はじめに
背中に突然できた「しこり」や「できもの」に気づいて、不安になった経験はありませんか?それは粉瘤(ふんりゅう)かもしれません。粉瘤は正式には「表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)」や「アテローム」とも呼ばれ、皮膚の良性腫瘍の中で最も一般的なものの一つです。
特に背中は粉瘤ができやすい部位として知られており、多くの方が悩まれています。しかし、粉瘤について正しい知識を持っている方は意外と少なく、「ニキビ」や「おでき」と混同してしまい、適切な対処ができていないケースも少なくありません。
本記事では、背中にできる粉瘤について、その特徴から診断、治療方法、予防法まで、専門医の視点から詳しく解説していきます。アイシークリニック上野院での豊富な治療経験をもとに、患者様が抱える疑問や不安にお答えします。

粉瘤(アテローム)とは何か
粉瘤の基本的な定義
粉瘤は、皮膚の下に袋状の構造物(嚢腫)ができ、その中に角質や皮脂などの老廃物が溜まってできる良性の腫瘍です。医学的には「表皮嚢腫」または「アテローム(atheroma)」と呼ばれます。
粉瘤の特徴的な構造として、以下の点が挙げられます。
嚢腫壁の存在:粉瘤には必ず袋状の壁(嚢腫壁)があり、この壁は正常な皮膚の表皮に似た構造をしています。この壁から角質が剥がれ落ち、嚢腫の中に蓄積していきます。
開口部(へそ):多くの粉瘤には、皮膚表面に小さな黒い点のような開口部が見られます。これは「臍窩(さいか)」や「へそ」と呼ばれ、粉瘤を診断する上で重要な特徴です。
内容物の性質:嚢腫内には、粥状(おかゆ状)の白っぽい物質が溜まっています。これは角質や皮脂が混ざったもので、独特の悪臭を伴うことがあります。
粉瘤と他の皮膚病変との違い
粉瘤はしばしば他の皮膚病変と間違われることがあります。正確な診断のために、違いを理解しておくことが重要です。
ニキビとの違い:ニキビは毛穴に皮脂や角質が詰まり、炎症を起こした状態です。一方、粉瘤は皮膚の下に袋状の構造ができる腫瘍であり、自然に治ることはありません。ニキビは通常数日から数週間で改善しますが、粉瘤は放置すると徐々に大きくなる傾向があります。
脂肪腫との違い:脂肪腫は脂肪細胞が増殖してできる柔らかい腫瘍です。粉瘤と異なり、開口部(へそ)がなく、触ると弾力性があります。また、脂肪腫は炎症を起こすことがほとんどありません。
おできとの違い:おでき(癤)は細菌感染によって毛穴や皮脂腺に膿が溜まった状態です。急性の炎症症状が強く、発熱を伴うこともあります。粉瘤も感染すると同様の症状を示すことがありますが、基本的な構造が異なります。
背中に粉瘤ができやすい理由
背中は体の中でも特に粉瘤ができやすい部位の一つです。その理由には、解剖学的・生理学的な要因が関係しています。
皮脂腺が多く分布している
背中は顔に次いで皮脂腺が多く分布している部位です。特に肩甲骨の間や背骨に沿った部分には、皮脂腺が密集しています。皮脂の分泌が活発な部位では、毛穴が詰まりやすく、それが粉瘤の形成につながることがあります。
皮膚が厚い
背中の皮膚は体の他の部位と比べて厚く、角質層も発達しています。この厚い皮膚構造が、表皮の一部が皮下に入り込んで嚢腫を形成する際の要因となります。
摩擦や圧迫を受けやすい
背中は日常生活の中で、以下のような刺激を受けやすい部位です。
- 衣類との摩擦(特にリュックサックやブラジャーのストラップ部分)
- 就寝時の圧迫
- 椅子の背もたれとの接触
- タオルによる強い摩擦
これらの物理的刺激が繰り返されることで、皮膚の微細な損傷が起こり、表皮が皮下に入り込むきっかけとなることがあります。
手が届きにくく、ケアが不十分になりやすい
背中は自分では見えにくく、手も届きにくい部位です。そのため、以下のような問題が生じやすくなります。
- 洗浄が不十分になりがち
- 保湿などのスキンケアが行き届かない
- 皮膚の異常に気づきにくい
- 初期段階での対処が遅れる
毛が密集している
背中には細かい体毛が比較的密に生えています。毛穴が多いということは、それだけ粉瘤の発生源となりうる箇所が多いということになります。
背中の粉瘤の症状と経過
初期症状
粉瘤は最初、小さなしこりとして現れます。初期段階での特徴は以下の通りです。
触感:皮膚の下に丸くて硬いしこりを触れます。大きさは数ミリから1センチ程度のことが多く、表面はなめらかで可動性があります。つまり、皮膚の上から押すと、周囲の組織と一緒に動く感じがします。
痛み:炎症を起こしていない状態では、通常痛みはありません。触っても痛くないことが多いのですが、圧迫すると軽い違和感を感じることがあります。
見た目:皮膚の色と同じか、やや白っぽく見えることがあります。注意深く観察すると、中央に小さな黒い点(開口部)が見えることがあります。
増大期
粉瘤は自然に治ることはなく、時間とともにゆっくりと大きくなっていく傾向があります。
サイズの変化:数ヶ月から数年かけて徐々に大きくなります。中には直径5センチ以上の巨大な粉瘤に成長するケースもあります。背中の粉瘤は気づきにくいため、他の部位よりも大きくなってから発見されることが多いのが特徴です。
形状の変化:大きくなるにつれて、半球状に盛り上がってきます。衣類との摩擦で表面が擦れたり、角質が厚くなったりすることもあります。
炎症期(感染性粉瘤)
粉瘤が細菌感染を起こすと、急激に症状が悪化します。これを「炎症性粉瘤」または「感染性粉瘤」と呼びます。
急激な腫れと痛み:数日のうちに急速に腫れ上がり、強い痛みを伴います。触ると熱感があり、周囲の皮膚も赤く腫れます。
化膿:嚢腫内に膿が溜まり、場合によっては自然に破れて膿が排出されることがあります。この膿には独特の悪臭があります。
全身症状:炎症が強い場合、発熱や倦怠感などの全身症状を伴うことがあります。
日常生活への影響:背中の場合、仰向けで寝られない、衣類が擦れて痛い、椅子の背もたれにもたれられないなど、日常生活に支障をきたすことがあります。
炎症を繰り返すパターン
炎症性粉瘤は、抗生物質などで一時的に炎症が治まっても、根本的な袋(嚢腫壁)が残っているため、再び炎症を起こすことがあります。このように炎症と鎮静化を繰り返すパターンも、粉瘤の特徴的な経過の一つです。
診断方法
視診・触診
粉瘤の診断は、まず視診(見た目の観察)と触診(触って確認すること)から始まります。
開口部の確認:拡大鏡などを使用して、皮膚表面に小さな黒い点状の開口部(へそ)がないか確認します。この開口部の存在は、粉瘤を診断する上で非常に重要な所見です。
しこりの性状確認:触診で以下の点を確認します。
- しこりの大きさ
- 硬さ
- 可動性(動くかどうか)
- 周囲組織との境界の明瞭さ
- 圧痛の有無
超音波検査(エコー検査)
超音波検査は、粉瘤の診断において非常に有用な検査方法です。
検査の利点:
- 痛みがなく、非侵襲的
- リアルタイムで内部構造を観察できる
- 嚢腫の大きさや深さを正確に測定できる
- 周囲組織との関係を把握できる
- 他の疾患との鑑別に役立つ
所見の特徴:粉瘤は超音波検査で、境界明瞭な低エコー域として描出されます。内部に不均一なエコーを示すことが多く、特徴的な層状構造が見られることもあります。
その他の検査
MRI検査:粉瘤が非常に大きい場合や、深い位置にある場合、周囲の重要な組織との関係を詳しく調べる必要がある場合に実施されることがあります。
病理組織検査:手術で摘出した粉瘤は、通常病理組織検査に提出されます。これにより、確定診断が得られるとともに、稀ではありますが悪性の病変でないことを確認します。
鑑別診断
背中のしこりを診察する際には、粉瘤以外の病変も考慮する必要があります。
脂肪腫:前述の通り、粉瘤よりも柔らかく、開口部がありません。超音波検査では高エコーを示します。
皮様嚢腫:粉瘤に似た良性腫瘍ですが、毛髪や歯などを含むことがあります。多くは先天性です。
毛巣洞:主に仙骨部(お尻の上部)にできる特殊な嚢腫で、毛髪が皮下に入り込むことが原因です。
悪性腫瘍:非常に稀ですが、硬くて急速に大きくなるしこり、周囲組織と癒着しているしこりなどは、悪性腫瘍の可能性も考慮して精査が必要です。
治療方法
粉瘤の治療は、症状や状態に応じて適切な方法を選択します。根本的な治療は外科的摘出ですが、炎症の有無や患者様の希望なども考慮して治療計画を立てます。
保存的治療(対症療法)
抗生物質治療:炎症を起こしている粉瘤に対しては、まず抗生物質による治療を行います。内服薬や外用薬を使用し、炎症を鎮めます。ただし、これは一時的な対処であり、根本的な治療ではありません。
切開排膿:炎症が強く、膿が大量に溜まっている場合は、小さく切開して膿を排出させることがあります。これにより痛みや腫れは軽減しますが、嚢腫壁は残るため、後日あらためて根治手術が必要になります。
経過観察:小さくて無症状の粉瘤の場合、患者様が希望されれば経過観察を選択することもあります。ただし、粉瘤は自然治癒しないこと、徐々に大きくなる可能性があることを理解していただく必要があります。
外科的治療(根治的治療)
粉瘤を完全に治すためには、嚢腫壁を含めて完全に摘出する必要があります。主な手術方法は以下の通りです。
従来法(切開法・紡錘形切除法)
手術の概要:粉瘤を中心に紡錘形(楕円形)に皮膚を切開し、嚢腫壁ごと摘出する方法です。開口部も含めて切除するため、確実に摘出できます。
適応:
- 比較的大きな粉瘤
- 炎症を繰り返している粉瘤
- 癒着が強い粉瘤
手術の流れ:
- 局所麻酔を行います
- 開口部を含めて紡錘形に切開します
- 嚢腫を周囲組織から剥離して摘出します
- 出血を確認して止血します
- 真皮層と皮膚を丁寧に縫合します
メリット:
- 嚢腫壁を確実に摘出できるため、再発率が低い
- 病理組織検査に十分な検体が得られる
- 手術手技が確立されている
デメリット:
- 切開線が比較的長くなる
- 縫合が必要で、抜糸までの通院が必要
- 傷跡が線状に残る
くりぬき法(へそ抜き法・パンチ法)
手術の概要:粉瘤の開口部(へそ)を中心に、円形のパンチ器具で小さく皮膚をくりぬき、そこから嚢腫を摘出する方法です。近年、美容面でのメリットから注目されている手術法です。
適応:
- 比較的小さい粉瘤(直径3センチ以下が目安)
- 炎症を起こしていない、または軽度の炎症の粉瘤
- 癒着が少ない粉瘤
手術の流れ:
- 局所麻酔を行います
- 開口部を中心に4〜8ミリ程度の円形にくりぬきます
- 内容物を圧出します
- 嚢腫壁を慎重に摘出します
- 傷口を洗浄し、場合によって縫合します(縫合しないこともあります)
メリット:
- 切開創が小さく、傷跡が目立ちにくい
- 手術時間が短い
- 縫合が不要または最小限で済むことが多い
- 患者様の負担が少ない
デメリット:
- 大きな粉瘤には適用できない
- 嚢腫壁が少し残る可能性があり、従来法と比べるとやや再発率が高い
- 炎症が強い場合は適用が難しい
炎症後の待機的手術
炎症を起こした粉瘤は、そのまま手術を行うと以下の問題があります。
- 組織が脆弱で出血しやすい
- 嚢腫壁と周囲組織の境界が不明瞭で摘出が困難
- 創部の治りが悪い
- 感染のリスクが高い
そのため、炎症性粉瘤に対しては、まず抗生物質で炎症を鎮め、3〜6ヶ月程度待ってから根治手術を行うことが一般的です。
ただし、当院では炎症期でも可能な限り安全に配慮しながら手術を行うケースもあります。患者様の状態や希望を十分に考慮して、最適な治療タイミングを提案させていただきます。
背中の粉瘤手術における特殊な配慮
背中の粉瘤手術では、部位特有の配慮が必要です。
麻酔の工夫:背中は痛みを感じやすい部位のため、十分な局所麻酔を行います。手術中の痛みがないよう、丁寧に麻酔を効かせます。
体位の工夫:背中の手術は、患者様にうつ伏せになっていただくか、側臥位(横向き)で行います。長時間の手術になる場合は、体への負担を軽減するための配慮が必要です。
縫合の工夫:背中は動きが多く、皮膚が引っ張られやすい部位です。そのため、深部をしっかり縫合し、皮膚への緊張を減らす工夫が必要です。また、吸収糸を使用することで、抜糸の負担を軽減することもあります。
傷跡への配慮:背中は比較的傷跡が目立ちにくい部位ですが、それでも美容的配慮は重要です。皮膚の緊張方向(皮膚割線)を考慮した切開線の設定、丁寧な縫合により、できる限り目立たない傷跡を目指します。
術後のケア
創部の管理:
- 手術当日は創部を濡らさないようにします
- 翌日以降はシャワー浴が可能ですが、創部は優しく洗います
- 処方された軟膏を塗布し、清潔なガーゼで保護します
安静と活動制限:
- 手術当日は安静にします
- 激しい運動や重い物を持つことは、1〜2週間控えていただきます
- 仰向けで寝る際、創部に圧迫がかからないよう注意が必要です
通院:
- 通常、術後数日後に経過観察のための受診をしていただきます
- 縫合した場合は、1〜2週間後に抜糸を行います(吸収糸使用の場合は不要)
- 創部の状態を確認し、必要に応じて処置を行います
合併症の予防と対応:
- 感染:創部の発赤、腫れ、熱感、膿の排出などの症状があれば、すぐに受診してください
- 出血:創部からの出血が続く場合は、清潔なガーゼで圧迫し、受診してください
- 再発:稀ですが、嚢腫壁の一部が残った場合、再発することがあります
粉瘤の予防とセルフケア
粉瘤を完全に予防することは困難ですが、発生リスクを減らし、早期発見につなげるためのケアは可能です。
日常的なスキンケア
適切な洗浄:
- 背中を洗う際は、手の届きにくい部分もしっかり洗います
- 長い柄のついたボディブラシや柔らかいタオルを活用します
- ただし、強くこすりすぎないよう注意が必要です
- 洗浄料はしっかり洗い流し、残らないようにします
保湿ケア:
- 入浴後は背中も保湿を心がけます
- スプレータイプやローションタイプの保湿剤が使いやすいです
- 皮膚のバリア機能を保つことで、トラブルを予防します
生活習慣の改善
摩擦の軽減:
- リュックサックは長時間背負わない、または肩パッドを使用します
- 締め付けの強い下着や衣類は避けます
- 就寝時は、時々寝返りを打って同じ部分が圧迫され続けないようにします
清潔な衣類の着用:
- 汗をかいたらこまめに着替えます
- 通気性の良い素材の衣類を選びます
- 衣類は清潔なものを着用します
ストレスと生活リズム:
- ストレスや睡眠不足は皮脂分泌に影響します
- 規則正しい生活リズムを心がけます
- 適度な運動で新陳代謝を促進します
食生活:
- バランスの取れた食事を心がけます
- 過度な脂質の摂取は皮脂分泌を増やす可能性があります
- ビタミンB群やビタミンCなど、皮膚の健康に良い栄養素を意識します
早期発見のためのセルフチェック
定期的な確認:
- 鏡を使って、月に一度程度は背中を確認します
- 家族やパートナーにチェックしてもらうのも良い方法です
- 新しいしこりや既存のしこりの変化に注意します
気になる症状があれば早めに受診:
- 痛みのないしこりでも、大きくなる前に受診を検討します
- 炎症を起こす前に治療した方が、傷跡も小さく済みます
- 放置せず、専門医に相談することが大切です
やってはいけないこと
自己処理の危険性:
- 粉瘤を自分で針で刺して内容物を出そうとする
- 無理に押し潰そうとする
- 不潔な器具で触る
これらの行為は、感染のリスクを高め、炎症を悪化させる原因となります。また、嚢腫壁が残るため根本的な解決にはなりません。絶対に避けてください。

よくある質問
A: 残念ながら、粉瘤が自然に治ることはありません。粉瘤には袋状の構造(嚢腫壁)があり、この壁がある限り、内容物が溜まり続けます。一時的に内容物が排出されて小さくなることはありますが、嚢腫壁が残っている限り再発します。根本的に治すためには、手術で嚢腫壁ごと摘出する必要があります。
A: 必ずしもすべての粉瘤を手術する必要はありません。小さくて無症状の粉瘤であれば、経過観察も選択肢の一つです。ただし、以下のような場合は手術をお勧めします。
徐々に大きくなっている
炎症を繰り返している
痛みや不快感がある
美容的に気になる
衣類との摩擦などで日常生活に支障がある
また、小さいうちに手術した方が、手術時間も短く、傷跡も小さく済むというメリットがあります。
A: 手術は局所麻酔で行いますので、手術中の痛みはほとんどありません。麻酔を注射する時にチクッとした痛みがありますが、その後は痛みを感じることなく手術を受けていただけます。麻酔が切れた後は、多少の痛みや違和感がありますが、処方される鎮痛剤で十分コントロール可能な程度です。通常、数日で痛みは軽減します。
Q4: 傷跡はどのくらい残りますか?
A: 傷跡の残り方は、粉瘤の大きさ、手術方法、体質などによって異なります。くりぬき法であれば4〜8ミリ程度の小さな傷跡、従来法でも粉瘤の大きさに応じた線状の傷跡となります。
背中は比較的傷跡が目立ちにくい部位です。術後3〜6ヶ月程度は赤みが残りますが、徐々に白っぽく目立たなくなっていきます。完全に傷跡が分からなくなるわけではありませんが、時間とともに薄くなっていきます。
当院では、できる限り傷跡が目立たないよう、丁寧な手術と縫合を心がけています。
Q5: 手術後、いつから普通の生活に戻れますか?
A: 基本的に日常生活はすぐに可能です。ただし、以下の制限があります。
- 激しい運動:1〜2週間程度控えていただきます
- 入浴:手術当日はシャワーのみ、翌日以降は入浴可能ですが、創部を強く擦らないようにします
- 重い物を持つ:1週間程度は控えます
- 仕事:デスクワークであれば翌日から可能、肉体労働の場合は数日〜1週間程度休むことをお勧めします
背中の手術の場合、仰向けで寝る際に創部に圧迫がかからないよう、しばらくは注意が必要です。
Q6: 再発することはありますか?
A: 適切に手術が行われ、嚢腫壁が完全に摘出されていれば、再発することはほとんどありません。ただし、以下のような場合、稀に再発することがあります。
- 炎症が強く、嚢腫壁の一部が残ってしまった場合
- 手術が不完全だった場合
- 新たに別の粉瘤ができた場合(真の再発ではない)
従来法での再発率は1〜3%程度、くりぬき法ではやや高く5〜10%程度と報告されています。当院では、できる限り完全摘出を心がけ、再発リスクを最小限にしています。
Q7: 粉瘤は悪性化することがありますか?
A: 粉瘤自体は良性の腫瘍であり、悪性化(がん化)することは極めて稀です。ただし、長期間放置された巨大な粉瘤が、稀に有棘細胞癌などの悪性腫瘍に変化したという報告が国内外でいくつかあります。
また、最初から悪性腫瘍であったものを粉瘤と誤診していたというケースもあります。そのため、以下のような場合は注意が必要です。
- 急速に大きくなる
- 硬くて動きが悪い
- 周囲組織と癒着している
- 出血しやすい
- 治りにくい潰瘍がある
このような症状がある場合は、早めに専門医を受診し、適切な検査を受けることをお勧めします。
Q8: 健康保険は使えますか?
A: はい、粉瘤の手術は健康保険が適用されます。ただし、明らかに美容目的のみの場合は自費診療となることがあります。費用は粉瘤の大きさや手術方法によって異なりますが、3割負担の場合、小さな粉瘤で数千円〜1万円程度が目安です。
背中の粉瘤治療における当院の特徴
アイシークリニック上野院では、背中の粉瘤治療において以下のような特徴があります。
日帰り手術:ほとんどの粉瘤手術は日帰りで行うことができます。入院の必要はありません。
豊富な経験:多くの粉瘤手術の実績があり、様々なケースに対応可能です。
丁寧なカウンセリング:患者様お一人お一人の状態や希望を詳しくお聞きし、最適な治療方法を提案します。
痛みへの配慮:麻酔の方法や量を工夫し、できる限り痛みの少ない治療を心がけています。
美容的配慮:傷跡ができる限り目立たないよう、丁寧な手術と縫合を行います。
アフターケアの充実:術後のケア方法を詳しく説明し、必要に応じて通院していただきます。
まとめ
背中の粉瘤は、多くの方が経験する一般的な皮膚の良性腫瘍です。自然治癒することはなく、放置すると徐々に大きくなったり、炎症を起こしたりする可能性があります。
重要なポイント:
- 粉瘤は自然に治らない。根本的治療には手術が必要
- 背中は粉瘤ができやすく、気づきにくい部位
- 炎症を起こす前に治療した方が、傷跡も小さく済む
- 小さいうちに手術した方が、手術時間も短く負担が少ない
- 適切な手術で再発はほとんどない
- 自己処理は危険。必ず専門医に相談を
背中にしこりを見つけたら、それが粉瘤かどうか、治療が必要かどうかを判断するためにも、皮膚科専門医を受診することをお勧めします。早期発見・早期治療により、より良い結果が期待できます。
アイシークリニック上野院では、粉瘤治療の豊富な経験を持つ医師が、患者様お一人お一人に最適な治療を提供いたします。背中のしこりや粉瘤でお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
- 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A 粉瘤・表皮嚢腫」 https://www.dermatol.or.jp/qa/qa11/
- 一般社団法人 日本形成外科学会「病気に関するQ&A」
- 山本明史ほか「表皮嚢腫・粉瘤の診断と治療」『形成外科』Vol.59, No.4, 2016
- 清水宏「あたらしい皮膚科学 第3版」中山書店, 2018
- 医療情報科学研究所「病気がみえる vol.4 皮膚科」メディックメディア, 2020
※本記事は医療情報の提供を目的としており、診断や治療の代わりになるものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務