はじめに
お子さんの口の中に水疱ができたり、手や足に発疹が出たりして、「もしかして手足口病?」と不安になった経験はありませんか。手足口病は主に乳幼児がかかる感染症として知られていますが、実は大人にも感染することがあります。
特に気になるのが「どのくらいうつりやすいのか」「いつまで感染力があるのか」といった点ではないでしょうか。保育園や幼稚園に通うお子さんをお持ちのご家庭では、登園の判断に迷うこともあるでしょう。また、兄弟姉妹がいる場合、家庭内での感染予防も大きな関心事となります。
本記事では、手足口病の感染力や感染経路について、医学的な根拠に基づいて詳しく解説いたします。正しい知識を持つことで、適切な予防対策を講じることができ、お子さんやご家族の健康を守ることができます。

手足口病とは
手足口病の基本情報
手足口病は、主にコクサッキーウイルスA16型、A6型、エンテロウイルス71型などのウイルスによって引き起こされる感染症です。病名の通り、手のひら、足の裏、口の中に特徴的な水疱性の発疹が現れることから、この名前が付けられました。
日本では毎年夏季を中心に流行し、特に5歳以下の乳幼児が患者の約90%を占めています。しかし、これは大人がかからないという意味ではなく、大人は過去の感染によって免疫を獲得していることが多いためです。
原因となるウイルスの種類
手足口病を引き起こすウイルスは一種類ではありません。主な原因ウイルスとして以下のものが知られています。
コクサッキーウイルスA16型 最も一般的な原因ウイルスの一つで、典型的な手足口病の症状を引き起こします。比較的軽症で経過することが多く、合併症のリスクも低いとされています。
コクサッキーウイルスA6型 近年、日本でも流行が見られるようになったウイルスです。A16型と比較すると、発疹が広範囲に現れたり、水疱が大きくなったりする傾向があります。また、治癒後に爪が剥がれる症状が見られることもあります。
エンテロウイルス71型 アジア地域で重症化しやすいウイルスとして知られています。髄膜炎や脳炎などの中枢神経系の合併症を引き起こす可能性があり、注意が必要です。
これらのウイルスは血清型が異なるため、一度手足口病にかかっても、別の型のウイルスに感染すれば再び発症する可能性があります。これが、同じシーズンに複数回かかることがある理由です。
手足口病の感染経路:どのようにうつるのか
手足口病の感染力を理解するためには、まず「どのような経路で感染するのか」を知ることが重要です。感染経路を理解することで、効果的な予防対策を講じることができます。
飛沫感染
飛沫感染は、手足口病の主要な感染経路の一つです。感染者がくしゃみや咳をした際に、唾液や鼻水などの飛沫と一緒にウイルスが空気中に放出されます。この飛沫を周囲の人が吸い込むことで感染が成立します。
特に保育園や幼稚園など、子どもたちが密集する環境では、飛沫感染のリスクが高まります。子どもは大人と比べて、咳やくしゃみをする際に口を覆わないことも多く、感染が広がりやすい要因となっています。
飛沫は通常、1〜2メートル程度の範囲に飛散します。そのため、感染者との距離を保つことが予防につながります。
接触感染
接触感染は、手足口病で最も注意すべき感染経路です。具体的には以下のような経路で感染します。
直接接触 感染者の水疱や発疹に直接触れることで感染します。特に水疱が破れた場合、その内容物には大量のウイルスが含まれているため、感染リスクが非常に高くなります。
間接接触 感染者が触れたおもちゃ、ドアノブ、タオルなどを介した感染です。ウイルスは環境中である程度の時間生存できるため、感染者が触れた物品を別の人が触り、その手で口や鼻、目などを触ることで感染が成立します。
乳幼児は手を口に入れる行動が頻繁にあるため、接触感染のリスクが特に高くなります。
糞口感染
意外と知られていないのが、糞口感染という経路です。手足口病の原因ウイルスは、症状が治まった後も2〜4週間程度、便中に排出され続けます。
おむつ交換の際に適切な手洗いをしないと、便に含まれるウイルスが手に付着し、その手で食べ物を触ったり、他の物品に触れたりすることで感染が広がります。
特に注意が必要なのは以下のような場面です。
- おむつ交換後の手洗いが不十分な場合
- トイレトレーニング中の子どもが、手洗いをしっかりできていない場合
- プールや水遊びなど、水を介した感染の可能性
糞口感染は、症状が消失した後も長期間続く可能性があるため、回復後も手洗いなどの衛生対策を継続することが重要です。
手足口病の感染力:いつまでうつるのか
手足口病の感染予防を考える上で、「いつからいつまで感染力があるのか」を理解することは非常に重要です。
潜伏期間中の感染力
手足口病の潜伏期間は通常3〜5日程度です。この期間中、感染者は自覚症状がないため、気づかないうちにウイルスを周囲に広めてしまう可能性があります。
潜伏期間の後半になると、咽頭(のど)からウイルスの排出が始まります。つまり、症状が出る前からすでに感染力を持っているということです。この点が、手足口病の感染拡大を防ぐことを難しくしている要因の一つとなっています。
症状がある期間の感染力
発症後、特に症状が現れてから1週間程度は、最も感染力が強い時期です。
発熱期間(発症初期) 発熱がある期間は、咽頭からのウイルス排出量が多く、咳やくしゃみによる飛沫感染のリスクが高まります。
発疹期間 手足口に水疱や発疹が現れている期間も、接触感染のリスクが高い時期です。特に水疱の内容物には大量のウイルスが含まれているため、水疱が破れた場合は注意が必要です。
回復期の感染力
多くの保護者の方が疑問に思うのが、「症状が治まったら、もう他の人にうつらないのか」という点です。
実は、症状が消失した後も、一定期間は感染力が続きます。
呼吸器からのウイルス排出 咽頭からのウイルス排出は、発症後1〜2週間程度続くことがあります。咳などの症状がなくなっても、しばらくは飛沫感染のリスクが残ります。
便からのウイルス排出 最も長く続くのが、便中へのウイルス排出です。症状が完全に治まった後も、2〜4週間、場合によっては数か月間にわたってウイルスが便中に排出され続けることがあります。
この事実は、糞口感染のリスクが回復後も継続することを意味しており、回復後も手洗いなどの衛生管理を継続することの重要性を示しています。
無症状病原体保有者の問題
手足口病の感染対策を複雑にしているもう一つの要因が、無症状病原体保有者の存在です。
感染してもまったく症状が現れない、あるいは非常に軽微な症状しか現れない人がいます。このような人も、ウイルスを排出しており、他の人に感染させる可能性があります。
特に過去に同じ型のウイルスに感染したことがある大人の場合、免疫があるため症状が出ないか、出ても軽微であることが多いのですが、ウイルスは排出されています。そのため、知らないうちに子どもに感染させてしまうケースもあります。
手足口病の症状
感染を早期に発見し、適切な対応をするためには、手足口病の症状を正確に理解することが重要です。
初期症状
手足口病の初期症状は、他の一般的な風邪と似ていることがあります。
発熱 約3分の1の患者さんに発熱が見られます。多くの場合、38度前後の発熱で、高熱になることは比較的少ないとされています。発熱は通常1〜2日程度で解熱します。
倦怠感・食欲不振 なんとなく元気がない、食欲が落ちるといった症状が現れることがあります。小さな子どもの場合、機嫌が悪くなったり、いつもより泣きやすくなったりすることもあります。
のどの痛み 発熱と同時期に、のどの痛みや違和感を訴えることがあります。
特徴的な発疹
手足口病の診断の決め手となるのが、特徴的な発疹です。
口腔内の水疱・潰瘍 最初に現れることが多いのが、口の中の水疱です。舌、歯茎、頬の内側、口蓋(上あご)などに、2〜3ミリ程度の小さな水疱や潰瘍ができます。
これらの水疱は痛みを伴うことが多く、特に食事や飲み物を摂取する際に痛みが増すため、食欲不振や水分摂取の減少につながることがあります。
手足の発疹 発症後1〜2日で、手のひらや足の裏に発疹が現れます。手足の甲、指の間にも出ることがあります。発疹は最初は赤い斑点として現れ、その後、中心部が白っぽい水疱になります。
通常、この発疹は痒みが少なく、痛みもあまりないのが特徴です。ただし、ウイルスの型によっては、より広範囲に発疹が現れたり、水疱が大きくなったりすることもあります。
その他の部位の発疹 手足口以外にも、膝、お尻、肘などに発疹が現れることがあります。特にコクサッキーウイルスA6型による手足口病では、体幹部にも発疹が広がることがあり、水痘(水ぼうそう)と間違えられることもあります。
合併症のサイン
ほとんどの場合、手足口病は軽症で経過しますが、まれに合併症を起こすことがあります。以下のような症状が見られた場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。
高熱が続く 38.5度以上の発熱が2日以上続く場合は注意が必要です。
頭痛・嘔吐 強い頭痛や繰り返す嘔吐は、髄膜炎などの中枢神経系の合併症のサインかもしれません。
意識障害・けいれん ぼんやりしている、呼びかけに反応が鈍い、けいれんを起こすなどの症状は、緊急性が高い状態です。
呼吸困難 息苦しそう、呼吸が速い、胸がへこむような呼吸をしているなどの症状も要注意です。
特にエンテロウイルス71型による手足口病では、これらの合併症のリスクが高いとされています。
家庭でできる感染予防対策
手足口病の感染を防ぐためには、家庭での日常的な対策が非常に重要です。ワクチンが存在しない現状では、基本的な予防対策が最も効果的な方法となります。
手洗いの徹底
手洗いは、感染予防の基本中の基本です。しかし、正しい手洗いができていないと、十分な効果が得られません。
適切な手洗いのタイミング
- 外出から帰宅したとき
- 食事の前後
- トイレの後
- おむつ交換の後
- 咳やくしゃみ、鼻をかんだ後
- 調理の前後
正しい手洗いの方法 石けんを使って、最低20〜30秒間かけて丁寧に洗います。特に以下の部分を意識して洗いましょう。
- 指の間
- 爪の間
- 手首
- 親指の付け根
小さな子どもの場合、楽しく手洗いができるよう、歌を歌いながら洗う、手洗いの絵を貼るなどの工夫をすると良いでしょう。
手指消毒剤の使用について アルコール系の手指消毒剤は、手足口病の原因ウイルス(エンテロウイルス)に対してはあまり効果的ではないとされています。そのため、流水と石けんによる手洗いを基本とすることが重要です。
環境の清潔保持
ウイルスは環境中でもある程度の時間生存できるため、共用部分の清掃・消毒が重要です。
消毒すべき場所
- ドアノブ
- 手すり
- おもちゃ
- テーブル
- イスの背もたれ
- 電気のスイッチ
- トイレの便座やレバー
効果的な消毒方法 エンテロウイルスには、次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)が効果的です。市販の塩素系漂白剤を薄めて使用します。
- 日常的な消毒:0.02%溶液(水1リットルに対して漂白剤約4ml)
- 汚染が疑われる場合:0.1%溶液(水1リットルに対して漂白剤約20ml)
ただし、塩素系消毒剤は金属を腐食させたり、色落ちさせたりする可能性があるため、使用後は水拭きをすることが推奨されます。
タオルやコップの共用を避ける
接触感染を防ぐため、以下のような個人用品の共用は避けましょう。
- タオル、ハンカチ
- 食器、コップ
- 歯ブラシ
- 寝具(可能であれば)
特に患者さんが使用したタオルは、他の家族のものとは別に洗濯することが望ましいでしょう。
適切なマスクの使用
飛沫感染を防ぐため、以下の場合にはマスクの使用が有効です。
- 患者さん本人(咳やくしゃみがある場合)
- 看病する家族(特に他に小さな子どもがいる場合)
ただし、小さな子どもは適切にマスクを着用し続けることが難しい場合もあります。無理に着けさせるよりも、咳エチケット(咳やくしゃみをする際にティッシュやハンカチで口と鼻を覆う)を教えることも大切です。
おむつ交換時の注意
糞口感染を防ぐため、おむつ交換時には特に注意が必要です。
おむつ交換の手順
- 使い捨ての手袋を着用(可能であれば)
- 汚れたおむつは速やかにビニール袋に入れて密閉
- おむつ交換台や周囲を消毒
- 手袋を外した後、石けんで手をよく洗う
おむつの処理 使用済みのおむつは、他のごみと区別し、ビニール袋に入れて密閉してから捨てましょう。
保育園・幼稚園での対応
保育園や幼稚園は、子どもたちが密集し、濃厚接触する環境であるため、手足口病が流行しやすい場所です。適切な対応が求められます。
登園の判断基準
手足口病は、学校保健安全法において「第三種の感染症(その他の感染症)」に分類されています。これは、インフルエンザのような出席停止期間が明確に定められている疾患とは異なり、個別の判断が必要とされる疾患ということです。
一般的な登園基準
- 発熱がなく、全身状態が良好であること
- 口腔内の水疱・潰瘍の痛みが軽減し、普段通りの食事や水分摂取ができること
- 発疹が乾燥しているか、かさぶた状になっていること
ただし、これらの基準を満たしていても、便中にはまだウイルスが排出されている可能性があることを理解しておく必要があります。
医師の意見書について 保育園や幼稚園によっては、登園再開時に医師の意見書や診断書を求める場合があります。かかりつけの医師に相談し、必要に応じて意見書を作成してもらいましょう。
園の方針の確認 施設によって登園基準が異なる場合があるため、必ず在籍している保育園や幼稚園の方針を確認することが重要です。
園内での感染予防対策
保育園や幼稚園では、以下のような対策が推奨されています。
日常的な手洗いの徹底
- 登園時
- 外遊びの後
- 食事の前後
- トイレの後
- おむつ交換の後
おもちゃの定期的な消毒 特に口に入れることが多い乳児向けのおもちゃは、毎日消毒することが望ましいでしょう。
タオルの個別化 手拭きタオルは共用せず、個人用のものを使用します。
症状のある子どもの早期発見 毎朝の健康観察を徹底し、発熱や口腔内の異常、発疹などの症状がある子どもを早期に発見します。
流行時の対応
園内で手足口病が流行している場合は、さらに以下のような対策が必要です。
保護者への情報提供 流行状況や症状、家庭での注意点などを保護者に伝えます。
行事の延期や中止の検討 大規模な行事や他園との交流など、感染拡大のリスクが高い活動については、延期や中止を検討することもあります。
職員の健康管理 職員も感染する可能性があるため、体調管理を徹底し、症状がある場合は速やかに休養します。
大人の手足口病
手足口病は「子どもの病気」というイメージが強いですが、実は大人も感染します。むしろ、大人が感染した場合、子どもよりも症状が重くなることがあるため、注意が必要です。
大人が感染する経路
大人が手足口病に感染する主な経路は以下の通りです。
家庭内感染 最も多いのが、手足口病を発症した子どもから家庭内で感染するケースです。看病をする中で、飛沫や接触によって感染します。特におむつ交換時の糞口感染のリスクが高いとされています。
職場での感染 保育士や幼稚園教諭など、子どもと接する職業の方は、職場で感染するリスクがあります。
大人の症状の特徴
大人が手足口病に感染した場合、子どもとは異なる特徴が見られることがあります。
より強い症状
- 高熱(39度以上)が出ることがある
- 関節痛や筋肉痛を伴うことが多い
- 口腔内の水疱がより痛く、食事が困難になることがある
- 手足の発疹に強い痛みや痒みを感じることがある
症状の持続期間 大人の場合、症状が1〜2週間程度続くことがあり、子どもよりも回復に時間がかかる傾向があります。
仕事への影響 手足の発疹や口腔内の痛みにより、日常生活や仕事に支障が出ることがあります。特に手作業が多い職業の方は、発疹の痛みや水疱により作業が困難になる場合があります。
大人の感染予防
子どもが手足口病に罹患した場合、家族も感染予防を徹底する必要があります。
手洗いの徹底 看病する際は、特に以下の場面で手洗いを徹底しましょう。
- 子どもの世話をした後
- おむつ交換の後
- 子どもが使った食器を片付けた後
直接接触を避ける 可能であれば、子どもの水疱や発疹に直接触れないようにします。触れた場合は、すぐに手を洗います。
免疫力の維持 十分な睡眠、バランスの取れた食事、ストレス管理など、免疫力を維持することも重要です。
医療機関の受診が必要な場合
手足口病の多くは軽症で、自宅での安静と対症療法で回復しますが、以下のような場合は医療機関の受診が必要です。
早めの受診が必要なケース
初めての症状が出た時 診断を確定し、他の疾患との鑑別をするため、初めて症状が出た際には医療機関を受診することをお勧めします。
水分摂取ができない 口腔内の痛みが強く、水分をほとんど摂取できない状態が続く場合、脱水症のリスクがあります。特に以下のような症状が見られる場合は要注意です。
- おしっこの回数が極端に少ない
- おしっこの色が濃い
- 唇や口の中が乾燥している
- 涙が出ない
- 皮膚の張りがない
食事がまったく摂れない 1日以上、固形物をまったく食べられない状態が続く場合も、医療機関に相談しましょう。
緊急受診が必要なケース
以下のような症状が見られた場合は、夜間・休日であっても緊急で医療機関を受診する必要があります。
高熱が続く
- 38.5度以上の発熱が2日以上続く
- 解熱剤を使っても熱が下がらない
- 熱が一度下がった後、再び上がった
神経症状
- 頭痛と嘔吐が同時に起こる
- けいれんを起こす
- 意識がもうろうとしている
- 異常な眠気(いつもより眠りが深く、起こしにくい)
- 手足の震えや動きの異常
呼吸器症状
- 息が荒い、呼吸が速い
- 呼吸の際に胸がへこむ
- 顔色が悪い(青白い、灰色がかっている)
- 唇や爪が青紫色になっている
その他の危険なサイン
- ぐったりしていて元気がない
- 声をかけても反応が鈍い
- 激しい嘔吐が続く
これらの症状は、髄膜炎、脳炎、心筋炎などの重篤な合併症のサインである可能性があります。
治療と家庭でのケア
手足口病には特効薬が存在しないため、治療は症状を和らげる対症療法が中心となります。
医療機関での治療
対症療法
- 解熱剤:発熱がある場合に使用
- 痛み止め:口腔内の痛みや発疹の痛みを和らげる
- 口内炎用の塗り薬:口腔内の痛みを軽減する
抗ウイルス薬について 現時点では、手足口病のウイルスに対する特異的な抗ウイルス薬は実用化されていません。
家庭でのケア方法
家庭でのケアは、症状を和らげ、合併症を予防し、快適に過ごせるようサポートすることが目的です。
水分補給 口腔内の痛みで水分摂取が減少すると、脱水症のリスクが高まります。以下のような工夫をしましょう。
- 刺激の少ない飲み物を選ぶ(麦茶、水など)
- 冷たい飲み物の方が痛みを感じにくい
- ストローを使うと飲みやすい
- こまめに少量ずつ飲ませる
- 避けるべき飲み物:オレンジジュースなどの酸味のある飲み物、炭酸飲料、熱い飲み物
食事の工夫 口腔内の痛みで食事が難しい場合は、以下のような工夫をしましょう。
- 軟らかく、飲み込みやすい食事(おかゆ、うどん、豆腐、プリンなど)
- 冷たい食事の方が痛みを感じにくい(冷やしうどん、アイスクリームなど)
- 小さく切って、咀嚼の負担を減らす
- 避けるべき食事:辛いもの、酸っぱいもの、固いもの、熱いもの
十分な休養 免疫力を維持するため、十分な休養が重要です。
- 規則正しい生活リズムを保つ
- 十分な睡眠時間を確保する
- 無理に登園・登校させない
発疹のケア
- 爪を短く切り、かきむしらないようにする
- 水疱は破らないようにする
- 清潔を保つが、過度な刺激は避ける
- 必要に応じて、医師の指示で保湿剤などを使用する
室温・衣服の調整 発熱時は適切な室温管理が重要です。
- 熱が上がる時:寒がるので暖かくする
- 熱が高い時:薄着にして、室温を適度に保つ
- 汗をかいたらこまめに着替える

よくある質問(Q&A)
A: はい、何回もかかる可能性があります。手足口病を引き起こすウイルスには複数の型があり、一度ある型のウイルスに感染して免疫ができても、別の型のウイルスには免疫がないため、再び感染することがあります。同じシーズンに2回かかることもあり得ます。
Q2: 兄弟がいる場合、どのように感染を防げばよいですか?
A: 完全に感染を防ぐことは難しいですが、以下の対策が有効です。
- 患者さんと他の兄弟の寝室を分ける(可能であれば)
- タオルや食器の共用を避ける
- おもちゃの共用を控える、または使用後に消毒する
- 手洗いをより徹底する
- 患者さんが触れた場所を定期的に消毒する
ただし、潜伏期間中や症状が出る前から感染力があるため、完全に防ぐことは難しいことを理解しておきましょう。
Q3: プールに入っても大丈夫ですか?
A: 症状がある間は、プールの利用は控えるべきです。以下の理由からです。
- 水を介した感染のリスクがある
- プールの塩素濃度では、エンテロウイルスを完全には不活化できない可能性がある
- 発疹がある状態でプールに入ることは、他の利用者への配慮に欠ける
症状が治まり、医師や施設の許可が出てから利用するようにしましょう。ただし、便中にはまだウイルスが排出されている可能性があるため、プール後の手洗いは特に徹底する必要があります。
Q4: 妊娠中に手足口病に感染した場合、赤ちゃんへの影響はありますか?
A: 現時点では、妊娠中の手足口病感染が胎児に重大な影響を及ぼすという明確な証拠はありません。ただし、以下の点に注意が必要です。
- 妊娠後期(特に出産直前)に感染した場合、新生児に感染する可能性がある
- 新生児が感染すると、重症化のリスクがある
妊娠中に手足口病が疑われる症状が出た場合は、速やかに産婦人科医に相談してください。
Q5: 大人も出席停止になりますか?
A: 法律上、大人の手足口病に対する出勤停止の規定はありません。ただし、以下の点を考慮する必要があります。
- 症状が重い場合は、体調管理のために休養する
- 食品を扱う職業の場合、職場の規定により休業が求められる場合がある
- 医療・介護職の場合、感染拡大防止の観点から休業が推奨される場合がある
職場の規定を確認し、必要に応じて医師や上司に相談しましょう。
Q6: 予防接種(ワクチン)はありますか?
A: 残念ながら、現時点で日本国内で実用化されている手足口病のワクチンはありません。中国では一部のワクチンが開発・使用されていますが、日本ではまだ承認されていません。
そのため、現状では手洗いなどの基本的な予防対策が最も重要な予防方法となります。
Q7: 完治するまでどのくらいかかりますか?
A: 一般的な経過は以下の通りです。
- 発熱:1〜2日程度
- 口腔内の水疱・潰瘍:1週間程度で治癒
- 手足の発疹:1〜2週間程度で消失
ただし、個人差があり、症状の程度やウイルスの型によっても回復期間は異なります。また、発疹が治った後も、爪が剥がれたり、皮膚がむけたりすることがありますが、これは通常、自然に治ります。
Q8: 熱がないのに発疹だけがある場合も手足口病ですか?
A: はい、可能性があります。手足口病の患者さんの約3分の2は発熱しないため、発熱がなくても手足口病である可能性は十分にあります。特徴的な部位(手のひら、足の裏、口の中)に発疹が見られる場合は、手足口病を疑い、医療機関を受診することをお勧めします。
参考文献
本記事は、以下の信頼できる情報源を参考に作成しました。
- 国立感染症研究所「手足口病とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/hfmd.html - 厚生労働省「保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版)」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000201596.pdf - 日本小児科学会「手足口病」
http://www.jpeds.or.jp/ - 国立感染症研究所「病原微生物検出情報(IASR)」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr.html - 厚生労働省「手足口病に関するQ&A」
https://www.mhlw.go.jp/
まとめ
手足口病は、主に乳幼児がかかる感染症ですが、大人も感染する可能性があり、特に家庭内での感染拡大に注意が必要です。
感染経路と予防の要点
- 飛沫感染、接触感染、糞口感染の3つの経路で広がる
- 症状が治まった後も2〜4週間は便中にウイルスが排出される
- 手洗いが最も重要な予防策である
- アルコール消毒よりも石けんでの手洗いが効果的
- 塩素系消毒剤(次亜塩素酸ナトリウム)が環境消毒に有効
症状と対応
- 発熱、口腔内の水疱、手足の発疹が主な症状
- 多くは軽症で1〜2週間で回復
- 特効薬はなく、対症療法が中心
- 水分摂取と栄養管理が重要
医療機関受診の目安
- 高熱が続く
- 水分が摂取できない
- 頭痛・嘔吐、けいれん、意識障害などの神経症状
- 呼吸困難
登園・登校の判断
- 発熱がなく、全身状態が良好
- 食事や水分摂取が普段通りできる
- 施設の方針を確認する
手足口病は一般的には軽症で経過する疾患ですが、まれに重症化することもあります。正しい知識を持ち、適切な予防対策を行うことで、感染のリスクを減らし、万が一感染した場合も早期に適切な対応ができます。
ご家族の健康を守るため、日々の手洗いなどの基本的な予防対策を習慣化することが大切です。また、気になる症状がある場合は、早めに医療機関にご相談ください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務