一かどうか、大きさはどのくらいか、そして前回の写真と比較して変化があるかどうかです。
「みにくいアヒルの子サイン」にも注目
ABCDEルールに加えて、「Ugly Duckling Sign(みにくいアヒルの子サイン)」も参考になります。これは、自分の体にある複数のほくろの中で、他とは明らかに異なる見た目のものがないかをチェックする方法です。一つだけ形が違う、一つだけ色が濃いといった「仲間外れ」のほくろがあれば、要注意です。
自分では見えにくい背中のセルフチェック方法
背中は自分では直接見ることができないため、セルフチェックには工夫が必要です。月に1回程度の定期的なチェックを習慣にすることで、ほくろの変化を早期に発見できる可能性が高まります。
家族やパートナーに協力してもらう
最も確実な方法は、家族やパートナーに背中をチェックしてもらうことです。ABCDEルールを説明して、気になるほくろがないかを定期的に見てもらいましょう。新しいほくろができていないか、既存のほくろに変化がないかを確認してもらいます。
鏡を使ったセルフチェック
一人で確認する場合は、姿見と手鏡を組み合わせて使用します。姿見に背を向けて立ち、手鏡を使って背中の様子を確認します。浴室の鏡など、大きな鏡がある場所で行うと確認しやすいでしょう。
スマートフォンを活用する
スマートフォンのカメラを使って背中の写真を撮影する方法も有効です。自撮り棒やタイマー機能を活用すれば、一人でも撮影できます。定期的に同じ条件で撮影し、以前の写真と比較することで、変化を見つけやすくなります。撮影日を記録し、写真をフォルダで管理しておくと、経時的な変化を追跡しやすくなります。
チェックすべき全身の部位
背中だけでなく、全身のほくろをチェックすることが大切です。顔全体(特に鼻、耳、唇、目の周り)、頭皮、手のひらと手の甲、指の間と爪の下、腕と脇の下、首、胸、腹部、足の裏、かかと、指の間まで、くまなく確認しましょう。
皮膚科での検査方法
セルフチェックで気になるほくろを見つけた場合や、定期的な皮膚チェックを受けたい場合は、皮膚科を受診しましょう。皮膚科では、専門的な検査機器と医師の経験に基づいた診断が行われます。
視診・触診
まず医師が肉眼でほくろを観察し、形、色、大きさ、質感などを確認します。触診によって硬さや周囲の組織との関係も調べます。この段階で良性か悪性かの初期判断が行われますが、より正確な診断のために追加検査が行われることがあります。
ダーモスコピー検査
ダーモスコピーは、皮膚がんの診断において非常に重要な検査です。ダーモスコープという特殊な拡大鏡(ライト付きの10倍から20倍程度の拡大鏡)を使用して、皮膚の表面を詳細に観察します。偏光レンズやジェルを使用することで、皮膚表面の光の乱反射を抑え、肉眼では見えにくい皮膚の内部構造やメラニンのパターン、血管の状態を確認できます。
ダーモスコピー検査は痛みを伴わない非侵襲的な検査で、検査時間も数分程度です。健康保険が適用され、3割負担の場合は数百円程度の費用で受けられます。この検査により、良性のほくろと悪性黒色腫を高い精度で鑑別することが可能になり、メラノーマの早期発見・早期治療に大きく貢献しています。
皮膚生検(病理検査)
ダーモスコピーだけでは診断が確定できない場合や、悪性の可能性が疑われる場合は、皮膚生検が行われます。これは局所麻酔をした上で、病変の一部または全部を切除し、顕微鏡で組織を詳しく調べる検査です。病理検査の結果によって、確定診断が下されます。通常、結果が出るまでに1週間から2週間程度かかります。
画像検査
悪性黒色腫と診断された場合は、がんの進行度(ステージ)を確認するために、CT、MRI、PETなどの画像検査が行われます。これらの検査により、リンパ節や他の臓器への転移の有無を確認し、適切な治療方針を決定します。
ほくろとメラノーマ以外の皮膚がんについて
ほくろに似た見た目をする皮膚がんは悪性黒色腫だけではありません。その他の代表的な皮膚がんについても理解しておくことが重要です。
基底細胞がん
基底細胞がんは、日本人に最も多い皮膚がんです。表皮の最も深い層である基底層や毛包の細胞から発生します。主に顔面(特に鼻や目の周り)に発生し、黒くつやつやとした腫瘍として現れることが多いため、ほくろと間違われることがあります。紫外線との関連が指摘されており、高齢者に多く見られます。基底細胞がんは転移することがまれで、完全に切除すれば予後は良好です。
有棘細胞がん
有棘細胞がんは、表皮を構成する有棘細胞ががん化したものです。皮膚がんの中で2番目に多く、紫外線の影響を受けやすい顔や手の甲、背中などに発生します。通常は赤みを帯びた盛り上がりとして現れ、表面がジクジクしたり出血したりすることがあります。進行すると転移する可能性があるため、早期発見・早期治療が重要です。
日光角化症
日光角化症は、慢性的な紫外線曝露によって生じる前がん病変です。主に高齢者の顔や手の甲など日光に当たりやすい部位に発生し、皮膚が赤くカサカサして触るとざらざらした感触があります。放置すると有棘細胞がんに進行する可能性があるため、発見したら早めに治療を受けることが推奨されます。
悪性黒色腫と診断された場合の治療法
悪性黒色腫の治療は、がんの進行度(ステージ)によって異なります。早期発見できた場合は手術のみで治癒が期待できますが、進行した場合は薬物療法や放射線治療を組み合わせた集学的治療が行われます。
外科的切除
悪性黒色腫の治療の基本は手術による切除です。がんの周辺には目に見えないがん細胞が存在する可能性があるため、腫瘍の端から0.5cmから2cm程度離した範囲を含めて切除します。がんが表皮内にとどまっている早期の段階であれば、手術のみで治癒が期待できます。
センチネルリンパ節生検
腫瘍の厚さが1mm以上ある場合は、転移のリスクがあるため、センチネルリンパ節生検が行われることがあります。センチネルリンパ節とは、がん細胞が最初に転移するリンパ節のことで、この部位を調べることで転移の有無を確認します。転移が見つかった場合は、リンパ節郭清(周囲のリンパ節を切除する手術)が検討されます。
薬物療法
進行・転移したメラノーマに対しては、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬による薬物療法が行われます。免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブなど)は、がん細胞による免疫抑制を解除し、体の免疫系にがんを攻撃させる治療法です。また、BRAF遺伝子変異がある場合は、BRAF阻害薬とMEK阻害薬の併用療法が選択されることもあります。
術後補助療法
手術後の再発リスクが高いと判断された場合は、術後補助療法として免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬が1年間投与されることがあります。近年はステージIIBやIICといった比較的早期の段階でも術後補助療法が行われるようになっており、治療の幅が広がっています。
放射線治療
脳転移や骨転移がある場合は、放射線治療が選択されることがあります。放射線治療は、局所の症状を緩和する目的で用いられ、頭痛や神経症状、骨転移による痛みなどを軽減する効果があります。
皮膚がんを予防するための紫外線対策
皮膚がんの多くは紫外線によるダメージが関係していると考えられています。日頃から紫外線対策を行うことで、皮膚がんのリスクを減らすことができます。
日焼け止めの正しい使い方
日焼け止めは、紫外線A波(UVA)とB波(UVB)の両方に対する防御効果があるものを選びましょう。SPF30以上のものを使用し、外出の20分前には塗布します。2時間ごとに塗り直すことが推奨されており、汗をかいたり水泳の後にも塗り直しが必要です。背中など手が届きにくい部分は、スプレータイプの日焼け止めを活用するか、家族に塗ってもらうとよいでしょう。
衣服による保護
日焼け止めだけでなく、衣服による保護も重要です。長袖のシャツやズボン、つばの広い帽子を着用することで、紫外線から皮膚を守ることができます。織り目や編み目が詰まった生地は紫外線を通しにくいため、特に効果的です。また、UVカット機能のある衣服も市販されています。
紫外線の強い時間帯を避ける
紫外線は午前10時から午後2時(地域によっては午後4時まで)が最も強くなります。この時間帯はできるだけ屋外での活動を控えるか、日陰を利用するようにしましょう。曇りの日でも紫外線は届いていますので、油断は禁物です。
日焼けマシーンは避ける
日焼けマシーン(日焼けサロン)は、真夏の太陽よりも強い紫外線を放出する可能性があり、皮膚がんのリスクを高めることが知られています。特に若年者の使用は悪性黒色腫のリスクを確実に高めるとされているため、使用は避けることが強く推奨されます。
医療機関を受診すべきタイミング
以下のような変化や症状がある場合は、できるだけ早く皮膚科を受診しましょう。自己判断で様子を見ることは避け、専門医の診断を受けることが大切です。
まず、ほくろが急に大きくなった場合は注意が必要です。数週間から数ヶ月で目に見えて大きくなった場合は、特に警戒が必要です。また、ほくろの形が変わった、境界がギザギザになった、いびつな形になったという変化も見逃してはいけません。
色の変化も重要なサインです。色がまだらになった、濃い部分と薄い部分が混在するようになった、黒や茶色以外の色(赤、白、青など)が出てきた場合は受診をお勧めします。
症状の出現にも注意しましょう。ほくろがかゆい、痛い、出血する、ジュクジュクする、かさぶたができて取れてまたできるといった症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。
成人してから新しくできたほくろで、思春期以降に気づいた黒や茶色のシミが数ヶ月で急速に大きくなり6mmから7mmを超えてきた場合も、皮膚科を受診すべきタイミングです。また、爪に新しく黒い線が入り、数ヶ月で幅が広がってきた場合や、爪の周りの皮膚にも色素が広がってきた場合も注意が必要です。

よくある質問
ほくろは紫外線の影響で増えることがあります。ほくろが増えること自体は必ずしも危険ではありませんが、急に増えた場合は過剰に紫外線を浴びている可能性があります。今後の皮膚がんリスクを考慮して紫外線対策を見直すとともに、増えたほくろの中に形や色が不均一なものがないか確認し、気になるものがあれば皮膚科を受診してください。
盛り上がっているほくろだからといって、必ずしも悪性とは限りません。ほくろには平坦なものから隆起したものまで様々な形があり、母斑細胞が増殖する過程で隆起することは珍しくありません。ただし、以前は平らだったほくろが急に盛り上がってきた、隆起した部分の色が濃くなってきたといった変化がある場合は、皮膚科で診察を受けることをお勧めします。
ダーモスコピー検査は皮膚の表面に専用のレンズを当てて観察するだけの検査なので、痛みは全くありません。注射や切開などは一切行いません。検査は数分で終了し、健康保険が適用されます。3割負担の場合、診察料と合わせて1,000円程度で受けられることが多いです。
絶対に自分でほくろを除去しようとしないでください。市販のほくろ取りクリームやお灸を使ったり、削ったり、線香で焼いたりすることは非常に危険です。火傷や化膿、大きな傷跡が残る原因になるだけでなく、万が一悪性だった場合には適切な治療の機会を逃してしまう可能性があります。ほくろの除去は必ず医療機関で行ってください。
悪性黒色腫の多くは遺伝とは関係なく発生しますが、家族歴がある場合はリスクが高まることが知られています。また、生まれつき大きなほくろ(先天性色素性母斑)がある場合は、まれに悪性化することがあります。家族に悪性黒色腫の患者がいる方や、多くのほくろがある方は、定期的な皮膚チェックを心がけることが大切です。
日焼けしやすい体質かどうかよりも、紫外線を繰り返し浴びているかどうかが重要です。ただし、日焼けしやすい人は屋外活動が多い可能性があり、結果的に紫外線曝露量が多くなることがあります。また、色白で日焼けすると赤くなりやすい人は、皮膚がんのリスクがやや高いとされています。いずれの場合も、適切な紫外線対策を行うことが重要です。
皮膚がんは早期発見・早期治療により高い確率で治癒が期待できます。特に悪性黒色腫は、がんが表皮内にとどまっている段階(ステージI)で発見できれば、手術のみでほぼ治癒が望めます。皮膚がんは体の表面にできるため、自分で目視できるという大きな利点があります。定期的なセルフチェックを習慣にして、早期発見に努めましょう。
まとめ
背中にできるほくろの中には、皮膚がんの可能性を含む危険なほくろが存在します。悪性黒色腫(メラノーマ)は初期段階ではほくろと見分けがつきにくいため、ABCDEルールを参考にしたセルフチェックを定期的に行うことが重要です。背中は自分では見えにくい部位ですが、家族やパートナーに協力してもらったり、鏡やスマートフォンを活用したりすることで、変化を早期に発見することができます。
気になるほくろがある場合は、自己判断で様子を見ず、皮膚科を受診することをお勧めします。皮膚がんは早期発見・早期治療により高い確率で治癒が期待できる疾患です。日頃から紫外線対策を心がけ、月に1回程度のセルフチェックを習慣にすることで、ご自身の健康を守りましょう。少しでも心配なことがあれば、躊躇せずに専門医に相談してください。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス「メラノーマ(悪性黒色腫)」
- 東邦大学「皮膚がんの早期発見で覚えておきたいこと~ほくろと悪性黒色腫(メラノーマ)の5つの見分け方~」
- 一般社団法人日本皮膚悪性腫瘍学会「悪性黒色腫(メラノーマ)」
- 公益社団法人日本皮膚科学会「メラノーマ(ほくろのがん)Q&A」
- 国立がん研究センター 希少がんセンター「悪性黒色腫(メラノーマ)」
- 小野薬品 がん情報「悪性黒色腫の患者数はどれくらいですか?」
- MSD oncology「悪性黒色腫(メラノーマ)とは」
- 国立病院機構 九州がんセンター「悪性黒色腫(メラノーマ)」
- メディカルノート「皮膚がんの種類と症状を写真で解説!ほくろやシミとの違いは?」
- MSDマニュアル家庭版「皮膚がんの概要」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務