はじめに
「顔ダニ」という言葉を聞いて、驚かれる方も多いかもしれません。しかし、実は私たちの顔には目に見えない小さなダニが住んでいることが多く、これは決して異常なことではありません。ただし、このダニが何らかの原因で過剰に増殖すると、治りにくいニキビや赤ら顔などの様々な肌トラブルを引き起こすことがあります。
近年、皮膚科の診療現場でも顔ダニが原因となる皮膚疾患への注目が高まっており、適切な診断と治療により症状の改善が期待できるようになってきました。本記事では、顔ダニの正体から症状、診断、最新の治療法まで、専門医の視点から詳しく解説いたします。

1. 顔ダニ(ニキビダニ)とは何か
1.1 顔ダニの正体
顔ダニの正式名称は「ニキビダニ」または「毛包虫」と呼ばれ、学名を「Demodex(デモデックス)」といいます。これは節足動物門鋏角亜門クモ綱ダニ目に属する微小な寄生虫で、実はクモに近い生物です。
人間の皮膚に生息するニキビダニには主に2種類があります:
Demodex folliculorum(ニキビダニ)
- 体長:0.3-0.4mm
- 生息場所:主に毛包(毛穴)の深部
- 特徴:比較的大型で、毛包の根元近くに住む
Demodex brevis(コニキビダニ)
- 体長:0.15-0.2mm
- 生息場所:皮脂腺
- 特徴:より小型で、皮脂腺の中に住む
1.2 顔ダニの形態と生態
顔ダニは非常に小さく、肉眼では見ることができません。顕微鏡で観察すると、頭胸部と腹部があり、4対8本の短い脚を持っています。体は細長く、尻尾部分がやや尖った形をしています。
これらのダニの生活サイクルは約2-3週間で、以下のような特徴があります:
- 昼間:毛穴の奥深くで皮脂や角質を食べて生活
- 夜間:皮膚表面に出てきて交尾・産卵を行う
- 栄養源:皮脂、角質、細菌などを摂食
- 寿命:約2週間
興味深いことに、従来は肛門を持たないと考えられていましたが、最新の研究により肛門の存在が確認されています。
1.3 顔ダニの分布と検出率
顔ダニは人類共通の「常在微生物」として広く分布しています。年齢別の検出率を見ると:
- 乳児・幼児(5歳未満):ほぼ検出されない(皮脂分泌が少ないため)
- 青年期(18歳以上):検出率が上昇し始める
- 中年期(40-50歳代):約40-50%で検出
- 高齢期(60歳以上):64%で検出
- 70歳以上:ほぼ100%で検出
このように、年齢と共に検出率が高くなることが分かっています。ただし、検査方法によって検出率に差があり、精密な検査では18歳以上の全員から検出されたという報告もあります。
2. 顔ダニの役割と問題となるケース
2.1 正常な状態での顔ダニの役割
健康な皮膚において、顔ダニは実際に有益な働きをしています:
皮脂の調整
- 余分な皮脂を摂食し、皮膚の油分バランスを保つ
- 毛穴の清掃作業を行う
抗菌作用
- 病原性細菌や真菌を捕食
- 皮膚の微生物バランスを維持
角質管理
- 古い角質を分解・除去
- 皮膚のターンオーバーをサポート
このように、通常の数であれば顔ダニは「皮膚の清掃員」として重要な役割を果たしています。
2.2 問題となる状況
しかし、以下のような条件が重なると、顔ダニが過剰に増殖し、皮膚トラブルの原因となります:
皮脂の過剰分泌
- ホルモンバランスの乱れ
- ストレスや生活習慣の乱れ
- 思春期や更年期のホルモン変動
- 脂性肌体質
免疫力の低下
- 加齢による免疫機能の衰え
- 疲労やストレス
- 慢性疾患の存在
- 薬物による免疫抑制
不適切なスキンケア
- 過度な洗顔による皮脂の過剰分泌
- 不十分なクレンジング
- 刺激の強い化粧品の使用
- 長期間のステロイド外用薬使用
環境要因
- 高温多湿環境(ただし季節性ではない)
- 不衛生な環境
- 枕カバーやタオルの不潔
3. 顔ダニが引き起こす症状と疾患
3.1 毛包虫性ざ瘡(ニキビダニによるニキビ)
顔ダニの過剰増殖により引き起こされるニキビは、通常のアクネ菌によるニキビとは異なる特徴を持ちます:
症状の特徴
- 治りにくい慢性的なニキビ
- 赤みの強い炎症性丘疹
- 膿疱(膿を持った吹き出物)
- 20歳を過ぎても持続するニキビ
- 一般的なニキビ治療に反応しにくい
好発部位
- 鼻周囲
- 頬部
- 額
- 顎部
- 首の上部
3.2 酒さ(しゅさ)
酒さは主に中年以降の女性に多く見られる慢性炎症性疾患で、顔ダニとの関連が強く指摘されています:
症状の段階
第1期(紅斑期)
- 顔の中央部の持続的な赤み
- ほてり感
- ひりひりとした刺激感
- 毛細血管の拡張
第2期(丘疹膿疱期)
- 赤い丘疹の出現
- 膿を持った膿疱
- ニキビに類似した症状
- 炎症の増強
第3期(鼻瘤期)
- 鼻の肥大と変形
- 凹凸のある皮膚表面
- 毛孔の開大
- 慢性的な炎症
3.3 脂漏性皮膚炎
顔ダニは脂漏性皮膚炎の発症や悪化にも関与することが知られています:
症状
- 皮脂分泌の多い部位の炎症
- 鱗屑(うろこ状の皮むけ)
- かゆみ
- 赤み
好発部位
- 鼻翼周囲
- 眉毛部
- 頭皮
- 耳の周囲
3.4 眼瞼炎・マイボーム腺機能不全
まつ毛の毛包に住むニキビダニは、目の周囲にも症状を引き起こすことがあります:
症状
- まつ毛の根元の炎症
- 目の充血
- 異物感
- 涙の分泌異常
- まつ毛の脱落
3.5 その他の関連症状
口囲皮膚炎
- 口の周囲の赤い丘疹
- かゆみや灼熱感
- 慢性的な経過
全身症状
- かゆみ
- ひりひり感
- 皮膚の過敏性
- 心理的ストレス

4. 顔ダニの診断方法
4.1 臨床症状による診断
皮膚科医は以下の症状から顔ダニの関与を疑います:
典型的な症状パターン
- 30歳以降に発症する治りにくいニキビ
- 一般的なニキビ治療に反応しない皮疹
- 顔の中央部に集中する炎症
- 慢性的に持続する赤み
- かゆみを伴う炎症性丘疹
除外診断
- 通常のニキビとの鑑別
- アレルギー性皮膚炎との�別
- 接触皮膚炎との鑑別
- 薬剤性皮膚炎との鑑別
4.2 顕微鏡検査
顔ダニの確定診断には顕微鏡検査が最も有効です:
検査方法
- 直接採取法
- 炎症部位をピンセットで軽くつまむ
- 角質や皮脂を採取
- プレパラートに載せて観察
- セロハンテープ法
- 透明テープを皮膚に貼付
- 剥がして顕微鏡で観察
- 簡便で非侵襲的
- 生検法
- より詳細な検査が必要な場合
- 組織学的検査との併用
診断基準
- 1cm²あたり5匹以上の検出で病的意義あり
- ダニの虫体、卵、糞などを確認
- 炎症細胞浸潤との関連を評価
4.3 鑑別診断
顔ダニによる症状は他の皮膚疾患と類似するため、適切な鑑別が重要です:
通常のニキビ(尋常性ざ瘡)との鑑別
- 年齢:通常のニキビは思春期に多い
- 分布:顔ダニは中央部に集中
- 治療反応:一般的なニキビ治療への反応性
- 慢性経過:顔ダニは長期間持続
アレルギー性皮膚炎との鑑別
- アレルゲンとの接触歴
- 症状の分布パターン
- パッチテストの結果
- 季節性の有無
5. 顔ダニ増殖の原因と危険因子
5.1 内的要因
ホルモンバランスの変化
- 男性ホルモン(アンドロゲン)の増加
- 皮脂分泌の亢進
- 更年期のホルモン変動
- 月経周期に伴う変化
免疫機能の低下
- 加齢による免疫力の衰え
- 慢性疾患による免疫抑制
- ストレスによる免疫機能の低下
- 薬物による免疫抑制(ステロイド等)
皮膚バリア機能の低下
- 角質層の機能低下
- 皮脂膜の異常
- pH バランスの乱れ
- 常在菌叢の変化
5.2 外的要因
不適切なスキンケア
- 過度な洗顔による皮脂の反跳性増加
- 強すぎるクレンジング
- 保湿不足による皮膚バリアの破綻
- 刺激性の高い化粧品の使用
生活習慣の影響
- 睡眠不足
- 栄養バランスの偏り
- 過度なストレス
- 喫煙
- 飲酒
環境要因
- 高温多湿環境
- 不衛生な寝具
- 汚れた化粧道具
- 紫外線による皮膚ダメージ
薬物の影響
- 長期間のステロイド外用薬使用
- タクロリムス軟膏の長期使用
- 免疫抑制剤の服用
- 抗生物質の長期使用による常在菌叢の変化
6. 症状の詳細と経過
6.1 初期症状
顔ダニの増殖初期には以下のような症状が現れます:
軽微な症状
- 軽度のかゆみ
- 皮膚のざらつき感
- 毛穴の目立ち
- 軽い赤み
進行性の変化
- 炎症性丘疹の出現
- かゆみの増強
- ひりひり感
- 皮膚の過敏性
6.2 進行期の症状
症状が進行すると、より明確な皮膚症状が現れます:
炎症症状
- 赤い丘疹の多発
- 膿疱の形成
- 皮膚の腫脹
- 熱感
慢性化症状
- 持続性の赤み
- 皮膚の肥厚
- 毛細血管の拡張
- 色素沈着
6.3 合併症と長期経過
適切な治療を行わないと、以下のような合併症や長期的な変化が生じる可能性があります:
皮膚の構造変化
- ニキビ跡の形成
- クレーター状の瘢痕
- 皮膚の線維化
- 毛孔の永続的拡大
機能的障害
- 皮膚バリア機能の慢性的低下
- 皮脂分泌の異常
- 感染症への易感染性
- 化粧品への過敏反応
心理的影響
- 外見への悩み
- 社会生活への影響
- 自信の低下
- うつ症状
7. 診断のプロセス
7.1 問診と病歴聴取
皮膚科での診断は詳細な問診から始まります:
症状の詳細
- 発症時期と経過
- 症状の分布と特徴
- かゆみや痛みの程度
- 既往の治療と効果
生活習慣の確認
- スキンケアの方法
- 使用している化粧品
- 生活環境
- ストレスレベル
薬物使用歴
- 外用薬の使用歴
- 内服薬の使用歴
- アレルギー歴
- 副作用の経験
7.2 身体所見
視診による評価
- 皮疹の分布パターン
- 炎症の程度
- 毛細血管拡張の有無
- 皮膚の質感変化
触診による評価
- 皮膚の厚さ
- 弾力性
- 温度
- 圧痛の有無
7.3 補助検査
顕微鏡検査(最重要)
- 検体の採取
- 直接鏡検
- ダニの計数
- 炎症細胞の評価
その他の検査
- アレルギー検査(必要時)
- 細菌培養検査
- 真菌検査
- 皮膚生検(稀)
8. 治療方法
8.1 外用療法
イベルメクチンクリーム(第一選択)
現在、顔ダニ治療の第一選択薬として注目されているのがイベルメクチンクリームです:
作用機序
- ニキビダニの神経・筋細胞に選択的に結合
- 細胞膜透過性を上昇させて麻痺を誘発
- ダニを死滅させる直接的な駆虫効果
- 炎症性サイトカインの生成を阻害する抗炎症作用
使用方法
- 1日1回、就寝前に薄く塗布
- 清潔な皮膚に使用
- スキンケア後、乾燥してから塗布
- 目や口の周囲は避ける
効果と期間
- 約2週間で効果を実感する場合が多い
- 継続使用により症状の改善が期待
- 個人差があり、1-2ヶ月の治療期間が一般的
注意事項
- 日本では未承認薬のため自費診療
- 妊娠・授乳中は使用不可
- 初期に一時的な症状悪化の可能性
その他の外用薬
メトロニダゾールゲル(ロゼックスゲル)
- 酒さに対する国内承認薬
- 抗炎症作用と抗菌作用
- 1日2回の塗布
- 比較的副作用が少ない
アゼライン酸
- 抗炎症作用と角質溶解作用
- 皮脂分泌の抑制効果
- 色素沈着の改善効果
- 日本では未承認薬
イオウ・カンフルローション
- 伝統的な治療薬
- 角質溶解作用
- 軽度な駆虫効果
- 乾燥しやすいのが欠点
8.2 内服療法
抗生物質
- テトラサイクリン系抗生物質
- マクロライド系抗生物質
- 抗炎症作用が主目的
- 長期使用は耐性菌のリスク
イソトレチノイン
- 重症例に対する選択肢
- 皮脂分泌の強力な抑制
- 厳格な管理下での使用が必要
- 副作用への十分な注意
8.3 レーザー・光治療
Vビームレーザー
- 毛細血管拡張の改善
- 赤みの軽減
- ニキビダニ治療との併用が効果的
- 595nmの波長による選択的血管破壊
IPL(光治療)
- 広範囲の血管病変に有効
- 皮膚の質感改善
- 色素沈着の改善
- ダウンタイムが少ない
8.4 その他の治療法
ケミカルピーリング
- 角質層の正常化
- 毛穴の詰まり解消
- 皮膚の再生促進
- 定期的な施術が必要
イオン導入
- ビタミンCの浸透促進
- 抗酸化作用
- 皮脂分泌の調整
- 炎症の軽減
9. 治療の実際と経過
9.1 治療開始前の評価
治療を開始する前に、以下の評価を行います:
重症度の評価
- 症状の範囲と程度
- 日常生活への影響
- 心理的負担の程度
- 既往治療の効果
治療選択の要因
- 患者の年齢と性別
- 皮膚タイプ
- 併存疾患
- 使用可能な薬剤
9.2 治療経過のモニタリング
効果判定
- 症状の改善度
- 炎症の軽減
- かゆみの変化
- 患者満足度
副作用の監視
- 皮膚刺激症状
- アレルギー反応
- 全身への影響
- 薬物相互作用
9.3 治療の調整
効果不十分な場合
- 治療法の変更
- 併用療法の検討
- 生活指導の強化
- 専門医への紹介
副作用出現時
- 薬剤の中止・減量
- 対症療法の実施
- 代替治療の検討
- 経過観察の強化
10. 予防とセルフケア
10.1 適切なスキンケア
洗顔の基本
- 1日2回の洗顔を基本とする
- ぬるま湯(32-34℃)を使用
- 刺激の少ない洗顔料を選択
- 泡立てネットで十分に泡立てる
- やさしく洗い、十分にすすぐ
クレンジングの重要性
- メイクの完全な除去
- 油性汚れの適切な処理
- ダブル洗顔の実施
- 目元・口元の丁寧なケア
保湿の実践
- 洗顔後すぐの保湿
- 肌質に合った保湿剤の選択
- 季節に応じた調整
- 紫外線対策との組み合わせ
10.2 生活習慣の改善
食事の管理
- バランスの取れた栄養摂取
- 皮脂分泌を抑える食品の摂取
- ビタミンB群(豚肉、魚類、大豆製品)
- ビタミンC(野菜、果物)
- 亜鉛(牡蠣、肉類、種実類)
- 避けるべき食品
- 高糖質・高脂質食品
- 刺激性食品(辛いもの、アルコール)
- 乳製品(個人差あり)
睡眠の質の向上
- 十分な睡眠時間(7-8時間)
- 規則的な睡眠リズム
- 質の良い睡眠環境
- 就寝前のスマートフォン使用制限
ストレス管理
- 定期的な運動
- リラクゼーション法の実践
- 趣味や娯楽の時間確保
- 必要に応じてカウンセリング
10.3 環境衛生の管理
寝具の管理
- 枕カバーの頻繁な交換(週2-3回)
- シーツの定期的な洗濯
- 布団の天日干し
- ダニ防止カバーの使用
化粧道具の管理
- ブラシやスポンジの定期的な洗浄
- 化粧品の適切な保管
- 期限切れ化粧品の廃棄
- 清潔な手での化粧
生活環境の整備
- 室内の適切な湿度管理(50-60%)
- 定期的な掃除
- 空気清浄機の使用
- タオルの個人専用化
11. 最新の研究動向と治療の進歩
11.1 診断技術の進歩
高精度検査法
- デジタル顕微鏡による定量的評価
- 蛍光染色による生体観察
- PCR法による遺伝子診断
- 人工知能を用いた画像解析
非侵襲的検査法
- 共焦点レーザー顕微鏡
- 光コヒーレンストモグラフィー
- ダーモスコピー
- 超音波検査
11.2 治療法の開発
新規外用薬
- より効果的な駆虫薬の開発
- 副作用の少ない製剤
- 持続性製剤の研究
- 複合製剤の開発
物理療法の進歩
- 特定波長の光線療法
- 超音波治療
- 電気治療
- 温熱療法
11.3 予防戦略の研究
プロバイオティクス
- 皮膚常在菌叢の正常化
- 有用菌の外用製剤
- 内服プロバイオティクス
- プレバイオティクスとの併用
免疫調整療法
- 皮膚免疫の適正化
- サイトカイン療法
- 免疫賦活剤
- 抗炎症療法
12. よくある質問と誤解
12.1 感染と伝播について
A:顔ダニは皮膚接触により感染する可能性がありますが、ほとんどの人がすでに保有しているため、新たな感染を過度に心配する必要はありません。ただし、症状のある方は直接的な皮膚接触(頬ずりなど)は控えた方が良いでしょう。
A:犬や猫にも固有のDemodex種が存在しますが、人間のニキビダニとは異なる種類のため、ペットから人への感染はありません。
12.2 治療について
Q:完全に駆除することは可能ですか? A:顔ダニの完全駆除は現実的ではありません。治療の目標は過剰に増殖したダニの数を正常レベルまで減らし、症状をコントロールすることです。
Q:治療をやめるとすぐに再発しますか? A:適切な治療により皮膚環境が改善されれば、治療終了後も良好な状態を維持できることが多いです。ただし、生活習慣やスキンケアの継続が重要です。
Q:市販薬で治療できますか? A:軽症例では適切なスキンケアと市販の殺菌・抗炎症剤で改善することもありますが、確実な診断と治療のためには皮膚科受診をお勧めします。
12.3 日常生活について
Q:メイクはしても大丈夫ですか? A:治療中でも適切にメイクを落とせば問題ありません。ただし、厚塗りは避け、ノンコメドジェニック(毛穴を詰まらせにくい)な製品を選ぶことが大切です。
Q:運動や入浴は制限されますか? A:特別な制限はありませんが、汗をかいた後は速やかに清拭し、清潔を保つことが重要です。
13. 治療費用と保険適用
13.1 保険診療の範囲
保険適用の治療
- 診察料
- 顕微鏡検査
- 一般的な外用薬(抗生物質、抗炎症剤)
- 内服薬
自費診療となる治療
- イベルメクチンクリーム
- アゼライン酸
- 一部のレーザー治療
- 美容的な治療
13.2 費用の目安
初診時の費用
- 初診料:約3,000円(保険適用)
- 顕微鏡検査:約500円(保険適用)
- 一般的な外用薬:約1,000-2,000円(保険適用)
継続治療の費用
- 再診料:約1,000円(保険適用)
- イベルメクチンクリーム:約4,000-8,000円(自費)
- レーザー治療:約10,000-30,000円(自費)
13.3 治療期間と総費用
一般的な治療期間は1-3ヶ月程度で、総費用は症状の程度や選択する治療法により大きく異なります。保険適用の治療を基本とし、必要に応じて自費診療を組み合わせることで、効果的な治療が可能です。
14. 症例紹介
14.1 症例1:30代女性の慢性ニキビ
患者背景
- 30代前半の女性
- 20歳頃から治りにくいニキビに悩む
- 複数の皮膚科で治療を受けるも改善せず
症状
- 顔中央部の赤い丘疹
- 膿疱の散発
- 軽度のかゆみ
- 一般的なニキビ治療への抵抗性
診断
- 顕微鏡検査でニキビダニを多数検出
- 毛包虫性ざ瘡と診断
治療経過
- イベルメクチンクリームの外用開始
- 2週間後:炎症の軽減を確認
- 1ヶ月後:新たな皮疹の出現が著明に減少
- 2ヶ月後:ほぼ寛解状態に到達
14.2 症例2:40代男性の酒さ
患者背景
- 40代後半の男性
- 飲酒習慣あり
- 顔の赤みとほてり感に悩む
症状
- 鼻・頬部の持続性紅斑
- 毛細血管拡張
- ほてり感
- ひりひりとした刺激感
診断
- 臨床症状と顕微鏡検査により酒さと診断
- ニキビダニの増殖を確認
治療経過
- イベルメクチンクリームとメトロニダゾールゲルの併用
- 生活指導(飲酒量の調整、スキンケア指導)
- 3週間後:赤みの軽減
- 2ヶ月後:Vビームレーザーを追加
- 3ヶ月後:著明な改善を達成
15. 治療上の注意点と副作用
15.1 イベルメクチンクリームの副作用
一般的な副作用
- 軽度の皮膚刺激(約10-15%)
- 一時的な症状悪化(治療開始1週間以内)
- 乾燥感
- 軽度の灼熱感
稀な副作用
- アレルギー反応
- 接触皮膚炎
- 色素沈着
- 色素脱失
対処法
- 症状が軽度であれば継続使用
- 強い刺激がある場合は使用中止
- 保湿剤との併用
- 段階的な使用量調整
15.2 治療中の注意事項
日常生活での注意
- 紫外線対策の徹底
- 刺激の強い化粧品の使用中止
- アルコール摂取の制限
- 香辛料の摂取制限
他の薬剤との相互作用
- ステロイド外用薬との併用注意
- 他の外用薬との使用間隔
- 内服薬との相互作用
- サプリメントとの併用
16. 予後と長期管理
16.1 治療予後
短期的な予後
- 適切な治療により多くの症例で改善
- 2-4週間で効果を実感
- 継続治療により更なる改善
長期的な予後
- 適切な管理により良好な状態を維持可能
- 定期的なフォローアップが重要
- 生活習慣の維持が鍵
16.2 再発防止
スキンケアの継続
- 適切な洗顔の継続
- 保湿の習慣化
- 紫外線対策
- 化粧品の見直し
生活習慣の維持
- 規則正しい生活リズム
- バランスの取れた食事
- 適度な運動
- ストレス管理
定期的な皮膚科受診
- 症状の変化の確認
- 治療法の調整
- 新たな治療選択肢の検討
- 皮膚の健康状態の評価
17. 当院(アイシークリニック上野院)での治療方針
17.1 診断へのアプローチ
当院では、患者様一人ひとりの症状に合わせた丁寧な診断を心がけています:
詳細な問診
- 症状の経過と特徴
- 既往治療の効果と副作用
- 生活環境とスキンケア習慣
- 心理的負担の評価
精密な検査
- 高倍率顕微鏡による検査
- 必要に応じた複数回の検査
- 他疾患との鑑別
- 重症度の評価
17.2 治療選択肢
個別化された治療計画
- 患者様の症状と希望に応じた治療選択
- 保険診療と自費診療の適切な組み合わせ
- 段階的な治療アプローチ
- 継続的なサポート
利用可能な治療法
- イベルメクチンクリーム
- 各種外用薬
- 内服療法
- レーザー・光治療
- スキンケア指導
17.3 フォローアップ体制
定期的な経過観察
- 治療効果の評価
- 副作用の監視
- 治療法の調整
- 生活指導の継続
患者様サポート
- 治療に関する相談対応
- スキンケア指導
- 生活習慣改善のアドバイス
- 心理的サポート
18. まとめ
顔ダニ(ニキビダニ)は多くの人に存在する常在微生物でありながら、特定の条件下で皮膚トラブルの原因となる複雑な存在です。重要なのは、顔ダニの存在自体を恐れるのではなく、適切な皮膚環境を維持することで共生関係を保つことです。
治りにくいニキビや持続する赤ら顔でお悩みの方は、顔ダニが関与している可能性があります。特に30歳以降で発症し、一般的なニキビ治療に反応しにくい症状がある場合は、皮膚科専門医による詳しい検査をお勧めします。
現在では、イベルメクチンクリームをはじめとする効果的な治療法が確立されており、適切な診断と治療により症状の大幅な改善が期待できます。また、日常的なスキンケアと生活習慣の改善により、良好な状態を長期間維持することも可能です。
皮膚の健康は全身の健康と密接に関連しています。顔ダニによる症状でお困りの際は、一人で悩まず、皮膚科専門医にご相談ください。当院では、患者様お一人おひとりの症状に合わせた最適な治療をご提供いたします。
参考文献
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- Demodex blepharitis: clinical perspectives. Clin Optom (Auckl). 2018 Jul 4;10:57-63.
- 立川皮膚科クリニック院長 伊東秀記:顔ダニと皮膚疾患の関連について
- 池袋駅前のだ皮膚科院長 野田真史:ニキビダニ症の診断と治療
- 咲くらクリニック:顔ダニの臨床症状と診断
- 上野御徒町ファラド皮膚科:ニキビダニの最新治療
表1:顔ダニと通常のニキビの比較
項目 | 顔ダニによるニキビ | 通常のニキビ |
---|---|---|
発症年齢 | 30歳以降に多い | 思春期に多い |
原因 | ニキビダニの増殖 | アクネ菌の増殖 |
分布 | 顔中央部に集中 | 顔全体に分布 |
治療反応 | 一般治療に抵抗性 | 一般治療に反応 |
経過 | 慢性・持続性 | 比較的短期間 |
かゆみ | しばしば伴う | あまり伴わない |
表2:治療薬の比較
薬剤名 | 効果 | 副作用 | 保険適用 | 使用回数 |
---|---|---|---|---|
イベルメクチンクリーム | 高い | 軽度 | なし | 1日1回 |
メトロニダゾールゲル | 中等度 | 軽度 | あり(酒さ) | 1日2回 |
アゼライン酸 | 中等度 | 軽度 | なし | 1日2回 |
イオウカンフルローション | 軽度 | 乾燥 | あり | 1日1-2回 |
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監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務