はじめに
お風呂に入っているときや着替えの際に、ふと脇の下にしこりを見つけて不安になったことはありませんか?「もしかして悪い病気では?」「どの病院に行けばいいの?」と心配になる方も多いでしょう。
脇の下のしこりは決して珍しい症状ではありません。多くの場合は良性のものですが、中には早期の治療が必要な疾患もあります。本記事では、脇にしこりができる原因、受診すべき診療科、診断・治療方法について、医療の観点から詳しく解説していきます。

脇のしこりとは?基礎知識
しこりの特徴
脇の下のしこりとは、皮膚の下や脇の深部に触れることができる塊状の腫瘤のことを指します。大きさは数ミリから数センチまでさまざまで、触ったときの硬さや可動性(動くかどうか)、痛みの有無なども異なります。
しこりの性状によって、ある程度原因を推測することができます。
良性のしこりの特徴:
- 表面が滑らかで境界が明瞭
- 柔らかく弾力がある
- 皮膚や周囲組織とは独立して動く
- ゆっくりと大きくなる、または変化しない
- 痛みがないことが多い
注意が必要なしこりの特徴:
- 表面が不規則で境界が不明瞭
- 硬く、周囲組織と癒着している
- 短期間で急速に大きくなる
- 皮膚の変色や潰瘍を伴う
- リンパ節の腫れが複数箇所にある
脇の下の解剖学的構造
脇の下(腋窩)には、以下のような重要な構造があります。
- リンパ節: 免疫系の一部で、細菌やウイルスなどの異物をろ過する役割
- 汗腺: エクリン汗腺とアポクリン汗腺の2種類が存在
- 皮脂腺: 皮膚を保護する油分を分泌
- 血管と神経: 腕への血液供給と神経伝達を担う
- 脂肪組織: クッションの役割を果たす
- 筋肉: 胸筋や背部の筋肉が隣接
これらのいずれの組織からも、しこりが生じる可能性があります。
脇のしこりの主な原因
脇の下にできるしこりの原因は多岐にわたります。ここでは代表的な原因について詳しく見ていきましょう。
1. リンパ節の腫れ(リンパ節腫脹)
最も一般的な原因の一つがリンパ節の腫れです。
感染症によるリンパ節腫脹
風邪やインフルエンザ、上気道感染症などの感染症にかかると、体の免疫システムが活性化され、リンパ節が一時的に腫れることがあります。また、腕や手の傷口から細菌が侵入した場合も、脇の下のリンパ節が反応して腫れることがあります。
特徴:
- 痛みを伴うことが多い
- 触ると柔らかく、可動性がある
- 感染症の改善とともに縮小することが多い
- 発熱や全身倦怠感を伴うこともある
悪性リンパ腫
リンパ組織から発生する悪性腫瘍です。ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分類されます。
特徴:
- 痛みがないことが多い
- 硬く、ゴム様の弾力がある
- 複数のリンパ節が腫れることがある
- 発熱、寝汗、体重減少などの全身症状を伴うことがある
国立がん研究センターによると、悪性リンパ腫は血液がんの一種で、早期発見・早期治療が重要とされています。
転移性リンパ節腫大
乳がんや肺がんなど、他の臓器のがんが脇のリンパ節に転移することがあります。特に乳がんの場合、脇の下のリンパ節は最初に転移しやすい部位の一つです。
特徴:
- 硬く、周囲組織と癒着していることがある
- 痛みがないことが多い
- 徐々に大きくなる
- 原発巣(最初にがんが発生した場所)の症状を伴うことがある
2. 粉瘤(アテローム)
粉瘤は、皮膚の下に袋状の構造物ができ、その中に角質や皮脂などの老廃物が溜まってできる良性の腫瘤です。
特徴:
- 皮膚の下にできる柔らかい腫瘤
- 中央に黒い点(開口部)が見えることがある
- 通常は痛みがないが、感染すると赤く腫れて痛みを伴う
- ゆっくりと大きくなることがある
- 独特の臭いを持つ内容物が詰まっている
粉瘤は全身のどこにでもできますが、脇の下は比較的多い部位の一つです。放置しても問題ありませんが、感染を起こすと炎症性粉瘤となり、痛みや赤み、腫れが生じます。
3. 脂肪腫
脂肪組織から発生する良性の腫瘍です。40〜60代に多く見られ、女性にやや多い傾向があります。
特徴:
- 柔らかく、弾力がある
- 皮膚の下で動かすことができる
- 痛みはほとんどない
- 数センチ程度の大きさのものが多い
- ゆっくりと成長する
脂肪腫は良性腫瘍であり、悪性化することはほとんどありません。ただし、急速に大きくなる場合や、痛みを伴う場合は、脂肪肉腫などの悪性腫瘍の可能性も考慮する必要があります。
4. 化膿性汗腺炎(hidradenitis suppurativa)
アポクリン汗腺が集中する脇の下、鼠径部、臀部などに好発する慢性炎症性疾患です。
特徴:
- 痛みを伴う赤い結節やしこりができる
- 再発を繰り返す
- 膿が出ることがある
- 瘢痕(傷跡)を形成することがある
- 20〜40代に多い
喫煙や肥満、ホルモンバランスの乱れなどが関与していると考えられています。
5. 毛嚢炎・せつ(癤)
毛穴から細菌が侵入して炎症を起こす状態です。せつは毛嚢炎が進行して、膿が溜まった状態を指します。
特徴:
- 赤く腫れて痛みを伴う
- 中心に膿を持つことがある
- 触ると熱感がある
- 毛の生えている部分にできる
脇の下は、剃毛や摩擦などで皮膚が傷つきやすく、細菌感染を起こしやすい部位です。
6. 副乳
本来の乳房以外の場所に乳腺組織が存在する状態を副乳といいます。脇の下は副乳ができやすい部位の一つです。
特徴:
- 柔らかいしこり
- 月経周期に伴って大きさや痛みが変化することがある
- 妊娠・授乳期に腫大することがある
- 通常は痛みがない
副乳自体は病的なものではありませんが、まれに副乳に乳がんが発生することもあるため、変化があれば医療機関を受診することが推奨されます。
7. その他の原因
- 神経鞘腫: 神経を覆う鞘から発生する良性腫瘍
- 血管腫: 血管の異常増殖によってできる腫瘤
- 線維腫: 線維組織から発生する良性腫瘍
- 結核性リンパ節炎: 結核菌感染によるリンパ節の腫れ
- サルコイドーシス: 全身性の肉芽腫性疾患で、リンパ節腫脹を伴うことがある
どの診療科を受診すべきか?
脇にしこりを見つけた場合、「何科を受診すればいいのか」は多くの方が悩むポイントです。しこりの特徴や症状によって、適切な診療科が異なります。
【基本】まずは一般外科・外科
迷った場合は、まず一般外科または外科を受診することをお勧めします。外科医は体表の腫瘤を診察・治療する専門家であり、しこりの性状を評価し、必要に応じて適切な診療科へ紹介してくれます。
【皮膚科】皮膚表面に近いしこりの場合
以下のような場合は皮膚科が適しています。
- 皮膚の表面または浅い部分にしこりがある
- 皮膚の色の変化を伴う
- 赤み、腫れ、痛みがある
- 毛穴から膿が出ている
- 粉瘤や脂肪腫が疑われる
皮膚科では、皮膚や皮下組織の疾患を専門的に診断・治療します。日本皮膚科学会の認定専門医が在籍する医療機関では、より専門的な診療を受けることができます。
参考: 日本皮膚科学会
【乳腺外科・乳腺科】女性で乳房に近い部位の場合
以下のような場合は乳腺外科または乳腺科の受診を検討してください。
- 女性で、脇の下の乳房に近い部分にしこりがある
- 乳房にもしこりや変化がある
- 副乳が疑われる
- 乳がんの家族歴がある
- 月経周期に伴ってしこりの大きさが変化する
乳腺外科では、乳房および周辺組織の疾患を専門的に扱います。マンモグラフィーや超音波検査などの画像診断設備が整っていることが多く、乳がんのスクリーニングや精密検査が可能です。
【内科・総合診療科】全身症状を伴う場合
以下のような場合は内科または総合診療科が適しています。
- 発熱、寝汗、体重減少などの全身症状がある
- 複数のリンパ節が腫れている
- 風邪症状の後にしこりができた
- どの診療科を受診すべきか判断が難しい
内科では、感染症や血液疾患など、全身性の疾患の診断・治療を行います。必要に応じて、専門的な検査や他科への紹介を行ってくれます。
【形成外科】美容面も考慮した治療を希望する場合
しこりの摘出術後の傷跡を最小限にしたい場合や、美容的な配慮が必要な場合は形成外科も選択肢となります。
形成外科では、組織の修復や再建を専門としており、できるだけ目立たない傷跡になるような手術手技を用いることができます。
【血液内科】悪性リンパ腫などが疑われる場合
画像検査や生検の結果、悪性リンパ腫などの血液疾患が疑われる場合は、血液内科での専門的な治療が必要になります。
受診先選びのフローチャート
脇のしこりを発見
↓
痛み・発熱・赤みがある → 感染症の可能性 → 皮膚科または外科
↓
女性で乳房近く → 副乳や乳腺疾患の可能性 → 乳腺外科
↓
全身症状がある → リンパ腫や感染症の可能性 → 内科
↓
上記に当てはまらない → まずは外科または皮膚科
医療機関での診断方法
脇のしこりの診断には、以下のようなステップがあります。
1. 問診
医師は以下のような質問をして、しこりの状態や経過を確認します。
- いつ頃からしこりに気づいたか
- しこりの大きさの変化
- 痛みの有無と程度
- 発熱や全身倦怠感などの症状
- 最近の感染症の有無
- がんの家族歴
- 喫煙習慣や生活習慣
- 女性の場合、月経周期との関連
2. 視診・触診
医師がしこりの特徴を観察します。
視診で確認する項目:
- 皮膚の色調変化
- 皮膚表面の性状
- 周囲組織の腫れや発赤
触診で確認する項目:
- しこりの大きさ
- 硬さ(軟らかい・硬い・ゴム様など)
- 表面の性状(滑らか・不規則)
- 可動性(動くか、固定しているか)
- 圧痛の有無
- 周囲のリンパ節の状態
触診は、しこりの性質を判断する上で非常に重要な診察です。経験豊富な医師であれば、触診である程度の鑑別診断が可能です。
3. 画像検査
超音波検査(エコー検査)
最も一般的に行われる検査で、痛みがなく、放射線被曝もありません。
利点:
- 非侵襲的で安全
- リアルタイムで観察できる
- しこりの内部構造を評価できる
- 血流の評価も可能(ドプラ法)
- 検査費用が比較的安価
超音波検査では、しこりの大きさ、形状、内部エコー(中身の性状)、周囲組織との関係などを評価します。
CT検査(コンピュータ断層撮影)
X線を使用して体の断面画像を撮影する検査です。
適応:
- しこりの広がりや深さを評価する場合
- 周囲組織やリンパ節への浸潤を確認する場合
- 全身のリンパ節の状態を調べる場合
造影剤を使用することで、血流の豊富さや組織の性状をより詳しく評価できます。
MRI検査(磁気共鳴画像診断)
磁気と電波を使用して体の断面画像を撮影する検査です。
利点:
- 軟部組織のコントラストが優れている
- 放射線被曝がない
- 多方向からの画像が得られる
適応:
- 腫瘍の性質をより詳しく評価する場合
- 神経や血管との関係を確認する場合
- 腫瘍の広がりを精密に評価する場合
マンモグラフィー
乳房のX線検査で、主に女性の乳がん検診に使用されます。
脇の下のしこりが副乳や乳腺組織に関連している可能性がある場合、乳腺全体の評価のために実施されることがあります。
4. 血液検査
全身状態の評価や、感染症・炎症の程度、腫瘍マーカーなどを調べます。
主な検査項目:
- 白血球数・分画: 感染症や血液疾患の評価
- CRP(C反応性タンパク): 炎症の指標
- LDH(乳酸脱水素酵素): 細胞破壊の指標、リンパ腫などで上昇
- 可溶性IL-2受容体: 悪性リンパ腫などで上昇
- 腫瘍マーカー: 特定のがんで上昇することがある
5. 細胞診・組織診(生検)
しこりが良性か悪性かを確定診断するための検査です。
穿刺吸引細胞診(FNA: Fine Needle Aspiration)
細い針でしこりを穿刺し、細胞を吸引して顕微鏡で観察する検査です。
特徴:
- 外来で実施可能
- 比較的侵襲が少ない
- 迅速に結果が得られる
- 細胞レベルでの診断
針生検(コア針生検)
やや太い針を使用して、組織の一部を採取する検査です。
特徴:
- 細胞診よりも多くの組織が得られる
- 組織構造を保ったまま評価できる
- より正確な診断が可能
切除生検
しこり全体またはその一部を手術で摘出して診断する方法です。
適応:
- 針生検で診断が確定しない場合
- しこりが小さく、切除が容易な場合
- 治療と診断を兼ねる場合
生検の結果、病理医が顕微鏡で細胞や組織を詳しく観察し、良性か悪性か、どのような種類の腫瘍かを判断します。
6. その他の検査
PET-CT検査
がん細胞が糖を多く取り込む性質を利用した検査で、全身のがんの有無や転移の評価に使用されます。
悪性リンパ腫やがんの転移が疑われる場合に実施されることがあります。
感染症検査
結核やその他の感染症が疑われる場合、特殊な血液検査や培養検査を行うことがあります。
しこりの治療方法
しこりの治療は、原因によって大きく異なります。
良性腫瘍の治療
経過観察
粉瘤や脂肪腫などの良性腫瘍で、症状がなく、大きさも変わらない場合は、定期的に経過を観察するだけでよいこともあります。
経過観察の対象:
- 小さく、症状がないしこり
- 悪性の可能性が低いと判断されたしこり
- 患者が手術を希望しない場合
経過観察中は、定期的に診察を受け、しこりの大きさや性状の変化をチェックします。
外科的切除
しこりが大きくなる、痛みがある、美容上気になる、悪性の可能性を完全に否定できないなどの場合は、手術で切除します。
手術の方法:
- 局所麻酔または全身麻酔
- しこりの上の皮膚を切開
- しこりを周囲組織から剥離
- しこりを完全に摘出
- 傷口を縫合
粉瘤の場合、袋状の構造物(嚢腫壁)を完全に取り除かないと再発することがあるため、丁寧な手術が必要です。
近年では、小さな切開で行う低侵襲手術や、傷跡を目立たなくする工夫がされた手術も増えています。
感染性疾患の治療
抗菌薬治療
細菌感染が原因のリンパ節腫脹や毛嚢炎、せつなどの場合、抗菌薬(抗生物質)による治療が行われます。
一般的に使用される抗菌薬:
- ペニシリン系
- セフェム系
- マクロライド系
- キノロン系
感染の原因菌や重症度に応じて、適切な抗菌薬が選択されます。
切開排膿
膿が溜まっている場合、切開して膿を排出する処置が必要になることがあります。
手順:
- 局所麻酔
- 皮膚を切開
- 膿を排出
- 洗浄
- 必要に応じて抗菌薬を投与
切開排膿により、痛みや腫れが速やかに改善します。
化膿性汗腺炎の治療
軽症の場合は、抗菌薬の内服や局所治療で対応しますが、重症化した場合は以下のような治療が行われます。
- 免疫抑制剤の使用
- 生物学的製剤(抗TNFα抗体など)
- 外科的切除と皮膚移植
化膿性汗腺炎は再発しやすい疾患であり、生活習慣の改善(禁煙、体重管理など)も重要です。
悪性腫瘍の治療
悪性リンパ腫の治療
悪性リンパ腫の治療は、病型や病期(ステージ)によって異なりますが、主に以下の方法が用いられます。
化学療法:
- 抗がん剤を使用してがん細胞を破壊する治療
- 複数の薬剤を組み合わせた多剤併用療法が一般的
- 代表的なレジメン: CHOP療法、R-CHOP療法など
放射線療法:
- 高エネルギーの放射線でがん細胞を破壊する治療
- 限局性の病変に対して効果的
- 化学療法と併用されることも多い
分子標的治療:
- がん細胞の特定の分子を標的とした治療
- リツキシマブなどの抗CD20抗体が使用される
造血幹細胞移植:
- 高用量の化学療法や放射線療法後に、造血幹細胞を移植する治療
- 再発例や難治例に対して検討される
悪性リンパ腫の5年生存率は、病型によって大きく異なりますが、近年の治療法の進歩により、多くの患者さんで良好な予後が期待できるようになっています。
参考: 国立がん研究センター がん情報サービス 悪性リンパ腫の治療
転移性リンパ節腫大の治療
他の臓器のがんが脇のリンパ節に転移している場合、原発巣の治療と並行して以下の治療が行われます。
手術療法:
- リンパ節郭清(周囲のリンパ節を一括して切除)
- 原発巣の切除と同時に行われることが多い
化学療法:
- 全身のがん細胞を攻撃する治療
- 術前化学療法や術後補助化学療法として使用
放射線療法:
- 局所のがん細胞を破壊する治療
- 術後の再発予防や症状緩和に使用
ホルモン療法:
- 乳がんなど、ホルモン依存性のがんに対して使用
- エストロゲン受容体陽性の乳がんなどが対象
治療方針は、原発巣の種類、病期、患者の全身状態などを総合的に判断して決定されます。
その他の治療
副乳の治療
副乳は病的なものではありませんが、以下のような場合は治療が検討されます。
- 美容的に気になる
- 授乳期に腫大して痛みがある
- 副乳内に腫瘍が発見された
治療は外科的切除が基本です。
結核性リンパ節炎の治療
結核菌による感染が原因の場合、抗結核薬による長期間(通常6ヶ月以上)の治療が必要です。
複数の抗結核薬を組み合わせて使用し、確実に菌を排除することが重要です。
いつ医療機関を受診すべきか?
脇にしこりを見つけた場合、以下のような状況では早めに医療機関を受診することをお勧めします。
緊急性が高い症状
以下の症状がある場合は、できるだけ早く(できれば当日中に)医療機関を受診してください。
- 激しい痛みを伴うしこり: 感染症や血栓などの可能性
- 急速に大きくなるしこり: 悪性腫瘍や急性感染症の可能性
- 高熱を伴うしこり: 重症感染症の可能性
- 皮膚が赤黒く変色している: 壊死や重症感染症の可能性
- 呼吸困難や嚥下困難を伴う: 気道や食道への圧迫の可能性
早めの受診が望ましい症状
以下の症状がある場合は、数日以内に医療機関を受診することをお勧めします。
- 痛みを伴うしこり: 感染症や炎症性疾患の可能性
- 発熱や寝汗を伴う: 感染症や悪性リンパ腫などの可能性
- 体重減少や全身倦怠感がある: 悪性腫瘍の可能性
- 複数のしこりがある: リンパ節腫脹の原因検索が必要
- 2週間以上継続するしこり: 良性でも評価が必要
比較的緊急性は低いが受診が推奨される症状
以下のような場合も、時期を見て医療機関を受診することをお勧めします。
- 痛みのない小さなしこり: 良性の可能性が高いが、経過観察が必要
- ゆっくり大きくなるしこり: 良性腫瘍の可能性が高いが、確定診断が必要
- 以前からあったしこりの性状が変化: 悪性化の可能性も考慮
経過観察でよい場合
以下のようなしこりは、しばらく様子を見てもよいことがあります。
- 風邪の後に出現した小さく柔らかいしこり: リンパ節の一時的な腫れの可能性
- 痛みがなく、大きさが変わらないしこり: 良性の可能性が高い
ただし、2週間以上経過してもしこりが残る場合や、症状が悪化する場合は、医療機関を受診してください。
受診を迷う場合の判断基準
すぐに受診すべきサイン:
- 痛みや発熱などの症状がある
- 急速に大きくなっている
- 硬くて動かないしこり
- 全身症状を伴う
様子を見てもよいサイン:
- 小さく柔らかいしこり
- 痛みがない
- 大きさが変わらない
- 感染症の後に出現した
迷った場合は、医療機関に電話で相談するか、オンライン診療を利用するのも一つの方法です。
厚生労働省も、気になる症状があれば早めに医療機関を受診することを推奨しています。
参考: 厚生労働省 健康相談等
予防とセルフケア
脇のしこりの中には、日常生活の工夫で予防できるものもあります。
皮膚の清潔を保つ
脇の下は汗をかきやすく、細菌が繁殖しやすい部位です。
予防のポイント:
- 毎日入浴し、脇の下を丁寧に洗う
- 汗をかいた後は、こまめに拭き取る
- 通気性の良い衣服を選ぶ
- 制汗剤やデオドラントを適切に使用する
適切なムダ毛処理
脇の毛の処理方法が不適切だと、毛嚢炎などの感染症を引き起こすことがあります。
注意点:
- カミソリを使用する場合は、清潔な刃を使う
- シェービングクリームなどを使用し、皮膚への摩擦を減らす
- 処理後は、保湿と消毒を行う
- 剃毛よりも、電気シェーバーの方が皮膚への負担が少ない
- 頻繁な処理は避け、皮膚を休ませる期間を設ける
皮膚への刺激を避ける
注意点:
- きつい衣服やバッグの肩ひもによる長時間の圧迫を避ける
- 香水や制汗剤が肌に合わない場合は使用を中止する
- アレルギー反応を起こしやすい物質との接触を避ける
健康的な生活習慣
予防のポイント:
- バランスの取れた食事
- 適度な運動
- 十分な睡眠
- ストレスの管理
- 禁煙(化膿性汗腺炎のリスク低減)
- 適正体重の維持
免疫力の維持
感染症によるリンパ節腫脹を予防するためには、免疫力を維持することが重要です。
免疫力を高める方法:
- 栄養バランスの良い食事(特にビタミン、ミネラル)
- 適度な運動習慣
- 十分な睡眠
- ストレスの軽減
- 過度な飲酒を避ける
定期的な自己チェック
月に1回程度、以下のポイントをチェックしましょう。
チェック項目:
- 脇の下にしこりがないか
- 既存のしこりの大きさや硬さに変化がないか
- 痛みや赤みなどの症状がないか
女性の場合は、乳房の自己検診と同時に行うと習慣化しやすいでしょう。
感染症対策
- 手洗いやうがいの習慣
- 十分な睡眠と栄養
- インフルエンザワクチンなどの予防接種
- 傷ができた場合の適切な処置

よくある質問(FAQ)
A: 小さく、痛みがなく、大きさが変わらないしこりであれば、しばらく様子を見てもよいことがあります。ただし、2週間以上経過してもしこりが残る場合や、大きくなる場合、痛みが出る場合は、医療機関を受診してください。
良性のしこりであっても、大きくなると治療が複雑になることがあります。また、悪性の腫瘍の場合、早期発見・早期治療が予後を大きく左右します。
A: 脇の下にできるしこりの多くは良性です。リンパ節の一時的な腫れや粉瘤、脂肪腫などが一般的で、悪性腫瘍はそれほど多くありません。
ただし、しこりが硬い、急速に大きくなる、複数のリンパ節が腫れている、全身症状を伴うなどの場合は、悪性の可能性も考慮する必要があります。自己判断せず、医療機関で適切な診断を受けることが重要です。
A: 視診・触診は通常痛みを伴いません。超音波検査も痛みはありません。
細胞診や針生検では、細い針を刺すため、多少の痛みを伴うことがありますが、多くの場合、局所麻酔を使用するため、痛みは最小限に抑えられます。痛みが心配な場合は、医師に相談してください。
Q4: 脇のしこりの手術後、仕事や日常生活にすぐ復帰できますか?
A: 小さなしこりの切除手術であれば、局所麻酔で行われ、日帰りで手術が可能なことが多いです。手術当日から日常生活はほぼ通常通り送れますが、重いものを持つなどの腕を大きく動かす動作は、数日間控える必要があります。
デスクワークであれば、翌日から仕事復帰できることも多いですが、肉体労働の場合は数日から1週間程度の休養が必要なこともあります。具体的な復帰時期については、医師と相談してください。
Q5: 脇のしこりは遺伝しますか?
A: しこりそのものが遺伝するわけではありませんが、一部の疾患には遺伝的な要因が関与することがあります。
例えば、乳がんには遺伝性のものがあり(BRCA遺伝子変異など)、乳がんが脇のリンパ節に転移した場合、家族歴が関連することがあります。また、粉瘤や脂肪腫も、体質的になりやすい人がいると言われています。
家族に悪性腫瘍の既往がある場合は、そのことを医師に伝えることが重要です。
Q6: 脇のしこりと乳がんの関係は?
A: 乳がんは最も一般的に脇のリンパ節に転移するがんの一つです。乳がんの進行度を判断する上で、脇のリンパ節への転移の有無は重要な指標となります。
乳がん検診で異常を指摘された場合や、乳房にしこりがある場合に脇のしこりを見つけたら、すぐに乳腺外科を受診してください。
ただし、脇のしこり=乳がんではありません。多くの場合、リンパ節の一時的な腫れや良性の腫瘍です。
Q7: 男性でも脇のしこりはできますか?
A: はい、男性にも脇のしこりはできます。原因は女性とほぼ同様で、リンパ節腫脹、粉瘤、脂肪腫などが一般的です。
男性の場合、副乳は非常にまれですが、悪性リンパ腫などの血液疾患や、肺がんなどの転移性リンパ節腫大の可能性もあります。しこりを見つけた場合は、性別に関わらず、医療機関を受診してください。
Q8: 脇のしこりは再発しますか?
A: 原因によって再発のリスクは異なります。
再発しやすいもの:
- 粉瘤: 嚢腫壁を完全に取り除かないと再発することがあります
- 化膿性汗腺炎: 再発を繰り返しやすい疾患です
- 感染性のリンパ節腫脹: 原因となる感染症が繰り返せば、リンパ節も腫れることがあります
再発しにくいもの:
- 脂肪腫: 完全に切除すれば再発はまれです
- 良性腫瘍: 完全切除すれば再発はほとんどありません
再発を予防するためには、適切な治療を受けること、原因となる生活習慣を改善することが重要です。
Q9: 子どもにも脇のしこりはできますか?
A: はい、子どもにも脇のしこりはできます。子どもの場合、以下のような原因が多いです。
- 感染症後のリンパ節腫脹(最も多い)
- 予防接種後の一時的なリンパ節腫脹
- 皮膚感染症(毛嚢炎など)
子どもの場合、リンパ節は反応しやすく、風邪などの軽い感染症でも腫れることがあります。多くの場合は自然に改善しますが、しこりが大きい、痛みが強い、発熱を伴う、2週間以上続く場合は、小児科を受診してください。
Q10: 脇のしこりに効く薬はありますか?
A: しこりの原因によって異なります。
- 感染症の場合: 抗菌薬(抗生物質)が有効
- 炎症がある場合: 消炎鎮痛剤が症状緩和に役立つ
- 化膿性汗腺炎の場合: 免疫抑制剤や生物学的製剤が使用されることがある
ただし、粉瘤や脂肪腫などの良性腫瘍は、薬で消えることはありません。根本的な治療には手術が必要です。
自己判断で市販薬を使用するのではなく、医療機関で適切な診断を受け、処方された薬を使用することが重要です。
まとめ
脇の下にしこりを見つけると不安になりますが、多くの場合は良性のものです。ただし、中には早期の治療が必要な疾患もあるため、適切なタイミングで医療機関を受診することが重要です。
受診すべき診療科のまとめ:
- 迷ったら → 一般外科・外科
- 皮膚に近いしこり、赤みや痛みがある → 皮膚科
- 女性で乳房に近い部位 → 乳腺外科
- 全身症状を伴う → 内科・総合診療科
早めの受診が推奨される症状:
- 痛みや発熱を伴う
- 急速に大きくなる
- 硬くて動かない
- 複数のリンパ節が腫れている
- 体重減少や寝汗などの全身症状がある
日常生活での予防:
- 皮膚の清潔を保つ
- 適切なムダ毛処理
- 健康的な生活習慣
- 定期的な自己チェック
しこりを見つけたら、自己判断で放置せず、適切な医療機関で診断を受けることが、健康を守る第一歩です。早期発見・早期治療により、多くの疾患は良好な予後が期待できます。
気になる症状があれば、遠慮せずに医療機関を受診してください。
参考文献
- 日本皮膚科学会: https://www.dermatol.or.jp/
- 国立がん研究センター がん情報サービス: https://ganjoho.jp/
- 厚生労働省: https://www.mhlw.go.jp/
- 日本形成外科学会: https://www.jsprs.or.jp/
- 日本外科学会: https://www.jssoc.or.jp/
- 日本乳癌学会: http://www.jbcs.gr.jp/
※本記事の内容は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。具体的な症状や治療については、必ず医療機関を受診し、医師の診断を受けてください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務