はじめに
「蕁麻疹が出てから何週間も経つのに、なかなか治らない」「薬を飲んでも症状が繰り返す」──このような悩みを抱えている方は少なくありません。蕁麻疹は一般的な皮膚疾患ですが、慢性化すると日常生活に大きな影響を与え、精神的なストレスも増大します。
本記事では、蕁麻疹が治らない理由、慢性蕁麻疹のメカニズム、適切な治療法、そして日常生活での対処法まで、包括的に解説します。長引く蕁麻疹でお悩みの方が、適切な医療を受け、症状を改善するための一助となれば幸いです。

蕁麻疹とは:基本的な理解
蕁麻疹の特徴
蕁麻疹(じんましん)は、皮膚に赤い膨らみ(膨疹)とかゆみが突然現れる疾患です。「じんま」という植物に触れたときの症状に似ていることから、この名前がつけられました。
蕁麻疹の主な特徴は以下の通りです:
膨疹の特徴
- 皮膚が盛り上がって赤くなる(ミミズ腫れのような状態)
- 大きさは数ミリから手のひらサイズまでさまざま
- 形は円形、楕円形、地図状など多様
- 中央部が白く抜けることもある
症状の変化
- かゆみを伴うことが多い(チクチク、ヒリヒリすることも)
- 症状は通常24時間以内に消失する
- 同じ場所に繰り返し出ることは少ない
- 跡を残さずに消える
蕁麻疹は日本人の約15〜25%が一生のうちに一度は経験すると言われており、決して珍しい疾患ではありません。しかし、その原因や経過は個人差が大きく、適切な理解と対処が必要です。
蕁麻疹のメカニズム
蕁麻疹は、皮膚の真皮にある肥満細胞(マスト細胞)という細胞から、ヒスタミンなどの化学伝達物質が放出されることで起こります。
発症のプロセス
- 何らかの刺激により肥満細胞が活性化
- 肥満細胞からヒスタミンなどが放出される
- ヒスタミンが血管に作用し、血管透過性が亢進
- 血管から血漿成分が皮膚組織に漏れ出す
- 皮膚が腫れ、赤くなる(膨疹の形成)
- 神経が刺激され、かゆみを感じる
このメカニズム自体は比較的シンプルですが、肥満細胞を活性化させる原因は多岐にわたり、それが蕁麻疹の診断や治療を複雑にしています。
急性蕁麻疹と慢性蕁麻疹の違い
蕁麻疹は発症からの期間によって、急性蕁麻疹と慢性蕁麻疹に分類されます。この分類は治療方針を決める上で非常に重要です。
急性蕁麻疹
定義 症状が現れてから6週間以内に治まるものを急性蕁麻疹と呼びます。
特徴
- 発症が突然で、症状が激しいことが多い
- 原因が比較的特定しやすい
- 適切な治療により短期間で改善することが多い
- 再発のリスクは比較的低い
主な原因
- 食物アレルギー(エビ、カニ、卵、小麦、そばなど)
- 薬剤(抗生物質、解熱鎮痛剤など)
- 感染症(ウイルス、細菌感染)
- 虫刺され
- 物理的刺激(圧迫、寒冷、日光など)
急性蕁麻疹の多くは、原因を取り除くことで自然に軽快します。抗ヒスタミン薬などの対症療法を行いながら、症状が落ち着くのを待つのが一般的な対応です。
慢性蕁麻疹
定義 症状が6週間以上続く、または繰り返し出現するものを慢性蕁麻疹と呼びます。
特徴
- 毎日のように症状が出る(毎日型)
- 数日おきに症状が出る(間欠型)
- 症状の強さが日によって異なる
- 原因の特定が困難なことが多い
- 長期的な治療が必要になる
疫学 慢性蕁麻疹は、蕁麻疹患者全体の約30〜40%を占めると言われています。女性に多く、特に30〜50歳代の発症が多いとされています。日常生活への影響が大きく、生活の質(QOL)の低下が問題となります。
**「蕁麻疹が治らない」と感じる方の多くは、この慢性蕁麻疹に該当します。**急性蕁麻疹とは異なるアプローチが必要であり、長期的な視点での治療計画が重要です。
蕁麻疹が治らない主な原因
慢性蕁麻疹がなぜ「治らない」のか、その理由は複雑で多岐にわたります。以下、主な原因について詳しく見ていきましょう。
1. 原因の特定が困難
慢性蕁麻疹の最大の特徴は、原因が特定できないケースが非常に多いことです。実に約70〜80%の慢性蕁麻疹患者では、明確な原因を特定することができません。これは「特発性慢性蕁麻疹」と呼ばれます。
原因特定が難しい理由
- アレルギー検査で陽性が出ても、それが実際の原因とは限らない
- 複数の要因が複雑に絡み合っている
- 原因物質への曝露と症状出現のタイミングがずれている
- 心理的要因や体調の変化も影響する
- 原因が日常生活の中に潜んでいて気づきにくい
そのため、「何が原因かわからないまま症状が続く」という状況が生まれ、患者さんの不安やストレスを増大させます。
2. 慢性蕁麻疹の特殊な病態
近年の研究により、慢性蕁麻疹には自己免疫的なメカニズムが関与している可能性が指摘されています。
自己免疫性蕁麻疹 慢性蕁麻疹患者の約30〜50%に、自分の肥満細胞を活性化させる「自己抗体」が存在することが分かっています。これは、本来外敵と戦うべき抗体が、自分自身の細胞を刺激してしまう状態です。
この場合、外部からの刺激がなくても肥満細胞が活性化し続けるため、症状が長期化します。治療にも時間がかかり、通常の抗ヒスタミン薬では効果が不十分なこともあります。
3. 隠れた原因疾患
蕁麻疹の背後に、他の疾患が隠れている場合があります。
関連する可能性のある疾患
- 甲状腺疾患(橋本病、バセドウ病など)
- 膠原病(全身性エリテマトーデス、関節リウマチなど)
- 感染症(ピロリ菌感染、寄生虫感染など)
- 肝疾患
- 腎疾患
- 悪性腫瘍(稀ですが可能性があります)
これらの疾患が原因の場合、基礎疾患の治療なしには蕁麻疹も改善しません。そのため、蕁麻疹が長引く場合は、これらの疾患のスクリーニングが重要です。
4. 物理性蕁麻疹の見落とし
物理的な刺激で蕁麻疹が誘発されるタイプがあります。これは日常生活の中で無意識に刺激を受け続けているため、症状が繰り返されます。
物理性蕁麻疹の種類
機械性蕁麻疹(皮膚描記症)
- 皮膚を擦ったり圧迫したりすると、その部分に膨疹が出る
- 下着の締め付け、かばんの紐などで症状が出る
- 最も頻度の高い物理性蕁麻疹
寒冷蕁麻疹
- 冷たい空気や水に触れると症状が出る
- 冬場や冷房の効いた部屋で悪化
- 冷たい飲み物でも誘発されることがある
日光蕁麻疹
- 日光に当たった部分に数分で膨疹が出る
- 夏場や屋外活動で症状が出やすい
温熱蕁麻疹
- 温かいものに触れると症状が出る
- 入浴、運動後などに悪化
コリン性蕁麻疹
- 運動や入浴で体温が上昇すると、小さな膨疹が多発
- 若年者に多い
- 数ミリの小さな膨疹が特徴
遅延性圧蕁麻疹
- 圧迫から数時間後に症状が出る
- 長時間の立ち仕事、座り仕事で悪化
- 症状の持続時間が長い(24〜48時間)
これらの物理性蕁麻疹は、誘発因子を避けることで症状をコントロールできますが、日常生活で完全に避けることは困難な場合もあります。
5. 薬剤性の問題
蕁麻疹の治療中に使用している薬剤自体が、症状を悪化させている可能性もあります。
問題となりやすい薬剤
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):アスピリン、ロキソプロフェンなど
- ACE阻害薬(降圧薬)
- 抗生物質
- 造影剤
特にNSAIDsは、アレルギーメカニズムとは異なる機序で蕁麻疹を悪化させることがあります(偽アレルギー反応)。日常的に鎮痛剤を使用している方は、それが蕁麻疹を長引かせている可能性があります。
6. 食物アレルギーと食品添加物
急性蕁麻疹と異なり、慢性蕁麻疹では食物が直接の原因となるケースは少ないとされています。しかし、以下のような関連性が指摘されています。
仮性アレルゲン ヒスタミンを含む食品や、体内でヒスタミンの放出を促進する食品(仮性アレルゲン)が症状を悪化させることがあります。
- ヒスタミンを多く含む食品:熟成チーズ、ワイン、発酵食品、青魚(鮮度が落ちたもの)
- ヒスタミン遊離作用のある食品:トマト、ナス、タケノコ、ほうれん草、チョコレート、アルコール
食品添加物
- 着色料(タートラジンなど)
- 保存料(安息香酸など)
- 人工甘味料
これらは少量ずつの摂取でも、蓄積的に症状を悪化させる可能性があります。
7. ストレスと生活習慣
心理的ストレスや生活習慣の乱れも、蕁麻疹を長引かせる要因となります。
ストレスの影響
- 自律神経のバランスが崩れる
- 免疫機能が低下する
- 肥満細胞の過敏性が増す
- 既存の症状が悪化する
生活習慣の問題
- 睡眠不足
- 疲労の蓄積
- 不規則な生活リズム
- 過度の飲酒
- 喫煙
これらは直接的な原因ではありませんが、症状を悪化させる「増悪因子」として作用します。
8. 治療の中断や自己判断
蕁麻疹の治療は長期間に及ぶことが多いため、以下のような問題が生じやすくなります。
治療継続の問題
- 症状が軽快すると自己判断で服薬を中止する
- 薬が効かないと感じて治療をやめてしまう
- 医師の指示通りに服薬していない
- 定期的な受診を怠る
慢性蕁麻疹の治療は、症状がなくなってからも一定期間薬を続けることが重要です。早期に治療を中断すると、症状が再燃しやすくなります。
慢性蕁麻疹の診断プロセス
蕁麻疹が治らない場合、適切な診断が治療の第一歩となります。
問診の重要性
医師は以下のような点を詳しく聞き取ります。
症状について
- いつから症状が出ているか
- どのような時に症状が出やすいか
- 症状の頻度と持続時間
- 症状の程度(かゆみの強さ、膨疹の大きさ)
- 症状が出る時間帯
生活環境について
- 職業と職場環境
- 住環境
- ペットの飼育状況
- 最近の生活の変化
食事について
- 症状が出る前の食事内容
- 普段よく食べるもの
- サプリメントの使用
その他の要因
- 使用している薬剤
- 既往歴
- 家族歴
- ストレスの有無
- 月経周期との関連(女性の場合)
身体診察
皮膚の観察
- 膨疹の形状、大きさ、分布
- 色調の変化
- 引っ掻き傷の有無
- 他の皮膚症状の有無
全身状態の確認
- リンパ節の腫れ
- 甲状腺の腫大
- 腹部の所見
- 関節の症状
検査
慢性蕁麻疹の診断では、原因を特定するため、また他の疾患を除外するために、様々な検査が行われます。
基本的な血液検査
- 一般血液検査(血算)
- 炎症反応(CRP、赤沈)
- 肝機能、腎機能
- 甲状腺機能
- 自己抗体(抗核抗体など)
- IgE値(総IgE、特異的IgE)
アレルギー検査
- プリックテスト
- 特異的IgE抗体検査(RAST)
- パッチテスト
ただし、慢性蕁麻疹ではアレルギー検査で陽性が出ても、それが実際の原因ではないことが多いため、結果の解釈には注意が必要です。
特殊な検査
- 自己血清皮膚テスト(ASST):自己免疫性蕁麻疹の診断
- ピロリ菌検査
- 寄生虫検査
- 誘発テスト:物理性蕁麻疹の診断
画像検査 必要に応じて、胸部X線、腹部超音波検査などが行われることもあります。
除外診断
蕁麻疹に似た他の疾患を除外することも重要です。
鑑別が必要な疾患
- 血管性浮腫
- 薬疹
- 多形紅斑
- 虫刺症
- 蕁麻疹様血管炎
- 色素性蕁麻疹
これらの疾患では治療法が異なるため、正確な診断が必要です。
慢性蕁麻疹の治療法
慢性蕁麻疹の治療は、症状のコントロールと生活の質の改善を目標とします。完治を目指すというよりも、症状をうまく管理していくという考え方が重要です。
薬物療法
第一選択:抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬は慢性蕁麻疹治療の基本です。ヒスタミンの作用をブロックすることで、かゆみや膨疹を抑えます。
第二世代抗ヒスタミン薬 現在の標準治療では、眠気などの副作用が少ない第二世代抗ヒスタミン薬が推奨されています。
主な薬剤:
- フェキソフェナジン(アレグラ®)
- ロラタジン(クラリチン®)
- エバスチン(エバステル®)
- エピナスチン(アレジオン®)
- ビラスチン(ビラノア®)
- ルパタジン(ルパフィン®)
これらは1日1〜2回の服用で、24時間効果が持続します。
治療のポイント
- 毎日決まった時間に服薬する
- 症状が出た時だけ飲むのではなく、継続して服用する
- 効果が不十分な場合は、用量を増やすことがある(最大で通常量の4倍まで)
- 効果が出るまで数日〜数週間かかることがある
第二選択以降の治療
抗ヒスタミン薬の増量でも効果が不十分な場合、以下の治療が検討されます。
生物学的製剤
- オマリズマブ(ゾレア®):抗IgE抗体薬
- IgEの働きを抑えることで、肥満細胞の活性化を防ぐ
- 月1回の皮下注射
- 重症の慢性蕁麻疹に対して高い効果
- 保険適用あり
免疫抑制薬
- シクロスポリン:重症例で使用されることがある
- 副作用の管理が必要
その他の薬剤
- 抗ロイコトリエン薬:補助的に使用
- H2受容体拮抗薬:抗ヒスタミン薬との併用
- トラネキサム酸:抗プラスミン作用
- グリチルリチン製剤:抗炎症作用
ステロイド薬の使用について
全身性のステロイド薬(内服・注射)は、慢性蕁麻疹の標準治療ではありません。以下の理由があります。
- 長期使用で副作用のリスクが高い
- 中止後に症状が悪化することがある(リバウンド)
- 根本的な治療にはならない
ただし、急性増悪時や症状が非常に強い場合には、短期間に限って使用されることがあります。
治療期間と治療の進め方
**慢性蕁麻疹の治療は長期戦です。**以下のような段階的なアプローチが一般的です。
ステップ1:症状のコントロール(初期治療)
- 抗ヒスタミン薬を標準用量で開始
- 2〜4週間継続
- 症状の変化を観察
ステップ2:治療の調整 効果が不十分な場合:
- 抗ヒスタミン薬の種類を変更
- または用量を増量(最大4倍量まで)
- 他の薬剤の追加を検討
ステップ3:症状が安定した状態の維持
- 症状が落ち着いても、すぐに薬をやめない
- 症状がない状態を3〜6ヶ月維持
- その後、医師の指示のもとで徐々に減量
ステップ4:治療の終了を目指す
- 段階的に薬を減らしていく
- 症状が再燃しないか慎重に観察
- 必要に応じて治療を再開
重要なポイント 症状が改善しても、自己判断で薬を中止すると再燃のリスクが高まります。慢性蕁麻疹は、完全に症状が消失してから数ヶ月〜1年程度の治療継続が推奨されています。
根本原因への対処
原因が特定できた場合は、それに対する治療も並行して行います。
基礎疾患の治療
- 甲状腺疾患:ホルモン補充療法や抗甲状腺薬
- ピロリ菌感染:除菌治療
- 寄生虫感染:駆虫薬
原因物質の除去
- 薬剤性の場合:原因薬剤の中止、代替薬への変更
- 食物性の場合:原因食品の除去
物理性蕁麻疹への対応
- 刺激の回避
- 生活環境の調整
- 予防的な薬物療法
日常生活での対処法と予防策
薬物療法と並行して、日常生活での工夫も症状のコントロールに重要です。
悪化因子の回避
一般的な悪化因子
- 過度の疲労、ストレス
- 睡眠不足
- 過度の飲酒
- 辛い食べ物
- 熱い風呂(40度以上)
- 強い物理的刺激(強く擦る、掻くなど)
- 急激な温度変化
これらを避けることで、症状の悪化を防げます。
食生活の工夫
避けた方が良い可能性のある食品
- ヒスタミンを多く含む食品:古い魚、発酵食品、熟成チーズ、ワイン
- ヒスタミン遊離作用のある食品:チョコレート、トマト、ナス、タケノコ
- 食品添加物の多い加工食品
- 刺激の強い香辛料
- 過度のアルコール
推奨される食生活
- 新鮮な食材を使う
- バランスの良い食事
- 加工食品を控える
- 食物日記をつけて、症状との関連を観察
ただし、過度の食事制限はストレスになり、かえって症状を悪化させることもあります。医師と相談しながら、無理のない範囲で調整しましょう。
スキンケア
皮膚への刺激を最小限に
- 低刺激性の石鹸、ボディソープを使用
- ゴシゴシ洗わない
- 保湿をしっかり行う
- 綿など柔らかい素材の衣服を選ぶ
- 締め付けの強い下着を避ける
かゆみへの対処
- 掻かないよう心がける
- 冷やすと一時的に楽になる
- 爪は短く切っておく
- 就寝時は手袋をするのも一案
ストレス管理
心理的ストレスは症状を悪化させる大きな要因です。
ストレス軽減の方法
- 十分な睡眠時間の確保(7〜8時間)
- 規則正しい生活リズム
- 適度な運動(激しすぎない範囲で)
- リラクゼーション法(深呼吸、瞑想など)
- 趣味や楽しみの時間を持つ
- 人との交流
心のケア 慢性蕁麻疹は見た目にも影響し、精神的な負担が大きい疾患です。
- 症状による不安やストレスは当然のこと
- 一人で抱え込まず、医師や家族に相談する
- 必要に応じて、カウンセリングや心療内科の受診も検討
- 患者会やサポートグループの活用
記録をつける
症状日記の活用 日々の症状と生活の記録をつけることで、悪化因子の特定や治療効果の判定に役立ちます。
記録する内容:
- 症状の有無と程度(0〜10点などで評価)
- 症状が出た時刻と持続時間
- その日の食事内容
- 服薬状況
- 活動内容(運動、入浴など)
- ストレスの有無
- 女性の場合は月経周期
スマートフォンのアプリなども活用できます。
環境の整備
住環境
- 室温を一定に保つ(急激な温度変化を避ける)
- 適度な湿度(50〜60%)を保つ
- ダニやカビの対策
- ペットアレルギーがある場合の対応
職場環境
- 可能であれば、職場の上司や産業医に相談
- 症状を悪化させる業務の調整
- ストレスの多い環境の改善

よくある質問
A: 急性蕁麻疹は数日〜数週間で治ることが多いですが、慢性蕁麻疹の場合は個人差が大きく、数ヶ月〜数年かかることもあります。研究によると、慢性蕁麻疹患者の約50%は1年以内に、約80〜90%は5年以内に症状が消失するとされています。ただし、適切な治療を継続することで、その間も症状をコントロールすることは可能です。
A: 第二世代抗ヒスタミン薬は、長期間使用しても重篤な副作用が少なく、安全性が確立されています。慢性蕁麻疹の治療では、数ヶ月〜数年の長期服用が必要になることもありますが、医師の管理下であれば問題ありません。ただし、定期的に受診して、薬の効果や副作用をチェックすることは重要です。
Q3: 蕁麻疹が出たときは病院に行くべきですか?
A: 以下のような場合は、すぐに医療機関を受診してください。
- 呼吸困難、のどの違和感(アナフィラキシーの可能性)
- 顔面や唇の腫れが強い
- 全身に広がる激しい症状
- 初めての蕁麻疹
- 数日経っても改善しない
- 繰り返し症状が出る
軽症の場合でも、症状が繰り返す場合は慢性蕁麻疹の可能性があるため、一度皮膚科を受診することをお勧めします。
Q4: 食物アレルギーの検査を受けるべきですか?
A: 慢性蕁麻疹の場合、食物が直接の原因となっていることは少ないため、闇雲にアレルギー検査を行う必要はありません。ただし、特定の食品を食べた後に明らかに症状が悪化する場合は、検査を検討する価値があります。医師と相談して、症状の経過や食事との関連を評価してから、必要に応じて検査を受けるのが良いでしょう。
Q5: ストレスだけで蕁麻疹が出ることはありますか?
A: ストレスそのものが蕁麻疹の直接の原因となることは稀ですが、ストレスは症状を悪化させる重要な要因です。ストレスにより自律神経のバランスが崩れ、免疫機能が変調することで、蕁麻疹が出やすくなったり、症状が強くなったりします。心理的なケアも含めた総合的な治療が有効です。
Q6: 漢方薬は効果がありますか?
A: 一部の漢方薬は蕁麻疹の治療に用いられることがあります。例えば、十味敗毒湯、消風散、当帰飲子などが使用されます。ただし、漢方薬も万能ではなく、効果には個人差があります。また、抗ヒスタミン薬との併用が基本となります。漢方薬を希望する場合は、漢方に詳しい医師に相談しましょう。
Q7: 妊娠中でも治療は可能ですか?
A: 妊娠中や授乳中でも使用できる抗ヒスタミン薬があります。蕁麻疹を我慢し続けることは精神的にも良くないため、妊娠の可能性がある場合や妊娠中の場合は、必ず医師に伝えて、安全な薬を処方してもらいましょう。多くの第二世代抗ヒスタミン薬は妊娠中も比較的安全に使用できるとされています。
Q8: 生活習慣で特に気をつけることは?
A: 以下の点に気をつけると良いでしょう。
- 十分な睡眠(7〜8時間)
- 規則正しい生活リズム
- 過度の疲労を避ける
- ストレス管理
- バランスの良い食事
- 適度な運動(激しすぎない)
- 禁煙、節酒
- 入浴は温めのお湯で
これらは蕁麻疹だけでなく、全体的な健康維持にも重要です。
Q9: 子どもにも慢性蕁麻疹はありますか?
A: 子どもでも慢性蕁麻疹は発症しますが、成人に比べると頻度は低いとされています。子どもの蕁麻疹は感染症に伴うものが多く、感染症が治ると蕁麻疹も自然に治ることが多いです。ただし、症状が長引く場合は小児科や小児皮膚科で適切な診断と治療を受けることが大切です。
Q10: 蕁麻疹は人にうつりますか?
A: 蕁麻疹は感染症ではないため、人にうつることはありません。家族や周囲の人に気兼ねなく、安心して日常生活を送ってください。ただし、感染症が原因の蕁麻疹の場合、その感染症自体がうつる可能性はあります。
専門医への相談のタイミング
以下のような場合は、専門医(皮膚科)への相談をお勧めします。
必ず受診すべきケース
- 呼吸困難やのどの違和感を伴う(緊急性あり)
- 顔面や唇が大きく腫れる
- 全身症状を伴う(発熱、倦怠感、関節痛など)
- 24時間以上膨疹が消えない
- 内出血のような紫色の変化がある
早めに受診した方が良いケース
- 蕁麻疹が2週間以上続いている
- 市販薬を使っても改善しない
- 症状が頻繁に繰り返す
- 日常生活に支障が出ている
- 不安やストレスが強い
専門医(皮膚科)を選ぶポイント
- 慢性蕁麻疹の治療経験が豊富
- 丁寧な問診と説明をしてくれる
- 長期的な治療計画を立ててくれる
- 新しい治療法にも対応している
- 必要に応じて他科との連携ができる
セカンドオピニオンを求めることも選択肢の一つです。治療に疑問がある場合や、症状が改善しない場合は、別の医師の意見を聞くことも検討しましょう。
まとめ:蕁麻疹と上手に付き合うために
蕁麻疹が治らないと感じている方へ、最後に重要なポイントをまとめます。
慢性蕁麻疹の理解
- 慢性蕁麻疹は珍しくない疾患です 決して特殊な病気ではなく、適切な治療で症状はコントロール可能です。
- 原因が特定できないことが多い 原因不明でも治療は可能です。原因探しにとらわれすぎないことも大切です。
- 治療には時間がかかります 数ヶ月〜数年の治療が必要なこともありますが、多くの場合最終的には改善します。
治療のポイント
- 薬は指示通りに継続する 症状が改善しても自己判断で中止せず、医師の指示に従いましょう。
- 定期的に受診する 症状の変化を医師と共有し、治療を調整していくことが重要です。
- 複数の選択肢があります 抗ヒスタミン薬が効かない場合も、他の治療法があります。諦めずに医師と相談を。
生活での工夫
- 悪化因子を避ける 疲労、ストレス、刺激物など、自分の悪化因子を知り、避ける努力を。
- 規則正しい生活を心がける 睡眠、食事、運動のバランスが症状の安定につながります。
- 記録をつける 症状日記は自己管理と医師とのコミュニケーションに役立ちます。
心のケア
- 一人で抱え込まない 症状による不安やストレスは、医師や家族、友人に相談しましょう。
- 生活の質を大切に 蕁麻疹があっても、できるだけ普段通りの生活を送ることを目指しましょう。
- 前向きな気持ちを持つ 多くの慢性蕁麻疹は時間とともに改善します。希望を持って治療に取り組みましょう。
参考文献
本記事の作成にあたり、以下の信頼できる情報源を参考にしました。
- 日本皮膚科学会「蕁麻疹診療ガイドライン」
https://www.dermatol.or.jp/ - 日本アレルギー学会
https://www.jsaweb.jp/ - 厚生労働省「蕁麻疹に関する情報」
https://www.mhlw.go.jp/ - 国立研究開発法人 国立成育医療研究センター「アレルギー疾患情報」
https://www.ncchd.go.jp/ - 一般社団法人 日本臨床皮膚科医会
https://www.jocd.org/
※本記事は医学的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療の代わりとなるものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務