シェーグレン症候群と芸能人 ~和田アキ子さん、菊池桃子さんらの公表事例で考える見えない病気と向き合う勇気~

はじめに

「水がないと生きていけない」―これは、シェーグレン症候群を公表した歌手・タレントの和田アキ子さんの言葉です。一見すると健康そうに見える芸能人の方々も、実は見えない病気と闘いながら活動を続けています。

シェーグレン症候群は、2025年版の診療ガイドラインが日本リウマチ学会から発行され、医療の現場でも注目が高まっている自己免疫疾患の一つです。日本では医療受給者証保持者数が2万476人、推定患者数は約6万8,000人とされていますが、実際にはもっと多くの方が診断を受けずに症状に悩んでいる可能性があります。

本コラムでは、シェーグレン症候群という病気について、芸能人の方々の体験も交えながら、最新の医療情報と共に詳しく解説していきます。

第1章:シェーグレン症候群とは

1-1. 病気の概要と歴史

シェーグレン症候群は、主に30~60代の女性に多く見られる自己免疫疾患で、1933年にスウェーデンの眼科医シェーグレンの発表した論文にちなんで名付けられました。この病気は、本来体を守るはずの免疫システムが、誤って自分の体の組織を攻撃してしまうことで起こります。

主に涙腺や唾液腺など、体液を分泌する腺に白血球が侵入し、それらの腺を傷つけることで、口腔の乾燥や眼の乾燥(ドライアイ)が起きます。しかし、症状は単なる乾燥にとどまらず、全身に様々な影響を及ぼすことがあります。

1-2. 疫学データと患者の特徴

シェーグレン症候群の有病率は2,000人あたり1人と推定され、男女比は1対17で圧倒的に女性に多い疾患です。発症のピークは50代にありますが、全年齢で発症する可能性があります。

この病気には以下の2つの型があります:

一次性シェーグレン症候群

  • 他の膠原病の合併がない独立した病気
  • 全体の約60%を占める
  • 腺型(涙腺・唾液腺に限局)と腺外型(全身の臓器に及ぶ)に分類

二次性シェーグレン症候群

  • 関節リウマチや全身性エリテマトーデスなど他の膠原病に合併
  • 全体の約40%を占める
  • 基礎疾患の管理も重要

1-3. 発症メカニズムと原因

シェーグレン症候群の直接的原因は現在も解明されていませんが、主に自己免疫応答が関わるとされており、抗SS-A/Ro抗体および抗SS-B/La抗体などの自己抗体の存在、遺伝的因子、環境因子、性ホルモンの影響などが考えられています。

特に女性に多い理由として、女性ホルモンの影響が指摘されており、更年期前後の発症が多いことからも、ホルモンバランスの変化が発症の引き金になる可能性が示唆されています。

第2章:シェーグレン症候群の症状

2-1. 主要な症状(乾燥症状)

眼の症状(ドライアイ) 涙の分泌様式である基礎分泌と反射性分泌の双方に障害を与え、ドライアイなどを起こします。具体的には:

  • 目の乾燥感、異物感
  • 目の疲れやすさ
  • 充血
  • まぶしさを感じやすい
  • 視界のかすみ

口腔症状(ドライマウス) 自己免疫現象により唾液腺が破壊され唾液の分泌が減少します。唾液には抗菌作用を持つ物質が含まれるため、分泌減少は虫歯や酸蝕症の増加につながります。症状として:

  • 口の中の乾燥感
  • 食べ物が飲み込みにくい
  • 味覚の変化
  • 口内炎の頻発
  • 虫歯の増加
  • 声のかすれ

2-2. 全身症状(腺外症状)

腺外症状として、倦怠感や関節痛といった全身症状や、間質性肺炎、腎炎、神経症状、紫斑、紅斑などが現れることがあります。

約50%の患者さんに以下のような全身症状が見られます:

  • 全身倦怠感(易疲労感)
  • 関節痛・関節炎
  • 皮膚症状(発疹、光線過敏症)
  • レイノー現象(指先の色調変化)
  • 間質性肺炎
  • 腎機能障害
  • 末梢神経障害
  • 筋肉痛・筋力低下

2-3. 合併症のリスク

シェーグレン症候群の患者では、リンパ系のがんであるリンパ腫が多くみられ、非ホジキンリンパ腫の発生率が正常な人の40倍になります。このため、定期的な検査と経過観察が重要となります。

第3章:芸能人・有名人とシェーグレン症候群

3-1. 和田アキ子さんのケース

タレントや歌手として活躍している和田アキ子さんは、2016年10月に自身のラジオ番組でシェーグレン症候群であると話しました。涙や唾液が出ないなどの症状があり、「水がないと生きていけない」と口を潤すために水を手放すことができない状態だと語っています。

歌手として、話すことが仕事の中心である和田さんにとって、口の乾燥は特に深刻な問題です。それでも精力的に活動を続ける姿は、同じ病気で悩む多くの患者さんに勇気を与えています。

3-2. 菊池桃子さんのケース

女優・タレントの菊池桃子さんもシェーグレン症候群を公表しています。菊池さんの場合も、日常生活や仕事において様々な工夫をしながら活動を続けており、病気と上手に付き合いながら生活することの大切さを示しています。

3-3. ヴィーナス・ウィリアムズさんのケース

元世界1位のテニスプレイヤーのヴィーナス・ウィリアムズさんは、2011年の全米テニスの2回戦を棄権し、その後シェーグレン症候群と診断されていることを発表しました。

プロアスリートとして最高レベルで活動していた彼女にとって、全身の倦怠感や関節痛などの症状は、競技生活に大きな影響を与えました。しかし、適切な治療と管理により、その後も競技を続けることができています。

3-4. 公表することの意義

これらの著名人が病気を公表することには、大きな意義があります:

  1. 病気の認知度向上:一般の人々にシェーグレン症候群という病気の存在を知ってもらう機会となる
  2. 患者への励まし:同じ病気で悩む患者さんに「一人ではない」というメッセージを送る
  3. 偏見の解消:見た目では分からない病気への理解を促進する
  4. 早期発見の促進:症状に心当たりがある人が受診するきっかけとなる

第4章:診断方法と検査

4-1. 診断基準

診断は1999年の厚生労働省の改訂診断基準を用い、診断基準4項目のうちいずれか2項目が陽性であればシェーグレン症候群と診断されます。主な診断項目は:

  1. 口唇小唾液腺または涙腺の生検病理組織検査
  2. 口腔検査(唾液分泌量測定、唾液腺造影など)
  3. 眼科検査(シルマー試験、ローズベンガル試験など)
  4. 血液検査(抗SS-A/Ro抗体、抗SS-B/La抗体)

4-2. 具体的な検査内容

唾液腺機能検査

  • ガムテスト:ガムを10分間噛んで分泌される唾液量を測定
  • サクソンテスト:ガーゼを2分間噛んで吸収される唾液量を測定
  • 唾液腺造影:造影剤を注入してX線撮影
  • 唾液腺シンチグラフィー:放射性同位元素を使用した機能評価

涙腺機能検査

  • シルマー試験:濾紙を下まぶたに挟み、涙の分泌量を測定
  • ローズベンガル試験:染色液を用いて角結膜の障害を評価
  • 涙液層破壊時間(BUT)測定:涙の安定性を評価

血液検査 抗SS-A/Ro抗体は一次性シェーグレン症候群の約50-70%、抗SS-B/La抗体は約20-35%に認められます。抗SS-B/La抗体は一次性シェーグレン症候群に特異性が高い検査です。

4-3. 鑑別診断

シェーグレン症候群と似た症状を示す病気との鑑別も重要です:

  • 加齢による乾燥症
  • 薬剤性の乾燥症(抗うつ薬、抗アレルギー薬など)
  • IgG4関連疾患(ミクリッツ病)
  • サルコイドーシス
  • 糖尿病による乾燥症状

第5章:現在の治療法

5-1. 対症療法

現在のところ、シェーグレン症候群を根治する治療法はなく、主に症状を緩和する対症療法が中心となります。

ドライアイの治療 レバミピド点眼液、ジクアホソル点眼液、ヒアルロン酸点眼液は角結膜上皮障害や眼乾燥症を改善します。ジクアホソル点眼液には涙液量の改善傾向があります。また、涙点プラグは涙液量、角膜上皮障害、眼乾燥症を改善します。

ドライマウスの治療 口腔乾燥症状にはセビメリン塩酸塩(サリグレン、エボザック)、ピロカルピン塩酸塩(サラジェン)が唾液分泌量を増加させ、口腔乾燥症状の改善に有用です。これらの薬剤は、唾液腺のムスカリン受容体を刺激することで唾液分泌を促進します。

5-2. 全身症状への治療

腺外症状に対しては、症状の程度に応じて以下の治療が行われます:

軽症~中等症

  • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):関節痛・筋肉痛の緩和
  • ヒドロキシクロロキン:関節症状、皮膚症状の改善
  • 低用量ステロイド:全身症状のコントロール

重症(臓器障害を伴う場合)

  • 中~高用量ステロイド
  • 免疫抑制薬(メトトレキサート、アザチオプリンなど)
  • 生物学的製剤(リツキシマブなど):特定の重症例

5-3. 補助的治療

口腔ケア

  • フッ素塗布による虫歯予防
  • 定期的な歯科検診(3~6か月ごと)
  • 口腔保湿剤の使用
  • キシリトールガムによる唾液分泌促進

その他の対策

  • 加湿器の使用
  • こまめな水分補給
  • 刺激の少ない食事
  • 禁煙・節酒

第6章:最新の研究と治療開発

6-1. 新薬の開発状況

Johnson & Johnson社が開発中のnipocalimabは、第II相臨床試験でシェーグレン症候群の疾患活動性を有意に改善することが示されました。この薬剤は、自己抗体の働きを抑制する新しいメカニズムを持つ薬剤として期待されています。

現時点では効果的な生物学的製剤や分子標的治療薬がまだ発売されていませんが(2025年8月現在)、世界各国で多くの薬剤の治験が行われており、あと数年でいくつかの薬剤が承認される可能性があります。

6-2. 再生医療への期待

iPS細胞による涙腺再生

大阪大学大学院医学系研究科の林竜平教授らの研究グループは、ヒトiPS細胞から機能的な3次元涙腺オルガノイドを作製する方法を世界で初めて確立しました。この研究の特徴は:

  1. ヒトiPS細胞を用いた2次元の眼様オルガノイド誘導法により、涙腺様細胞の誘導に成功
  2. 3次元培養により腺発生に特徴的な導管の出芽と分岐を伴う涙腺オルガノイドを誘導
  3. 動物(ラット)への移植により、成熟した涙腺組織への分化を確認

この研究成果は、涙腺の機能を根本的に再生できる可能性を示しており、シェーグレン症候群等により引き起こされる重症ドライアイに対する再生治療法として期待されています。

6-3. 治療評価指標の進化

これまで医学的には全身症状が重視されてきましたが、患者さんが最も困っているドライネス(目や口の乾燥症状)の評価も重要視されるようになってきています。ESSPRI(EULAR Sjogren’s Syndrome Patient Reported Index)という指標により、乾燥症状、倦怠感、疼痛の3つで構成される患者さんの主観的な症状も評価されるようになりました。

6-4. 診断技術の向上

最新の画像診断技術により、より早期かつ正確な診断が可能になってきています:

  • 唾液腺エコー検査:非侵襲的で繰り返し検査が可能
  • MRI検査:唾液腺の詳細な評価が可能
  • PET-CT:全身の炎症部位の把握

第7章:日常生活での対処法とQOL向上

7-1. 生活環境の工夫

シェーグレン症候群は乾燥を防いで不快な症状を緩和し、QOLを低下させない習慣が大切です。具体的な対策として:

室内環境

  • 加湿器の設置(湿度50-60%を維持)
  • エアコンの風が直接当たらない工夫
  • 観葉植物による自然な加湿
  • 定期的な換気

外出時の対策 水筒やペットボトルを持ち歩き、こまめに水分補給をしましょう。人工唾液を使用しなくても、水分補給だけで十分に症状を緩和できるケースがあります。

7-2. 食事と栄養管理

推奨される食事

  • 水分を多く含む食べ物(スープ、お粥など)
  • 柔らかく飲み込みやすい食事
  • 酸味の少ない果物
  • ビタミンA、C、Eを含む食品(抗酸化作用)

避けるべき食品

  • 辛い食べ物、香辛料
  • アルコール類
  • カフェインを多く含む飲料
  • 乾燥した食品(クラッカー、せんべいなど)

7-3. 口腔ケアの重要性

こまめな歯磨きとうがいは、口やのどの乾燥を和らげると共に、ドライマウスによる虫歯を防ぎます。また、口やのどのバリア機能を高めることで、感染症対策にもなります。半年に1回は歯科を受診し、プロのチェックとメンテナンスを受けるようにしましょう。

日常的な口腔ケア

  • 食後3分以内の歯磨き
  • フッ素入り歯磨き粉の使用
  • デンタルフロスや歯間ブラシの活用
  • 口腔保湿スプレーやジェルの使用
  • キシリトールガムによる唾液分泌促進

7-4. 眼のケア

ドライアイ用の眼鏡の着用も効果的です。シリコン製のカバーで目の周りをすっぽりと覆うので風よけになり、涙の蒸散を防ぐことができます。外出時だけでなく、冷暖房の風よけにも適しています。

日常的な眼のケア

  • 定期的な点眼(医師の指示に従う)
  • パソコン作業時の休憩(20-20-20ルール:20分ごとに20フィート先を20秒見る)
  • まばたきを意識的に行う
  • ホットアイマスクによる眼の周りの血流改善

第8章:患者さんとご家族へのメッセージ

8-1. 病気との向き合い方

シェーグレン症候群は、現在のところ完治する治療法がない慢性疾患です。しかし、適切な治療と生活管理により、症状をコントロールしながら充実した生活を送ることは十分可能です。

心構えとして大切なこと

  1. 病気を正しく理解する:正確な知識を持つことで、不安を軽減できます
  2. 無理をしない:体調に合わせて活動量を調整することが大切です
  3. 一人で抱え込まない:家族や医療者、患者会などのサポートを活用しましょう
  4. 前向きな姿勢:芸能人の方々も病気と向き合いながら活動を続けています

8-2. 社会的支援制度

シェーグレン症候群は指定難病(難病53)に認定されており、一定の重症度を超える場合に医療費助成を受けることができます。

利用できる制度

  • 指定難病医療費助成制度
  • 身体障害者手帳(重度の視力障害などがある場合)
  • 障害年金(日常生活に著しい制限がある場合)
  • 高額療養費制度

申請方法や条件については、主治医やソーシャルワーカーに相談することをお勧めします。

8-3. 患者会とピアサポート

同じ病気を持つ患者さん同士の交流は、精神的な支えとなり、実用的な情報交換の場にもなります。日本シェーグレン症候群患者会などの組織があり、定期的な交流会や情報提供を行っています。

8-4. 家族の理解とサポート

シェーグレン症候群は「見えない病気」であるため、周囲の理解を得ることが難しい場合があります。家族や職場の方々には:

  • 症状が日によって変動すること
  • 疲れやすく、休息が必要なこと
  • 乾燥症状は単なる不快感ではなく、痛みを伴うこと
  • 精神的なサポートが回復の助けになること

これらを理解していただくことが重要です。

第9章:医療機関の選び方と継続的な管理

9-1. 専門医療機関の選択

シェーグレン症候群の診療は、複数の診療科が連携して行うことが理想的です:

主な診療科

  • リウマチ・膠原病内科:全身管理、薬物療法
  • 眼科:ドライアイの治療
  • 歯科・口腔外科:ドライマウス、口腔ケア
  • 耳鼻咽喉科:唾液腺の評価

慶應義塾大学病院では、眼科・歯科口腔外科と協力しながら、シェーグレン症候群の診療にあたっています。このような総合的な診療体制を持つ医療機関を選ぶことが望ましいです。

9-2. 定期検査の重要性

シェーグレン症候群は、間質性肺炎や間質性腎炎などの重い病気に移行することもあるので、定期的な受診が必須となります。

推奨される検査頻度

  • 血液検査:3-6か月ごと
  • 眼科検査:3-6か月ごと
  • 歯科検診:3-6か月ごと
  • 胸部X線:年1回
  • 腹部エコー:年1回(リンパ腫のスクリーニング)

9-3. 症状日記の活用

日々の症状を記録することで、病状の変化を客観的に把握でき、医師との情報共有にも役立ちます:

記録すべき項目

  • 乾燥症状の程度(10段階評価など)
  • 倦怠感の有無と程度
  • 関節痛・筋肉痛の部位と強さ
  • 使用した薬剤と効果
  • 生活上の工夫と効果
  • その他気になる症状

9-4. 緊急時の対応

以下のような症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください:

  • 急激な視力低下
  • 激しい腹痛(唾液腺炎、膵炎の可能性)
  • 呼吸困難(間質性肺炎の急性増悪)
  • 四肢の脱力(低カリウム血症)
  • リンパ節の急速な腫大(リンパ腫の可能性)

第10章:未来への展望

10-1. 個別化医療の進展

遺伝子解析技術の進歩により、患者さん一人ひとりの体質や病型に合わせた治療(個別化医療・精密医療)が可能になってきています。将来的には:

  • 遺伝子検査による発症リスクの予測
  • バイオマーカーによる治療効果の予測
  • 個人に最適な薬剤の選択
  • 副作用リスクの事前評価

これらが実現することで、より効果的で安全な治療が可能になると期待されています。

10-2. AI技術の活用

人工知能(AI)技術の医療への応用により:

  • 早期診断の精度向上
  • 画像診断の自動化・高精度化
  • 症状予測と予防的介入
  • 創薬の効率化

これらの技術により、診断から治療まで全体的な医療の質が向上することが期待されています。

10-3. 患者中心の医療へ

これまで医学的には全身症状が重視されてきましたが、患者さんのADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)を大きく損なっているドライネスと、全身症状の両方を考えることが必要とされるようになってきています。

今後の医療では:

  • 患者報告アウトカム(PRO)の重視
  • 共同意思決定(SDM)の推進
  • 患者参画型の臨床研究
  • QOL向上を第一目標とした治療戦略

これらの取り組みにより、患者さんにとってより満足度の高い医療が実現されることが期待されます。

10-4. 社会的認知の向上

芸能人の方々の公表により、シェーグレン症候群の認知度は確実に高まってきています。今後さらに:

  • 学校教育での自己免疫疾患の理解促進
  • 職場での合理的配慮の充実
  • 社会保障制度の拡充
  • 患者支援団体の活動強化

これらが進むことで、患者さんが暮らしやすい社会の実現が期待されます。

まとめ

シェーグレン症候群は、涙腺や唾液腺を中心に全身に影響を及ぼす自己免疫疾患です。日本では約6万8,000人の患者さんがいると推定され、男女比1:17で圧倒的に女性に多い疾患です。

和田アキ子さん、菊池桃子さん、ヴィーナス・ウィリアムズさんなど、著名人の方々も この病気と向き合いながら活動を続けており、その姿は多くの患者さんに勇気を与えています。

現在は対症療法が中心ですが、nipocalimabなどの新薬の開発や、iPS細胞を用いた再生医療など、将来的な根治療法への期待も高まっています。

シェーグレン症候群は「見えない病気」であるがゆえに、周囲の理解を得ることが難しい面もありますが、適切な治療と生活管理により、充実した日常生活を送ることは十分可能です。患者さんご自身が病気を正しく理解し、医療者や家族と協力しながら、前向きに治療に取り組んでいくことが大切です。

私たち医療者は、患者さん一人ひとりの生活の質(QOL)向上を第一に考え、最新の医学的知見に基づいた治療と、心のこもったケアを提供してまいります。


参考文献

  1. 日本リウマチ学会編. シェーグレン症候群診療ガイドライン2025年版. 診断と治療社, 2025. https://www.shindan.co.jp/np/isbn/9784787827326/
  2. 厚生労働省. 指定難病53 シェーグレン症候群. 難病情報センター. https://www.nanbyou.or.jp/entry/111
  3. 林竜平, 西田幸二ほか. iPS細胞から涙腺オルガノイドの作製法を確立. 日本医療研究開発機構, 2022. https://www.amed.go.jp/news/release_20220421-01.html
  4. 日本シェーグレン症候群学会. http://sjogren.jp/
  5. 大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学. シェーグレン症候群. http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu04-5.html
  6. QLife 自己免疫疾患プラス. シェーグレン症候群. 2025. https://autoimmune.qlife.jp/diseases/sjogren/
  7. 慶應義塾大学病院 KOMPAS. シェーグレン症候群. 2024. https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000031/
  8. Johnson & Johnson. 第II相臨床試験の最新結果から、nipocalimabはシェーグレン症候群の疾患活動性を有意に改善. 2024. https://www.janssen.com/japan/press-release/20240704

免責事項:本コラムは一般的な医学情報の提供を目的としており、個別の症例に対する診断や治療の代替となるものではありません。症状がある場合は、必ず専門の医療機関を受診し、医師の診断を受けてください。

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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