はじめに
2型糖尿病の治療において、近年注目を集める画期的な薬剤があります。それが「マンジャロ」(一般名:チルゼパチド)です。2023年4月18日に日本で発売されたマンジャロは、世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬として、糖尿病治療の新たな選択肢を提供しています。
マンジャロは臨床試験のトップラインデータ発表から注目度を高めてきました。最高用量(15mg)を40週間投与した時点でHbA1cがベースラインから最大2.07%低下し、体重は9.5kg減少という驚くべき結果を示しています。
本コラムでは、アイシークリニック上野院の医療従事者として、マンジャロの作用機序から臨床応用、安全性まで、患者さんが知っておくべき包括的な情報をわかりやすく解説いたします。
マンジャロの基本情報と特徴
薬剤概要
マンジャロ(チルゼパチド)は、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬として分類され、週1回の皮下注射により投与されます。従来のGLP-1受容体作動薬とは異なり、GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)とGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の両方の受容体に作用する世界初の薬剤です。
革新的な作用機序
インクレチンシステムの理解
インクレチンとは、すい臓のβ細胞に働きかけてインスリンの分泌を増加させる腸管から分泌される消化管ホルモンの総称です。主要なインクレチンには以下の2つがあります:
GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)の働き:
- 食事をとって血糖値が上がると、小腸にあるL細胞から分泌され、すい臓のβ細胞表面にあるGLP-1受容体にくっつき、β細胞内からインスリンを分泌
- 食欲抑制作用による体重減少効果
- 胃内容物排出の遅延による満腹感の持続
GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の働き:
- 食事を摂取すると腸壁から放出され、膵臓のインスリン分泌を促進することで血糖値を調節
- GIP受容体作動薬は、レプチン分泌を誘導し、摂食量低下と脂肪利用増加を起こし、体重と血糖値を低下
マンジャロの二重作用機序
マンジャロはGIP及びGLP-1の両受容体に結合・活性化し、血糖に応じてインスリン分泌を促すことで、血糖降下作用をあらわします。この二重の作用により、従来のGLP-1受容体作動薬を上回る効果が期待されます。
具体的な作用メカニズム:
- 血糖調節作用: 血糖値が高いときのみ、インスリンを分泌するようにすい臓に働きかけるため、低血糖が起きにくい
- 体重減少作用: 消化管の動きを抑え、胃の内容物が胃から出ていく時間を遅らせて満腹感を持続させる
- 代謝改善作用: 脂肪の分解を増やし、脂肪の生成を減らすことにより脂肪を減らし、代謝を上げてエネルギー消費を増加
日本での承認・発売状況
承認までの経緯
日本では2022年9月に承認を取得したものの、米国で先行発売したマンジャロを含むGLP-1製剤全体の需要が世界的に高まったため、リリーは収載希望申請を行いませんでした。その結果、薬価収載は1回遅れの2023年3月15日となり、4月18日の発売にこぎ着けました。
供給体制の確立
2024年6月4日からマンジャロの限定出荷が解除され、現在では安定的な供給が確保されています。米イーライリリーは、キャパシティーを大幅に増強すべく米ノースカロライナ州に製造施設を建設することを発表し、マンジャロを含むインクレチン製剤の供給能力の倍増を見込んでいます。
薬価と製剤規格
マンジャロは以下の6つの用量規格で販売されています:
- 2.5mg(開始用量)
- 5mg(維持用量)
- 7.5mg、10mg、12.5mg、15mg(高用量)
医療費の3割負担の方の場合、マンジャロ5mgの薬剤費は月4,618円ですが、マンジャロ15mgの薬剤費は13,853円となり、用量によって費用が大きく異なります。
臨床試験結果と有効性
国際共同臨床試験の成果
SURPASS-1試験
プラセボと比較した国際共同臨床第3相「SURPASS-1」試験では、最高用量(15mg)を40週間投与した時点でHbA1cがベースラインから最大2.07%低下し、体重は9.5kg減少しました。
SURPASS-2試験(セマグルチドとの直接比較)
P3の「SURPASS-2」試験ではGLP-1受容体作動薬セマグルチド(ノボノルディスクの「オゼンピック」)との直接比較で優越性が示されました。
日本人での臨床試験データ
食事・運動療法で血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者478例を対象に無作為割り付けを行い、二重盲検下でマンジャロ5mg、10mg、15mgまたはプラセボを週1回、40週間投与した結果、マンジャロのいずれの用量でもプラセボに対する優越性が検証されました。
日本人における有効性データ
日本の2型糖尿病患者を対象とした臨床研究のメタ解析によると、マンジャロ5mgを使用すると、使用しなかった場合と比較してHbA1cは2.39%、体重は4.56kg減少し、さらにマンジャロを5mgから徐々に増量して15mgにすることで、さらにHbA1cが0.44%、体重が4.9kg減少することが報告されています。
長期効果と継続性
マンジャロ(10mgまたは15mg)を9ヵ月使用して約20%減量した人が、引き続き1年間マンジャロを使用した結果、減量した体重からさらに5%以上体重が減少しており、継続使用による追加的な効果も確認されています。
適応症と使用対象患者
承認された適応症
マンジャロは「2型糖尿病」の効能・効果で承認されており、以下の条件を満たす患者さんが対象となります:
- 食事療法・運動療法で血糖コントロールが不十分な2型糖尿病
- 他の糖尿病治療薬との併用も可能
治療戦略における位置づけ
日本イーライリリーのメアリー・トーマス糖尿病・成長ホルモン事業本部長は「フォーカスするのは糖尿病と診断されて間もない患者さん。経口薬を1剤処方されても血糖コントロールが不十分な場合の有力なオプションになる」と説明しています。
糖尿病の薬物治療は、まず経口薬1剤でスタートし、血糖値が目標まで下がらなければ1剤追加するのが一般的ですが、マンジャロはHbA1cを大きく低下させるデータを持っており、リリーは2剤目の経口薬に代わって早い時期からの処方をプロモーションの軸にする考えです。
投与方法と用量調整
基本的な投与方法
マンジャロは通常、成人にはチルゼパチドとして週1回2.5mgの開始用量から開始し、4週間投与した後、週1回5mgの維持用量に増量します。
用量調整プロトコル
5mgで効果不十分な場合は、4週間以上の間隔を空けて2.5mgずつ増量ができ、最大で週1回15mgまで使用が可能です。
用量調整の指針:
- 開始用量: 2.5mg週1回(4週間)
- 維持用量: 5mg週1回
- 増量: 必要に応じて7.5mg → 10mg → 12.5mg → 15mg(各段階で4週間以上の間隔)
注射器具「アテオス」の特徴
マンジャロは1回使い切りのオートインジェクター型注入器(「アテオス」)によって、週1回皮下注射します。あらかじめ注射針が取り付けられた専用ペン型注入器により、注入ボタンを押すことで自動的に注射針が皮下に刺さり、1回量が充填されている薬液が注入されるため、患者が用量を設定したり、注射針を扱ったりする必要がありません。
副作用と安全性プロファイル
主要な副作用
マンジャロの主な副作用として、吐き気、嘔吐、下痢、便秘、腹痛、消化不良、食欲減退などの消化器症状が報告されています。これらの副作用はマンジャロを初めて使用するときや、投与量を増やしたときに起こりやすくなります。
消化器症状への対処法
吐き気があるときは、脂っこい食事を避け、1回あたりの食事量を減らしてみましょう。多くの場合、数日から数週間で自然になくなります。
重大な副作用
重大な副作用が発生することがあり、これらは初期の症状を素早くキャッチし、薬の使用を中止した上で、ただちに医師に相談する必要があります。
増量時の注意点
マンジャロを増量すると、消化器系の副作用のリスクがさらに高まります。そのため、慎重な用量調整と十分な患者教育が重要です。
安全性確保のための取り組み
当クリニックでは、安易なマンジャロの増量は行いません。その理由は、食事療法と運動療法を十分に行えない患者さんは、たとえマンジャロを最大量投与しても、血糖と体重の良好なコントロールが得られにくいからです。
他の治療薬との比較
GLP-1受容体作動薬との比較
セマグルチド(オゼンピック・ウゴービ)との比較
2025年に発表されたSURMOUNT-5試験では、チルゼパチドとセマグルチドを直接比較した初の大規模臨床試験の結果が示され、世界的に注目を集めています。
比較結果のポイント:
- GLP-1とGIPの”ハイブリッド効果”が、マンジャロの大きな体重減少効果に寄与
- SURMOUNT-5試験により、チルゼパチドは現行の薬剤で最高クラスのダイエット効果を実証
デュラグルチド(トルリシティ)との比較
トルリシティ(デュラグルチド)と直接比較した国内臨床試験(SURPASS J-mono試験)においても、マンジャロの方が有効性が有意に高いという結果が示されています。
インスリンとの比較
メトホルミンまたはSGLT2阻害薬による治療下(インスリン未投薬)の患者さんを対象に、マンジャロとトレシーバ(インスリン デグルデク)を比較したSURPASS-3試験でも同様にマンジャロの優越性が認められています。
マンジャロとゼップバウンドの関係
同一成分、異なる適応症
マンジャロとゼップバウンドの成分はいずれも「チルゼパチド」という成分で用量も成分も全く同じで、2.5mg・5mg・7.5mg・10mg・12.5mg・15mgの6種類が発売されています。ただし、ゼップバウンドとマンジャロの唯一の違いは「適応症と目的」です。マンジャロは「2型糖尿病」の治療が目的である一方、ゼップバウンドは「肥満症」に対して使える薬剤として承認されています。
ゼップバウンドの日本での状況
2025年4月11日にゼップバウンドが肥満症治療薬として発売され、日本では肥満治療薬としては約30年ぶりの新薬として期待されています。
ゼップバウンドの適応条件
ゼップバウンドを使用できる方は、高血圧、脂質異常症、又は2型糖尿病のいずれかを有する肥満症があり、かつ食事・運動療法を行っても十分な効果が得られない20歳以上のうち、高度肥満症(BMI≧35kg/m²)、もしくは以下の示す肥満に関連する健康障害を2つ以上有するBMI≧27kg/m²が対象となります。
処方可能施設の制限
ゼップバウンドの保険適用には、肥満症治療に関連する学会(日本内分泌学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会)の専門医が常勤している教育研修施設であることが条件となり、ほとんどが「大学病院」や「中~大規模の医療機関」に限られる可能性が高い状況です。
今後の展望と研究開発
追加適応症の可能性
アメリカでは2024年12月から、ゼップバウンドが中等度から重度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群を伴う肥満症の治療にも使用可能となりました。今後、日本においても睡眠時無呼吸症候群の新たな治療選択肢として加わる可能性があります。
心血管系への効果
今後、ゼップバウンドの心血管イベントや脳卒中のリスクの低下、閉塞性無呼吸症候群のAHI改善、CPAP離脱率などのデータが続々と発表され、肥満関連の死亡率が低下すると考えられています。
次世代治療薬の開発
糖尿病や肥満症などの新薬として、GLP-1受容体と共に、GIPかグルカゴンの受容体を活性化する「デュアルアゴニスト」や、それら全てを活性化する「トリプルアゴニスト」の開発が活発化しています。
処方と管理における留意点
適正使用の重要性
美容・痩身・ダイエット等を目的とした使用は適応外のため、日本糖尿病学会より注意喚起も発出されています。医療機関では、適応に沿った適正な使用が求められます。
患者教育と生活習慣改善の重要性
マンジャロを増量する前に、まずは食事と運動の見直しを行います。問診で食事に問題がある場合は、管理栄養士による栄養指導を受けていただくこともあります。
肥満治療の基本は食事療法と運動療法です。ゼップバウンド(マンジャロ)はこれらと併用することで、より高い効果を得ることが可能です。特に、患者が生活習慣を改善する意欲を持つことが重要です。
モニタリングの重要性
治療開始後は以下の項目を定期的にモニタリングする必要があります:
- HbA1cおよび血糖値
- 体重変化
- 消化器症状の有無
- 腎機能
- 心血管系の状態
マンジャロ治療の実際
治療開始の判断基準
- 血糖コントロール不良: HbA1c 7.0%以上
- 食事・運動療法の限界: 3ヵ月以上の生活習慣改善で効果不十分
- 他剤との併用: 既存治療薬で目標未達成
- 体重管理: 肥満合併例での追加的効果期待
治療継続の評価
マンジャロ5mgを使用してもHbA1cが7.0%以上または肥満が解消されない方には、マンジャロの増量という選択肢があっても良いと思います。
中止基準
以下の場合は治療の中止を検討します:
- 重篤な副作用の出現
- 効果不十分(3-6ヵ月で改善なし)
- 患者の治療継続意思の変化
- 禁忌事項の発生
患者さんへのメッセージ
期待できる効果
マンジャロは、インスリンを除けば最も血糖降下作用のある薬剤の一つであり、また最も体重減少作用のある薬剤です。適切に使用することで、以下の効果が期待できます:
- 血糖改善: HbA1cの大幅な低下
- 体重減少: 有意な体重減少効果
- 生活の質向上: 血糖安定による症状改善
- 合併症予防: 長期的な合併症リスク軽減
治療への取り組み姿勢
治療成功の鍵は、医師との連携と適切なモニタリングを通じて、無理のない形で患者の健康を向上させることです。
薬物治療と並行して、以下の取り組みが重要です:
- 規則正しい食事療法の実践
- 適度な運動習慣の維持
- 定期的な医療機関受診
- 血糖自己測定の活用
- 体重管理の継続
まとめ
マンジャロは、世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬として、2型糖尿病治療に革新をもたらした画期的な薬剤です。その優れた血糖改善効果と体重減少効果は、多くの臨床試験で実証されており、従来の治療薬を上回る成績を示しています。
日本における立ち上がりも順調で、医師からの期待感はこれまでにないレベルとなっています。週1回の注射という利便性と、低血糖リスクの低さも患者さんにとって大きなメリットです。
一方で、消化器系の副作用や高い薬価など、考慮すべき点もあります。また、製造販売承認を取得した適応症以外の目的で使用された場合の安全性および有効性は確認されていませんので、適正使用が重要です。
今後、ゼップバウンドとしての肥満症適応や、睡眠時無呼吸症候群への適応拡大など、さらなる発展が期待されます。次世代のトリプルアゴニストの開発も進んでおり、糖尿病・肥満症治療の未来は明るいものとなっています。
アイシークリニック上野院では、患者さん一人ひとりの状態に合わせて、マンジャロを含む最適な治療プランをご提案いたします。ご興味をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。
参考文献
- 日本イーライリリー株式会社. マンジャロ皮下注 添付文書. 2023.
- KEGG MEDICUS データベース. マンジャロ皮下注製品情報.
- 田辺三菱製薬株式会社. 世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注」プレスリリース. 2023.
- AnswersNews. 糖尿病薬、皮下注市場に「ゲームチェンジャー」参入. 2023.
- ケアネット. 世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ皮下注アテオス」. 2023.
- 中野駅前内科クリニック. マンジャロの限定出荷解除と高用量の有用性. 2024.
- 日刊薬業. リリーのチルゼパチド、肥満症で国内申請. 2025.
- 新薬情報オンライン. マンジャロの作用機序、GLP-1受容体作動薬との比較. 2023.
- DMMオンラインクリニック. マンジャロはどんな薬?ダイエット効果と安全性. 2025.
- わらび内科・循環器内科クリニック. マンジャロが最も痩せる!最新の臨床試験結果. 2025.
- 日経メディカル処方薬事典. GIP/GLP-1受容体作動薬の解説.
- 糖尿病サイト. GLP-1とは?
- 糖尿病リソースガイド. GIPが過食・肥満・糖尿病を改善することを解明. 2023.
- 神戸きしだクリニック. インクレチン関連薬の作用機序と使い分け. 2025.
- 京都府立大学. GIPは過食・肥満・糖尿病を改善することを解明. 2023.
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務