「目の中にほくろがあるけれど、これって大丈夫なの?」と心配になった経験はありませんか。鏡を見たときに白目の部分や黒目のまわりに茶色や黒っぽいシミのようなものを発見すると、不安を感じる方も少なくありません。実は、目の中にできるほくろのような色素斑は決して珍しいものではなく、多くの場合は良性で視力や目の健康に影響を与えることはありません。しかし、まれに悪性化するケースもあるため、正しい知識を持っておくことが大切です。この記事では、目の中にできるほくろの種類や原因、症状、治療法から日常生活での予防策まで、医師の監修のもとで詳しく解説していきます。

目次
- 目の中にほくろができる場所と種類
- 結膜母斑とは
- 虹彩母斑と脈絡膜母斑について
- 太田母斑と眼球メラノーシス
- 目の中にほくろができる原因
- 目の中にほくろがあるときの症状
- 悪性化の可能性と注意すべきサイン
- 目の中のほくろの検査方法
- 治療が必要なケースと治療法
- 日常生活でできる予防とケア
- 目の中にほくろを見つけたら
- よくある質問
目の中にほくろができる場所と種類
目の中にほくろができると聞くと驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、実は眼球やその周辺組織にも皮膚と同様にメラニン色素を産生する細胞が存在しています。そのため、肌にほくろやシミができるのと同じように、目の組織にも色素斑が現れることがあるのです。
目の中にできるほくろは、発生する場所によっていくつかの種類に分類されます。最も一般的なのは白目の部分にできる「結膜母斑」で、これは白目を覆っている透明な膜である結膜にメラニン色素が沈着したものです。見た目には茶色や黒っぽいシミやほくろのように見えます。
次に、虹彩と呼ばれる目の色がついた部分にできる「虹彩母斑」があります。虹彩は瞳孔の大きさを調節する役割を持つ組織で、いわゆる「黒目」の中でも瞳孔の周りにある色のついた部分を指します。虹彩母斑は、この虹彩にできる小さな色素斑です。
さらに、目の奥の方にある脈絡膜にできる「脈絡膜母斑」もあります。脈絡膜は網膜の外側にあり、眼球に酸素や栄養を供給する血管が豊富に存在する組織です。脈絡膜母斑は眼底検査で発見されることが多く、自覚症状がないまま経過することがほとんどです。
また、太田母斑という皮膚の青あざの一種が目にも影響を及ぼし、強膜や虹彩に色素沈着を起こすことがあります。これは眼球メラノーシスと呼ばれ、太田母斑患者の約半数に認められるとされています。
結膜母斑とは
結膜母斑は、目の中にできるほくろの中で最も頻繁に見られるタイプです。結膜とは眼球の白目の部分を覆っている薄い透明な膜のことで、まぶたの裏側から眼球の表面にかけて広がっています。この結膜にメラニン色素を産生するメラノサイトが増殖することで、茶色や黒っぽい色素斑が形成されます。
結膜母斑は医学的には「良性のメラニン細胞性腫瘍」に分類されます。腫瘍という言葉を聞くと心配になるかもしれませんが、結膜母斑のほとんどは良性であり、視力に影響を与えることもなければ、痛みやかゆみなどの自覚症状を引き起こすこともありません。
結膜母斑の特徴と見た目
結膜母斑は、白目の部分に現れる茶色から黒褐色の平らな色素斑として認識されます。大きさは数ミリメートル程度のものが多いですが、なかには広範囲にわたって色素沈着が見られるケースもあります。色の濃さには個人差があり、薄い茶色からはっきりとした黒色までさまざまです。
生まれつき存在している場合もありますが、多くは幼少期から思春期にかけて徐々に目立つようになります。これはメラノサイトが思春期以降に活性化し、メラニン色素の産生が増加するためです。そのため、子どもの頃には気づかなかった結膜母斑が、10代後半から20代にかけて急に目立つようになることがあります。
結膜母斑ができやすい場所としては、角膜と強膜の境目付近や、内眼角と呼ばれる目頭に近い部分が挙げられます。これらの部位は日光にさらされやすく、紫外線の影響を受けやすい場所でもあります。
結膜母斑と間違えやすい症状
白目に色素斑のようなものが見られる場合、結膜母斑以外の可能性も考慮する必要があります。似たような見た目を呈する病変として、瞼裂斑があります。瞼裂斑は黒目のそばにできるやや盛り上がった黄色っぽい病変で、紫外線や加齢の影響で結膜が変性して起こるものです。瞼裂斑は結膜母斑とは異なり、レーザー治療の対象にはなりません。
また、強膜母斑や太田母斑に伴う眼球メラノーシスも結膜母斑と混同されることがあります。強膜母斑は結膜の下にある強膜という白い組織に色素が沈着している状態で、青黒い色調を呈することが多いです。結膜母斑が結膜表面の色素沈着であるのに対し、強膜母斑はより深い層に存在するため、治療方法も異なってきます。
虹彩母斑と脈絡膜母斑について
結膜母斑が白目の表面にできるほくろであるのに対し、虹彩母斑と脈絡膜母斑は目の内部構造にできる色素斑です。これらは結膜母斑ほど一般的ではありませんが、眼科検査で発見されることがあります。
虹彩母斑の特徴
虹彩母斑は、虹彩と呼ばれる目の色がついた部分にできる色素細胞由来の良性腫瘍です。虹彩は瞳孔の大きさを調節する筋肉を含む組織で、人種によって茶色、青色、緑色などさまざまな色を呈します。虹彩母斑は、この虹彩の一部に茶色や黒っぽい斑点として現れます。
虹彩母斑はよく見られる病変であり、欧米では成人の約5%程度に認められるという報告もあります。ほとんどの場合は良性で、視力や目の機能に影響を与えることはありません。ただし、まれに悪性の徴候を示す場合があり、その場合は虹彩黒色腫として分類されます。
虹彩母斑と虹彩黒色腫の鑑別は重要です。虹彩黒色腫はぶどう膜悪性黒色腫の一種ですが、他の部位のぶどう膜黒色腫と比較すると転移の可能性がかなり低く、早期に発見して治療すれば視力が損なわれる可能性も低いとされています。ぶどう膜黒色腫全体の約5%が虹彩と関連したものです。
脈絡膜母斑の特徴
脈絡膜母斑は、眼球の奥にある脈絡膜にできる良性の色素斑です。脈絡膜は網膜の外側に位置し、眼球に酸素や栄養を供給する重要な役割を担う血管に富んだ組織です。
脈絡膜母斑は自覚症状がないことがほとんどで、眼底検査や人間ドックなどで偶然発見されるケースが大半です。眼底検査では、網膜の下に茶褐色あるいは灰褐色の平坦な病変として観察されます。腫瘍の厚みは通常2ミリメートル未満で、境界は比較的明瞭です。
脈絡膜母斑は基本的に治療の必要がなく、定期的な眼底検査で経過観察を行うのが一般的です。母斑そのものが視力に影響を与えることは少ないですが、ごく一部が悪性化して脈絡膜悪性黒色腫(メラノーマ)に進行する可能性があるため、大きさや外観に変化がないかを確認することが重要です。
脈絡膜悪性黒色腫は成人の原発性眼内悪性腫瘍の中では最も多いものですが、日本での発生率は約400万人に1人と極めてまれです。年間新規発生者数は30名前後とされており、欧米と比較すると発生頻度は低いです。ただし、発症した場合の10年遠隔臓器転移率は50%と報告されており、その約9割が肝臓への転移であるため、早期発見と適切な経過観察が求められます。
太田母斑と眼球メラノーシス
太田母斑は、顔面に生じる青あざの一種で、目の周辺にも影響を及ぼすことがある疾患です。1939年に日本人医師の太田正雄によって初めて報告されたことから、この名前がつけられました。英語でも「Nevus of Ota」と呼ばれ、日本人の名前がついています。
太田母斑の概要
太田母斑は、日本人を含む黄色人種に特に多く見られる疾患で、日本では1000人に1~2人の発生率とされています。また、男性よりも女性に多く、その比率は約4~5倍とされています。
太田母斑には、生後まもなく現れる「早発型」と思春期以降に現れる「遅発型」の2つのタイプがあります。早発型の場合、出生時に確認されることはまれで、多くは生後6か月以内に発症します。遅発型の多くは思春期頃に生じますが、20~40歳代になってから発症する方もいます。成人後に発症した太田母斑は「後天性両側性太田母斑様色素斑」や「後天性真皮メラノサイトーシス」などと呼ばれることもあります。
太田母斑は主に顔の片側に現れ、おでこ、頬、上下のまぶた、こめかみ、鼻翼などに青みがかった色素斑が見られます。三叉神経の第1枝および第2枝の支配領域に沿って分布することが特徴です。色調は青灰色から黒色、褐色までさまざまで、メラニンの分布する深さや密度によって異なる様相を呈します。
眼球メラノーシスとは
太田母斑患者の約半数に認められるのが、眼球メラノーシスと呼ばれる目の色素沈着です。これは太田母斑が皮膚だけでなく、眼球にも影響を及ぼしている状態を指します。
眼球メラノーシスでは、強膜(白目の部分)や虹彩、さらには眼底にまで青みがかった色素沈着が見られることがあります。白目の部分に青黒いシミのような色素斑が現れることで、見た目が気になるという方も少なくありません。
太田母斑に伴う眼球メラノーシスは、それ自体が視力や目の健康に重大な影響を与えることは通常ありません。しかし、ごくまれにぶどう膜悪性黒色腫の発生母地となることが知られており、脈絡膜悪性黒色腫の発生原因として太田母斑が挙げられることもあります。そのため、太田母斑を持つ方は定期的な眼科検診を受けることが推奨されます。
皮膚に現れた太田母斑に対してはQスイッチレーザー治療が有効であり、保険適用で治療を受けることができます。しかし、眼球にはレーザーの照射ができないため、眼球に太田母斑が生じた場合は現在のところ有効な治療方法が存在しないのが現状です。
目の中にほくろができる原因
目の中にほくろができる原因は、皮膚にほくろができる仕組みと基本的には同じです。メラニン色素を産生するメラノサイトという細胞の増殖や、メラニン色素の過剰な沈着によって色素斑が形成されます。ただし、目のほくろに関しては、いくつかの特有の要因も関係していると考えられています。
遺伝的要因
結膜母斑や脈絡膜母斑の多くは、遺伝的な要因が関与していると考えられています。生まれつき白目にメラノサイトが存在しており、それが思春期以降にメラニン色素を産生することでシミとして目立つようになるケースが多いのです。
太田母斑についても遺伝性ではなく先天性の理由ではないかと考えられていますが、GNAQ遺伝子やGNA11遺伝子の異常が関与している可能性が指摘されています。これらの遺伝子変異はメラノサイトの増殖を促進することが知られており、太田母斑だけでなく脈絡膜悪性黒色腫の発生にも関係しているとされています。
紫外線の影響
皮膚と同様に、眼球も紫外線によるダメージを受けます。長年にわたって紫外線を浴び続けることで、結膜のメラノサイトが刺激され、メラニン色素の産生が増加して色素斑が形成されたり、既存の色素斑の色が濃くなったりすることがあります。
脈絡膜悪性黒色腫に関しても、皮膚の悪性黒色腫と同様に紫外線曝露との関連が指摘されています。明確な因果関係を示す決定的なデータはありませんが、肌や虹彩の色が薄く日光で日焼けしやすいタイプの方に多いことから、長年にわたる強い日光曝露がリスクを高めている可能性があります。
紫外線対策は、皮膚だけでなく目の健康を守るためにも重要です。サングラスや帽子、日傘などを活用して、目に入る紫外線を軽減することが予防につながります。
加齢による変化
年齢を重ねるにつれて、目の組織にもさまざまな変化が生じます。加齢に伴ってメラノサイトが活性化したり、長年にわたる紫外線曝露の蓄積効果によって色素斑が形成されたりすることがあります。
結膜母斑は生まれつきあるものもありますが、加齢とともに徐々に大きくなったり、色が濃くなったりすることがあります。そのため、以前は気にならなかった色素斑が年齢とともに目立つようになり、美容的な理由から治療を希望される方もいらっしゃいます。
ホルモンの影響
思春期や妊娠、更年期などホルモンバランスが大きく変化する時期に、メラノサイトの活動が活発になることがあります。特に女性ホルモンの変化はメラニン色素の産生に影響を与えるため、これらの時期に目の色素斑が目立つようになることがあります。
太田母斑についても、思春期に色が濃くなったり、妊娠中に変化したりすることがあり、ホルモンとの関連性が示唆されています。
目の中にほくろがあるときの症状
目の中にほくろがあっても、ほとんどの場合は自覚症状がありません。結膜母斑、虹彩母斑、脈絡膜母斑のいずれも良性であれば、痛みやかゆみ、違和感を感じることはなく、視力への影響もありません。
外見上の変化
結膜母斑の場合、白目の部分に茶色や黒っぽい色素斑が見えるため、美容上気にされる方が多いのが特徴です。特に白目に対して色素斑のコントラストがはっきりしているため、周囲から見て目立ちやすく、コンプレックスに感じる方もいらっしゃいます。
思春期以降にメラノサイトが活性化することで色素斑が濃くなり目立つようになるケースも多いため、ちょうど外見を気にしやすい年頃に症状が顕著になることがあります。
視覚的な症状
良性の結膜母斑や虹彩母斑であれば、視力に影響を与えることは通常ありません。脈絡膜母斑についても、網膜から離れた位置にあれば視覚的な症状は現れにくいです。
ただし、脈絡膜母斑が大きくなったり、黄斑と呼ばれる視力に重要な部位の近くにあったりすると、視野の一部が欠ける、物がゆがんで見える、視力が低下するなどの症状が現れることがあります。これらの症状は母斑自体によるものというよりは、母斑が悪性化している可能性を示唆するサインかもしれません。
軽度の違和感
結膜母斑があることで、ほんの少し異物感を感じることがあるという報告もありますが、これは比較的まれです。通常、結膜母斑は平坦で薄いため、物理的な刺激を与えることはほとんどありません。
もし目のゴロゴロ感や痛み、充血、視力低下などの症状がある場合は、結膜母斑以外の眼疾患が原因である可能性がありますので、早めに眼科を受診することをおすすめします。
悪性化の可能性と注意すべきサイン
目の中にできるほくろの大部分は良性ですが、非常にまれなケースとして悪性化する可能性があることを知っておくことは重要です。皮膚のほくろが悪性黒色腫(メラノーマ)に変化することがあるのと同様に、目の母斑も悪性化するリスクがゼロではありません。
結膜悪性黒色腫について
結膜母斑が悪性化すると、結膜悪性黒色腫(けつまくあくせいこくしょくしゅ)と呼ばれる状態になります。悪性黒色腫はメラノーマとも呼ばれるがんの一種で、結膜や眼球、皮膚などに発生します。
結膜悪性黒色腫になると、腫瘍のサイズが増大していきます。結膜母斑が急に大きくなったり、隆起してきたり、色が濃くなったりしている場合は注意が必要です。結膜悪性黒色腫は頭頸部のリンパ節への転移が45~60%とかなり高い確率であり、そこから脳や肺、皮膚など他の部位に転移する可能性もあります。命に関わることがあるため、早急な対応と検査が必要です。
脈絡膜悪性黒色腫について
脈絡膜母斑から脈絡膜悪性黒色腫(メラノーマ)に悪性転化するケースもまれにあります。脈絡膜悪性黒色腫は成人の原発性眼内悪性腫瘍の中では最も多いものですが、日本での発生率は約400万人に1人と極めてまれです。
脈絡膜悪性黒色腫の発生母地としては、脈絡膜母斑のほか、先天性眼メラノーシスや太田母斑なども知られています。母斑から悪性化するまでの期間は不明ですが、長期間の経過観察中に悪性化が判明することもあるため、脈絡膜母斑が見つかった場合は定期的な検査を継続することが推奨されています。
注意すべきサイン
以下のような変化が見られた場合は、速やかに眼科を受診することをおすすめします。
まず、色素斑が急に大きくなった場合です。良性の母斑は通常ゆっくりとした変化しか見せませんが、悪性化すると比較的短期間で増大することがあります。次に、色が濃くなった場合や、色むらが出てきた場合も注意が必要です。また、母斑が盛り上がってきた場合、つまり以前は平坦だった色素斑が隆起してきた場合も警戒すべきサインです。さらに、形が不整になった場合や境界がぼやけてきた場合も同様です。
視覚的な症状として、視力が低下した場合や視野が欠けてきた場合、物がゆがんで見える場合、光視症(光が見える症状)が現れた場合なども、すぐに眼科で検査を受けるべきです。
これらの症状があるからといって必ずしも悪性化しているわけではありませんが、早期発見・早期治療が重要ですので、気になる変化があれば迷わず専門医に相談してください。
目の中のほくろの検査方法
目の中にほくろが見つかった場合、その性質を正確に把握するためにさまざまな検査が行われます。検査の種類は、母斑の場所や大きさ、悪性化が疑われるかどうかによって異なります。
視診と細隙灯顕微鏡検査
結膜母斑の場合、まずは肉眼での視診と細隙灯顕微鏡(スリットランプ)を使った検査が行われます。細隙灯顕微鏡は眼科の基本的な検査機器で、目の表面や前眼部を高倍率で観察することができます。この検査により、色素斑の大きさ、形、色調、境界の様子、隆起の有無などを詳細に確認します。
眼底検査
脈絡膜母斑の場合は、眼底検査が必須です。散瞳薬を点眼して瞳孔を広げた状態で、眼底カメラや検眼鏡を使って網膜や脈絡膜の状態を観察します。脈絡膜母斑は、眼底に茶褐色から灰褐色の平坦な病変として観察されます。
光干渉断層計(OCT)検査
光干渉断層計(OCT)は、網膜の断層画像を非侵襲的に撮影できる検査機器です。網膜の浮腫や腫瘍による隆起、漿液性網膜剥離などを確認することができます。また、母斑による網膜への影響を詳細に観察できるため、経過観察にも有用です。
超音波検査(エコー検査)
超音波検査は、眼球にプローブをあてて内部構造を超音波で画像化する検査です。腫瘍の厚みや大きさを測定することができ、腫瘍内部の反射パターンから良性か悪性かを推測することも可能です。
脈絡膜母斑の場合、超音波Bモードでは境界が明瞭で、内部は音響空砲として観察されます。腫瘍厚は通常2ミリメートル未満であることが多いです。一方、脈絡膜悪性黒色腫は内部反射が低く均一でドーム状隆起を呈することが多いなど、特徴的な所見を示します。
蛍光眼底造影検査
フルオレセイン蛍光眼底造影検査やインドシアニングリーン蛍光造影検査は、眼底の血管や血流の状態を詳しく調べる検査です。蛍光色素を静脈注射し、その色素が眼底血管を流れる様子を撮影します。
脈絡膜母斑の場合、造影検査では早期から後期まで一貫して低蛍光を示すことが特徴です。病変への栄養血管や内部の異常血管は認められません。これに対し、悪性黒色腫では腫瘍上のびまん性蛍光漏出や異常血管の存在が確認されることがあります。
画像診断(CT・MRI)
腫瘍が大きい場合や悪性が疑われる場合には、CTやMRIなどの画像診断が行われることがあります。特に脈絡膜悪性黒色腫はMRIでT1強調画像で高信号、T2強調画像で低信号を示す特徴があり、視神経への距離や眼窩内への広がりを評価するのに有用です。
治療が必要なケースと治療法
目の中のほくろは、良性であれば必ずしも治療が必要というわけではありません。しかし、美容的な理由から治療を希望される場合や、悪性化のリスクがある場合には積極的な治療が検討されます。
結膜母斑の治療
結膜母斑は医学的には問題がないケースがほとんどですが、外見上の理由から治療を希望される方も多くいらっしゃいます。治療法としては、レーザー治療と外科的切除の2つがあります。
レーザー治療は、点眼麻酔を使用して白目のシミに対してレーザーを照射する方法です。シミの程度にもよりますが、通常10分程度で終了し、痛みもほとんどありません。日帰りで行える手術で、術後の経過観察のために1~2週間後に再診が必要になります。レーザー治療のメリットは、傷跡が残りにくいことと、複数回に分けて治療できることです。ただし、範囲が広い場合や深い層まで色素沈着がある場合は、数回のレーザー照射が必要になることがあります。
外科的切除は、局所麻酔後に母斑細胞を切り取って縫合する方法です。手術時間は10分程度で、縫合に使用する糸は吸収糸のため抜糸は不要ですが、糸がついている間はゴロゴロ感や充血が続きます。切除のメリットは、一回の手術で比較的大きな母斑も取り除けること、再発の可能性がレーザーより少ないことです。ただし、離れた場所に複数の母斑がある場合や、非常に大きい場合は複数回の手術が必要になることもあります。
なお、結膜母斑の治療は基本的に保険適用外の自費診療となります。費用は医療機関によって異なりますが、レーザー治療の場合は片眼あたり数万円程度が目安です。
脈絡膜母斑の経過観察
脈絡膜母斑は基本的に治療の必要がなく、定期的な眼底検査で経過観察を行うのが原則です。母斑そのものが視力に影響を与えることは少ないですが、ごく一部が悪性化する可能性があるため、大きさや外観に変化がないかを確認し続けることが重要です。
経過観察中に母斑が大きくなってきたり、悪性化を疑う所見が現れたりした場合には、早期に治療介入を検討します。
悪性黒色腫の治療
もし母斑が悪性化して悪性黒色腫(メラノーマ)と診断された場合には、積極的な治療が必要になります。
結膜悪性黒色腫の治療の主体は外科的切除です。腫瘍を完全に切除し、必要に応じて周囲の正常組織も一緒に取り除きます。進行している場合には、化学療法や放射線療法が併用されることもあります。
脈絡膜悪性黒色腫の治療は、以前は眼球摘出が標準的な方法でしたが、現在では腫瘍の大きさが小さい症例や転移のない症例では眼球を温存する治療が行われています。代表的な治療法としては、放射線治療があります。プラーク(放射性シードを封入した小さな円盤型のシールド)を用いた小線源治療では、腫瘍を覆うように目の外側にプラークを装着し、数日間置いた後に取り除きます。また、腫瘍が小さく外科的切除が可能な部位にある場合は、眼球を残したまま強膜の一部と腫瘍をくり抜く経強膜的局所切除術が行われることもあります。
日常生活でできる予防とケア
目の中のほくろを完全に予防することは難しいですが、悪化を防ぎ、目の健康を維持するために日常生活でできることがあります。
紫外線対策を徹底する
紫外線は目にさまざまな悪影響を与えます。結膜母斑の色が濃くなったり、大きくなったりする原因の一つとして紫外線が挙げられていますし、白内障や加齢黄斑変性、翼状片などの眼疾患のリスクも高めます。
目の紫外線対策として最も効果的なのは、UVカット機能のあるサングラスやメガネの使用です。サングラスを選ぶ際は、紫外線透過率や紫外線カット率を確認しましょう。紫外線透過率が1%未満、つまり紫外線カット率が99%以上のものを選ぶことが推奨されます。なお、レンズの色の濃さと紫外線カット効果は関係がありません。むしろ、色の濃いサングラスをかけると瞳孔が開いて紫外線が入りやすくなるため、UVカット機能がしっかりしたものを選ぶことが大切です。
サングラスだけでは側面からの紫外線を防ぎきれないため、つばの広い帽子や日傘を併用するとより効果的です。また、紫外線が強い時間帯(10時~14時頃)の外出を控えたり、日陰を活用したりすることも有効です。
定期的な眼科検診を受ける
目の中にほくろがある方、特に脈絡膜母斑や太田母斑に伴う眼球メラノーシスがある方は、定期的な眼科検診を受けることが重要です。良性の母斑であっても、長期間の経過の中でまれに悪性化することがあるため、定期的に状態を確認し、変化があれば早期に対応することが大切です。
眼科検診の頻度は、母斑の状態や医師の判断によって異なりますが、一般的には半年から1年に1回程度の検査が推奨されます。
自己観察を習慣にする
結膜母斑など目の表面にある色素斑は、鏡を見れば自分でも確認することができます。定期的に自分の目の状態をチェックし、色素斑の大きさ、色、形に変化がないかを観察する習慣をつけましょう。スマートフォンで写真を撮っておくと、過去の状態と比較しやすくなります。
もし気になる変化があれば、次の定期検診を待たずに眼科を受診することをおすすめします。
目に優しい生活習慣を心がける
目の健康全般を維持するために、バランスの良い食事を心がけることも大切です。特に抗酸化作用のある栄養素を積極的に摂取することで、紫外線などによる酸化ストレスから目を守る助けになります。ビタミンA、C、Eやリコピンなどが豊富な食品として、緑黄色野菜、トマト、ナッツ類、卵などが挙げられます。
また、十分な睡眠をとること、目を酷使しすぎないこと、適度な運動を行うことなど、基本的な健康管理も目の健康につながります。
目の中にほくろを見つけたら
鏡を見て目の中にほくろのようなものを発見したら、まずは落ち着いて対応しましょう。目の中にほくろができること自体は決して珍しくなく、そのほとんどは良性で健康上の問題を引き起こすことはありません。
ただし、自己判断で放置するのではなく、一度は眼科を受診して専門医に診てもらうことをおすすめします。眼科では、色素斑の性質を正確に評価し、今後の経過観察の必要性や治療の要否について適切なアドバイスを受けることができます。
特に以下のような場合は、早めに眼科を受診してください。今まで気づかなかった色素斑が急に現れた場合、既存の色素斑が大きくなったり色が変わったりした場合、視力の低下や視野の異常を感じる場合、目に痛みや違和感がある場合などは、迷わず専門医に相談しましょう。
美容上の理由で色素斑を治療したい場合も、まずは眼科での診察を受けることが大切です。治療が可能かどうか、どのような治療法が適しているかは、色素斑の状態によって異なります。レーザー治療で対応できる結膜母斑もあれば、切除手術が必要なケースもあります。また、強膜母斑のように現時点では有効な治療法がない色素沈着もありますので、専門医の診断を受けた上で治療方針を相談してください。
目は私たちの日常生活において非常に重要な器官であり、一度損なわれた視力は回復が難しいことも少なくありません。気になる症状があれば、早めに専門医に相談し、適切な対応を取ることが大切です。

よくある質問
結膜母斑や虹彩母斑、脈絡膜母斑のほとんどは良性で、視力や目の健康に影響を与えることはありません。放置しても問題ないケースがほとんどですが、まれに悪性化する可能性があるため、定期的な眼科検診を受けて経過を観察することをおすすめします。色素斑が急に大きくなったり、色が変わったり、形が変化した場合は早めに眼科を受診してください。
残念ながら、結膜母斑が自然に消えることはほとんどありません。メラニン色素の沈着によって形成された色素斑は、放置していても薄くなったり消えたりすることは期待できません。外見的に気になる場合は、レーザー治療や外科的切除によって取り除くことが可能です。ただし、これらの治療は保険適用外の自費診療となります。
結膜母斑のレーザー治療では、点眼麻酔を使用するため、治療中の痛みはほとんどありません。治療時間も10分程度と短く、日帰りで行えます。術後は一時的に充血や異物感(ゴロゴロする感じ)が数日から1週間程度続くことがありますが、通常は時間とともに軽減していきます。
基本的なメカニズムは似ています。どちらもメラノサイト(メラニン色素を産生する細胞)の増殖やメラニン色素の沈着によって形成されます。ただし、発生する組織が異なるため、医学的には別々の疾患として扱われ、治療法も異なります。目の中のほくろには結膜母斑、虹彩母斑、脈絡膜母斑などがあり、それぞれ発生部位や特徴が異なります。
通常、結膜母斑があってもコンタクトレンズの使用に問題はありません。母斑は平坦で薄いため、コンタクトレンズの装用感に影響を与えることはほとんどありません。ただし、何か違和感がある場合や、コンタクトレンズを使用し始めてから母斑に変化が見られた場合は、眼科医に相談することをおすすめします。
結膜母斑や太田母斑などの目の色素斑には、遺伝的な要因が関与していると考えられています。ただし、必ずしも親から子へ遺伝するわけではなく、先天的な素因として生まれつき存在し、思春期以降に目立つようになるケースが多いです。家族に目の色素斑がある方がいる場合は、定期的な眼科検診を受けることをおすすめします。
目の中のほくろを完全に予防することは難しいですが、紫外線対策を行うことで悪化を防いだり、新たな色素斑の形成リスクを軽減したりすることができます。UVカット機能のあるサングラスや帽子、日傘を活用し、紫外線が強い時間帯の外出を控えることが効果的です。また、定期的な眼科検診を受けて早期発見・早期対応することも重要です。
参考文献
- 色素性母斑(ほくろ・母斑細胞母斑・黒子)|日本形成外科学会
- 太田母斑|慶應義塾大学病院 KOMPAS
- 色素性母斑(ほくろ)|慶應義塾大学病院 KOMPAS
- 眼内(ブドウ膜)黒色腫の治療(PDQ®)|がん情報サイト
- 太田母斑について|メディカルノート
- 脈絡膜腫瘍の初期症状をご存じですか?|メディカルドック
- ぶどう膜悪性黒色腫|Wikipedia
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務