はじめに
「痔」という言葉を聞くと、多くの方が恥ずかしさを感じたり、人に相談しにくいと感じたりするかもしれません。しかし、痔は決して珍しい病気ではなく、日本人の3人に1人が一生のうちに一度は経験すると言われているほど一般的な疾患です。
その中でも「いぼ痔(痔核)」は痔の中で最も多い種類であり、適切な知識と対処法を知ることで、症状の改善や予防が可能です。本記事では、いぼ痔について、その仕組みから症状、原因、治療法、そして日常生活での予防法まで、わかりやすく詳しく解説していきます。
恥ずかしさから受診を躊躇される方も多いのですが、早期に適切な治療を受けることで、生活の質を大きく改善することができます。この記事を通じて、いぼ痔に関する正しい知識を身につけていただければ幸いです。

いぼ痔(痔核)とは
痔核の定義と仕組み
いぼ痔は医学的には「痔核(じかく)」と呼ばれ、肛門周辺の血管が集まった部分(静脈叢)がうっ血して腫れ上がり、いぼ状に膨らんだ状態を指します。
肛門には元々、排便をスムーズにするためのクッションのような組織があります。この組織は血管が豊富に集まった構造になっており、通常は便を出すときに膨らんで便の通りをスムーズにし、排便後は元に戻ります。しかし、さまざまな原因でこの部分の血流が悪くなったり、支持組織が弱くなったりすると、血管が膨らんだまま戻らなくなり、いぼ痔になってしまいます。
痔の種類と頻度
痔には大きく分けて3つの種類があります。
- いぼ痔(痔核) – 全体の約50〜60%
- 切れ痔(裂肛) – 全体の約10〜15%
- 痔ろう(痔瘻) – 全体の約5%
このように、いぼ痔は痔の中で最も多く、多くの方が悩まされている疾患です。年齢や性別を問わず発症しますが、特に中高年に多く見られる傾向があります。
いぼ痔の種類
いぼ痔は発生する場所によって、「内痔核」と「外痔核」の2つに分類されます。それぞれ症状や治療法が異なるため、違いを理解することが重要です。
内痔核(ないじかく)
内痔核は、肛門の内側(直腸側)にできるいぼ痔です。直腸粘膜にできるため、痛みを感じる神経が少なく、初期段階では痛みを伴わないことが特徴です。
主な症状
- 排便時の出血(鮮やかな赤色の血液)
- いぼが肛門外に脱出する(脱肛)
- 違和感や残便感
- 粘液の分泌による下着の汚れ
内痔核は進行度によって4段階(Goligher分類)に分けられます。
Ⅰ度: 排便時に出血はあるが、いぼは肛門の外に出ない段階 Ⅱ度: 排便時にいぼが肛門の外に出るが、自然に戻る段階 Ⅲ度: 排便時にいぼが肛門の外に出て、指で押し込まないと戻らない段階 Ⅳ度: いぼが常に肛門の外に出たままで、押し込んでも戻らない段階
外痔核(がいじかく)
外痔核は、肛門の外側(皮膚側)にできるいぼ痔です。皮膚にできるため、痛みを感じる神経が豊富で、強い痛みを伴うことが多いのが特徴です。
主な症状
- 肛門周囲の腫れや突起
- 強い痛み(特に血栓性外痔核の場合)
- 圧迫感や違和感
- 肛門周囲のかゆみ
特に「血栓性外痔核」という状態では、外痔核の中に血の塊(血栓)ができ、急激な腫れと激しい痛みを引き起こします。
内外痔核
内痔核と外痔核が同時に存在する状態を「内外痔核」または「混合痔核」と呼びます。両方の症状が現れるため、より重症化しやすい傾向があります。
いぼ痔の症状
いぼ痔の症状は、種類や進行度によって異なりますが、主な症状について詳しく見ていきましょう。
出血
内痔核の最も代表的な症状が出血です。排便時に鮮やかな赤色の血液が出ることが特徴で、以下のような状況で気づくことが多いです。
- トイレットペーパーに血が付く
- 便器の水が赤く染まる
- 便の表面に血が付いている
- ポタポタと出血する
出血量は個人差がありますが、放置すると貧血を引き起こすこともあります。鮮やかな赤色の血液は肛門近くからの出血を示しており、黒っぽい便(タール便)とは区別されます。ただし、出血が続く場合は、大腸がんなど他の疾患の可能性も考えられるため、必ず医師の診察を受けることが重要です。
脱出(脱肛)
内痔核が進行すると、排便時にいぼが肛門の外に飛び出してくる「脱出」という症状が現れます。
初期段階では排便後に自然に戻りますが、進行すると指で押し込まないと戻らなくなり、最終的には常に出たままの状態になることもあります。脱出したいぼは、下着に擦れたり、座ったときに圧迫されたりして不快感や痛みを引き起こします。
痛み
外痔核、特に血栓性外痔核では、強い痛みが特徴的な症状です。急に腫れて激しい痛みが生じ、座ることも困難になることがあります。
内痔核では通常、痛みはほとんどありませんが、脱出したいぼが締め付けられる「嵌頓痔核(かんとんじかく)」という状態になると、激しい痛みを伴います。
その他の症状
違和感・異物感: 肛門に何か挟まっているような感覚や、残便感を覚えることがあります。
かゆみ: 粘液の分泌や軽い炎症により、肛門周囲がかゆくなることがあります。
粘液の分泌: 内痔核が進行すると粘液が分泌され、下着が汚れることがあります。
腫れ: 肛門周囲が腫れて、座ったときに違和感を感じることがあります。
いぼ痔の原因とリスクファクター
いぼ痔は一つの原因で発症するのではなく、複数の要因が重なって発症します。主な原因とリスクファクターを理解することで、予防につなげることができます。
便秘と排便時のいきみ
便秘は、いぼ痔の最も大きな原因の一つです。硬い便を出そうとして強くいきむことで、肛門周辺の血管に大きな圧力がかかり、うっ血してしまいます。
慢性的な便秘により、繰り返し強いいきみを行うことで、徐々に血管が膨らみ、いぼ痔へと進行していきます。また、トイレに長時間座る習慣も、肛門への圧迫が続くため好ましくありません。
下痢
下痢もいぼ痔の原因になります。頻繁な排便により肛門に負担がかかり、また、勢いよく便が出ることで肛門周辺の組織を傷つけることがあります。
特に慢性的な下痢は、肛門への刺激が続くため、いぼ痔のリスクを高めます。
長時間の座位
デスクワークや長時間の運転など、長時間座り続ける生活習慣は、肛門周辺の血流を悪くし、うっ血を引き起こします。
同じ姿勢を続けることで、肛門部分に体重がかかり続け、血液の循環が悪くなることが原因です。
妊娠・出産
妊娠中は子宮が大きくなることで腹部の血管が圧迫され、肛門周辺の血流が悪くなります。また、ホルモンの影響で便秘になりやすくなることも、いぼ痔の発症リスクを高めます。
出産時の強いいきみも、肛門に大きな負担をかけるため、産後にいぼ痔を発症する方が多くいらっしゃいます。
加齢
年齢を重ねると、肛門周辺の組織を支える筋肉や靭帯が弱くなり、いぼ痔が発症しやすくなります。特に40代以降で発症率が高くなる傾向があります。
食生活
以下のような食生活は、いぼ痔のリスクを高めます。
- 食物繊維の不足: 便が硬くなり、便秘の原因になります
- 水分摂取の不足: 便が硬くなる原因になります
- 刺激物の過剰摂取: 香辛料やアルコールは肛門周辺の血流を増加させ、うっ血を招きます
- 脂肪分の多い食事: 消化に時間がかかり、便秘の原因になります
運動不足
運動不足は全身の血行を悪くし、特に下半身の血流低下につながります。また、腹筋が弱くなることで、排便時に十分な腹圧をかけられず、便秘の原因にもなります。
重い物を持つ仕事や激しいスポーツ
重い物を持ち上げる際に強くいきむことや、重量挙げのような腹圧が急激に高まるスポーツは、肛門周辺の血管に負担をかけます。
遺伝的要因
家族にいぼ痔の方がいる場合、遺伝的に血管の構造や組織の強さが似ているため、発症しやすい傾向があります。
ストレス
ストレスは自律神経のバランスを崩し、腸の働きに影響を与えます。その結果、便秘や下痢を引き起こし、間接的にいぼ痔の原因となることがあります。
診断方法
いぼ痔の診断は、問診、視診、触診、そして必要に応じて器械を使った検査により行われます。恥ずかしさから受診を躊躇される方も多いですが、専門医による正確な診断が適切な治療への第一歩です。
問診
まず、症状について詳しくお話を伺います。
- いつから症状があるか
- 出血の有無や量、色
- 痛みの程度や発生するタイミング
- 脱出の有無
- 排便習慣(便秘や下痢の有無)
- 生活習慣(座位時間、運動習慣、食生活など)
これらの情報から、いぼ痔の可能性や重症度をある程度推測します。
視診・触診
肛門周囲を直接観察し、外痔核の有無、肛門の状態、皮膚の炎症などを確認します。また、手袋をつけた指で肛門内を触診し、内痔核の有無や大きさ、硬さなどを調べます。
この際、腫瘍など他の疾患がないかも確認します。
肛門鏡検査
肛門鏡という器具を使って、肛門の内側を直接観察します。内痔核の位置、大きさ、数、進行度などを詳しく確認することができます。
検査自体は数分で終わり、痛みもほとんどありません。
直腸鏡検査・大腸内視鏡検査
出血がある場合、大腸がんやポリープなど他の疾患との鑑別が必要になることがあります。そのような場合は、直腸鏡や大腸内視鏡を使って、直腸や大腸の状態を詳しく調べます。
特に、以下のような場合は、より詳しい検査が推奨されます。
- 50歳以上で初めて出血がある場合
- 出血が続く場合
- 便の色が黒っぽい場合
- 体重減少や腹痛などの症状を伴う場合
- 家族に大腸がんの既往がある場合
鑑別診断
いぼ痔と似た症状を示す疾患には、以下のようなものがあります。
- 大腸がん
- 大腸ポリープ
- 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)
- 直腸脱
- 肛門周囲膿瘍
これらの疾患を見逃さないためにも、専門医による診察が重要です。
治療方法
いぼ痔の治療は、症状の程度や種類によって異なります。軽度の場合は生活習慣の改善や薬物療法などの保存的治療で改善することが多く、重症の場合は手術などの外科的治療が必要になることもあります。
保存的治療(非手術的治療)
生活習慣の改善
いぼ痔治療の基本は、生活習慣の改善です。以下のポイントを心がけることで、症状の改善や再発予防につながります。
排便習慣の改善
- 便意を我慢しない
- トイレに長時間座らない(5分以内を目安に)
- 強くいきまない
- 朝食後など、決まった時間にトイレに行く習慣をつける
食生活の改善
- 食物繊維を十分に摂取する(野菜、果物、海藻、きのこ類など)
- 水分を十分に摂る(1日1.5〜2リットルを目安に)
- アルコールや刺激物を控える
- 規則正しい食事時間を心がける
運動習慣
- 適度な運動を取り入れる(ウォーキング、水泳など)
- 長時間座りっぱなしを避け、こまめに立ち上がって体を動かす
- 骨盤底筋を鍛える運動を行う
入浴
- ぬるめのお湯にゆっくり浸かり、肛門周辺の血行を良くする
- シャワーのみでなく、湯船に浸かる習慣をつける
薬物療法
症状に応じて、さまざまな薬が使用されます。
坐薬・軟膏 肛門に直接作用する局所治療薬で、以下のような成分が配合されています。
- 抗炎症成分:腫れや炎症を抑える
- 局所麻酔成分:痛みやかゆみを和らげる
- 血流改善成分:血行を良くしてうっ血を改善する
- ステロイド成分:強い炎症を抑える(短期間の使用に限定)
内服薬
- 便を柔らかくする薬(緩下剤):排便をスムーズにする
- 血流改善薬:静脈の緊張を高め、うっ血を改善する
- 止血剤:出血がある場合に使用
- 痛み止め:痛みが強い場合に使用
漢方薬 体質改善を目的として、以下のような漢方薬が使われることがあります。
- 乙字湯(おつじとう):痔の代表的な漢方薬
- 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん):血行を改善する
- 大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう):便秘を改善する
注射療法(硬化療法)
内痔核に硬化剤を注射し、痔核を固めて小さくする治療法です。主にⅠ度からⅢ度の内痔核に対して行われます。
外来で行える簡便な治療で、痛みもほとんどありません。ただし、効果が一時的な場合もあり、再発することがあります。
ゴム輪結紮療法
内痔核の根元に特殊なゴム輪を装着し、血流を遮断して痔核を壊死させ、自然に脱落させる方法です。主にⅡ度からⅢ度の内痔核に対して行われます。
外来で行える治療ですが、処置後に痛みや出血を伴うことがあります。
外科的治療(手術)
保存的治療で改善しない場合や、重症の場合は手術が検討されます。
結紮切除術(けっさつせつじょじゅつ)
痔核を根元で結紮(縛る)して切除する、最も一般的で確実性の高い手術方法です。Ⅲ度以上の内痔核や、大きな外痔核に対して行われます。
入院が必要で(通常3〜7日程度)、術後の痛みがある程度ありますが、再発率が低いことが特徴です。
ALTA療法(ジオン注射療法)
痔核に四段階注射法という特殊な方法でALTA(硫酸アルミニウムカリウム・タンニン酸)という薬剤を注射し、痔核を硬化・縮小させる治療法です。
切らない治療として注目されており、入院期間も短く(2〜4日程度)、術後の痛みも比較的軽いのが特徴です。主に内痔核に対して行われます。
PPH法(自動吻合器を用いた痔核根治術)
自動吻合器という器械を使って、脱出した直腸粘膜を切除し、痔核への血流を遮断する方法です。
術後の痛みが比較的少なく、入院期間も短いことが特徴ですが、すべての症例に適応できるわけではありません。
血栓摘出術
血栓性外痔核に対して、局所麻酔下で血栓を摘出する小手術です。外来または日帰りで行えることが多く、血栓を取り除くことで劇的に症状が改善します。
治療法の選択
治療法は、以下のような要因を総合的に考慮して決定されます。
- 痔核の種類(内痔核、外痔核)
- 進行度(Ⅰ〜Ⅳ度)
- 症状の程度
- 患者さんの年齢や全身状態
- 生活スタイルや希望
医師とよく相談しながら、自分に最適な治療法を選択することが大切です。
予防方法
いぼ痔は生活習慣と深く関わっている疾患です。日常生活で以下のような点に気をつけることで、発症を予防したり、再発を防いだりすることができます。
便秘・下痢の予防
食物繊維を十分に摂る
食物繊維は便の量を増やし、柔らかくする働きがあります。以下のような食品を積極的に摂りましょう。
- 野菜類:ごぼう、にんじん、ブロッコリー、キャベツ、ほうれん草など
- 果物類:りんご、バナナ、キウイ、プルーンなど
- 海藻類:わかめ、ひじき、もずくなど
- きのこ類:しいたけ、えのき、しめじなど
- 豆類:納豆、大豆、小豆など
- 穀類:玄米、麦ごはん、全粒粉パンなど
1日に20〜25gの食物繊維摂取が推奨されています。
水分を十分に摂る
水分が不足すると便が硬くなります。1日1.5〜2リットル程度の水分摂取を心がけましょう。特に朝起きた時にコップ1杯の水を飲むと、腸の働きが活発になります。
規則正しい食生活
3食を決まった時間に摂ることで、腸の働きが規則的になり、自然な便意が起こりやすくなります。特に朝食を抜かないことが大切です。
プロバイオティクスの活用
ヨーグルトや乳酸菌飲料など、腸内環境を整える食品を取り入れることも効果的です。
排便習慣の改善
便意を我慢しない
便意を感じたら、できるだけすぐにトイレに行くようにしましょう。我慢を繰り返すと、便意を感じにくくなり、便秘の原因になります。
トイレで長時間いきまない
トイレに座っている時間は5分以内を目安にしましょう。長時間座っていると、肛門部分に圧力がかかり続け、うっ血の原因になります。スマートフォンや本を持ち込むのは避けましょう。
正しい排便姿勢
洋式トイレでは、足元に台を置いて前かがみの姿勢をとると、直腸と肛門の角度が直線に近くなり、排便しやすくなります。
適度な運動
ウォーキング
1日30分程度のウォーキングは、全身の血行を良くし、腸の働きも活発にします。
水泳
水中での運動は、体への負担が少なく、全身の血行改善に効果的です。
ストレッチ
デスクワークの合間にストレッチを行うことで、長時間同じ姿勢でいることによる血行不良を防ぎます。
骨盤底筋運動
肛門を締めたり緩めたりする運動を繰り返すことで、肛門周辺の筋肉を鍛え、血行を改善します。
長時間の座位を避ける
こまめに立ち上がる
デスクワークの場合、1時間に1回は立ち上がって体を動かしましょう。
クッションの活用
ドーナツ型クッションなど、肛門部分に圧力がかからないクッションを使用するのも効果的です。
座る姿勢に注意
背筋を伸ばし、お尻の穴に圧力がかからないよう、太ももに体重を分散させる姿勢を心がけましょう。
入浴習慣
ぬるめのお湯にゆっくり浸かる
38〜40度程度のぬるめのお湯に10〜15分浸かることで、肛門周辺の血行が良くなります。熱すぎるお湯は逆効果なので注意しましょう。
シャワーだけで済ませない
シャワーのみでは十分な血行改善効果が得られません。できるだけ湯船に浸かる習慣をつけましょう。
お酒・刺激物の摂り過ぎに注意
アルコールや香辛料は、肛門周辺の血流を増加させ、うっ血を招きます。適量を守り、摂り過ぎないようにしましょう。
冷えの予防
体が冷えると血行が悪くなります。特に下半身を冷やさないよう、以下の点に注意しましょう。
- 薄着を避ける
- 腹巻きや厚手の靴下を活用する
- エアコンの風が直接当たらないようにする
ストレス管理
ストレスは腸の働きに影響を与えます。適度な運動、十分な睡眠、趣味の時間など、自分なりのストレス解消法を見つけることが大切です。
妊娠中・産後の注意
妊娠中や産後は特にいぼ痔になりやすい時期です。以下の点に注意しましょう。
- 便秘にならないよう、食物繊維と水分を十分に摂る
- 医師に相談して、妊婦でも使用できる便秘薬を処方してもらう
- 長時間同じ姿勢でいることを避ける
- 産後は無理をせず、十分な休息を取る
日常生活での注意点
いぼ痔と上手に付き合っていくために、日常生活で気をつけたいポイントをご紹介します。
清潔の保持
排便後の処理
トイレットペーパーで強くこすると、肛門周辺を傷つけてしまいます。優しく押さえるようにして拭きましょう。可能であれば、温水洗浄便座を使用したり、シャワーで洗い流したりすることをおすすめします。
ただし、温水洗浄便座の使い過ぎも逆効果です。水圧は弱めに設定し、長時間使用しないようにしましょう。
下着の選び方
通気性の良い綿素材の下着を選び、締め付けの強いものは避けましょう。清潔を保つため、こまめに交換することも大切です。
仕事での注意点
デスクワーク
前述のとおり、こまめに立ち上がって体を動かしましょう。休憩時間には軽いストレッチを行うと効果的です。
立ち仕事
長時間立ちっぱなしも、下半身の血行を悪くします。できるだけこまめに休憩を取り、座ったり歩いたりして姿勢を変えましょう。
重い物を持つ仕事
重い物を持ち上げる際は、急に力を入れず、膝を曲げて腰を落としてから持ち上げるようにしましょう。また、息を止めていきむことは避け、呼吸をしながら持ち上げます。
スポーツをする際の注意
激しい運動や腹圧が高まるスポーツ(重量挙げ、格闘技など)は、いぼ痔のリスクを高めます。すでにいぼ痔がある方は、医師に相談しながら適切な運動を選びましょう。
軽いジョギングや水泳、ヨガなどは、血行改善に効果的でおすすめです。
旅行時の注意
長時間の移動では、同じ姿勢が続くことで血行が悪くなります。車や飛行機での移動中も、こまめに姿勢を変えたり、休憩時に歩いたりしましょう。
また、旅行中は食生活や排便リズムが乱れがちです。水分補給を忘れず、できるだけ規則正しい食事を心がけましょう。
症状が悪化したときの対処
症状が悪化した場合は、無理をせず早めに医療機関を受診することが大切です。以下のような症状がある場合は、特に注意が必要です。
- 出血が多い、または止まらない
- 激しい痛みがある
- いぼが大きく腫れている
- 発熱がある
- 便の色が黒っぽい(タール便)
応急処置として、患部を冷やしたり、市販の痔の薬を使用したりすることもできますが、あくまで一時的な対処法です。症状が続く場合は必ず医師の診察を受けましょう。

よくある質問
A. 初期のいぼ痔であれば、生活習慣の改善により自然に治ることもあります。しかし、進行したいぼ痔は自然治癒が難しく、放置すると悪化する可能性があります。症状が続く場合や悪化する場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
A. 軽症のいぼ痔であれば、市販薬で症状が改善することもあります。ただし、市販薬はあくまで症状を和らげるものであり、根本的な治療にはなりません。2週間程度使用しても改善しない場合は、医療機関を受診することをおすすめします。
A. 手術方法によって異なりますが、現在は麻酔技術や手術方法の進歩により、術後の痛みは以前に比べて大幅に軽減されています。また、痛み止めも適切に使用されるため、我慢できないほどの痛みが続くことはほとんどありません。
Q4. 手術後、仕事はいつから復帰できますか?
A. 手術方法や個人差によりますが、デスクワークであれば1〜2週間程度、立ち仕事や体を使う仕事であれば2〜4週間程度で復帰できることが多いです。医師と相談しながら、無理のない復帰計画を立てましょう。
Q5. いぼ痔は再発しますか?
A. 手術後も生活習慣が改善されなければ、再発する可能性があります。便秘や下痢の予防、適度な運動、正しい排便習慣など、日常生活での注意を続けることが再発予防につながります。
Q6. 妊娠中にいぼ痔になったらどうすればいいですか?
A. 妊娠中は便秘になりやすく、またお腹が大きくなることで肛門周辺の血流が悪くなるため、いぼ痔になりやすい時期です。まずは産婦人科の医師に相談しましょう。妊娠中でも使用できる薬や、生活習慣の改善方法について指導を受けられます。
Q7. 大腸がんといぼ痔の違いは?
A. 出血という症状は共通していますが、いぼ痔による出血は鮮やかな赤色であることが多く、大腸がんによる出血は黒っぽいことが多いです。ただし、症状だけでは区別が難しい場合もあるため、出血が続く場合は必ず医療機関で検査を受けましょう。
Q8. 若い人でもいぼ痔になりますか?
A. はい、なります。いぼ痔は年齢に関係なく発症する可能性があります。特に最近は、若い世代でもデスクワークや運動不足、不規則な食生活などから、いぼ痔になる方が増えています。
Q9. 恥ずかしくて病院に行けません
A. その気持ちはよく分かりますが、肛門科や大腸肛門科の医師は、毎日多くの患者さんを診察しており、全く気にすることはありません。早期に適切な治療を受けることで、症状を早く改善でき、重症化を防ぐことができます。女性の場合、女性医師のいる病院を選ぶこともできます。
Q10. 痔は遺伝しますか?
A. 痔自体が直接遺伝するわけではありませんが、血管の構造や組織の強さなどは遺伝的要素があるため、家族にいぼ痔の方がいる場合は、発症しやすい傾向があります。ただし、生活習慣に気をつけることで予防は可能です。
まとめ
いぼ痔は非常に一般的な疾患であり、適切な知識と対処法を知ることで、症状の改善や予防が可能です。本記事の重要なポイントをまとめます。
いぼ痔の基本
- いぼ痔は肛門周辺の血管がうっ血して膨らんだ状態
- 内痔核と外痔核の2種類があり、症状や治療法が異なる
- 日本人の3人に1人が経験する一般的な疾患
主な原因
- 便秘・下痢による排便時のいきみ
- 長時間の座位
- 妊娠・出産
- 加齢
- 運動不足や食生活の乱れ
症状
- 出血(鮮やかな赤色の血液)
- 脱出(いぼが肛門外に出る)
- 痛み(特に外痔核)
- 違和感、かゆみ、粘液の分泌
治療
- 軽症:生活習慣の改善、薬物療法
- 中等症:注射療法、ゴム輪結紮療法
- 重症:手術(結紮切除術、ALTA療法など)
予防のポイント
- 便秘・下痢の予防(食物繊維と水分の十分な摂取)
- 正しい排便習慣(便意を我慢しない、長時間いきまない)
- 適度な運動
- 長時間の座位を避ける
- 入浴で血行を良くする
- ストレス管理
日常生活での注意
- 清潔の保持
- こまめに姿勢を変える
- 下着は通気性の良いものを選ぶ
- 重い物を持つときは正しい姿勢で
いぼ痔は恥ずかしい病気と思われがちですが、適切な治療を受けることで、生活の質を大きく改善することができます。症状が続く場合や悪化する場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
また、すでに治療を受けた方も、生活習慣の改善を続けることで、再発を防ぐことができます。本記事が、いぼ痔で悩む方の一助となれば幸いです。
参考文献
本記事の作成にあたり、以下の信頼できる情報源を参考にしました。
- 日本大腸肛門病学会
https://www.coloproctology.gr.jp/
肛門疾患に関する専門的な情報を提供する学会のウェブサイト - 厚生労働省 e-ヘルスネット「痔核」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
国民の健康増進のための情報を提供する厚生労働省の公式サイト - 日本消化器病学会
https://www.jsge.or.jp/
消化器疾患に関する情報を提供する学会のウェブサイト - 国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/
大腸がんなど、鑑別が必要な疾患に関する情報
※ 本記事は一般的な医療情報を提供することを目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状がある場合は、必ず医療機関を受診し、医師の診断を受けてください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務