はじめに
皮膚にできる「できもの」に気づいたとき、多くの人が最初に心配するのは「これは良性のイボなのか、それとも悪性の腫瘍なのか」ということでしょう。皮膚にできた腫瘍が良性のイボか悪性腫瘍かを見分けることは、医学的知識のない一般の方には非常に困難です。
イボは年齢・性別を問わず誰にでもできる可能性のある皮膚疾患です。一方で、皮膚にできる悪性腫瘍(皮膚がん)は、基底細胞がん、有棘細胞がん、メラノーマ(悪性黒色腫)などが多くみられ、早期発見・早期治療が極めて重要となります。
本記事では、イボと悪性腫瘍の基本的な知識から、両者の見分け方、診断・治療方法、予防策まで、専門医の立場から詳しく解説いたします。皮膚のできものに不安を感じている方の参考になれば幸いです。

1. イボの基本知識
1.1 イボとは何か
一般的にいわれるイボは、医学的には「疣贅(ゆうぜい)」と呼ばれ、皮膚に生じる良性の腫瘍です。イボには様々な種類があり、原因や発生部位、形状によって分類されます。
1.2 イボの主な種類
ウイルス性イボ(疣贅)
イボは、ヒト乳頭腫ウイルスと言うウイルスの一種が皮膚に感染してできます。ヒトパピローマウイルス(HPV)には100種類以上の型があり、一般的ないぼ(尋常性疣贅)の原因となるのは、主にHPV2型です。
主なウイルス性イボの種類:
- 尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)
- 手足に多く発生
- 表面がざらざらした硬い隆起
- HPV2型、57型などが原因
- 扁平疣贅(へんぺいゆうぜい)
- 顔や手の甲に多く発生
- 平らで小さく、肌色から薄茶色
- HPV3型、10型などが原因
- 足底疣贅(そくていゆうぜい)
- 足の裏に発生
- 体重により内側に向かって成長
- 歩行時に痛みを伴うことがある
加齢性イボ(脂漏性角化症)
30代を迎えるあたりから、「首イボ」や「脂漏性角化症」などを発症し、ワイシャツの襟やアクセサリーに擦れて不快に感じることもあるようになります。これらは加齢や紫外線の影響によって生じる良性の皮膚腫瘍です。
1.3 イボの感染経路
HPVは、人から人へと直接感染する場合と、器具などを介して間接的に感染する場合の2つの感染ルートが考えられます。
主な感染経路:
- 直接接触:感染者のイボや皮膚への接触
- 間接接触:プール、ジム、銭湯などの共有施設
- 自己感染:自分のイボを触った手で他の部位に触れること
正常の健康な皮膚には感染できないため、小さな傷口や擦り傷からウイルスが侵入することで感染が成立します。
2. 皮膚悪性腫瘍(皮膚がん)の基本知識
2.1 皮膚がんとは
皮膚がんとは、皮膚を構成する様々な細胞が慢性的な刺激によってDNA損傷を修復することができずに発生する細胞の制御不能な成長です。皮膚がんの原因には、紫外線曝露、ウイルス感染、外傷(ヤケド、怪我)、放射線治療などがあります。
2.2 主な皮膚がんの種類
基底細胞がん(BCC)
皮膚がんのなかで日本人のみならず世界で一番多いがんです。表皮の最下層である基底層の細胞ががん化したもので、以下の特徴があります:
特徴:
- 黒色から黒褐色の色調を呈することが多い
- ほくろと見間違うことがある
- 中央部がくずれて凹んでくることがある
- 内臓やリンパ節転移は非常にまれ
- しかし局所で深く進行し組織を破壊する
有棘細胞がん(SCC)
表皮有棘層の細胞が癌化する皮膚癌で、基底細胞癌に次いで発生頻度の高い皮膚癌です。
特徴:
- 盛り上がったしこりに見えるため、イボと誤認されることがある
- 顔面、手の甲、頭皮に好発
- やけどや傷跡から発生することもある
- 進行するとリンパ節転移の可能性がある
悪性黒色腫(メラノーマ)
色素細胞(メラノサイト)ががん化したもので、手足などの末端部分に生じることが多く、大きなほくろや急にできたほくろなどは、皮膚がんに該当する可能性があります。
特徴:
- 急速に大きくなる
- 色が不均一
- 形が非対称
- 6mm以上の大きさ
- 高い転移能力
2.3 前がん病変
日光角化症
長期的に日光(紫外線)を浴び続けたことによって発症する前癌病変で、高齢者の頭皮、顔、手の甲などに起こりやすい状態です。
特徴:
- 数ミリから2センチ程度の赤っぽいシミ
- カサカサとした質感
- 境界が不明瞭
- 数カ月以上治らない
3. イボと悪性腫瘍の見分け方
3.1 外観による違い
硬さ・質感による判別
悪性のがん(皮膚癌など)は、硬くでこぼこしたような表面であることが多い一方、良性の腫瘍はゴムのように柔らかく、表面は滑らかに丸みを帯びています。
動きやすさ
- 良性イボ: 押すとこりこりと動く
- 悪性腫瘍: がん物質が周りの組織に癒着をしているせいで、押してもあまり動かない
3.2 表面の状態
良性イボの特徴
- 表面が滑らかまたは一様にざらついている
- 境界が比較的明瞭
- 色調が均一
悪性腫瘍の特徴
悪性のがんは、悪性を疑う場合として、出血する、ジクジクする、周囲との境界が不鮮明である、かさぶたがある等の特徴があります。
3.3 発生部位による判別
紫外線との関係
特に顔面や手の甲など、紫外線を浴びやすい場所に見られる傾向にありますという特徴は、有棘細胞がんでよく見られます。
3.4 症状の変化
注意すべき変化
- 急激な大きさの変化
- 色調の変化
- 出血やただれ
- 悪臭の発生
- 痛みの出現
4. HPVと皮膚がんの関係
4.1 HPVの種類と関連疾患
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、主に性交渉によって生殖器やその周辺の粘膜にイボをつくるウイルスで、遺伝子型は150種類以上あります。
高リスク型HPV
16、18、31、33、45、52、58型などのHPVはがんになりやすく、以下の疾患と関連しています:
- 子宮頸がん
- 中咽頭がん
- 肛門がん
- 外陰がん
- 陰茎がん
- 一部の皮膚がん
低リスク型HPV
6型、11型のHPVは、外陰部や膣にやっかいなイボができる尖圭(せんけい)コンジローマの原因となります。
4.2 普通のイボとがんの関係
普通のイボは全く違う型のHPVが原因ですので、普通のイボが癌になるとは、基本的には考えなくて良いとされています。ただし、免疫力が低下している場合などは例外があります。
4.3 特殊な皮膚がんとHPV
疣贅状表皮発育異常症と言う稀な皮膚病の患者さんにできるものがウイルス感染で起こるらしいと考えられていましたが(今ではHPV5型を初めとする特定のHPV型が原因であることが分かっています)、このような特殊な例もあります。
5. 早期発見の重要性
5.1 皮膚がんの特徴
皮膚の悪性腫瘍(以下、皮膚がん)の特徴は、症状が目に見えるため早期に発見が可能なことです。この特徴を活かすことで、治療成績の向上が期待できます。
5.2 早期発見による治療効果
早めに専門医を受診して診断がつけば90%は手術だけで治癒が期待できますという統計があり、早期発見の重要性が分かります。
5.3 進行した場合のリスク
実際には腫瘍が大きく成長するまで医療機関を受診せず、受診された時すでに病気が進行した状態になっている方も少なくありませんという現状があります。
進行した皮膚がんの特徴:
- 組織の深部への浸潤
- リンパ節や他臓器への転移
- 治療の複雑化
- 予後の悪化
6. 診断方法
6.1 問診・視診
皮膚科専門医による詳細な問診と視診が診断の第一歩となります。以下の項目について詳しく聴取します:
- できものの発生時期
- 大きさや色の変化
- 症状(痛み、かゆみ、出血など)
- 家族歴
- 既往歴
- 職業歴(紫外線曝露の有無)
6.2 ダーモスコピー検査
表面の変化をより鮮明にみるための診断ツールで、検査用のジェルを塗布し拡大鏡を使用し、10倍程拡大して観察することができます。
ダーモスコピーの利点:
- 肉眼では見えない構造の観察が可能
- 非侵襲的な検査
- 診断精度の向上
- 悪性黒色腫や基底細胞がんの診断に有用
6.3 生検(病理組織検査)
最終診断は生検による病理組織検査により確定されます。
生検の種類
- 部分生検
- 腫瘍の一部を採取
- 大きな病変や顔面の病変に適用
- 全摘生検
- 腫瘍全体を切除
- 悪性黒色腫の場合は、可能であれば全摘生検を行っています
- 針生検
- 深部の病変に対して実施
6.4 画像検査
進行した皮膚がんや転移の評価のため、以下の検査が行われることがあります:
- CT検査
- MRI検査
- PET検査
- 超音波検査
7. 治療方法
7.1 良性イボの治療
液体窒素療法
マイナス196度の液体窒素を用いてイボが生じた皮膚を冷凍凝固させ、凍結と解凍を3~4回繰り返します。
特徴:
- 最も一般的な治療法
- 外来で実施可能
- 1-2週間に一度の通院が必要
- 治療時に痛みを伴う
外用薬治療
- サリチル酸製剤 サリチル酸には皮膚の角層を剥がすとともにイボへの免疫力を高める作用があるとされており、効果的な治療選択肢です。
- イミキモド(ベセルナクリーム) もともとは尖圭コンジローマの治療に用いられる軟膏で、塗布した部位のイボに対する免疫力を高める作用があります。
- 活性型ビタミンD3外用薬 ビタミンD3には、皮膚の細胞増殖を抑制し、皮膚が厚くなることを防ぐ作用があるため、密封療法と組み合わせて使用されます。
手術療法
顔や首の加齢性のイボや治りにくいウイルス性のイボに対しても、傷痕が目立たないように配慮しながら手術療法での除去にも対応する場合があります。
7.2 皮膚がんの治療
手術療法
皮膚がんの標準的治療は外科的切除です。病理診断の結果、がんの進行度(病期、ステージ)、身体の状態を評価し、「皮膚悪性腫瘍ガイドライン」に基づいて治療法を決定します。
手術の種類:
- 単純切除
- 早期の皮膚がんに対する標準治療
- 適切なマージンを確保した切除
- Mohs手術
- 顔面など整容性が重要な部位
- 切除標本の病理検査を術中に行う
- センチネルリンパ節生検
- メラノーマなどで転移の評価
- リンパ節郭清
- リンパ節転移がある場合
放射線療法
- 手術が困難な部位や高齢者
- 術後の補助療法
- 緩和的治療
薬物療法
- 分子標的薬
- BRAF阻害薬
- MEK阻害薬
- 免疫チェックポイント阻害薬
- 抗PD-1抗体
- 抗CTLA-4抗体
- 化学療法
- 進行例や転移例
8. 予防策
8.1 紫外線対策
発症を防ぐ為には、日焼け止めなどで紫外線からのダメージを減らすことが重要です。
具体的な対策:
- 日焼け止めの適切な使用(SPF30以上推奨)
- 帽子、長袖衣類の着用
- 日陰の利用
- 午前10時~午後4時の外出を控える
8.2 皮膚の外傷予防
このウイルスを防ぐ為には、傷やささくれを作らないようにすることや肌を保護することが必要です。
注意点:
- 手足の小さな傷の適切な処置
- 乾燥肌の改善
- 保湿の徹底
8.3 定期的なセルフチェック
皮膚の変化を早期に発見するため、月1回程度のセルフチェックを推奨します。
チェックポイント:
- 新しいほくろやできものの出現
- 既存のほくろの変化(大きさ、色、形)
- 出血や潰瘍の有無
- かゆみや痛みの有無
8.4 HPVワクチン接種
小学校6年~高校1年相当の女子は、予防接種法に基づく定期接種として、公費によりHPVワクチンを接種することができます。

9. 受診のタイミング
9.1 すぐに受診が必要な症状
以下の症状がある場合は、速やかに皮膚科専門医を受診してください:
- 急速に大きくなるできもの
- 出血やただれを繰り返す
- 色の変化(黒色化、多色性)
- 硬くなる、盛り上がってくる
- 悪臭を伴う
- 治らない傷やびらん
9.2 経過観察が可能な場合
以下の条件を満たす場合は、経過観察も選択肢となります:
- 長期間変化がない
- 典型的な良性イボの所見
- 症状がない
- 機能的な問題がない
ただし、自己診断せずに、必ず皮膚科専門医の診断を受けることが大切です。
10. 治療における注意点
10.1 治療選択の考慮事項
治療方法の選択では以下の要因を総合的に判断します:
- 病変の種類と進行度
- 発生部位
- 患者様の年齢と全身状態
- 整容性への配慮
- 患者様の希望
10.2 治療後の経過観察
再発を起こしやすく、放っておくと皮膚から筋肉、骨など、深い組織へと広がっていき、組織を破壊する可能性がある皮膚がんもあるため、治療後の定期的な経過観察が重要です。
10.3 合併症の予防
- 感染予防
- 瘢痕形成の最小化
- 機能障害の予防
- 心理的サポート
11. アイシークリニック上野院での取り組み
当院では、皮膚のできものに対して以下のような診療体制を整えております:
11.1 専門的診断
- 専門医による詳細な診察
- 必要に応じた迅速な病理検査
11.2 個別化治療
- 患者様一人ひとりの状況に応じた治療選択
- 日帰り手術への対応
- 整容性を重視した治療
- 痛みに配慮した治療
11.3 継続的サポート
- 治療後の定期的な経過観察
- 再発予防のアドバイス
- 生活指導
- 心理的サポート
まとめ
皮膚にできる「できもの」は、良性のイボから悪性の皮膚がんまで様々な可能性があります。悪性腫瘍は早期発見早期治療が最も重要であり、適切な診断と治療により良好な予後が期待できます。
重要なポイントを以下にまとめます:
- 早期受診の重要性
- 皮膚の変化に気づいたら早めの受診
- 自己判断による経過観察は危険
- 専門医による診断
- 皮膚科専門医による適切な診断
- ダーモスコピーや病理検査の活用
- 個別化治療
- 病変の性質に応じた最適な治療選択
- 整容性と機能性の両立
- 予防の実践
- 紫外線対策の徹底
- 皮膚の外傷予防
- 定期的なセルフチェック
- 継続的な管理
- 治療後の経過観察
- 再発予防のための生活指導
皮膚のできものに関してご心配なことがございましたら、お気軽にアイシークリニック上野院までご相談ください。経験豊富な専門医が、患者様一人ひとりの状況に応じた最適な診療を提供いたします。
参考文献
- 日本皮膚科学会:皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第3版. 金原出版, 2022. http://jsco-cpg.jp/item/21/index.html
- 国立がん研究センター がん情報サービス:皮膚がんの分類. https://ganjoho.jp/public/cancer/class_skin/index.html
- 国立がん研究センター がん情報サービス:基底細胞がん. https://ganjoho.jp/public/cancer/basal/index.html
- 国立がん研究センター がん情報サービス:有棘細胞がん. https://ganjoho.jp/public/cancer/squamous/index.html
- 日本皮膚科学会:皮膚科Q&A「イボとミズイボ、ウオノメとタコ─どう違うのですか?」 https://qa.dermatol.or.jp/qa23/q05.html
- 厚生労働省:東邦大学・医中誌 診療ガイドライン情報データベース. https://guideline.jamas.or.jp/?t=2&sBunruiShikkan=C10-01-01
- Know VPD!:ヒトパピローマウイルス感染症(子宮頸がんなど). https://www.know-vpd.jp/vpdlist/hpv.htm
- MSDマニュアル家庭版:ヒトパピローマウイルス感染症(HPV感染症). https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/16-感染症/性感染症-sti/ヒトパピローマウイルス感染症-hpv感染症
- 第一三共ヘルスケア ひふ研:いぼ(尋常性疣贅). https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/site_hifuken/symptom/ibo/
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務