精巣(睾丸、金玉)のしこりについて知っておくべきこと|原因・症状・対処法を解説

はじめに

精巣(睾丸、金玉)にしこりを発見したとき、多くの方が不安を感じることでしょう。「もしかして重大な病気では?」という心配は当然のことです。精巣のしこりは、良性のものから悪性のものまで、さまざまな原因によって生じます。

本記事では、精巣のしこりの原因、症状、診断方法、治療法について、医学的な観点から詳しく解説します。早期発見・早期治療が重要な疾患もあるため、正しい知識を身につけ、適切な対応をとることが大切です。

精巣のしこりとは

精巣の構造と役割

精巣は男性の陰嚢内に左右1つずつ存在する臓器で、男性ホルモン(テストステロン)の産生と精子の生成という重要な役割を担っています。正常な精巣は楕円形で、やや弾力のある柔らかい感触を持ち、大きさは成人で長径4〜5cm、短径2.5〜3cm程度です。

精巣の表面は通常滑らかで、内部に明らかなしこりや硬結は触れません。精巣の上部から後方には精巣上体(副睾丸)が付着しており、ここは精子が成熟する場所です。この精巣上体は正常でもやや硬めに触れることがあるため、精巣本体のしこりと区別することが重要です。

しこりの定義

医学的に「しこり」とは、触診によって確認できる硬さの変化や腫瘤を指します。精巣のしこりは、精巣内部に生じる場合と、精巣の周囲(精巣上体や陰嚢壁など)に生じる場合があります。

しこりの性状によって、以下のように分類されます。

  • 硬さ:柔らかいもの、硬いもの、石のように硬いもの
  • 境界:明瞭なもの、不明瞭なもの
  • 可動性:動くもの、固定されているもの
  • 痛み:痛みを伴うもの、無痛性のもの
  • 大きさ:数ミリから数センチ以上まで様々

精巣のしこりの主な原因

精巣のしこりには、緊急性の高いものから比較的心配の少ないものまで、多様な原因があります。

1. 精巣腫瘍(精巣がん)

精巣腫瘍は、精巣のしこりの原因として最も注意が必要な疾患です。15〜35歳の若年男性に多く発症し、日本では年間約1,000人が罹患しています。近年、発症率が増加傾向にあることが報告されています。

特徴

  • 無痛性の硬いしこりとして発見されることが多い
  • 精巣全体が徐々に大きくなる
  • 片側の精巣が重く感じる
  • 約10%で痛みや不快感を伴う
  • 進行すると腰痛、腹痛、呼吸困難などが出現することも

精巣腫瘍は病理学的に、精上皮腫(セミノーマ)と非精上皮腫(非セミノーマ)に大きく分類されます。前者は放射線療法への反応が良好で、後者は化学療法が中心となります。いずれも早期発見・早期治療により治癒率は非常に高く、ステージIでは95%以上の5年生存率が報告されています。

リスク因子

  • 停留精巣(未治療または思春期以降に治療)の既往
  • 対側精巣腫瘍の既往
  • 精巣腫瘍の家族歴
  • 不妊症
  • クラインフェルター症候群などの染色体異常

2. 精巣上体炎

精巣上体炎は、精巣の上部に付着する精巣上体に炎症が生じる疾患です。細菌感染が原因で起こることが多く、急性と慢性があります。

特徴

  • 急激な発症で、激しい痛みと腫れを伴う
  • 発熱や悪寒を伴うことが多い
  • 陰嚢が赤く腫れる
  • 排尿時痛や頻尿を伴うことがある
  • 精巣上体部分が硬くしこりのように触れる

原因菌として、若年者では性感染症の原因菌(淋菌、クラミジア)が、中高年では大腸菌などの尿路感染症の原因菌が多いとされています。適切な抗菌薬治療により改善しますが、慢性化すると精巣上体が硬く肥厚し、しこりとして触れ続けることがあります。

3. 精液瘤(精巣上体嚢胞)

精液瘤は、精巣上体や精管に精液が貯留してできる良性の嚢胞性腫瘤です。40歳以上の男性に多く見られ、精巣のしこりの原因として比較的頻度の高い疾患です。

特徴

  • 無痛性で、柔らかい〜弾力性のあるしこり
  • 精巣の上部や後方に触れる
  • 透光性がある(光を当てると透けて見える)
  • 徐々に大きくなることがある
  • 通常は治療不要だが、大きくなって不快感がある場合は手術も検討

精液瘤は精巣本体とは別の構造物であるため、精巣機能に影響を与えることはありません。ただし、精巣腫瘍との鑑別が重要であり、超音波検査での確認が推奨されます。

4. 陰嚢水腫

陰嚢水腫は、精巣の周囲(鞘膜腔)に液体が貯留する状態です。新生児期と成人期に多く見られます。

特徴

  • 陰嚢全体が腫大する
  • 無痛性で、弾力のある腫れ
  • 透光性がある
  • 精巣自体は正常に触れることが多い
  • 朝と夕方で大きさが変化することも

成人の陰嚢水腫は、精巣上体炎や外傷後、精巣腫瘍に伴って生じることがあるため、原因の検索が重要です。大きくなって日常生活に支障がある場合は、穿刺排液や手術が検討されます。

5. 精巣捻転症

精巣捻転症は、精巣が捻じれることで血流が途絶え、精巣の壊死を来す緊急疾患です。新生児期と思春期(10〜18歳頃)に多く発症します。

特徴

  • 突然の激しい陰嚢痛
  • 吐き気や嘔吐を伴うことが多い
  • 精巣が腫大し、硬く触れる
  • 陰嚢が赤く腫れる
  • 発症から6時間以内の手術が精巣救済に重要

精巣捻転症は泌尿器科的緊急疾患であり、迅速な診断と治療が必要です。手術では捻転を解除し、精巣を陰嚢内に固定します。診断から治療開始までの時間が精巣救済率を左右するため、疑わしい症状があれば直ちに医療機関を受診する必要があります。

6. 鼠径ヘルニア(脱腸)

鼠径ヘルニアは、腹腔内の臓器(主に腸管)が鼠径部から陰嚢内に脱出する状態です。小児と高齢者に多く見られます。

特徴

  • 立位や腹圧がかかったときに陰嚢が腫大
  • 横になると自然に縮小することが多い
  • 柔らかく、圧迫すると戻ることがある
  • 嵌頓(もどらなくなる)すると激痛と腸閉塞を生じる
  • 精巣とは別の構造として触れる

鼠径ヘルニアは自然治癒しないため、基本的に手術治療が推奨されます。嵌頓すると緊急手術が必要となるため、早めの対処が重要です。

7. 精索静脈瘤

精索静脈瘤は、精巣から心臓へ戻る静脈(精索静脈)が拡張し、陰嚢内に静脈瘤を形成する状態です。男性不妊の原因の一つとしても知られています。

特徴

  • 陰嚢内に虫の袋のような柔らかい腫瘤を触れる
  • 左側に多い(約90%)
  • 立位で明瞭になり、臥位で縮小
  • 通常無痛性だが、鈍痛や重い感じを伴うことも
  • 進行すると精巣が小さくなることがある

精索静脈瘤は成人男性の約15%に見られる比較的頻度の高い疾患です。不妊症がある場合や、痛みなどの症状がある場合は手術が検討されます。

8. その他の原因

上記以外にも、以下のような原因で精巣のしこりが生じることがあります。

  • 精巣外傷後の血腫:打撲や外傷により精巣内や陰嚢内に血液が貯留
  • 精巣梅毒性ゴム腫:梅毒の晩期病変として精巣に肉芽腫を形成(現在は稀)
  • 脂肪腫:陰嚢壁の良性腫瘍
  • 表皮嚢腫:陰嚢皮膚の良性嚢胞
  • 結核性精巣上体炎:結核菌による精巣上体の慢性炎症(現在は稀)

症状と特徴の詳細

精巣のしこりに伴う症状は、原因疾患によって大きく異なります。症状の特徴を知ることで、緊急性や受診のタイミングを判断する助けになります。

警戒すべき症状(すぐに受診が必要)

以下の症状がある場合は、緊急性が高い可能性があるため、できるだけ早く泌尿器科を受診してください。

  1. 突然の激しい痛み
    • 精巣捻転症の可能性
    • 発症から数時間が勝負
  2. 発熱を伴う痛みと腫れ
    • 精巣上体炎や精巣炎の可能性
    • 早期の抗菌薬治療が必要
  3. 急速に大きくなるしこり
    • 悪性腫瘍や血腫の可能性
    • 精密検査が必要
  4. 硬く、表面が不整なしこり
    • 精巣腫瘍の可能性
    • 早期の診断・治療が重要

比較的緊急性の低い症状

以下の症状は比較的緊急性が低いですが、数日〜1週間以内には受診をお勧めします。

  1. 無痛性のしこり
    • 精巣腫瘍、精液瘤、陰嚢水腫など
    • 自己判断せず、医療機関での確認が必要
  2. 徐々に大きくなる陰嚢の腫れ
    • 陰嚢水腫、鼠径ヘルニアなど
    • 計画的な治療で対応可能
  3. 立位で出現し、臥位で消失するしこり
    • 精索静脈瘤、鼠径ヘルニアなど
    • 不妊との関連も評価が必要

症状の経過観察のポイント

しこりを発見した場合、以下の点を観察し、受診時に医師に伝えることが診断の助けになります。

  • いつ頃から気づいたか
  • 大きさは変化しているか
  • 痛みの有無と程度
  • 硬さや表面の性状
  • 発熱や他の全身症状の有無
  • 排尿症状の有無
  • きっかけとなる出来事(外傷、性行為など)

自己チェックの方法

精巣腫瘍を含む精巣の病変は、早期発見が非常に重要です。自己触診を習慣化することで、異常を早期に発見できる可能性が高まります。

セルフチェックの推奨頻度

15歳以上の男性は、月に1回程度の自己チェックを推奨します。特に以下の方は定期的な自己チェックが重要です。

  • 停留精巣の既往がある
  • 精巣腫瘍の家族歴がある
  • 対側精巣腫瘍の既往がある
  • 不妊症の方

自己触診の手順

  1. タイミング
    • 入浴中や入浴後が最適
    • 陰嚢が温まり、リラックスした状態で行う
    • 陰嚢の皮膚が緩んで触診しやすい
  2. 姿勢
    • 立位で行うのが基本
    • 鏡の前で視診も併せて行うとよい
  3. 触診方法
    • 両手の親指を上、他の指を下にして精巣を包むように持つ
    • 親指と人差し指で精巣を転がすように触診
    • 精巣全体を満遍なく触る
    • 左右の精巣を比較する
  4. チェックポイント
    • 硬いしこりや腫瘤の有無
    • 精巣の大きさの左右差
    • 表面の凹凸や不整
    • 痛みや不快感の有無
    • 精巣の重さの違い
  5. 正常所見
    • 楕円形で滑らかな表面
    • やや弾力のある柔らかさ
    • 精巣の上部・後方に紐状の精巣上体を触れる(正常構造)

注意点

  • 精巣上体(精巣の上部・後方)は正常でもやや硬く触れるため、精巣本体のしこりと区別する
  • 過度に力を入れて触診すると、痛みや損傷の原因になる
  • 異常を感じたら、自己判断せず必ず医療機関を受診する
  • 自己触診はあくまでスクリーニングであり、確定診断には医療機関での検査が必要

診断方法

精巣のしこりが発見された場合、泌尿器科での精密検査が必要です。診断のプロセスと各検査について解説します。

問診と身体診察

まず医師による詳細な問診と身体診察が行われます。

問診内容

  • 症状の出現時期と経過
  • 痛みの有無と性状
  • 随伴症状(発熱、排尿症状など)
  • 既往歴(停留精巣、外傷など)
  • 家族歴
  • 性感染症のリスク

身体診察

  • 視診:陰嚢の大きさ、色調、左右差
  • 触診:しこりの部位、大きさ、硬さ、可動性、痛み
  • 透光性試験:光を当てて内容物の性状を確認
  • 挙睾筋反射の確認(精巣捻転症の鑑別)

超音波検査(エコー検査)

精巣の病変の診断において最も重要な検査です。非侵襲的で、精巣の内部構造を詳細に観察できます。

わかること

  • 病変の正確な部位(精巣内か精巣外か)
  • 腫瘤の大きさと性状(充実性か嚢胞性か)
  • 血流の評価(カラードプラ法)
  • 精巣腫瘍の疑いの有無
  • 陰嚢水腫や精液瘤の確認

超音波検査により、精巣腫瘍の診断感度は90%以上とされています。疑わしい所見があれば、追加検査へ進みます。

血液検査

一般血液検査

  • 白血球数、CRP:炎症の有無と程度の評価
  • 赤血球数:貧血の有無

腫瘍マーカー 精巣腫瘍が疑われる場合、以下の腫瘍マーカーを測定します。

  • AFP(α-フェトプロテイン)
  • hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)
  • LDH(乳酸脱水素酵素)

これらのマーカーは精巣腫瘍の診断、治療効果の判定、再発の監視に有用です。ただし、腫瘍マーカーが正常でも精巣腫瘍を否定できないため、画像検査との組み合わせが重要です。

CT検査・MRI検査

精巣腫瘍が疑われる場合や、病期診断のために施行されます。

CT検査

  • 後腹膜リンパ節転移の評価
  • 肺・肝臓などの遠隔転移の検索
  • 病期分類に必須

MRI検査

  • 精巣内病変の詳細な評価
  • CTで判断困難な場合に追加
  • 造影剤アレルギーがある場合の代替

尿検査・尿培養

精巣上体炎が疑われる場合に施行されます。

  • 尿中白血球、細菌の有無
  • 原因菌の同定と薬剤感受性検査
  • 性感染症検査(クラミジア、淋菌)

生検(組織診断)

精巣腫瘍が強く疑われる場合、確定診断のために行われます。ただし、精巣は陰嚢を通じた生検(針生検)は原則として行いません。これは癌細胞が播種するリスクがあるためです。

診断と治療を兼ねて、鼠径部から精巣を摘出する手術(高位精巣摘除術)が標準的な方法です。摘出した精巣を病理学的に検査し、確定診断と病期分類を行います。

治療法

精巣のしこりの治療は、原因疾患によって大きく異なります。それぞれの治療法について解説します。

精巣腫瘍の治療

精巣腫瘍の治療は、病期と組織型によって決定されます。基本的な流れは以下の通りです。

1. 高位精巣摘除術

  • 診断と初期治療を兼ねた手術
  • 鼠径部から精巣を摘出
  • 約1週間の入院が標準的
  • 片側の精巣摘出でも、対側が正常であれば男性ホルモン産生と生殖機能は保たれる

2. 追加治療(病期と組織型により選択)

セミノーマ(精上皮腫)の場合

  • ステージI:経過観察または予防的放射線療法/化学療法
  • ステージII以上:放射線療法または化学療法
  • 放射線への感受性が高い

非セミノーマの場合

  • ステージI:経過観察またはリンパ節郭清/化学療法
  • ステージII以上:化学療法が中心
  • 必要に応じて残存腫瘍の外科的切除

3. 化学療法

  • BEP療法(ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチン)が標準
  • 通常3〜4コース実施
  • 入院または外来で施行

4. 後腹膜リンパ節郭清術

  • 非セミノーマの一部で実施
  • 化学療法後の残存病変の切除

治療成績 精巣腫瘍は、固形がんの中で最も治療成績の良い癌の一つです。

  • ステージI:5年生存率95%以上
  • ステージII:5年生存率約90%
  • ステージIII:5年生存率約70〜80%

早期発見により、より低侵襲な治療で高い治癒率が得られます。

精巣上体炎の治療

急性精巣上体炎

  1. 抗菌薬治療(2〜4週間)
    • 若年者:ニューキノロン系またはテトラサイクリン系(クラミジアをカバー)
    • 中高年:ニューキノロン系(尿路感染菌をカバー)
  2. 対症療法
    • 安静(陰嚢を挙上)
    • 鎮痛薬
    • 解熱薬
    • 局所冷却(急性期)
  3. 性感染症の場合
    • パートナーの治療も必要
    • 治癒確認まで性交渉を控える

慢性精巣上体炎

  • 長期の抗菌薬治療
  • 改善しない場合は精巣上体摘除術も検討

精液瘤・陰嚢水腫の治療

経過観察

  • 無症状で小さい場合は治療不要
  • 定期的な超音波検査でフォロー

穿刺吸引

  • 一時的な処置
  • 再発率が高い
  • 硬化療法を併用することも

手術治療

  • 大きくて不快感がある場合
  • 日常生活に支障がある場合
  • 手術方法:嚢腫摘出術、陰嚢水腫根治術
  • 日帰りまたは1〜2日の入院

精巣捻転症の治療

緊急手術

  • 発症から6時間以内が理想
  • 用手的または手術で捻転を解除
  • 精巣の色調が回復すれば温存、壊死していれば摘除
  • 対側精巣も予防的に固定
  • 手術の遅れは精巣喪失率を上昇させる

鼠径ヘルニアの治療

手術治療

  • 自然治癒しないため、基本的に手術が推奨
  • 腹腔鏡手術または鼠径部切開手術
  • メッシュによる補強が標準
  • 日帰りまたは1〜2日の入院
  • 再発率は5%以下

保存的治療

  • 手術が困難な場合に限定的に実施
  • ヘルニアバンドの使用
  • 根治は期待できない

精索静脈瘤の治療

治療適応

  • 不妊症がある場合
  • 痛みなどの症状がある場合
  • 精巣の萎縮が進行している場合

治療方法

  1. 手術治療
    • 顕微鏡下低位結紮術(最も一般的)
    • 腹腔鏡下手術
    • 高位結紮術
  2. 塞栓術
    • カテーテルを用いた血管内治療
    • 体への負担が少ない

治療効果

  • 精液所見の改善:約60〜70%
  • 自然妊娠率の向上:約30〜40%

予防と早期発見

精巣のしこりは、早期発見により治療成績が大きく向上します。予防と早期発見のポイントを押さえましょう。

自己チェックの習慣化

月に1回程度の自己触診を習慣づけることが、最も重要な早期発見の方法です。

習慣化のコツ

  • 入浴日を自己チェック日と決める
  • カレンダーやスマートフォンのリマインダーを活用
  • 家族にも知識を共有し、互いに声を掛け合う

リスク因子への対策

停留精巣の早期治療

  • 1〜2歳までに手術(精巣固定術)を受けることが推奨
  • 手術が遅れると精巣腫瘍のリスクが上昇
  • 成人後も定期的な自己チェックと医療機関でのフォローが重要

性感染症の予防

  • コンドームの適切な使用
  • 複数のパートナーとの性交渉を避ける
  • 症状があれば早期に治療

外傷の予防

  • スポーツ時のサポーターの着用
  • 自転車のサドルの高さと角度の調整

定期的な健康診断

一般健診での注意

  • 医師による診察時に陰嚢の異常を指摘された場合は必ず精査

泌尿器科専門医の受診 以下の場合は定期的な受診を検討

  • 停留精巣の既往がある
  • 精巣腫瘍の家族歴がある
  • 対側精巣腫瘍の既往がある
  • 精索静脈瘤がある
  • 不妊症の方

早期発見の重要性

精巣腫瘍の場合

  • ステージIでの発見により、5年生存率95%以上
  • 治療の低侵襲化(化学療法や放射線療法の回避・減量)
  • 生殖機能への影響の最小化
  • 精神的・経済的負担の軽減

その他の疾患の場合

  • 精巣捻転症:6時間以内の処置で精巣救済率が大幅に向上
  • 精巣上体炎:早期治療により慢性化を防止
  • 鼠径ヘルニア:嵌頓を防ぎ、待機的手術が可能

よくある質問

Q1. 精巣のしこりは必ず癌ですか?

A. いいえ、精巣のしこりの全てが癌というわけではありません。精液瘤、陰嚢水腫、精巣上体炎など、良性の疾患も多くあります。しかし、精巣腫瘍の可能性もあるため、しこりを発見したら必ず医療機関を受診してください。自己判断は禁物です。

Q2. 痛みがないしこりは心配ないですか?

A. いいえ、痛みがないしこりにも注意が必要です。精巣腫瘍の多くは無痛性のしこりとして発見されます。痛みの有無にかかわらず、しこりを見つけたら必ず受診してください。

Q3. 精巣を片方摘出したら、男性ホルモンや生殖機能はどうなりますか?

A. 対側(反対側)の精巣が正常であれば、男性ホルモンの産生と生殖機能は維持されます。片側の精巣のみで十分な機能を果たすことができます。ただし、両側に問題がある場合や、残存精巣にも異常がある場合は、ホルモン補充療法や生殖補助医療が必要になることがあります。

Q4. 精巣腫瘍の治療後、子どもを持つことはできますか?

A. 多くの場合、可能です。片側精巣摘除のみであれば、対側精巣が正常であれば生殖能力は保たれます。化学療法や放射線療法を受ける場合は、精子への影響が懸念されるため、治療前に精子保存(精子バンクへの凍結保存)を検討することが推奨されます。治療後、一時的に精子数が減少しても、数年後に回復することが多いです。

Q5. 自己チェックで注意すべきポイントは?

A. 以下の点に注意してください:

  • 硬いしこりや腫瘤の有無
  • 精巣の大きさの左右差
  • 精巣の重さの違い
  • 表面の凹凸や不整
  • 痛みや不快感

精巣の上部・後方に触れる紐状の構造は精巣上体という正常な組織です。精巣本体のしこりと区別してください。

Q6. しこりを発見したらどのくらい急いで受診すべきですか?

A. 症状によって緊急度が異なります:

緊急受診が必要(当日中)

  • 突然の激しい痛み(精巣捻転症の可能性)
  • 発熱を伴う強い痛みと腫れ(精巣上体炎の可能性)

早期受診が必要(数日以内)

  • 無痛性のしこり(精巣腫瘍の可能性)
  • 急速に大きくなるしこり

計画的な受診(1〜2週間以内)

  • 徐々に大きくなる陰嚢の腫れ
  • 立位で出現し臥位で消失するしこり

いずれの場合も、自己判断せず医療機関での確認が重要です。

Q7. 停留精巣の既往がある場合、どのくらいの頻度でチェックが必要ですか?

A. 停留精巣の既往がある方は、精巣腫瘍のリスクが約5〜10倍高いとされています。以下をお勧めします:

  • 月1回の自己チェック
  • 年1回の泌尿器科受診
  • 異常を感じたら速やかに受診

特に15〜35歳の年齢は精巣腫瘍の好発年齢であり、注意深い観察が必要です。

Q8. 精巣上体炎は再発しますか?予防法はありますか?

A. 精巣上体炎は再発する可能性があります。予防のポイント:

  • 性感染症のリスク管理(コンドームの使用)
  • 尿路感染症の早期治療
  • 前立腺肥大症などの基礎疾患の管理
  • 水分摂取の励行
  • 長時間の座位や自転車走行を避ける

再発を繰り返す場合は、基礎疾患の精査や予防的治療が必要になることがあります。

Q9. 陰嚢水腫や精液瘤は放置しても大丈夫ですか?

A. 小さくて無症状であれば、基本的に治療は不要です。ただし以下の点に注意:

  • 定期的な超音波検査でサイズの変化を確認
  • 急速に大きくなる場合は精査が必要
  • 日常生活に支障がある大きさになった場合は治療を検討
  • 精巣腫瘍との鑑別は必須

「精液瘤だから大丈夫」と自己判断せず、医療機関での確認を受けることが重要です。

Q10. 家族に精巣腫瘍の人がいます。私もリスクが高いですか?

A. はい、家族歴がある場合、精巣腫瘍のリスクは約2〜4倍高くなるとされています。以下を推奨します:

  • 15歳頃から月1回の自己チェックを開始
  • 年1回の泌尿器科受診を検討
  • 異常を感じたら速やかに受診
  • 家族の診断年齢より10歳若い頃からの注意深い観察

遺伝的素因は明確ではありませんが、一部の症候群(クラインフェルター症候群など)では明らかにリスクが上昇します。

まとめ

精巣のしこりは、良性のものから悪性のものまで様々な原因で生じます。重要なポイントをまとめます。

覚えておくべき重要事項

  1. 早期発見が最も重要
    • 月1回の自己チェックを習慣化
    • しこりを発見したら必ず受診
    • 痛みの有無にかかわらず医療機関での確認が必要
  2. 緊急性の高い症状
    • 突然の激しい痛み→当日中の受診
    • 発熱を伴う痛みと腫れ→数日以内の受診
    • 無痛性のしこり→1週間以内の受診
  3. 精巣腫瘍について
    • 15〜35歳の若年男性に多い
    • 無痛性の硬いしこりが特徴
    • 早期発見で95%以上の治癒率
    • 停留精巣の既往、家族歴がある方は特に注意
  4. 自己判断は禁物
    • 「様子を見よう」は危険
    • インターネット情報だけで自己診断しない
    • 必ず医療機関(泌尿器科)を受診
  5. 治療について
    • 多くの疾患は適切な治療で治癒
    • 精巣腫瘍も早期なら高い治癒率
    • 片側精巣摘出でも生殖機能は通常維持される

受診時の準備

医療機関を受診する際は、以下の情報を整理しておくとスムーズです:

  • しこりに気づいた時期
  • 大きさの変化
  • 痛みの有無と程度
  • 発熱や排尿症状などの随伴症状
  • 既往歴(停留精巣、外傷など)
  • 家族歴
  • 服用中の薬

最後に

精巣のしこりは、決して恥ずかしい症状ではありません。男性特有の健康問題として、適切な知識を持ち、早期発見・早期治療につなげることが重要です。

「たぶん大丈夫」「恥ずかしい」「忙しい」という理由で受診を先延ばしにすることが、最も避けるべき行動です。あなたの健康と将来のために、異常を感じたら速やかに医療機関を受診してください。

早期発見により、多くの疾患は完治が可能です。月1回の自己チェックを習慣化し、自分の体の変化に敏感になることが、健康を守る第一歩です。


参考文献

  1. 日本泌尿器科学会「泌尿器科領域の腫瘍に関するガイドライン」 https://www.urol.or.jp/
  2. 国立がん研究センター「精巣腫瘍の診断と治療」 https://ganjoho.jp/
  3. 日本癌治療学会「精巣腫瘍診療ガイドライン」 http://www.jsco-cpg.jp/
  4. 厚生労働省「がん情報サービス」 https://ganjoho.jp/public/index.html
  5. 日本小児泌尿器科学会「停留精巣診療ガイドライン」 http://jspua.com/
  6. 日本生殖医学会「男性不妊症診療ガイドライン」 http://www.jsrm.or.jp/

※本記事の情報は2025年1月時点のものです。医療情報は日々更新されますので、最新の情報については医療機関でご確認ください。

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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