潰瘍性大腸炎と向き合う:安倍晋三元首相、若槻千夏さん、高橋メアリージュンさんなどの著名人の公表が社会にもたらした意義

はじめに

2020年8月、当時の安倍晋三首相が持病の潰瘍性大腸炎の悪化を理由に辞任を表明したことは、多くの国民に衝撃を与えました。また、タレントの若槻千夏さん、モデルの高橋メアリージュンさんも、自身が潰瘍性大腸炎と闘っていることを公表し、病気への理解を広めることに貢献しています。

これらの著名人による病気の公表は、潰瘍性大腸炎という難病に対する社会の認識を大きく変えるきっかけとなりました。それまで「お腹の病気」という漠然としたイメージしか持たれていなかったこの疾患が、実は日常生活に大きな影響を及ぼし、時には仕事や人生の選択さえも左右する深刻な病気であることが、広く知られるようになったのです。

本記事では、潰瘍性大腸炎とはどのような病気なのか、その症状や診断、治療法について、一般の方にも分かりやすく解説していきます。また、著名人の公表が持つ社会的意義や、患者さんが日常生活で気をつけるべきポイントについても詳しくお伝えします。

潰瘍性大腸炎とは何か

病気の概要

潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん、英語:Ulcerative Colitis、略称UC)は、大腸の粘膜に慢性的な炎症が起こり、びらんや潰瘍を形成する病気です。厚生労働省により「指定難病」に認定されており、長期にわたる治療が必要となる慢性疾患です。

この病気の特徴は、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返す「再燃・寛解」を繰り返すことです。寛解期には症状がほとんどなく、日常生活を普通に送ることができますが、再燃すると激しい症状が現れ、生活の質が大きく低下します。

疫学データ:増加する患者数

日本における潰瘍性大腸炎の患者数は年々増加しており、現在では約22万人以上の患者さんがいると推定されています。1970年代には数千人程度だった患者数が、この50年間で劇的に増加しているのです。

発症年齢は20代から30代の若年層に多いものの、10代から60代まで幅広い年齢層で発症する可能性があります。男女比はほぼ同等で、性別による大きな差は見られません。

近年の患者数増加の背景には、食生活の欧米化や衛生環境の変化、ストレス社会などが関係していると考えられていますが、明確な原因はまだ完全には解明されていません。

著名人の公表とその社会的影響

安倍晋三元首相のケース

安倍晋三元首相は、第一次政権時の2007年にも潰瘍性大腸炎の悪化により辞任しています。その後、新しい治療薬の登場により症状をコントロールできるようになり、2012年に再び首相に就任しました。しかし、2020年には再び病状が悪化し、辞任を余儀なくされました。

安倍元首相のケースは、潰瘍性大腸炎が「コントロール可能だが完治は難しい病気」であること、そして首相という激務をこなしながらも病気と向き合い続ける姿を示しました。これにより、多くの患者さんが「自分も頑張れる」という勇気を得たと言われています。

若槻千夏さんの公表

タレントの若槻千夏さんは、20代前半で潰瘍性大腸炎を発症しました。バラエティ番組などで活躍する一方で、この病気と闘っていることを公表し、SNSなどを通じて病気の実態や日常生活での工夫を発信し続けています。

若槻さんの公表は、特に同世代の若い患者さんに大きな影響を与えました。芸能活動を続けながら病気と向き合う姿は、「病気があっても自分らしく生きられる」というメッセージとして受け止められています。

高橋メアリージュンさんの勇気

モデル・女優の高橋メアリージュンさんも、自身が潰瘍性大腸炎であることを公表しています。外見からは分かりにくい病気であるため、周囲の理解を得ることの難しさや、見た目と実際の体調のギャップに悩む患者さんの代弁者となっています。

高橋さんは、美容やファッションに関わる仕事をしながら、病気とどのように付き合っているかを率直に語り、多くの患者さんに共感と希望を与えています。

公表がもたらした社会的意義

これらの著名人による病気の公表は、以下のような社会的意義をもたらしました。

認知度の向上:潰瘍性大腸炎という病名が広く知られるようになり、病気への理解が深まりました。「見えない病気」「外見では分からない辛さ」への理解が進んだことも大きな成果です。

職場での理解促進:病気があっても重要な仕事を担える、働き続けられるという認識が広まり、患者さんが職場でサポートを求めやすくなりました。

早期受診の促進:症状があるのに我慢していた人が、「もしかして自分も」と考えて受診するきっかけになりました。

孤立感の軽減:同じ病気と闘う仲間がいる、理解してくれる人がいるという安心感が、患者さんのメンタルヘルス向上につながりました。

潰瘍性大腸炎の症状

主な症状

潰瘍性大腸炎の代表的な症状は以下の通りです。

血便・粘血便:最も特徴的な症状で、便に血液や粘液が混じります。炎症によって大腸の粘膜がただれ、出血するためです。

下痢:水様便や軟便が続き、1日に何度もトイレに行く必要があります。重症の場合、1日10回以上の排便があることもあります。

腹痛:下腹部を中心とした持続的な痛みや、排便前の腹痛(しぶり腹)が特徴的です。

発熱:炎症が強いときには、37〜38度台の発熱が見られることがあります。

体重減少:栄養の吸収が悪くなり、また食欲不振も加わって、体重が減少することがあります。

貧血:慢性的な出血により、鉄欠乏性貧血を起こすことがあります。

倦怠感:全身の疲労感や体力の低下を感じます。

重症度による分類

潰瘍性大腸炎は、症状の程度によって軽症、中等症、重症に分類されます。

軽症:1日の排便回数が4回以下で、発熱や貧血がほとんどない状態。日常生活への影響は比較的少ない。

中等症:1日の排便回数が5〜6回程度で、軽度の発熱や貧血がある状態。日常生活に一定の支障がある。

重症:1日の排便回数が6回以上で、高熱や強い貧血、頻脈などがある状態。入院治療が必要になることも多い。

合併症

潰瘍性大腸炎では、腸管以外にもさまざまな症状が現れることがあります。

腸管外合併症

  • 関節炎:膝や足首などの関節が腫れて痛む
  • 皮膚症状:結節性紅斑や壊疽性膿皮症など
  • 眼症状:ぶどう膜炎や強膜炎など
  • 肝胆道系疾患:原発性硬化性胆管炎など

大腸癌のリスク:長期間にわたって炎症が続くと、大腸癌のリスクが高まります。発症から8〜10年経過した患者さんは、定期的な大腸内視鏡検査による経過観察が重要です。

中毒性巨大結腸症:稀ですが重篤な合併症で、大腸が異常に拡張し、腸管穿孔を起こす危険性があります。緊急手術が必要になることもあります。

診断方法

問診と身体診察

診断の第一歩は、詳しい問診です。いつから症状が始まったか、血便や下痢の頻度、腹痛の程度、体重の変化などを詳しく聞き取ります。また、家族歴や生活習慣についても確認します。

身体診察では、腹部の触診や聴診を行い、圧痛の有無や腸の動きを確認します。

血液検査

血液検査では以下の項目をチェックします。

  • 炎症マーカー:CRP(C反応性タンパク)や白血球数の上昇
  • 貧血の有無:ヘモグロビン値や赤血球数
  • 栄養状態:アルブミン値など
  • 肝機能:合併症の有無を確認

便検査

便の中に血液が混じっているか(便潜血反応)、細菌やウイルス、寄生虫などの感染症がないかを調べます。感染性腸炎と区別するために重要な検査です。

大腸内視鏡検査

潰瘍性大腸炎の診断において最も重要な検査が大腸内視鏡検査です。肛門から内視鏡を挿入し、大腸の粘膜を直接観察します。

所見の特徴

  • びまん性(全体的)で連続性の炎症
  • 粘膜の発赤、浮腫、易出血性
  • びらんや潰瘍の形成
  • 血管透見性の消失
  • 粘膜の粗造化

内視鏡検査では、同時に組織を採取して病理検査を行います。顕微鏡で組織を詳しく調べることで、診断を確定します。

画像検査

  • 腹部X線検査:腸管の拡張や穿孔の有無を確認
  • CT検査:腸管壁の肥厚や合併症の評価
  • MRI検査:小腸病変の評価にも有用

他の疾患との鑑別

潰瘍性大腸炎と似た症状を示す病気がいくつかあるため、慎重に鑑別する必要があります。

  • クローン病:同じ炎症性腸疾患だが、病変の部位や性質が異なる
  • 感染性腸炎:細菌やウイルスによる一時的な腸の炎症
  • 虚血性腸炎:血流障害による腸の炎症
  • 大腸癌:特に高齢者では除外が必要
  • 過敏性腸症候群:機能的な障害で、炎症はない

治療法

潰瘍性大腸炎の治療目標は、「粘膜治癒を達成し、寛解状態を維持すること」です。完全に治癒させることは現時点では困難ですが、適切な治療により症状をコントロールし、通常の生活を送ることが可能です。

薬物療法

5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA)

軽症から中等症の患者さんに使用される第一選択薬です。商品名としてはペンタサ、アサコール、リアルダなどがあります。腸の炎症を抑え、寛解維持にも効果的です。

内服薬と坐剤・注腸剤があり、病変の範囲によって使い分けます。比較的副作用が少なく、長期間の使用が可能です。

ステロイド薬

中等症から重症の患者さん、あるいは5-ASA製剤で効果が不十分な場合に使用します。強力な抗炎症作用があり、症状を速やかに改善させることができます。

プレドニゾロン(プレドニン)やブデソニド(ゼンタコート)などが使用されます。ただし、長期使用により副作用(骨粗鬆症、糖尿病、感染症のリスク増加など)が生じるため、症状が改善したら徐々に減量し、他の薬剤に切り替えていきます。

免疫調節薬

ステロイドの減量や中止を目的として、またはステロイドが効きにくい場合に使用します。

  • アザチオプリン(イムラン、アザニン):効果が現れるまで2〜3ヶ月かかりますが、寛解維持に有効
  • タクロリムス(プログラフ):重症例や急性増悪時に使用され、比較的速やかに効果が現れる

生物学的製剤(バイオ製剤)

従来の治療で効果不十分な場合や、中等症から重症の患者さんに使用される新しいタイプの薬です。安倍元首相が症状をコントロールできるようになったのも、この生物学的製剤の登場が大きな要因でした。

  • 抗TNFα抗体製剤:レミケード(インフリキシマブ)、ヒュミラ(アダリムマブ)、シンポニー(ゴリムマブ)など。TNFαという炎症を引き起こす物質を抑制
  • 抗インテグリン抗体製剤:エンタイビオ(ベドリズマブ)。腸に特異的に作用し、全身への影響が少ない
  • 抗IL-12/23抗体製剤:ステラーラ(ウステキヌマブ)。複数の炎症経路を抑制

これらの薬は点滴や皮下注射で投与され、定期的な通院が必要です。

JAK阻害薬

2020年以降、新たに使用可能になった経口薬です。

  • ゼルヤンツ(トファシチニブ)
  • リンヴォック(ウパダシチニブ)

細胞内のシグナル伝達を阻害することで炎症を抑えます。内服薬であるため、注射が苦手な方にも使いやすいというメリットがあります。

血球成分除去療法(CAP療法)

薬物療法の効果が不十分な場合に、血液を体外に取り出し、炎症に関与する白血球などを除去してから体内に戻す治療法です。週1〜2回、5〜10回程度の治療を行います。

外科的治療(手術)

薬物療法でコントロールできない場合や、大腸癌の合併、中毒性巨大結腸症などの重篤な合併症が生じた場合には、手術が検討されます。

大腸全摘術

潰瘍性大腸炎の根治的治療は、炎症の起きている大腸をすべて摘出することです。現在では、回腸囊肛門吻合術(かいちょうのうこうもんふんごうじゅつ)という術式が主流です。

この手術では、大腸を全摘出した後、小腸の一部で便を溜める袋(回腸囊)を作り、肛門とつなぎます。一時的に人工肛門(ストーマ)を造設することもありますが、多くの場合、最終的には肛門からの排便が可能になります。

手術により病気そのものは治りますが、術後は排便回数が増える、夜間の排便がある、便失禁のリスクなどがあり、生活スタイルの調整が必要になります。

栄養療法

栄養状態の改善も重要な治療の一環です。重症の場合や栄養状態が悪い場合には、以下のような栄養療法を行います。

  • 経腸栄養剤:消化吸収しやすい形の栄養剤を内服または経管で投与
  • 完全静脈栄養:重症時には腸を休ませるため、静脈から栄養を補給

日常生活での注意点とセルフケア

食事管理

潰瘍性大腸炎の患者さんにとって、食事は症状のコントロールに大きく影響します。

寛解期の食事

寛解期には基本的に食事制限は必要ありませんが、バランスの良い食事を心がけることが大切です。

  • 推奨される食品:白米、うどん、豆腐、白身魚、鶏肉、卵、バナナ、りんご、よく煮た野菜
  • 控えめにすべき食品:脂肪分の多い食事、香辛料、アルコール、カフェイン、食物繊維の多すぎる食品

活動期の食事

症状が悪化している時期には、消化の良い食事を心がけ、腸への刺激を最小限にします。

  • 低残渣食:繊維質を減らし、消化しやすい形態の食事
  • 少量頻回食:一度に多く食べず、少量ずつ何回かに分けて食べる
  • 脂肪制限:脂っこい食事は避ける
  • 刺激物の除去:辛いもの、冷たすぎるもの、熱すぎるものを避ける

ストレス管理

ストレスは症状の悪化因子の一つです。完全にストレスをなくすことは不可能ですが、上手に付き合う方法を見つけることが重要です。

  • 十分な睡眠:質の良い睡眠は免疫機能を整えます
  • 適度な運動:体調に合わせた軽い運動はストレス解消に効果的
  • リラクゼーション:深呼吸、瞑想、ヨガなど
  • 趣味の時間:好きなことをする時間を確保
  • 相談できる人を持つ:家族、友人、同じ病気を持つ仲間など

仕事との両立

若槻千夏さんや高橋メアリージュンさんの例が示すように、潰瘍性大腸炎があっても仕事を続けることは可能です。

職場での工夫

  • 病気について説明する:必要に応じて上司や同僚に病気を説明し、理解を得る
  • トイレの確保:トイレに近い席を希望する、外回りの際はトイレの場所を把握しておく
  • 定期通院の確保:診察日を確保し、治療を継続する
  • 無理をしない:体調が悪いときは休養を優先する

妊娠・出産

女性患者さんにとって、妊娠・出産は大きな関心事です。

妊娠への影響

寛解期であれば、妊娠・出産は通常の方と同様に可能です。ただし、活動期に妊娠すると流産や早産のリスクが高まるため、症状が安定している時期に計画することが推奨されます。

薬物療法の継続

妊娠中も治療を継続することが重要です。多くの潰瘍性大腸炎の治療薬は妊娠中も使用可能ですが、一部の薬は避ける必要があります。妊娠を希望する場合は、事前に主治医に相談し、薬の調整を行います。

旅行時の注意

事前準備

  • 主治医に相談し、薬を多めに準備
  • 旅行先の医療機関を調べておく
  • トイレのある場所を事前に確認
  • 保険証と医療受給者証を携帯

海外旅行

  • 英文の診断書を準備
  • 十分な量の薬を持参
  • 旅行保険に加入
  • 衛生環境に注意し、感染症予防を徹底

最新の研究と治療の展望

病因解明への取り組み

潰瘍性大腸炎の原因はまだ完全には解明されていませんが、以下の要因が複雑に関与していると考えられています。

遺伝的要因

複数の遺伝子が関与していることが分かってきました。特に免疫に関わる遺伝子や、腸管のバリア機能に関わる遺伝子の変異が報告されています。ただし、単一の遺伝子で決まるわけではなく、多数の遺伝子の組み合わせと環境因子が影響します。

免疫異常

本来は腸内細菌などの外来抗原から体を守るべき免疫系が、何らかの理由で過剰に反応し、自分の腸の組織を攻撃してしまうと考えられています。

腸内細菌叢(腸内フローラ)

腸内細菌のバランスの乱れが、病気の発症や悪化に関与している可能性が指摘されています。健康な人と比べて、患者さんでは腸内細菌の多様性が低下していることが報告されています。

環境要因

食生活の欧米化、抗生物質の使用、衛生環境の改善(衛生仮説)などが発症に関係しているのではないかと考えられています。

新しい治療法の開発

糞便微生物移植(FMT)

健康な人の腸内細菌を患者さんに移植する治療法が研究されています。クロストリジウム・ディフィシル感染症では効果が確立されており、潰瘍性大腸炎でも臨床試験が進められています。

幹細胞治療

患者さん自身の幹細胞を採取し、培養・加工して体内に戻すことで、損傷した組織の修復を促す治療法の研究が進んでいます。

経口生物学的製剤

現在の生物学的製剤は注射や点滴で投与されますが、経口投与できる新しいタイプの開発が進められています。

個別化医療(プレシジョン・メディシン)

患者さん一人ひとりの遺伝子情報や腸内細菌の状態、免疫プロファイルなどに基づいて、最適な治療法を選択する「個別化医療」の実現に向けた研究が進んでいます。

患者支援と社会資源

医療費助成制度

潰瘍性大腸炎は指定難病に認定されており、一定の基準を満たす患者さんは医療費助成を受けることができます。

難病医療費助成制度

病状が一定以上の重症度に該当する場合、医療費の自己負担額が軽減されます。お住まいの都道府県の保健所または保健センターで申請手続きを行います。

申請には以下の書類が必要です:

  • 特定医療費(指定難病)支給認定申請書
  • 医師の診断書(臨床調査個人票)
  • 住民票
  • 市町村民税の課税証明書

その他の制度

  • 高額療養費制度:医療費の自己負担額が一定額を超えた場合、超えた分が払い戻される制度
  • 障害年金:重症の場合、障害年金の対象となることがあります

患者会・支援団体

同じ病気を持つ患者さん同士が交流し、情報交換や相談ができる患者会があります。

主な患者会

  • 全国IBD(炎症性腸疾患)患者会
  • 各地域のIBD患者会

これらの団体では、医療講演会や患者交流会、情報誌の発行などを行っており、病気に関する最新情報や日常生活での工夫を共有できます。

職場での配慮と障害者雇用

潰瘍性大腸炎は「見えない障害」と言われることがあります。外見からは健康そうに見えるため、周囲から理解されにくいという悩みを抱える患者さんも少なくありません。

合理的配慮の例

  • トイレに行きやすい環境整備
  • 通院のための休暇取得への配慮
  • 体調不良時の休憩や早退への理解
  • 在宅勤務やフレックスタイム制の活用

重症の場合は、障害者手帳の取得により、障害者雇用枠での就労も選択肢となります。

家族・周囲の方へのメッセージ

潰瘍性大腸炎の患者さんを支える家族や周囲の方々にとって、病気を理解し、適切なサポートをすることが重要です。

理解してほしいこと

症状は変動する

調子の良い日もあれば悪い日もあります。昨日できたことが今日はできないこともあるため、「怠けている」「気のせい」などと決めつけないでください。

外見では分からない

血便や腹痛、倦怠感など、外見からは分からない症状で苦しんでいます。「元気そうに見える」という言葉が、時として患者さんを傷つけることもあります。

トイレの問題はデリケート

頻繁にトイレに行く必要があったり、急にトイレに駆け込まなければならないこともあります。このことについて冗談を言ったり、非難したりしないでください。

具体的なサポート方法

  • 話を聞く:病気の辛さや不安を受け止め、共感的に聞く
  • 治療のサポート:通院の付き添いや服薬管理のサポート
  • 食事への配慮:消化の良い食事を一緒に考える
  • 休息を優先させる:無理をさせない、休息を促す
  • 情報収集を一緒に:病気や治療法について一緒に学ぶ

子どもが患者の場合

小児期に発症した場合、成長や発達、学校生活への影響が懸念されます。

  • 学校との連携:担任や養護教諭に病気を説明し、理解と協力を求める
  • 成長のサポート:栄養状態を維持し、適切な治療で成長を促す
  • 心理的サポート:病気による不安やストレスに寄り添う
  • 自立への支援:年齢に応じて、自分で病気を管理できるようにサポート

よくある質問(Q&A)

Q1: 潰瘍性大腸炎は完治しますか?

A: 現時点では、完治させる治療法はありません。ただし、適切な治療により症状をコントロールし、通常の生活を送ることは十分に可能です。安倍元首相のように長年にわたって重要な仕事を続けられた例もあります。

Q2: 遺伝しますか?

A: 遺伝的要因は関与していますが、必ず遺伝するわけではありません。家族内で複数の患者が出ることもありますが、確率は一般人口よりわずかに高い程度です。

Q3: ストレスが原因ですか?

A: ストレスは悪化因子の一つですが、ストレスだけが原因で発症するわけではありません。免疫異常や遺伝、環境因子など、多くの要因が複雑に関与しています。

Q4: 食事で治すことはできますか?

A: 特定の食事療法で完治させることはできませんが、適切な食事管理は症状のコントロールに役立ちます。バランスの良い食事を心がけ、体調に合わせて調整することが大切です。

Q5: 運動はしても良いですか?

A: 寛解期には適度な運動が推奨されます。ウォーキングや軽いジョギング、水泳など、激しすぎない運動はストレス解消にも効果的です。活動期は体調に合わせて休息を優先してください。

Q6: 将来、がんになるリスクは高いですか?

A: 長期間炎症が続くと大腸癌のリスクが高まりますが、定期的な内視鏡検査による早期発見と、適切な治療による炎症のコントロールでリスクを減らすことができます。

Q7: 生物学的製剤は安全ですか?

A: 適切な管理下で使用すれば安全性は高いですが、免疫を抑える薬なので感染症のリスクには注意が必要です。使用前には結核などの感染症のチェックを行い、使用中も定期的な検査でモニタリングします。

まとめ

潰瘍性大腸炎は、慢性的な経過をたどる難病ですが、近年の医療の進歩により、多くの患者さんが日常生活を送れるようになっています。安倍晋三元首相、若槻千夏さん、高橋メアリージュンさんなど、著名人の公表により、社会の理解も深まってきました。

病気と上手に付き合うためには、以下のポイントが重要です。

  1. 早期診断・早期治療:症状があれば早めに受診し、適切な診断を受けましょう
  2. 継続的な治療:症状が落ち着いても治療を中断せず、定期的に通院しましょう
  3. 生活習慣の改善:食事、ストレス管理、十分な休息を心がけましょう
  4. 社会資源の活用:医療費助成制度や患者会などを積極的に利用しましょう
  5. 周囲とのコミュニケーション:必要に応じて病気について説明し、理解と協力を求めましょう

潰瘍性大腸炎があっても、あきらめる必要はありません。適切な治療とセルフケアにより、自分らしい人生を送ることができます。一人で悩まず、医療機関や患者会などのサポートを受けながら、前向きに病気と向き合っていきましょう。

参考文献

  1. 厚生労働省 難病情報センター「潰瘍性大腸炎(指定難病97)」 https://www.nanbyou.or.jp/entry/62
  2. 日本消化器病学会「炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン」 https://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/ibd.html
  3. 難病情報センター「潰瘍性大腸炎の診断基準・重症度分類」
  4. 日本炎症性腸疾患協会(CCFJ) https://www.ccfj.jp/
  5. 厚生労働省「潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針」
  6. 日本消化器内視鏡学会「大腸内視鏡検査ガイドライン」

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

プロフィールを見る

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

プロフィールを見る