はじめに
皮膚にできた小さなしこりの中央に、黒い点のようなものが見える——このような症状に心当たりはありませんか?それは「粉瘤(ふんりゅう)」かもしれません。特に粉瘤の中央部分に現れる黒ずみは、多くの方が気になる特徴的な症状です。
粉瘤は良性の皮膚腫瘍であり、適切な治療を受ければ心配する必要はありません。しかし、放置すると大きくなったり、炎症を起こしたりすることもあるため、正しい知識を持つことが重要です。
本記事では、粉瘤と黒ずみの関係について、その原因、見分け方、治療方法まで、専門的な視点から詳しく解説していきます。皮膚科医の視点で、一般の方にもわかりやすくお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。

粉瘤(アテローム)とは
粉瘤の基本的な特徴
粉瘤は、医学用語では「アテローム(atheroma)」または「表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)」と呼ばれる、皮膚の良性腫瘍です。皮膚の下に袋状の構造物(嚢腫)ができ、その中に角質や皮脂などの老廃物が溜まっていく病態を指します。
粉瘤は全身のどこにでもできる可能性がありますが、特に以下の部位に多く発生します。
- 顔(特に頬や額)
- 首
- 背中
- 耳の後ろ
- 臀部
年齢や性別を問わず誰にでも発生する可能性があり、日本人の多くが一生のうちに一度は経験すると言われています。
粉瘤ができるメカニズム
粉瘤がどのようにして形成されるのか、そのメカニズムを理解することは重要です。
通常、皮膚の表皮細胞は新陳代謝により、古い角質として自然に剥がれ落ちていきます。しかし、何らかの原因で皮膚の下に袋状の構造ができてしまうと、本来外に排出されるべき角質や皮脂が袋の中に溜まり続けてしまいます。
この袋の内側は表皮と同じ構造を持っているため、袋の内部でも角質が作られ続けます。つまり、粉瘤は時間とともに内容物が増え、徐々に大きくなっていく傾向があるのです。
粉瘤の発生原因
粉瘤がなぜできるのか、その明確な原因は完全には解明されていませんが、以下のような要因が関係していると考えられています。
外傷や打撲の影響 皮膚に外傷を受けた際、表皮が皮膚の深部に入り込んでしまい、そこで袋状の構造を形成することがあります。打撲や擦り傷、ニキビ跡などが原因となることもあります。
毛包(毛穴)の閉塞 毛穴が何らかの理由で詰まり、その部分が拡張して袋状になることで粉瘤が形成されることがあります。これは特に皮脂の分泌が盛んな部位で起こりやすい傾向があります。
遺伝的要因 粉瘤は家族内で複数人に発生することもあり、遺伝的な要因も関与している可能性が指摘されています。
ウイルス感染 一部の研究では、ヒトパピローマウイルス(HPV)などのウイルス感染が関与している可能性も示唆されていますが、まだ確定的な結論には至っていません。
粉瘤の黒ずみ:開口部(へそ)の特徴
黒ずみの正体
粉瘤の最も特徴的な所見の一つが、中央部分に見られる黒い点状の開口部です。これは「臍窩(さいか)」または単に「へそ」と呼ばれ、粉瘤を他の皮膚疾患から見分ける重要なポイントとなります。
この黒ずみは、粉瘤の袋と皮膚表面をつなぐ小さな開口部であり、ここから内容物が外部と交通しています。黒く見える理由は、開口部に詰まった角質や皮脂が酸化することで、黒色化するためです。これは、毛穴の黒ずみや鼻の角栓が黒く見えるメカニズムと同様です。
黒ずみの大きさと形状
粉瘤の開口部(黒ずみ)の大きさや形状は、個々の症例によって異なります。
小さな点状の黒ずみ 最も一般的なタイプで、針の先ほどの小さな黒い点として観察されます。虫眼鏡で見ないと分からないほど小さいこともあります。
明瞭な開口部 比較的大きく、1〜2mm程度の明確な黒い開口部として確認できるタイプです。このような場合、開口部から白いチーズ状の内容物が少量出てくることもあります。
複数の開口部 まれに、一つの粉瘤に複数の開口部が存在することもあります。
黒ずみが目立たない粉瘤もある
すべての粉瘤に明確な黒ずみがあるわけではありません。開口部が非常に小さく、肉眼では確認しにくい場合や、炎症によって開口部が閉じてしまっている場合もあります。
特に以下のような状況では、黒ずみが目立たないことがあります。
- 粉瘤が深い部位にできている場合
- 炎症を起こして腫れている場合
- 開口部が非常に小さい場合
- 皮膚の色が濃い部位にできた場合
黒ずみと粉瘤の内容物
開口部の黒ずみから、時折内容物が排出されることがあります。この内容物は以下のような特徴を持っています。
外観 白色から淡黄色のペースト状ないしチーズ状の物質で、「粥状物(じゅくじょうぶつ)」と呼ばれます。
臭い 独特の不快な臭いを伴うことが多く、これは内容物に含まれる角質や皮脂が分解される際に発生する脂肪酸などによるものです。
量 粉瘤の大きさによって異なりますが、小さなものでは米粒程度、大きなものでは数cc以上になることもあります。
粉瘤の黒ずみを他の皮膚疾患と見分けるポイント
ニキビとの違い
粉瘤はしばしばニキビと間違えられますが、以下の点で明確に異なります。
大きさと硬さ ニキビは通常数mm程度ですが、粉瘤は数mmから数cmまで様々なサイズがあり、皮膚の下に硬いしこりを触れることができます。
経過 ニキビは通常、数日から数週間で自然に治癒しますが、粉瘤は自然には消失せず、時間とともに徐々に大きくなる傾向があります。
中央の黒ずみ 粉瘤には特徴的な中央の黒い開口部(へそ)がありますが、ニキビにはこのような構造はありません。ニキビの黒ずみ(黒ニキビ)は毛穴の開口部に詰まった角栓で、粉瘤の開口部とは異なります。
黒子(ほくろ)との違い
小さな粉瘤の開口部は、遠目には黒子に見えることがあります。しかし、以下の点で区別できます。
立体感 黒子は基本的に平坦か、わずかに隆起する程度ですが、粉瘤は皮膚の下に明確なしこりがあり、立体的に盛り上がっています。
触診 粉瘤には皮膚の下に可動性のある(動く)しこりがありますが、黒子にはそのような所見はありません。
周囲の皮膚 粉瘤は中央の黒ずみを取り囲むように皮膚が盛り上がっていますが、黒子は基本的に色素のみの変化です。
脂肪腫との違い
脂肪腫も皮膚の下にしこりができる良性腫瘍ですが、粉瘤とは以下の点で異なります。
開口部の有無 粉瘤には特徴的な黒い開口部がありますが、脂肪腫には開口部がありません。
硬さ 脂肪腫は柔らかく、弾力性があるのに対し、粉瘤はより硬く、中に固形物が詰まっている感触があります。
深さ 脂肪腫は皮下組織により深い位置にできることが多いのに対し、粉瘤は表皮に近い位置にできます。
毛嚢炎(毛包炎)との違い
毛嚢炎は毛穴に細菌が感染して炎症を起こした状態ですが、粉瘤とは以下の点で区別されます。
経過 毛嚢炎は通常、数日から1週間程度で自然治癒または抗生物質で治癒しますが、粉瘤は治療しない限り持続します。
しこりの存在 毛嚢炎は表面的な炎症のみで、深部のしこりはありませんが、粉瘤には明確なしこりがあります。
再発性 粉瘤は同じ場所に繰り返し炎症を起こすことがありますが、毛嚢炎は通常、一度治れば再発は少ないです。
黒ずみのある粉瘤の経過と合併症
粉瘤の自然経過
粉瘤は基本的に良性の腫瘍であり、悪性化することは極めてまれです。しかし、放置すると以下のような経過をたどることがあります。
徐々に増大 粉瘤の袋の中では常に角質が産生され続けるため、時間とともに徐々に大きくなっていきます。数年から数十年かけてゆっくりと成長するものが多いですが、中には比較的急速に大きくなるものもあります。
開口部の変化 時間の経過とともに、開口部(黒ずみ)の大きさや形状が変化することがあります。内容物の排出が繰り返されることで、開口部が拡大することもあります。
炎症性粉瘤(感染性粉瘤)
粉瘤の最も一般的な合併症が炎症です。これは「炎症性粉瘤」または「感染性粉瘤」と呼ばれ、以下のような状況で発生します。
炎症のメカニズム 粉瘤の袋が破れて内容物が周囲の組織に漏れ出すと、異物反応として炎症が起こります。また、開口部から細菌が侵入して感染を起こすこともあります。
症状
- 急激な腫れと赤み
- 強い痛み
- 熱感
- 時に発熱
- 膿の形成
炎症時の黒ずみの変化 炎症を起こすと、粉瘤は大きく腫れ上がり、本来の開口部(黒ずみ)が見えにくくなることがあります。また、炎症によって開口部が一時的に閉じてしまうこともあります。
破裂と膿瘍形成
炎症が進行すると、粉瘤が破裂して内容物が排出されることがあります。
自然破裂 炎症によって皮膚が薄くなり、自然に破裂することがあります。この場合、悪臭を伴う膿や内容物が大量に排出されます。
膿瘍形成 感染が重症化すると、粉瘤の周囲に膿が溜まり、膿瘍を形成することがあります。この状態では、切開して膿を排出する処置が必要になります。
瘢痕(傷跡)の形成
炎症を繰り返した粉瘤は、周囲の組織にダメージを与え、治療後も瘢痕(はんこん:傷跡)が残ることがあります。
炎症を起こす前の治療が重要 炎症を起こしていない状態で手術を行えば、小さな傷跡で済むことが多いですが、炎症後は組織の癒着などにより、より大きな傷跡が残る可能性が高くなります。
まれな合併症
以下のような合併症は非常にまれですが、知っておくべき事項です。
悪性転化 極めてまれですが、長期間放置された大きな粉瘤が悪性化(有棘細胞癌など)した症例が報告されています。特に長年存在する大きな粉瘤や、急速に増大する粉瘤には注意が必要です。
多発性粉瘤 体の複数箇所に粉瘤ができる場合があります。これは遺伝的な要因や、基礎疾患(ガードナー症候群など)に関連することもあります。
診断方法
視診と触診
粉瘤の診断は、まず視診と触診から始まります。経験豊富な皮膚科医であれば、以下の特徴から粉瘤を診断できます。
視診での確認ポイント
- 皮膚の盛り上がり
- 中央部の黒い開口部(へそ)の有無
- 周囲の皮膚の状態(炎症の有無)
- 大きさと形状
触診での確認ポイント
- 皮膚の下に触れる可動性のあるしこり
- しこりの硬さと弾力性
- 圧痛の有無
- しこりの境界の明瞭さ
超音波検査(エコー検査)
粉瘤の診断をより確実にするため、また手術前の評価のために超音波検査が行われることがあります。
超音波検査でわかること
- 粉瘤の正確な大きさ
- 粉瘤の深さと位置
- 周囲の組織との関係
- 内部の構造
- 血流の状態
超音波検査は痛みもなく、放射線被曝もないため、安全に繰り返し行うことができます。
ダーモスコピー検査
ダーモスコピーは、拡大鏡を使って皮膚の表面を詳しく観察する検査です。
ダーモスコピーでの観察ポイント
- 開口部の詳細な構造
- 周囲の血管パターン
- 色素の分布
この検査は特に、粉瘤と黒子やその他の皮膚病変を鑑別する際に有用です。
鑑別診断が必要な疾患
以下のような疾患との鑑別が必要となる場合があります。
- 脂肪腫
- 石灰化上皮腫
- 皮様嚢腫
- 類表皮嚢腫
- ガングリオン(関節部の場合)
- リンパ節腫大
- 悪性腫瘍(まれ)
病理組織検査
手術で摘出した粉瘤は、病理組織検査に提出されます。
病理組織検査の重要性
- 確定診断
- 悪性所見の有無の確認
- 完全切除の確認
病理組織検査では、顕微鏡下で粉瘤の袋の構造を観察し、内側が表皮と同じ構造(重層扁平上皮)で裏打ちされていることを確認します。
粉瘤の治療方法
根本的治療:手術による摘出
粉瘤の根本的な治療は、袋ごと完全に摘出する手術です。内容物だけを取り除いても、袋が残っている限り再発してしまうため、袋を含めた完全摘出が必要です。
小切開摘出術(くり抜き法)
現在、粉瘤治療の主流となっているのが小切開摘出術、通称「くり抜き法」です。
手術の流れ
- 局所麻酔 手術部位に局所麻酔薬を注射します。最近は極細の針を使用するため、麻酔の痛みも最小限に抑えられています。
- トレパン(円筒状のメス)での切開 開口部(黒ずみ)を中心に、専用のトレパンという円筒状のメスで小さな円形の穴を開けます。通常、3〜6mm程度の小さな穴で済みます。
- 内容物の排出 穴から粉瘤の内容物を絞り出します。
- 袋の摘出 特殊な器具を使って、袋を丁寧に取り出します。
- 縫合または自然治癒 小さな傷は縫合せずに自然治癒させることが多いです。大きな場合は1〜2針縫合します。
くり抜き法のメリット
- 傷跡が小さい
- 手術時間が短い(10〜20分程度)
- 治療後の痛みが少ない
- 早期の社会復帰が可能
くり抜き法のデメリット
- 大きな粉瘤には適用できないことがある
- 炎症を起こしている場合は施行が難しい
切除縫縮術(紡錘形切除)
従来から行われている標準的な手術方法です。
手術の流れ
- 局所麻酔 手術部位に局所麻酔を行います。
- 紡錘形の切開 粉瘤を中心に、開口部を含めて紡錘形(楕円形)に皮膚を切開します。
- 粉瘤の摘出 周囲の組織から粉瘤を剥離し、袋ごと完全に摘出します。
- 縫合 真皮と皮膚を丁寧に縫合します。通常、吸収糸で真皮を縫合した後、表面を非吸収糸で縫合します。
- 抜糸 通常、1〜2週間後に抜糸を行います。
切除縫縮術のメリット
- 大きな粉瘤でも対応可能
- 袋の完全摘出が確実
- 再発率が低い
切除縫縮術のデメリット
- 傷跡が比較的大きい(粉瘤の2〜3倍の長さ)
- 手術時間がやや長い(20〜40分程度)
- 抜糸のための通院が必要
炎症を起こしている場合の治療
粉瘤が炎症を起こしている場合、まず炎症を鎮めることが優先されます。
急性期の対応
- 切開排膿 膿が溜まっている場合は、切開して膿を排出します。
- 抗生物質の投与 感染に対して抗生物質の内服または点滴を行います。
- 消炎鎮痛剤の使用 痛みや炎症を抑えるために、消炎鎮痛剤を使用します。
根治手術のタイミング 炎症が完全に治まった後、通常1〜3ヶ月程度経過してから根治手術を行います。炎症期に無理に袋を摘出しようとすると、組織の癒着が強く、完全摘出が困難になるとともに、傷跡も大きくなってしまいます。
レーザー治療
一部の医療機関では、CO2レーザーを使用した粉瘤治療も行われています。
レーザー治療の特徴
- 出血が少ない
- 傷跡が小さい
- 治癒が早い
ただし、レーザー治療は保険適用外となることが多く、費用が高額になる場合があります。
治療後のケア
手術後の適切なケアは、きれいな傷跡を残すために重要です。
傷の管理
- 手術当日は濡らさないようにする
- 翌日から洗浄が可能(優しく洗う)
- 処方された軟膏を塗布
- ガーゼや絆創膏で保護
日常生活の注意点
- 激しい運動は1週間程度控える
- 飲酒は数日間控える(出血リスクのため)
- 手術部位を無理に動かさない
- 処方された抗生物質は最後まで服用
抜糸まで(切除縫縮術の場合)
- 定期的な通院(通常1〜2回)
- 傷の状態の確認
- 感染徴候のチェック

粉瘤の黒ずみに関するよくある質問
Q1. 粉瘤の黒ずみを隠すために化粧をしても良いですか?
A. 炎症を起こしていない粉瘤であれば、化粧をすることは可能です。ただし、以下の点に注意してください。
- 刺激の少ない化粧品を使用する
- 厚塗りは避ける
- 夜は必ず化粧を落とす
- 開口部を強く押さない
炎症を起こしている場合は、化粧品による刺激が悪化の原因となる可能性があるため、控えた方が良いでしょう。
Q2. 粉瘤の黒ずみから内容物を自分で押し出しても良いですか?
A. 絶対におすすめできません。理由は以下の通りです。
感染のリスク 不潔な環境で押し出すと、細菌が侵入して感染を起こす可能性があります。
炎症の誘発 無理に内容物を押し出すと、袋が破れて周囲の組織に炎症が広がる可能性があります。
完全除去は不可能 内容物を出しても袋が残っているため、必ず再発します。
傷跡が残る 自己処理によって皮膚にダメージを与え、醜い傷跡が残る可能性があります。
Q3. 粉瘤の黒ずみは自然に消えることはありますか?
A. 残念ながら、粉瘤が自然に消失することはほとんどありません。粉瘤の袋は体内に残り続け、時間とともに徐々に大きくなる傾向があります。
まれに、炎症を起こした後に袋が破れて内容物が完全に排出され、その後袋も自然に吸収されることがありますが、これは例外的なケースです。
Q4. 粉瘤の手術後、黒ずみは残りますか?
A. 適切な手術を行えば、粉瘤の開口部(黒ずみ)を含めて完全に摘出されるため、黒ずみが残ることはありません。
手術の傷跡は残りますが、特にくり抜き法では非常に小さな傷跡で済みます。また、時間の経過とともに傷跡は目立たなくなっていきます。
傷跡を目立たなくするコツ
- 紫外線対策をしっかり行う
- 傷跡専用のテープやシリコンジェルを使用
- ビタミンC誘導体などの美白成分の使用
- 必要に応じてレーザー治療の検討
Q5. 粉瘤ができやすい体質はありますか?
A. 粉瘤のできやすさには個人差があり、以下のような要因が関係していると考えられています。
遺伝的要因 家族内で複数人が粉瘤を経験している場合、遺伝的にできやすい体質である可能性があります。
皮脂の分泌量 皮脂の分泌が多い人は、毛穴が詰まりやすく、粉瘤ができやすい傾向があります。
外傷の既往 皮膚に外傷を受けやすい生活環境や職業の人は、粉瘤のリスクが高まる可能性があります。
Q6. 粉瘤の予防法はありますか?
A. 粉瘤の発生を完全に予防する方法は確立されていませんが、以下のような注意が有用です。
皮膚を清潔に保つ 毎日の入浴で皮膚を清潔に保ち、毛穴の詰まりを防ぎます。
外傷を避ける 不要な皮膚への外傷を避けることで、粉瘤の発生リスクを減らせる可能性があります。
早期発見・早期治療 小さなしこりに気づいたら、早めに皮膚科を受診しましょう。小さいうちに治療すれば、より簡単で傷跡も小さく済みます。
ニキビを潰さない ニキビを無理に潰すと、それが原因で粉瘤ができることがあります。
Q7. 粉瘤の手術費用はどのくらいですか?
A. 粉瘤の手術は健康保険が適用されます。費用は粉瘤の大きさや部位、手術方法によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
3割負担の場合
- 小さな粉瘤(2cm未満):約5,000〜10,000円
- 中程度の粉瘤(2〜4cm):約10,000〜15,000円
- 大きな粉瘤(4cm以上):約15,000〜20,000円以上
これらの費用には、初診料、手術料、薬剤料、病理検査料などが含まれます。
Q8. 粉瘤の手術後、再発することはありますか?
A. 袋を完全に摘出できれば、同じ場所に再発することはほとんどありません。再発率は一般的に5%以下と言われています。
再発の原因
- 袋の一部が残存した場合
- 炎症中の手術で完全摘出が困難だった場合
- 複数の粉瘤が近接していた場合
再発を防ぐためには、炎症を起こしていない状態で、経験豊富な医師による手術を受けることが重要です。
黒ずみのある粉瘤を放置するリスク
粉瘤は良性の腫瘍ですが、だからといって放置しても良いというわけではありません。放置することで以下のようなリスクがあります。
徐々に増大する
前述の通り、粉瘤は時間とともに徐々に大きくなります。
大きくなるほどのデメリット
- 手術が大がかりになる
- 傷跡が大きくなる
- 手術時間が長くなる
- 費用が高くなる
- 日常生活への支障が大きくなる
小さいうちに治療すれば、簡単な処置で済み、傷跡も目立たなくて済みます。
炎症を起こすリスク
粉瘤は何らかのきっかけで炎症を起こすことがあります。
炎症を起こすきっかけ
- 物理的な刺激(圧迫、摩擦など)
- 細菌感染
- 粉瘤の袋の自然破裂
炎症を起こすと、強い痛みや腫れを伴い、日常生活に大きな支障をきたします。また、炎症後は組織の癒着が生じ、手術が難しくなったり、傷跡が大きくなったりする可能性があります。
外見上の問題
顔や首など目立つ部位の粉瘤は、外見上のコンプレックスとなることがあります。
心理的影響
- 人目が気になる
- 自信の低下
- 社会生活への影響
特に黒ずみが目立つ場合は、「汚れている」「不潔」といった誤解を受けることもあり、精神的なストレスとなることがあります。
圧迫症状
大きな粉瘤は周囲の組織を圧迫し、症状を引き起こすことがあります。
部位別の圧迫症状
- 顔面:表情筋への影響
- 首:嚥下困難、呼吸困難(巨大な場合)
- 背中:座位や仰臥位での違和感
- 臀部:座位での痛み
悪性化のリスク(まれ)
極めてまれですが、長期間放置された粉瘤が悪性化したケースが報告されています。
注意すべきサイン
- 急速な増大
- 硬さの変化
- 周囲組織への固着
- 潰瘍形成
- リンパ節腫大
このような変化が見られた場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。
アイシークリニック上野院での治療
当院の特徴
アイシークリニック上野院では、粉瘤治療に特化した診療を行っております。
経験豊富な医師による治療 粉瘤治療の豊富な経験を持つ医師が、一人ひとりの患者様に最適な治療法をご提案します。
最新の治療技術 小切開摘出術(くり抜き法)をはじめ、最新の治療技術を導入し、できる限り傷跡が小さく、痛みの少ない治療を心がけています。
日帰り手術 ほとんどの粉瘤手術は日帰りで行うことができ、お仕事や日常生活への影響を最小限に抑えます。
丁寧なカウンセリング 治療前には十分な説明とカウンセリングを行い、患者様の不安や疑問を解消します。
診療の流れ
- 初診・診察 症状を詳しくお伺いし、視診・触診を行います。必要に応じて超音波検査も実施します。
- 治療方針の決定 粉瘤の大きさ、部位、炎症の有無などを総合的に判断し、最適な治療方針を決定します。
- 手術(または炎症の治療) 日程を調整し、手術を行います。炎症がある場合は、まず炎症の治療を優先します。
- 術後フォロー 手術後は定期的に通院していただき、傷の状態を確認します。
- 病理検査結果の説明 摘出した組織の病理検査結果をご説明します。
受診のタイミング
以下のような症状がある場合は、お早めにご相談ください。
- 皮膚にしこりがあり、中央に黒い点が見える
- しこりが徐々に大きくなっている
- 赤く腫れて痛みがある
- 以前に治療した粉瘤が再発した
- 粉瘤かどうか判断できない皮膚のしこり
早期の治療が、より良い結果につながります。
まとめ
粉瘤は中央部に黒い開口部(黒ずみ)を持つことが多く、これが診断の重要なポイントとなります。この黒ずみは、粉瘤の袋と皮膚表面をつなぐ開口部で、詰まった角質や皮脂が酸化して黒く見えます。
粉瘤は良性の腫瘍ですが、自然に消失することはなく、時間とともに徐々に大きくなったり、炎症を起こしたりする可能性があります。根本的な治療は手術による摘出であり、特に小切開摘出術(くり抜き法)は傷跡が小さく、効果的な治療法として広く行われています。
皮膚にしこりがあり、中央に黒い点が見える場合は、粉瘤の可能性があります。放置せず、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。小さいうちに治療すれば、簡単な処置で済み、傷跡も目立たなくて済みます。
アイシークリニック上野院では、粉瘤治療の豊富な経験を持つ医師が、患者様一人ひとりに最適な治療を提供しております。粉瘤でお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
- 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A 粉瘤(アテローム)」
https://www.dermatol.or.jp/qa/qa11/q01.html - 日本形成外科学会「皮膚・皮下腫瘍」
https://jsprs.or.jp/ - 厚生労働省「皮膚の病気について」
https://www.mhlw.go.jp/ - 一般社団法人 日本創傷外科学会
https://www.jswcs.org/ - メディカルノート「粉瘤(アテローム)」
https://medicalnote.jp/ - 標準皮膚科学(医学書院)第10版
- あたらしい皮膚科学(中山書店)第3版
- 日本臨床皮膚科医会
https://www.jocd.org/
※本記事の内容は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断や治療を代替するものではありません。症状のある方は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務