はじめに
「りんご病」という名前を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。お子さんの頬が真っ赤になり、まるでりんごのように見えることから、この親しみやすい名前で呼ばれていますが、正式には「伝染性紅斑」という感染症です。
主に春から初夏にかけて流行し、保育園や幼稚園、小学校などで集団発生することもあります。多くの場合は軽症で自然に治癒しますが、妊婦さんや特定の基礎疾患をお持ちの方にとっては注意が必要な病気でもあります。
本記事では、りんご病について、その原因から症状、診断、治療、予防法まで、医学的に正確な情報をわかりやすくお伝えします。お子さんをお持ちの保護者の方はもちろん、妊娠中の方やこれから妊娠を考えている方にも、ぜひ知っておいていただきたい内容です。

りんご病とは
基本情報
りんご病(伝染性紅斑、英名:Erythema infectiosum)は、ヒトパルボウイルスB19(Human Parvovirus B19)というウイルスによって引き起こされる感染症です。主に小児に発症し、特に4歳から10歳くらいの学童期の子どもに多く見られます。
この病気の最も特徴的な症状は、両頬に現れる鮮やかな紅斑(赤い発疹)です。この紅斑がりんごのように見えることから「りんご病」という通称が定着しました。医学的には「蝶翼状紅斑」とも呼ばれ、両頬の赤みが蝶が羽を広げたような形に見えることもあります。
疫学的特徴
りんご病は世界中で見られる感染症で、日本では春から初夏(3月から6月頃)に流行のピークを迎える傾向があります。ただし、一年を通じて散発的に発生することもあります。
国立感染症研究所の調査によると、日本では数年おきに大きな流行が見られることが報告されています。流行年には、保育園や幼稚園、小学校などの集団生活の場で感染が広がりやすくなります。
成人の約半数は既にこのウイルスに対する抗体を持っているとされており、過去に感染したことがある場合は基本的に再感染しません。つまり、一度罹患すると終生免疫が得られるとされています。
原因:ヒトパルボウイルスB19
ウイルスの特徴
りんご病の原因であるヒトパルボウイルスB19は、パルボウイルス科に属する小型のDNAウイルスです。このウイルスは人間のみに感染し、犬や猫などの動物には感染しません(動物に感染する「犬パルボウイルス」などとは別のウイルスです)。
ウイルスの直径は約20ナノメートルと非常に小さく、遺伝子情報もシンプルな構造をしています。このウイルスは特に赤血球の前駆細胞(赤血球になる前の細胞)に親和性が高く、骨髄で増殖する特性があります。
感染経路
りんご病の主な感染経路は以下の通りです。
飛沫感染
最も一般的な感染経路です。感染者の咳やくしゃみ、会話によって飛び散る飛沫(つば)に含まれるウイルスを吸い込むことで感染します。特に潜伏期間の後半から、発疹が出る前の時期に最も感染力が強いとされています。
接触感染
感染者が触れたものにウイルスが付着し、それを別の人が触り、その手で口や鼻、目などの粘膜に触れることで感染することもあります。おもちゃやドアノブ、手すりなどを介した感染も考えられます。
母子感染(垂直感染)
妊娠中の母親が感染すると、胎盤を通じて胎児に感染する可能性があります。これについては後ほど詳しく説明します。
血液を介した感染
非常にまれですが、輸血や血液製剤を介して感染する可能性も理論上は存在します。ただし、現在は献血血液のスクリーニングが行われているため、このルートでの感染はほとんど報告されていません。
潜伏期間
ウイルスに感染してから症状が現れるまでの潜伏期間は、通常4日から14日程度とされていますが、一般的には10日から20日程度と幅があります。
重要なポイントは、発疹が出る前の風邪様症状がある時期に最も感染力が強いということです。つまり、りんご病だと分かる特徴的な頬の赤みが出た時点では、すでに感染力はほとんどなくなっているのです。このため、発疹が出てから登園・登校を制限しても、感染拡大の予防効果は限定的となります。
症状
典型的な経過
りんご病の症状は、以下のような段階を経て進行します。
第1期:前駆症状(発疹出現の7〜10日前)
この時期には、発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感、鼻水、咽頭痛など、風邪によく似た症状が現れます。ただし、これらの症状は軽度であることが多く、気づかないこともあります。または全く前駆症状がないケースもあります。
発熱は通常、微熱程度(37〜38度程度)で、高熱になることは少ないです。この時期にウイルスの排出が最も多く、感染力が最も強い時期となります。
第2期:顔面の紅斑(発疹の第1段階)
前駆症状から数日後、突然、両頬に鮮明な紅色の発疹が現れます。これがりんご病の最も特徴的な症状です。発疹は境界がはっきりしており、やや盛り上がった感じになります。鼻と口の周囲は白く残り、まるでりんごのような、または蝶が羽を広げたような外観を呈します。
この時期には発熱がないか、あっても微熱程度です。発疹自体に痛みやかゆみはないか、あっても軽度のことが多いです。
第3期:体幹・四肢の紅斑(発疹の第2段階)
顔面の紅斑が出現してから1〜2日後、腕や脚、臀部などにレース状(網目状)の紅斑が現れます。この発疹は顔面の発疹とは異なり、淡い紅色でレース状やまだら模様に見えるのが特徴です。
体幹にも同様の発疹が出ることがありますが、手のひらや足の裏には通常出現しません。この発疹は、日光に当たったり、入浴したり、運動したりすると一時的に目立つようになることがあります。
第4期:発疹の消退
発疹は通常、出現から7〜10日程度で自然に消失していきます。ただし、完全に消えるまでには数週間かかることもあります。また、一度消えた発疹が、日光浴や入浴、運動、ストレスなどをきっかけに再び現れる(再燃する)ことがあります。これは数週間から数ヶ月にわたって繰り返すことがありますが、ウイルスが再増殖しているわけではなく、免疫反応の名残と考えられています。
年齢による症状の違い
乳幼児(0〜3歳)
乳幼児では症状が軽微であったり、ほとんど無症状のこともあります。発疹が出ても典型的な「りんご様」にならず、診断が難しいケースもあります。
学童期(4〜12歳)
最も典型的な症状を示す年齢層です。特徴的な頬の紅斑とレース状の発疹が明確に現れることが多く、診断も比較的容易です。
成人
成人が感染した場合、顔面の紅斑はあまり目立たないか、全く出現しないこともあります。その代わり、関節痛や関節の腫れが主要な症状となることが多く、特に女性では手首、指、膝などの関節に痛みが生じやすいです。
成人の関節症状は数週間から数ヶ月続くこともあり、関節リウマチと間違われることもあります。ただし、通常は後遺症を残さずに回復します。
非典型的な症状
すべての患者さんが典型的な経過をたどるわけではありません。以下のような非典型的な症状を示すこともあります。
- 発疹が全く出ない不顕性感染
- 手足の手袋・靴下様の紅斑(Gloves and Socks症候群)
- 全身性のじんま疹様の発疹
- 紫斑を伴う発疹
診断方法
臨床診断
多くの場合、りんご病の診断は臨床症状、特に特徴的な顔面の紅斑の外観から行われます。特に流行期に、典型的な「りんご様」の頬の赤みが見られた場合、診断は比較的容易です。
診察時には以下の点が確認されます。
- 両頬の境界明瞭な紅斑の有無
- 鼻と口の周囲が白く残っているか
- 四肢や体幹のレース状発疹の有無
- 発熱の有無と程度
- 周囲での流行状況
- 既往歴(過去にりんご病に罹患したことがあるか)
検査診断
臨床症状のみでは診断が困難な場合や、妊婦さんが感染した疑いがある場合、特殊な状況下では以下のような検査を行うことがあります。
血清学的検査
血液検査でヒトパルボウイルスB19に対する抗体を調べます。
- IgM抗体:最近の感染(急性期感染)を示す抗体。感染後数日から数週間で検出され、2〜3ヶ月程度で消失します。
- IgG抗体:過去の感染を示す抗体。感染後しばらくして現れ、終生持続します。既往感染や免疫の有無を確認できます。
ウイルス遺伝子検査(PCR検査)
血液や組織からウイルスのDNAを検出する方法です。より確実な診断が可能ですが、特殊な検査のため、通常の診療では行われません。主に研究や特殊なケース(妊婦の感染確認など)で用いられます。
血液検査(一般検査)
特異的な検査ではありませんが、白血球数の軽度減少や、貧血の有無を確認することがあります。
鑑別診断
りんご病と似た症状を示す他の疾患との区別も重要です。
- 麻疹(はしか):より高熱があり、発疹の出方が異なります
- 風疹:首や耳の後ろのリンパ節腫脹が特徴的です
- 突発性発疹:主に生後6ヶ月〜2歳に発症し、高熱後に発疹が出ます
- 溶連菌感染症:喉の痛みが強く、発疹の性状が異なります
- 川崎病:高熱が5日以上続き、複数の症状を伴います
- 薬疹:薬剤服用との関連があります
治療法
基本的な治療方針
りんご病には特効薬は存在せず、対症療法が中心となります。多くの場合、特別な治療を必要とせず、自然に治癒していきます。
健康な子どもの場合、ウイルスに対する免疫が適切に働き、1〜2週間程度で症状は改善します。発疹が出ている時点では既に感染力はほとんどないため、自宅で安静に過ごしながら回復を待つのが基本です。
対症療法
解熱・鎮痛
発熱や関節痛がある場合は、アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬を使用することがあります。成人で関節痛が強い場合は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が処方されることもあります。
ただし、子どもにアスピリン系の薬剤を使用すると、ライ症候群という重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、使用は避けられます。
かゆみへの対応
発疹にかゆみがある場合は、抗ヒスタミン薬の内服や、保湿剤、場合によっては弱いステロイド外用薬が処方されることがあります。
皮膚ケア
発疹が出ている期間は、以下のようなケアを心がけましょう。
- 刺激の少ない衣類を着用する(綿素材など)
- 強くこすらない
- 長時間の日光浴を避ける(発疹が目立ちやすくなるため)
- 入浴は短時間で、お湯の温度は高すぎないようにする
安静と水分補給
特に発熱や倦怠感がある時期は、十分な休息が大切です。また、脱水を防ぐため、こまめな水分補給を心がけましょう。
食欲がない場合は無理に食べる必要はありませんが、消化の良いものを少しずつ摂取することをお勧めします。
特殊な状況での治療
溶血性貧血や免疫不全患者
基礎疾患として溶血性貧血や免疫不全がある患者さんでは、重篤な貧血(一過性無形成発作)を起こすことがあります。このような場合は入院管理が必要となり、輸血や免疫グロブリンの投与などが行われることがあります。
妊婦への対応
妊婦が感染した場合や感染の疑いがある場合は、専門医による慎重な管理が必要です。定期的な超音波検査で胎児の状態を確認し、必要に応じて高度な医療機関での管理となります。
合併症
一般的な合併症
健康な子どもがりんご病に罹患した場合、重篤な合併症が起こることは稀です。しかし、以下のような合併症が報告されています。
関節炎・関節痛
特に成人女性に多く見られます。手首、手指、膝、足首などの関節に痛みや腫れが生じることがあります。通常は数週間から数ヶ月で改善しますが、まれに長期間続くこともあります。
慢性疲労
発疹が消えた後も、数週間から数ヶ月にわたって疲労感や倦怠感が続くことがあります。
特定の患者層での重篤な合併症
一過性無形成発作(赤芽球癆)
遺伝性球状赤血球症、鎌状赤血球症、サラセミアなどの慢性溶血性貧血を持つ患者さんが感染すると、ウイルスが骨髄の赤血球産生細胞を破壊するため、急激な貧血が進行することがあります。
これは「一過性無形成発作」または「赤芽球癆」と呼ばれ、緊急の医療介入が必要となります。輸血などの治療が行われます。
慢性感染症
免疫不全患者(先天性免疫不全症、HIV感染者、臓器移植後の患者、抗がん剤治療中の患者など)では、ウイルスを排除できず、慢性的な感染が続くことがあります。持続的な貧血が問題となり、定期的な輸血や免疫グロブリン療法が必要となることがあります。
心筋炎・肝炎・神経症状
非常にまれですが、心筋炎、肝炎、脳炎・脳症、末梢神経障害などが報告されています。これらは重篤な合併症であり、専門的な治療が必要です。
妊婦とりんご病
妊娠中の感染リスク
りんご病は妊婦さんにとって特に注意が必要な感染症です。妊娠中に初めて感染すると、胎盤を通じて胎児に感染する可能性があります。
妊婦の感染率自体はそれほど高くありませんが(流行期でも約3〜5%程度)、一度も感染したことがない妊婦さん(抗体を持っていない方)は約半数とされており、感染のリスクは無視できません。
胎児への影響
妊娠中にヒトパルボウイルスB19に感染すると、以下のような影響が懸念されます。
胎児水腫(胎児浮腫)
最も重要な合併症です。ウイルスが胎児の赤血球産生を抑制し、重度の貧血を引き起こすことで、全身に浮腫(むくみ)が生じ、腹水や胸水が貯留する状態です。
胎児水腫のリスクは、妊娠時期によって異なります。
- 妊娠初期〜中期(特に妊娠13〜20週):リスクが最も高い
- 妊娠後期:リスクは比較的低い
妊婦が感染した場合、胎児水腫を発症する確率は約2〜10%とされています。
流産・死産
重度の胎児水腫が生じると、流産や子宮内胎児死亡に至ることがあります。特に妊娠20週未満での感染では、流産のリスクが若干高まるとされています。
先天奇形
幸いなことに、風疹やトキソプラズマなどと異なり、ヒトパルボウイルスB19は先天奇形(生まれつきの形態異常)を引き起こすことはほとんどないとされています。
妊婦が感染した場合の対応
妊娠中にりんご病に感染した疑いがある場合、または感染者と接触した場合は、速やかに産婦人科医に相談してください。
検査
血液検査で抗体価を測定し、感染の有無や時期を判断します。過去に感染したことがあれば(IgG抗体陽性)、胎児への影響はほとんど心配ありません。
経過観察
感染が確認された場合、または強く疑われる場合は、定期的な超音波検査(通常は1〜2週間ごと)で胎児の状態を慎重にモニタリングします。胎児水腫の徴候がないか、約10〜12週間にわたって観察を続けます。
治療
胎児水腫が確認された場合、胎児への輸血(胎児輸血、臍帯穿刺による子宮内輸血)などの高度な医療介入が検討されます。これは胎児治療の専門施設で行われます。
適切な治療により、多くの胎児水腫は改善し、健康な赤ちゃんとして生まれることが可能です。
妊娠を計画している方へ
妊娠前に抗体検査を受けることで、自分が過去に感染したことがあるか(免疫があるか)を知ることができます。抗体がない場合は、妊娠中にりんご病が流行している時期や、周囲に患者がいる場合は特に注意が必要です。
残念ながら、りんご病のワクチンは現時点では開発されていないため、予防接種による予防はできません。したがって、感染予防策を徹底することが重要です。
登園・登校の基準
学校保健安全法での位置づけ
りんご病は、学校保健安全法では「第三種の感染症(その他の感染症)」に分類されています。これは、インフルエンザ(第二種)などとは異なり、出席停止期間が法令で明確に定められていないことを意味します。
実際の対応
りんご病の特徴として、発疹が出現した時点では既に感染力がほとんどないという点が重要です。最も感染力が強いのは、発疹が出る前の風邪様症状がある時期(またはそれも気づかない程度の時期)です。
したがって、特徴的な頬の赤みが出てから登園・登校を制限しても、感染拡大の予防効果はほとんどありません。
一般的な基準
- 全身状態が良好であれば、発疹が出ていても登園・登校は可能
- 発熱や倦怠感などがある場合は、症状が改善するまで自宅で休養
- 各保育園・幼稚園・学校の方針に従う
医師の診断書
登園・登校再開にあたって医師の診断書や許可書が必要かどうかは、各施設の規定によります。診断書が必要な場合は、医療機関を受診してください。
周囲への配慮
自分や子どもがりんご病と診断された場合は、周囲の方、特に妊婦さんへの情報提供として、保育園や学校、職場などに報告することが推奨されます。これにより、妊婦さんは医療機関に相談し、必要な対応をとることができます。
予防方法
基本的な予防策
残念ながら、りんご病のワクチンは存在しないため、予防接種による予防はできません。したがって、一般的な感染症予防策を徹底することが重要です。
手洗い
最も基本的かつ重要な予防策です。特に以下のタイミングで丁寧に手洗いをしましょう。
- 外出から帰宅した時
- 食事の前
- トイレの後
- 鼻をかんだ後
- おむつ交換の後
石鹸を使って、指の間、爪の間、手首まで、20秒以上かけて丁寧に洗います。
咳エチケット
咳やくしゃみをする時は、ティッシュやハンカチ、あるいは肘の内側で口と鼻を覆います。マスクの着用も飛沫感染予防に有効です。
環境の清潔
よく触れる場所(ドアノブ、手すり、スイッチ、おもちゃなど)は定期的に清掃・消毒します。
うがい
手洗いと合わせて、うがいも感染症予防の基本です。
タオルの共用を避ける
家族間でもタオルは個人専用とし、共用を避けましょう。
流行期の注意
りんご病が流行している時期(主に春から初夏)や、周囲で患者が出ている場合は、以下の点に注意しましょう。
人混みを避ける
特に妊婦さんや、慢性溶血性貧血などの基礎疾患がある方は、できるだけ人混みを避けることが推奨されます。
患者との接触を避ける
家族や身近な人がりんご病に罹患した場合、完全に接触を避けることは難しいですが、できる範囲で距離を保ち、こまめな手洗いと換気を心がけましょう。
妊婦さん特有の予防策
抗体検査の検討
妊娠初期の検査や、妊娠前の検査で自分の免疫状態を確認することができます。既に抗体がある場合は、基本的に心配する必要はありません。
職業上の配慮
保育士、幼稚園教諭、小学校教諭など、小児と接する機会が多い職業の方は、特に注意が必要です。流行期には勤務配置の変更などを相談できる場合もあります。
家族内感染の予防
上の子どもがりんご病に罹患した場合、妊娠中の母親への感染リスクがあります。可能であれば、発症初期の段階(風邪様症状がある時期)は、一時的に別室で過ごすなどの対策も検討できます。ただし、実際には難しいことも多く、できる範囲での対応で構いません。

よくある質問
A. はい、基本的には一度感染すると終生免疫が得られるため、二度目に感染することはほとんどありません。ただし、非常にまれなケースとして、免疫が十分に働かなかった場合や、免疫不全状態では再感染の可能性もゼロではありません。
A. はい、大人も感染します。ただし、成人の約半数は既に抗体を持っているため、全ての人が感染するわけではありません。成人が感染すると、子どもに比べて顔の発疹は目立たず、代わりに関節痛が主な症状となることが多いです。
A. いいえ、発疹が出ている時点では既に感染力はほとんどありません。最も感染力が強いのは発疹が出る前の時期です。したがって、発疹が出てから隔離しても、感染予防効果は限定的です。
Q4. 妊娠中にりんご病の子どもと接触しました。どうすればいいですか?
A. まずは産婦人科医に相談してください。過去に感染したことがあるか(抗体があるか)を血液検査で確認します。抗体がある場合は心配ありません。抗体がない場合や、感染した可能性がある場合は、定期的な超音波検査で胎児の状態をモニタリングします。
Q5. りんご病の薬はありますか?
A. 残念ながら、ヒトパルボウイルスB19に対する特効薬は現在のところ存在しません。治療は対症療法が中心で、発熱や関節痛に対する解熱鎮痛薬などが使用されます。多くの場合、自然に治癒します。
Q6. 発疹が一度消えたのにまた出てきました。再感染ですか?
A. いいえ、再感染ではありません。りんご病の発疹は、一度消えた後も、日光浴や入浴、運動、ストレスなどをきっかけに再び目立つようになることがあります(再燃)。これは数週間から数ヶ月続くことがありますが、ウイルスが再び増えているわけではなく、免疫反応の名残と考えられています。
Q7. 保育園でりんご病が流行しています。予防接種はありますか?
A. 残念ながら、りんご病のワクチンは現在開発されていません。したがって、予防接種による予防はできません。手洗い、咳エチケットなどの基本的な感染予防策を徹底することが重要です。
Q8. りんご病で発疹が出た後、プールに入っても大丈夫ですか?
A. 医学的には、発疹が出た時点では既に感染力はほとんどないため、全身状態が良好であればプールに入ること自体に問題はありません。ただし、発疹が日光や温熱刺激で目立つことがあるため、様子を見ながら判断してください。また、施設によっては独自の規定がある場合がありますので、確認が必要です。
Q9. 家族の中で一人がりんご病になったら、他の家族も必ず感染しますか?
A. 必ずしもそうではありません。家族内での二次感染率は約50%程度とされています。過去に感染したことがある家族は免疫があるため感染しません。また、感染しても症状が出ない不顕性感染の場合もあります。
Q10. 発疹のかゆみが強い場合はどうすればいいですか?
A. 医療機関を受診して、抗ヒスタミン薬の内服や、場合によっては弱いステロイド外用薬を処方してもらうことができます。また、冷やしたり、刺激の少ない衣類を着用したりすることで、かゆみを和らげることができます。
特殊な状況での注意点
基礎疾患がある方
以下のような基礎疾患をお持ちの方は、りんご病に感染すると重篤な合併症を起こすリスクがあります。
溶血性貧血
- 遺伝性球状赤血球症
- 鎌状赤血球症
- サラセミア
- 自己免疫性溶血性貧血
これらの疾患がある場合、ウイルスが骨髄の赤血球産生を抑制するため、急激な貧血が進行する可能性があります。周囲でりんご病が流行している場合は、主治医に相談し、予防策を徹底してください。
免疫不全状態
- 先天性免疫不全症
- HIV感染症
- 臓器移植後
- 抗がん剤治療中
- 免疫抑制薬使用中
免疫が低下している状態では、ウイルスを排除できず慢性感染に至る可能性があります。主治医と相談し、適切な予防と早期発見・治療が重要です。
医療従事者・保育関係者
小児科医、小児病棟の看護師、保育士、幼稚園教諭などは、職業上、りんご病の患者と接する機会が多くなります。
特に妊娠中や妊娠を計画している場合は、以下の対応を検討してください。
- 抗体検査を受けて免疫状態を確認
- 流行期には勤務配置の変更を相談
- 標準予防策(手洗い、マスク着用など)の徹底
- 流行状況の情報収集
海外渡航時の注意
りんご病は世界中で見られる感染症です。海外では日本と流行時期が異なる場合があります。
特に妊婦さんや基礎疾患がある方は、渡航先の流行状況を確認し、必要な予防策を講じてください。海外での感染が疑われる場合は、現地または帰国後速やかに医療機関を受診してください。
最新の研究と今後の展望
ワクチン開発
現在、りんご病のワクチン開発に関する研究が進められていますが、実用化にはまだ時間がかかる見込みです。将来的にワクチンが開発されれば、特に妊娠を計画している女性や、基礎疾患がある方への接種が期待されます。
治療薬の研究
ヒトパルボウイルスB19に対する抗ウイルス薬の開発も研究されています。特に免疫不全患者での慢性感染や、妊婦の感染時に使用できる安全で効果的な治療薬の開発が望まれています。
診断技術の向上
より迅速で正確な診断方法の開発も進められています。特に妊婦の感染時に、胎児への影響を早期に予測できる検査方法の確立が重要な課題となっています。
まとめ
りんご病(伝染性紅斑)は、ヒトパルボウイルスB19によって引き起こされる感染症で、主に小児に見られますが、成人も感染します。特徴的な頬の紅斑から「りんご病」という名前で親しまれていますが、医学的には「伝染性紅斑」と呼ばれます。
主な特徴
- 原因:ヒトパルボウイルスB19
- 主な症状:両頬の鮮明な紅斑、四肢や体幹のレース状発疹
- 感染経路:飛沫感染、接触感染
- 潜伏期間:10〜20日程度
- 感染力:発疹が出る前の時期に最も強い
- 治療:対症療法が中心(特効薬なし)
- 予防:ワクチンはなく、手洗いなどの基本的な感染予防策が重要
特に注意が必要な方
- 妊婦(胎児水腫のリスク)
- 慢性溶血性貧血患者(一過性無形成発作のリスク)
- 免疫不全患者(慢性感染のリスク)
登園・登校について
発疹が出た時点では既に感染力はほとんどないため、全身状態が良好であれば登園・登校は可能です。ただし、各施設の規定に従ってください。
りんご病は多くの場合、軽症で自然に治癒する疾患ですが、特定の状況下では注意が必要です。特に妊娠中の方や、基礎疾患をお持ちの方は、周囲での流行状況に注意し、予防策を徹底することが重要です。
お子さんや自分自身に特徴的な症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診し、適切な診断と助言を受けてください。
参考文献
- 国立感染症研究所「伝染性紅斑とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/423-erythema-intro.html - 厚生労働省「保育所における感染症対策ガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/ - 日本小児科学会「学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説」
https://www.jpeds.or.jp/ - 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン産科編」
- 厚生労働省検疫所FORTH「感染症情報」
https://www.forth.go.jp/ - 日本小児感染症学会関連資料
- 東京都感染症情報センター「伝染性紅斑(りんご病)」
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務