はじめに
脇の多汗症やワキガ(腋臭症)に悩む方にとって、メスを使わない治療法として注目されているのが「ミラドライ」です。このミラドライは、マイクロ波という電磁波を利用して汗腺を破壊する画期的な治療法として、2015年に日本でも承認されました。
しかし、「マイクロ波で汗腺を破壊する」と聞いても、実際にどのような仕組みで効果を発揮するのか、なぜ汗腺だけを選択的に破壊できるのか、安全性はどうなのか、といった疑問を持たれる方も多いでしょう。
本記事では、アイシークリニック上野院の医師が、ミラドライの原理を科学的根拠に基づいて詳しく解説します。マイクロ波の物理学的特性から、汗腺の構造、そして実際の治療メカニズムまで、専門的な内容を分かりやすくお伝えします。

ミラドライとは何か
ミラドライの概要と歴史
ミラドライ(miraDry)は、アメリカのMiramar Labs社(現在はSientra社の傘下)によって開発された、脇の多汗症とワキガの治療機器です。2011年にアメリカ食品医薬品局(FDA)の承認を受け、日本では2018年6月に厚生労働省から製造販売承認を取得しました。
この治療法の最大の特徴は、切開を必要としない非侵襲的な治療であることです。従来のワキガ・多汗症の外科的治療では、皮膚を切開して汗腺を直接取り除く必要がありましたが、ミラドライでは皮膚表面から機器を当てるだけで治療が完了します。
ミラドライが対象とする症状
ミラドライは主に以下の症状に対して効果を発揮します。
原発性腋窩多汗症 明らかな原因がないにもかかわらず、脇の下から過剰に汗が出る状態です。日常生活に支障をきたすほどの発汗があり、衣服に汗じみができる、握手を避けるようになるなど、QOL(生活の質)の低下を招きます。
腋臭症(ワキガ) アポクリン腺から分泌される汗が皮膚表面の細菌によって分解されることで、特有の臭いが発生する状態です。本人が気づかない場合もあれば、強い臭いによって対人関係に影響を及ぼすこともあります。
汗腺の構造と機能
ミラドライの原理を理解するためには、まず汗腺の基本的な構造と機能を知る必要があります。
汗腺の2つの種類
人間の皮膚には、大きく分けて2種類の汗腺が存在します。
エクリン腺(eccrine gland) 全身のほぼすべての皮膚に分布している汗腺で、体温調節を主な目的としています。特に手のひら、足の裏、額、脇の下に多く分布しています。エクリン腺から分泌される汗は、99%が水分で、残りがわずかな塩分や尿素などで構成されています。基本的に無臭で、サラサラとした性質を持ちます。
成人では全身に約200万〜500万個のエクリン腺が存在し、そのうち脇の下には片側あたり約2万5千個が集中しています。エクリン腺は真皮の深層から表皮まで伸びる管状の構造で、分泌部(腺体)は真皮の中層から深層に位置しています。
アポクリン腺(apocrine gland) 主に脇の下、乳輪、外陰部、外耳道などの特定の部位にのみ存在する汗腺です。思春期以降に発達し、性ホルモンの影響を受けて活動が活発になります。
アポクリン腺から分泌される汗には、タンパク質、脂質、糖質、鉄分、アンモニアなどが含まれており、白く濁った粘り気のある性質を持ちます。この汗自体は無臭ですが、皮膚表面の常在菌(特にコリネバクテリウム属の細菌)によって分解されると、ワキガ特有の臭いを発生させます。
アポクリン腺はエクリン腺よりも大きく、分泌部は真皮の深層から皮下組織にかけて位置しています。また、アポクリン腺の導管は毛包に開口しているという特徴があります。
汗腺の深さと分布
治療を理解する上で重要なのが、汗腺の皮膚内での位置関係です。
皮膚は表面から順に、表皮(厚さ約0.1〜0.2mm)、真皮(厚さ約1〜4mm)、皮下組織という3つの層で構成されています。
- エクリン腺の分泌部:真皮の中層〜深層(皮膚表面から約2〜3mm)
- アポクリン腺の分泌部:真皮の深層〜皮下組織(皮膚表面から約3〜5mm)
この深さの情報は、後述するミラドライのマイクロ波が到達すべき深度を決定する上で非常に重要です。
マイクロ波の物理学的特性
マイクロ波とは
マイクロ波は、電磁波の一種で、周波数が約300MHz〜300GHzの電磁波を指します。波長にすると約1mm〜1mの範囲に相当します。身近なところでは、電子レンジや携帯電話、Wi-Fi、衛星通信などに利用されています。
ミラドライで使用されるマイクロ波の周波数は5.8GHzです。これは、医療用に割り当てられた周波数帯(ISMバンド:Industrial, Scientific and Medical band)の一つで、安全性が確認されている周波数です。
マイクロ波と水分子の相互作用
マイクロ波の加熱原理を理解するには、水分子の構造を知る必要があります。
水分子(H₂O)は、酸素原子が正の電荷、水素原子側が負の電荷を帯びた「極性分子」です。この極性のため、水分子は電場の中で特定の方向に整列しようとする性質があります。
マイクロ波は、電場の方向が高速で変化する電磁波です。5.8GHzのマイクロ波の場合、電場の方向は1秒間に58億回も反転します。この高速で変化する電場の中に水分子が置かれると、水分子も電場の変化に追随しようとして、1秒間に58億回も回転運動を繰り返すことになります。
この激しい回転運動により、水分子同士が摩擦を起こし、摩擦熱が発生します。これがマイクロ波による加熱の基本原理です。電子レンジで食品が温まるのも、まさにこの原理によるものです。
誘電加熱の特徴
マイクロ波による加熱は「誘電加熱」または「ジュール加熱」と呼ばれ、以下のような特徴があります。
選択的加熱 水分を多く含む組織ほど効率的に加熱されます。逆に、水分が少ない組織はほとんど加熱されません。
内部加熱 マイクロ波は物質の内部に浸透するため、表面だけでなく内部からも加熱されます。通常の熱伝導による加熱とは異なり、均一に加熱することが可能です。
瞬時加熱 マイクロ波のスイッチを入れた瞬間から加熱が始まり、切ればすぐに加熱が止まります。
深達度 マイクロ波の皮膚組織への浸透深度は、周波数によって異なります。5.8GHzのマイクロ波の場合、生体組織への浸透深度は約3〜5mmとされています。これは、エクリン腺とアポクリン腺が存在する深さとほぼ一致しており、ミラドライが5.8GHzを採用している理由の一つです。
ミラドライによる汗腺破壊のメカニズム
基本的な治療原理
ミラドライは、マイクロ波のエネルギーを脇の皮膚に照射することで、汗腺が存在する深さの組織を選択的に加熱し、汗腺を熱破壊する治療法です。
治療のプロセスは以下のように進みます。
- マイクロ波の照射:5.8GHzのマイクロ波を皮膚表面から照射
- 組織の選択的加熱:真皮〜皮下組織の水分を多く含む汗腺が優先的に加熱される
- タンパク質の変性:約60℃以上に加熱されると、汗腺を構成するタンパク質が変性
- 汗腺の不可逆的破壊:変性したタンパク質は元に戻らず、汗腺の機能が永久的に失われる
なぜ汗腺だけが破壊されるのか
ミラドライの優れた点は、汗腺を選択的に破壊できることです。この選択性は、以下の3つの要素によって実現されています。
1. 水分含有量の違い
汗腺(特にその分泌部)は、常に汗を産生しているため、周囲の組織と比較して水分含有量が非常に高くなっています。マイクロ波は水分子を加熱する性質があるため、水分の多い汗腺が優先的に加熱されます。
真皮や皮下組織の他の構造物(コラーゲン線維、血管、神経など)は、汗腺ほど水分を含んでいないため、同じマイクロ波を照射してもそれほど加熱されません。
2. マイクロ波の照射深度の制御
ミラドライのハンドピースには、マイクロ波の到達深度を制御する仕組みが組み込まれています。
マイクロ波のエネルギー密度は、照射源からの距離の2乗に反比例して減少します。つまり、深くなるほどエネルギーが弱くなります。ミラドライでは、エネルギーの強さと照射時間を調整することで、汗腺が存在する深さ(真皮深層〜皮下組織)で最も高温になるように設計されています。
3. 冷却システムによる表皮の保護
ミラドライの最も重要な技術的特徴の一つが、表皮を保護するための冷却システムです。
マイクロ波を照射すると、照射経路上の組織全体が加熱されてしまうため、表皮や真皮の浅い部分も熱の影響を受けます。表皮が過度に加熱されると、火傷を起こしてしまいます。
これを防ぐため、ミラドライのハンドピースには冷却装置が内蔵されており、マイクロ波の照射と同時に皮膚表面を約15℃に冷却します。この冷却により、表皮と真皮の浅い層は適温に保たれ、深部の汗腺領域のみが治療に必要な温度(約60〜70℃)まで加熱されます。
温度と組織変化の関係
生体組織を加熱すると、温度に応じて以下のような変化が起こります。
- 約42〜45℃:タンパク質の可逆的変性が始まる。この温度では、冷却すれば元に戻る可能性がある
- 約60℃以上:タンパク質の不可逆的変性。細胞膜が破壊され、細胞内の酵素が失活し、細胞は機能を失う
- 約100℃以上:水分の蒸発、組織の炭化
ミラドライでは、汗腺領域を**約60〜70℃**まで加熱することを目標としています。この温度域では、汗腺を構成する細胞のタンパク質が不可逆的に変性し、汗腺の機能が永久的に失われます。
治療後の組織学的変化
ミラドライ治療後の組織を顕微鏡で観察した研究によると、以下のような変化が確認されています。
治療直後(0〜24時間)
- 汗腺周囲の組織に浮腫(むくみ)が生じる
- 汗腺の細胞が変性・壊死する
- 炎症細胞(好中球、マクロファージ)が集まってくる
治療後1〜2週間
- 壊死した汗腺組織が炎症細胞によって貪食・分解される
- 新しい結合組織(肉芽組織)が形成され始める
治療後1〜3ヶ月
- 破壊された汗腺組織が完全に吸収される
- 汗腺があった部分は線維性の結合組織に置き換わる
- 皮膚の構造は正常に戻るが、汗腺は再生しない
重要なポイントは、破壊された汗腺は再生しないということです。汗腺は一度破壊されると、幹細胞から再生する能力がほとんどないため、治療効果は半永久的に持続します。
ミラドライの治療技術
ハンドピースの構造
ミラドライのハンドピースは、以下の主要な構成要素から成り立っています。
マイクロ波発生装置 5.8GHzのマイクロ波を発生させ、アンテナを通じて皮膚に照射します。
冷却システム ハンドピースの皮膚接触面には冷却プレートが配置されており、循環冷却液によって約15℃に保たれています。
吸引機構 治療部位の皮膚をハンドピースに吸引することで、皮膚とハンドピースの密着度を高め、マイクロ波の伝達効率を向上させます。また、吸引により皮膚を伸展させることで、汗腺をより表層に近づけ、効率的な加熱を可能にします。
温度センサー リアルタイムで皮膚温度を監視し、安全な範囲内で治療が行われるよう制御します。
治療プロトコル
実際の治療は以下のような手順で進められます。
1. マーキング 治療前に、脇の下の治療範囲をマーキングします。ミラドライ専用のテンプレートを使用し、照射ポイントを格子状にマーキングします。通常、片脇あたり約30〜40ポイントをマーキングします。
2. 局所麻酔 治療中の痛みを軽減するため、脇の下に局所麻酔薬を注射します。麻酔液の量は片脇あたり約50〜100ml程度です。麻酔液を注入することで、治療部位が少し膨らみ、汗腺がより表層に近づくという効果もあります。
3. マイクロ波照射 マーキングしたポイントごとに、ハンドピースを当ててマイクロ波を照射します。1ポイントあたりの照射時間は約2〜3分です。照射中は、冷却と吸引が同時に行われます。
4. 治療時間 両脇の治療を合わせて、所要時間は約60〜90分程度です。
エネルギーレベルの設定
ミラドライには、照射するマイクロ波のエネルギーレベルを調整する機能があります。エネルギーレベルは患者の皮膚の厚さ、汗の量、治療目標などに応じて、医師が適切に設定します。
一般的には5段階のエネルギーレベルがあり、レベルが高いほど強力な効果が期待できますが、副作用のリスクも若干高まります。初回治療では中程度のレベルから開始し、必要に応じて2回目の治療でエネルギーレベルを調整することもあります。
ミラドライの効果と科学的根拠
臨床研究のデータ
ミラドライの効果については、多くの臨床研究が報告されています。
FDA承認時に提出された臨床試験データでは、以下のような結果が示されています。
発汗量の減少 重量測定法(gravimetric measurement)という客観的な評価方法を用いた研究では、治療後3ヶ月の時点で発汗量が平均82%減少したことが報告されています。この効果は、治療後1年経過しても約80%の減少率を維持しており、長期的な効果が確認されています。
患者満足度 治療を受けた患者の約90%が治療結果に満足していると回答しており、日常生活での改善を実感しています。特に、衣服の汗じみが気にならなくなった、制汗剤の使用頻度が減ったなどの変化が報告されています。
臭いの改善 ワキガ(腋臭症)に対しても、治療後に約70〜80%の患者で臭いの明らかな改善が認められています。完全に無臭になるわけではありませんが、日常生活で困らない程度まで改善するケースが多いです。
治療回数と効果
ミラドライの治療回数については、以下のような傾向があります。
1回の治療で満足する患者 約70〜80%の患者は、1回の治療で十分な効果を実感し、追加治療を希望しません。
2回の治療を行う患者 より完璧な効果を求める場合や、1回目の治療で期待した効果が得られなかった場合、3ヶ月以上の間隔をあけて2回目の治療を行うことがあります。2回治療を受けた患者の満足度はさらに高くなり、約95%以上に達します。
1回の治療ですべての汗腺を完全に破壊することは難しく、通常は約60〜80%の汗腺が破壊されると考えられています。残った汗腺が代償的に活動を強める可能性もありますが、多くの場合、破壊された汗腺の割合が多いため、全体としての発汗量は明らかに減少します。
効果の持続性
前述の通り、ミラドライで破壊された汗腺は再生しないため、治療効果は理論上、半永久的に持続します。
実際の長期追跡調査でも、治療後2年、3年経過した時点でも効果が維持されていることが報告されています。一部の患者では、治療直後と比較して若干発汗量が増加することがありますが、これは治療時に破壊されずに残った汗腺が活動を回復したためと考えられます。それでも、治療前と比較すれば大幅に発汗量は減少しており、臨床的に有意な改善が維持されています。
安全性と副作用
一般的な副作用
ミラドライは比較的安全な治療法ですが、以下のような副作用が起こる可能性があります。
腫れ(浮腫) ほぼすべての患者に起こる正常な反応です。治療直後から脇の下や上腕にかけて腫れが生じます。通常は1〜2週間で改善しますが、完全に消失するまでに1ヶ月程度かかることもあります。
痛み・不快感 治療中は局所麻酔を行うため、強い痛みはありませんが、圧迫感や不快感を感じることがあります。治療後も数日間、痛みや圧痛が残ることがありますが、通常は鎮痛薬で管理可能です。
内出血(皮下出血) 治療部位に青あざのような内出血が生じることがあります。通常は1〜2週間で自然に消失します。
感覚の変化 脇の下や上腕の内側に、一時的な感覚鈍麻(感覚が鈍くなる)やピリピリとした異常感覚が生じることがあります。これは治療時の熱や腫れにより、周囲の神経が一時的に影響を受けるためです。ほとんどの場合、数週間から数ヶ月で回復します。
しこり(硬結) 治療部位に一時的な硬いしこりが触れることがあります。これは組織の炎症反応や線維化によるもので、通常は数週間から数ヶ月かけて徐々に柔らかくなります。
稀な副作用
以下の副作用は稀ですが、報告されています。
代償性発汗 治療した脇以外の部位(背中、胸、太ももなど)の発汗が増加する現象です。脇の発汗が減ることで、体温調節のために他の部位の発汗が増えると考えられています。ただし、ミラドライでは全身の汗腺の一部(脇の下のみ)を破壊するだけなので、代償性発汗が起こる可能性は外科手術よりも低いとされています。
感覚障害の遷延 稀に、感覚の変化が6ヶ月以上持続することがあります。ただし、永久的な感覚障害の報告は非常に少なく、ほとんどの場合は最終的に回復します。
皮膚の変化 色素沈着や色素脱失など、皮膚の色調変化が残ることが稀にあります。
運動機能への影響 上腕や肩の動きに影響が出ることは非常に稀ですが、腫れが強い時期には一時的に腕の動きに制限を感じることがあります。
火傷のリスク
ミラドライの治療原理が「加熱」であるため、火傷のリスクを心配される方もいますが、前述の冷却システムにより、表皮の火傷はほとんど起こりません。
ただし、冷却が不十分な場合や、エネルギー設定が過剰な場合には、稀に表皮の水疱や火傷が生じる可能性があります。適切な訓練を受けた医師が、適切な設定で治療を行うことが重要です。
禁忌と注意事項
以下のような方は、ミラドライの治療を受けられない、または注意が必要です。
絶対的禁忌
- 脇の下に局所麻酔薬のアレルギーがある方
- 治療部位に活動性の感染症がある方
- 脇の下に酸素補給装置などの医療機器を留置している方
相対的禁忌(慎重な判断が必要)
- ペースメーカーや除細動器などの体内埋め込み型電子機器を使用している方
- 治療部位に金属製のインプラント(手術用プレートなど)がある方
- 妊娠中または授乳中の方
- ケロイド体質の方
- 免疫抑制剤を使用している方
他の治療法との比較
多汗症やワキガの治療法は、ミラドライ以外にも複数存在します。それぞれの特徴を比較してみましょう。
ボツリヌス毒素注射
ボツリヌス毒素(ボトックス)を脇の下に注射する方法です。
原理 ボツリヌス毒素が汗腺を支配する神経の末端に作用し、神経伝達物質(アセチルコリン)の放出を阻害することで、汗腺の活動を抑制します。
メリット
- 治療時間が短い(15〜30分程度)
- ダウンタイムがほとんどない
- 腫れや痛みが少ない
デメリット
- 効果の持続期間が4〜6ヶ月程度と短い
- 定期的な治療が必要(年2〜3回)
- ワキガの臭いにはあまり効果がない
- 長期的なコストが高い
外科手術(剪除法など)
皮膚を切開して、直視下で汗腺を除去する方法です。
原理 皮膚を反転させて、目視でアポクリン腺やエクリン腺を切除・掻爬します。
メリット
- 確実に汗腺を除去できる
- ワキガに対する効果が最も高い
- 1回の手術で完了
デメリット
- 皮膚の切開が必要
- 術後の安静期間が必要(約1週間)
- 傷跡が残る
- 感染や血腫などの合併症リスク
- ダウンタイムが長い
塗り薬(外用薬)
塩化アルミニウムなどの制汗剤を使用する方法です。
原理 塩化アルミニウムが汗管を閉塞させることで、発汗を抑制します。
メリット
- 非侵襲的
- 副作用が少ない
- コストが低い
デメリット
- 効果が一時的(毎日の使用が必要)
- かぶれや刺激感が起こることがある
- 重度の多汗症には効果不十分
- ワキガの臭いへの効果は限定的
ミラドライの位置づけ
ミラドライは、非侵襲的でありながら長期的な効果が得られるという点で、ボツリヌス毒素注射と外科手術の中間に位置する治療法と言えます。
- 外用薬やボツリヌス毒素注射では効果が不十分
- しかし手術は受けたくない
- 長期的な効果を求めている
- 傷跡を残したくない
このような方にとって、ミラドライは非常に有力な選択肢となります。

よくある質問
治療前に局所麻酔を行うため、治療中の痛みは最小限に抑えられます。麻酔注射時にチクッとした痛みがありますが、その後はほとんど痛みを感じません。治療中は圧迫感や熱感を感じることがありますが、耐えられないほどの痛みではありません。
治療後は数日間、痛みや圧痛が残ることがありますが、処方される鎮痛薬で十分コントロール可能です。
Q2: ダウンタイムはどのくらいですか?
治療直後から日常生活に戻ることができますが、以下の点に注意が必要です。
- 治療当日は激しい運動を避ける
- 1週間程度は重いものを持つ、腕を大きく動かす運動を控える
- 腫れが引くまで(1〜2週間)は、脇の下が目立つ服装を避けた方が良い
仕事や学校は翌日から可能ですが、腕を使う激しい作業や運動は1週間程度控えることをお勧めします。
Q3: 何回治療が必要ですか?
多くの患者さんは1回の治療で満足できる効果を実感します。ただし、より高い効果を求める場合や、1回目の治療で期待した効果が得られなかった場合は、3ヶ月以上の間隔をあけて2回目の治療を検討することがあります。
Q4: 全身の体温調節に影響はありませんか?
脇の下の汗腺は、全身の汗腺の約2%程度にすぎません。そのため、脇の汗腺を破壊しても、体温調節機能に重大な影響を与えることはありません。
人間の体には約200万〜500万個のエクリン腺があり、脇の下以外にも全身に分布しています。脇の下の汗腺を失っても、他の部位の汗腺が十分に体温調節の役割を果たします。
Q5: 保険は適用されますか?
現時点(2025年)では、ミラドライは保険適用外の自由診療です。治療費は医療機関によって異なりますが、両脇で30万〜40万円程度が一般的です。
一方、重度の原発性腋窩多汗症の場合、ボツリヌス毒素注射は保険適用となります(3割負担で約3万円程度)。ただし、効果が数ヶ月しか持続しないため、長期的にはミラドライの方が経済的になる場合もあります。
Q6: 治療後に脇の毛は生えてきますか?
ミラドライの治療により、脇の下の毛が減少または脱毛することがあります。これは、アポクリン腺の導管が毛包に開口しているため、マイクロ波の熱が毛根にも影響を与えるためです。
多くの患者さんでは、治療後に脇毛が30〜70%程度減少します。これを副作用と捉えるか、脱毛効果としてメリットと捉えるかは、患者さんによって異なります。
完全な脱毛を希望する場合は、レーザー脱毛を併用することも可能です。
Q7: においが完全になくなりますか?
ミラドライにより、ワキガの臭いは明らかに軽減しますが、完全に無臭になるわけではありません。
ワキガの原因となるアポクリン腺は、治療により約60〜80%が破壊されると考えられています。そのため、臭いも同程度減少しますが、残ったアポクリン腺からは引き続き汗が分泌されるため、わずかな臭いが残ることがあります。
ただし、多くの患者さんは「日常生活で困らない程度まで改善した」と評価しています。
まとめ
ミラドライは、5.8GHzのマイクロ波を利用して、水分子の回転運動による摩擦熱を発生させ、汗腺を選択的に破壊する治療法です。その科学的な原理は以下のようにまとめられます。
マイクロ波の特性
- 5.8GHzのマイクロ波は、水分子を1秒間に58億回回転させる
- この回転運動により摩擦熱が発生し、組織を内部から加熱
- 生体組織への浸透深度は約3〜5mmで、汗腺の深さと一致
選択的破壊のメカニズム
- 汗腺は周囲組織より水分含有量が高いため、優先的に加熱される
- 表皮冷却システムにより、表層は保護され深部のみが加熱される
- 約60〜70℃の温度でタンパク質が不可逆的に変性し、汗腺が破壊される
治療効果
- 1回の治療で発汗量が約82%減少
- 効果は半永久的に持続(破壊された汗腺は再生しない)
- 約90%の患者が治療結果に満足
安全性
- 非侵襲的で傷跡が残らない
- 主な副作用は一時的な腫れや痛み
- 適切な冷却により火傷のリスクは最小限
ミラドライは、切らずに汗腺を破壊できる画期的な治療法として、多汗症やワキガに悩む多くの方に新しい選択肢を提供しています。治療を検討される際は、経験豊富な医療機関で十分なカウンセリングを受け、自分に最適な治療法を選択することをお勧めします。
参考文献
本記事の作成にあたり、以下の信頼できる情報源を参考にしました。
- 厚生労働省「医療機器の承認情報」
https://www.mhlw.go.jp/ - 日本皮膚科学会「原発性局所多汗症診療ガイドライン 2023年改訂版」
https://www.dermatol.or.jp/ - 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医療機器情報」
https://www.pmda.go.jp/
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務