はじめに
胸にしこりやできものを見つけたとき、多くの方が不安を感じるのではないでしょうか。「これは何だろう?」「病院に行くべき?」「何科を受診すればいいの?」といった疑問が次々と浮かんでくることでしょう。
胸にできるしこりの中でも、特に多いのが「粉瘤(ふんりゅう)」と呼ばれる良性腫瘍です。粉瘤は正式には「表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)」と呼ばれ、皮膚の下に袋状の構造物ができ、その中に角質や皮脂などの老廃物が溜まってしこりを形成する病気です。
本記事では、胸にできた粉瘤について、何科を受診すべきか、どのような症状があるのか、治療方法はどうなっているのかなど、患者さんが知りておくべき情報を詳しく解説いたします。

粉瘤とは?基礎知識を理解しよう
粉瘤の定義と発生メカニズム
粉瘤は、皮膚の下に袋状の構造(嚢腫)ができ、本来皮膚から剥がれ落ちるはずの角質や皮脂などの老廃物が袋の中に溜まっていく良性の腫瘍です。医学的には「表皮嚢腫」または「アテローム」とも呼ばれます。
粉瘤ができる原因は完全には解明されていませんが、以下のようなメカニズムが考えられています:
- 外傷による皮膚の陥入:打撲やニキビ跡などで皮膚の一部が皮下に入り込み、そこで袋状の構造を形成する
- 毛包の閉塞:毛穴が何らかの原因で閉じてしまい、その部分が嚢腫化する
- 先天的な要因:生まれつき皮膚の一部が内側に入り込んでいる場合
粉瘤は体のあらゆる部位にできますが、特に顔、首、背中、胸、耳の後ろなどに好発します。年齢や性別を問わず誰にでもできる可能性があります。
粉瘤の特徴的な症状
粉瘤には以下のような特徴的な症状や見た目があります:
見た目の特徴
- 皮膚の下に丸いしこりとして触れる
- 大きさは数ミリから数センチメートルまでさまざま
- 表面に黒い点(開口部)が見えることがある
- 皮膚の色と同じか、やや黄白色をしている
- 触るとやや弾力がある(ドーム状)
感覚的な特徴
- 通常は痛みがない
- ゆっくりと大きくなる傾向がある
- 押すと動くことが多い
- 炎症を起こすと痛み、赤み、腫れが生じる
粉瘤と他の皮膚疾患との違い
粉瘤と間違えやすい皮膚疾患がいくつかあります:
脂肪腫(リポーマ)
- 脂肪細胞の良性腫瘍
- より柔らかく、よく動く
- 開口部がない
リンパ節の腫れ
- 感染症などで起こる
- 複数個できることが多い
- 圧痛を伴うことが多い
皮様嚢腫
- 粉瘤に似ているが、先天性のもの
- より深い場所にできる
毛嚢炎
- 毛穴の炎症
- 小さく、痛みを伴うことが多い
胸にしこりを見つけた場合、素人判断は危険です。特に女性の場合は乳がんなどの可能性も考慮する必要があるため、必ず医療機関を受診することが重要です。
胸にできる粉瘤の特徴
胸に粉瘤ができやすい理由
胸部は粉瘤の好発部位の一つです。その理由として以下が考えられます:
- 皮脂腺が多い:胸は顔や背中と同様に皮脂腺が多く分布している部位です。皮脂の分泌が活発なため、毛穴が詰まりやすく、粉瘤が形成されやすい環境にあります。
- 衣服による刺激:下着や衣服による摩擦や圧迫が慢性的に加わることで、皮膚に微細な損傷が生じ、粉瘤の形成につながる可能性があります。
- 汗をかきやすい:胸部は汗をかきやすい部位であり、汗と皮脂が混ざり合うことで毛穴が詰まりやすくなります。
- ホルモンの影響:思春期や妊娠・出産期など、ホルモンバランスの変化により皮脂分泌が増加する時期に、胸部に粉瘤ができやすくなることがあります。
胸の粉瘤の好発部位
胸部の中でも、特に粉瘤ができやすい場所があります:
- 前胸部(胸の中央):最も多く見られる部位
- 鎖骨周辺:衣服との摩擦が起きやすい
- 胸骨の上:皮脂腺が多い
- 乳房周辺:女性に多く見られる
- 脇の下に近い胸の側面:摩擦や汗の影響を受けやすい
胸の粉瘤特有の問題点
胸にできた粉瘤には、他の部位とは異なる特有の問題があります:
美容面での懸念
- 夏場の薄着やVネックの服を着る際に目立つ
- 温泉やプールなどで人目が気になる
- 女性の場合、デコルテの美しさに影響する
生活面での問題
- ブラジャーや衣服との摩擦で炎症を起こしやすい
- 肩掛けバッグやリュックのストラップが当たって痛む
- シートベルトが当たって不快感がある
心理的な影響
- 乳がんとの区別がつかず不安になる(特に女性)
- パートナーに見られたくない
- 大きくなる恐怖を感じる
これらの理由から、胸の粉瘤は早めに医療機関を受診して適切な診断と治療を受けることが望ましいといえます。
胸の粉瘤は何科を受診すべき?
最適な診療科:形成外科
胸にできた粉瘤の治療において、最も推奨される診療科は形成外科です。
形成外科は体表の異常や変形を専門的に扱う診療科であり、粉瘤の治療において以下のような利点があります:
形成外科の強み
- 手術の専門性:粉瘤の完全摘出手術に精通している
- 美容面への配慮:傷跡を最小限にする縫合技術に優れている
- 再発防止:嚢腫壁を確実に取り除く技術がある
- 合併症への対応:炎症や化膿した粉瘤にも対応できる
特に胸は目立つ部位であり、傷跡をできるだけ残さない治療が求められるため、形成外科での治療が理想的です。
形成外科については、日本形成外科学会の公式サイトで詳しい情報を確認できます。
皮膚科での受診も可能
形成外科以外では、皮膚科も粉瘤治療を行っています。
皮膚科での治療の特徴
- 皮膚疾患全般を扱うため、診断に優れている
- 小さな粉瘤の日帰り手術に対応している施設が多い
- 炎症を起こした粉瘤の初期治療(抗生物質投与など)を行う
- 他の皮膚疾患との鑑別診断ができる
ただし、皮膚科では大きな粉瘤や複雑な症例の場合、形成外科への紹介となることもあります。
皮膚疾患全般について詳しく知りたい方は、日本皮膚科学会のサイトが参考になります。
その他の診療科
外科 一般外科や外科でも粉瘤の治療を行っている医療機関があります。外科医は手術に精通しているため、安全に粉瘤を摘出できます。ただし、美容面での仕上がりは形成外科に比べると劣る場合があります。
乳腺外科(女性の場合) 胸のしこりで受診した場合、まず乳がんなどの重大な疾患を除外する必要があります。特に乳房やその周辺にしこりがある場合は、乳腺外科を受診して検査を受けることも一つの選択肢です。粉瘤であると診断されれば、そこから形成外科や皮膚科に紹介されることになります。
アイシークリニック上野院での治療
当院、アイシークリニック上野院では、粉瘤治療を専門的に行っております。日帰り手術が可能で、以下のような特徴があります:
- 豊富な治療実績に基づく確実な手術
- 傷跡を最小限にする最新の治療技術
- 炎症を起こした粉瘤にも対応
- 丁寧なカウンセリングと説明
- 再発防止を重視した治療
診療科を選ぶ際のポイント
胸の粉瘤でどの診療科を受診するか迷った場合、以下のポイントを参考にしてください:
形成外科を選ぶべきケース
- 目立つ場所にあり、傷跡を最小限にしたい
- 大きな粉瘤(直径2cm以上)
- 手術での確実な摘出を希望する
- 美容的な仕上がりを重視する
皮膚科を選ぶべきケース
- 小さな粉瘤(直径1cm以下)
- まず診断を確定させたい
- 他の皮膚疾患も気になる症状がある
- 炎症を起こしている場合の初期治療
乳腺外科を選ぶべきケース
- 乳房またはその周辺のしこり
- 乳がんの可能性を除外したい
- 乳房の痛みやその他の症状がある
いずれの診療科を選んでも、必要に応じて適切な診療科に紹介してもらえますので、まずは気軽に受診することが大切です。
粉瘤の診断方法
問診と視診
医療機関を受診すると、まず医師による問診と視診が行われます。
問診での確認事項
- いつ頃からしこりがあるか
- 大きさの変化はあるか
- 痛みや赤みはあるか
- 以前に同じような症状があったか
- 外傷の有無
- 家族歴
視診でのチェックポイント
- しこりの大きさ、形状、硬さ
- 皮膚表面の状態(開口部の有無)
- 周囲の皮膚の状態(発赤、腫脹など)
- 可動性(しこりが動くかどうか)
- 圧痛の有無
触診
医師が実際に患部を触って以下の点を確認します:
- しこりの硬さと質感
- 深さ(皮膚のどの層にあるか)
- 周囲組織との癒着の有無
- 波動感(液体が溜まっている感じ)の有無
- 圧痛の程度
粉瘤の場合、通常は皮下に可動性のある弾性軟のしこりとして触れます。炎症を起こしている場合は硬く、圧痛を伴います。
画像検査
必要に応じて画像検査が行われることがあります:
超音波検査(エコー)
- 最も一般的な画像検査
- 痛みがなく、被曝もない
- しこりの内部構造を確認できる
- 嚢腫壁の状態や内容物を評価できる
- 周囲組織との関係を把握できる
CT検査やMRI検査
- 大きな粉瘤や深部の病変の場合
- 悪性腫瘍との鑑別が必要な場合
- 合併症(周囲組織への浸潤など)が疑われる場合
細胞診・組織診
診断が確定しない場合や、悪性腫瘍の可能性を除外する必要がある場合に行われます:
穿刺吸引細胞診
- 細い針でしこりの内容物を吸引
- 顕微鏡で細胞を観察
- 良性か悪性かの判断材料となる
摘出後の病理組織検査
- 手術で摘出した組織を詳しく調べる
- 粉瘤の確定診断となる
- 他の疾患との鑑別に有用
他疾患との鑑別診断
胸のしこりは粉瘤以外にもさまざまな疾患の可能性があるため、鑑別診断が重要です:
良性疾患
- 脂肪腫:脂肪細胞の増殖
- リンパ節腫大:感染症や炎症による
- 血管腫:血管の増殖
- 線維腫:線維組織の増殖
悪性疾患(特に女性の場合)
- 乳がん
- 皮膚がん
- リンパ腫
特に女性で乳房やその周辺にしこりがある場合は、乳がんの可能性を必ず除外する必要があります。40歳以上の女性、乳がんの家族歴がある方、しこりが硬く動かない場合などは、特に注意が必要です。
粉瘤の治療方法
治療の基本方針
粉瘤の治療において最も重要なポイントは、嚢腫壁を含めて完全に摘出することです。内容物だけを排出しても嚢腫壁が残っていれば、再び内容物が溜まって再発してしまいます。
粉瘤の治療方法は、症状や状態によって異なります:
- 炎症のない粉瘤:手術による摘出
- 炎症を起こした粉瘤:まず炎症を抑えてから手術
- 破裂した粉瘤:緊急処置後に手術
手術による摘出術
粉瘤の根治的治療は手術による完全摘出です。
従来法(小切開摘出術)
最も一般的な粉瘤の摘出方法です:
- 局所麻酔:手術部位に麻酔薬を注射します。痛みはほとんど感じません。
- 切開:粉瘤の直径とほぼ同じ長さの切開を加えます。開口部がある場合は、それを含めて紡錘形に切開することもあります。
- 嚢腫の摘出:嚢腫壁を破らないように注意しながら、周囲組織から剥離して完全に取り出します。
- 縫合:丁寧に縫合して傷を閉じます。形成外科では真皮縫合という技術を用いて、傷跡を目立たなくします。
- 術後処置:ガーゼで保護し、抗生物質を処方します。
所要時間:15〜30分程度 入院:日帰り手術が可能 抜糸:約1〜2週間後
くり抜き法(パンチ術)
近年注目されている方法で、小さな粉瘤に適しています:
- 局所麻酔を行う
- 円形のパンチで粉瘤に穴を開ける:直径2〜4mmの小さな穴を開けます
- 内容物を排出:粉瘤の内容物を絞り出します
- 嚢腫壁を摘出:穴から嚢腫壁を引き出して除去します
- 縫合または自然閉鎖:小さな傷なので縫合しないこともあります
利点
- 傷が小さい
- 手術時間が短い
- 術後の回復が早い
- 傷跡が目立ちにくい
欠点
- 大きな粉瘤には適さない
- 嚢腫壁の取り残しリスクがやや高い
- 炎症を起こしている場合は困難
炎症を起こした粉瘤の治療
粉瘤が炎症を起こして赤く腫れ、痛みを伴っている場合の治療は、通常の手術とは異なります。
急性期の治療(炎症がある時期)
- 切開排膿
- 局所麻酔下で粉瘤に小さな切開を加える
- 膿を排出して圧力を下げる
- ドレーン(排膿用チューブ)を留置することもある
- 抗生物質投与
- 内服または点滴で抗生物質を投与
- 炎症を抑える
- 消炎鎮痛薬
- 痛みと炎症を和らげる薬を処方
- 安静と冷却
- 患部を安静にする
- 冷やすことで腫れと痛みを軽減
慢性期の治療(炎症が治まった後)
炎症が完全に治まった後(通常2〜3ヶ月後)に、根治的な摘出手術を行います。炎症がある時期に手術を行うと、以下のリスクがあります:
- 嚢腫壁と周囲組織の境界が不明瞭で取り残しやすい
- 出血が多い
- 傷の治りが悪い
- 感染のリスクが高い
したがって、炎症を起こした粉瘤は「二期的手術」、つまり、まず炎症を治療してから後日手術を行うのが基本です。
手術の合併症とリスク
粉瘤の手術は比較的安全な手術ですが、以下のような合併症のリスクがあります:
一般的な合併症
- 出血:術後に創部から出血することがあります
- 感染:手術創が感染を起こすことがあります
- 傷跡:どうしても傷跡は残ります
- 再発:嚢腫壁の取り残しにより再発することがあります(約1〜3%)
稀な合併症
- 神経損傷:手術部位に神経がある場合、しびれが残ることがあります
- 肥厚性瘢痕・ケロイド:体質により傷跡が盛り上がることがあります
- アレルギー反応:麻酔薬や抗生物質に対するアレルギー
これらのリスクを最小限にするため、経験豊富な医師による手術と適切な術後管理が重要です。
術後の経過とケア
手術当日
- 激しい運動や入浴は避ける
- シャワーは可能な場合が多い
- 処方された抗生物質と鎮痛薬を服用
- 患部を清潔に保つ
翌日以降
- 通常の日常生活は可能
- 運動は1週間程度控える
- 患部への刺激を避ける
- 定期的な創部の消毒
抜糸まで(約1〜2週間)
- 糸がある間は水に濡らさないよう注意
- 患部に負担をかけない
- 異常(出血、痛み、発熱など)があればすぐ受診
抜糸後
- 傷跡のケアを開始
- 紫外線対策(日焼け止めの使用)
- 傷跡用テープやクリームの使用
長期的なケア
- 傷跡は徐々に目立たなくなっていきます
- 完全に落ち着くまで6ヶ月〜1年かかります
- ビタミンCの摂取や保湿も傷跡改善に有効
粉瘤を放置するリスク
徐々に大きくなる
粉瘤は自然に治ることはありません。放置すると、時間とともに徐々に大きくなっていく傾向があります。
- 初めは数ミリだった粉瘤が、数年かけて数センチメートルに成長することも
- 大きくなるほど手術の傷も大きくなる
- 早期発見・早期治療が傷跡を最小限にする鍵
炎症を起こすリスク
粉瘤は突然炎症を起こすことがあります。これを「感染性粉瘤」または「炎症性粉瘤」と呼びます。
炎症を起こす原因
- 細菌感染:粉瘤の開口部から細菌が侵入
- 嚢腫の破裂:内圧が高まり嚢腫壁が破れる
- 外傷:ぶつけたり強く押したりする
炎症時の症状
- 急激な腫れ
- 激しい痛み
- 発赤(赤くなる)
- 熱感(触ると熱い)
- 膿の排出
- 発熱することもある
炎症を起こすと、前述のように即座の根治手術ができなくなり、治療が長期化します。また、炎症を繰り返すと周囲組織との癒着が強くなり、手術がより困難になります。
破裂して膿が出る
粉瘤が炎症を起こして内圧が高まると、皮膚が破れて膿が出てくることがあります。
破裂時の問題
- 悪臭を伴う膿が排出される
- 衣服が汚れる
- 痛みが強い
- 周囲への感染拡大のリスク
- 瘢痕(傷跡)が大きく残る可能性
破裂すると一時的に症状が楽になることがありますが、これは治癒したわけではありません。嚢腫壁が残っているため、必ず再発します。
日常生活への支障
胸の粉瘤は、位置によっては日常生活に支障をきたすことがあります:
身体的な支障
- 衣服との摩擦で痛みや不快感
- 下着のストラップが当たって刺激される
- 肩掛けバッグやリュックが当たる
- 就寝時に圧迫されて痛む
精神的な負担
- 見た目が気になる
- 他人に見られたくない
- 温泉やプールを避けるようになる
- パートナーとの関係に影響
- 常に粉瘤のことが気になってストレス
悪性化のリスクは?
粉瘤が悪性化(がん化)することは非常に稀です。しかし、以下のような場合には注意が必要です:
悪性化を疑う兆候
- 急速に大きくなる
- 硬くなる
- 動かなくなる(周囲組織と癒着)
- 皮膚表面がただれる
- リンパ節の腫れを伴う
特に長年放置した大きな粉瘤(5cm以上)では、稀に悪性転化の報告があります。このような場合は早急に医療機関を受診し、生検などの精密検査を受けることが重要です。
再発を繰り返すリスク
一度炎症を起こした粉瘤は、再び炎症を起こしやすくなります。また、不完全な治療(内容物だけを排出して嚢腫壁が残っている)では、必ず再発します。
再発を防ぐために
- 早期に根治手術を受ける
- 嚢腫壁を含めた完全摘出を行う
- 炎症を繰り返す前に治療する
- 経験豊富な医師に手術を依頼する

胸の粉瘤についてよくある質問
Q1. 粉瘤は自分で潰しても良いですか?
A. 絶対に自分で潰さないでください。
粉瘤を自分で潰すことは非常に危険です:
- 細菌感染を引き起こし、炎症が悪化する
- 内容物が周囲組織に広がり、症状が拡大する
- 傷跡が大きく残る
- 完全には取れないため必ず再発する
- 最悪の場合、敗血症などの重篤な感染症になる可能性
「中身を出せば治る」と考える方もいますが、粉瘤の袋(嚢腫壁)が残っている限り、再び内容物が溜まります。必ず医療機関で適切な治療を受けてください。
Q2. 手術の傷跡はどのくらい残りますか?
A. 粉瘤の大きさや手術方法、個人の体質により異なります。
一般的な目安:
- 小さな粉瘤(1cm以下):3〜5mm程度の線状の傷
- 中程度の粉瘤(1〜3cm):粉瘤の直径と同程度の傷
- 大きな粉瘤(3cm以上):やや長めの傷
形成外科では、以下の技術で傷跡を最小限にします:
- 皮膚のシワや自然な線に沿った切開
- 真皮縫合による段差のない縫合
- 細い糸を使った丁寧な縫合
- 術後のテーピングや瘢痕ケア指導
傷跡は術後3〜6ヶ月で徐々に目立たなくなり、1年程度で最終的な状態になります。ただし、体質(ケロイド体質など)により個人差があります。
Q3. 手術は痛いですか?
A. 手術自体は局所麻酔で行うため、痛みはほとんどありません。
手術の痛みについて:
- 麻酔注射の際にチクッとした痛みがあります(数秒程度)
- 麻酔が効いた後の手術中は痛みを感じません
- 術後は鈍い痛みや違和感がありますが、鎮痛薬でコントロール可能です
痛みに弱い方や不安が強い方は、事前に医師に相談することで、より痛みの少ない麻酔方法を選択できる場合もあります。
Q4. 手術後すぐに仕事や日常生活に戻れますか?
A. 多くの場合、翌日から通常の生活が可能です。
ただし、いくつかの制限があります:
手術当日
- デスクワークは可能
- 激しい運動は避ける
- 入浴は避け、シャワーのみ
翌日以降
- 通常の仕事や家事は可能
- 運動は1週間程度控える
- 手術部位に負担をかける動作は避ける
胸の手術の場合、腕を大きく動かす動作(重いものを持つ、高いところに手を伸ばすなど)は控えめにすることをお勧めします。
Q5. 保険は適用されますか?費用はどのくらいですか?
A. 粉瘤の手術は保険適用となります。
健康保険が適用されるため、3割負担の場合:
- 小さな粉瘤の摘出:約5,000〜10,000円
- 中程度の粉瘤の摘出:約10,000〜20,000円
- 大きな粉瘤や複雑な手術:約20,000〜40,000円
これに加えて、診察料、検査料、薬剤費などが必要です。
炎症を起こして切開排膿が必要な場合や、再診が必要な場合は、追加費用がかかります。
Q6. 粉瘤は予防できますか?
A. 完全な予防は困難ですが、リスクを減らすことはできます。
粉瘤予防のための日常的な対策:
- 清潔を保つ
- 毎日入浴またはシャワーで体を洗う
- 汗をかいたらこまめに拭く
- 通気性の良い衣服を選ぶ
- 皮膚への刺激を避ける
- きつい下着や衣服を避ける
- 体を洗う際にゴシゴシこすらない
- ニキビを潰さない
- 健康的な生活習慣
- バランスの取れた食事
- 十分な睡眠
- ストレス管理
- 規則正しい生活
- 早期発見・早期治療
- 小さなしこりを見つけたら早めに受診
- 定期的に自己チェックを行う
Q7. 再発することはありますか?
A. 適切に手術すれば再発率は低いですが、ゼロではありません。
粉瘤の再発率:
- 完全摘出手術:約1〜3%
- 不完全な処置:ほぼ100%再発
再発する原因:
- 嚢腫壁の一部が取り残された
- 炎症が強い時期に手術を行った
- 同じ部位に新たな粉瘤ができた
再発を防ぐためには:
- 経験豊富な医師による手術
- 炎症がない時期に手術を行う
- 病理検査で完全摘出を確認
- 術後の定期的なフォローアップ
Q8. 女性の場合、生理や妊娠への影響はありますか?
A. 胸の粉瘤自体は、生理や妊娠に直接影響しません。
ただし、以下の点に注意が必要です:
生理について
- ホルモンバランスの変化で粉瘤が大きくなることがある
- 生理前に粉瘤が痛むことがある
- 手術のタイミングは生理を避けた方が快適
妊娠について
- 妊娠中はホルモン変化で粉瘤ができやすい、または大きくなりやすい
- 炎症を起こさない限り、妊娠への影響はない
- 妊娠中の手術は可能だが、安定期に行うことが多い
- 使用できる薬剤に制限がある
授乳について
- 乳房の粉瘤は授乳に影響しない
- 手術は断乳後が望ましい
- 抗生物質など、授乳中は使用できない薬がある
妊娠中や授乳中に粉瘤が見つかった場合は、医師に必ず伝えてください。
Q9. 粉瘤ができやすい体質はありますか?
A. 粉瘤ができやすい体質や要因は存在します。
粉瘤のリスク要因:
- 遺伝的要因
- 家族に粉瘤ができやすい人がいる
- 特定の遺伝性疾患(ガードナー症候群など)
- 体質的要因
- オイリー肌(皮脂の分泌が多い)
- ニキビができやすい
- 毛穴が詰まりやすい
- ホルモン要因
- 思春期
- 妊娠・出産期
- ホルモンバランスの乱れ
- 生活習慣
- 不規則な生活
- ストレスが多い
- 食生活の乱れ(高脂肪食、高糖質食)
これらの要因がある方は、より注意深く皮膚の状態をチェックし、早期発見に努めることが大切です。
Q10. 複数の粉瘤がある場合、一度に手術できますか?
A. 部位や大きさによって可能ですが、状況次第です。
複数の粉瘤がある場合:
一度に手術できる条件
- 粉瘤が近い場所にある
- それぞれの粉瘤が小さい
- 患者さんの体力や健康状態が良好
- 手術時間が長くなりすぎない(通常2時間以内)
分けて手術する場合
- 粉瘤が離れた場所にある
- 大きな粉瘤が複数ある
- 患者さんの負担を軽減したい
- より慎重な術後管理が必要
医師と相談して、最適な治療計画を立てることが重要です。
まとめ:胸の粉瘤は早めの受診が大切
胸にできた粉瘤について、何科を受診すべきか、どのような治療があるのかを詳しく解説してきました。重要なポイントを改めてまとめます。
受診すべき診療科
- 形成外科が最適(傷跡を最小限にできる)
- 皮膚科も対応可能(小さな粉瘤や診断)
- 外科でも治療可能
- 女性で乳房周辺の場合は乳腺外科も選択肢
粉瘤治療の重要ポイント
- 粉瘤は自然治癒しない
- 根治には嚢腫壁を含めた完全摘出が必要
- 早期治療ほど傷跡が小さい
- 炎症を起こす前に治療するのが理想的
放置してはいけない理由
- 徐々に大きくなる
- 突然炎症を起こすリスクがある
- 日常生活に支障をきたす
- 治療が遅れるほど手術が大変になる
すぐに受診すべきケース
以下のような症状がある場合は、早急に医療機関を受診してください:
- 急に大きくなった
- 痛みが強い
- 赤く腫れている
- 膿が出ている
- 発熱している
- しこりが硬く、動かない(悪性の可能性を除外する必要あり)
アイシークリニック上野院からのメッセージ
当院では、粉瘤治療の豊富な経験を持つ医師が、患者さん一人ひとりに最適な治療を提供しております。胸の粉瘤は目立つ部位であるため、特に傷跡を最小限にする治療を心がけています。
「これは粉瘤かな?」と思ったら、まずはお気軽にご相談ください。診察や検査を通じて正確な診断を行い、患者さんのご希望や生活スタイルに合わせた治療計画をご提案いたします。
日帰り手術が可能で、多くの場合、手術翌日から通常の生活に戻ることができます。小さなしこりが気になったら、大きくなる前に、炎症を起こす前に、ぜひ早めの受診をお勧めします。
参考文献
本記事の作成にあたり、以下の信頼できる医学情報源を参考にいたしました:
- 日本皮膚科学会:皮膚疾患全般に関する専門的な情報 https://www.dermatol.or.jp/
- 日本形成外科学会:形成外科領域の治療に関する情報 https://www.jsprs.or.jp/
- 日本臨床皮膚科医会:一般向けの皮膚疾患の解説 https://www.jocd.org/
- 厚生労働省:医療・健康に関する公的情報 https://www.mhlw.go.jp/
※本記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の診断や治療の代わりとなるものではありません。症状がある方は必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務