陰部のできもの:症状から原因まで専門医が解説

はじめに

陰部にできものができると、多くの方が不安になられることでしょう。デリケートな部位のため、「恥ずかしくて相談しにくい」「重大な病気ではないか」と心配される患者様も少なくありません。しかし、陰部のできものは決して珍しいものではなく、適切な診断と治療により改善できるケースがほとんどです。

本記事では、アイシークリニック上野院の専門医が、陰部にできるさまざまなできものの種類、原因、症状、そして適切な対処法について詳しく解説いたします。

陰部のできものとは

陰部のできものとは、男女の外陰部周辺にできる皮膚の隆起や腫瘤のことを指します。大きさは数ミリから数センチまでさまざまで、色調も肌色から赤色、黒色まで多岐にわたります。

よくある症状

  • 皮膚表面の盛り上がり
  • かゆみや痛み
  • 色の変化
  • 表面の質感の変化(ざらざら、ぶつぶつなど)
  • 分泌物の有無

陰部にできる主なできものの種類

1. 毛嚢炎(もうのうえん)

特徴: 毛穴に細菌が侵入して起こる炎症です。赤く腫れた小さなできものができ、中央に毛が見えることがあります。

原因:

  • 剃毛による皮膚の微細な傷
  • 汗や汚れによる毛穴の詰まり
  • 下着による摩擦
  • 免疫力の低下

症状:

  • 赤い腫れ
  • 痛みや圧痛
  • 化膿することもある

治療法:

  • 抗菌薬の外用
  • 切開排膿(重症例)
  • 適切なスキンケア指導

2. 脂肪腫(しぼうしゅ)

特徴: 皮下脂肪が増殖してできる良性の腫瘍です。やわらかく、可動性があります。

原因:

  • 遺伝的要因
  • 年齢による変化
  • ホルモンの影響

症状:

  • やわらかいしこり
  • 痛みはほとんどない
  • ゆっくりと大きくなる

治療法:

  • 経過観察
  • 手術による摘出(希望に応じて)

3. 粉瘤(ふんりゅう・アテローマ)

特徴: 皮膚の下に袋状の構造物ができ、その中に角質や皮脂がたまったものです。

原因:

  • 毛穴の詰まり
  • 外傷による皮膚の陥入
  • 体質的要因

症状:

  • 中央に黒い点(へそ)がある
  • 圧迫すると臭いのある内容物が出ることがある
  • 感染すると赤く腫れ、痛みを生じる

治療法:

  • 手術による摘出
  • 感染時は抗生剤治療後に手術

4. 尖圭コンジローマ

特徴: ヒトパピローマウイルス(HPV)感染によるイボ状のできものです。

原因:

  • HPV感染(主に性交渉による)
  • 免疫力の低下

症状:

  • カリフラワー状の形状
  • 複数個できることが多い
  • かゆみを伴うことがある

治療法:

  • 外用薬による治療
  • 液体窒素による冷凍療法
  • レーザー治療
  • 手術による切除

5. 性器ヘルペス

特徴: ヘルペスウイルス感染による水疱や潰瘍です。

原因:

  • ヘルペスウイルス感染
  • ストレスや免疫力低下による再発

症状:

  • 水疱形成
  • 破れて潰瘍になる
  • 強い痛み
  • 発熱を伴うことがある

治療法:

  • 抗ウイルス薬の内服・外用
  • 痛み止めの使用
  • 再発予防薬

6. バルトリン腺嚢胞

特徴: 女性特有の疾患で、膣入口付近にあるバルトリン腺の出口が詰まってできる嚢胞です。

原因:

  • 腺管の詰まり
  • 細菌感染
  • 外傷

症状:

  • 膣入口の片側の腫れ
  • 歩行時の不快感
  • 感染すると強い痛み

治療法:

  • 造袋術
  • 抗生剤治療(感染時)
  • 温湿布による保存的治療

7. 外陰部の皮膚がん

特徴: 稀ですが、陰部にも皮膚がんが発生することがあります。

原因:

  • 加齢
  • HPV感染
  • 慢性的な炎症
  • 免疫不全

症状:

  • 色調の変化
  • 潰瘍形成
  • 出血
  • 痛みやかゆみ

治療法:

  • 生検による確定診断
  • 手術による切除
  • 放射線治療
  • 化学療法

男性特有のできもの

フォアダイス斑

特徴: ペニスの亀頭や包皮にできる白色〜黄色の小さな粒状のできものです。これは皮脂腺の一種で、病気ではありません。

原因:

  • 正常な皮脂腺の変化
  • 個人差による体質

症状:

  • 無症状
  • 美容的な懸念のみ

治療法:

  • 基本的に治療不要
  • 美容的理由でレーザー治療可能

真珠様陰茎小丘疹

特徴: 亀頭の周囲にできる真珠のような小さな突起です。正常な解剖学的変異で、病気ではありません。

原因:

  • 正常な解剖学的変異
  • 個人差

症状:

  • 無症状
  • 美容的な懸念

治療法:

  • 基本的に治療不要
  • 希望により除去可能

女性特有のできもの

バルトリン腺炎

特徴: バルトリン腺に起こる感染症で、膣入口の片側が腫れます。

原因:

  • 細菌感染
  • 性感染症
  • 外傷

症状:

  • 激しい痛み
  • 発熱
  • 歩行困難

治療法:

  • 抗生剤治療
  • 切開排膿
  • 造袋術

外陰部のう胞

特徴: 外陰部にできる液体がたまった袋状の構造物です。

原因:

  • 腺管の詰まり
  • 外傷
  • 感染

症状:

  • やわらかい腫れ
  • 圧迫感
  • 感染すると痛み

治療法:

  • 経過観察
  • 穿刺吸引
  • 手術による摘出

診断のポイント

医師が注目する特徴

  1. 大きさと形状
    • 大きさの変化
    • 形状の特徴
    • 境界の明瞭さ
  2. 色調
    • 周囲との色の違い
    • 色調の変化
    • 血管の透見
  3. 硬さと可動性
    • 触診での硬さ
    • 皮膚との癒着
    • 可動性の有無
  4. 症状の有無
    • かゆみ
    • 痛み
    • 分泌物
  5. 経過
    • 出現からの期間
    • 大きさの変化
    • 症状の変化

検査方法

視診 医師による目視での診察が基本となります。形状、色調、大きさなどを詳しく観察します。

触診 できものの硬さ、可動性、圧痛の有無などを確認します。

ダーモスコピー 皮膚の表面構造を詳しく観察できる特殊な拡大鏡を使用します。

生検 悪性が疑われる場合や診断が困難な場合に、組織を一部採取して病理検査を行います。

培養検査 感染が疑われる場合に、原因菌を特定するために行います。

血液検査 性感染症が疑われる場合に実施することがあります。

いつ受診すべきか

以下のような症状がある場合は、速やかに医療機関を受診することをお勧めします。

緊急性の高い症状

  • 激しい痛み
  • 急速な腫れの拡大
  • 発熱を伴う
  • 歩行困難
  • 排尿障害

注意が必要な症状

  • 大きさが急に変わる
  • 色が変化する
  • 出血がある
  • 潰瘍ができる
  • 複数個できる

継続的な観察が必要な症状

  • かゆみが続く
  • 違和感がある
  • 形が不整
  • 硬くなってきた

日常生活での注意点

予防法

清潔の維持

  • 毎日の入浴で陰部を清潔に保つ
  • 石けんは刺激の少ないものを選ぶ
  • ゴシゴシ洗いは避ける

適切な下着の選択

  • 通気性の良い綿素材を選ぶ
  • きつすぎない適切なサイズを着用
  • 毎日清潔なものに交換

剃毛時の注意

  • 清潔な器具を使用
  • 剃毛後は保湿を心がける
  • 頻繁な剃毛は避ける

生活習慣の改善

免疫力の維持

  • 十分な睡眠
  • バランスの取れた食事
  • 適度な運動
  • ストレス管理

ホルモンバランスの安定

  • 規則正しい生活
  • 過度なダイエットは避ける
  • 定期的な健康チェック

してはいけないこと

自己判断での処置

  • できものを無理に潰す
  • 市販薬の無断使用
  • インターネットの情報だけで判断

不適切なケア

  • 過度の洗浄
  • 刺激の強い石けんの使用
  • タオルでの強い摩擦

治療方法について

外科的治療

手術適応の判断基準

  • 悪性の可能性
  • 日常生活への支障
  • 患者様の希望
  • 再発の可能性

手術の種類

  1. 単純切除術
    • 小さなできものの場合
    • 局所麻酔下で実施
    • 日帰り手術が可能
  2. 拡大切除術
    • 悪性が疑われる場合
    • 周囲組織を含めて切除
    • 再発予防に重要
  3. レーザー治療
    • 良性のできものに適応
    • 傷跡が少ない
    • 回復が早い

内科的治療

薬物療法

  • 抗生剤(感染症の場合)
  • 抗ウイルス薬(ヘルペスなど)
  • 外用薬(炎症性疾患)
  • 免疫調整薬(特定の疾患)

保存的治療

  • 経過観察
  • 生活指導
  • 症状緩和

よくある質問と回答

Q1: 陰部のできものは自然に治りますか?

A1: できものの種類によります。毛嚢炎のような軽度の炎症性疾患は、適切なケアにより自然治癒することもあります。しかし、ウイルス性のものや腫瘍性のものは、専門的な治療が必要です。自己判断せず、医師の診察を受けることをお勧めします。

Q2: 性感染症の可能性はありますか?

A2: 陰部のできものの中には、尖圭コンジローマや性器ヘルペスなど、性感染症によるものもあります。パートナーがいる場合は、一緒に検査を受けることが重要です。

Q3: 手術は必要ですか?

A3: すべてのできものに手術が必要というわけではありません。良性で症状のないものは経過観察で十分な場合も多くあります。ただし、悪性の可能性がある場合や、日常生活に支障をきたす場合は手術をお勧めします。

Q4: 再発することはありますか?

A4: できものの種類によって再発率は異なります。ウイルス性のものは再発しやすく、腫瘍性のものは適切に治療すれば再発は稀です。再発予防のために、生活習慣の改善や定期的なフォローアップが重要です。

Q5: 痛みがない場合も受診した方がよいですか?

A5: 痛みがなくても、できものが大きくなっている、色が変わっている、形が不整などの場合は受診をお勧めします。悪性腫瘍は初期段階では痛みを伴わないことが多いためです。

受診時の準備

医師への報告事項

症状について

  • いつから気づいたか
  • 大きさや形の変化
  • 色の変化
  • 痛みやかゆみの有無
  • 分泌物の性状

生活歴について

  • 最近の体調変化
  • 薬の服用歴
  • アレルギーの有無
  • 性行為の有無

既往歴について

  • 過去の皮膚疾患
  • 手術歴
  • 家族歴

受診時の服装

  • 診察しやすい服装
  • 下着は清潔なものを着用
  • アクセサリーは最小限に

アイシークリニック上野院での治療

当院の特徴

専門性の高い診療 皮膚科・形成外科の専門医が、豊富な経験と最新の知識に基づいて診療いたします。

プライバシーへの配慮 デリケートな部位の診察のため、プライバシーを最大限に配慮した診療環境を整えています。

最新の治療設備 レーザー治療装置やダーモスコピーなど、最新の診断・治療機器を導入しています。

診療の流れ

  1. 問診 詳しい症状や経過をお聞きします
  2. 診察 専門医による詳細な診察を行います
  3. 検査 必要に応じて追加検査を実施します
  4. 診断・治療方針の説明 検査結果に基づいて詳しく説明します
  5. 治療 患者様と相談の上、最適な治療を実施します
  6. アフターケア 治療後の経過観察とケア指導を行います

治療費について

保険診療

多くの陰部のできものの治療は保険診療の対象となります。

一般的な治療費(3割負担の場合)

  • 初診料・検査費:3,000~5,000円程度
  • 手術費(小):10,000~20,000円程度
  • 手術費(大):30,000~50,000円程度

自費診療

美容的な理由での治療や、一部の特殊な治療は自費診療となる場合があります。

予後について

良性疾患の場合

ほとんどの良性のできものは、適切な治療により完全に治癒します。再発のリスクは疾患によって異なりますが、生活習慣の改善により予防可能です。

感染症の場合

適切な抗生剤治療により、多くの場合速やかに改善します。ただし、性感染症の場合はパートナーの治療も必要です。

悪性疾患の場合

早期発見・早期治療により、良好な予後が期待できます。定期的なフォローアップが重要です。

セカンドオピニオンについて

セカンドオピニオンが推奨される場合

  • 悪性腫瘍の診断を受けた場合
  • 手術が必要と言われた場合
  • 治療効果が思わしくない場合
  • 診断に納得がいかない場合

セカンドオピニオンの受け方

  1. 紹介状の作成依頼
  2. 検査データの準備
  3. 専門医療機関への予約
  4. 詳細な相談

家族・パートナーへの配慮

情報共有の重要性

性感染症の可能性がある場合は、パートナーとの情報共有と同時治療が重要です。

心理的サポート

デリケートな問題のため、家族やパートナーの理解とサポートが治療の成功に重要な役割を果たします。

最新の治療動向

新しい治療法

免疫療法 一部のウイルス性疾患に対して、免疫力を高める治療法が開発されています。

分子標的療法 特定の分子を標的とした、より効果的で副作用の少ない治療法が研究されています。

再生医療 幹細胞を用いた治療法の研究が進んでいます。

診断技術の進歩

AIを用いた画像診断 人工知能を活用した診断支援システムの開発が進んでいます。

非侵襲的検査法 生検を行わずに診断できる新しい検査法の研究が行われています。

心理的側面へのケア

不安への対処

陰部のできものに対する不安は自然な反応です。以下の点を心がけましょう:

  • 一人で悩まず、専門医に相談する
  • 正確な情報を得る
  • 家族やパートナーのサポートを求める
  • 必要に応じてカウンセリングを受ける

治療への前向きな取り組み

  • 医師との信頼関係を築く
  • 治療計画をよく理解する
  • 疑問があれば遠慮なく質問する
  • 生活習慣の改善に取り組む

まとめ

陰部のできものは、多くの場合適切な診断と治療により改善可能な疾患です。重要なのは、恥ずかしがらずに早期に専門医を受診することです。

当院では、患者様のプライバシーに最大限配慮しながら、専門的で質の高い医療を提供いたします。どんな小さな心配事でも、遠慮なくご相談ください。

早期発見・早期治療により、多くの患者様が健康な生活を取り戻されています。一人で悩まず、専門医と一緒に最適な治療方針を見つけていきましょう。

参考文献

  1. 日本皮膚科学会:皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン 2024年版
  2. 日本性感染症学会:性感染症診断・治療ガイドライン 2023年版
  3. Japanese Dermatological Association: Guidelines for Skin Cancer Management
  4. International Society for the Study of Vulvovaginal Disease: Treatment Guidelines
  5. American Academy of Dermatology: Clinical Practice Guidelines
  6. 日本形成外科学会:形成外科診療ガイドライン
  7. 世界保健機関(WHO):皮膚疾患の分類と診断基準
  8. 厚生労働省:感染症対策ガイドライン
  9. 日本泌尿器科学会:泌尿器科疾患診療ガイドライン
  10. European Academy of Dermatology and Venereology: Clinical Guidelines

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監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

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佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務

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