はじめに
鏡を見るたびに「あれ、こんなところにほくろあったかな?」と感じたことはありませんか。気づいたら顔や体にほくろが増えていて、不安になる方も多いのではないでしょうか。
ほくろが増えることは、実は多くの人が経験する自然な現象です。しかし、中には注意が必要なほくろもあります。この記事では、ほくろが増える原因から、注意すべきサイン、そして適切な対処法まで、皮膚科医の視点から詳しく解説していきます。

ほくろとは何か
ほくろの医学的定義
ほくろは、医学用語では「色素性母斑(しきそせいぼはん)」または「母斑細胞性母斑」と呼ばれます。皮膚の中でメラニン色素を作る細胞(メラノサイト)や、その細胞が変化した母斑細胞が増殖し、一か所に集まることでできる良性の腫瘍です。
ほくろは通常、黒色や茶色をしており、平らなものから盛り上がったものまで、さまざまな形状があります。大きさも1mm程度の小さなものから、数cm以上の大きなものまで多様です。
ほくろができるメカニズム
私たちの皮膚には、メラニン色素を作るメラノサイトという細胞が存在します。このメラノサイトが何らかの原因で一か所に集まり、増殖することでほくろができます。
ほくろは皮膚の構造の中で、できる位置によって3つに分類されます。
境界母斑:表皮と真皮の境界部分にできるほくろで、平らで黒っぽい色をしています。
複合母斑:境界部分と真皮の両方に母斑細胞がある状態で、やや盛り上がっていることが多いです。
真皮内母斑:真皮の中に母斑細胞があるもので、ドーム状に盛り上がり、色は茶色や肌色に近いこともあります。
ほくろが増える主な原因
1. 紫外線の影響
ほくろが増える最も大きな原因の一つが紫外線です。紫外線を浴びると、皮膚を守るためにメラノサイトがメラニン色素を生成します。この過程で、メラノサイトが刺激を受けて増殖し、ほくろができやすくなります。
特に、幼少期から思春期にかけて強い紫外線を浴びた経験がある人は、大人になってからほくろが増えやすい傾向にあります。日焼けを繰り返すことで、皮膚の中でメラノサイトが活性化し、新しいほくろが次々とできる原因となります。
海や山でのレジャー、屋外スポーツなどで長時間日光を浴びる機会が多い方は、特に注意が必要です。また、日常生活での通勤や買い物など、短時間でも紫外線を浴びる積み重ねが、ほくろの増加につながることもあります。
2. 遺伝的要因
ほくろのできやすさには、遺伝的な要素も大きく関わっています。両親にほくろが多い場合、その子どもにもほくろができやすい体質が受け継がれることがあります。
これは、メラノサイトの活性度や数、紫外線への感受性などが遺伝的に決定される部分があるためです。家族にほくろが多い人がいる場合は、自分自身もほくろができやすい体質である可能性を考慮して、早めの紫外線対策を心がけることが大切です。
3. ホルモンバランスの変化
女性の場合、ホルモンバランスの変化がほくろの増加に影響することがあります。特に以下のようなタイミングでほくろが増えやすくなります。
思春期:成長ホルモンや性ホルモンの分泌が盛んになる思春期は、メラノサイトの活動も活発になり、ほくろが増えやすい時期です。
妊娠・出産期:妊娠中はエストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンが大量に分泌されます。これらのホルモンはメラニン色素の生成を促進するため、既存のほくろが濃くなったり、新しいほくろができたりすることがあります。
更年期:更年期のホルモンバランスの変化も、ほくろの状態に影響を与えることがあります。
4. 加齢による変化
年齢を重ねることで、ほくろが増えることは自然な現象です。長年にわたって蓄積された紫外線のダメージや、皮膚の老化に伴うメラノサイトの変化が、ほくろの増加につながります。
特に40代以降になると、これまでに浴びた紫外線の影響が徐々に表れ、新しいほくろができることが増えてきます。また、年齢とともに「老人性色素斑」と呼ばれるシミも増えてきますが、これは厳密にはほくろとは異なるものです。
5. ストレスや生活習慣
過度のストレスや不規則な生活習慣も、間接的にほくろの増加に影響を与える可能性があります。
ストレスはホルモンバランスを乱し、自律神経の働きにも影響します。これにより、メラノサイトの活動が変化し、ほくろができやすくなることがあります。
また、睡眠不足や偏った食生活は、肌のターンオーバー(新陳代謝)を乱します。正常な肌の再生サイクルが崩れると、メラニン色素の排出がうまくいかず、色素沈着が起こりやすくなります。
6. 摩擦や刺激
繰り返し同じ部位に摩擦や刺激が加わると、その部分にほくろができやすくなることがあります。
例えば、下着のゴムが当たる部分、ベルトでこすれる腰回り、バッグの持ち手が当たる肩や腕などは、慢性的な刺激を受けやすい場所です。このような継続的な刺激により、メラノサイトが活性化し、ほくろができることがあります。
また、カミソリでの除毛や、強くこするような洗顔方法なども、皮膚への刺激となり、ほくろの原因になる可能性があります。
ほくろの種類と特徴
ほくろにはさまざまな種類があり、それぞれ特徴が異なります。自分のほくろがどのタイプなのかを知ることで、適切な対処ができるようになります。
先天性色素性母斑
生まれつきある、または生後すぐにできるほくろです。大きさはさまざまで、小さなものから体表の広い範囲を占める巨大なものまであります。
小型のもの(直径1.5cm未満)は経過観察で問題ないことが多いですが、大型のもの(直径20cm以上)は、まれに悪性化するリスクがあるため、定期的な観察が必要です。
後天性色素性母斑
生まれた後にできるほくろで、最も一般的なタイプです。主に紫外線の影響やホルモンの変化、加齢などが原因でできます。
多くの人が持っているほくろはこのタイプで、通常は良性で問題ありません。ただし、急激に変化するものや、形が不規則なものには注意が必要です。
単純黒子(たんじゅんこくし)
平らで小さな(通常2~3mm以下)黒っぽいほくろです。境界母斑の一種で、表皮と真皮の境界部分にメラノサイトが集まってできます。
顔や体のどこにでもできる可能性があり、数が多い人もいます。基本的には良性ですが、まれに変化することもあるため、定期的な観察が推奨されます。
Spitz母斑(スピッツぼはん)
子どもや若い人に多く見られる、ピンク色や赤褐色をしたほくろです。急速に大きくなることがありますが、多くは良性です。
ただし、見た目が悪性黒色腫(メラノーマ)と似ていることがあるため、専門医による正確な診断が必要です。
青色母斑
青っぽく見えるほくろで、真皮の深い部分にメラノサイトが存在するために青く見えます。これは光の散乱によって起こる現象で、墨を入れたような青灰色に見えることもあります。
通常は良性ですが、まれに悪性化する「悪性青色母斑」もあるため、急に大きくなったり変化したりする場合は受診が必要です。
爪のほくろ(爪甲色素線条)
爪に縦の黒い線として現れるほくろです。多くは良性ですが、爪のメラノーマである可能性もあるため、幅が広くなる、色が濃くなる、爪の周囲の皮膚にも色素が広がる(Hutchinson徴候)などの変化がある場合は、早めに皮膚科を受診する必要があります。
注意すべきほくろの特徴
ほとんどのほくろは良性で心配ありませんが、中には悪性化のリスクがあるものや、既に悪性黒色腫(メラノーマ)である可能性があるものもあります。以下のような特徴があるほくろは、早めに皮膚科専門医の診察を受けることをお勧めします。
ABCDEルール
メラノーマを見分けるための国際的な基準として「ABCDEルール」があります。
A(Asymmetry:非対称性) 良性のほくろは左右対称ですが、メラノーマは形が非対称で不規則なことが多いです。
B(Border:境界) 良性のほくろは境界がはっきりしていますが、メラノーマは境界が不明瞭でギザギザしていることがあります。
C(Color:色) 良性のほくろは均一な色ですが、メラノーマは濃淡が混在し、黒、茶色、赤、白、青などさまざまな色が混ざっていることがあります。
D(Diameter:直径) 直径6mm以上のほくろは注意が必要です。ただし、6mm以下でもメラノーマの可能性はあります。
E(Evolving:変化) 短期間で大きさ、形、色が変化するほくろは要注意です。
その他の警戒すべきサイン
急速な成長:数週間から数か月で明らかに大きくなるほくろ
出血や滲出液:特にぶつけたりしていないのに出血したり、じくじくと液体が出たりする
かゆみや痛み:継続的なかゆみや痛みを伴うほくろ
周囲の皮膚の変化:ほくろの周りが赤くなったり、腫れたりする
表面の変化:滑らかだった表面がカサカサになったり、ただれたりする
突然できた新しいほくろ:特に50歳以降に新しくできた大きなほくろは注意が必要
ほくろとメラノーマ(悪性黒色腫)の違い
メラノーマは皮膚がんの一種で、メラノサイトが悪性化したものです。日本人では年間10万人あたり1~2人程度の発症率ですが、早期発見が非常に重要ながんです。
メラノーマの特徴
メラノーマは、前述のABCDEルールに該当する特徴を持つことが多いです。特に以下の点に注意してください。
色の濃淡が激しい:黒、茶色、赤、白、青などが混在する
形が不規則:左右非対称で、境界がギザギザしている
急速に変化する:数か月で明らかに大きくなる、形が変わる
表面に変化がある:ただれ、出血、かさぶたができるなど
盛り上がってくる:平らだったものが突然盛り上がってくる
日本人に多いメラノーマの部位
欧米人では体幹や四肢にメラノーマができやすいのに対し、日本人を含むアジア人では以下の部位に多く見られます。
足の裏:最も多い発症部位です。特にかかとや土踏まずに注意が必要です。
手のひら:手のひらにできるメラノーマも見られます。
爪:爪に縦の黒い線ができ、徐々に太くなったり周囲に広がったりする場合は要注意です。
粘膜:口の中や鼻の中、外陰部などの粘膜にもできることがあります。
これらの部位は日常的に観察しにくい場所も多いため、定期的に自己チェックすることが大切です。
メラノーマと良性ほくろの見分け方
一般の方がメラノーマと良性のほくろを完全に見分けることは困難です。しかし、以下のポイントを押さえておくことで、「おかしいな」と気づくことができます。
変化の速度:良性のほくろは何年もかけてゆっくり変化しますが、メラノーマは数か月単位で変化することが多いです。
年齢と発症部位:中高年以降に足の裏や爪に新しくできたほくろは、特に注意が必要です。
症状の有無:良性のほくろは通常無症状ですが、メラノーマはかゆみや痛み、出血を伴うことがあります。
少しでも不安がある場合は、自己判断せず、必ず皮膚科専門医の診察を受けることをお勧めします。
ほくろが増えたときの対処法
ほくろが増えてきたと感じたとき、どのように対処すればよいのでしょうか。状況に応じた適切な対応方法をご紹介します。
自己チェックの方法
まずは自分でほくろの状態を確認することが大切です。以下の方法で定期的にチェックしましょう。
全身の観察 明るい場所で、鏡を使って全身のほくろをチェックします。背中など見にくい部分は、手鏡を併用するか、家族に協力してもらいましょう。スマートフォンで写真を撮っておくと、変化を比較しやすくなります。
記録をつける 気になるほくろは、サイズ、色、形を記録しておきます。定期的に写真を撮って日付とともに保存しておくと、変化の有無を客観的に判断できます。
チェックの頻度 一般的には3か月に1回程度の自己チェックが推奨されます。ただし、気になるほくろがある場合は、もっと頻繁にチェックしても構いません。
皮膚科を受診すべきタイミング
以下のような場合は、早めに皮膚科専門医を受診することをお勧めします。
急速に変化しているほくろがある 数週間から数か月で明らかに大きくなった、色が変わった、形が変わったなどの変化がある場合。
ABCDEルールに該当するほくろがある 前述の非対称性、境界の不明瞭さ、色のムラ、大きさ、変化などの特徴があるほくろ。
症状を伴うほくろがある かゆみ、痛み、出血、滲出液などの症状があるほくろ。
短期間でほくろが急に増えた 数か月の間に複数の新しいほくろができた場合。特に中高年以降の場合は注意が必要です。
見た目が気になるほくろがある 美容的な理由でも、ほくろの除去は可能です。顔の目立つ場所にあるほくろなど、気になる場合は相談してみましょう。
皮膚科での診察内容
皮膚科を受診すると、以下のような診察が行われます。
問診 いつからあるほくろか、最近変化があったか、症状はあるかなどを詳しく聞かれます。
視診 医師が肉眼でほくろの状態を詳しく観察します。
ダーモスコピー検査 特殊な拡大鏡を使って、ほくろの内部構造を詳しく観察します。この検査により、良性か悪性かの判断がより正確にできます。痛みはなく、数分で終わる検査です。
必要に応じた検査 悪性が疑われる場合は、一部を切除して病理検査(組織検査)を行うこともあります。
受診時に伝えるべきこと
皮膚科を受診する際は、以下の情報を医師に伝えると、より正確な診断に役立ちます。
- ほくろがいつからあるか
- 最近の変化の有無と時期
- かゆみや痛みなどの症状
- 家族にほくろが多い人やメラノーマの人がいるか
- 日焼けしやすい体質か
- 過去の日焼けの経験
心配なほくろの写真を時系列で撮ってあれば、受診時に持参すると変化の様子を医師に見せることができます。
ほくろを増やさないための予防方法
すでにあるほくろをなくすことはできませんが、新しいほくろができるのを予防したり、既存のほくろの悪化を防いだりすることは可能です。日々の生活習慣を見直すことで、ほくろの増加を抑えることができます。
紫外線対策の徹底
ほくろの予防において最も重要なのが紫外線対策です。以下の方法を組み合わせて、効果的に紫外線から肌を守りましょう。
日焼け止めの使用 毎日、季節を問わず日焼け止めを使用します。SPF30以上、PA+++以上のものを選び、2~3時間おきに塗り直すことが理想です。顔だけでなく、首、手の甲、腕など露出する部分すべてに塗りましょう。
衣服による保護 長袖の服や帽子、日傘などを活用します。最近ではUVカット機能のある衣類も多く販売されています。特に子どもの頃からの紫外線対策が重要なので、お子さんにも徹底させましょう。
サングラスの着用 目から入る紫外線も、体内でメラニン色素の生成を促すという研究があります。UVカット機能のあるサングラスを着用することも効果的です。
時間帯の配慮 紫外線が最も強い10時から14時の時間帯は、できるだけ外出を避けるか、日陰を選んで歩くようにしましょう。
日焼けサロンの利用を避ける 人工的な紫外線も天然の紫外線と同様に、ほくろの増加やメラノーマのリスクを高めます。美容目的でも日焼けサロンの利用は控えましょう。
スキンケアの見直し
適切なスキンケアは、肌のバリア機能を保ち、紫外線ダメージから肌を守ることにつながります。
優しい洗顔 ゴシゴシと強くこする洗顔は、肌への刺激となります。たっぷりの泡で優しく洗い、ぬるま湯で丁寧にすすぎましょう。
十分な保湿 肌が乾燥すると、バリア機能が低下し、紫外線のダメージを受けやすくなります。化粧水と乳液やクリームで、しっかりと保湿しましょう。
ビタミンC配合化粧品の使用 ビタミンCには、メラニン色素の生成を抑える働きがあります。ビタミンC誘導体配合の化粧品を日常的に使用することで、ほくろやシミの予防に役立ちます。
生活習慣の改善
健康的な生活習慣は、肌の健康を保ち、ほくろの増加を抑えることにつながります。
バランスの良い食事 ビタミンA、C、Eなどの抗酸化ビタミンを含む食品を積極的に摂取しましょう。緑黄色野菜、果物、ナッツ類などがお勧めです。これらの栄養素は、紫外線による酸化ストレスから肌を守る働きがあります。
十分な睡眠 睡眠中に成長ホルモンが分泌され、肌の修復が行われます。質の良い睡眠を7~8時間確保することで、肌のターンオーバーが正常に保たれます。
ストレス管理 過度のストレスはホルモンバランスを乱し、メラニン色素の生成に影響します。適度な運動や趣味の時間を持つなど、ストレスを溜めない工夫をしましょう。
禁煙 喫煙は肌の老化を促進し、血行を悪くします。肌の健康のためにも禁煙をお勧めします。
摩擦や刺激を避ける
日常生活での慢性的な摩擦や刺激を減らすことも大切です。
衣類の選び方 きつすぎる下着やベルトは避け、肌に優しい素材の衣類を選びましょう。
除毛方法の見直し カミソリでの除毛は肌への刺激が強いため、電気シェーバーや除毛クリームなど、より肌に優しい方法を検討しましょう。
タオルの使い方 入浴後、タオルでゴシゴシと拭くのではなく、優しく押さえるようにして水分を取りましょう。
ほくろの治療方法
気になるほくろや、医学的に除去が推奨されるほくろについては、適切な治療を受けることができます。ここでは、主なほくろの治療方法について解説します。
外科的切除
メスを使ってほくろとその周囲の皮膚を紡錘形(ぼうすいけい)に切り取り、縫い合わせる方法です。
適応 悪性が疑われるほくろ、大きなほくろ、盛り上がったほくろなどに適しています。
メリット
- ほくろ全体を完全に除去できる
- 切除したほくろを病理検査に出せるため、確実な診断ができる
- 再発のリスクが低い
デメリット
- 手術跡として線状の傷が残る
- 抜糸が必要(通常1~2週間後)
- ダウンタイムがやや長い
術後の経過 傷が治るまでに1~2週間程度かかります。その後、傷跡は徐々に目立たなくなっていきますが、完全に落ち着くまでには数か月から1年程度かかることもあります。
くり抜き法
小さなほくろに対して、パンチのような器具を使ってほくろを円形にくり抜く方法です。
適応 小さなほくろ(直径5mm以下程度)に適しています。特に鼻や口の周りなど、通常の切除では傷跡が目立ちやすい部位に用いられることがあります。
メリット
- 小さなほくろを効率的に除去できる
- 場合によっては縫合せず自然治癒に任せることもできる
デメリット
- 円形の傷跡が残る
- 大きなほくろには向かない
レーザー治療
レーザーを照射してほくろの色素を破壊する方法です。主に炭酸ガスレーザーやQスイッチレーザーが使用されます。
適応 小さくて平らなほくろ、または若干盛り上がった程度のほくろに適しています。美容目的で小さなほくろを複数除去したい場合にも選ばれます。
メリット
- 傷跡が比較的目立ちにくい
- 短時間で複数のほくろを処置できる
- ダウンタイムが短い
デメリット
- ほくろが深い場合、完全に除去できないことがある
- 再発の可能性がある
- 病理検査ができないため、悪性の可能性がある場合は適さない
- 一時的に色素沈着が起こることがある
術後の経過 照射後は軽いやけどのような状態になります。通常は数日でかさぶたができ、1~2週間程度で自然に剥がれます。その後、赤みが数週間から数か月続くことがありますが、徐々に薄くなっていきます。
電気分解法(電気凝固法)
電気メスを使ってほくろを焼灼する方法です。
適応 小さくて盛り上がったほくろに適しています。
メリット
- 比較的短時間で処置が終わる
- 出血が少ない
デメリット
- 深いほくろの場合、再発の可能性がある
- 傷跡が残ることがある
- 病理検査ができない
凍結療法
液体窒素を使ってほくろを凍結し、破壊する方法です。ただし、この方法はほくろ治療としてはあまり一般的ではなく、主にイボの治療に用いられます。
治療方法の選択
どの治療方法が適しているかは、ほくろの種類、大きさ、場所、悪性の可能性などによって異なります。また、美容的な仕上がりを重視するか、確実性を重視するかによっても選択が変わります。
必ず皮膚科専門医と相談し、自分の状況に最も適した方法を選択することが大切です。
保険適用について
ほくろの治療は、医学的な理由がある場合には保険が適用されます。
保険適用となるケース
- 悪性の疑いがあるほくろ
- 日常生活に支障をきたすほくろ(衣服にこすれて出血する、視界を妨げるなど)
- 炎症を起こしているほくろ
自費診療となるケース
- 美容目的のほくろ除去
- レーザー治療(多くの場合)
費用は治療方法やほくろの大きさ、個数によって異なるため、事前に医療機関に確認することをお勧めします。
治療後の注意点
ほくろを除去した後は、以下の点に注意して過ごしましょう。
紫外線対策 治療後の皮膚は非常にデリケートです。傷が治るまでは特に厳重に紫外線対策を行い、色素沈着を防ぎましょう。
傷の管理 医師の指示に従って、軟膏を塗ったり、ガーゼで保護したりします。無理に触ったり、かさぶたを剥がしたりしないようにしましょう。
経過観察 治療後も定期的に経過を観察します。特に悪性の可能性があった場合は、再発の有無を確認するため、定期的な通院が必要です。
年代別のほくろケア
年齢によって、ほくろができる原因や対処法も変わってきます。年代別の特徴と注意点を見ていきましょう。
10代~20代
この年代は、思春期のホルモンバランスの変化や、部活動やレジャーなどで紫外線を浴びる機会が多いことから、ほくろができやすい時期です。
この年代のポイント
- 若いうちからの紫外線対策が、将来のほくろやシミを予防します
- 学校生活や部活動で屋外にいる時間が長い場合は、特に入念な日焼け止めの使用を
- 新しくできたほくろは自然な変化であることがほとんどですが、急激に変化するものは注意が必要
- 見た目が気になるほくろは、早めに相談することで適切な治療を受けられます
30代~40代
妊娠・出産を経験する女性は、ホルモンの影響でほくろが増えたり濃くなったりすることがあります。また、これまでに浴びた紫外線の影響が徐々に表れ始める時期でもあります。
この年代のポイント
- 妊娠中にできたほくろは、出産後に自然に薄くなることもあります
- ただし、変化が激しい場合や気になる場合は、皮膚科を受診しましょう
- 仕事や育児で忙しくても、日焼け止めなどの基本的なケアは継続を
- この年代から、定期的な全身のほくろチェックを習慣にすることをお勧めします
50代以降
加齢に伴い、新しいほくろができたり、既存のほくろが変化したりすることがあります。また、ほくろと間違えやすい「老人性色素斑」も増えてきます。
この年代のポイント
- 新しくできた大きなほくろや、急激に変化するほくろには特に注意が必要
- メラノーマのリスクが高まる年代なので、定期的な皮膚科検診を検討しましょう
- 足の裏や爪など、見落としやすい部位も忘れずにチェックを
- 老人性色素斑(シミ)とほくろの区別が難しい場合は、専門医に相談しましょう

よくある質問
ほくろのできやすさには遺伝的要素があります。両親にほくろが多い場合、その子どもにもほくろができやすい体質が受け継がれる可能性があります。ただし、具体的なほくろの位置や数が遺伝するわけではありません。
Q2. ほくろは自分で取ってもいいですか?
絶対にやめてください。自己流でほくろを取ろうとすると、以下のような危険があります。
- 感染症のリスク
- 深い傷跡が残る可能性
- 悪性のほくろだった場合、適切な治療が遅れる
- 不完全な除去により、かえって目立つ傷になる
ほくろを除去したい場合は、必ず皮膚科専門医を受診してください。
Q3. ほくろから毛が生えていますが、抜いても大丈夫ですか?
ほくろから生えている毛を抜くことは、あまりお勧めできません。繰り返し抜くことで、ほくろに刺激を与え、炎症を起こす可能性があります。どうしても気になる場合は、根元から抜くのではなく、ハサミで切ることをお勧めします。
医療機関でほくろを除去すれば、毛も一緒になくなります。気になる場合は、ほくろの除去を検討するとよいでしょう。
Q4. ほくろが増えるのは病気のサインですか?
多くの場合、ほくろが増えることは正常な生理現象です。ただし、以下のような場合は医療機関を受診することをお勧めします。
- 短期間(数週間から数か月)に急激にほくろが増えた
- 50歳以降に新しく大きなほくろができた
- ほくろの変化が激しい
- 全身症状(体重減少、疲労感など)を伴う
Q5. 妊娠中にできたほくろは消えますか?
妊娠中にホルモンの影響でできたほくろや、濃くなったほくろは、出産後に自然に薄くなることがあります。ただし、完全に消えるわけではないことも多いです。
妊娠中にできたほくろでも、急速に変化する場合や気になる特徴がある場合は、産婦人科医や皮膚科医に相談しましょう。
Q6. 子どもにほくろが増えてきたのですが、大丈夫でしょうか?
成長期の子どもは、ほくろが増えやすい時期です。多くの場合は正常な変化ですが、以下のような場合は小児科または皮膚科を受診しましょう。
- 生まれつきの大きなほくろ(直径1.5cm以上)がある
- ほくろが急速に変化している
- ほくろから出血したり、痛みがあったりする
子どもの頃からの紫外線対策が、将来のほくろやメラノーマの予防につながるため、日焼け止めの習慣をつけることが大切です。
Q7. ほくろ除去後、また同じ場所にできることはありますか?
治療方法によって再発率は異なります。外科的切除では再発のリスクは低いですが、レーザー治療などでは、ほくろの根が深く完全に除去できなかった場合、再発することがあります。
再発した場合は、再度治療を行うことができます。再発を防ぐためには、最初の治療時に適切な方法を選択することが重要です。
Q8. ほくろとシミの違いは何ですか?
ほくろは母斑細胞が集まってできたもので、通常は盛り上がっているか、境界がはっきりしています。一方、シミ(老人性色素斑)は、紫外線の影響でメラニン色素が沈着したもので、平らで境界がやや不明瞭なことが多いです。
見た目では判断が難しい場合もあるため、気になる場合は皮膚科医に診てもらうことをお勧めします。
まとめ
ほくろが増えることは、多くの場合、自然な生理現象です。紫外線、遺伝、ホルモンバランス、加齢など、さまざまな要因が関係しています。
大切なポイント
- 紫外線対策が最も重要:日焼け止め、帽子、日傘などを活用し、日頃から紫外線から肌を守りましょう
- 定期的な自己チェック:3か月に1回程度、全身のほくろをチェックする習慣をつけましょう
- ABCDEルールを覚える:メラノーマを見逃さないための重要なサインです
- 変化に気づいたら早めに受診:ほくろの急激な変化や気になる症状があれば、自己判断せず皮膚科医を受診しましょう
- 適切な治療法を選択:ほくろの除去を希望する場合は、医師と相談して最適な方法を選びましょう
ほとんどのほくろは良性で心配ありませんが、中には注意が必要なものもあります。日常的なケアと観察を怠らず、気になることがあれば、遠慮なく専門医に相談することが大切です。
アイシークリニック上野院では、ほくろに関するご相談から診断、治療まで、専門医が丁寧に対応いたします。ほくろについて不安なことや疑問がございましたら、お気軽にご相談ください。
参考文献
本記事の作成にあたり、以下の信頼できる医療機関・学会の情報を参考にしました。
- 日本皮膚科学会 https://www.dermatol.or.jp/ 皮膚科専門医による最新の医学情報と診療ガイドライン
- 国立がん研究センター がん情報サービス – 皮膚がん https://ganjoho.jp/public/cancer/melanoma/index.html メラノーマ(悪性黒色腫)に関する詳細な情報
- 日本臨床皮膚科医会 https://www.jocd.org/ 一般向けの皮膚疾患に関する情報提供
- 厚生労働省 – 紫外線環境保健マニュアル https://www.env.go.jp/chemi/matsigaisen2020/ 紫外線対策に関する公的な指針
※ 本記事の内容は2025年1月時点の医学的知見に基づいています。医療は日々進歩していますので、実際の診断や治療については、必ず医療機関を受診し、専門医の診察を受けてください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務